【需要家】再エネ拡大に対策広まる DR機能は評価対象に


【業界スクランブル/需要家】

再エネ大量導入・次世代電力NW小委で取りまとめた「再エネ出力制御対策パッケージ」では、需要側の対策として「ヒートポンプ給湯機等の導入による需要創出・シフトおよびDRレディ化」が挙げられている。再エネ電力比率拡大に備えて、需要側の調整能力向上は必須であり、省エネ小委でもエコキュートのDRレディ検討状況が報告されている状況にある。

EUでも、DR制御などの拡大の必要性は認識されており、約2年前の「建築物のエネルギー性能指令改正案」に反映していた。本指令は欧州議会の承認を経て、今年4月に欧州理事会で成立している。内容は、欧州の最終エネ消費の40%を占める建築物を脱炭素化するために、新築建物は2030年、既存建物は50年までにゼロエミ建物(建物敷地内で化石燃料消費がなく、運用時のCO2排出量がほぼゼロの省エネ建物)とする指令である。このゼロエミ建物定義に蓄電や蓄熱などのデマンドフレキシビリティ機能が含まれており、スマートレディネス指標により需要調整性能が評価されるスキームとなっている。

米国カリフォルニア州では、再エネ電源比率が高いこともあり、新築非住宅建物へのDR導入が義務化されている。また、米国発の国際建物評価基準であるLEEDにおいても、DR機能は評価項目となっている。

需要側でのDR機能普及には新築時や設備更新時が効果的であることを考慮すると、機器へのDRレディ機能標準化だけでなく、建物側の規制や制度(ZEH、ZEBの評価など)にもDR機能促進策を組み込む普及対策にも着手すべきである。(S)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年6月号)


余力活用契約の仕組みと役割/CO2カウントルールの目的と課題

Q 容量市場における余力活用契約とはどんな仕組みですか?

A 余力活用とは、発電事業者などが提出する発電計画に対して、計画に支障を与えない範囲で出力の運用上限~運用下限の間を調整力として使用することです。昨年度まで一般送配電事業者は、周波数調整・需給バランス調整、系統運用などを目的として、電源Ⅱなどの契約に基づきゲートクローズ後の余力を活用していました。今年度以降、容量市場の開設にあわせて、電源Ⅱなどの公募契約を廃止し、発電事業者などと送配電事業者で「余力活用に関する契約」を締結しています。

なお、容量市場への参入にあたり、安定電源で調整機能を有する電源などは、余力活用に関する契約締結がリクワイアメントとされています。周波数調整・需給バランス調整に必要な調整力は、需給調整市場から調達することとしていますが、調整力が不足する場合は、余力活用契約からも供出することとしており、セーフティネットの役割を担っています。余力活用を契約するリソースについては、需給調整市場の商品相当の調整力、電圧調整、潮流調整などに関する提供可能な機能を供出していただき、余力活用により発生した対価を精算します。また、需給調整の際には、メリットオーダー順に活用する運用を行っています。広域需給調整システムを用いて、需給調整市場で調達した調整力に余力活用分を加えてエリアを跨いだ9エリアで価格の安い順に調整力を融通して広域メリットオーダーを実現しています。

このように、余力を調整力として広域的に有効活用することで、社会コストの低減、より効率的で安定した需給調整と系統運用、需要急増などにおける緊急時における安定供給を実現し、コストと安定供給の両立を図るべく運用しています。

回答者:伊佐治 圭介/送配電網協議会 電力技術部長


Q 合成メタンの普及拡大に伴いCO2カウントルールが導入された目的を教えてください。

A 炭素制約が強まる中、日本のエネルギー企業も排出削減対策に取り組んでいますが、合成メタンもその一つです。合成メタンの導入は熱需要の脱炭素化、エネルギー調達多様化によるエネ安保への貢献などの狙いが期待されています。他方、パリ協定の下では全ての国が国別目標を設定し、排出量を管理するため、合成メタンの普及拡大には、そのCO2削減効果の帰属に関する国レベルのCO2カウントルールの整備が不可欠です。

CO2カウントに関する二国間ルールとしては既にパリ協定6条2項(二国間クレジット制度などの協力的アプロ―チ)や6条4項(京都議定書のクリーン開発メカニズムの後継となる国連管理メカニズム)があります。加えて合成メタン製造国と日本の相対交渉による新規ルールの合意も選択肢となります。相対交渉による新規ルールとしては、合成メタン燃焼時のCO2排出量を消費国側ではなく、合成メタン製造国側でカウントするという二国間ルールの合意や、合成メタン製造国が発行したCO2回収証書を日本へ移転することで、合成メタン燃焼時の排出量をオフセットにする削減成果の移転などが挙げられます。

これらはもとより課題が多く、6条4項は国連管理となるため、二国間合意に比して煩雑な手続きが必要です。カウントルールの二国間合意、CO2回収証書による成果移転については合成メタン製造国において、CO2回収のインセンティブをどう確保するかが課題となってくる上に、CO2回収証書を設ける場合は、その運用・管理ルールも必要となってきます。合成メタンの海外プロジェクト展開のためにはこれらの点を明確にする必要があり、早急な検討が望まれます。

回答者:有馬 純/東京大学公共政策大学院 特任教授

【マーケット情報/6月21日】原油続伸、需給引き締まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。中東情勢の悪化による供給懸念、および米国からの需要が増加するとの観測を背景に、買いが強まった。

