【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年8月号)



【川崎重工業/水素運搬船用貨物タンクの技術開発を終了】

川崎重工業は6月、大型液化水素運搬船用の貨物タンク(CCS)の技術開発を完了したと発表した。これは、NEDOの助成事業で、大型液化水素運搬船用CCSの性能確認用タンクの設計・製作と性能確認試験を進めてきたものだ。水素の海上輸送には、超低温の液化水素を長期間安定して保冷するタンクが不可欠だ。その実現のため、同社はこのほど新構造のCCS「CC61Hタイプ」を開発した。4基の合計搭載容量16万㎥の実物に近い規模で試験用タンクを製作し、ガス置換・冷却・昇温試験を実施。タンク内の大空間が不活性ガスにより効率良く置換できることや、計画通りの断熱性能が得られることを確認した。同社は今後も、水素エネルギーの普及を目指していく。


【伊藤忠商事・カネカソーラー販売/兵庫県豊岡市で電力サービス事業を開始】

伊藤忠商事とカネカソーラー販売は、豊岡地域エネルギーサービス合同会社を設立し、2023年度から豊岡中核工業団地で蓄電所事業、太陽光PPA事業、地域マイクログリッド事業を組み合わせた電力サービス事業を開始する。伊藤忠商事が展開する商用EVの使用済み蓄電池をリユースした大型蓄電システムを同事業の中心に据え、卸電力市場、需給調整市場、容量市場で活用し電力市場の安定化に資する運用を行う予定。また、同工業団地の入居企業各社の建物の屋根に設置する太陽光発電設備で発電した電力を各社に供給するPPA事業も展開。余剰電力は、伊藤忠グループのアイ・グリッド・ソリューションズが買い取り、周辺地域に電力供給を行う。


【ブルーイノベーション/ドローンポートシステムで世界初の国際標準規格を取得】

ブルーイノベーションが手掛ける物流用ドローンポートシステムの設備用件が、「ISO5491」として国際標準規格化された。150kg以下のドローンを扱うポートが国際規格として採用されたのは世界初。これにより、世界中の物流におけるドローンポートシステムの開発や運用実証、事業化検討などが同規格に基づいて進められるようになり、グローバルな情報共有や技術開発、社会実装の加速に期待が高まる。さらに同社は8月1日、同規格に準拠したドローンポート情報管理システム「BEPポート|VIS」のβ版の提供を開始する。物流事業者や点検事業者、ドローンポートメーカーなどとともに、物流や災害対策、点検、測量などの分野でドローンの利活用を目指す構えだ。


【中国電力/水力発電計画の策定に向けたAI開発】

中国電力は、エクサウィザーズ社と共同で、AIを使用して貯水池式水力発電所の発電計画を最適化するシステムを開発した。従来は、簡易なダム流入予測と熟練者の経験で策定していた。システムの活用でダム流入量の予測精度を高め、より精緻な発電計画を策定して、さらなる水資源の有効活用やCO2排出量低減につなげる。佐々並川ダム(山口県)と周布川ダム(島根県)で試運転済みで、今後は実運用に移行する。改善を加えながらほかのダムへの導入も進める計画だ。


【ジャパンマリンユナイテッド/洋上で浮体を接合 モックアップ試験を実施】

ジャパンマリンユナイテッドは、洋上風車浮体の量産化手法を確立するため、洋上風車浮体の洋上接合のモックアップ試験に着手した。現在、浮体製造に適した幅80m以上の大型ドックは国内に数カ所しかない。風車の大型化に対応し浮体のサイズが大型化すると、ドック内で浮体を完成させられなくなる。このため、同社ではドック内で浮体を一定サイズのブロックまで作成した後、進水させ、洋上で浮体ハーフボディー同士を溶接接合する工法を考案した。国内の多くの造船ドックで製作が可能になる。


