マスコミ巻き込む再エネ疑惑 朝日が「秋本議員」と連携プレー?


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

またもや、再生可能エネルギーを巡る疑惑である。

日経8月5日一面に「秋本議員、3000万円受領疑い、風力発電巡り収賄容疑、関係先を捜索、東京地検」とある。「政府が推進する洋上風力発電を巡り、自民党の秋本真利衆院議員が風力発電会社『日本風力開発』(東京・千代田)から計約3000万円を受領した疑いがあるとして、東京地検特捜部は4日、東京・永田町の議員会館事務所などを収賄容疑で家宅捜索した」という。

さらに「秋本議員は、洋上風力発電の普及に向け全国一律の海域利用ルールを定めた2018年成立の再エネ海域利用法を推進した。同社は、政府が公募した洋上風力発電の整備促進区域に応募したが落選した。秋本議員は22年2月の国会で公募の運用指針を見直すよう質問。国は同10月に指針を改定した」と書く。

同日の読売から補足する。「秋本氏は国土交通政務官時代、洋上風力発電の普及のため、全国一律の海域利用ルールを定めた『洋上風力発電利用促進法』の整備を推進」。制度の生みの親である。

この制度では、「公募によって選ばれた事業者が最長30年間の運営を担う」。ところが、「初の大規模事業となった21年12月の選定では、三菱商事を中心とする企業連合が、秋田県と千葉県沖の3海域を全て落札。圧倒的に低い売電価格が評価された」。

関連が指摘される日本風力開発の落選に焦ったのか、「国交政務官を退任していた秋本議員が、国会で関連質問したのは翌22年2月の予算委員会。政府側に公募の際の評価基準について違和感を指摘し、『2回目の公募から評価の仕方をちょっと見直していただきたいというのが私の結論』と訴えた」と同日の日経は報じる。

業者から金をもらい、その業者の参入が可能になるようルールをねじ曲げろと国会質問で求めたとすれば、重大である。

この入札では、萩生田光一経済産業相(当時)が22年1月の記者会見で「低価格という指摘があったが、欧州に比べると高い。地元の評価や信頼性という総合評価で第三者委員会が決めているので、必ずしも売値が安いというだけで落札ができるという仕組みではない」と説明。翌月の国会答弁でも「途中でルールを変えるのはどうか」と疑問を呈している。それが指針改定に至ったのはなぜか。

興味深い記事がある。朝日22年2月3日夕刊「洋上風力、価格崩壊の衝撃」だ。

「すべてを三菱商事グループが落札した。この『総取り』以上に関係者を驚かせたのは、入札価格(発電コスト)」「国は種々のデータで計算し、3区域の上限を『1kW時あたり29円』と決めていた」「これに近い値での競争という予想は外れ、三菱商事グループは3区域で11.99円、13.26円、16.49円を提示。衝撃的だった」「業界は『あの価格レベルには対応できない』」。

理解に苦しむのはこの続きだ。「価格が欧州の安さに近づくのは朗報だが、日本企業による日本での発電所建設、経営は相当厳しいものになる」とある。三菱商事は日本企業ではないのか。さらに「国の導入計画の練り直しが必要かも知れない」とあり、唐突に「地元からは売電価格が低くなれば、発電会社による地域貢献が手薄になるのではとの不安も出ている。『地元が愛着を持つ洋上発電所』の関係をつくることが重要」と主張する。秋本応援団か。

秋本氏も朝日も、高い電気代にあえぐ国民は眼中にない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

原子力が信用を得るには 専門家は自らの言葉に配慮を


【オピニオン】新堀雄一/学日本原子力学会会長

現在、原子力分野もGX実現に向けて、次世代炉、すなわち、革新軽水炉、小型炉、高温ガス炉、高速炉、そして核融合炉の開発に追い風が吹いてきている。これらの技術は、開発者やそのグループが将来の社会の在り様をイメージして取り組み、今後、社会の構造をも変え得る潜在性を持っている。他方、軽水炉の再稼働と稼働の延長、廃止措置、使用済み燃料の再処理、ウランやプルトニウムの再利用、放射性廃棄物の処分、さらには福島第一原子力発電所(1F)事故に伴う廃炉や環境修復などは、現在の社会における課題として捉えられる。社会から見れば、原子力分野はこれらが混在している。

筆者に身近な大学における原子力に関わる専門家は、放射線への関わりという部分で共通項があるものの、その専門性は多様であって、互いの分野を尊重し、あえて踏み込まないようにも見える。しかし社会における今後の原子力の利用を考えていく上では、専門家内での議論のみならず異分野との連携が必要となる。例えば、放射線の利用に当てはめれば、社会のニーズから医療従事者、技術者、利用者などの異分野間の連携が進んでいる。潜在的な社会のニーズを捉え、その共有から新たな技術の社会への受容に至る一つの大事なアプローチともいえる。

他方、原子力のエネルギー利用について見ると、放射線の利用と同じ構図を簡単に当てはめることは難しい。エネルギーの場合は生活を支える基盤であり、その安定供給には国際的な視点や立地地域での議論も含む。また、その技術も幅広い要素の複合とそれらの調和によりなり、複雑である。しかしながら、それを持って異分野間の専門家同士の対話をあきらめては、社会からの信頼性を得ることは難しいのではないか。例えば安全性をいかに確保するかについても、原子力分野内でもその考え方は発電の分野と廃棄物の分野では異なるように、専門家は自らの使っている言葉の意味や考え方が異分野では違うニュアンスを持って捉えられる場合があることをも実感する必要がある。異分野の専門家同士の交流は社会における将来の原子力利用を考えていく上で重要な一つのステップであり、研究者、技術者、産業界、行政、市民団体などが連携して社会の課題を解決する原子力利用に関する議論の基盤となる。

