理想のSDV実現 遠く険しい道


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

SDV(Software Defined Vehicle)には、いろいろなメリットがあると言われている。消費者にとっては、いちいちディーラーにクルマを持ち込まなくてもOTA(Over The Air)を利用して機能を向上させたり、新たな機能を取得できたりすることが挙げられる。また、自分の好みの特性にカスタマイズすることも可能となる。

自動車メーカー側にとっては、販売後も消費者とつながりを持つことで、継続的にいろいろなサービスを提供することで収益を得たり、運転データを取得・解析してその後の開発の指針を得たりと、新たなビジネスモデルの創出に寄与することも期待されている。しかし、このようなメリットを具現化するためには、さまざまな課題があることも事実だ。

SDVのメリット・デメリット

一つには、クルマの機能をソフトウエアで自由に設定できるという構造がもたらす、走行安全性の失陥への防護施策の困難さが挙げられる。ソフトのバグやハードウエアの欠陥、そしてサイバー攻撃などが、クルマの走行機能に直接影響することになるため、それが不安全性につながることを避けなければならない。そのためには、SDV機能を担うコンピューターのハードとソフトのシステム構成を工夫することが必要となる。SDVでは集中型のコンピューターの方がより柔軟な機能設定が可能となるが、上記の安全性の失陥につながる可能性は高くなる。コンピューターのハードとソフトをどこまで集約して、どの部分を分散させれば安全性の確保ができるかというシステムデザインの検討が必要である。

次に、ビジネスの観点からの課題として、車載コンピューターの容量をどこまで余裕を持たせるべきか、ということが挙げられる。これまでのクルマ作りでは、機能が満たされる最低限の容量にして、コストを低減するデザインが採られていた。しかし、SDVではバージョンアップや新機能追加のための余裕を持たせる必要があり、それにはコスト増を容認しなければならない。さらに、容量に余裕を持たせていても、スマートフォンなどの例でもわかるように、新たなソフトに対応するにはハードも刷新する必要がある。

もう一つ大きな課題は、国土交通省の道路運送車両法に基づくクルマの機能の認可への対応が挙げられる。例えばブレーキ装置など安全にかかわる機器は、モデルチェンジなどの際に同省の認可が必要となる。そのためには、その装置の試験データを添えて規定に適合させる手続きが必須であるが、ソフトの更新時に毎回その手間をかけられるのかどうか―、ということがメーカー側の課題となる。

このように、SDVの機能を柔軟にすればするほど、解決すべき壁はより高くなっていく。それゆえに、当面はSDVといってもナビゲーションシステムや表示系などの走行安全に影響の少ないものから取り入れていくことになると考えられる。そして、理想のSDVを実現させる道は遠く険しいものであり、その事実が現在の多くの自動車メーカーの技術開発陣を悩ませている。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: EF-20240401-051a.jpg
ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年1月号)


【三浦工業/新型のガス焚き小型貫流蒸気ボイラーでCN貢献】

ボイラーメーカー大手の三浦工業は、産業用熱源として使用されている主力製品「ガス焚き小型貫流蒸気ボイラSQ-AS型」をモデルチェンジし、「SQ-CS型」を25年3月から順次発売する。CS型は排ガス中のO2濃度を常時計測し濃度が一定になるよう制御する「O2センサ」を搭載したことが特徴。これにより、細かな燃焼調整が可能となった。さらに排ガスと給水を熱交換する装置「エコノマイザ」を改良することで、従来機より1%高いボイラー効率99%を達成したという。同社は新製品を通じて、カーボンニュートラル(CN)の実現に貢献していく構えだ。


【NEDO/液化CO2大量輸送に向けた実証試験の説明会】

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はこのほど、工場や火力発電所などから回収したCO2を液化し貯蔵や荷役を経て船舶で運ぶ一貫輸送システムの確立に向けた技術開発の説明会を開いた。CO2を低コストで大量輸送する役割が期待される実証試験船「えくすくぅる」で、京都府舞鶴市と北海道苫小牧市の間を往復する試験を開始した。NEDOの布川信サーキュラーエコノミー部CSSチーム長は、輸送船用貨物タンクの開発や液化CO2を安定した状態で運ぶ技術などを追求し、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留技術)の社会実装を促すことへの意欲を示した。


【岩谷産業/LPガス配送の合理化へ横須賀デポステを新設】

LPガス配送の合理化に向け、岩谷産業はこのほど、神奈川県横須賀市内のLPガス充てん所を改良し大型トレーラーを受け入れるデポステーション(ボンベ置き場)としての機能を新たに追加した。出荷機能を高めるため、24年4月に横浜市内に整備した根岸LPガス液化ターミナルと横須賀デポステとの間を、トレーラーが毎日2往復をめどにピストン輸送する。1車両当たり12.5tを積載する大型トレーラーを8台活用する予定で、輸送能力は年間で約1万4000t。同社は、人口が約70万人の横須賀エリアにおけるシェアを現行の約4割から将来は6割まで高めたいとしている。


【東邦ガスほか/四日市市に地域新電力設立、公共施設に供給】

東邦ガスはこのほど、三重県四日市市、日鉄エンジニアリング、三十三銀行との共同出資で地域新電力会社「よっかいちクリーンエネルギー」を設立したと発表した。25年4月以降の電力供給を目指す。同市のごみ処理施設で発電した電力などを市内の公共施設に供給し、エネルギーの地産地消を進める。事業で得た利益は脱炭素化に役立つ取り組みなどに活用する。


【JPEC、産総研/液体合成燃料の製造プラントで連続運転に成功】

カーボンニュートラル燃料技術センター(JPEC)は、産業技術総合研究所と共同で、CO2と水から液体合成燃料を一貫製造するベンチプラントを開発し、連続運転に成功した。液体合成燃料は既存インフラを有効活用し、ガソリンや軽油、ジェット燃料などを代替できる利点を持つ。両者はシステムの規模を拡大し、社会実装に向けた取り組みを進めたい考えだ。


【茨城大学/カーボンリサイクルのシンポで最新動向を紹介】

茨城大学カーボンリサイクルエネルギー研究センター主催のシンポジウムが、11月末に開催された。元トヨタの中田雅彦氏が「エネルギー、CO2/気候変動問題などの最近の動向」をテーマに基調講演。また、同センターの田中光太郎教授が「湿度スイング式DAC(CO2の直接回収技術)」研究の進捗を紹介し、社会実装に向け企業と基盤技術を共有する意向を示した。

