洋上風力業界内で情報錯そう 三菱商事は撤退か継続か

三菱商事はラウンド1の3件を継続か、それとも―。商事が減損処理した洋上風力事業の行方を巡り、業界ではさまざまな憶測が飛び交う。資源エネルギー庁は急転直下でFIP(市場連動価格買い取り)への転換を認めたが、これをもって継続を判断できるほどのプラス材料とは言い難い。

R1の動向は日本の洋上風力の行方を占う(写真は石狩湾新港)
提供:朝日新聞社

うわさの一つが、秋田の2海域から撤退するという案。商事が札入れしたFIT(固定価格買い取り)価格は、千葉・銚子が16円台に対し、秋田は約12~13円程度。これを基にFIP転をすると、銚子はまだ事業性が見込める可能性がある。また、県内のデータセンタービジネスとの絡みや、漁協などに対し100億円規模を拠出すると既に表明済みであることから、簡単に翻意できないのではないか、というのだ。

「全海域から降りれば中西勝也社長のメンツにかかわる。ただ、エネ庁がFIP転を認めたことをメディアに『救済策』と揶揄されたにもかかわらず、継続が1海域だけでは割に合わない。落としどころが見えない」(業界関係者)。仮に商事が断念した場合、次点組に白羽の矢が立つが、入札時の条件のままでは到底引き受けられない。変更がどこまで認められるのかによるが、エネ庁が最も避けたい再公募の可能性もある。

「入札前から、後発組によるダンピングの可能性は指摘されていた。商事の計画のリスクが高いことを見抜けなかったことは残念。これではだれもハッピーではない」(同)。再エネ主力化をけん引するはずの洋上風力の先行きは、依然視界不良だ。

発足10年の節目を迎えた広域機関 高まる存在感と待ち受ける試練

電力の安定供給と電源の広域的な運用を担うべく、2015年4月に発足した電力広域的運営推進機関。

電気事業を巡る課題が次々と顕在化する中、政策実行部隊として立て直しをリードすることが求められている。

電力広域的運営推進機関設立のきっかけは、2011年の東日本大震災だ。大規模電源が被災し東京電力管内で計画停電が起きたことを教訓に、電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備を進めるとともに、全国大で平常時・緊急時の需給調整機能を強化する役割を担う。全ての電気事業者が加入義務を負い、中立かつ公平に業務運営を行っている。

専門性、先見性を持って業務に当たりたいと語る大山理事


安定供給の番人を自負 電気事業の課題にも対応

電力システム改革の第一弾として同機関が発足した翌年、小売り全面自由化がスタートした。自然変動型の再生可能エネルギーの大量導入、災害の激甚化、そして予備力の急速な低下が重なり幾度となく需給ひっ迫危機に見舞われながらも、大山力理事長は「電気事業に関わる事業者の協力を得ながら〝安定供給の番人〟としての役割を果たしてきた」と振り返る。

今や同機関の役割はこれにとどまらず、「政策実行部隊」としても存在感を放つ。この10年間は大手電力会社)による地域独占・総括原価方式の下での安定供給体制から市場メカニズムへと抜本的にシステムが移行していった期間でもあり、システム改革に起因するさまざまな課題が顕在化。それらに対応するため、容量市場の設計・運営や需給調整市場の設計・運営、広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)の具体的な計画策定、さらに足元では容量市場のメインオークションを補完する長期脱炭素電源オークションや予備電源制度の設計など、経済産業省から次々とタスクアウトされ手掛ける業務は格段に増えた。

これに伴い、職員数は設立時の100人程度から230人(4月1日時点)ほどに増えたが「業務量の増え方は2倍どころではない」というのは、同機関内外の誰もが指摘するところだろう。当初は、職員の大半を大手電力会社からの出向者が占めていたが、昨年度には半数を切った。新卒を含むプロパー職員、新電力やシステムメーカー、金融機関からの出向者などさまざまな「専門家」が集結し、電力の安定供給という共通の目的を持って職務に当たっている。

発足当初、関係者が予想だにしていなかったことが、莫大な資金を扱うようになったことだ。22年度には、再エネFIT(固定価格買い取り制度)/FIP(市場連動買い取り制度)賦課金を基に買い取り費用の調整を行う「費用負担調整業務」が低炭素投資促進機構(GIO)から移管されたことに伴う。

電力会社には、買い取り費用から再エネを引き取ることで火力の焚き減らしなどで支出を免れた「回避可能費用」を差し引いた額を交付金として支払う。この回避可能費用は市場価格に連動するため、市場が低迷すると控除する額が減少し交付金の額が増えるという関係にある。交付金が賦課金の納付金を上回り不足が生じた場合は、同機関が金融機関から借り入れなければならず、現時点での累計借入額は8800億円に上る。

さまざまな矛盾はらむETS 勝者・敗者の分かれ目はルール次第

成長志向型カーボンプライシングの一環で、来年度から排出量取引制度が本格稼働する。

一定規模の全業種に参加を義務付け、ルール作りが今後進むが、その調整はいばらの道となりそうだ。

「昨年の議論はニュートラルだったが、神は細部に宿る。うちの業界では経済産業省の所管部局と今後の相場観について話をしているよ」―。現在国会でGX推進法改正案が審議されている中、既に経済界では排出量取引制度(ETS)の実施に備えたロビーイングが展開されている。政府が昨年示した制度の大枠を踏まえ、法案成立後、詳細ルールの検討が進む予定だ。このルール次第で、ETSの勝者・敗者が決まることになる。

2026年度に始まる日本版ETSは、直近3カ年平均のCO2直接排出量が10万t以上の法人が対象だ。当面は排出枠を全量無償で割り当て、企業ごとの削減実績と照らし合わせ、過不足分を市場で取引し、余剰は翌年度に持ち越せる。発電事業者に関しては、33年度から一部有償割り当てに移行する。

核心となるのが、無償枠の割当量と、取引価格の予見可能性を高めるために導入する上限・下限価格だが、業種ごとに求めるポイントは千差万別だ。

ETSでリーケージの回避は重要論点の一つだ


公平性の担保難しく エネルギー間競争に影響も

まず上下限価格から見てみよう。昨年、専門ワーキンググループの議論に参加した電力中央研究所の上野貴弘上席研究員は「とりわけ上限価格が重要で、費用が青天井となるリスクを取り除けたことは良かった。リーケージ(CO2多排出産業の移転)などのリスクと、国民負担で受容できる水準を考え、設定することになる」と解説する。