原子力利用を社会により受け入れていただくためには、信頼性が重要であることは論を待たない。1Fの事故後において、その修復には事故なく着実に利用を進めていくことに加え、科学・技術のみならず社会科学などの人文系の専門家同士が真摯に社会の課題解決に向けて取り組んでいる姿を見ていただくことも重要であろう。そこでは異なる意見があることを含め、共通の言葉で考え方を議論していかなければ、それらの内容は混沌として信頼性の構築につながらない。原子力をいかに進めていくかは、異分野間のいわば他流試合を重ね、自らの言葉や考え方に関するフィルターを自覚することから始まると考えている。

にいぼり・ゆういち 1983年東北大学工学部卒。東北大学大学院博士課程前期課程修了後。東北大学助手、助教授を経て東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻教授。博士(工学)。

ゼロカーボンを市政の大前提に 新たな富山モデルへの挑戦


【地域エネルギー最前線】 富山県 富山市

コンパクトシティやSDGsなどのモデル都市としてさまざまな実績を発信してきた。

現在進めるゼロカーボン政策では、他分野との間でどう横串を刺すかが課題だ。

「環境モデル都市」や「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」などに選定されてきた富山市では、これまでさまざまな先進的取り組みを実行してきた。中でも富山と聞いてまず思い浮かぶのが「コンパクトシティ」構想だ。

市では少子高齢化時代を見据え、人口約42万人の中核都市での持続可能なまちづくりビジョンとして、路面電車(LRT)などの公共交通を活性化させ、その沿線に都市機能を集積させる政策を推進。公共交通を「串」、公共交通で結ばれた都市圏を「お団子」に見立てた「お団子と串の都市構造」確立を目指してきた。

現在は従前のコンパクトシティによる成果を、中山間地域をはじめとする郊外部にも行き渡らせるべく、デジタル技術の活用を主軸とした「スマートシティ」政策へと深化させている段階だ。

また別途、環境・エネルギー分野の取り組みで培った成果もある。市と日本海ガスや北陸電力、大和ハウス工業などが連携した「セーフ&環境スマートモデル街区整備事業」では、公共交通沿線に、街区全体のネットゼロエネルギーやエネルギーレジリエンス(強靱化)を意識したモデル街区を整備した。電線の地中化や、公共施設には環境配慮とレジリエンスに資するさまざまなエネルギーシステムを導入。そして住宅エリアでは、全戸に太陽電池(PV)、リチウムイオン蓄電池、家庭用燃料電池(エネファーム)の3電池搭載などに取り組んだ。公共交通沿線での、環境に配慮した質の高い居住空間のモデルとして、普及啓発の拠点の一つとなっている。

市は「こうしたモデル事業のほかへの波及効果を目指している」(環境政策課)と説明する。


まずは自治体主導で 自家消費型再エネ拡大へ

現在、市は「ゼロカーボンシティ」の実現に向けた取り組みを政策の重点テーマの一つに掲げている。政府目標と歩調を合わせ、温暖化ガス削減の国別目標(NDC、30年度13年度比46%減)や50年実質ゼロと同水準の目標を掲げ、再生可能エネルギー導入量は30年度に21年度末の2倍、50年度に5倍を目指す。そこに至るための手段の一つとして、太陽光を中心に官民施設への導入拡大を進めているところだ。

市は、環境省の地域脱炭素政策に関する交付金のうち「重点対策加速化事業」に選定されている。同事業は、環境省が望ましい取り組みとして示した複数を組み合わせた意欲的な計画を支援するもので、前述の通りNDCの水準に合致した計画で認定を受けた。

30年度までの民生電化需要のカーボンニュートラルを目指す「脱炭素先行地域」に比べ、対象となるエリアが限定されず、市域全体で行う個別の事業に活用できる点がメリットである。ただ、先行地域と同様、事業の実施に向けてはエネルギー事業者や民間企業などとの連携は欠かせない。「エネルギー事業者などと連携し、自治体主導の対策で着実に再エネ導入目標に近づけていきたい」(同)という。

まずは一般家庭向けのPVと蓄電池をセットにした自家消費型システムの設置費用を助成し、今夏に受付を開始。今年度は最大75万円で25件分の予算を確保している。加えて、中小企業の脱炭素を支援するセミナーで身近な取り組みなどを紹介し、意識向上を促す。

来年度からは、自家消費型PVへの助成を継続・拡充するとともに、PPA(電力購入契約)によるPV利用を公共施設や市有地などで展開する計画だ。「市民や民間企業がコストの大きさで再エネ導入に二の足を踏まないよう、さまざまな手法を用意し横展開を加速させたい」(同)と狙いを語る。太陽光のほか、小水力やバイオマスエネルギーの利活用に向けた展開にも注力する。

併せて市域でのEVやFCV(燃料電池車)の普及展開にも取り組む。50年の温暖化ガスの実質ゼロに向けて市が示すイメージでは、前述の再エネの導入拡大・活用推進により約35%の削減を、さらに省エネの深掘りにより約39%の削減を見込む。

その先の残り26%程度削減に向けては、エネルギービジネスの活性化や、ステークホルダーとの協働による事業推進が欠かせない。前者では、自立分散型エネルギーシステムの利活用、グリーンファイナンス、再エネの地産地消などを推進。後者ではエネルギープロジェクト推進基盤の拡大、それを担う人材育成、県内でのエネルギー広域連携の検討などを視野に入れる。

LRTなど、これまで整備したインフラをどう生かすか (提供:富山市)


既存政策との連携 インフラをどう生かすか

ゼロカーボンへのビジョンを示したものの、具体化に向けた課題はいくつかある。特に、これまでの実績の活用は重要な視点だ。例えばコンパクトシティでは、LRT沿線の地価が上昇し、目標とする都市構造の確立がやや停滞するといった側面もあるようだ。ただ、当初から沿線の地価上昇は織り込み済みで、むしろ税収を確保し、それを他地域に還流する方針を掲げていた。まさに現在、この効果波及を実現すべく、スマートシティへの深化を図っているところだ。

