【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
好みもあるだろうが、国際エネルギー機関(IEA)の報告書を紹介する文はどちらがいいか。
まず日経6月2日「再エネ電源、世界で5割規模へ、発電能力が化石燃料に匹敵、送電・安定供給に課題」は、「世界で太陽光など再生可能エネルギーの導入が急拡大している。IEAは1日、2024年の再生エネ発電能力が約45億kWになる見通しを公表した。50年の二酸化炭素(CO2)実質排出ゼロに向けて各国が導入を加速したほか、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の輸入依存への危機感が強まったのが要因」と書く。
流行りの「生成AI(人工知能)」の一つ、マイクロソフト版「bing」による要約は、「IEAは報告『再生可能エネルギー市場更新版』を発表した。その要旨によると23年の世界の再エネ容量は、上乗せ幅が過去最大の1.07億kWに達し、4.4億kW増える見通しだ。政策支援の拡充やエネルギー安全保障への懸念、価格競争力の改善が拡大を後押しした。課題として、金利上昇や投資コスト高騰、機器供給網の維持を挙げた」だ。
人間はバイアスをかける。AIは淡々とまとめる。差が分かる。例えば日経は、「2024年の再生エネ発電能力が約45億kW」について「原子力や火力発電所のように24時間発電できるわけではないが、原発4500基分」と解説する。再エネと原子力は能力や発電量、使いどころが全く違う。バイアスに何の意味があろう。
実は太陽光・風力発電は「出力が変動する再エネ」(Variable Renewable Energy、VRE)の名が与えられ特別扱いされている。
variable(移り気)の字義通り気まぐれで、太陽光発電は曇りの日は発電量が落ちる。夜は眠り、晴天の昼はフルに発電する。風力発電も本質は風まかせだ。だからVREが働いていない時は、火力発電など他の電源や蓄電池でバックアップし、ガンガン発電する時は、都市部など大消費地に電気を送り届ける。そのために発電所をいつでも運転できるよう待機させ、送電網も強化する、といった対策が求められてきた。
エコ(依怙)贔屓である。それでも、導入量が飛躍的に増えている理由は、variable(変幻自在)でもあるからだ。多彩な規模の発電設備を比較的速やかに造れる。運転時に燃料が要らず、温暖化ガスは出さない。
エコ贔屓はどこまで可能か。コストをかけず、悪影響を最小限に抑えるにはどうしたらいいか。メディアに必要な視点だろう。
朝日5日「関西で初の出力制御」は、「関西電力送配電は4日、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの受け入れを一時的に止める『出力制御』を、午前9時~午後1時半に実施した。これまで、発電量に比べて使用量の比較的少ない地域に限られていたが、太陽光発電の拡大を受け、関西でも初めて行われた」「電気の使用量と発電量のバランスを保って大規模停電を防ぐ狙いがある。4日は休日で工場の稼働が少なく、電気の使用量が減るが、晴天で発電量が伸びる予想だった」と伝える。
IEA報告書には「VRE普及で出力制限が増える」傾向を示す世界のデータが載っている。日本の出力制限はこれまで1%に満たない。送電網が充実した欧州でも、ドイツやイタリアは日本の10倍以上、島国の英国、アイルランドはさらに高い。中国も同じだ。
ギリギリまでVREを送電網に受け入れてきた関係者の努力のおかげだろう。少したたえていい。
いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。