例えば発電事業者の場合、リーケージという概念はないが、価格が安すぎるとトランジションが進まず、高すぎると設備の休廃止が一層進む方へ向かう。既に顕在化している火力設備への投資停滞を加速させかねない。

他方、下限価格には、脱炭素投資に向けた必要最低ラインを示す意味がある。価格低迷時、政府が排出枠を市場から吸収する「リバースオークション」を行う方針だが、一定規模のETSでは世界で例がない手法だ。上野氏は「下限は上限より執行の難しさがある。かなりの試行錯誤となりそうだ」と強調する。

無償枠の割当量を巡っては、多排出産業は業種別ベンチマーク、その他分野は基準年の排出実績から毎年一定比率で引き下げるグランドファザリング方式となる。割り当ての総量と、そのパイをどう分配するのかが注目される。

再び発電事業者目線で見ると、ベンチマークは業種別で目指す水準が示され、電源構成で排出原単位が大きい事業者ほど負担が大きくなる。原単位を全電源平均か、火力などの区分で考えるのか、くくり方でも影響度合いは異なり、「一部に有利・不利とならないよう、公平性を重視してほしい」(某発電事業者)。ただ、発電事業者だけでもこのように事情はさまざま。「どの業種から見ても多かれ少なかれ不満が残る形になるだろう。業種の特徴への配慮と、共通ルールで重視する部分のバランスをどう取るかは相当難しい」(上野氏)とみられる。

エネルギー代補助なくならず 国が価格責任を持つ構図に!?

国の補助金でエネルギー価格を引き下げる愚策が、すっかり定着してしまったようだ。政府は物価高対策として、ガソリン価格を1ℓ当たり10円値下げする措置を5月中に実施するとともに、電気・ガス料金では7~9月の3カ月間、補助金を支給することを決めた。これを巡り、エネルギー関係者からは批判の声が聞こえている。

補助金ゼロとなった4月20日、埼玉南部の幹線道路では170円台を掲げるSSもあったが……

「石油、LNG、石炭ともに国際市場価格は落ち着いて推移している。しかも為替は円高傾向に。はっきり言って、国費を投入する理由は何もないわけだ。長期にわたる補助金の影響で、燃料油市場では価格決定メカニズムがおかしくなってしまったし、電気・ガス代でも補助金を入れた水準が当たり前のようになってしまった。適正な市場競争を通じて価格を引き下げるという小売り自由化の本来の目的はどこへいったのか。国は補助政策の功罪を検証し説明すべきだ」(都市ガス会社OB)

ガソリン価格の動向を見てみると、現状の問題点が浮かび上がる。4月17~23日、ガソリン補助金が2022年1月の導入以来、初めてゼロになった。翌週月曜日に予想されるガソリン全国平均価格が1ℓ当たり182・7円となり、ターゲット価格の185円を下回る見通しになったことによるものだ。


11年前と同水準のCIF 補助なしで20円近く安価

現在の原油CIF価格は、3月分で1㎘当たり7万4771円。これは14年1月分の7万4642円とほぼ同水準で、その頃のガソリン平均価格は160円前後で推移していた。つまり国の支援がなくても今より20円近く安かったわけだ。

「当時は元売りの数が多く、割安な業転玉が出回るなど、事業環境は大きく異なるが、今や政府が公定目標価格に誘導する補助金政策によって、ガソリン価格に責任を持つのはSS(サービスステーション)事業者ではなく政府という、ゆがんだ構図を作り上げてしまった。その罪は重い」(石油アナリスト)

1970年代に起きた二度のオイルショック。当時、国はどう動いたか。補助金を支給してエネルギー価格を抑制するのではなく、サンシャイン計画による新エネ技術開発、ムーンライト計画による省エネ技術開発のほか、原子力開発やLNG導入を政策で強力に推進。それによって、日本をエネルギー技術先進国へと押し上げたのだ。

「エネ価格抑制のために、エネルギー特別会計の年間総予算額1兆9千億円をはるかに上回る10数兆円規模の補助金がこの数年間で使われてきた。原子力や省エネ分野に投じていれば、利用者の支払うエネルギー代は実質的にもっと安くなっていた可能性がある。百歩譲って価格支援が必要というのであれば、料金低廉化によって国内経済の活性化をどう図っていくかという産業政策の展開が不可欠。現状では単なるバラマキだ」。大手電力関係者の嘆きは深い。

LPガス問題をテーマにシンポジウム 実質的な取り締まりの可否が焦点

【LPガス問題を考える会】

LPガス料金の透明化・適正化を求め、北海道消費者協会・北海道生活協同組合連合会などが中心となって結成した「LPガス問題を考える会」が主催するシンポジウムが3月26日、札幌市内で開催された。シンポジウムでは、学識者や行政、事業者の関係者らが一堂に会し、液化石油ガス法改正省令を巡る業界の現状と問題解決策について報告を行い、全国の業界関係者ら158人がオンライン配信を視聴した。

最新の政策動向について語る日置室長

基調講演した橘川武郎・国際大学学長は、「形式的に三部料金制をクリアすることよりも、いかに過大な営業行為を実質的に取り締まることができるかが商慣行是正の焦点となる」と指摘。「資源エネルギー庁が過大な営業行為の基準について、他の事業分野の事例に照らして正常な商慣習に相当するかどうかと踏み込んだ解釈を示したことは、非常に大きな前進だ」と評価した。

資源エネルギー庁燃料流通政策室の日置純子室長は、省令改正の第二弾として4月2日施行された「三部料金制の徹底」についての考え方を解説。施行後も集合住宅における既契約については、外出し表示をすることで設備費用をガス料金に上乗せできる状態が続くが、「投資回収後、事業者にはどのように新しい料金体系に移行していくのか考えていただく」と、いずれは全ての契約が新たな料金体系に切り替わるはずだとの認識を示した。