武装集団フーシ派による、紅海を走行する攻撃は激化。ばら積み貨物船が2隻沈没させられている。これを受け、米英も2月初旬以降初めて空爆で反撃しており、情勢悪化にともなう供給不安が一段と強まった。

また、石油消費大国である米国の在庫が減少したことも、国内需要の強さを示し、需給引き締まりを意識させた。米国では独立記念日を前にドライブシーズンが始まっており、今後ガソリンを中心に需要はさらに伸びることが予想されている。

ただ、米国の経済指標は依然としてインフレ加速を示唆。利下げには時間を要するとの見方が上昇を幾分か抑制した。


【6月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.73ドル(前週比2.28ドル高)、ブレント先物(ICE)=85.24ドル(前週比2.62ドル高)、オマーン先物(DME)=84.78ドル(前週比2.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.90ドル(前週比2.73ドル高)

【再エネ】期待かかるペロブスカイト 商用化の正念場


【業界スクランブル/再エネ】

2030年度の再エネ比率36~38%の目標に対して、現状では再エネに原子力を加えた脱炭素電源比率が4割を超えるのは、北海道、九州、関西エリアの3カ所のみだ。そもそも既存技術で導入できる再エネの適地は限られ、新たな技術開発を進めない限り目標の達成は難しい。

その新たな技術として注目されているのが、ペロブスカイト太陽電池である。従来のシリコン系太陽光パネルに比べて厚さは100分の1、重さは10分の1と薄くて軽い上、柔軟性に優れているのが特徴で、従来型では設置が困難なビルの壁面や曲面の屋根にも設置ができる。加えて、材料を塗布・印刷できることや、原料に高価な貴金属などを使わず、ヨウ化鉛など比較的手に入りやすい素材で製造できることも特徴だ。技術課題である発電効率は大幅に向上しており、従来型と比較して遜色ないレベルまで近づきつつある。

もともとペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が発見した日本発の技術であり、日本政府は25年の社会実装を見据えて、多額の補助金で開発を後押ししてきた。しかし昨今、欧米や中国などにおいても開発が急速に進展しており、特許出願件数では中国や韓国に大幅に遅れをとるなど、商用化に向けて海外が先行していると言わざるを得ない状況だ。 太陽光電池の製造は8割が中国に集中しており、風力発電設備の製造は欧州に集中するなど、国民が再エネに支払う料金は海外に流出しているのが実態である。本当の意味での地産地消を実現するために、日本はペロブスカイト太陽電池の商用化に向けて正念場を迎えている。(K)

AIで室内に人工の生態系を創出 経済と生物多様性の両立目指す


【エネルギービジネスのリーダー達】髙倉葉太/イノカ代表取締役CEO

人工の生態系を室内に再現する独自技術で自然環境の保全・研究・教育を手掛けている。

経済活動と生物多様性の両立は可能だとの信念のもと、自然界の循環の最適化を目指す。

たかくら・ようた 東京大学工学部を卒業、同大院暦本純一研究室で機械学習を用いた楽器の練習支援の研究を行う。2019年4月にイノカを設立。サンゴ礁生態系を都心に再現する独自の「環境移送技術」を活用し、大企業と協同でサンゴ礁生態系の保全・研究・教育を行っている。

サンゴ礁をはじめとする海洋生態系を室内空間に再現する「環境移送技術」を活用し、さまざまな企業と連携しながら自然環境の保全・研究・教育を手掛けるイノカ(INNOQUA)。2019年に同社を立ち上げたのが、当時、大学院を卒業したばかりだった髙倉葉太代表取締役CEOだ。


海洋環境を水槽に再現 企業の環境保全活動支援

「環境移送技術」とは、海洋環境を自然に近い形で水槽内に再現する同社の独自技術。水質や水温、水流、照明環境、微生物を含む生物同士の関係性など、多岐に渡るパラメーターをAI/IoTデバイスで制御することで、任意の環境をモデル化し水槽内に再現することができる。

実際の海で行う調査や研究では、天候などのちょっとした変化で有用なデータが取れなくなってしまう。そこでイノカは環境移送技術を活用し、海の環境を再現した槽内でさまざまな実験を行う「海洋治験サービス」を企業に提供している。

例えば大手化粧品メーカーの資生堂とは、日焼け止めクリームがサンゴに与える影響を調査している。生態系に悪影響を与えない製品を開発できれば、生態系を守るだけではなく企業のブランド力向上にもつながる。また、22年2月には、創業当初から取り組んできたサンゴの人工産卵実験に成功した。自然界でのサンゴの産卵時期は5~6月だが、環境移送技術により冬季の産卵に成功したのは世界初だという。

社名のイノカには、「アクアリウムをイノベートする」という意味がある。同社で働く14人は、エンジニアや再生医療の専門家、水族館でイルカショーに出演していたエンターテイナーなど得意分野はばらばらだが、唯一の共通点が大の生き物好きだということ。髙倉氏自身も、父親の影響で中学生のころから自宅の水槽で熱帯魚やエビなどさまざまな生物を飼育することに熱中していた、自他ともに認める生き物好きだ。