他方、コンパクトシティ政策の柱である公共交通の維持・活性化による生活の質の向上の副次的効果としてガソリン使用量減少などは見込めるものの、「ゼロカーボンを目指したまちづくりや、政策のリンクにまでは至っていない」(同)。ゼロカーボンを持続可能な形とするには、「全ての事業にゼロカーボンの視点・考えを取り入れることが重要であり、さまざまな政策をどうリンクさせるか、そして官民連携の在り方が大きな課題になる」(同)と捉えている。

整備してきたインフラや先進的システムを、ゼロカーボン推進においていかに使いこなすか。今後の新たな富山モデルの発信を待ちたい。

e―メタンの社会実装へ カギ握る「ルールづくり」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.18】関口博之 /経済ジャーナリスト

どんな脱炭素技術であれ、それを社会実装するには、技術面のブレークスルーとともにルールや制度面での整備を“同時進行”で進める必要がある。都市ガスのカーボンニュートラル化の切り札と考えられているe―メタンもしかりだ。CO2と水素を合成して人工的に作るe—メタンは都市ガスとして燃やした時に出るCO2と、製造時に回収され原料になったCO2がいわば相殺されるため、大気中のCO2は実質的に増えない。それを担保する前提になるのが、今回取り上げる「CO2カウントルール」だ。国内外ともルールが未整備なため、経済産業省のメタネーション推進官民協議会でも今、議論が行われている。

技術開発が進むメタネーション

発電所や工場などCO2を出したが、それを回収しe―メタンの原料に提供した側(原排出側)と、そのe―メタンを燃料として使った側(利用側)、どちらでCO2の排出を計上するのか、という命題である。言い換えれば環境価値はどちらに帰属するのか、というルールづくりだ。「どちらも排出なし」とすれば双方ハッピーだが、それでは環境価値のダブルカウントになってしまう。「利用側に排出あり」とすればそもそもe—メタンを使う意味がない。普及のためには「原排出側で排出あり、利用側は排出なし」と整理するのが望ましいが、これだと原排出側の努力が報われないことになる。何らかのインセンティブが必要だ。例えば将来、本格的な排出量取引制度が始まれば、CO2を回収しe―メタン原料にした分を自社の排出量から削減できるようにすることで、経済的なメリットを付与できる。現に欧州連合(EU)の排出量取引(EU-ETS)はこうした考え方に沿った仕組みになっているという。ただこれらが日本で整うのはまだ先、インセンティブには別の工夫も要りそうだ。

こうした基本的な考え方の整理に加え、より難しいのが国際的なルールづくりだ。原料の水素を大量に安価に作るには、安い再エネ電力が不可欠で、そうなると米国・豪州など海外でe―メタンを作り、LNGのサプライチェーンで輸入するのが有望だ。ただしこの場合も「CO2カウントルール」が問題になる。日本にとってはe—メタンの製造国(こちらが原排出側に該当)で「排出あり」、日本(利用側)では「排出なし」とカウントするのがベストだ。しかし先進国が相手の場合、自国のNDC(国が決定する貢献)達成に不利になるこのロジックを受け入れるかどうか。関係者によると日本の基本戦略は、まずプロジェクト案件ごとに相手国パートナー企業と日本企業が民間ベースで「利用側に排出なし」に合意し、それを基に二国間政府交渉に進む、という段取りを描いているという。民間先行ででも話を進めないと、今の投資案件の意思決定に間に合わないからだ。

ルールの設定には論理の正当性が要る。ただそれだけでなく外交交渉によって仲間を増やしていくことも欠かせない。国益にも関わるこの問題で政府はあくまで“脇役”のままでいるのか。前へ出る姿勢を見せてこそ、という気もする。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.15】メタンの排出削減 LNG輸入国としての責務

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.16】先行するEV技術 どう船に取り込むか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.17】対話AI研究は「心の解明」 普及には電力消費量の課題も

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【マーケット情報/9月8日】原油続伸、供給減の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減の動きが相次ぎ、需給逼迫感が強まった。

主要産油国で、供給減の方針が相次いで示された。サウジアラビアとロシアは、それぞれ日量100万バレルの自主減産と、日量30万バレルの輸出減を、年末まで継続すると発表した。

また、ナイジェリアの石油輸出拠点がストライキのため閉鎖されたほか、英国の製油所ではストライキの決行に向けた動きが相次いだ。タイの製油所では、原油漏洩による稼働率低下で生産減少が見込まれた。北米の製油所では定修が始まり、9月央からは大西洋側の製油所で定修が予定されていることも、材料視された。

需要面では、米石油在庫が昨年12月以来の水準まで減少したと、米エネルギー情報局(EIA)が発表。米国において、輸出増・輸入減の傾向が続いている。クッシング在庫も減少し、過去10週のうち、9週で減少を記録した。

また、中国では石油輸入が増加。ディーゼル需要が高まる秋に向け、製油所の稼働率が高まっており、8月の輸入量は過去3番目の水準となった。 

なお、米フロリダ州、ルイジアナ州の製油所は、台風や火災の影響で一部閉鎖していた施設を通常稼働に戻した。ただ、油価への影響は限定的だった。


【9月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=87.51ドル(前週比1.96ドル高)、ブレント先物(ICE)=90.65ドル(前週比2.10ドル高)、オマーン先物(DME)=91.04ドル(前週比2.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.97ドル(前週比90.97ドル高)

脱炭素電源オークションの政策ミス 既存原発の対策費は趣旨に合わず


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 7月26日に経産省が「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既存原発の再稼働に向けた安全対策費を加える検討に入ったとの報道がなされた。私は「原子力は脱炭素の電源ではない」といった脱原発派とは別の観点から、この政策は間違えているのではないかと考える。