関係者の逮捕も ブローカー規制の是非

LPガスの営業を巡っては、事業者と委託契約を結び営業専門で活動するブローカーが問題を引き起こすことがある。直前に関係者が特定商取引法違反で逮捕される事件が発生したこともあり、今回のシンポジウムではブローカーを巡ってもさまざまな意見が出た。

橘川氏は、「商慣行をゆがめる要因の一つだ」として、「事業者に属していないとはいえ、ブローカーが暗躍している実態に目を向け規制の対象にするべく踏み込んだ対応が必要だ」と強調。一方で松山正一弁護士は、「ブローカー自体を規制することは難しいが、特商法、景表法(景品表示法)といった関連法規で規制していくことになる」と述べた。 こうした見解に対し日置氏は、「電気事業法やガス事業法に照らし、液石法の説明責任について見直す必要があると考えている。とはいえ、それだけでブローカーの問題が解決するわけではない。こうしたビジネスが成立している根本的な理由を知る必要がある」と語った。

水道管の2割が耐用年数超 ガス管や配電線への影響も

【今そこにある危機】井手秀樹/慶應義塾大学名誉教授

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は日本中に衝撃を与えた。

計画的な設備更新が不可欠だが、自治体の財政難など課題は多い。

石破茂首相が施政方針演説で「令和の日本列島改造」を訴えた。その後、間もなく1月28日、埼玉県八潮市で大規模な道路陥没事故が発生した。原因は老朽化した水道管の損壊とみられている。今回の八潮市の陥没事故は起こるべくして起こったともいえるが、その規模の大きさは想定外であり、衝撃的であった。こうした事案は単なる一過性の事故ではなく、上下水道に限らず、全国的な社会インフラ老朽化問題の象徴といえる。

この事故を受けて自主的に緊急点検する自治体も多い。国土交通省は全国の自治体に直径2m以上、1日当たり最大処理量が30万t以上の大規模処理場につながる下水道管を緊急点検するよう要請した。また事故再発防止に向けた中間取りまとめを間もなく公表するとしている。

筆者は10年近く東京都水道事業の経営問題に関わる座長を務め、また内閣府で地方公営企業経営の委員をしていた関係で、上下水道などのインフラについても審議してきた。東京都は継続的かつ計画的に首都直下地震に備えて水道管を強度の高いダクタイル鋳鉄管に更新してきており、99・9%完了している。また下水道管についても耐震化が実施されている。


陥没事故は増える見通し 料金値上げには議会の壁

地震など災害が多い日本において、社会インフラのぜい弱さや更新がかねて問題にされてきた。日本の社会インフラの多くは1960年代の高度成長期に整備されたものであり、それらの多くが更新時期を迎えている。だが更新は進んでいない。厚生労働省によれば、法定耐用年数の40年以上使われている水道管は約2割であり、今後も増加すると見込まれている。

それにもかかわらず、1年間の更新率は0・65%に過ぎない。同様に、国土交通省の資料によれば下水道管の総延長約 49万㎞のうち、法定耐用年数(50年)を超えている管路は約8%で、2030年には16%、40年には全体の約34%になると推計されている。

ちなみに22年度、全国で1万件を超える道路陥没事故が発生し、うち約2600件が小規模な下水道管破損に起因するものであった。発生件数は10年後には2倍以上に増えるおそれがある。国は下水道事業の効率的運営を目的として広域化を進めており、そのため事故の影響範囲が広範囲にわたる可能性がある。もちろん、適切な点検や修繕・更新を実施すれば、道路陥没は減らせる。しかし現状では対策が老朽化のスピードに追いついていない。

アンモニア製造に革命起こす 体制整え世界進出へ

【技術革新の扉】分散型小規模アンモニア製造技術/つばめBHB

新触媒を用いて低温・低圧でアンモニアを製造するつばめBHB。

同社の分散型小規模プラントは、アンモニア生成の固定概念を覆す。

アンモニアと聞いて浮かぶのは、トイレに入った時の不快な刺激臭かもしれない。だが、実際には農業用肥料、アミノ酸や半導体などといった幅広い分野で利用されてきた。近年ではCO2フリー燃料や水素キャリアとしても期待されており、国内需要は2030年に300万tと、足元の約3倍に増加すると予測される。現在、アンモニアの製造は約100年前に開発された「ハーバー・ボッシュ(HB)法」を用いて、巨大プラントでの「大量生産」体制で行われることが主流となっているが、そこに新たな選択肢をもたらそうとしているのが、東京工業大学(現東京科学大)発ディープテック企業の「つばめBHB」だ。

19年2月に運転を開始したアンモニア合成パイロットプラント


新触媒で製造に活路 低温・低圧で小型化を実現

HB法は、水素と窒素を高温・高圧下(400~600℃・20~100Mpa)で反応させてアンモニアを生成するため、膨大なエネルギーと巨大プラントが不可欠となる。供給の際には輸送・貯蔵のコストも上乗せされるため、アフリカや南米などの途上国では、肥料用途としてのアンモニアが十分に行き届いておらず、栄養不足の深刻化を招いている。

こうした現状に対処するには、プラントを小型化し、アンモニア製造をオンサイトで低コストに行えるようにする必要がある。そこで同社が目をつけたのが、「エレクトライド触媒」だ。

エレクトライド触媒でのアンモニア合成

12年に東工大の細野秀雄栄誉教授によって発見されたエレクトライドはカルシウムとアルミニウムの酸化物で、電子を与えやすい性質を持ちながらも安定性が高いといった特徴がある。これを生かし、放出された電子で原料である窒素の三重結合を切断し、水素と反応しやすくすることで、「低温・低圧」でのアンモニア生成が実現。温度をおよそ100℃、圧力は4分の1程度に抑えられる。これによりプラントの「小型化」「分散化」「低コスト化」に成功したのだ。これらの技術の社会実装を目的に17年4月に創業した同社は、国内で2件の小規模分散型プラントの受注実績を有しており、そのうちの一つは今年8月の運転開始を見込む。

