【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年8月号)


NEWS 01:波紋呼ぶ万博メタンガス爆発 対策徹底もぬぐえない不安

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場西側にある来場者用トイレの建設現場で、3月28日に発生したメタンガスによる爆発事故。これを受けて万博協会は6月に会期中の安全対策を発表したが、不安の声が根強い。開幕まで1年を切る中、再発防止に向けた対策の徹底が求められている。

メタンガスの爆発が起きた現場

今回の事故が起きたのは、「グリーンワールド工区」の屋外イベント広場横にある東トイレの1階。溶接作業時に発生した火花が、床下の配管ピット内にたまったメタンガスに引火して爆発。けが人はでなかったものの、コンクリートの床などが破損する被害が出た。

会場の「夢洲」(大阪市此花区)は人工島。事故現場の夢洲1区は廃棄物の最終処分場として埋め立てられた土地で、地中からは空気より軽いメタンガスが常に発生する。そこで協会はガスの滞留を防ごうと、機械で強制的に換気するなどの対策を打ち出した。

ただ事故現場以外でも低濃度のメタンガスが検出され、大阪府の子ども招待事業で会場に行く可能性のある学校現場からも不安の声が浮上。7月中旬の大阪市議会万博推進特別委員会では、対策を巡る厳しい意見が飛び交い、「国内のみならず海外からも多くの来場者が来場するビッグイベント。徹底して安全・安心に取り組んでほしい」といった要望も出た。


NEWS 02:今年も「脱原発否決」強調 電力株主総会の報道に喝!

6月26日に開かれた大手電力9社の株主総会は、2023年度の好業績を背景に、電気料金値下げに関する株主質問が目立った。毎年議題に上がる脱原子力に加え、今年は利益水準にも焦点が当たったようだ。

各社は23年度の大幅増益について、燃料費調整制度の期ずれによる一過性の利益であることに言及した上で、電気料金の値下げには原子力の安定稼働が重要とし、そのための費用に充てていくことを説明した。

一方で、大手メディアは今年も、一様に脱原発を求める株主提案が否決されたことを前面に押し出して報じ、「脱原発株主提案、電力9社が否決」(毎日新聞)、「原発への姿勢問う声相次ぐ」(朝日新聞)など、見出しには「脱原発提案否決」の文字が並んだ。

かねてから、電力株主総会では原発反対派の株主が脱原発を提案し、それを経営陣が否決するという展開がある種の恒例行事となっている。とりわけ、11年3月の東京電力福島原発事故後はその傾向に拍車がかかり、メディアもその切り口で株主総会を大きく取り上げてきた。しかし……。

「このところの電力株の動きを見ていてもわかる通り、原発稼働が株価の上昇に寄与しているのは明らかだ。その意味では、原発反対ではなく、原発の安全で安定した稼働を求めるのが真っ当な株主の姿だろう」(大手エネルギー関係者)大手電力の経営陣は総じて、安定供給や電気料金の低廉化、脱炭素化対応のため、安全・安心を前提とした原発稼働の必要性を繰り返し強調している。この点が株主価値向上につながるとの判断があるからだ。そうした点に着目せず、これまでと同じ「紋切型」報道に終始するメディアの見識が問われている。


NEWS 03:NDCは35年60%減か 40年エネ基と分断狙い?

今年の政策議論の中で、GX(グリーントランスフォ―メーション)2040ビジョンや第7次エネルギー基本計画と併せ、次期NDC(国別目標)の行方も要注目だ。政府は6月28日、中央環境審議会の小員会と産業構造審議会のワーキンググループの合同会合を開き、NDCを含めた地球温暖化対策計画の見直しに着手した。

各国政府には来年2月までに次期NDCの提出が求められる。
35年を基準とした新目標では、1・5℃目標や、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書が示したシナリオの一つ、世界全体で35年温暖化ガス60%減(19年比)を意識すべきとの風潮がある。一方、エネルギー価格高騰を背景に、欧州などでエネルギー多消費産業の生産活動低下・生産拠点の移転が見られ、各国では多様で現実的なアプローチへと政策の修正も始まっている。

ただ、ある政府幹部は、「ネットゼロがある以上、日本も逆算して35年60%減程度を掲げるほかないだろう」と語る。現行目標でも政策的な裏付けは乏しく、電源構成の需要想定を減らすことで再エネ比率などを何とか調整。翻って今回のエネ基議論ではGXやDXに伴う電力需要の急増が主要論点であり、前回の手法は到底使えない。

そうした中、NDCとエネ基のリンクをできる限り避けようとする考えもある。ターゲットイヤーは、NDCが先述の通り35年で、一方のエネ基はGX2040ビジョンと平仄を合わせ40年となる見通し。実際、欧米はNDCをあくまでチャレンジングなビジョンと位置づけ、それを電源構成などに細かく落とし込むようなことはしていない。日本も今回は本音と建て前をうまく使い分けることができるかが問われる。


NEWS 04:米で「原発100基増設」宣言 日米の経済格差に直結か

米国原子力学会(ANS)が6月16~19日、ネバダ州ラスベガスで先進原子力プラント国際会議(ICAPP2024)を開催した。

米ラスベガスで行われたACAPP2024
提供:奈良林直・東工大特任教授

ANSの年会を兼ねた本会議には約1200人が参加。米エネルギー省(DOE)のジェニファー・グランホルム長官やアイダホ国立研究所のジョン・ワグナー理事ら、官学の代表がパネルディスカッションを行った。さらにはマイクロソフトやグーグルメタといった米国を代表する巨大IT企業の幹部が登壇し、電力安定供給の必要性などを訴えた。

米国は近年、原子力発電の拡大に力を入れる。昨年のCOP28では米国などが主導して、日米など22か国が50年までに原子力発電の容量を3倍に引き上げると宣言。それに呼応するかのように、今回のANS年会では「30年代に100万kW級原発100基に相当する100GWの原子力発電を送電線に接続する」との宣言が行われた。