ロシアで進む気候変動の「時限爆弾」 国際社会は地球規模課題に集中を


【オピニオン】加藤 学/国際協力銀行 資源ファイナンス部門エネルギー・ソリューション部長

北極圏の海氷融解が指摘されて久しい。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1980年代と比較し、現在の夏の海氷面積は約50%減少しているとレポートしている。地球温暖化の威力にがくぜんとする。

もっとも、ロシアの影響圏に敏感なプーチンの視座からみると、これは「安全保障上の脅威」にほかならない。ロシアの北極圏領土は、分厚い海氷が他国軍艦の侵入を許さず、自然の要塞となってきた。氷が溶け、近年これが脅かされているとプーチンは認識する。

2024年11月、露紙「ロシイスカヤ・ガゼータ」は、パトルシェフ大統領補佐官が北極圏での国益保護を目的とする「海洋参事会評議会」を設立したと報じた。北極圏のエネルギー資源と領土を狙う西側諸国への対抗策が協議されるという。パトルシェフといえば、タカ派中のタカ派として知られ、プーチンとともにウクライナ侵攻を決めた主戦論者。16年間にわたり安全保障会議書記を務めたが、24年5月、造船担当の大統領補佐官となった。降格人事とも目されたが、浮上する北極圏領土の防衛問題を任されており、その影響力は引き続き侮れない。パトルシェフは造船分野もカバーしているため、対ロ制裁をかいくぐり、ロシアの石油や石油製品を海上輸送する「シャドーフリート」(影の船団)のアレンジにも一枚かんでいる可能性がある。

北極圏で融解しているのは海氷だけではない。ロシアの陸地の65%を占める永久凍土も溶け出している。永久凍土には推定1.7兆tの炭素が、凍結した有機物の形態で閉じ込められているが、地表に出て温められると腐敗するため、メタンやCO2となって大気に放出される。この悪循環は、まさに気候変動の「時限爆弾」だ。また、永久凍土の融解により、感染症を引き起こす細菌やウィルスなどが解き放たれる恐れがある。16年にはヤマロ・ネネツ自治管区の先住民族が、トナカイの凍結死骸が溶けて放出された炭疽菌に集団感染し、死者も出ている。さらに、凍土中にある天然痘ウィルスが地表に出て活動を再開する危険もあるという。

言うまでもなく、これらは、ロシアにとどまらない「人類全体への脅威」である。ロシアもメンバー国である北極評議会は、今こそ、こうした北極圏の環境問題にアクティブに取り組んで欲しい国際組織だ。残念ながら、ウクライナ侵攻後、ロシアを巻き込んだ協議が進まず、その分野別ワーキンググループの活動も停滞気味とされる。

米国政権が変わる。国際社会は一致協力し、ウクライナでの紛争を一刻も早く終わらせ、ロシアの北極圏を発端とする地球規模の課題解決に集中すべきだ。

かとう・まなぶ 1996年日本輸出入銀行(現、国際協力銀行・JBIC)入行。延べ8年にわたりJBICモスクワ事務所に勤務。2022年から現職。近著に『ウクライナ侵攻 地政学×地経学の衝撃』。ロシアとエネルギーが専門領域。

開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み


【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】関口博之 /経済ジャーナリスト

「地上の太陽」「究極のクリーンエネルギー」と期待される一方、「いつまでたっても実用化まであと30年」と言われ続けた核融合。だがここに来て開発機運は高まり、投資も加速。世界中の投資額は62億ドル(9300億円)に上るとされる。2024年11月下旬、この核融合による発電をテーマにしたパネルディスカッションに司会として参加したが刺激的な経験だった。

国の核融合政策の司令塔・内閣府をはじめ、京都大学発のベンチャー「京都フュージョニアリング」、大阪府吹田市と浜松市を拠点にする「エクス・フュージョン」、核融合科学研究所の研究者らによる「ヘリカルフュージョン」と、日本を代表するスタートアップがそろって登壇とあって筆者にも得るところが多かった。「核融合=フュージョンという言葉を定着させたい」「従来は学会が発表の場だったが、企業が参加するこういう見本市でこそアピールしたかった」。京大教授から京都フュージョニアリングを創業した小西哲之氏は期待を口にした。

核融合は、例えば重水素と三重水素(トリチウム)の原子核が衝突しヘリウムになる際のエネルギーを利用する。原理的には原料1gで石油8t分のエネルギーが得られるとされる。国は23年に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を掲げ、開発計画の前倒しと世界に先駆けた「30年代の発電実証」の達成を目指している。民間スタートアップも発電実証に同様の目標を立てている。

フランスで建設中の核融合実験炉イーター
©ITER Organization

核融合にはいくつかの方式があるが、そのいずれにも技術開発の足場を持っているのは日本の強みだ。「磁場閉じ込め方式」の一つ、トカマク型では国際熱核融合実験炉・イーター(ⅠTER)計画に参加しているほか、茨城県那珂市に設けた実験装置では発生させたプラズマの体積のギネス記録を24年に達成した。またヘリカル型では核融合科学研の大型装置がプラズマ温度1億℃、保持時間3000秒以上を記録している。一方「レーザー方式」はエクス・フュージョンが手掛ける。「米ローレンス・リバモア研が世界で初めて投入量より多いエネルギーを取り出す『純増』に成功しているのが強み」(代表取締役・松尾一輝氏)という。

世界が研究開発にしのぎを削る中、今回のパネルディスカッションが主眼としたのは「核融合は実現できるのか」ではなく、その先の「核融合をどう産業化するか」だった。「研究開発と並行し製造業など幅広い企業を巻き込む必要がある。どういち早くサプライチェーンを構築するか、世界はその競争に向かっている」。フュージョンエネルギー産業協議会会長でもある小西氏はこう力説する。

一方で、国の責務が安全規制の確立だ。原発の核分裂反応とは異なり、核融合では連鎖反応が起こらず、燃料供給を止めれば反応が止まるため安全性が高いとされる。とはいえ「何となく怖い」という国民の漠然とした感覚もある。核融合の特性に合った新たな規制は不可欠だ。

パネルディスカッション終了後、外には登壇メンバーに名刺交換を求める企業関係者の長蛇の列が。「産業化」に向けた好機になったのではないか。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: EF-20240501-050.jpg
せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