大学院時代はAIの研究に携わっていたが、17年に同社の「チーフ・アクアリウム・オフィサー(CAO)」を務める増田直記氏と出会ったことが起業の大きなきっかけに。そのころアメリカでは、サンゴからがんの治療薬を開発する研究が行われており、研究者と増田氏のような海洋環境を再現できるアクアリストをつなぐことで、医薬品開発などを後押しできるのではないかと考えた。

当初は、環境教育プログラムと一体で水槽をショッピングセンターなどに設置することを主な事業としていたが、20年7月にインド洋モーリシャス島沖で発生したばら積み貨物船「WAKASHIO」の座礁事故が転機となる。重油の流出でマングローブ林やサンゴ礁をはじめ、貴重で豊かな海生生物が生息する生態系への影響が懸念された中、サンゴ礁への知見を生かし、同地の自然環境を保護し、回復させるプロジェクトに参画することになったのだ。

その翌年には、国連主導でTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、これを契機に上場企業が自然に関連する財務リスクや、事業活動が自然に対して与える影響を開示することに力を入れ始めたことが追い風ともなり、生態系保全の領域でパイオニア的な存在として成長し続けてきた。


自然界の循環を最適化 海外での技術応用も視野

既に2期連続で黒字を達成し、経営が軌道に乗り始めたとはいえ、今はまだいろいろな取り組みが実証実験段階である上に、ビジネスを展開するマーケットの規模も長期的な視点で冷静に促える必要があると見ている。

「僕らが携わったからこそ、この海が守られ、地域の自然も人も豊かになったと言われるよう取り組んでいきたい」(髙倉氏)と言い、自然にも地域経済にもきちんとリターンを返すことでサステナブルなビジネスとして確立していくことが、当面の目標だ。現在は、国内のフィールドを対象にした活動がメインだが、将来は東南アジアなど海外でも同社の技術を応用していく方針だ。

今、地球温暖化に伴う海水温の上昇などにより、水生生物の生活を支えるサンゴ礁や藻場、マングローブなどが消失の危機にあり生態系にもたらす影響は計り知れない。これは、人間の経済活動により自然環境のバランスが崩れてしまった結果だ。

「大事なことは、難しく考えて〝ワンイシュー〟にしてしまわないこと。生態系の循環を最適化することができれば、人間の経済活動と脱炭素化・生物多様性を両立させ持続可能な社会を取り戻せる。元々自然とうまく付き合ってきた日本人だからこそ、その活路を開けるはずだ」と、目指すべき未来を見据えている。

【火力】ゆがむ容量市場に危機感 正しい理解必須


【業界スクランブル/火力】

容量市場は、電力の安定供給のために必要な電源を確保する仕組みだ。今年度から実需給期間となり、それに伴い容量拠出金の支払いが始まっているが、世間に仕組みの正しい理解が広まっていないことに危機感を抱いている。

全国紙の記事によると、新電力の中で拠出金の負担を電気料金に転嫁する動きが広がりつつある一方で、発電設備を有する大手電力には転嫁の動きが見られない。これは不公平であり、市場競争を歪めるものであるとしている。

大手電力と一部の新電力の対応が異なっているのは事実だが、実態はこの記事から受ける印象とは真逆なものである。そもそも、電力量を取引する卸電力市場において、価格スパイクを抑制すれば固定費の一部を回収できなくなるミッシングマネーの問題があり、それを小売事業者や送配電事業者に公平に負担してもらおうというのが容量市場だ。今般、小売事業者が容量拠出金により負担が増えると訴えるのは、供給力確保の義務があるにもかかわらず本来負担すべき設備費の一部を免れ、大手電力の電源にただ乗りしてきたことを自ら認めていることにほかならない。

新電力もその点は理解していると思うが、記事で内閣府のタスクフォースメンバーが拠出金を大手電力への補助金であるとコメントしている点は看過できるものではない。 自由化前に建設された発電所であっても、設備の維持には修繕費や改良費などがこれから必要で、費用を回収できなければ退出を考えざるを得ない。設備を安定確保するための容量市場が、むしろ供給力不足を招くという皮肉が現実になりつつある。(N)

5年連続の黒字経営を実現 地域密着で価格以外の価値追求


【事業者探訪】ところざわ未来電力

ところざわ未来電力は設立から一貫して地域密着で低炭素電気の安定供給を重視する。

黒字経営が続き、さらに経営方針に需要家のニーズがマッチしてきたと実感している。

電力自由化を契機に地域新電力が各地に誕生した。ただここ数年、国内の電力市場価格のスパイクや世界的なエネルギー資源価格の高騰で、経営の岐路に立つ新電力は少なくない。そうした中、埼玉県所沢市が中心となり設立したところざわ未来電力は、設立から5年連続で黒字を確保。その経営や事業にはどんな特徴があるのだろうか。

同社は所沢市が50%超を出資し、JFEエンジニアリング、飯能信用金庫、所沢商工会議所も出資して2018年に発足した。きっかけは、11年の東日本大震災の経験からエネルギーの安定供給の在り方を見つめ直したことだ。市は14年に「マチごとエコタウン所沢構想」を策定。有限なエネルギー資源に過度に依存しないライフスタイルへの転換を目指した。