ANS年会に参加した東京工業大学教授の奈良林直特任教授は、「電力がなければ世界とのAI競争に負ける、という米企業の危機意識を感じた。米国が原発増設に全力投入する一方で、再稼働すらままならない日本の現状は両国の経済格差に直結する」と焦りをあらわにする。

電力需要の急増を前に、原子力に対しては「好きか嫌いか」ではなく「必要か否か」という視点が求められている。

マルチ毒性ガス検知器を大幅刷新 従来機種3台分の機能を1台に


【理研計器】

理研計器は7月、新型のポータプル型マルチ毒性ガス検知器「SC―9000」の受注を開始した。同製品は従来機種「SC―8000」を大幅にリニューアル。従来ガスセンサーよりサイズを3分の1以下に小型化した新型の「Fセンサ」を搭載したことで、従来ガス検知器3台分の機能を1台に集約した。

3種類の毒性ガスを同時に検知する

検知するガスはアンモニア、フッ化水素、塩素、塩化水素、シランなどからさまざまな組み合わせを選択することができ、その数は300通り以上。またFセンサの搭載でガス検知器の性能や耐久性が向上し、最大3年保証を実現させた。加えて、本質安全防爆構造を兼ね備えているため、エネルギー事業のほか、半導体工場、石油化学プラント、船舶、自動車工場、燻蒸などさまざまな現場での使用が可能な製品だ。 

SC―9000はFセンサ以外にも新たな特徴がある。一つ目はブルートゥースの搭載だ。これを介して専用アプリ「RK Link」と連動することで、スマホ上で簡単に測定データを管理できるようになった。緊急時には、登録されたメールアドレスに警報を送信することができるため、遠距離間での作業にも適している。

二つ目は多言語表示機能だ。英語はもちろん、中国語や韓国語、ポーランド語からロシア語まで16種類もの言語表示に対応しているため、グローバルな作業現場にも最適だ。ほかにも、定期点検忘れを防止し、機器の管理をサポートする「校正お知らせ機能」や、検知器が正常に動作していることを自動で伝達する「コンファメーションビープ」など、利便性を追求した機能が充実している。


使用環境を選ばない耐久性 約2倍の連続使用が可能に

従来機種から向上した性能は主に二つ。

まずは耐久性だ。1・5mの落下試験をクリアする衝撃への強さを持ち、IP66/68相当の防塵・防水性能も兼ね備える。また、マイナス20℃~プラス50℃でも使用可能で、低温・高温環境の両方に適応できるため、水や雨を被るケミカルタンカーのような現場でも安心だ。

二つ目は、従来機種の約2倍の連続使用が可能となったこと。リチウムイオン電池仕様の場合、駆動時間は約25時間であったが、新型では約60時間と2倍以上だ。

理研計器は長年にわたってさまざまな現場の安全を守ってきた。今後も引き続き、ガス検知器分野の実績を生かし、国内のエネルギー事業を支えていく。

再エネや原発拡大では不十分 新エネ基で火力の扱い明確化を


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説委員

次期エネルギー基本計画策定に向けた議論で焦点となる電源構成。

火力発電を再評価し、国益にかなう効果的使い道を探るべきだ。

政府は、第7次エネ基を年度内にまとめる。最大の課題は、電力の安定供給と脱炭素化の両立に資する実効性のある2040年の電源構成を示せるかどうかだ。ハードルは、現行計画を策定した21年の改定時よりも格段に高まっている。

前回は、人口減少などを理由に電力需要が減る想定だった。しかし、生成AI(人工知能)の普及に伴うデータセンター増設や半導体工場新設などで状況は一変。需要が大きく増える見通しとなり、供給力の強化も求められている。一方で、35年の温室効果ガス排出削減目標は13年比で60%以上(現行は30年に同比46%減)に引き上げられる見通しで、電源の脱炭素化加速も必須だ。

電力の安定供給を支える火力発電所

発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない「ゼロエミッション」電源として太陽光や風力などの再生可能エネルギーと、原発の活用が注目されている。第7次エネ基を巡る総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の議論でも、洋上風力発電の導入加速などの再エネ拡大論や、原発の建て替えも含めた原子力活用論が花盛りだ。

マスコミの関心も第6次エネ基の電源構成目標(30年度)で36~38%とされた再エネ比率(水力も含む)や、20~22%とされた原発比率がどれだけ上積みされるかに集中している。だが、安定供給の責任を担う電力業界関係者の見方はもっとシビアだ。


現実と乖離した電源目標 電力首脳は理想論にくぎ

「記録的な猛暑や寒波にも臨機応変に対応でき、再エネの調整電源としても活躍する火力発電の役割を『余りもの』のように過小評価すべきでない」。大手電力会社首脳はこうくぎを差す。30年度の目標は、原発比率を従来並みに維持する一方、再エネ比率を「野心的」に高めた結果、そのしわ寄せを受けた火力を4割程度まで縮小させる構成となった。

しかし、22年度の電源比率を見ると、再エネは21・7%、原発は5・6%にそれぞれとどまり、石炭や液化天然ガス(LNG)などを原料とする火力発電が7割以上を占めるのが実態だ。目標との乖離が鮮明で、第7次エネ基策定に当たっては、このギャップがきちんと検証されなければならない

再エネ導入拡大で火力の発電電力量や稼働率が継続的に低下しているのは確かだ。一方、荒天などで再エネの発電量が落ち込んだ際にバックアップ電源として補えるのは火力しかないのが実情。想定外の暑さ・寒さに見舞われた需給ひっ迫時には、火力の炊き増しが停電を回避する「最後のとりで」となっている。