EUA価格は60€台で推移 26年を境に急上昇の予測も


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:EU―ETS

ガス需要の減少や一時的な供給量の増加により、EUにおける排出価格は低位で推移している。

ただ、2026年を境に急上昇する可能性も。日本企業は新たな規制環境にどう対応すべきか。

ガス需要の減少や一時的な供給量の増加により、EUにおける排出価格は低位で推移している。
ただ、2026年を境に急上昇する可能性も。日本企業は新たな規制環境にどう対応すべきか。

厳格な排出権取引制度を先行させた欧州は、脱炭素の分野で影響力を強めつつある。直近の制度改正では、欧州向けの輸出コストの上昇や新たな規制対応が避けられない状況が見えてきた。本稿では、欧州の最新の排出規制の動向と、それが日本企業に与える影響を考察する。

欧州排出権取引制度(EU―ETS)とは、2005年に導入され、EU加盟国27カ国にアイスランド・リヒテンシュタイン・ノルウェーを加えた欧州経済領域(EEA)内で運用される制度である。発電・産業・航空部門といった温室効果ガス(GHG)の排出が多い産業部門を対象とし、年間の排出量に相当する排出権(EUA)の取得を義務付けることで自主的に排出を減らす経済的インセンティブを与え欧州全域での排出量の削減を目指す制度だ。産業部門やGHGの対象範囲を拡大したり罰則を強化したりと、制度内容は徐々に厳格化される傾向にある。

EU―ETSにおける排出枠(EUA)の推移


CBAMの導入を決定 欧州向け輸出への影響は?

直近では、23年6月に採択されたEU―ETS改正指令に基づき排出削減目標が引き上げられたほか、その達成手段としてEUA流通量の年間削減率(LRF)の強化や無償割当枠の段階的廃止、海運部門の追加といった変更が加えられた。さらにEU―ETSを補完する制度として、建物・道路輸送・小規模産業部門を対象とするEU―ETS2を新設。欧州圏内に輸入される製品を対象に、生産工程で排出されたGHGの量に応じた課徴金を課する炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入も決まった。

この改正により、欧州圏外の事業者も巻き込まれることになる。例えば、海運部門が対象に追加されたことで、圏内の港に停泊する船舶を運航する日本の事業者はEU―ETSの下で排出量の報告義務とEUAの取得義務を負う。また、CBAMの課徴金額はEUA価格を基準とするため、その動向は欧州向けに対象製品を輸出する事業者に間接的に影響することになる。

EU―ETSはGHGの排出コストを可視化する制度だが、特徴的なのは、その金額を炭素税のように制度的に決めてしまうのではなく、市場メカニズムに委ねる点である。新規に発行されるEUAの一部は無償で事業者に割り当てられるが、大部分は欧州エネルギー取引所(EEX)が運営する有償オークション(1次市場)で割当てと価格が決まる。また、既発行のEUAを事業者間で直接売買する2次市場も存在する。いずれにせよ、EUA価格は需給バランスによって日々変動する。

送配電業務に欠かせない技能を競う 日頃の成果を披露する絶好の機会


【東京電力パワーグリッド】

東京電力パワーグリッド(PG)は12月4日〜5日の2日間、総合研修センター(東京都日野市)と給電技能訓練センター(東京都荒川区)で「全社技術技能競技大会」を開催した。今回は「レジリエンス強化」をテーマに送配電、系統運用など11種目に分かれ、大規模災害時の停電復旧や部門・地域を超えた連携などの課題に対し、日頃の対応業務の能力を競った。

停電からの系統復旧技能を競った


過酷事故からの復旧 チーム力が勝負

系統運用部門の競技は、給電技能訓練センターにおいて実際の電力系統を再現したシステムを使って行われ、各エリアの給電所を代表し8チームが参加した。1チームは当直長、2人の操作担当者、情報発信担当者の4人で、日頃から一緒に勤務している当直チームのメンバーだ。台風によって広範囲にわたって停電が発生したことを想定し、系統を復旧させるまでの技能を「操作の安全」「迅速な復旧」「適切な情報発信」の三つの審査ポイントで競い、「多摩」チームが優勝した。

岸栄一郎系統運用部長は「これまで培ってきた技術・技能を一人ひとり発揮できている」としつつ、「発電・小売事業者など関係者が増え、自然災害が激甚化する中で給電所員にはより高度な対応力が求められている」と言い、さらなる技術技能の引き上げに意欲を見せた。

盛況だったドローン競技

総合研修センターで行われた、ドローン競技は、指定の時間内に全ての障害物・ゲートを通過し、安全かつ効率的に操縦できるかを競う。同社の各チーム対抗戦に加え、東京ガスネットワークやNTT、関西電力送配電など他のインフラ企業とのエキシビションマッチも行われた。人財開発室の山崎英明副室長は「ドローンのような発展途上のツールは、他者の取り組みを知ることで新たな気付きがある。切磋琢磨できる場を提供する狙いがあった」と話す。ドローン競技は昨年から始まった新しい種目。競技開始の前後に参加者にインタビューしたり、競技中に音楽を流したりなど、スポーツ会場のような雰囲気だ。競技種目でも異彩を放っていた。

大会終了後は全チームの競技内容を振り返り日頃の業務改善に生かしていく。技術の進歩とともに、使用設備や機材も変わる。新たに取り組むべき業務において、競技大会は刺激になる絶好の機会になっているようだ。

エネルギー政策こそ「国政の大本」 残念だった石破首相の所信表明演説


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

第二次石破政権が誕生し、この間2回の所信表明演説が行われた。2024年10月4日に行われた最初の演説では、エネルギーに関する項目が立てられ、「エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題です」から始まり、省エネの徹底、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化を挙げ、そのためのGXの取り組みの加速をうたっている。しかし、それらはエネ庁の部署ごとの現在の業務を列挙したものに過ぎず、石破政権として何に取り組むのかエネルギー政策の理念や方向性はうかがえない。あえて言えば、「わが国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギー」という表現で、再エネの代表例としてなぜか地熱が挙げられていることくらいか。

総選挙後、11月29日に臨時国会で行われた所信表明演説では、エネルギーに関する項目はなくなり、石破政権が目玉とする「地方創生2・0」の中でエネルギー政策は述べられている。「地方の取り組みが花開くためには、国としての環境整備も必要です」と始まってGXの話をひとしきりした後、最後に「エネルギー基本計画……もまとめてまいります(傍点筆者)」とオマケのように付言されているだけだ。なお、ここでもなぜか地熱が例示されている。石橋湛山の言葉で始まり締められるこの演説は、最初の演説より多少石破首相の政治家としての思いがこもったものであり、防衛大臣経験者として外交・安全保障から始まるのも、新鮮だった。それだけに、今夏のコメ不足の話題から食料安全保障のことは話すのに、エネルギー安全保障に関する言及がほとんどないのは、残念だった。