【大阪ガス・三井化学/泉北コンビナート CO2を回収し利活用】

大阪ガスと三井化学は、泉北コンビナート(大阪府堺市)から排出される二酸化炭素(CO2)を回収し、利活用する事業の共同検討を5月末に開始した。三井化学の製造プラントなどの排ガス、およびDaigasグループの泉北天然ガス発電所の排ガスからCO2を分離・回収する。さらにそのCO2を国内外でメタンやメタノールなどの原料として再資源化して利活用(CCU)したり、回収・貯留(CCS)することを想定している。両社は国が主導するカーボンニュートラル燃料の供給拠点の実現を目指して取り組む。


【関西電力/舞鶴発電所向け燃料輸送にLNG船導入】

関西電力は、舞鶴発電所(京都府・石炭火力)向けの燃料輸送で、LNGを燃料とする船舶を導入する。商船三井と輸送契約に関する基本協定書を交わした。船の載貨重量は約9万4900t。2026年7月完成の予定だ。LNG燃料船は、従来の船舶燃料油を燃料とした輸送船に比べ、約25%のCO2削減が見込まれるため、輸送分野での温室効果ガスの総排出量削減を通じて、社会全体の排出量削減に寄与する。窒素化合物(NOX)は約85%、硫黄酸化物(SOX)は100%削減できる。


【日鉄エンジニアリング/第2世代バイオ燃料 生産設備着工】

日鉄エンジニアリングは6月、次世代グリーンCO2燃料技術研究組合から受注した第2世代バイオエタノール生産設備を着工したと発表した。運転開始は来年10月の予定。現状の自動車用バイオエタノール燃料は、可食性バイオマスが原料の第1世代が大半だが、農業残さなどの非可食性バイオマスを原料とする第2世代製造技術の普及が求められている。


【NextDrive/コンソーシアム参加 家庭用蓄電システム制御】

NextDriveはエナリスがリーダーを務めるコンソーシアムに、リソースアグリゲーターとして参加する。国内最大規模となる分散型リソースを導入する、アグリゲーションビジネス拡大のための実証事業だ。蓄電池やデマンド・レスポンスは、調整力として活用される。同社はIoEプラットフォーム「Ecogenie+」をベースに、家庭用蓄電システムの制御を担う。


【JFEエンジニアリング/食品リサイクル発電 プラント本格稼働開始】

愛知県小牧市で、JFEエンジニアリンググループが手掛けた食品リサイクル発電プラントが5月末に稼働した。1日最大120tの食品廃棄物を受け入れ、微生物の力で発酵、発生させるメタンガスを燃料にして発電を行う。発電出力は1100kW、年間の発電量は約9200MW時を想定している。小牧市は、2016年から5年連続で廃棄物リサイクル率が愛知県内で1位となるなど環境への意識が高く、再エネの導入にも積極的な地域だという。JFEグループは処理過程で発生した発酵残さを肥料化して活用することも検討している。


【大成建設・デンソー/空調設備でCO2回収の実証を開始】

デンソーと大成建設はこのほど、大成建設技術センター内にある「人と空間のラボ(ZEB実証棟)」で、デンソーが開発したCO2回収システムを用いてCO2を効率的に回収し、利活用する共同技術検証を今年9月に開始すると発表した。デンソーは、工場などから排出されるCO2だけでなく、日々の生活の中で排出される小規模で低濃度なCO2回収も視野に入れている。この検証では、大成建設の会議室の空調設備にデンソー製のCO2回収システムを組み込み、会議室使用時の排気からCO2を回収。そのCO2を環境配慮コンクリート「T― eConcrete®」に固定する実験などを行う。両社は今後、検証の成果を踏まえながら、脱炭素社会の実現に貢献する構えだ。

対話AI研究は「心の解明」 普及には電力消費量の課題も


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.17】関口博之 /経済ジャーナリスト

今回はチャットGPTで話題沸騰の生成AI、特に対話型AIの話を。モニターに映る「Saya」は表情もリアルな3D・CGのキャラクターだ。アイシンとAIベンチャーなどが取り組むこのプロジェクトに名古屋大学の東中竜一郎教授も参加している。研究室で「Saya」に対面させてもらった。見た目がリアルな分、音声会話がぎこちないと逆に違和感が目立つ。いかに自然な会話をするか、その対話システム開発がテーマだ。