日本にとって脱化石燃料は急務だが、第7次エネ基が現実を度外視し、再エネや原発の比率を大幅に引き上げ、火力を「余りもの」のように扱えば、将来に禍根を残すだろう。

【覆面ホンネ座談会】課題山積の経産・環境行政 幹部人事は手堅さ重視か


テーマ:経産省・環境省の幹部人事

経済産業省、環境省の主要人事が出そろった。経産省は部署名から化石燃料の名前が消えた昨年に続き、名称変更や新設を実施。環境省は次官が交代したが、経産省との協調路線に変化はあるのか。

〈出席者〉 Aフリージャーナリスト B元官僚 C大手紙記者

─まずは経産省から見ていこう。「継続性を確保しつつ、重点施策を着実に推進していくことが必要」(斎藤健経産相)として、事務次官の飯田祐二氏(1988年)や資源エネルギー庁長官の村瀬佳史氏(90年)などが留任した。

A 昨年に続いて、今年も事務方が出した案がほぼそのまま通っているはずだ。安倍晋三、菅義偉の両政権時は内閣人事局を使った「官邸主導」で介入が通例化したが、岸田文雄首相は中央官庁の人事に口を出すタイプではない。それは斎藤経産相も同じ。3月くらいには基本的な案が通り、5月の連休前には準備万端だったはずだ。

B 内部事情に詳しい人間が見ると、納得感のある人事でサプライズはない。ただ最大のポイントを挙げるとすれば、飯田氏の留任だろう。

霞が関の官僚の中でトップと言えるポジションは内閣官房副長官。官房長官は政治家が務めるが、副長官は政治家が二人、官僚が一人。いま官僚のポジションは、警察庁の栗生俊一氏が務めている。飯田氏は明るい性格の持ち主で、タイプとしては調整型。栗生氏との相性も良いし、他省庁からの評価も高い。こうした点が評価されての留任とみられる。ちなみに環境省の和田篤也(88年)前次官も栗生氏との相性は良かったそうだ。

エネルギー政策の難局をどう乗り越えるか

─飯田氏と同期で、官房長を務めた藤木俊光氏(88年)は経済産業政策局長に、経済産業政策局長だった山下隆一氏(89年)は中小企業庁長官に就任した。

B 両氏の次官への道は残されている。山下氏が就いた中小企業庁長官は政治との関わりが深く、経験を積んで着々と次官の座をうかがえる。

A 飯田氏と藤木氏は入省こそ88年の同期だが、学年は藤木氏が2つ下。仮に来年、藤木氏が事務次官に就任しても、年齢的にも他省庁との年次バランス的にもおかしくはない。次官の芽を摘まないように、経済産業政策局長にしたのは人事の妙だ。

C 昨年は事務次官の入省年次が、ナンバー2の経済産業審議官より1年若い異例人事だった。やはり次の次官は藤木氏で、88年組が続きそうな予感がする。

B 官房長になった片岡宏一郎氏(92年)は秘書課長を長年務めた。真面目な性格の持ち主で、信頼が置ける調整型だ。 官房長は企業でいうと総務企画部長兼役員のような立場で、政策の総合調整と総務や人事を担当する。政策は官房長、人事は総括審議官や秘書課長といったように担当分野を分けることもしばしば。経産省の場合、官房長は年次が高かったり、低かったりとバラバラだ。


経産省らしい自由な人事 一般紙の注目は

A 昨年はエネ庁が時代に合わせた組織改編を行い、石油や天然ガス、石炭を課の名前から消し、水素アンモニア課を新設した。85年に石油部計画課に入省した西村康稔前経産相が会見で入省当時を振り返り、「時代の大きな変化を感じている」と語ったのを思い出す。

一方で今年は、エネ庁以外で大きな動きがあった。貿易経済協力局が貿易経済安全保障局に、産業技術環境局がイノベーション・環境局にそれぞれ名称を変え、新たにGX(グリーントランスフォーメーション)グループを設置。さらに通商戦略課や宇宙産業課、文化創造産業課など8つの課を新設した。斎藤経産相は「近年重要性が増してきている新たな政策課題に組織のリソースを集中し、より腰を据えて取り組む体制を構築するもの」と説明した。

B 名称が変わったイノベーション・環境局長に就任した菊川人吾氏(94年)は、大学では理系だった。情報産業課長時代は、TSMCの工場誘致のための交渉を担当。大臣秘書官や中小企業庁なども経験しており、バランスがとれた優秀な人材だ。環境省との関係も良好だと聞いている。

A 大きな話題がない中、大手紙が取り上げたのが、通商政策局長に就任した荒井勝喜氏(91年)の人事だ。首相秘書官時代の昨年2月、オフレコ取材で「(同性婚カップルが)隣に住んでいたら嫌だ」と発言して更迭された後、大臣官房審議官(通商政策局担当)となっていた。

一般紙が荒井氏を取り上げる一方で、次官やエネ庁長官の留任で紙面作成に悩んでいたのが業界紙。電気新聞は新たに経済産業審議官に就任した松尾剛彦氏(88年)、官房長の片岡氏、エネ庁次長に就任した畠山陽二郎氏(92年)という電力業界とのつながりが深い3人を写真付きで紹介していた。

非合理な敦賀2号機の「活断層」審査 原子力活用に向け規制委改革の時


【石川和男の白熱エネルギートーク】

事業者に「悪魔の証明」を求める原子力規制で良いのか。

奈良林直氏、石川和男氏、石井孝明氏の有識者3人が徹底議論した。

敦賀原子力発電所2号機は昨年8月の補正申請書提出以降、原子炉建屋から約300mの距離にあるK断層を巡り、集中的に審査が行われてきた。日本原子力発電はさまざまな証拠を提出するが、原子力規制委員会は「(K断層の)活動性は否定しきれない」と一蹴。7月下旬に新規制基準への適合性を判断する(7月22日現在)。