GXは問題解決の一手段 究極の目標は国家の自立

少資源国のわが国にとって、エネルギー政策は国の存立そのものである。臨時国会で審議されるエネルギーなどの物価高騰対策のための補正予算案の元凶も、国富の膨大な流出と引き換えに大量の化石燃料を輸入せざるを得ないわが国のエネルギー供給構造にある。石破首相や最近の政府が盛んに言うGXは、わが国のエネルギー問題を解決するための一手段に過ぎない。エネルギー政策は安定供給の確保であり、究極の目標はエネルギーの自給による国家の自立である。

演説の冒頭、石破首相は「国政の大本について、常時率直に意見をかわす慣行を作り、おのおのの立場を明らかにしつつ、力を合せるべきことについては相互に協力を惜しまず、世界の進運に伍していくようにしなければならない」という石橋湛山の所信表明の一節を引用している。

エネルギー政策こそ、「国政の大本」だ。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: EF-20230501-068.jpg
ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年1月号)


NEWS 01:大間原発の基準津波了承 安全対策工事開始に前進も

原子力規制委員会は2024年11月29日、大間原子力発電所の審査で基準津波を7・1mとするJパワー側の説明を了承した。大間原発は出力が国内最大級(138万kW)で、完成すれば世界で唯一MOX燃料だけで運転できる最新鋭の発電所。まさに日本の未来を担う原発と言っていい。

Jパワーはこれまでに6度、安全対策工事の開始時期を延期してきた。基準津波や基準地震動が未策定のままでは、工事に取り掛かれないからだ。ただ大型クレーン設置の基礎工事を事前に進めるなど、工事開始から運転開始までの時間を短くする方針を打ち出している。大間原発は地元にとっても、財政や雇用に影響を与える「最重要課題」(大間町の野﨑尚文町長)だ。

規制委は24年秋、大間原発以外にも浜岡原発と泊原発の基準津波を了承した。どのサイトも審査申請から10年が経過している。もちろん審査の進展は歓迎すべきだが、事業者が地元の同意を得て建設に動く中で、災害時に最大でどれくらいの津波が押し寄せるかの判断に10年掛かる─。行政手続法上の標準処理期間2年を持ち出す前に、常識的に考えて異常ではないか。安全性の重要性は語るまでもないが、これでは民間企業の収益機会や地域の経済活動を制限していると見られても仕方ない。

こうした現状に政治がメスを入れてほしいのだが、それどころではなさそうだ。

着工から16年が経過した大間原発
提供:Jパワー


NEWS 02:第7次エネ基原案を提示 複数シナリオ用い抜本見直し

資源エネルギー庁は12月17日の総合エネ調・基本政策分科会で、第7次エネルギー基本計画の原案を提示した。30年度のエネルギーミックスは維持しつつ、40年度は複数シナリオを用いた見通しを提示した。

40年度に13年度比73%減の方向で検討が進む新たなNDCを念頭に置きつつも、自給率や発電電力量、電源構成、最終エネルギー消費量など各項目に幅を持たせる。電源構成では再エネ4~5割、原子力2割、火力3~4割程度などとした。

今回は、地政学リスクの高まり、データセンターや半導体製造などで電力需要増に転じる可能性にフォーカス。第6次から軌道修正し、第7次では野心的なCN目標は維持しつつ、多様かつ現実的なアプローチを拡大する。S+3Eは、安全性を大前提に、「エネルギー安定供給を第一とし」と表現が変化した。

さらに、「再エネか原子力かといった二項対立的な議論でなく、あらゆる選択肢を追及する」と強調。再エネは引き続き主力電源として最大限導入しながら、特定の電源に過度に依存しないよう、バランスの取れた電源構成を目指す。原子力も「最大限活用する」とし、第6次の「可能な限り原発依存度を低減」という一文は姿を消した。

加えて原子力政策の変更点が、リプレース方針だ。これまでは「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する」としていたところ、今回は「廃炉を決定した原発を有する事業者の原発のサイト内」と修正。つまり同じ事業者なら廃炉とは別のサイトでの建て替えも可能となる。

エネ庁は24年内にもう一度会合を開き、ミックスに関する複数シナリオや、NDCを実現できなかった場合のリスクシナリオなども提示する予定だ。


NEWS 03:排出量取引制度の論点整理 25年通常国会で法改正へ

26年度に本格稼働する排出量取引制度(ETS)の概要が固まった。内閣官房GX実行推進室は12月19日、ETSの論点の整理案を提示した。制度の基本フレームを書き込んだGX推進法改正案を、25年初頭の通常国会に提出する予定だ。

対象は、直近3カ年平均でCO2の直接排出量が10万t以上の法人で、当面は排出枠を全量無償で割り当てる。発電事業者は、33年度から一部有償割当となる。対象者は毎年度自らの排出量を算定し、排出枠の償却義務量を確保。過不足分は市場で取引し、余剰分は翌年度に持ち越し可能だ。義務未履行の場合は、応分の負担金を支払う。

EUのような強力な規制は避け、排出枠はNDCとリンクさせない方針だ。他方、NDCとの整合性は、削減目標などを掲げる移行計画の提出を毎年度求めることでバランスを取る。目標年度は当面30年とする。

割当量については、エネルギー多消費分野は業種別のベンチマーク方式で算定し、他分野は、基準から毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング方式とする。電力会社や石油元売り、そしてガス会社の発電事業についてはベンチマークとなる。ただし、ガス事業自体は直接排出量がそれほどの規模ではないため、別途28年度から化石燃料賦課金を徴収する。

排出枠価格の安定化に向け、上限・下限価格を設定。価格高騰時は、上限価格を支払うことで義務の履行を可能とする。他方、一定期間下限価格を下回る場合は、リバースオークションを実施し需給を引き締める。

ただし、具体的な業種別の割当量や、上限・下限価格の水準は今回示さなかった。規制の強度を左右するこれらの水準は、25年度引き続き専門家を交え検討する。


NEWS 04:電源別発電コストを試算 エネ政策への影響は?