副市長で同社代表の中村俊明氏は「電源立地地域の取り組みの上に都会の利便性が成り立っていると痛感した。地域の再生可能エネルギーの普及とエネルギーコスト削減を進めるため、『エネルギーで支える地域のくらしと地球の未来』を経営理念として掲げ、新電力を立ち上げた」と振り返る。

中村俊明代表


価格ヘッジスキームが奏功 再エネと未利用エネが柱

地産電源として、メガソーラー所沢やフロートソーラー所沢、さらにFIT(固定価格買い取り制度)ではないソーラーシェアリングや東部クリーンセンターでのごみ焼却熱発電などを活用する。もともと同センターをJFEエンジが委託管理していたことや、環境負荷の少ない電源を多く保有していたため、同社が新電力経営に参画した。併せて、JFEグループで地域新電力支援を手掛けるアーバンエナジーを介し、同社の契約発電所からの相対調達も行う。

ところざわ未来電力の電源構成は、日本卸電力取引所(JEPX)への依存度が低い点が特徴だ。清掃工場が72%、次いで太陽光14%、そのほかが14%。なお清掃工場のうち、45%が再エネの廃棄物バイオマス、27%が未利用エネルギーとなる。さらにアーバンエナジーが提供する市場連動のFIT電力を含む全調達電力を対象とした価格ヘッジスキームが、安定経営につながっている。「市場価格が安い時期は思うところもあったが、今となっては安値より価格の安定化を重視し続けてきて良かった」(中村氏)

ところざわ未来電力では再エネ+未利用エネ比率が86%と目標を上回り、市内地産地消比率20%という目標もクリア。また23年度のCO2排出係数が1kW時当たり0・28㎏と、30年のNDC(国別削減目標)に近い水準を実現している。

地産電源の一つ「フロートソーラー所沢」

【原子力】日本の原発輸出は? ウクライナからのシグナル


【業界スクランブル/原子力】

本稿掲載時点のウクライナ情勢は不明だが、15基のロシア製原発の取替燃料を全てウェスチングハウス(WH)社製に切り替え、さらに9基のWH製AP―1000新規建設を契約して脱ロシアを進めるウクライナは2月、まずフメルニッキ3、4号機の完成と5、6号機の新設を表明した。

この際、同国のエネルギー相は「原発の拡大と電力の安定供給のために日本企業と協力する」と述べたと報道されたが、これは何を意味するだろうか。PWRメーカーの三菱重工はWHとの関係が切れており、参画できまい。

またウクライナはロシアへの使用済燃料搬出をやめ、乾式中間貯蔵施設の建設を委ねた米ホルテックと4月、SMR300導入の覚書を結んだ。このSMRの計装制御系は三菱電機が納入するが、SMRが本当にウクライナで建設されるだろうか。同国の将来にとって西欧への電力輸出、復興資金獲得が重要で、大型炉を必要とするはずである。

ウクライナは米国依存だが、日本の原発輸出に可能性がない訳ではあるまい。格安だが中露は呼ばれず、競争相手は欧米だが円安で日本が有利。政府も公的支援で支えるだろう。しかし三菱重工は海外で蒸気発生器や圧力容器上蓋の取替など多数の機器納入を誇るが新設でなく目立たない。 英国では日立が撤退したホライズンプロジェクトの用地が売られ、新たなSMR計画に応札するのは米国のGE日立であり日本の日立GEではない。韓国はUAEでの成功以来あちこちで顔を見せる。日本のメーカーはもはや弱小なら統合して1社にし、技術の結集によるコスト削減を目指すしかないか。(H)

サステナブルな建築求める声 32年五輪の構想考える


【リレーコラム】井上郁美/豪州建築設計事務所Buchan取締役日建設計ベトナム社長

日建設計は、オーストラリアの建築設計事務所バカンと業務提携をしてから9年目になる。豪州、日本といったホームベースだけではなく、中東、インド、中国などで協働して都市計画や建築設計のプロジェクトに取り組んできた。現在、一番両社が切望しているのは2032年にブリスベンで開催される五輪・パラリンピックの競技施設の計画・設計に携わることである。翻って20年東京五輪・パラリンピックでは体操や新体操、トランポリン、ボッチャの競技会場となった「有明体操競技場」を日建設計と清水建設とで設計した。その最大の特徴は、建物各所に多岐にわたり木材を利用していることだ。これは立候補ファイルにて謳われた「施設の木質化」「サステナビリティ」を積極的に具現化したものであり、かつて貯木場であったこの土地の記憶を表出させたものでもあった。環境に優しい木材をふんだんに使ったという特徴もさることながら、同じくらい大切だったのは大会のレガシーとして残る施設を開催後にどのように利用するかであった。有明の施設は大会後に仮設の客席部分などを撤去し、一部改修された後に展示場として長く利用されることを前提に設計された。現在は、有明GYM―EX(ジメックス)と改名して稼働している。


異分野のエキスパートとの連携が鍵

森林資源の豊富な豪クイーンズランド州でも、新しいスポーツ施設に木材を使いたいという声が聞かれている。木材は、ブリスベンの亜熱帯気候や既存の地元建築と共鳴する美しい素材だ。また、ブリスベンの大会では「クライメート・ポジティブ」とすることをクイーンズランド州政府が宣言している。つまり大会が排出する以上の炭素を大気から取り除くことを目的とした、強力な気候変動対策に取り組むというのだ。新設される、または大幅に改修される大会関係施設はすべてグリーンスター(豪州の環境認証)の6つ星を得ることも州政府が目標に掲げている。