対話AI「Saya」©アイシン
提供:アイシン

以下は私とのやりとりの一部。(AI)「あなたの親友がどんな人なのか教えてください」(私)「本当に困った時に助けてくれる人ですね」「とても大事なお友達ですね。困った時はお互い様ですからね」「ただし、お金を貸したり借りたりはあまりしない方がよいと思いますよ、親友でも」「そうですね、友達が困っていたらまず疑うべきですよね」「疑うのともちょっと違うんだけどね。親切でお金を貸しても、それが元でケンカになることもあるから」「なるほど、人を喜ばせるのも、お金を借りるのも似てますね」「うーん、なかなか意味が深いね……」と最後は当惑。こちらも不慣れだが、AIもまだ“学習”が必要なようだ。

もちろん人間同士でも話がかみ合わないことはある。東中教授によれば、ただそうした時、人は相手に歩み寄るという。「それってどういうこと?」と聞き返して会話を続けようとする。子どもには平易に、老人にはゆっくりと、この感覚で人間とAIも相互に歩み寄るようになればいい、と東中教授は言う。

自然な会話には雑談も大事だが、それが“会話を続けるためのだけの会話”に終わっては意味がない。そこで東中教授が重視するのが、人間とAIが「共同作業をするための対話」だ。研究の題材に選んだのがビデオゲームの「マインクラフト」、ブロックのようなものを積み上げ建物や庭を作っていく。人間とAIがお互いの意図や望むものを言葉で交わしながら、協力し合うシステムを目指している。「君がしたいことはこういうことだね」というのを積み上げたブロックの形で可視化しようというのだ。AIと協力することで“人間の能力の拡張につながる”、東中教授はそう考えている。それにしても実感するのは、対話型AIの研究は人間の思考や心の解明であり、人間関係をどう築いているか、の探究だということ。それだけ人間の知能が奥深いということだ。

こうした研究の一方で、チャットGPTはすでにツールとして利用され、企業や自治体でも導入するところが出始めている。業務の効率化だけでなく、新たな企画のアイデア提示など、今後は生成AIを活用する際のスキルも蓄積されていくことだろう。ただ生成AIはディープラーニングの過程でデータセンターが膨大な電力を消費すると言われる。活用が広がり、より高度になればなるほど消費電力は増える。エネルギー需給上の大きな課題だ。それに比べ人間の脳のパフォーマンスはエネルギー効率上も優れている、とAIなら回答するかもしれない。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.15】メタンの排出削減 LNG輸入国としての責務

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.16】先行するEV技術 どう船に取り込むか

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

電力事業者とドローンの未来 送電線運用の「革命」なるか


【中国電力ネットワーク】

電力業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)といえば、スマート保安が挙げられる。

業務高度化への取り組みからは、保安の枠にとどまらない事業者とドローンの関係が浮かび上がってきた。

中国電力ネットワークは2020年、「経営ビジョン2030」の実現に向けて「DX推進計画」を策定。ドローンの活用など、先進的な取り組みを行ってきた。

ドローンの「航路」を構築 富士通と最先端技術で連携

まずはグリッドスカイウェイ有限責任事業組合の取り組みだ。同組合は、20年に東京電力パワーグリッド、NTTデータ、日立製作所が設立し、同年、中国電力ネットワークも参画。保安だけでなく、物流など新たな事業の創出を目的としている。

一見すると、つながりのなさそうな「電力と物流ドローン」だが、両者の関係は深い。というのも、将来的に物流でドローンが使われるようになったとき、好き勝手に飛び回れば追突などのアクシデントが起きかねない。飛行機と違って航空管制官がいないこともあり、ドローンには安全な「航路」が求められている。

そこでドローン用の航路として有力視されているのが、送電線など電力設備の上空だ。グリッドスカイウェイは全国共通の「航路プラットフォーム」の構築のため、周辺環境の情報収集など必要な要件の整理・検討を行っている。また航路構築や自動飛行、運航管理などのシステムの構築、ドローンの活用が期待される事業者と実証を通じた新たなビジネスモデルの検証を進めており、3月にはこれらの取り組みが経済産業省・デジタルライフライン全国総合整備計画の検討方針で、アーリーハーベストプロジェクトの一つとして取り上げられた。