現段階では、HB法以外の合成触媒の研究はまだ日が浅く、改良の余地を残す。例えば、触媒の活性化のために電子を供与する構造体の上に固定されることが多いルテニウムなどの貴金属は希少価値が高く、コスト上昇の要因となる。こうした状況下で、細野栄誉教授や北野政明教授らで構成される科学大の研究チームは、ケイ酸塩化合物の一種であるケイ酸バリウム内の酸素の一部を水素陰イオンおよび窒化物イオンに置き換えた新物質の合成に成功。これはアンモニア合成に適した活性を持つもので、エレクトライド触媒に次ぐ、第二、第三の触媒となり得る技術だ。

同社は引き続きエレクトライド触媒を軸としつつも、これらの実用化の可能性を迅速かつ的確に検討するために、科学大すずかけ台キャンパスの中にオフィスを構えており、さらなる競争優位性の確保にも余念がない。


環境負荷の低さに特徴 海外展開も視野に

オンサイトでの小規模製造には、「CO2排出量低減」という利点もある。HB法は高温・高圧が不可欠で大量のエネルギーを消費するため、膨大なCO2を排出する。それに対し小型プラントは必要電力を再生可能エネルギーで賄うことが可能で、グリーンアンモニアとの親和性が高く、大幅なCO2排出量の低減が見込める。

代表取締役CEOの中村公治氏は「当社が手掛ける小規模分散型プラントはオンサイトでの製造を前提としているため、初期投資コストはもちろん、輸送・貯蔵コストも削減できる。加えて、必要な電力量も最小規模で済むことから、再エネに適した条件を持ちながらも経済的に恵まれていない地域のニーズとマッチする」と説明。既存用途の「肥料需要」に加えて、今後さらに新しい触媒を開発することで、急増する「クリーン燃料および水素キャリアとしての需要」にも対応していく方針だ。

昨年2月には貴金属やヘルスケアなど幅広い分野でグローバルに展開する独へレウス社からも出資を受けた。これまでに累計76億円を調達した同社は、海外進出に乗り出す構えだ。日本発のアンモニア製造技術が、世界に羽ばたこうとしている。

【小林一大 参議院議員】県議会の意見集約がベター

こばやし・かずひろ 1997年東京大学経済学部卒業。大手損害保険会社勤務を経て、2007年の新潟県議会議員選挙で最年少でトップ当選。4期務めた後、22年に参議院議員選挙で初当選(新潟選挙区)を果たす。24年11月第二次石破茂政権で防衛大臣政務官に就任。

新潟県選出の参議院議員として柏崎刈羽原発の必要性を認め、再稼働を容認する。

県民投票条例を求める署名提出などで県内が揺れる現状をどう見ているのか。

新潟県議会議員を4期務めた後、2022年の参議院選挙で初当選した。石破茂政権では防衛大臣政務官を務め、日本の安全を守るために汗を流す日々を送る。

地元の新潟県は、柏崎刈羽原子力発電所6、7号機の再稼働を巡って揺れている。23年12月に原子力規制委員会が核燃料の移動禁止措置を解除。昨年3月には当時の斎藤健経済産業相が、新潟県と立地市村に再稼働の理解を求めた。柏崎市と刈羽村は容認しているが、県の同意は得られていない。

「安全性が確認された以上、再稼働の判断に時間をかけるべきではない。早期に再稼働させ、新潟県が国の電力需給に貢献している姿を示すべきだ」。こう主張する一方で、これまでの経緯から判断に慎重になる知事や県議には理解を示す。自民党は16年の県知事選で全国市町村会会長などを務めた実力者である森民夫長岡市長(当時)を擁立。しかし、野党統一候補の米山隆一氏に敗れた苦い記憶がある。

花角英世知事は初当選した18年の知事選で、再稼働は自らが是非を示した上で「県民の信を問う」との公約を掲げた。その手法としては、①知事選、②県議会の意見集約、③県民投票─の三つの可能性が挙がる。③については、3月下旬に市民団体が県民投票条例の制定を求める直接請求を行う見通しだ。その場合、4月中旬に県議会の臨時会が開かれる見込みとなっている。

12年にも同様の請求が行われたが、当時の臨時会では自民党県議として質問に立ち、こう訴えた。「国策であるエネルギー政策は国の責任で行うもので、県民投票には馴染まない。県の技術委員会などの知見を踏まえて政治的に判断することが、県と議会の責任だ」。この考えは今も変わらない。新潟県は面積が広く、原発から遠く離れた市町村も存在する。県民の考え方も多様で、二者択一では拾い切れない。

エネルギー業界の人材獲得戦略 キャリア・新卒採用の秘訣は

【多事争論】話題:エネルギー企業の人材確保

他業種同様、エネルギー業界も優秀な人材獲得に頭を悩ませる時代である。

キャリア採用やリスキリング、そして新卒採用でどんな視点が求められるのか。


〈 ニーズ拡大し続けるGX人材 「脱・脱炭素」でも競争激化 〉

視点A:出馬弘昭/グリーンタレントハブ シニアアドバイザー

エネルギー業界でGX・DX人材の拡充は急務だ。まず、GX人材の拡充は、①社内化石燃料人材のリスキリング、②企業買収、③キャリア採用―などがある。欧米では国を超えて人材の獲得競争が始まっており、先進事例を紹介する。

①では、英British Gasがガスボイラーのエンジニアを、EV充電設備やヒートポンプのエンジニアにリスキリングする。また英National Gridはガス土木から地中熱ヒートポンプのエンジニアにリスキリング。石油ガス掘削から地熱エンジニアへのリスキリングも進む。②では、英蘭Shellが蓄電池製造の独Sonnenを買収し蓄電池人材を、米石油OccidentalはDAC(直接空気回収)のカナダCarbon Engineeringを買収しCO2回収人材を獲得した。仏電力Engie、伊電力Enel、英石油BPはEV充電器製造の蘭EVBox、米eMotorWerks、英ChargeMasterをそれぞれ買収しEX充電事業を多国展開する。電力会社のヒートポンプやPVパネル製造業の買収も進む。③としては、National Gridがニューヨーク州やビル省エネの米BlocPowerと提携し、地域住民向けにヒートポンプ技術者養成プログラムを提供しキャリア採用する。

DX人材の増強でもGX同様、①、②、③の取り組みが進む。

①では、米電力Exelonが「Analytics Company」を目指し「Exelon Utility Analytics Academy」を開講。全社員に分析文化を根付かせ内製開発を拡大し、デジタルリスキリングを推進する。②では、Enelがデマンドレスポンスの米EnerNocを買収しEnel Xとした。