敦賀2号機を巡る最近の審査状況

そうした中で当社は7月1日、オンライン番組「第23回 そこが知りたい! 石川和男の白熱エネルギートーク」で、敦賀2号機問題を1時間にわたって議論した。その一部を紹介する。


挙証責任は規制委にあり 学問的に誠実な対応を

石川 既存の原子力発電所は2011年の東日本大震災前、旧原子力安全・保安院の許可を得て稼働していました。震災後でさえ、定期検査まで発電していたプラントもあります。活断層の上に建設できないのは、保安院時代も同様でした。

奈良林 地震が発生する際に、すさまじいエネルギーを放出する断層を「震源断層」と言います。保安院時代の審査は国際原子力機関(IAEA)の国際基準に基づき、震源断層の活動性の有無が建設の可否につながっていました。

今、規制委は原電に対して、K断層の活動性の否定とD1破砕帯との連続性の否定を求めています。断層は地下20㎞から地表まで貫く震源断層(主断層)、それが枝分かれした分岐断層、さらに副次的にできた副断層などが存在します。私はK断層を表層のみの浅い副断層だと考えています。規制委の石渡明委員がK断層を活断層だと思い込んでいるから、断層が長い必要があり、つじつまが合っていないのです。

石川 保安院が建設・運転を許可していたとなれば、活動性の挙証責任は規制委側にあります。「否定しきれない」と言われて悪魔の証明を求められれば、事業者が活動性を否定するのは不可能に近い。

奈良林 新規制基準における活断層の基準は「約12万~13万年前以降の比較的新しい時期にも活動し、今後も活動のおそれがある断層」です。原電が出した証拠の一つには、K断層を覆う地層の堆積年代が「12万~13万年より古い」という測定結果がありました。しかし測定誤差があるので、12万年前より新しいかもしれないと難癖を付けています。上載地層の下の縦の断層が途中で止まっているのは、もともと12万~13万年前以降に断層として動いていない証拠です。

石井 約12万~13万年とは(中期旧石器時代で)ネアンデルタール人と人類が共存していた時代です(笑)。とても科学的な議論とは思えません。

奈良林 K断層が副断層なのかを確かめるにはボーリング調査が必要ですが、規制委は調査なしで審査を終わらせようとしています。原電側にボーリング調査を命じた上で、改めて審査を行うべきでしょう。石渡委員は地質学会の重鎮です。科学調査をさせず、意図的に審査を打ち切るべきではありません。学問的な誠実さを貫いてほしい。

【イニシャルニュース 】「5度目の正直」なるか 総裁選控えたⅠ氏の動向


「5度目の正直」なるか 総裁選控えたⅠ氏の動向

9月の自民党総裁選に向けて、政局の夏を迎えている。有力候補として、岸田文雄首相、茂木敏充幹事長、高市早苗経済安保相などの名前が挙がるが、出馬すれば5度目となるⅠ氏の動向に注目が集まっている。

「これまでの中で一番、政治家や企業、役人が寄って来る」と打ち明けるのはⅠ氏に近い元官僚だ。党員人気が高いⅠ氏だけに、カギを握るのは議員票。菅義偉前首相からの支持や河野太郎デジタル相、小泉進次郎元環境相との「3者連合」が機能すれば、当選の可能性はありそうだが……。元官僚が続ける。

「3人の関係の実態は『日独伊三国同盟』に近い。ドイツと日本はそれぞれ戦っていて、イタリアは役に立たない。ドイツと日本はⅠ氏と河野氏。イタリアは決まりだ」

エネルギー政策は合格点を与えられる岸田政権だが、河野氏以外の誰が首相になっても大きな路線変更はなさそうだ。Ⅰ氏も事務方の意向を尊重するとみられる。

そんな中、エネルギー業界から首相待望論が聞こえるのが、2021年の解散までⅠ氏が率いた派閥に所属した斎藤健経産相だ。

「経済政策でおかしな方向に進まない安心感があって、産業界は推す価値がある」(大手ガス関係者)。Ⅰ派消滅まで付き合った斎藤氏だけに、「Ⅰ内閣の官房長官は斎藤氏かもしれない」(前出の元官僚)。

Ⅰ氏と会食した小泉純一郎元首相は「総理になるには才能と努力と運が必要だ」と強調したという。Ⅰ氏は4度の総裁選敗戦で、一時は「もう終わった人」とみられていた。だが党内の不祥事で宿敵だった安倍派が瓦解。本命候補としてカムバックした。少なくとも、小泉氏の言う「運」は持ち合わせているようだ。


規制委の主張垂れ流し メディア不況が影響か?

原子力規制委員会の日本原電敦賀2号機を巡る活断層の審査が大詰めを迎えている。同委の判定、審査方法には問題点が多いとされる。その一因に挙げられるのが、既存メディアが規制委の問題行動を全く批判せず、その説明を無批判に垂れ流していることだ。

エネルギー記者の質が問われる

2011年の福島第一原発事故の後、原子力や原子力の規制政策の議論は、メディアの影響を受けた。電力業界では、S紙のⅠ記者、A記者、そして批判的視点ではあるがA紙のO記者の報道への評価が高かった。しかし時がたち、I氏は定年、A氏は担当を外れ、O氏は大学に転じてしまった。業界は再エネ振興の夢物語を語り、原子力に冷たい経済紙のN紙、そしてK通信のI記者、M紙のH記者に振り回された。I記者は担当を外れ、H記者は会社を辞めた。人がいなくなり、良くも悪くも原子力を巡る報道の量が減った。

A紙は事故直後、東京のエネルギー記者クラブに5人の記者が常駐していたが、今は2人で、規制担当と掛け持ちという。メディア不況で記者の数が減り、原子力担当の後継が育たなくなってしまった。