さらに中国電力ネットワークは、いま課題となっているドローンの飛行時間の延長にも取り組んでいる。ドローンはバッテリーが主流だが、21年からドローンメーカー・ルーチェサーチと連携し、カーボンニュートラルと長時間飛行を実現する「水素燃料電池ドローン」を開発中だ。経産省が公募した「令和2年度(3次補正)産業保安高度化推進事業助成金」にも採択された。すでに機体を開発し飛行実験が行われている。

ドローンの運用は風況に大きく左右される。さらなる活用には安全に飛ばせるかどうか、飛行地点の環境データをリアルタイムかつ正確に把握する必要がある。

そこで白羽の矢が立ったのが、富士通の最先端技術「光ファイバーセンシング技術」だ。送電線には、落雷から保護するための架空地線に光ファイバーケーブルを内蔵した光ファイバー複合架空地線(OPGW)が使われている。光ファイバーセンシング技術は、まずOPGWに特定のレーザーパルス光を入力。後方散乱光などの光の変化や成分を測定することで、OPGWがどのように振動しているかを測定できるのだ。

光ファイバーセンシング技術を用いた取り組みの概要

さらに測定した振動データを富士通独自のデータ変換技術で変換し、風況など送電線近傍の環境データを推定する。これにより、変電所に測定装置を設置しておくだけで、70㎞先までの環境データを5mおきに把握できるのだ。中国電力ネットワークは富士通と21年9月から1年間の実証試験を実施。現地の実測データとおおむね一致することが分かった。

この成果はドローンの活用だけでなく、送電線運用に〝革命〟をもたらすかもしれない。それはダイナミックレーティング(送電容量の弾力的な運用)の実現だ。

送電線は外気温や電流によって温められるが、温度が高いほど送電容量が少なくなり、反対に強風などで送電線の温度が低下すれば、より多くの電気を送ることができる。送電線周辺の環境データを動的に把握し、送電線が冷やされそうなら送電容量を上げ、反対に温められそうなら下げる。これがダイナミックレーティングだ。

現状では、さまざまな場所に点在している送電線の温度をリアルタイムに測定することはできていない。このため、送電容量は少なめに固定されている。送電量がオーバーし、温度が上昇して電線の許容温度を超過すると、設備の損傷などで安定供給に支障が生じかねないからだ。

送電線運用の大転換へ 変電所の点検も高度化

しかし、光ファイバーセンシング技術で測定した環境データから送電線の冷却効果を計算できれば、ダイナミックレーティングが可能となる。特に現在の固定容量は、再生可能エネルギーの導入拡大においてネックとなっていた。容量オーバーになるため再エネが接続できなかったり、新たな送電線をつくる必要があるからだ。この点、ダイナミックレーティングの実現は、再エネの導入で現状の送電線を最大活用するために必要不可欠と言える。

ネットワーク設備部技術高度化グループの藤山徹マネージャー(所属は取材当時)は「ダイナミックレーティングが実現すれば、送電容量は最大で1.5倍程度になるのではないか」と期待を寄せる。今後の課題はいかに運用につなげていくかだといい、環境データや送電線温度データの活用に向け、送電線の運用を高度化するためのシステム開発を進めていく。

保安の高度化は、変電所においても進められている。現在、変電所には2カ月に1度、現地に足を運び巡視を行っているが、変電所1カ所の巡視で1日作業となることも。変電所の様子が事務所から把握できれば、変電所に足を運ばずにリアルタイムで異常の有無を確認できる。来年度から変電所にカメラやセンサーを順次設置し、変電所と事務所をつなぐ大容量の通信環境(保全IPネットワーク)の構築も進めていく。

保安、送電線運用、物流、機体開発……。中国電力ネットワークのさまざまな取り組みからは、保安業務が高度化し、ドローンが送電線の上を安全に飛び回る未来が鮮明に映し出されている。