同社は蓄電池制御の米Demand Energy Networksやデジタル決済の伊PayTipperなどを次々と買収し、3000人超のDX人材を確保し内製開発とデジタル事業を展開。独E.ONも独デジタル企業のenvelio とgridXを買収した。③では、米電力Duke Energyが「Data Driven Company」を目指し「Duke Energy Innovation Center」を開設。400人体制で、常時80の内製開発プロジェクトを進める。DX人材の多くはキャリア採用だ。全社でデータアナリストを約100人キャリア採用し、うち30人が同センターに在籍する。

他方、日本では情報システム部門をDX部門と改名しさまざまな取り組みが進むが、GX人材の獲得は黎明期だ。


日本でも徐々に取り組み加速 海外の人材獲得のチャンスも

新しい動きとしては2023年、日本初のGX人材に特化した採用・育成事業のグリーンタレントハブが設立された。当社へのGX人材のニーズは主に三つ。第一はディープテックの事業開発職で主に商社やコンサルティング出身者が求められる。第二は再生可能エネルギーやカーボンニュートラル(CN)関連の専門職で、コンサルティングやサステナビリティ推進部門の需要が高い。第三は電気エンジニアで再エネ発電・EPC事業者の需要がある。

報酬面では、エネルギー・インフラ業界の平均年収は670万円だが、グリーン企業では900万~1000万円と、伝統的電力会社を上回るケースも出てきた。当社経由の転職者は10~30%の年収アップを実現することが多い。当社はGX人材の専門家80人超と対談する「脱炭素キャリアチャンネル」を運営しており、是非ご覧いただきたい。

また昨年、GX人材の拡大に向けた「グリーン人材開発協議会」が発足した。今年3月14日に開かれたセミナーの概要を紹介する。

同協議会代表の橘川武郎・国際大学学長は第7次エネルギー基本計画によるGX人材への影響を述べた。今回初のリスクシナリオは現実的でCN後退と言えるが、国はCNの旗は下ろしていないため複雑度が増した。よって、より多様なGX人材ニーズが高まり、大企業だけでなく中小企業、NGO・NPO、自治体など幅広い領域で必要になる。

この他、経済産業省のGX政策と、GX推進企業調査レポートの中から4社(三菱重工、デンソー、グリーンカーボンなど)の事例を紹介。パネルディスカッションではNTTグリーン&フード、リクルートなどが社内からの獲得・育成、企業買収・協業、キャリア採用の秘訣や課題を議論した。同協議会への入会は無料。slackで最新情報を発信している。

欧米では脱・脱炭素の動きもあるが、世界が50年CNを志向する限り、日本でもGX人材の獲得競争は激化するであろう。欧米の脱炭素分野のスタートアップやベンチャーキャピタルが日本に注目しており、海外の人材獲得のチャンスでもある。日本もグローバルな視点でGX人材獲得に動く時が来ている。

いずま・ひろあき 1983年大阪ガス入社。2018年東京ガス入社、シリコンバレーでCVC立上げに参画。現在、東北電力アドバイザー、大阪大学フォーサイト取締役、エクサウィザーズ顧問、インベストメントLabシニアアドバイザーなどを兼務。

【コラム/4月25日】トランプ相互関税を考える~試される企業の適応力、国民・政府は慌てずに

飯倉 穣/エコノミスト

1、トランプショック

日本経済は、24年横ばいで推移した(GDP前年比実質0.1%増、名目3%増)。今年も春闘で物価上昇を上回る賃上げコールがあった。実際一部5%超えもあったようである。経済論的に勘違いながら上向き期待の声も響いた。そこにトランプショックである。

報道は伝えた。「トランプ氏発表 一律10%に上乗せ 米相互関税 日本24% 輸入品に国別税率 自動車関税25%も発動」(朝日25年4月4日)、「トランプ相互関税 日本24% 想定上回る 崩れる自由貿易 戦後秩序の転機に 車25%関税発動」(日経同日)。

米国政府は、4月5日すべての国・地域からの輸入品に一律10%関税の実施を始めた。9日に高関税率適用直後、高関税90日間一時延期(自動車関税25%は継続)となる。朝令暮改に困惑と安堵が交錯する。

政府は、「国難」一致団結で訴える。関税対策で、与野党党首会談もあった(4日)。首相が米国と電話協議した(7日)。当面対応の試行錯誤の継続となろう。米国の関税発動は、日本経済にどんな影響を与え、経済の各主体はどのように行動すべきだろうか。過去の経験も踏まえ、今後の経済の動向と対応を考える。


2、トランプ相互関税の理屈と内容

相互関税による輸入規制に関する大統領令(4月2日)が発出された。その趣旨は、貿易赤字の継続は、米国の国家安全保障と経済に関する脅威で、且つ製造基盤の空洞化を招来している。世界の製造業生産高比米国製造業生産高は17.4%(2001年28.4%)に落ち、この四半世紀で製造業の雇用は約500万人減少。ただGDP比製造業シェア11%ながら米国全体の生産性伸びの35%、輸出の60%を占める。この製造業の低下傾向の逆転こそが、米国競争力の未来を決める。

他国は、米国と比べ高関税を課し、また非関税障壁で米国の製造業者の市場アクセスを阻害している。加えて通貨慣行(通貨安)や付加価値税等の政策で国内消費を抑制し米国輸出を押し下げている。この非対称性が、米国の貿易赤字を増加させている。

つまり貿易不均衡は、国内製造業の拡大機会を減じ、雇用喪失、製造能力減少、防衛関連産業基盤の委縮を招いている。国防的に、工業能力の損失は、軍事的即応性を損なう面もある。故に米国の経済的地位強化の努力が必要である。そのため相互関税政策を採用する。輸入品に従価税10%に加えて特定国に対し追加関税を課すと述べた。かつて国益一致と標榜していた自由貿易の先導者が、自己都合で互恵的な自由貿易を捨て去る宣言だった。

日本は非関税障壁込みで対米国関税率は46%と計算された。その計算式は、凡そ財に関する貿易相手国の対米黒字額/貿易相手国の対米輸出額である。日本に対する相互関税は、その約半分24%になった。他国は、様々である。

【エネルギーのそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年4月号)

JKM価格の決まり方/水素の種類

Q JKM価格はどのように決まっているのでしょうか。

A JKM価格は、S&P Global Commodity Insightsの部門であるPlattsが毎日発表する、アジアLNG価格の指標です。これは、実際の取引価格に焦点を当て市場データを取り込むマーケット・オン・クローズ(MOC)というプロセスに基づいて決定されます。 JKMの決定は、およそ1カ月から2カ月後に日本、韓国、台湾、中国に到着するLNGの確認できたスポット市場取引に基づいています。価格は、揚げ地までLNGを輸送する際に関連するすべてのコストを反映するDelivered Ex Ship(DES)ベースで評価されます。

MOCプロセスは、PlattsがLNGを含むさまざまな商品の価格を評価するために使用しており、その日の市場が閉じた時の価格を反映しています。 市場参加者は、Platts Editorial Windowと呼ばれる電子プラットフォームを通じて買い注文、売り注文を送信し取引します。これらの送信はリアルタイムで表示され、市場が閉まる日本時間の午後5時30分まで表示されます。 市場が閉じた後、Plattsの編集者は、送信された買い注文、売り注文、成約を含むデータを見直します。編集者はこの情報を分析して、市場の終値を反映する価格評価を決定します。最終的な価格評価は、透明性の高いMOCプロセスのデータを優先的に用いて決定します。 このMOCプロセスは、公正で透明な市場価格を確立するために重要な役割を果たしており、世界中の市場参加者にとって信頼される情報源となっています。昨年のMOCは記録的に活発となり、取引量は前年の50%以上を上回る663万tとなりました。第4四半期には、冬期の強い需要によって、買い注文、売り注文、取引の合計数が過去最高の866件となりました。

回答者:河崎厚子/S&P Global Commodity Insights アジア・太平洋LNG価格調査スペシャリスト


Q 色の名を冠する「○○水素」は、一体いくつ存在しているのでしょうか。

A グリーン水素やグレー水素、ブルー水素など、水素に色を付けて呼ぶのを聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。水素は無色透明で、実際の水素に色が付いているわけではありませんが、色を付けて呼ぶことで、その水素がどのような製造方法で作られたのかを区別しているのです。

グリーン水素は、再エネ由来の電力で水を電気分解して作った水素。グレー水素は、化石燃料由来の水素で製造時にCO2を排出する水素。ブルー水素は、化石燃料由来の水素で製造時に発生するCO2の排出をCCSなどで抑制した水素。といった具合です。この他にも、例えば、ターコイズ水素(メタンの熱分解で製造した水素。副生物を固体の炭素とすることでCO2の発生を抑制)やホワイト水素(自然界に存在する天然水素)など、多くの呼び方があります。

注意しなければいけないのは、このように水素を色で呼ぶことに国際的な定義があるわけではなく、あくまで慣用的に用いられているものだという点です。ですから、例えば、ホワイト水素は、前述の天然水素ではなく工場からの副生水素に対して用いられる場合もありますし、原子力由来の水素は、ピンク水素、イエロー水素、レッド水素など、さまざまな呼び方がされています。

もう一つ注意しなければいけないのは、色による区別は水素の由来をわかりやすく示すものではありますが、その水素が持つ環境性(CO2排出量など)を正確に表すものではないという点です。この点を解決するために、水素を色ではなく、炭素集約度(Carbon Intensity)で区別しようという動きが国際的に進んでいます。

回答者:飯田重樹/エネルギー総合工学研究所 理事 カーボンニュートラル技術センター長

【需要家】サプライチェーンの脱炭素 課題か成長機会か

【業界スクランブル/需要家】

1月、物流大手のヤマトHDが、JERAと協業して再エネ電力などを調達・販売する事業を始めると公表した。ヤマトグループは自社のEVシフトと並行し、グリーンイノベーション基金を活用したEVの運用や充電の最適化、拠点間での電力融通のシステム開発などに取り組んできた。同時に、EVや充電設備の導入支援サービスの外販にも手を広げている。その上で、EV化による脱炭素実現のカギとなる再エネ電力の調達・販売にも進出し、サプライチェーンの脱炭素化を加速する狙いだ。物流企業が有する拠点や輸送網といったインフラが、地域のエネルギー流通ひいては脱炭素化のハブになるという着想はとても興味深い。

サプライチェーンに対する脱炭素化手段の提供について、例えば米国ではサプライヤーが再エネ電力を調達する(共同調達含む)ためのプラットフォームを展開する事例が見られる。小売大手のWalmartは「Project Gigaton」、食品大手のPepsiCoは「pep+ REnew」を、いずれも仏・Schneider Electricと連携して運用し、スコープ3の削減を進めている。

サプライチェーンの脱炭素化というと、米・Appleの調達要件化や、日本の大手製造業などに見られる「見える化支援」、「削減計画策定の要請」といった、サプライヤーの行動を喚起する施策が中心になっている。そうした中でヤマトグループの取り組みは、サプライヤーに対して主体的に脱炭素化手段を提供する実効性の高いアプローチといえる。さらに、取り組み自体を自社の成長機会と捉えた事業展開はしたたかであり、今後の進展には要注目だ。(P)

【再エネ】再エネ普及を下支え 蓄熱技術の可能性

【業界スクランブル/再エネ】

変動性の再エネ電源は、常に効率的な運用に悩まされてきた。特に太陽光発電の普及が進む九州エリアは、系統安定化の観点から出力抑制をいつ受けるか分からないリスクをはらむ。エネルギーマネジメントの観点とEV普及施策の要として高効率の蓄電池の開発が進められてきたところだが、にわかに再注目されているのが新たな蓄熱素材の開発だ。最近では東芝と中部電力や三菱電機が行う高効率な蓄熱素材の開発が話題となった。東芝と中部電が共同実証を行うのは岩石を用いた蓄熱材だ。蓄熱容量は10‌MW級、一般家庭880世帯分の1日の電力量に当たるといい、相当な規模である。