そもそも同オークションは、「発電事業者にとっては長期的な投資回収予見性が低下し、多額の資金が必要な電源への新規投資が停滞している」(資源エネルギー庁のガイドライン)ことから、「電源への新規投資を促進すべく……新規投資を対象とした入札を行い……巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度」(同)である。つまり、リスクのある脱炭素に資する巨額の新規投資を確保しやすくするための制度である。

こうした観点から、本来この制度は本年2月に閣議決定された『GX実現に向けた基本方針』における「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」や「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え」に資するものとならなければならない。 

しかし、既存原発の安全対策費をこの制度の対象とすれば、逆にそれを阻害するものとなってしまうだろう。既存原発の安全対策は予見不可能なリスクのある巨額の投資ではなく、本来原子力事業者の経営責任の範囲内で行うべきものである。

原子力事業者は、「既存原発の安全対策は自社だけではできないリスクのある事業だ」などとは、決して言えないはずだ。むしろ、既存原発への巨額の安全対策費を回避するために、リスクのある次世代革新炉の建設やリプレースへの挑戦に誘導する制度こそが、今必要な政策なのではないか。


カオス状態の原子力政策 目先の利益を追うな

これまでわが国の原子力政策は、国民の信頼を必ずしも十分に得られておらず、立地地元対策に苦労する中で、弥縫策を重ねることを繰り返してきた。目先の課題を乗り越えるための短期的に取り組みやすい対策を積み重ねてきたことで、研究開発から発電所の建設・運営、バックエンド対策や安全対策まで原子力政策の体系的な構築を実現することができなかった。そして福島原発事故によって、その非体系的な原子力政策はズタズタになってしまった。さらに、「もんじゅ」廃炉などもあって政策の行方はカオスの状態だ。

岸田政権になり、政権の原子力に対する姿勢が追い風になったからといって、体系的な原子力政策の再構築を行うことなく、原子力事業者の目先の小さな利益を実現するための弥縫策にダボハゼのように食いついていけば、また再び原子力政策の大失敗の道を歩むこととなろう。「急がば回れ」という言葉があるが、原子力に対する風向きが変わりつつある今こそ、王道の本質的な政策を実現すべきだ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

補助金と燃料価格が奏功!? 電気料金が低下傾向に


家庭用の電気料金単価は、1年前と比べ全国平均で約25%低下している―。そんなデータが8月8日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・武蔵野大学特任教授)で示された。

昨年秋以降、燃料価格の高騰に伴い料金は高止まり状態にあったが、1kW時当たり7円を国が補助する「激変緩和対策事業」が始まったことで今年1月使用分から下落に転じ、7社が家庭向けの低圧・規制料金値上げに踏み切った6月以降もその傾向は続いている。背景にあるのは、燃料価格の動向。財務省の貿易統計によると、足元のLNG輸入価格は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻前の水準まで下がっている。

ただ、今後も燃料価格がこのままの水準で推移するとは限らず、再び上昇すれば国民の負担感が増すことは間違いない。激変緩和措置の継続が検討の俎上にあるようだが、一時的な補助金政策は焼け石に水。そればかりか、自由化、脱炭素化時代のエネルギーを巡る国民負担の在り方という本質的な問題から目を背けさせるだけだ。

住宅業界が大勝負の時代に 求められる情報・調達・提案力


【業界紙の目】荒川 源/月刊スマートハウス 発行人

カーボンニュートラルに向け、省・創エネ性能の高い住宅の普及が求められている。

顧客に高性能住宅のメリットをいかに伝え購入意欲を後押しするかが、ビルダーの課題となっている。

住宅の進化が止まらない。月刊スマートハウスを創刊して約10年、社歴にしては世に在る先輩業界誌の中では子供のような年齢であるが、このわずかな年月でわが国の住宅づくりは大きく変わった。

話題となった言葉としては「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」、「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)」、断熱性評価基準の「HEAT 20 G1~G3」や、「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅」、「高度エネルギーマネジメント」、「レジリエンス住宅」などであろうか。それぞれ、評価制度や基準、住宅の種類などを意味するが、いずれも家づくりを大きく向上させるための誘導基準や施策に則ったものであり、先進的なハウスメーカー、ビルダーでは、他社に差をつけるべく積極的に取り組んできた。

数多くの住宅会社への取材を経て、特に多くのビルダーで波及したと感じられるのが断熱強化である。2016年施行の省エネ基準から大きく更新され、壁や窓、開口部の高性能化は寒冷地を筆頭に、全国各地の住宅会社が意識を高め、施主への説明に奔走している。

ZEH普及目標未達の要因


高性能住宅のコスト高 難しい提案こそ意味がある

一方でZEHに求められる一次エネルギー消費量の削減に資する高効率給湯器や省エネ空調の提案、創エネとCO2削減の観点で太陽光発電システムの設置についてはまだまだ難しいようだ。高度エネマネでは、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入が設備機器の集中管理とコントロールを可能にするが、さらに提案は難航している。

そもそも「夢のマイホームを求める施主たちに、国や自治体が求める家のレベルを無理やり提案するのはいかがなものか」という忌憚ない声も聞こえてくる。確かに、良い家を建てるためには断熱材や複層ガラス・サッシ、高効率給湯器、太陽光発電システムや蓄電池をはじめ、さまざまな設備機器にお金がかかってくる。マイホームを建てる時、求めていない設備などに対して、予算以上のお金をかける人はそういない。その上限ある予算を無視して、前述のような家づくりを住宅会社が求めることはハードルが高い。むしろ「施主に必要とされる以上に高機能、高性能な家づくりを国が求めているのではないか」と批判するビルダーもいるくらいだ。

実際、昨年末に環境共創イニシアチブより発表された「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2022」でも、ZEH普及目標の未達要因は「顧客の予算・理解を引き出すことが出来なかった」「体制不備」が上位を占めている(図参照)。