元々、東京の大手紙は「原子力憎し」の風潮が強い。その上に担当記者の数と質が低下すれば、権力である規制委や経産省の監視どころか、まともな報道もさらにできなくなりそうだ。この問題はメディア不況と連動している以上、なかなか解決しそうもない。


電力業界は冷ややか 政治主導のHVDC整備

国の政策目標である2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現を見据え、再生可能エネルギーの大量導入と、電力系統のレジリエンス強化に資することが期待される地域間連系線の増強計画。

とりわけ、政府が昨年2月に閣議決定したGXに向けた基本方針にも盛り込まれた、北海道・東北エリアと東京エリアを結ぶ日本初の大規模HVDC(高圧直流送電)の整備計画は、国を挙げた一大事業だ。

800㎞にわたり、200万kWの直流海底ケーブルなどを新設する同計画の工事費用は1・5兆~1・8兆円。この前例なき規模のHVDC事業に対しては、大手電力のH氏や有識者のT氏をはじめ、「巨額を投じてまで新たに連系線を整備する必要があるのか」と否定的に見る向きは多い。

「浮体式」商用化へ事業者結集 技術面だけではない課題も浮上


浮体式洋上風力技術研究組合(フローラ)が6月20日、東京・大手町で国際フォーラムを開催した。ラーム・エマニュエル駐日米国大使など各国の要人が列席。斎藤健経済産業相はビデオメッセージを送った。

フローラは3月、浮体式洋上風力の大規模な商用化を目指し、海外市場も視野に入れた国内産業の創出を目的に発電事業者14社で設立。現在は4社の新規組合員を加え、18社体制だ。

事業者だけでなく各国の要人も列席した国際フォーラム

浮体式洋上風力は金属加工技術を要し、造船・金属機械加工など日本のものづくり技術の活用が期待できる。ただ設備の大型化やコストの高さ、大量・安定な製造のためのサプライチェーン確立、施工・運転・保守の難しさが課題。大規模プロジェクトを発電事業者のみで行うことは困難で、ゼネコンやマリコン、材料、造船、重電などの連携が必須だ。フローラの寺﨑正勝理事長(NTTアノードエナジー・グリーン発電本部長)は同日の記者会見で、「1日でも早く実用化しないと欧米に負ける。時間をかけるつもりはない」と力を込めた。

ただ課題は技術面にとどまらない。例えば2011年から21年まで福島県沖で実証実験が行われたが、初期段階では漁業関係者とのあつれきが生じた。福島第一原発事故の影響で沿岸漁業の操業自粛を余儀なくされた経験から、「なりわいの場である漁場をなし崩し的に奪われるのではないか」という不安の声が上がったのだ。

洋上といえども、そこに生きる人々がいる。技術開発のスピード感とともに、住民への説明など丁寧さも求められている。

CN実現には電源以外も重要 現実的な分析で世界に貢献


【巻頭インタビュー】寺澤達也/日本エネルギー経済研究所理事長

基本政策分科会で委員を務める寺澤達也・日本エネルギー経済研究所理事長。

国内外のエネルギーを巡るトレンドやエネ研の強みなどを聞いた。

てらざわ・たつや 1984年東京大学法学部卒業後、経済産業省入省。90年ハーバード大学ビジネススクールでMBAを取得。内閣総理大臣秘書官、商務情報政策局長、経済産業審議官などを務めた。2021年7月から現職。

 ─次期エネルギー基本計画策定に向けたこれまでの議論をどう見ていますか。

寺澤 電力需要の大幅増にいかに対応するかが最大のポイントです。安定供給はこれまで以上に難しくなりますが、電力不足に陥り、経済活動に支障をきたしてはなりません。また供給量を確保するだけでなく、可能な限り低廉で低炭素なエネルギーが求められている。この点は、エネ基策定に関わる人の間で共通認識となっています。

再生可能エネルギーについては、世界で導入量が増え続ける中で、日本は足踏み状態が続いています。今後はさまざまな形状に曲げられるペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力の実用化に向けて、政府のリーダーシップが求められます。

火力発電は、わが国で3・11後に新設した石炭火力発電所は最新鋭で高効率です。供給力とコストの両面で活用しない手はありません。安全保障の観点からは、LNGと石炭という複数の選択肢を持っていることが重要です。同時に、水素やアンモニアとの混焼を行い、専焼を目指す。もしくはCO2回収・貯留(CCS)で脱炭素化を図らなければなりません。

─世界のエネルギー情勢で注目している点は。

寺澤 ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢など不確定要素が多いですが、電力需要の増大は日本だけでなく世界的な傾向です。増える需要に対応するためには、どの国も再エネだけでは対応できません。「再エネを増やすなら、ガス火力も必要」という現実的な意見が強くなっており、極端な化石燃料排除の声が薄れてきた印象です。

また脱炭素かつ安定的なベースロード電源として、原子力発電が世界的に脚光を浴びています。特に米国では、小型モジュール炉(SMR)建設への期待が強い。軽水炉ほどの敷地を必要とせず、データセンターの近くに建てられるからです。これまで原子力発電所が建設されてこなかった東南アジアでも、SMRなら十分に可能性があります。一方、東欧諸国では大型軽水炉の需要があり、日本メーカーとしては、それぞれの国情に応じてのビジネス展開が求められます。

日本では既存の原子力発電所の運転が延長されたとしても、2040年を念頭に置くと建て替えが必須です。国土が狭く、原子力に対して厳しい世論が存在する日本では、立地拠点の確保が大きな制約要因になる。となると、既存原発の敷地内での建て替えが現実的です。その上で、限られた土地を有効活用するならSMRではなく、まずは大型軽水炉の建設が合理的でしょう。すでに規制側の知見があるので、安全審査が進みやすいという利点もあります。