では、具体的に何をすれば良いのか、どのような技術が必要なのか。環境性能やエネルギー効率を上げるために、一つひとつの施設でやれること、大会全体で取り組むべきこと、街として取り組むことなどそれぞれにおいて異分野のエキスパートたちと組みながら知恵を振り絞っていくしかない。私たち建築設計者も、新築や改修設計の要件が提示されるのをただ待つだけではなく、開発を抑えられる土地の条件、公共交通機関の利用促進、スポーツ大会やコンサートなどの開催日以外でも賑わいをもたらす仕掛けなどで自発的にアイデアを提案することが求められている。

いのうえ・いくみ 東京大学工学部建築学科卒業。1991年に日建設計に入社。2015年に豪州の建築設計事務所Buchan(バカン)と日建設計が業務提携をしたことを契機にメルボルンに5年間赴任。現在はホーチミン在住。

※次回はエアトランクの神田巧海さんです。

【コラム/6月21日】金融政策頼りを考える~期待と不安の帰結


飯倉 穣/エコノミスト

1、憂慮の正常化

この時代、金融政策決定会合の度に大騒ぎがある。資産価格(株価等)第一主義の経済政策の一現象である。その限界到来か、徐々に政策を変えざるを得ない状況である。まず金融政策の枠組みを変更があった(2024年3月19日マイナス金利解除、無担保コールレート0~0.1%程度)、4月は様子見。

そして今回決定会合(6月14日)は、国債買入減額方針を決めた。報道は、伝える。「日銀、国債買い入れ減額 来月に具体的計画 量的引き締めへ」(朝日同6月15日)、「国債減額「相応の規模」日銀 量的引締めに転換 政策金利据え置き」(日経同)。針のむしろで、腫れ物に触るような熟慮か小田原評議に見える。

2000年前後からのゼロ金利政策、量的緩和政策を振り返れば、期待を強く持った政治家・経済専門家の強弁があった。やってみなくてはわからないと量的緩和を迫った。アベノミクスで頂点となった。経済への影響は心許なくかつ首を傾げる状況である。

そして依然政治家サイドの立場の違い、見解割れ、異論噴出がある。「財政健全化 割れる自民「堅持」「固執反対」2つの提言 首相「金融環境に目配り」」(日経6月8日)。財政運営上、マイナス金利解除、金融環境変化を意識すべきという主張があり。他方依然歳出圧力狙いで、賃上げ実現状況のときに経済を冷やしてはいけないと叫ぶ。

機動性を喪失した金融政策の現実を思料すれば、量的緩和政策瓦解であろう。迷走が続く金融政策頼りを考える。


2、金融政策の流れ~期待頼りは期待外れ

金融政策の話題は、古今東西、金融商品扱い業で煮えたぎる。その方向性は、常に商売の糧となる。政策当局は、マスコミの猟奇的報道、政治的欲求、実体経済判断において試練の連続である。そして為替で海外の圧力もある。故に政策の歪みも多く、予期せぬ副作用もある。

振り返れば1980年代後半のバブルを招来した金融緩和継続。1990年代前半のバブル崩壊の引き金を引いたと責められる金融引締、90年代中半の実体経済への影響の限界を見せた金融緩和、90年代末金融危機時のゼロ金利政策の評価。2000年代前半のデフレ主張圧力を意識した同調的な量的緩和政策の寡少効果の現実。08年リーマンショック時の円高対応金融政策批判、11年東日本大震災時の金融政策。13年アベノミクス(大胆な金融政策、機動的な財政支出、成長戦略)の勝手デフレ判断対応の量的・質的金融緩和の不可思議。20年コロナ時の金融政策、22年2月24日以降の物価上昇時の緩和継続固執(無変更)等があった。24年3月物価対応か円安対応かで揺れる中で枠組み修正。そして賃上げ・物価上昇好循環を標榜する不可解な政策下の正常化という金融政策修正である。それらの政策は、好評価より、論(あげつら)いに満ちている。

過去金融緩和政策でバブル経済を助長したが、その後バブル崩壊調整過程の金融政策は実体経済の再建を手助けしたか判然としない。金融政策の波及効果について様々な説明がある。平常時の中長期の金融緩和継続はリスクを伴う。米国リーマンショックが好例である。バブル崩壊以降、国内でも資産効果(株価、不動産価格)は時折みられるが、膨らんだものは縮む。短期的な刺激効果はあろうが、経験的に実体経済の需給調整やデフレ傾向と金融政策の関係は希薄である。 


3、2000年前後の金融政策の議論を思いだせば

金融緩和政策で、政策手段としてゼロ金利政策が限界的とする見方が、一般的であった。そこに行き着くとどうするか。量的緩和政策が主張された。インフレマインド醸成で、期待や予想に働きかけるとした。融資実務者の視点では、首を傾げる主張だが、金融商品を扱う業は、好材料と捉える。