だが、高性能な家づくりは本当に必要ないのだろうか。国は毎年、補助金を捻出し、調査を繰り返し、その進ちょくを追っている。「高性能住宅を提案できるか否か、篩がかかり、生き残る会社と廃業を余儀なくされる会社の分かれ道になるのではないか」と見る専門家もいる。実際に高性能住宅を提案することで差別化を図り、またZEH率100%を豪語するビルダーには勢いがあり、その強みを生かして彼らの企業規模は拡大の一途だ。翻り、政府の政策に歩み寄れない、歩み寄らないビルダーたちは、ストック住宅のリフォームに集中しており、新築ビジネスから離れていくようにも見える。

クリーンなガスの普及へ 認証スキームを構築


日本ガス協会は、都市ガス供給のカーボンニュートラル化に資するe―メタン(合成メタン)やバイオガスの社会実装を見据え、その環境価値を認証し取引を可能とする「クリーンガス証書」の導入に向けた具体的な検討に乗り出した。2024年度の実運用開始を目指す。

同証書の導入の狙いは、環境価値をエネルギー価値から分離し移転できるようにすること。例えば、ある都市ガス事業者が農業残さや家畜の排せつ物といったバイオガス原料の豊富な地域で導入を支援し、その価値を購入することで自社のエリアで供給するガスをクリーン化できる。

制度の信頼性を高めるため、日本エネルギー経済研究所に「クリーンガス認証実証事業推進業務」を委託。8月4日には、同研究所を事務局とする「クリーンガス認証評価委員会」において、認証スキームの公正な運用やガイドラインなど文書の適正性などについての検討が始まった。

将来は、地球温暖化対策推進法(温対法)の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」における排出係数の調整に活用することも想定。新たな地産地消型のビジネスモデル創出に期待がかかる。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年9月号)



【東京電力パワーグリッド・日立製作所/DCの計算負荷の分散制御を利用したエネマネ】

東京電力パワーグリッドと日立製作所は共同で、複数エリアのデータセンター(DC)間における、系統連携型エネルギーマネジメントに関する基礎技術を確立した。DCを稼働する電力の輸送コストより、DCで処理したデータの輸送コストが経済的なことから、地方エリアに多くある再エネの発電所付近にDCを設置し、発電量に見合った需要を創出することで、地産地消につなげる。実証では茨城県のDCと東京都のサーバールームを接続し、DCの計算負荷の空間シフトやエリア内での計算負荷の時間シフト、DC内の空調などの制御を行った。両社はDCを電力需要の調整力とすることを目指し、安定供給と社会コスト低減の両立に向けて取り組む。


【東京ガス/AEM水電解装置導入でCO2フリー水素を製造・販売】

東京ガスは7月13日、千住水素ステーションでエナプター社製のAEM(陰イオン交換膜)水電解装置を使用した水素の製造・販売を国内で初めて開始した。同ステーションでは2016年から都市ガスから製造した水素を販売。22年度末には非化石証書による実質再エネ100%の電気に切り替えている。同装置の導入で、CO2フリー水素の製造・販売を実現した。構造はシンプルで、小型モジュールを組み合わせることで水素製造量を柔軟に調整できる。限られたスペースへの導入が期待されるほか、セル部材の材料の選択肢が広く、セルスタックの低コスト化なども可能だ。東京ガスは適切なシステム構成や運転管理などの知見を獲得し、水素供給ビジネスの展開を目指す。


【NTTアノード・九州電力・三菱商事/福岡で系統用蓄電池の運用を開始】

NTTアノードエナジーと九州電力、三菱商事の3社は、再エネ出力制御の低減に向け、福岡県香春町に蓄電システムを設置。本格的な運用を開始した。出力は1400kw(容量は4200kW時)。3社は昨年から、出力制御される電力の有効活用と新たな調整力創出に向けて、各社のノウハウなどを活用し、共同で系統用蓄電池事業の開発を進めていた。今回、NTTアノードが国の補助を受け国産の系統用蓄電池を設置。今後は太陽光出力制御の低減と、需給調整市場など各種電力市場で系統用蓄電池をマルチユースする場合の事業性の検証を行う。3社の複数の太陽光発電所の同期運用の検証も実施する予定だ。2025年度以降は容量市場への供給力供出を目指している。


【ヤンマーエネルギーシステム/非発向け遠隔監視サービスを開始】

ヤンマーエネルギーシステムは、非常用発電機向けに、災害時に備えて平時の管理体制を提供する遠隔監視サービスを開始する。同社の主力商品の非常用発電機「AutoPackシリーズ」には新遠隔通信ユニットを標準搭載し、今年7月から出荷を始めている。同社は、GHPやコージェネ向けに提供してきた遠隔監視システム「RESS(レス)」の機能を拡充。停電時にも不具合なく非常用発電機を起動できるように、平時から機器管理をサポートするサービスを提供していく。


【積水ハウス/住宅メーカー初 水素住宅の実証を開始】

積水ハウスは、自宅で水素を作り住宅内の電力を自給自足する、住宅メーカー初の水素住宅の実用化に向け、実証実験を開始した。2025年夏の実用化を目指している。日中は屋根上の太陽光発電パネルからの電力を消費。余剰電力を使って水を電気分解して水素を作り、水素吸蔵合金のタンクで貯蔵する。雨の日や夜間などは貯蔵した水素を利用して燃料電池で発電する仕組みだ。同社のネット・ゼロ・エネルギー・ハウスに組み込むことで、環境性能や利便性、レジリンス性などを向上できるとしている。


【NTTデータ/発電・需要やCO2排出量リアルタイムに予測】

NTTデータは、日新システムズ、ネクステムズと共同で、再生可能エネルギー電源や水道などの家庭インフラに関する情報を収集・可視化・分析する情報流通基盤の実証実験を沖縄県宮古島で実施し、その成果を得た。実証は2022年7月~23年3月に行った。島内の約1000件の需要家に設置した太陽光発電(計5000kW)、蓄電池、ヒートポンプ給湯機などを対象に、電力・水道の需要量や供給量などをリアルタイムに収集・可視化し、翌日から翌々日までの発電・需要やCO2排出量が予測できることを確認した。