GX推進機構が発足 金融中心に官民から人材集結


10年で150兆円のGX(グリーントランスフォーメーション)投資を進める中核機関として、脱炭素成長型経済構造移行推進機構(GX推進機構)が7月1日に発足した。官民の人材が集まり、債務保証や出資といった金融支援、化石燃料賦課金の徴収、排出量取引制度の運営などを行う。

開所式でロゴを発表する筒井理事長
提供:時事通信

機構理事長には、日本経団連副会長で日本生命保険会長の筒井義信氏が就いた。また、COO(最高執行責任者)・専務理事は、GX実行会議構成員でボストンコンサルティンググループの重竹尚基氏が務める。このほか理事には、経済産業省や金融庁で関連政策を担当してきた官僚らも名を連ねる。以前はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のように産業界から現役を出向させる話もあったが、利益相反の問題もあり、結局見送られた。

全体としては金融系が多い印象だ。ただ、「GX移行債を元に金融支援を行うことになるが、技術などの実態を踏まえて的確に選別できるのか」(産業界関係者)といった声もある。

例えばNEDOが差配する2兆円のGI(グリーンイノベーション)基金は、年1回のフォローアップで、有識者による検証に際して各企業トップ自ら進捗を説明。また、中間評価で継続かストップかを判断したり、成果が遅れている場合は理由を説明したりといったルールで段階的に選別していく。

一方、GX機構の業務全容はいまだベールに包まれており、移行債のバラマキとならないよう、どんな仕組みを構築するのか、今後の対応が注目される。

パリ協定の再離脱はほぼ確実? 「もしトラ」で環境政策はどうなる


【電力中央研究所】

インタビュー:上野貴弘/電力中央研究所社会経済研究所研究推進マネージャー(サステナビリティ)

電中研で地球温暖化対策を研究し、経産省・環境省の検討会などの委員も務めてきた上野貴弘氏。

トランプ氏が米大統領選に当選した場合の環境政策への影響と、新著の読みどころを聞いた。

─上野さんのご専門は「国際関係論」です。電中研には理系の研究者が多いですが、これまでの経歴を教えてください。

上野 実のところ、大学には物理を学ぶつもりで入学したんです。ただ国際関係論を履修して以来、気候変動問題を巡る国際政治に強い関心を寄せるようになりました。各国の利害が対立する中でいかに国際協調を図っていくか、観察対象として面白いなと。2006年度に米国のシンクタンクに客員研究員として滞在してからは、米国内の動きもいっそう注視するようになりました。ちなみに、学生時代を含めるとCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)には16回参加しています。

気候変動問題は、電気事業におけるグローバル課題の代表格です。複雑な国際関係を理解することは、エネルギー政策の策定や企業の経営戦略上、大いに役立ちます。

─トランプ前大統領はパリ協定の再離脱などを掲げていますが、「もしトラ」についてどう見ていますか。

上野 11月の大統領選挙でトランプ前大統領が勝利した場合、パリ協定からの再離脱はほぼ間違いないでしょう。それどころか、1992年に採択された気候変動枠組み条約を脱退する可能性すらあります。バイデン政権は2021年、パリ協定に復帰しました。トランプ陣営は米国が永久にパリ協定に復帰できないように、枠組み条約からの脱退を考えているのです。COPは気候変動枠組み条約の「締約国会議」ですから、締約国でなくなれば米国はCOPに参加する資格を失い、国際協調の土台が崩れかねません。

上野氏の新著『グリーン戦争─気候変動の国際政治』
提供:中公新書


大統領令でCO2規制撤回 IRA撤回は非現実的

─22年に成立したインフレ抑制法(IRA)など国内政策への影響はいかがですか。

上野 トランプ政権になったからといって、米国の気候変動対策が全て撤回されるわけではありません。大統領令で対応可能な火力発電所や自動車のCO2排出量規制などは撤回するでしょうが、IRAは議会を通して成立した法律なので、撤回には議会での法改正が必要です。例えば、「トランプ減税」を延長するための法律にIRAの撤回が財源として盛り込まれる可能性があります。

しかし、上下両院で共和党が過半数を獲得しても、IRA撤回で党内がまとまらないかもしれません。なぜなら、CO2回収・貯留(CCS)やバイオ燃料の税額控除などIRAのインセンティブで共和党が強い州も恩恵を受けているからです。

ただ、電気自動車(EV)購入に対する減税措置に限れば、共和党が撤回でまとまる可能性があります。この恩恵を受けるのは民主党が強い沿岸のニューヨーク州やカリフォルニア州など民主党が強い地域が中心なので、共和党は反対で団結しやすい。EV購入への減税が撤回されれば、日本の自動車産業にも少なからず影響を与えます。

端境期の猛暑で電力ひっ迫 6~7月に早くも融通11回


6~7月は本格的な夏の到来を前に想定外の猛暑が日本各地を襲い、電力需給のひっ迫が相次いだ。7月22日時点で東京電力パワーグリッドが1回、関西電力送配電が3回、東北電力ネットワークが7回と計11回の電力融通が実施された。

中でも、東電PGが7月8日に受電したケースは、広域ブロックでも安定供給に必要な供給予備率が不足し、火力発電所の焚き増し要請などを行う事態となった。

本格的な夏を前に猛暑が日本各地を襲った

午前6時ごろの時点で、広域ブロックの需要ピークと予測される午後2時台、予備率で安定供給に必要とされる3%を下回る2%となることが見込まれた。このため、電力広域的運営推進機関(広域機関)を経由して、午前9時ごろに中部電力パワーグリッドへ最大20万kWの電力融通を依頼。その上で、相対契約を通じ小売事業者から供給力を提供してもらう「発動指令電源」や、火力発電所の増出力運転などを要請した。