40年度の電源構成比(エネルギーミックス)はどうあるべきか―。資源エネルギー庁は12月16日、その議論の叩き台となる電源種類別発電コストの試算結果を公表した。

注目すべきは、新たな発電設備を建設・運転した際の1kW時当たりのコストに加え、総発電設備容量に占める変動再生可能エネルギー比率が4、5、6割の3ケースについて、統合コストの一部を考慮し算出していることだ。

それによると、事業用太陽光のコストは「4割」のケースで15・3円と全ての電源の中で最も安くなるが、5割を超えると原子力、LNGよりも高くなる。電力システム内に変動再エネが増加するほど、火力の効率的運転が困難となり燃料使用量が増加するためだという。

再エネのコストは安いのか?

一方、21年度に試算した30年度の試算では、コスト優位性が高かったLNGにはCO2対策費を反映。これにより、専焼で20・2~22・2円、水素10%混焼で20・9~23円と、原子力の16・4~18・9円よりもコスト高になるとの結果が示された。

こうした情報が出ると、ともすると世間では電源間の優位性を巡る議論に陥りがちだ。だが、この試算が示すのはあくまでも一定の前提を置いた上での経済性という一面に過ぎない。電力システム全体で安定供給性、環境性をいかに追求するべきかという視点を持ち、今後の政策議論を見守る必要がある。

NUMOの展示が子どもに大人気 核廃棄物の地層処分を考える契機に


【エコプロ2024】

日本経済新聞社は2024年12月4~6日、東京ビッグサイトで日本最大級の環境展示会「エコプロ2024」を開催した。

持続可能な開発目標(SDGs)達成に取り組む企業や団体の展示が目白押しで、小・中学校の課外学習の現場としても人気を博した。

NUMOのブースには4000人以上が来場した
提供:NUMO

原子力発電環境整備機構(NUMO)は2年連続で出展。使用済み燃料の高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定を巡っては、11月に北海道寿都町と神恵内村で実施した文献調査の報告書を関係自治体に提出したばかり。現在、報告書の説明会が道内で行われている。次のステップである概要調査に進むには、2町村だけでなく北海道知事の同意が必要となるが、鍵となるのは「国民の理解醸成」だ。今回の展示会はその好機となった。

各展示では、紹介する取り組みがSDGsの何番に該当するかが示されている。例えば12番の「つくる責任つかう責任」はNUMOの取り組みにぴったりとマッチ。9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、11番の「住み続けられるまちづくりを」の実現も目指している。


VRでオンカロに潜入 想像以上の広さにびっくり

NUMOの展示では、地層処分の基礎知識や国内外の最新情報をクイズ形式で説明。分かりやすいイラストや展示車「ジオ・ラボ号」での解説も好評だった。特に人気だったのは、24年8月に試験操業を開始したフィンランドの最終処分場「オンカロ」の中を探索できる仮想現実(VR)ゴーグル。体験者からは「思ったより広くてびっくりした」といった声が上がった。

特に力を入れたのが、国内の調査状況を伝えるコーナーだ。地層処分に関する地域の科学的特性を色分けしたマップの展示では、来場者が自分の住んでいる地域が適地なのかを確認。また寿都町と神恵内村での文献調査の結果やそれを取り巻く北海道の状況を、大きなパネルで解説した。

来場者から多く聞かれたのは「みんなで考えなければならない問題だと思った」という感想だ。「北海道に押し付けるのではなく、大都市の人こそ考えるべきではないか」(中学生)―。選定プロセス進展のためには、こうした意識の広がりが欠かせない。

NUMOの展示には3日間で4000人以上が来場した。そのうち、小学生から高校生までの次世代層は3000人超。伊藤友宣広報部長は、「来場者が地層処分を自分事として考える機会となったのではないか。出展した意義は大きく、手応えを感じている」と力強く語った。

「トランプ2・0」で世界激震 日本は脱炭素分野の好機逃すな


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説委員

各国のエネルギー・環境政策を揺るがしそうな第二次トランプ政権。

日本は潮目を踏まえた賢明な脱炭素対策で発言力を高めるべきだ。

①米国の石油・天然ガスプロジェクトを停滞させている政府の制限を全て撤廃、②バイデン政権下で実施された自動車の排ガス規制の強化など車産業の発展を妨げる規制を撤廃、③(米民主党の)過激な左派が掲げるグリーン・ニューディール政策に反対―。

トランプ次期米大統領の公約集「アジェンダ47」は、民主党のバイデン政権による脱炭素政策をことごとく覆す内容だ。米議会も与党・共和党が上下両院多数を占める「トリプルレッド」を追い風に、「化石燃料回帰」にまい進する構えだ。

第二次政権は、新設の国家エネルギー会議議長に石油産出地であるノースダコタ州知事を、エネルギー長官には油田開発サービス会社トップを、それぞれ起用するなど、石油・天然ガス重視の姿勢を鮮明にしている。「ドリル、ベイビー、ドリル!(掘って掘って掘りまくれ!)」と連呼するトランプ氏は、バイデン政権時代の米国産液化天然ガス(LNG)の輸出許可停止措置も打ち切る考えだ。

見逃せないのは、この政策大転換が「気候変動はでまかせだ」とするトランプ氏の心情を反映するだけでなく、通商政策や外交・安全保障政策とも密接に絡んでいることだ。

アンモニア利用が進む日本の火力発電所


バイデン政権から大転換 ディール外交とも連動

「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ氏は、国内産業の保護を理由に中国だけでなく、同盟国の日欧にも追加関税を課す方針を打ち出す。ただ、輸入品全てを米企業が代替供給できるわけではなく、トランプ氏が毛嫌いする貿易赤字の解消にどこまでつながるかは不透明だ。追加関税分が最終価格に転嫁されれば、米消費者の負担が増し、インフレ圧力を再燃させるリスクもある。

そこで登場するのが、お得意の「ディール」だ。日欧などに追加関税を減免する代わりに、米国製品を大量に買うように迫ることが予想される。取引額の大きい石油・天然ガスの輸出拡大はディールの柱となるだろう。米エネルギー業界を潤し、貿易赤字の削減効果も大きい。シェール革命で世界最大の産油・産ガス国となった米国の「エネルギー・ドミナンス」を強化し、外交・安全保障上の影響力を高めることにも役立つ。

日欧にとって必ずしも悪い話ではない。日本は、地政学的緊張が高まる中東への化石燃料の依存度を下げたいのが本音だ。欧州は、ウクライナ侵攻を続けるロシアへのガス依存脱却を急いでいる。いずれも大口の代替調達先は、米国をおいて他にない。「予測不可能」なトランプ流に注意すべきだが、米国産石油・ガス輸入拡大で追加関税を交わせるなら「渡りに船」(経済産業省筋)とも言える。