【関西電力・岩谷産業/万博で水素船・水素SSのエネマネ採用】

関西電力は7月、岩谷産業が2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で水素燃料電池船の旅客運航を行い、また船のエネルギーマネジメントなどは同社が行うことを発表した。この取り組みは、岩谷が船舶建造・運航および船舶用水素ステーションを建設し、関電がエネルギーマネジメントと船舶用充電設備の建設を担うことで、経済性が成立する水素船の商用運航の実現を目指すものだ。水素船は、走行時にCO2などを排出しない高い環境性能を有するだけでなく、匂い、騒音、振動のない優れた快適性が期待されている。同社はこの取り組みを通じて、水素船などのエネルギーマネジメントの商用化に貢献し、水素利活用に対する可能性を検討していく構えだ。


【中部電力ほか/工場内環境を可視化するシステムを開発】

中部電力と中部電力ミライズ、九州計測器の3社は、オイルミストや粉塵の濃度と空間温湿度を4Dで表示できる、ワイヤレス型オイルミスト濃度・温湿度計測システム「Mieru TIME OILMIST」を開発し、販売を開始した。濃度や温湿度を計測するワイヤレス型センサーを工場内に配置して、PCやクラウドにデータを集約。映像化して、工場内環境を見える化できる。リアルタイムで確認できるため、給気や換気量の運用変更などの対策が立てやすくなり、環境改善の精度向上を実現する。


【三井E&S/SAF生産の実証向け 大型圧縮機を受注】

三井E&Sは、国内初となる廃食油を原料とした国産SAFの大規模実証向けに、圧縮機2機を受注した。同実証は国産SAFの大規模生産を目指し、日揮HD、コスモ石油、レボインターナショナル、日揮の4社が取り組む。同社はSAF製造プラントや水素ステーションなどへの圧縮機供給により、ゼロエミッション社会の実現に貢献していく方針だ。


【川崎汽船/ジクシス社向け新造船 液化アンモニア輸送も可】

LPガス元売りであるジクシス向けの新造船となる二元燃料運搬船が、川崎汽船へ引き渡しとなった。「AXIS RIVER(アクシス・リバー)」と命名された同運搬船は、3隻目の契約船となる。重油とLPGを燃料とするデュアルフューエル船で、LPガスに加え、脱炭素化に向けて今後需要の拡大が見込まれる液化アンモニアの輸送も可能となっている。


【伊藤忠エネクス/道路工場でGTL燃料 自家給油は九州初】

伊藤忠エネクスは7月、三井住建道路が運営する大牟田合材工場で稼働するバーナーにおいて、同社が取り扱う『GTL燃料』が使用開始されたことを発表した。GLT燃料は天然ガス由来の製品で、環境負荷の少ない軽油代替燃料だ。軽油対比でCO2排出量を8.5%削減できる。三井住建道路では、昨年からプラント内の重機に小口配送でGTL燃料を使用していたが、4月からは同プラント内に設置したタンクからGTL燃料を自家給油することに切り替えた。同社は、今後も持続可能な社会への貢献を目指す構えだ。

脱炭素と安定供給の両立 コスト負担の理解が必要


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説委員

太陽光発電など再生可能エネルギーの急増により、需給バランスの調整は複雑化している。

今後、連系線の強化や火力発電の維持など安定供給の実現には相応のコストがかかる。

電力の需給関係は常に不安定だ。電力会社は、需要を予想して供給計画を立てるが、予想よりも気温が高く、あるいは低くなり、需要が予想を上回れば不足することになるし、下回れば余剰となる。天候に左右される太陽光発電など再生可能エネルギーの比率が増えれば、変動要因は一段と大きくなることになる。

電力会社は、供給を上回る需要が生じた場合、不足を補うために他の電力会社から供給を受ける。

例えば昨年6月、東京エリアの需給がひっ迫した際には、北海道、東北、中部、関西、北陸、中国、四国、九州の各電力会社から電力の融通を受けた。その回数は、6月27日から7月1日まで20回に及んだという。

こうした電力各社の間の電力融通や調整を一元管理しているのが、電気事業法に基づく国の認可法人「電力広域的運営推進機関」通称「オクト」である。

連系線強化のコストは電気料金で回収される


存在感増す「オクト」 出力抑制の現実

そのオクトの役割が最近増しているという。電力の「不足」への対応だけでなく、時に「余剰」への対応も求められるようになっているからだ。背景には、太陽光発電の急増がある。

太陽光発電は、再エネの電気を電力会社が買い取る制度が始まったのを機に、全国各地で急増。しかし、工場などが操業を止める休日の日中には、太陽光による発電を使い切れなくなるケースも増えてきた。となると他の方法で発電する電力に変化がなければ、全体として一時的に供給超過となる。

だが、電気は使う量と発電量のバランスが崩れると、電気の質が悪化し、発電機が停止して広域停電となってしまうという。電気は足りなくても停電するが、余っても停電のリスクが生じるのだ。それを避けるために、需要が少ない時間帯に、再エネの利用をあえて止める出力制御を何らかの形で行わなければならないといった事態が、東京エリア以外の全国各地で相次いでいるというのだ。

しかし、燃料費を必要としない再エネを止めるのは、いかにももったいない。脱炭素を進めようという動きにも反する。このためこうした再エネの出力制御は、実際には、どの電源を優先して利用するかをあらかじめ定めた国のルールに基づいて行われる。

まずガスや石炭など出力の調整が比較的容易で、かつCO2排出量が多い火力発電の出力減少や停止が図られる。同時に、余った電気で揚水発電の水をくみ上げる。くみ上げた水は、電力が不足する際に水力発電に活用される。いわば巨大な蓄電池のようなものだ。さらに隣接するエリアに送電線で電気を送る、バイオマスの出力抑制を図るなどいくつかの段階を経て、それでも電気が余るとなれば、太陽光や風力などの出力を制御する段階にいたる。