岸田首相は歴史に名を残せるか 問われる重要問題解決への決断力


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会は、防衛財源確保法案や入国管理法改正法案、原子力の復権に道筋をつけるGX関連法案など、世論が分かれ与野党が対立する法案が多くあった。にもかかわらず、国論を二分するような議論には盛り上がらず、会期を延長することなく閉じられた。最大の要因は、岸田首相自らがG7サミットの成功を受けて解散風をあおり、解散を恐れる野党第一党が解散風に踊り、腰を据えた論議が行われなかったことにある。全ての重要法案が成立した後に立憲民主党が提出した内閣不信任案はまさに茶番そのものであり、あまりの情けなさに私はその採決の場にいることができなかった。国会に身を置くものとして、忸怩たる思いである。

私は官僚時代、そして政治家とこれまで30年近く国会の周りで生息してきたが、歴代首相のさまざまな解散の決断の瞬間や解散できなかった無念に立ち会ってきた。

1998年、支持率が低下していた橋本内閣は、6月の中央省庁等改革基本法案の成立の勢いを駆って衆参同日選挙を企図していたが、さまざまな勢力からの抵抗で解散できず、参議院の単独選挙で大きく議席を減らして退陣することとなった。2008年9月に誕生した麻生内閣は高支持率の好調な滑り出しの下、解散総選挙に向けた準備をほぼ終わらせていたが、なぜか麻生首相は解散を決断せず、結果的に翌年の衆院選での民主党政権への交代を招いた。

総裁選が一区切りに 問題山積のエネ政策

私がこれまで見てきた政権では、一度解散のチャンスを逃した政権に二度目の解散のチャンスはやってこない。むしろ、解散できなかったツケは内閣総辞職や選挙の敗北という結果を招くことが多いのだ。とすれば、岸田政権は自らの手で解散できずに退陣する可能性が高いのではないか。

一つの区切りは、自民党総裁選だ。岸田政権がたどる道は二つある。一つ目は、がむしゃらに自らの手で解散して勝利を獲得し、長期政権を目指す道。この道を歩む場合には、選挙の勝利のために財源確保のための増税や原子力政策の推進のようなものは先延ばしにして、北朝鮮の拉致問題の解決などの一発ホームランを狙うことになろう。しかし、こうした権力者の欲望は、得てして国にとっては大きな損失となる場合が多い。

もう一つの道は、任期の間に防衛財源の確保や安定供給に責任を持ったエネルギー政策を決断して、一つの仕事を成し遂げた首相として歴史に名を残すことである。久しぶりの宏池会政権の岸田内閣は、すでに在任期間は大平内閣や宮澤内閣を超え、来年2月には鈴木善幸内閣をも超える。言うまでもなく、岸田首相は誇り高き宏池会内閣として後者の道を歩むことを強く期待したい。原子力を含むエネルギー政策では首相が決断すべき問題が山積しているのだから。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

安価で環境性も優良 「E7」ガソリンを販売


名古屋を拠点に石油製品などを販売する中川物産が6月、名古屋市内の名港潮見スタンドで全国に先駆けて「E7」ガソリンの販売を始めた。

E7は飼料向けトウモロコシ(デントコーン)など植物を原料にして作られたエタノール(Eはエタノールの頭文字)を7%混ぜたガソリンのこと。同社は2011年から全国に先駆けて「E3」を販売していたが、E7でもパイオニアぶりを発揮する。

E7の価格は1ℓ当たり157円(7月12日時点)。従来のガソリンより1円安い。価格が安く環境にも良いとあって、6月の販売数量は約4000ℓと順調な滑り出しだ。当面は愛知県内20店舗に販売網を拡大するのが目標という。

エタノールは燃料として使うとCO2を排出するが、そのCO2は植物が光合成で大気中から吸収したものなので、単純計算では差し引きの発生はゼロだ。米国やブラジル、西欧などでは「E10」ガソリンが普通に流通している。ただ、「良いことばかりではない」(業界関係者)との指摘も。いずれにしても今後、関心が高まることは間違いなさそうだ。