当時、量的金融緩和の手段・効果の大論争(?)があった。量的緩和主張派がいた。「デフレは、物価の持続的下落である。貨幣供給量の減少がデフレをもたらす。現在GDPギャップを見ればデフレギャップが存在する。デフレギャップ解消に、ゼロ金利政策は効果がない。量的緩和政策への転換が必要である。マネタリーベース(日銀当座預金)の拡大が、マネーサプライ増となる。つまり貸出増が起これば、個人・企業の支出増で、雇用増となる。デフレ脱却の金融政策としてインフレターゲット付き長期国債買い切りオペ増額を提案する。」(岩田規久男「デフレの経済学(01年)」参照・主張抜粋)

他方、実体経済に対する金融政策の限界を考え、過度のゼロ金利・量的緩和を懸念する見方もあった。それは抑々量的緩和でマネタリーベースを増加させても、マネーサプライに結びつくかという論理的・経験的疑問である。「量的金融緩和という金融政策がどのようなトランスミッション・メカニズムを通じて効果を発揮するのか説明が不十分である。金融政策と実体経済の結びつきは、リザーブ(日銀当座)が結節点で、リザーブ需給の影響を通じて、他の分野に波及する。ゼロ金利下の量的金融緩和は、金融機関の行動への影響は少ない。金融機関の自己資本比率、収益とリスク評価のリスクテイキング、不良債権の存在等を考慮すれば、マナーサプライ増は期待できない。このような見方から量的緩和に懐疑的である。(白川方明「金融政策論議の争点第4章量的緩和採用後の1年間の経験(02年7月)」参照・主張抜粋)

それらの見方を整理して小宮隆太郎は、老学者としての見解を示す。「意見の違いは、考え方、理論、経済変数等の認識、枠組みの捉え方、現状認識、政策目標の優先度等の見方、考え方に由来する。デフレについてみれば、最近の物価下落はそれほど深刻でない、物価上昇率が多少上がっても経済の現状はあまり変わらず。日銀の現金融政策は妥当。日本経済はリアルな(実物の)面で難問があり、マネタリー面から一挙解決は困難である。長期国債買い切りオペで、ゼロ金利下でもマネーサプライ(MS)増可能の議論は、銀行行動から不適切である。インフレターゲットは、総理大臣の経済成長率ターゲット宣言と類似。責任取れず、わからず。(小宮隆太郎「金融政策論議の争点 第5章日銀批判の論点の検討(同)」参照・主張抜粋)

これらの論点は「金融政策論議の争点」(日経02年)によく整理されている。再読・再吟味は有益である。

【石油】円高転換視野に 石油精製業は競争力強化を


【業界スクランブル/石油】

「黄金週間」への突入とともに円安が進行し、4月28日には一時1ドル=160円台を記録した。そのおかげで輸出企業の収益は好調で株高も続くが、エネルギー・食糧を輸入に依存する家計は物価高に喘いでいる。

ただ、日銀の植田和男総裁は「消費者物価への円安の影響は大きくない」としている。確かに、最終エネルギー消費の約半分弱を占める石油製品は、年間3兆円を超える巨額の燃料油補助金で、2022年以降の円安・原油高をカバー。経済産業省は、ガソリン小売価格が目標価格175円に抑制されるよう為替レートと原油価格を勘案しつつ、補助額を毎週見直している。

こうした激変緩和措置を「一定期間延長」(斎藤健経産相)することになったが、補助金終了時の為替レートと原油価格水準が問題だ。5月第1週の燃料油補助金は1ℓ当たり30円を超えた。終了時に、国内価格と原油輸入価格の連動性が回復すれば、補助金相当額の燃料油価格の値上がりが予想される。

円安で懸念されるのは、国内石油精製業の競争力である。円安に伴う海外生産品の値上がりで、自動的かつ名目的な国際競争力向上があり、輸入石油製品の輸入採算性はほとんどなくなっている。これが円高に振れた時どうなるか。

今度は、自動的に国際競争力が低下する。製油所の設備稼働率は、適正とされる80%を切った状態が続いている。

内需減少が続く中、設備廃棄を含むわが国の石油精製業の効率化・適正化努力が、円安で阻害されるのは健全とは言えない。脱炭素化に備える意味でも、円高転換時に備えて、真の競争力強化の継続を望みたい。(H)

【シン・メディア放談】支持率低位安定の岸田政権 業界内の評価とは相反


<業界人編> 電力・石油・ガス

4月末の衆院補選で自民党が全敗。支持率は低調だが、エネルギー政策は依然評価する向きが強い。

 ―少し前の話だが、4月の日米首脳会談の成果をどう見た?

ガス 業界にとってポジティブな話としては成果文書にe―メタンが入ったこと。CO2カウントルールの問題が注目されている中、生産国の米国と、消費国の日本での二重計上を回避するよう協力していく旨が盛り込まれた。さらにIRA(インフレ抑制法)とGX(グリーントランスフォーメーション)政策をお互いにビジネスとして使うとの方針も良かった。

電力 ただ、やはり気になるのは「もしトラ」。グリーンはどうでもいいトランプ氏が復権したら、今回の成果が吹き飛ぶ可能性がある。日本も政権が変わる可能性がある中、次のリーダーたちがどう対話していくのか。

―4月末のG7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境大臣会合も各紙大きめに報じた。

石油 確かに石炭火力の段階的廃止にはいろいろな付加条項が付いているが、日本の関係者が「これなら大丈夫」と安心している風潮は少し懸念している。

他方、電気事業連合会の林欣吾会長が各メディアのインタビューで、G7の合意を踏まえても、日本ではCO2対策を講じた石炭火力は大きな役割を担い、エネルギー基本計画で位置づけを明示してほしい、と強調した姿勢は良かった。