実は6月3日、関西エリアで出力制御が行われた際には、オクトの業務規程第111条による「下げ代不足融通」と呼ばれる措置がとられた。これはある電力会社のエリアで、できる限りの出力制御をしてもなお、需給の「下ぶれ」への調整の幅が確保できない状況となったとき、つまりこれ以上の「下げ代」がないとなったときに、その電力会社から要請を受けたオクトが、他のエリアの電力会社で電力を受け入れるよう緊急の指示を出す仕組みだ。

紆余曲折の袖ヶ浦火力 東ガスが単独で建設へ


東京ガスは、千葉県袖ケ浦市で検討していたLNG火力発電所の建設を決めた。将来の水素活用を見据え、水素混焼が可能な最新鋭の高効率ガスタービンコンバインドサイクル発電195万kWを導入し、2029年度の運転開始を目指す。

冷却には空冷式を採用。水冷式に対し「発電効率が1%ほど低い」(発電事業関係者)など、建設費や発電効率の面で多少不利だが、エネルギー業界関係者は、「川崎天然ガス発電など既存火力がリプレースを迎える30年度に間に合わせる必要があり、建設地の出光興産の敷地が広大で巨大な冷却ファンを設置するスペースを十分に確保できることが判断の決め手になったのだろう」と見る。

15年に同地で火力発電計画が立ち上がった当初は、東ガスと出光、九州電力の3社が石炭を燃種に検討していたが、脱炭素の流れから19年に断念すると同時に出光が撤退。その後、LNGに切り替え2社で検討を続けたものの、燃料高騰を受けて昨年、九電も撤退した。情勢変化で二転三転を余儀なくされてきた発電所計画が、いよいよ一歩を踏み出した。

ドイツの地熱発電・熱供給事業に参画 国内の地熱開発で知見を生かす


【中部電力】

中部電力は、カナダのスタートアップ企業「エバーテクノロジーズ(エバー社)」がドイツのバイエルン州で進めている、地熱発電・地域熱供給プロジェクト「ゲーレッツリート地熱事業」に参画している。エバー社の株主である中部電力は今回、プロジェクト事業会社に直接出資する。

エバー社は「クローズドループ」と呼ばれる、地下に張り巡らしたパイプに地上から水を流し込み、循環させて地下熱を回収する地熱利用技術の研究・開発に取り組んできた。地下の熱水や蒸気が十分でない地域でも効率的に熱を取り出せることが特徴だ。

カナダのアルバータ州で実証設備を運用しており、商用での建設は今回が初。独自技術を取り入れた「エバーループ」として設置する。

設備は、深さ5000mの位置まで垂直坑を2本と、そこから水平に約3000mの長さの水平坑24本を掘削し、ループを作る。地中部分にはシール材を混ぜた水を流し込み、表面を固めて水漏れを防ぐ。水がループを循環し、地下熱で湯を沸かす。いわば地球を湯沸かし器にする発想だ。

欧州の地下熱は150℃前後。地上に取り出した熱は、熱交換器を通して熱供給用導管とバイナリー発電設備に供給される。流し込んだ水は減量せず循環し続ける。現在1本目のループを掘削中で、24年10月に完成、運転を開始する予定だ。26年8月に全4本のループを完成させて、全面運転開始を目指している。

発電出力は、約8200kW(発電端)。ドイツのFIP(市場価格+変動プレミアムで一定価格にて買い取り)制度を活用して市場で販売する。熱供給は約6万4000kWを予定。約20万世帯分の供給量に相当し、近隣の二つの自治体と30年の売買契約を結んでいる。


EUイノベ基金獲得 国内の地熱拡大にも

プロジェクトの総事業費は数百億円に及ぶが、カーボンニュートラルへの移行を実現する革新的な技術であることが評価され、「EUイノベーション基金」から約140億円の補助が決まった。

「選出されたのは申請数の1割強。基金獲得は、EUから高い評価を得られている証しで、このことが第三者割当増資を引き受け、数十億円出資の決め手になった」と佐藤裕紀専務執行役員は、事業の将来性を確信している。

日本の地熱資源量は世界第3位で活用のポテンシャルは高い。エバーループは熱供給や発電を水の循環で制御できるため、低需要時には地下に蓄熱し、調整電源としての役割も担える。中部電力は、国内への展開も視野に入れる。

佐藤専務執行役員は「地熱の位置づけをドラスティックに変え得る技術だ」と大きな期待を寄せている。

ゲーレッツリート地熱事業完成予想図

「長期脱炭素」に既設原発 柏崎刈羽の支援につながるか


既設原発の活用拡大に向けた新たな政策案が浮上した。7月末の総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会で、脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既設原発の安全対策投資を加える案をエネ庁が提示。巨額の投資回収の予見性確保が狙いだ。

需給上は柏崎刈羽などの再稼働が待たれるが……(出典:東京電力ホールディングスウェブサイト)

同オークションは2023年度中に始まり、落札電源には固定費水準の容量収入を原則20年間与える。脱炭素電源の新設・リプレース以外には、水素・アンモニア混焼に向けた既設火力の改修、さらに25年度実施分までは脱炭素化を条件にLNG火力の新設・リプレースも対象にすると整理した。

10年以上原発が停止したままの東日本では、特に東京エリアで夏・冬の需給ひっ迫が懸念される状況が続く。そうした中、本案についてある電力業界関係者は「特に柏崎刈羽などでまだ審査や工事が進んでいない炉への支援を念頭に、関係者が時間をかけて調整してきたのではないか」とみる。

他方、「福島事故でBWR(沸騰水型炉)が水素爆発の危険性が高いと示された。国民が再稼働に納得するにはオークションなどより、例えば事故耐性燃料の実装を促すような措置を考えるべきだ」(政府関係者)といった声もある。