電力の未来に魅力を感じて入所 電力系統の運用最適化に貢献する


【電力中央研究所】

花井悠二/電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部 ネットワーク技術研究部門 上席研究員

大学時代から電力系統の研究を行い、現在は系統の運用最適化やリスク評価の研究に尽力する。

日本の系統運用の未来を見据える花井氏に、これまでのキャリアと今後の目標を聞いた。

少年時代から物理が好きだった。中でも量子力学や半導体の分野に興味を持ち、太陽光発電や半導体レーザーなどのデバイス技術の研究が盛んな福井大学工学部に進んだ。「入学当初は、半導体に関する研究に従事したいと考えていたが、大電力送電に惹かれていった」と当時を振り返る。

福井大学大学院進学後、電力システム研究室に入った。当時指導教員だったのは、現在、早稲田大学のスマート社会技術融合研究機構で機構会長を務める林泰弘教授だ。電力工学の第一人者の下で配電システムや数理最適化の知見を深めた。「福井はのどかで食事もおいしく、研究に取り組むには良い環境だった」と思い出を語る。

大学院では、配電系統の安定化に関する実験を多く行った。2010年には「再エネ電源が連系された配電系統のループ化と、集中型電圧制御の適用効果の実験的検証」と題した研究論文を発表。「当時は太陽光発電の大量導入が予想され、その際に電圧が管理できなくなるという課題をどう解決するか研究を進めていた」。再エネの活用には、需要と供給をマッチングさせる運用が必要不可欠であり、これは永遠の課題だと話す。

11年に博士後期課程を修了すると、電力中央研究所に入所。これまでの研究内容を電力会社などに提案することで、社会に反映できる部分に魅力を感じたという。

基幹系統の最適化を研究 宮古島で実証実験も行う

現在は、グリッドイノベーション研究本部ネットワーク技術研究部門に所属。上席研究員として研究に取り組む。電中研では、電力ネットワークの大動脈である基幹系統、ユニットコミットメント(UC)の研究を進めている。

UCとは、系統に接続した各発電機の起動・停止の組み合わせから、電力の需給バランスで最も経済的な起動停止計画を算出することを指す。この研究は日々の予備力確保や運用計画の策定に必要不可欠だ。このほか、送電能力の限界を考慮したUC(SCUC)の理論を構築し、系統運用をより最適化する研究や電力市場の約定システムへの適用も進めている。

UC研究で需給バランス維持と系統安定化を図る

発電所の出力、系統の電圧や送電容量などの運用上の条件がある中で、発電に伴う燃料費や送電でのエネルギー喪失を最小化する「最適潮流計算」も専門分野だ。

太陽光・風力を活用する上で、高いポテンシャルを持つとされる北海道や東北と、大需要地である関東、関西、中部には地理的な乖離がある。「再エネの電気をどう安定的に需要地に届けるか」。既存設備の活用だけでは、十分でない。天候などの条件によって出力も変動する中でどのように系統増強を図るか。災害時の供給信頼性をどう評価するかが課題だ。

この解決の一助となる実証実験を、沖縄電力の宮古島メガソーラー実証研究設備で行った。実証実験3年目となる12年から参加すると、蓄電池の導入でディーゼル発電、カスタービン発電の燃料コストが最小となる運用計画を作成した。再エネの出力予測と実際の天候の違いで、予測通りの出力が得られないなど、実際の設備ならではの苦労もあったが、当時を「運転員の方々が実際に系統運用の業務を行う姿を間近で見ることができ、勉強になった」と振り返る。

商用系統を用いた実証試験は高い評価を受けた。研究成果を国内外の学会で発表すると、16年の国際電力会議(CIGRE)でもインパクトを残した。再エネ導入で先行する欧州は、各国をまたぐ大きな送電系統を活用して再エネの不安定性を吸収できるが、日本のように周囲から独立した系統では供給信頼性に大きな懸念があった。商用系統で蓄電池を主力電源として活用した系統運用には驚きと深い関心が集まったと話す。