一方、気候変動問題に対する国際的な機運は後退しそうだ。

トランプ氏は2025年1月20日の大統領就任早々、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」からの離脱を表明する方針だ。「米国第一主義」を掲げ、何事も損得勘定が先立つ同氏にとって「産業革命以来の排出責任」を理由に50年までのカーボン・ニュートラルを押し付けられた上、途上国の脱炭素化への資金拠出まで求められる国際公約は許せない存在なのだろう。

パリ協定の枠組み自体は残るが、世界第2位の温暖化ガス排出国の退場で、地球の気温上昇を産業革命前から1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成は一層危うくなる。気候変動対策に熱心なバイデン政権と協調し大幅な排出削減の必要性を訴えてきた欧州は、環境外交で主導権を失うことを懸念する。

パリ協定を漂流させないよう国際協調の立て直しが迫られる局面だが、日本には発言力を高めるチャンスとも言える。再生可能エネルギーや原発の活用が停滞する日本は石炭など火力依存度が高く、G7(主要7カ国)首脳会議などで米欧の挟み撃ちに遭い、批判の矢面に立たされてきた。仮に米国でグリーン志向が強い民主党政権が続けば、米欧主導で過度に厳しい排出削減ルールを課せられ、電力の安定供給や産業競争力を脅かされる恐れがあった。

だが、今後は米国の離脱がゲームチェンジャーとなり、地球温暖化防止国際会議(COP)で、欧州の発言力は低下する。一方で最大の排出国の中国を含むグローバル・サウスの影響力が高まると見られる。脱炭素一辺倒の欧州流の上から目線の排出削減圧力は弱まり、途上国の成長にも配慮した現実的な脱炭素対策が求められそうだ。そうなれば、日本が国際的なルールづくりに積極的に関与できる好機となる。


ASEANとの連携強化 幅広い協力で利益追求を

カギとなるのは世界の成長センターで、日本と同様に火力依存度が高い東南アジア諸国との連携強化だ。岸田文雄前政権は昨年、東南アジア諸国連合(ASEAN)9カ国などと、各国の事情に応じた多様な道筋で脱炭素を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を立ち上げた。

日本が省エネ・脱炭素技術や、人材育成、ファイナンスなどを支援するのが柱だが、これにとどまっては意味がない。官民あげて日・ASEAN双方の利益となる脱炭素のバリューチェーンを構築することが求められる。

東南アジアが持つ森林吸収源やバイオマスなどの自然資本の利活用、二酸化炭素(CO2)を貯留する地下資源の開発、アンモニアなど脱炭素燃料の製造、エネルギー転換期に必須のLNGの安定調達、電気自動車(EV)に不可欠な鉱物資源の確保など、あらゆる分野で協力を深めるべきだ。環境分野で世界の覇権を目指す中国もASEANに接近しており、日本の外交戦略が問われる。

トランプ2・0とは裏腹に、米国を含めた世界の産業界や市場が脱炭素に向かう大きな流れは変わらない。日本がASEANなどを味方に付け、気候変動対策で実効性ある処方箋を示せれば、国益と地球益の双方にかなうはずだ。

【覆面ホンネ座談会】エネ業界の行く年来る年 局面変わり波乱の幕開けか


テーマ:2024年の振り返りと25年の展望

能登半島地震で幕を開けた2024年。時代が動くとされる「甲辰年」が表す通り、さまざまな転機があった。続く25年は「乙巳年」。成長や再生が暗示される中、電力・ガス・石油業界関係者はそれぞれどう展望するのか。

〈出席者〉A電力関係者 Bガス関係者 C石油関係者

―本座談会は24年12月第2週に開催。エネルギー基本計画の案が明らかになる前だが、これまでの議論の受け止め、そして期待や注文から聞いていきたい。

A 第6次以降の情勢変化を踏まえ、第7次は現実的な議論になってきている。原子力の扱いが前向きになり、ガス火力の役割もきちんと位置付けられそう。一方、前回は水素やCCS(CO2分離・回収)は実装に向けてやや踏み込んだ数字を示したが、この点も後ろ向きではないにせよ、高価格の見通しなどを踏まえた現実的な書きぶりになるのではないか。また、30年の再生可能エネルギーや原子力の数字は据え置き、6割がカーボンニュートラル(CN)との立て付けだが、そこに至る具体的な道筋がぼやっとしたままだ。30年目標を変えないのならば、送電網強化など先々の話だけでなく、短・中期の対策をより具体化すべきだ。蓄電池のさらなる導入促進などの議論がもう少しあっていい。

「甲辰年」→「乙巳年」でエネルギー業界は上向くのか

B 数字的にはNDC(国別目標)の35年60%削減が既定路線だが、CNへのスタンスは変化した。ガス業界にとっては、エネ基策定では原子力と電化の推進ばかりにフォーカスされ、ガスの存在意義を確保することに苦労してきた。翻って今回は、長くなりそうなトランジション期におけるLNGの重要性、そしてe―メタンの位置付けがしっかり描かれるはずだ。過去より良い内容になると受け止めている。ガス体エネルギーという意味では、水素については豪州のプロジェクトからの撤退が出るなど、何度目かの尻すぼみの気配が漂う。一方、e―メタンは30年1%を踏襲しつつ、北米のプロジェクトなどで25年度に重要な意思決定が控えている。e―メタンに加え、バイオメタンでも水素でもあらゆる技術で気体燃料のCN化を目指す、という書き方になれば良い方向に向かい、この点は役所と思惑が一致している。

C ロシア・ウクライナ戦争でエネルギーセキュリティの重要性が表に出て、脱炭素とのバランスには相当配慮されているが、石油的には今回のエネ基にも正直特筆すべき点はない。ただ、脱炭素が達成された後も石油の需要は残り続けるという観点で、サプライチェーンに目配りされるようになったことは評価できる。業界的に一番期待するのは技術開発への政府支援。そして、セットで示される「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」が重要な指針となる。エネルギー転換が起きるなら産業構造の転換も不可避で、勝ち組、負け組が出てくるからだ。その意味で、グリーン政策を環境省から経産省が主導するようになったことは意味がある。


業界がそれぞれ選出 「24年の漢字」と「流行語」

―清水寺で発表された24年の漢字は「金」だが、業界ごとの漢字を挙げるなら?また、それぞれの流行語大賞は?