【覆面ホンネ座談会】電力不祥事で議論迷走 遠のく市場の正常化


テーマ:電力事業制度改革

電力システム改革の抜本的な見直しが言われ始めて久しい。だが、カルテル疑惑や顧客情報の不正閲覧など、大手電力会社が自ら引き起こした不祥事がその議論を遠ざけてしまっている。電力システムのゆがみは正せるか。

〈出席者〉 A コンサルタント B 発電事業関係者 C 大手電力関係者 D 学識者

―大手電力会社の老朽火力の退出加速と供給力不足への懸念が払しょくできず、卸電力市場への限界費用入札の弊害が指摘される。

A 限界費用で入札することが問題なのではなく、容量市場に先行して始まり、大手電力の自主的取り組みの名目で実質強制したことがまずい。長期での固定費回収ができないまま、再生可能エネルギーの大量導入で限界費用により取引される短期の卸市場価格の水準が低下したことで、フリーライドで参入できると勘違いした事業者を大量に呼び込んだ。

B 限界費用という言葉は、受け手にとって幅広に解釈できる余地があり、厳密に定義した上で活用するべきだった。限界費用が競争均衡されている市場価格だとすれば、それでは固定費を回収できないという言い分に対し、一部の経済学者は反発する。だけど現実問題として可変費ベースの限界費用では固定費を回収できない。自主的取り組みからガイドライン化され、それがあまりにも厳しいために大手電力関係者も思考停止してしまい、自らの商品をいくらで売るのが適正なのか考えられなくなっているのではないかと懸念している。たとえば長期卸の価格をスポット取引と同様の限界費用で費用認識してしまうなど、発電事業者としてあり得ない。

C 市場はシングルプライスオークションで、自らの売値よりも高い水準で価格が決まるからその値差で固定費は回収できるといった話を経済学者がよくしていたが、値差が固定費回収に十分な額である保証はない。そんな雑な言説がまかり通っていたのは異常だし、それを真に受けて限界費用入札の強制を始めてしまったのは、完全な失策だろう。

D ピーク電源は稼働時間が短いのでそれなりのマージンを乗せて販売するのが先進国の常識だ。ところが日本では、その担い手が大手電力系列の電源ばかりで、ピーク時でさえ限界費用での入札が求められていて、高騰しにくい卸電力市場構造の根本原因になっている。これが、電源投資が起こりにくい上に、老朽火力の退出を促す結果を招いている。

固定費回収に規制的手法 電源投資促進なるか

―容量市場、長期脱炭素電源オークションなど、固定費回収スキームは機能するか。

A こうした市場の創設は、電源投資における市場メカニズム活用の限界を示唆するものだ。短期では、限界費用か平均費用か何が正しいのか分からない市場環境で取引させているのだから、長期回収で帳尻を合わせるしかない。いびつな市場が非線形の期間構造を生むことはさまざまなハレーションを起こし得るが、次善解として受け入れるしかない。

B これまでの制度設計議論は、スポットで発見される価格によって短期的な資源配分も長期的な投資配分も最適化されることを期待しており、不足分は別途容量市場などで補うがあくまで短期を出発点とした議論。だが実際は、長期の電源がしっかりと建っていないと短期の流動性は得られない。長期的に電源のファイナンスをどう維持していくのかを考える必要があり、電源をリスクにさらさないという点において総括原価は有効な手段だった。ファイナンスという意味では、それに近しいものを検討する必要がある。

C 予備力も含めてどの程度電源が必要かは、以前から市場原理とは無関係に決められてきたわけで、自由化だからこれらを取っ払って、全て市場の需給調整に委ねるなんて政策判断はされていない。容量市場はそうした判断になじむと思う。脱炭素オークションの導入が決まったのは、30年で廃止しなければならないかもしれない電源投資のために、民間事業者がリスクを取ることがあり得ない世界になってしまったからだ。これが良いとは決して思わないが、カーボンニュートラル(CN)をどうしても目指すのなら規制的手法に頼らざるを得ない。

D 脱炭素オークションは、全てオークションで調達するという点で極めて特殊な制度だ。イギリスでは新しい技術の電源調達を行う際は、その電源の特性に合わせてオークションか政府との交渉かを決めている。日本では、水素やアンモニアを混焼させる発電は、費用の不確実性が高いことが十分に考慮されないまま全てオークションと決まってしまったので、この制度で本当に新しい技術の電源に投資が向くのか疑問だ。状況に応じて適宜、制度の見直しをしていかないとうまくいかないと思う。

カーボンニュートラルを見据えた事業構造転換が待ったなしだ

―さまざまな制度をつぎはぎで導入している印象が否めない。きちんと機能するのだろうか。

A 鵺のような市場を立ち上げ矛盾だらけの制度で苦しむくらいなら、いっそのこと総括原価方式に戻してしまえばいいのにと思うよ。その非合理性を理解できない。

B 今から総括原価に戻ることはどうやってもあり得ない。それに、今回の資源エネルギー庁の幹部人事を見ても、システム改革を押し進めてきた人たちが顔をそろえているし、間違っていたなんて認めることはないだろう。

C アンモニア発電を手掛ける事業者は限られるからオークションとはいえ価格は交渉で決まるのだろうし、事実上の総括原価とも言える。ただ昔と違うのは、財務基盤が傷んだ大手電力が投資して必要量を確保できる時代ではない。キャッシュフローがリッチな企業が喜んで投資するような枠組みにして業界外から投資を呼び込まないと。

D 最近、脱炭素オークションの範囲を既設原子力の安全投資費用に広げる議論が始まったけど、原子力を卸電力市場の中でどう位置付けるつもりなのか。これによって大手電力に追加的な要請を加えるようなことがあれば、内容によっては安全対策投資費用を回収できるという話が変わってしまう恐れもある。

B バックエンドをまわすためにも原子力のkW時が必要なのだろう。脱炭素オークションで費用回収させようとするのは、それだけ安全対策費の問題が重いテーマなのだ。