これを受け、JERAは広野火力6号機や常陸那珂火力1、2号機など8基の火力発電所で計37・58万kWの増出力運転のほか、停止中の袖ケ浦火力2、3号機の稼働なども行った。これらの措置により、需要ピークの午後3~4時に計5923万kWの供給力を確保。予想最大電力に対する予備率は10%まで引き上がり、需給ひっ迫状態は解消された。

一方、関電送配電も同日、同じく中電PGから最大36万kWの電力融通を受けた。この日は市場取引によって他エリアへの供給量が増加し、関西エリアの予備率が低下したことが要因だ。

電力需給ひっ迫の問題は、端境期でたびたび発生している。より深刻な事態に発展しないためにも、何らかの手立てを講じる必要がありそうだ。

課題山積の同時市場議論 今後の検討留意点とは


【論点】同時市場導入の是非/椎橋航一郎・ストラテジスト

早ければ2028年度の導入に向け、kW時とΔkWを同時約定させる「同時市場」の検討が進む。

新制度へ移行するメリットは。そして制度を作り上げる上での留意すべきことは。

電力システム改革に伴い、電気の価値は「電力量(kW時)」「供給力(kW)」「調整力(ΔkW)」に細分化され、「卸電力市場」「容量市場」「需給調整市場」と、異なる市場で取引されることになった。今年度は、需給調整市場で新たに三つの商品の取引が追加されたところだが、市場にThree-Part Offer(起動費、最低出力費用、増分費用カーブでの入札)を導入するとともに、kW時とΔkWを同時約定させる「同時市場」への移行が検討されている。

議論の場は、22年6月の「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」から始まり、昨年8月に開始された「同時市場の在り方等に関する検討会」で具体的な検討が進められている。同検討会では、①同時市場の仕組みの具体化(約定ロジックの設計や実現性・妥当性の検証、事業者の実務への影響、関連法令などとの関連整理、同時市場の仕組みをより具体化)と②費用対便益分析の大きく二つの論点について検討を進め、今年6月に電力・ガス基本政策小委員会へ中間報告がされたところである。

同時市場に関する検討の目的


電源情報を一元的に把握 コンセプトは理想的だが

過去の需給ひっ迫や需給調整市場におけるΔkWの調達未達問題などを踏まえると、同時市場を通じて電源情報のTSO(あるいは電力広域的運営推進機関)による一元的把握、kW時とΔkWを同じ時間軸で調達することで短期市場の効率化を図るというコンセプトは理想的だ。発電にかかるさまざまな費用を多面的に考慮した上で、電源の起動・運用・停止を判断しkW時とΔkWに合理的に割り付けるとともに、合理的な価格決定の仕組みが担保されれば、理論的には電源運用がより最適化され、安定供給と経済性の両立が実現する。例えば、変動性再エネが拡大し調整力不足が懸念される中でも、調整力を備えた電源価値が正しく評価され効率的に活用でき、発電・小売事業者を含めた市場参加者にとってもマイナスは生じないはずだ。

ただし、これはあくまでも新制度が制度趣旨に基づき正しく実効性を有した場合の理想的な姿であり、実際これらがワークするのか、課題も多いように思える。いまだ、議論の途上であり、現時点で同時市場の検討に対する評価は時期尚早であり、今後の議論を注視するとともに大いに期待していきたいところではあるが、現時点で感じていることを以下示したい。

電気・ガス料金支援が復活 長期化で「税金の還付」状態


電気・ガス料金支援が、8月使用分から3カ月限定で復活する。政府による補助金は昨年1月から今年5月使用分まで投入されていたが、わずか2カ月での「再開」となった。酷暑を乗り切る観点から、8・9月使用分の負担軽減を重点化。電力の低圧で8、9月が1kW時当たり4円、10月が同2・5円。都市ガスは8、9月が1㎥当たり17・5円、10月が同10円の補助を行う。

電気・ガス料金支援で会見する斎藤健経産相(6月28日)

政府は「酷暑乗り切り緊急支援」と銘打つが、猛暑日が続いた7月使用分は含まれず、場当たり感は否めない。また斎藤健経済産業相は6月28日の会見で「(激変緩和対策事業の)『再開』ではない」と強調したが、実質的には「再開」だ。激変緩和対策には約3・6兆円の国費を投入した上、今回の補助総額はおよそ4500億円程度と推計される。両者を合わせれば4兆円超で、毎年度の再エネ賦課金の総額を優に上回る。

「あまりにもお金の使い方が下手すぎる」と憤るのは、大手ガス関係者だ。「水素と既存燃料の値差補填や再エネ賦課金停止の財源など、ポジティブな使途はいくらでもあった」。石油業界関係者も「もはや単なる『税金の還付』だ」とあきれる。

インフレの改善が見られる米国では、9月にも連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切る可能性があり、円安傾向に歯止めがかかれば燃料調達コストは削減される。ただ9月の自民党総裁選を前に臨時国会での冒頭解散がささやかれるなど、政治の流れは流動的だ。電気・ガス料金は、引き続き政争の具となるのだろうか。

鉄鋼業界が次期エネ基に熱視線 脱炭素転換は電力コストが壁


【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社 編集局鉄鋼部長

鉄鋼の脱炭素化プロセスへの転換には電力需要増が避けられず、コストは切実な問題だ。

関係者はこれまで以上に次期エネルギー基本計画の行方に注目している。

エネルギー基本計画の見直しに向けた議論が始まった。今回の見直しでは、電力需要の増加に対応し、供給能力、特に脱炭素電源をどう拡充していくかが論点の一つとなっている。今後の電力需要では、データセンターや半導体工場での需要増が指摘されるが、鉄鋼業界でも需要の増加が必至。脱炭素化に向けた鉄鋼製造プロセスの転換が電力需要を押し上げるとみられているからだ。それだけに、電力の安定供給、コストに影響を与える次期基本計画に対する鉄鋼業界の関心は従来に増して高まっている。