C 石油業界の漢字としては「断」を選んだ。海外では動乱が加速した一方、日本国内は燃料油補助金のおかげで静かなもので、国際市場と国内市場が完全に分断された。また、海外でもロシア・ウクライナ戦争に伴い、あるいは(温暖化防止国際会議)COP29の場で、先進国と途上国の分断がより鮮明化した。流行語大賞は「激変緩和」しかない。

A 電力で思い浮かべるのは「転」。さまざまな場面で転換する1~2年になりそうだ。

小売面では、市場が以前に比べ落ち着き、新電力シェアが下げ止まった。大型データセンター(DC)や半導体工場などによる需要増で、電力需要も上昇に転ずるとの見通しが示された。原子力では、BWR(沸騰水型炉)がようやく稼働に至り、第7次エネ基では現実的な議論が始まった。政治や金融政策も含め、次のステージに向かうと感じている。

流行語大賞は「想定外」。エネルギー業界が新たな局面を迎える中、「想定外」の事象が数多く発生した。まず、「酷暑」の夏で、10月まで残暑が続き、電力需要が増加。この長期間の暑さは「想定外」だった。さらに、これまで人口減や省エネの普及により予測されていた電力需要の減少が、増加予測に転じたこと。そして、24年は需給調整市場で全商品の取引が開始されたが、早々に全商品で調達量不足となったことも「想定外」だったのではないか。

B ガスは表面的には「凪」だった。ロシア産ガスの供給途絶や燃料価格高騰での右往左往がなくなり、価格の激変緩和も継続。環境対策ではe―メタンを巡り日本でCO2削減量をカウントできるルールが整理された。他方、大手事業者を中心に力点を置いたのは電気の話題ばかりだ。風力開発や系統用蓄電池事業など、バリューチェーンで電気を売ることが今後の経営の共通トレンドだが、インフレによる資材価格高騰もあり、しっかりとした経営の柱が出てこない。こうした動きを別の角度から見ると「焦」も当てはまるかも。

加えて、24年の後半はアクティビストに翻弄された。各社の経営は資本効率を重視する経営指標改善に、配当政策を重視してきたが、さらにエリオットや村上ファンドの動きで株価が急上昇した。故に流行語大賞は「アクティビスト」かな。

C 24年は円安の要素も大きかった。7年前、石油業界が再編した当時は国際競争力や海外製品の流入が懸念されたものだが、今の為替では円安が輸入障壁になり、流通が乱れない。補助金+円安で、元売りが国内市場を完全に押さえることができている。

国産SAFの製造設備が完成目前 25年度に航空会社への供給見込む


【コスモ石油】

コスモ石油の堺製油所(堺市)内で建設中の国産SAF(持続可能な航空燃料)の製造プラントが、完成を目前に控えている。同社は2024年11月22日、設備を報道陣に公開し、計画の進ちょくを説明。25年度初頭にも本格生産に乗り出す方針を明らかにした。実現すれば、国内初のプロジェクトとなり、国産SAF事業の行方を占う試金石として注目されている。

SAF製造を担うのは、コスモ石油のほか、日揮ホールディングス(HD)、廃食用油回収を手掛けるレボインターナショナルの3社が共同出資して設立した「サファイア・スカイ・エナジー」だ。コスモ石油が航空会社への販売を担当し、レボ社が一般家庭から出る「家庭系」と飲食店などからの「事業系」の2ルートで廃食用油の調達を担当。日揮HDはその原料調達を支援し、3社が連携して国内サプライチェーンを構築する。コスモ石油の髙田岳志次世代プロジェクト推進部長は「販売先は鋭意開拓できている」と、本格生産に向けた確かな手応えを語った。

年間約3万㎘の生産を見込む

プラントの製造能力は年間約3万㎘を見込み、製造過程ではバイオプラスチックの原料となるバイオナフサも副生される。回収した廃食用油を高温・高圧下で水素化処理する「HEFAプロセス」を採用しており、水素は同製油所内の既存設備からの供給で賄う。

廃食用油の受け入れ設備はタンク3基で計2000㎘の貯蔵が可能。既に完成し、試運転に向け国内各地から事業系廃食用油の搬入が始まっている。24年度内の試運転を経て、25年度初頭には各航空会社への国産SAFの供給を開始する予定だ。


府内に回収ボックス設置 空の脱炭素化に市民も協力

また同日には、コスモ石油、日揮HD、レボ社の3社と堺市が、家庭系廃食用油の資源化を促進するため、連携協定を締結した。市の協力の下、大阪府内のイオンモール5施設に常設の廃食用油回収ボックスを順次設置する。その第一弾としてこの日、イオンモール堺鉄砲町(堺市)に回収ボックスが設置され、早くも買い物客が油を持ち寄る姿が見られた。

国内では、家庭から年間約10万tもの廃食用油が排出されているが、そのうち約9割が廃棄している現状がある。これらを有効活用し、原料のサプライチェーンを強化する狙いだ。国産SAFプラントの稼働を機に、多くの生活者を巻き込んだ空の脱炭素化プロジェクトに期待がかかる。

米国がエタノール外交に躍起 虎視眈々とSAF覇権狙う


世界最大のトウモロコシ生産国で知られる米国が、穀物由来エタノールの輸出を拡大しようと躍起になっている。航空業界の脱炭素化を促すSAF(持続可能な航空燃料)向け原料として需要が膨らむ可能性を秘めているからだ。現地で関係者を取材すると、日本を含む各国バイオエタノール市場を開拓する意欲がにじみ出ていた。

「エネルギー・ドミナンス(優勢)」と声高に唱えてきたトランプ次期大統領。エタノール業界は第2次政権発足後もその路線を継承し、SAF生産企業向け税額控除などの支援策を維持することに期待感を示す。

エタノール混合ガソリンを販売するシカゴ近郊のガソリンスタンド

業界が輸出増に気を吐く理由は、エタノール生産能力が国内需要を上回り続けているからだ。ガソリンにエタノールを10%混ぜた自動車燃料「E10」の浸透などを追い風にエタノール生産量は年々増え、23年に世界の5割超を占める約600億ℓを達成。このうち約54億ℓを輸出に振り向けているが、それでも余力がある。原料となるトウモロコシの単収も右肩上がりだ。

エタノール生産団体のグロース・エナジーや再生可能燃料協会は「トウモロコシ由来エタノールの用途をSAFに広げたい」と意気込むが、一筋縄ではいかない。欧州連合(EU)で食料との競合を懸念する声が根強い中、SAF原料として輸出するために必要な国際民間航空機関(ICAO) からの認証を得られていないのだ。