これまで工場や発電所では省エネの観点から廃熱回収・再利用が進められてきたが、ネックとなったのは温度帯だ。廃熱が発生する場所から再利用する場所まで、離れれば離れるほど熱損失が大きく再利用できる温度帯を下回ってしまう。そうした配置上の制約から廃熱は高温回収が前提となり、活用が限定されてきた。一方、三菱電機が東京科学大学と共同開発する蓄熱材は、30~60℃の比較的低い温度帯の熱回収が可能だ。水を主成分として安全性が高いことに加え、高密度で低温廃熱を回収できる意義は大きい。

脱炭素社会の実現に向けて、再エネ電力は普及が進んでいるが、熱源の脱炭素化は難易度も高い。例えば水素・アンモニア利用などの技術検討は進んでいるものの、コスト面のハードルは依然高い状況にある。蓄熱技術は熱利用だけでなく電力として利用することも可能だ。再エネ普及を下支えする手段の一つとして、蓄熱技術の可能性にも注目していきたい。(K)

国のビジョンと共鳴が成功条件 洋上風力の歴史の中で役割果たす

【エネルギービジネスのリーダー達】中山智香子/イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン社長

多角的にエネルギートランジションに寄与すべく、日本ではまず洋上風力開発に取り組む。

長い目で見て人を幸福にするためのエネルギーの変遷を模索し続ける。

なかやま・ちかこ 日本企業のエンジニアを経て北米に渡り、プロマネとして数千億円の事業を成功させ、オイルメジャ―に移籍。複数の事業会社の代表役員として多くの国で事業投資を手掛け、帰国後、2022年から現職。

スペインに本社を置くイベルドローラは、国際的な総合電力会社では時価総額が世界トップであり、180年の歴史を持つ。収益の半分は送配電事業、次いで発電事業、その他、蓄電池や水素・アンモニアなど幅広く展開する。

2001年以降、化石燃料系を徐々に再生可能エネルギーへ置換し、現在は総発電容量(23年で約56‌GW・1GW=100万kW)の75%が再エネ由来だ。総合的に脱炭素化のソリューションを提供すべく、クリーンな電気の需要創出につながる技術開発、設備・事業への投資・参画などを進めている。

欧米を中心に20カ国以上に進出する中、日本を今後成長が見込まれるアジア市場での戦略的拠点と位置付け、20年に日本の再エネ事業者・アカシアを買収。イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン(IRJ)を設立した。同社の中山智香子社長は「会社の利益を考える枠を大きく超え、歴史の中での役割を考えることが、エネルギー会社の経営者には必要」とモットーを語る。

1990年代から東南アジア、中南米、中東、東欧などでの数千億・数兆円規模のエネルギー事業遂行や事業投資、各国政府との折衝など、エネルギー業界の変遷を最前線で経験してきた。これら事業の規模と性質故に政治・経済に影響を与え、逆に政治・経済に翻弄される日々から出た言葉だ。


エネルギーと制度の変遷 必要性の議論を

日本事業の先駆けと位置付けるのが洋上風力開発だ。本社が07年にスコットランドの電力公社を買収して以来、欧米を中心に多数の洋上風力開発を手掛けてきた実績を生かす。政府公募の第2ラウンドで、ENEOSリニューアブル・エナジー、東北電力、秋田銀行とともに、秋田県八峰町・能代市沖の事業者として選定された。計37・5 万kWの着床式設備で、29年6月の運転開始を目指す。

ただ、世界的なインフレの波が洋上風力業界にも押し寄せ、経済性の確保が目下最大の課題だ。日本の洋上風力事業は公共事業的な側面が強いが、他の電源開発よりリスクがある分、ある程度の利益を見込みたい。

一方で、過度な政府支援や国民負担を仰ぐのなら、経済的に自立できない電源であり、それはサステナブルとは言えない。国が洋上風力をそこから脱却させ日本に根付かせたいなら、現行制度の転換を視野に入れる必要があると指摘する。

「エネルギーの変遷には仕組みの変遷をも伴う。その仕組みとは洋上風力の規模と性質故に、他業界に広く影響を及ぼすような複数の制度であり、それらの変更は国益に関わるかもしれない」と中山氏。「例えば、カボタージュ(国内輸送を自国業者に限定するルール)や、国内工事には日本の建設ラインセンスが必須といった実情をどうするか。速すぎても遅すぎてもその変遷は国益を毀損することになりかねず、真の国益とは何かも含め議論が必要だ」と強調する。


真のサステナビリティへ 根拠ある現実的目標を

洋上風力以外でも、日本のエネルギートランジションに向け本社のさまざまな機能を活用する構えだ。「トランジションは従来のエネルギーを再エネに転換すればよいという単純なものではない。需要側の燃料・原料転換のプロセス技術の開発が伴ってこそ。国の仕組みの変遷でもあるが、技術の変遷でもある」と語る。

それを踏まえての需要家との技術面での関わりや欧州で長年培った需給調整のノウハウ、日本で26年度にスタートする排出量取引などのカーボンプライシングを念頭に置き、多角的に日本のエネルギーの変遷に寄与したいとしている。

欧米の実情に精通する中山氏に、日本の政策・ビジネスはどう映るのか。

「まず、国の明確なビジョンがあり、それと共鳴しなければ大型エネルギー事業は成功しない。ドラスティックな目標ではなく、根拠のある現実的なものを掲げなければ、後にお金や仕事を失う人が出てくる。自国の成り立ちや経済基盤、業界構造、技術の進展、国民の負担を熟慮した数字であってほしい」と求める。

無理な目標は大型事業を同じ時期・場所に集中させることにつながる。一極集中は、労働力や資材不足、価格高騰につながる。工事期間中は地域経済が活性化するが、工事が終われば閑散とする。そんなモデルは真のサステナブルとは言えない。

「長い目で見て人を幸福にするためのエネルギートランジションであってほしい。古いモデルだが、社会・経済・環境の三つの輪の重なるところがサステナブルであることに今こそ立ち戻り、今と将来の社会・歴史に対する責任を果たしたい」と志す。