大型電気炉導入が視野に(写真は既存電気炉)

鉄鋼は電力の大口需要業界の一つだ。資源エネルギー庁によると、鉄鋼業の消費電力量は約600億kW時(2022年度)。これは、電力会社からの購入電力のほか、工場内にある共同火力、自家発電などを合わせた総消費量だ。

電気で鉄を溶かす電炉メーカーの場合、使用する電力はほぼ地域電力会社から調達する。一方、高炉一貫メーカーは、共同火力や自家発電設備を活用し、割高な購入電力の使用をできるだけ抑えている。

いま、プロセス転換を迫られているのが高炉一貫メーカーだ。鉄鋼業のCO2排出量の大半を占めるのが高炉プロセスによる排出。高炉メーカーが脱炭素プロセスに移行すれば、鉄鋼業のCO2排出量を大幅に減らすことが可能となる。


大型電炉導入の検討加速 エネルギーバランス変化へ

日本の鉄鋼業界は21年に「2050年カーボンニュートラル(CN)への挑戦」を打ち出し、現在、革新的な脱炭素製造プロセスの実用化に向けて研究開発を進めている。

代表的なのが水素還元製鉄だ。鉄鉱石の還元に、石炭(原料炭)の代わりに水素を用いる手法だが、実用化へのハードルは高く、30年時点での実用化は難しいのが現状。しかも、石炭から水素への転換は5割程度が限界とされ、CNを実現するには、CCS(CO2回収・貯留)などオフセット手法との組み合わせが不可欠だ。業界では40年代央以降の実用化を目指している。

そこで30年時点での実用化技術として、現実味を帯びているのが電気炉法だ。電気炉はすでに、専業メーカー(普通鋼電炉・特殊鋼電炉)で使われている設備だが、高炉メーカーが導入を検討しているのは、大型電気炉による連続操業。内容積5000㎥級の大型高炉は、1基で年間300万t以上の鉄(銑鉄)を製造できる。これと同等の生産量を維持するには、電気炉の24時間稼働が前提となる(高炉は24時間365日稼働だが、電気炉の場合、割安な電力使用を前提とするため夜間・休日操業が一般的。年1回の大型定期修理も必要)。

台風への備えと再エネ活用 九州の生活支える「人」の力


【電力事業の現場力】九州電力労働組合

台風被害の多さと日本一の再エネ導入量を誇る九州地方。

停電の復旧作業と太陽光発電活用の裏には現場の努力があった。

「今週末に大規模非常災害対策訓練がある。訓練を終えると現場の緊張感が一気に高まる」

毎年のように台風が大きな被害をもたらす九州地方。九州電力送配電と関係会社が台風などの災害に備える大規模訓練を控えた7月上旬、九州電力労働組合の本部を訪れた。

災害復旧のための派遣要請は、台風が九州地方に到達する前から行われる。九州地方は離島が多く、台風が接近すると、海が荒れる前に復旧を担う作業員の事前派遣が行われる。こうした場合、派遣された社員は1~2週間は現地で寝泊まりすることになる。

大規模非常災害対策訓練の様子

台風による停電の原因で多いのは、電柱の被害だ。土砂崩れや河川の氾濫などで電柱が流されれば、新たに電柱を立てて電線をつなぎ直す必要がある。また電柱が折れた場合には、電柱に補強板と呼ばれる金属製の板を添えて金具を巻き付ける応急処置を行う。この補強板が添え木のような役割を果たし、電柱を支える。電柱の復旧が困難となれば、高圧発電機車と電線をつなぐ場合もある。

2010年に発生した奄美地方での豪雨では、イレギュラーな対応をとった。停電を解消すべく、高圧発電機車をヘリコプターで吊るして旧奄美空港から孤立地区へと運んだ。運搬時の風圧を回避するため、車の上部をドーム状にするなど、いざという時に備えて車を改良していたという用意周到さには驚きだ。

奄美地方の豪雨で活躍した高圧発電機車の空輸(陸上自衛隊との協働)

九州電力労働組合が何よりも重要視するのは、現場の安全確保だ。災害復旧は時間と戦いながら、普段とは違う対応が求められる。現場は「一刻も早く電気を届けたい」と使命感から復旧作業に全身全霊を注ぐ。

「急いでいるからこそ、安全確保を徹底しなければならない」と熱を込めるのは、栁瀬健吾書記長だ。「労働組合は安全が守られているかを確認する役割がある。現場に作業員を派遣する際には、必ず会社と現場に『安全第一で』と伝えている」(同)

九州電力では約30年前、復旧作業中に作業員が亡くなる痛ましい事故があった。この経験から、九州電力労働組合では「決して安全を二の次にしない」という意識が受け継がれている。


フル稼働の揚水発電 現場の強い責任感

九州地方といえば、再生可能エネルギーの導入量で日本のトップを走る。だが、その裏で再エネの運用を支える揚水発電所の存在を忘れてはならない。

揚水発電を行う小丸川発電所

九州電力の揚水発電所は、3カ所(8台)で最大出力2300MWを誇る。電力が余る場合は水をくみ上げて需要を増やし、電力が不足する朝方や夕方など急激に需要が伸び始める時間帯の発電に使われる。近年の起動停止回数は、1台当たり年間800回程度に及ぶという。

小丸川発電所のロータ吊出し作業

過酷な運用により、これまでは生じなかった部品の摩耗などが目立つようになった。設備の異常兆候を早期に発見するため、状態監視装置による遠隔監視の強化や事業所から車で1時間半ほどかかる発電所に足を運んでの現場パトロールを行っている。現場の負担は高まっているが、「揚水発電が止まれば、その分だけ太陽光発電の受け入れができなくなる。絶対に止められない」との責任感を持って日々の作業に取り組んでいる。

いつの時代も九州地方の生活を支えるのは、人の手による「現場力」なのだ。