エタノール産業の育成はトランプ支持が多い農家の支援につながる。次期政権のエタノール外交も世界のエネ政策を揺さぶりそうだ。

【イニシャルニュース 】法改正の盲点突く大手 LP競争は新局面に


法改正の盲点突く大手 LP競争は新局面に

液化石油ガス法改正の第一弾として、2024年7月にLPガス事業者による賃貸集合住宅オーナーなどへの契約獲得を目的とした過大な営業行為が禁止された。これを契機に、一時は切り替え競争の主戦場は戸建て住宅に。だが、ここにきて大手N社が首都圏のオーナー向けに新たな提案活動に乗り出し、業界関係者に不安が広がっている。

N社の提案は、ガス料金の低減による入居者メリットを訴求するとともに、オーナーに対しては1戸当たり5万5000円の紹介料支払いのほか、既存ガス会社との残存精算や住宅設備費用などについても「ギリギリの有償販売と金銭的供与の抱き合わせで必ずしも脱法ではない。むしろ正攻法」(業界関係者のK氏)なものになっている。

業界関係者が頭を抱えているのは、提案されている料金だ。基本料金が1500円で、従量料金が10㎥までは1㎥当たり300円、それを超えた場合は250円。中堅以下の事業者にとっては、とても太刀打ちできる水準ではない。

とはいえ、競争上、首都圏の他の事業者も同様の対抗措置を講じるほかなく、そうなれば資本力のない中小は多くの供給先を失うことになるかもしれない。

N社は、営業提案に関する資料を資源エネルギー庁に持ち込み、この戦法に行政のお墨付きを得ようとしているようだ。「法改正の盲点をうまく突き、自社にとって有利な競争市場を醸成しようとしている」(前出のK氏)。25年もLPガス業界にとっては波乱含みの1年となりそうだ。

大手LP攻勢に中小は戦々恐々


エネ政策でブレーン不在 石破政権の不安材料

「石破茂首相の周りに、エネルギー問題を分かる人がいない。心配している」。落選した自民党有力議員のコメントだ。与党が24年10月の総選挙で過半数割れし、政治基盤が脆弱になった石破政権に対して、このような懸念が出ている。

もともと自民党の旧安倍派には経産省出身議員、原子力立地県の議員が多かった。ところが、いわゆる「裏金問題」と石破氏自らの安倍派潰しと言える行動で、同派の有力議員が軒並み落選するか、党籍を離れてしまった。そもそも石破氏は官界にも政界にも「あまり人脈がない」(同)。

かつて環境相を務めたK氏は石破氏の側近だったが、今は政界引退。また経産相などを務めた衆議院議員S氏も、21年に石破氏の派閥の水月会を離れ、「関係が修復されていない」(関係筋)という。

石破首相はエネルギー問題に関心がないため、官界、学界にもブレーンがいない。ただし「岸田政権で強かった経産省の影響力は薄らぐ」(同)と見られている。

石破首相は10月に岸田政権の打ち出したGX実行会議を開催し、その政策を継続することを表明した。24年度はGXの具体化、さらにはエネルギー基本計画という重要な政治決断が控えるが、「首相は政権運営が大変で、エネルギー面で石破色を出す余裕はなさそう」(同)との見方がある。

規制と支援がGX戦略の要諦 脱炭素と成長の二兎を追う


【巻頭インタビュー】重竹尚基/GX推進機構 専務理事

GX推進法に基づく経済産業相の認可法人として発足したGX推進機構。

脱炭素と産業競争力強化の両立へ同機構が果たす役割とは。

しげたけ・なおき 早稲田大学政治経済学部卒。シカゴ大学経営学修士(MBA)。三井物産を経て1992年ボストン コンサルティング グループに入社。ロンドン勤務などを経て2024年6月まで同社マネージング・ディレクター&シニア・パートナー。同年6月~GX推進機構COO。

―2024年7月の業務開始から5カ月。振り返ってみていかがですか。

重竹 「脱炭素」と「産業競争力強化・経済成長」を同時達成するというGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の実現に向け、民間金融機関では取り切れないリスクを取った金融支援を通じ今後10年間で官民合わせて150兆円超のGX投資を呼び込むことが、当機構の一丁目一番地の役割です。全国の事業者、金融機関などから具体的な相談が次々と来ており、GXへの期待を実感しています。

行政機関から3分の1、残りは金融機関など民間からという職員構成で、当初は「寄せ集め」になってしまわないかと危ぐしましたが全くの杞憂で、各自が得意技を生かしモチベーション高く業務に取り組んでいます。当初は法律に基づく大きな立て付けがあるだけで、ほぼスタートアップ企業のような状態でした。具体的なルールや組織マネジメントに必要な規定などを整備しつつ、一方でGX案件の議論を進めるという二つの流れを同時に進めることはチャレンジングでした。ようやく巡航速度に持ってくることができたのもその頑張りのおかげです。

―日本のGX戦略の中核を担うことへの意気込み。また、課題認識を教えてください。

重竹 当機構は、GX戦略推進のドライビングフォースです。GX投資への金融支援、そして排出量取引などのカーボンプライシング(CP)制度の運営の二つがGX推進法で規定された法定業務であり、これに加えてGXハブとしての戦略機能を有します。戦略を実現するための案件をプロアクティブに探しに行く、そして創りに行く。単独企業で成り立つ案件は少なく、複数企業間や官民、地域の間の連携をサポートしていきます。

課題は、GX市場を創造できるかです。特にCO2排出削減が困難な素材産業などは膨大な投資を必要とし、政府支援や自助努力だけではすぐにコスト増を吸収しきれません。ですが、日本の商慣習や輸入品との競争の観点から簡単に価格転嫁することもできません。だからこそ、需要サイドを巻き込んだ規制や支援が不可欠なのです。これについては現在、GX実行会議で議論されている「GX2040ビジョン」の中でも大きな検討項目の一つとなっています。

―金融支援に向け、産業技術総合研究所と提携しました。

重竹 GX実現には既存技術の導入拡大に加え、産総研が研究開発してきたような新技術を早期に社会実装する必要があります。産総研は学術的な研究開発と、その活用に向けた実装をつなぐ視点での研究開発を行っており、複数の技術オプションがある場合に中立な立場で評価することができます。この二点において、極めて頼もしいパートナーだと考えています。他の研究機関とも連携を深め、金融支援機能を強化していきます。