表面的な出力抑制報道 決算記事はさすがの日経

―ゴールデンウィークでいよいよ東電管内でも再エネの出力抑制が行われるか注目していたが、結局実施されなかった。

電力 マストランの電源がある中、結局需要規模の大きいエリアで吸収せざるを得ない。メディアは単に「再エネを捨てるのがもったいない」とか言うが、そのための送電線整備に何兆円もかけることが本当に良いのか。また、稼働率低下で火力の休廃止が進む中、電源投資の在り方を問う視点も見当たらない。

石油 日経が4月にエネ基の論点を連載したが、出力抑制にフォーカスした記事は、一部のエネルギー有識者から批判されていたね。

―ほかにGW前後の報道で注目したものは?

石油 決算記事では日経と他紙で見出しの付け方が異なる。例えば某ガス会社の決算で、多くの一般紙は「純利益過去最高」などと、値下げを促すような内容も散見されるが、日経は「25年3月期の純利益〇%減」とし、こちらが適切。若年層は電子版のタイトルだけ見がちなので、見出しまわりが一層重要になる。

電力 各社の24年度見通しは23年度からの大幅減が確実な中、電力で昨年規制料金を改定しなかった社がどう出るか注目している。特に関西の料金は他エリアより過度に安い。また23年度の最終利益の大部分が燃料費の期ズレだったが、少なくとも基準燃料価格はリセットすべきという意見が社内では結構あるようだ。

ガス 騒ぎとなった環境省と水俣病患者との懇談でのマイクオフ問題では、臨機応変な対応ができなかったことは残念。ただ実は昨年、現地で話をしっかり聞いた結果対話の時間がなくなり、今年はタイムマネジメントを強化したとの話も聞こえる。


難題一つずつ突破も エネルギーは票にならず

―支持率が超低空飛行の岸田政権だが、エネルギー業界内での評判は良い印象だ。

ガス 安倍政権時代に焦げ付いた難題に一つずつ取り組んだ。福島第一の処理水問題では、中国を風評被害を助長する敵としてマスコミを含めてあおりつつ放出を断行したし、エネルギー以外だが防衛費問題にも積極的に取り組んだ。世間的には増税や政治資金問題の悪印象が強いかもしれないが、エネルギー価格補助金を除き、エネルギー政策では高く評価できると思う。

電力 処理水放出ではつい最近も、5回目完了に関する「東電『放出水が少し高めの数値だった』」との東京新聞の記事を社民党の参院議員が引用し、「海はゴミ箱じゃない」などとXに投稿。そうした中でここまで政策を進めても支持率が低いということは、やはりエネルギーは票にならないとも痛感した。

石油 共同も「海水からトリチウム検出」などと報じたが、検出値は1ℓ当たり13ベクレル。これに対し産経は翌日付で、報道に疑問の声が上がり、細野豪志元環境相の談話も入れて不安をあおりかねないと報じた。

電力 他方、化石燃料価格が反転し上昇し始め円安の問題もある中、岸田文雄首相が金利や為替政策にあまり言及しない点は気になる。それに対し、日銀の植田和男総裁が4月末の金融政策決定会合後に「ここまでの円安が物価に大きな影響を与えていることはない」と言い切ったことは賛否両論あれど、個人的には立派だと思う。

―いつ選挙があるかは不明だが、エネ基改定やGX2040ビジョンの策定も始まった。

ガス 今回のエネ基は単純な積み上げでなく、電力需要が増加する局面でのカーボンニュートラルという難しい情勢について検討することになる。地に足の着いた内容にしてほしいし、場合によってはビジョンを数パターンつくるといった可能性もあるかも。ただ、GXでバラ色の未来ばかり強調されるが、痛みを伴うという現実もつまびらかにする必要がある。

電力 専門メディアがバランスの取れた報道をすることも重要だし、われわれもマスコミに実情を訴え続けていくべきだね。

―特にエネ基では前回と今回の周辺環境の違いを、大手メディアに感じ取ってほしい。

【ガス】LPガスの商慣行是正 省令改正後も課題多く


【業界スクランブル/ガス】

LPガスの商慣行是正に向け4月2日に改正法令が公布された。業界に経済産業省が期待するのが「商慣行見直しに向けた自主取組宣言」だ。公布から一部の事業者が宣言を自社ホームページに掲載するなど姿勢を明らかにする中、「悪質な事業者を警戒すべきでは」との声もあり、宣言する事業者はあまり増えていない。法改正の意図に反する動きを続ける事業者がいるため、真面目に宣言することが望ましくとも、「慎重になって一呼吸置いてから」と様子見も多い。

各社の宣言を見ると、今回の省令改正のポイントである①過大な営業行為の制限、②三部料金制の徹底、③LPガス料金等の情報提供―について、法令順守を徹底するとの内容だ。経産省は「フォーマット化すると形骸化する。各事業者が事業規模や組織体制、ビジネスモデルの在り方を踏まえ、創意工夫を凝らしながら対外説明などに取り組んでいくことが適切」と宣言の考え方を示すが、今のところ企業色はあまり出ていない。また同省は、各社が宣言通り対応しているか確認するとしているが、果たして機能するだろうか。