イスラム問題の歴史を紐解く 秒読みに入った核武装の脅威

【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト

エネルギー、防衛、外交などが複雑に絡み合う原子力・核問題を巡る国際政治情勢。

海外取材の第一線で活躍してきたジャーナリストが、さまざまな角度から解説する。

原油は世界4位、天然ガスは世界2位の埋蔵量を誇る資源大国イラン。核開発にも力を入れ、核兵器取得も目前に迫る。問題解決を図ろうとトランプ米政権は、イランに取引を迫っているが、その一方で軍事攻撃もほのめかしている。最悪の事態に至れば、原油の9割を中東に頼る日本にとっても一大事となる。イランを巡る情勢は、今後どのような道筋をたどるのか。

「近く、何かが起きるだろう。非常に近くだ」。米国のトランプ大統領は3月7日、ホワイトハウスで記者団にこう語った。その前日にイランの最高指導者ハメネイ師に書簡を送り、直接交渉を呼びかけたばかりだ。交渉の目的はイランの核武装を防ぐこと。トランプ氏は大統領1期目に、北朝鮮の金正恩氏との会談を実現させた経緯もあり、ハメネイ師を得意の取引の場に持ち込みたいとの思いが強い。

ただトランプ氏は「軍事介入すればひどいことになる」と述べ、硬軟両様の構えで臨む姿勢だ。イランの核兵器取得はまさに秒読み段階にある。「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)の最新報告書によると、2月8日時点で、イランが保有する60%濃縮ウランは274・8㎏に達した。核爆弾にするには90%にまで濃縮度を上げる必要があるが、すでに核兵器6発分に相当する量の高濃縮ウランを保有する。

テヘランにある旧米国大使館


中東一の親米国イラン 栄華崩壊のきっかけは?

米国以上にイランの核を「安全保障上の脅威」と捉えているのはイスラエルだ。米紙ワシントンポストは2月、米情報機関が、イスラエルが今年上半期中にイランの核施設を空爆する可能性がある、と分析していると伝えた。昨年の空爆で損傷を与えたイランの防空網が再構築される前に、本格攻撃に踏み切りたいとの思いがあるようだ。

「騒乱の海に浮かぶ安定の島だ」。カーター米大統領は1977年の大みそか、イランの首都テヘランでの晩餐会で、イランをこう礼賛した。当時のイランは中東一の親米国だった。旧ソ連と長い国境を接するイランは、冷戦を戦う米国にとって地政学的に極めて重要な場所にあった。米国はイランのパーレビ国王を手厚く支援、最新鋭のF14戦闘機を供与するなど特別扱いを続けた。

だが、79年2月に起きたイラン・イスラム革命と、それに続くテヘラン米大使館占拠事件で米・イラン関係は暗転する。イランは米国やイスラエルとの国交を断絶し、「アメリカに死を!イスラエルに死を!」と叫び始めた。イランは勢力圏拡大を図るため、周辺イスラム諸国に「革命の輸出」を始めた。反体制派に資金や武器を提供し代理軍を形成していく。その代表格は、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」や、パレスチナ自治区ガザ地区を本拠とするイスラム組織「ハマス」。さらに、シリアのアサド政権とも強固な同盟関係を築く。

イスラエルから見れば、北はヒズボラとシリア、南はハマスと、イランの息のかかった武装勢力に挟まれる形となる。さらに米国が2003年にイラクのフセイン政権を倒し親イラン政権が樹立されたことで、状況は悪化。イランはイラクからシリア、レバノンに至る広大な地域への影響力を強めた。地理的な形状から、この地域は「シーア派の三日月地帯」と呼ばれた。

だが、イランが誇った栄華は23年10月7日、皮肉なことに手厚く支援してきたハマスのイスラエル奇襲をきかっけに崩れることになる。イスラエルはハマスの壊滅を目指して報復攻撃に出た。ガザで戦争が始まると、ヒズボラは連日、ロケット弾を撃ち込むなど、イランが育成してきた各国の代理軍はイスラエルへのいやがらせを始めた。

イスラエルはヒズボラと戦端を開けば、南部でのハマスとの戦線に加え、北部でヒズボラとの二正面作戦となる。戦力が分散され不利になると考えた。当初こそ慎重な対応に終始していたが、ガザでの戦闘にメドが立ち始めると余裕が生まれる。

ガザでの戦争開始から約半年後の24年4月1日、イスラエルはシリアの首都ダマスカスのイラン大使館を空爆、代理軍を陰から操るイランに反撃を始めた。2週間後、イランは初のイスラエル攻撃に踏み切る。だが防空網に阻止され、損害は軽微にとどまった。イスラエルはその5日後、イランを空爆する。


イランとイスラエルの衝突 狙うは核施設の空爆か

直接対決の「第二幕」は、7月31日に開いた。イランのペゼシュキアン新大統領の就任式に出席するため、首都テヘランを訪問中のハマスの政治局トップであるハニヤ氏が、イラン側が用意した宿舎で殺された。イスラエルによる暗殺とみられる。

9月には、レバノンでイスラエルがポケットベルに仕掛けていた爆発物が一斉に爆発、多くのヒズボラ戦闘員が死傷する。イスラエルはヒズボラの指導者ヌスララ師を空爆で殺害、10月にはレバノンに地上侵攻する。

劣勢に立たされたイランは10月、イスラエルと2度目の戦火を交える。弾道ミサイルなど180発で攻撃したが、損害はまたも軽微。イスラエルは、イランの防空網やミサイル製造施設を徹底的に破壊した。そして12月、シリアのアサド政権倒壊という誰もが予想していなかった事態が起きる。反体制派「ハヤト・タハリール・シャム」を中心とするグループが、半世紀以上もシリアを支配していたアサド独裁政権を倒した。

ハマス、ヒズボラという長年のライバルを叩きつぶした上、「棚からぼた餅」的なアサド政権の崩壊で、最も得をしたのはイスラエルだ。この機に乗じてイラン核施設を本格的に空爆し、安全保障環境を盤石にしたいとの思いが募る。ロシアが米国とイランの仲介役に名乗りを上げるなど、緊張緩和を模索する動きも相次ぐ中、ハメネイ師は3月8日の演説で、トランプ氏の書簡には直接触れず、米国との交渉には応じないとの従来方針を強調した。 トランプ米政権誕生でイラン・イスラム体制は大団円を迎えるのか。それとも……。