<業界人編> 電力・石油・ガス
4月末の衆院補選で自民党が全敗。支持率は低調だが、エネルギー政策は依然評価する向きが強い。
―少し前の話だが、4月の日米首脳会談の成果をどう見た?
ガス 業界にとってポジティブな話としては成果文書にe―メタンが入ったこと。CO2カウントルールの問題が注目されている中、生産国の米国と、消費国の日本での二重計上を回避するよう協力していく旨が盛り込まれた。さらにIRA(インフレ抑制法)とGX(グリーントランスフォーメーション)政策をお互いにビジネスとして使うとの方針も良かった。
電力 ただ、やはり気になるのは「もしトラ」。グリーンはどうでもいいトランプ氏が復権したら、今回の成果が吹き飛ぶ可能性がある。日本も政権が変わる可能性がある中、次のリーダーたちがどう対話していくのか。
―4月末のG7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境大臣会合も各紙大きめに報じた。
石油 確かに石炭火力の段階的廃止にはいろいろな付加条項が付いているが、日本の関係者が「これなら大丈夫」と安心している風潮は少し懸念している。
他方、電気事業連合会の林欣吾会長が各メディアのインタビューで、G7の合意を踏まえても、日本ではCO2対策を講じた石炭火力は大きな役割を担い、エネルギー基本計画で位置づけを明示してほしい、と強調した姿勢は良かった。
表面的な出力抑制報道 決算記事はさすがの日経
―ゴールデンウィークでいよいよ東電管内でも再エネの出力抑制が行われるか注目していたが、結局実施されなかった。
電力 マストランの電源がある中、結局需要規模の大きいエリアで吸収せざるを得ない。メディアは単に「再エネを捨てるのがもったいない」とか言うが、そのための送電線整備に何兆円もかけることが本当に良いのか。また、稼働率低下で火力の休廃止が進む中、電源投資の在り方を問う視点も見当たらない。
石油 日経が4月にエネ基の論点を連載したが、出力抑制にフォーカスした記事は、一部のエネルギー有識者から批判されていたね。
―ほかにGW前後の報道で注目したものは?
石油 決算記事では日経と他紙で見出しの付け方が異なる。例えば某ガス会社の決算で、多くの一般紙は「純利益過去最高」などと、値下げを促すような内容も散見されるが、日経は「25年3月期の純利益〇%減」とし、こちらが適切。若年層は電子版のタイトルだけ見がちなので、見出しまわりが一層重要になる。
電力 各社の24年度見通しは23年度からの大幅減が確実な中、電力で昨年規制料金を改定しなかった社がどう出るか注目している。特に関西の料金は他エリアより過度に安い。また23年度の最終利益の大部分が燃料費の期ズレだったが、少なくとも基準燃料価格はリセットすべきという意見が社内では結構あるようだ。
ガス 騒ぎとなった環境省と水俣病患者との懇談でのマイクオフ問題では、臨機応変な対応ができなかったことは残念。ただ実は昨年、現地で話をしっかり聞いた結果対話の時間がなくなり、今年はタイムマネジメントを強化したとの話も聞こえる。
難題一つずつ突破も エネルギーは票にならず
―支持率が超低空飛行の岸田政権だが、エネルギー業界内での評判は良い印象だ。
ガス 安倍政権時代に焦げ付いた難題に一つずつ取り組んだ。福島第一の処理水問題では、中国を風評被害を助長する敵としてマスコミを含めてあおりつつ放出を断行したし、エネルギー以外だが防衛費問題にも積極的に取り組んだ。世間的には増税や政治資金問題の悪印象が強いかもしれないが、エネルギー価格補助金を除き、エネルギー政策では高く評価できると思う。
電力 処理水放出ではつい最近も、5回目完了に関する「東電『放出水が少し高めの数値だった』」との東京新聞の記事を社民党の参院議員が引用し、「海はゴミ箱じゃない」などとXに投稿。そうした中でここまで政策を進めても支持率が低いということは、やはりエネルギーは票にならないとも痛感した。
石油 共同も「海水からトリチウム検出」などと報じたが、検出値は1ℓ当たり13ベクレル。これに対し産経は翌日付で、報道に疑問の声が上がり、細野豪志元環境相の談話も入れて不安をあおりかねないと報じた。
電力 他方、化石燃料価格が反転し上昇し始め円安の問題もある中、岸田文雄首相が金利や為替政策にあまり言及しない点は気になる。それに対し、日銀の植田和男総裁が4月末の金融政策決定会合後に「ここまでの円安が物価に大きな影響を与えていることはない」と言い切ったことは賛否両論あれど、個人的には立派だと思う。
―いつ選挙があるかは不明だが、エネ基改定やGX2040ビジョンの策定も始まった。
ガス 今回のエネ基は単純な積み上げでなく、電力需要が増加する局面でのカーボンニュートラルという難しい情勢について検討することになる。地に足の着いた内容にしてほしいし、場合によってはビジョンを数パターンつくるといった可能性もあるかも。ただ、GXでバラ色の未来ばかり強調されるが、痛みを伴うという現実もつまびらかにする必要がある。
電力 専門メディアがバランスの取れた報道をすることも重要だし、われわれもマスコミに実情を訴え続けていくべきだね。
―特にエネ基では前回と今回の周辺環境の違いを、大手メディアに感じ取ってほしい。