改正法令施行を前に駆け込み的な営業行為が増え、不動産業者も今のうちにと、給湯器などの交換を持ちかけるオーナーが多いという。昨年末に同省が開設した通報フォームには4月1日時点で約430件の情報が寄せられているが、現場は露骨な内容を避けながら実質的な利益供与は継続中だ。業界が変わるチャンスと言われる今回の法令改正。市場監視・公開モニタリングなど実効性の確保に向けた今後の対応が、同省の腕の見せ所といえるだろう。(F)

世界の分断と統合〈下〉 国連改革巡る議論の現状


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

国連常任理事国の拒否権に関しては、近年その運用を巡り国連が機能不全に陥っているとの批判を生んでいる。ウクライナ戦争を契機に2023年は国連改革を巡る議論が噴出した。

9月19日の一般討論演説で、ウクライナのゼレンスキー大統領は、露の侵攻に対し国際社会が団結することの重要性を呼び掛け、翌20日安保理では、「総会で3分の2の賛成があれば拒否権を覆せるようにすべきである」と述べた。

同安保理で岸田文雄首相は、「安保理の決定を妨害し、信用を失墜させる拒否権の乱用は、国際社会として認められない」と指摘。常任理事国として拒否権を行使する露を批判し、安保理改革を訴えた。

安保理は10月18日、イスラエルとハマスの戦闘を巡り、パレスチナ自治区ガザへの援助提供を可能にするため、紛争の人道的な一時停止を求めるブラジルの決議案を審議したが、18日の採決では12カ国が賛成票を投じたものの、露英は棄権し、米が拒否権を行使したことで否決された。

次いで27日イスラエルとハマスの衝突を巡る緊急特別会合では人道回廊の設置や人道的休戦を求める決議案(カナダ提案)が審議されたところ、同提案には西側諸国を中心に30カ国以上が共同提案国に加わり88カ国が賛成したが、採択に必要な投票の3分の2以上には届かなかった。

そこで、人道回廊の設置や人道的休戦を求める決議案(ヨルダン提案)が審議、採択された。同提案には中露仏を含む121カ国が賛成、米やイスラエルなど14カ国が反対、日英加など44カ国は棄権した。

両決議に対するG7諸国の対応を見ると、カナダ提案に対しては7カ国全てが賛成したのに対し、ヨルダン提案に賛成したのは仏だけで、英独伊加日の5カ国は棄権、米は反対した。

ガザにおける戦闘に関して日本は、G7議長国として11月7、8両日にG7外相会合を主宰した。会合後、上川陽子外相は、記者会見でG7加盟国はハマスなどのテロ攻撃非難、人質の即時解放、ガザにおける人道危機への対処のための緊急行動、国際人道法の遵守などで一致したと報告した。外電報道では、テロ攻撃非難は発信されたものの、国際法違反に対する非難は発信されなかった現状がある。日本がG20あるいはグローバルサウスとの橋渡し役を担うという文脈からは対イスラエル非難メッセージの発信は重要である。

その後、安保理は11月15日に緊急会合を開き、ガザにおける戦闘の「緊急かつ人道的な一時休止」を要請する決議案(マルタ提案)を採決した。決議案には仏中日など12カ国が賛成したのに対し、常任理事国の米英露は棄権した。

拘束力のない国連総会決議とは異なり、イスラエルも含めて国連加盟国は安保理決議に従う義務がある。国連決議と安保理決議の扱いを含め国連活動におけるねじれの是正を求めるゼレンスキー大統領の提案は、依然大きな意味を持つ。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

英シェル苦悩の戦略遂行


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

ロイター、フィナンシャルタイムズなどの外電、外誌によると、ここ数カ月、英シェルなどの欧州石油各社はCO2削減に向け事業見直しを約束していたが、低炭素投資による魅力的な利益の実現で投資家の納得を得るのに苦労しているようだ。

シェルは昨年1月から始まった戦略的見直しで、収益性の低い欧州のエネルギー小売事業から撤退する計画を発表している。今年5月初めにも、中国の電力市場から昨年末までに撤退したことが報道されている。シェルにとって各国の電力市場への進出は、前CEOのベン・ファン・ブールデン氏の時代から積極的に展開していた事業領域でもある。昨年8月には、先の計画に基づき欧州の電力小売事業をほとんど売却した。現CEOのワエル・サワン氏は「電力ポートフォリオから価値を生み出すことに注力し、選択的に電力に投資しているが、そのためには難しい選択が必要だ」と語っている。

BP・シェルともに石油メジャーの中では、エネルギー移行のための事業戦略で風力発電や太陽光などを利用する新電力事業に巨額の投資をしてきたが、収益が低迷して株価が下落し、これらの事業から撤退を余儀なくされている。

石油メジャーのエネルギー移行期間(エネルギートランジッション)への対応は、単なる希望的な観測の楽観論的な事業進出では済まされない、厳しい投資家の眼にさらされており、利益と環境対策を両立させることは極めて困難である。

日本のエネルギー産業もやがてそのような冷徹な投資家の目線で無造作に進んでいるGX戦略投資などが、大きく見直される時が来るものと思われる。脱炭素エネルギー産業の変革は非常に難しい局面に入ってきている。

(花井和男/エネルギ―コラムニスト)