今ある電力を効率的に運用 電力系統の最適化目指す

日本の系統運用の未来について、「基幹系統と、ローカルな二次系統での役割分担が重要だ」と分析する。基幹系統では、産業の需要を満たす役割が求められる。そのためには遠隔地にある洋上風力など大規模発電による電気を効率良く送る技術が必要だと話す。

二次系統では、マイクログリッドの重要性がより高まると予測する。再エネを中心とした分散型電源の活用には需要家の役割が大きい。今後は太陽光発電などの自家設備の普及によって、システムの効率化が進むとみている。一方で「分散型電源を生かすには、化石燃料や原子力発電などによる安定的な供給力の確保も大事だ」とも指摘。石油、天然ガス、原子力発電によって、再エネの弱点を補うことができるという。

今後の研究課題としては、これまでの基幹系統研究を生かした「統合型の系統安定化システム」を挙げる。このシステムでは電力系統の事故を瞬時に検知。必要に応じ高速で制御を実施することで、大規模停電を防止する。また、電中研という組織の強みを生かして他分野の研究者と連携。系統運用の最適化へ、より高度な電力システムの構築を目指す。

「これまでの研究で、電力には、未来を感じている。複雑な分野だが、それ故に研究のしがいがある」。電力と人をつなぐ電力系統研究を続けて、人類の未来もつないでいく。

はない・ゆうじ 2011年福井大学大学院博士後期課程修了、電力中央研究所入所。電力システム、数理最適化を専門とし、電力系統の解析に関する研究を行う。

再エネ精密制御に不可欠 パワー半導体の活用追求を


【業界紙の目】津田建二/セミコンダクタポータル 編集長

変動性再生可能エネルギーを電力網に組み込むためには、実は半導体が欠かせない。

半導体で変動をリルタイムで検知、ストレージし、自動で平準化するシステムの構築が必須だ。

再生可能エネルギーではソーラーや風力、水力発電などが使われているが、火力や原子力と比べるとその割合は18%とまだ少ない。環境先進国のドイツは35.3%、英国は33.5%であり、中国でさえ25.5%もある(資源エネルギー庁の「日本のエネルギー2021年度版『エネルギーの今を知る10の質門』」より)。ソーラーや風力は変動が大きいという欠点があるが、燃料コストは無料であり、資源豊富な国の政策に左右される心配はない。

変動の大きさが欠点だとは広く理解されているが、それを精密に制御できるのは半導体であることはあまり知られていない。パワー半導体を使えば、正確な50‌Hzあるいは60‌Hzの電力を作り出せるし、損失の少ない直流送電も容易に実現できる。特に高電圧に強いSiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒素ガリウム)は、再エネの精密制御にぴったりのパワー半導体であり、送電の損失減に資する。

既存の日本の送電網では、再エネから50‌Hzあるいは60‌Hzにピタリと合う交流を作り出す必要がある。そうしなければ電力網の6600Ⅴなどの交流架線に戻せないからだ。戻す時にはもちろん、交流と同じタイミングの位相で載せる必要がある。周波数がずれてしまえば大電力の振幅が拡大されてしまい、逆潮流を起こし停電に至る恐れが出てくる。だから50‌Hz/60‌Hzといえども位相のズレを誤差範囲以内まで精密に制御しなければならない。

電圧の精緻な制御の肝 パルス幅を変える技術

電力関係者には釈迦に説法であるが、簡単にパワーエレクトロニクスを使って交流電力を作り出すPWM(パルス幅変調)を紹介しよう。PWMとはパルスの幅を変えることで平均交流電圧を変化させる技術で、パルスの幅が広い時は高い電圧、幅が狭い時は低い電圧を作り出す。より厳密に言うと、パルスのデューティ比(1周期におけるオン/オフの比)を大きくすると高い電圧、小さくすると低い電圧を作り出すことができ、連続的にデューティ比を変えれば、低い電圧と高い電圧を繰り返す正弦波を作ることができる。

パルス幅あるいはデューティ比を変えるのはマイコン(マイクロコントローラ)からの命令である。マイコンはデジタル信号しか出さないが、PWM制御された電力波形を出力するのはパワー半導体である。

では、デジタルのマイコンからの1あるいは0だけのパルス出力でどうやってパルスの幅を変えるのか。そのためにはより細かいパルス幅が必要だ。

例えば1µs(100万分の1秒)の単位パルスを1000個出力すると1ms(1000分の1秒)のパルス幅になり、10個では10‌µsの幅になる。つまりデジタルで細かいパルスを作り出せる回路があれば、マイコンからの命令で出力パルスの幅を変え、精密に制御することができる。

パワー半導体はマイコンからの指令にもついていけるような高速動作が求められる。ここでパワー半導体としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラー半導体)ではなく、SiCやGaNなどを使ったMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果半導体)を使えば、より高速のスイッチングパワーデバイスができる。

蓄電や長距離送電でも 活用場面広がる

再エネから生まれた電力を50‌Hzないし60‌Hzの高電圧交流に変換することで、電力網の架線に電力を送ることができる。電圧が高いところから低いところに電流は流れるため、必ず高電圧に上げる必要がある。これも半導体を使って昇圧する。

電力網の架線に送った電力を平準化するためには、再エネだけでなく、蓄電池からの電力を夜間などに供給し補うことが必要になる。この蓄電池からのグリッドインテグレーションにもパワー半導体やマイコンが必要になる。直流の蓄電池を交流、それも正確な50‌Hzないし60‌Hzの交流に変えなければならないからだ。

半導体は再エネ大量導入時代に欠かせない

今後再エネの柱として洋上風力が期待されているが、送電距離100km以上の長距離電力輸送には直流送電が欠かせない。交流は正負の電力を繰り返すロスが大きいが、直流は一方向に進むだけなので少ない。

例えば国土が広いブラジルでは、北部の水力発電所から南部のサンパウロやリオデジャネイロなどの都会まで数千kmに渡る直流送電が使われている。直流送電は発電された交流電力を直流に変換して電力網へ供給するが、その変換にも半導体が使われる。

大電力の分野では少しのロスも許されず、交流から直流の変換にも半導体を使って効率を高める工夫が求められる。また、送電の終点では再び50‌Hz/60‌Hzの交流に戻さなければならない。交流から直流、直流から交流へのいずれの場合も、パワー半導体を使って変換する必要がある。

ではどのような半導体があるのか。簡単におさらいすると、パワー半導体では小電力用途ならパワーMOSFETで、電動工具や掃除機、冷蔵庫などの白物家電の効率を上げる。中電力となるとIGBTを使い、大電力だとサイリスタが使われている。なお、サイリスタはオン・オフ動作の回路がやや複雑になるが、ここにSiCやGaNなどの化合物半導体を使えば、回路を簡単にできる上に効率をさらに上げることができるようになる。

もちろんパワー半導体だけではなく、マイコンでデジタル制御も可能になってきたため、遠隔地や本社からの制御もリアルタイムで出来るようになる。

再エネの変動性という欠点を半導体が救うことになれば、カーボンニュートラルに向け化石燃料の削減に大きく寄与する。もっと多くの種類、多くの量の半導体の活用で効率を上げ、再エネ主力電源化へとシフトすることは、ハイテクニッポン再生への道にもつながる。脱炭素の原動力はハイテクであり、その中核となる半導体のさらなる活用が今後期待される。

〈セミコンポータル〉〇2001年2月開始〇半導体および関連産業向けの半導体情報に関する会員制ポータルサイト。技術や製品、市場動向などを発信。

猛暑で東京は厳しい需給 際立つ太陽光の存在感


梅雨明けの知らせもない7月18日、東京電力パワーグリッド(PG)エリアでは、猛暑による冷房需要の高まりで午後2時台に最大電力が5525万kWとなり、早くも今夏の最大を記録した。

猛暑による厳しい需給は、前週10日から続いていた。東電PGは、11、12、18日に厳気象対応の「電源Ⅰ」(約71万kW)を発動したのをはじめ、11、18日には「電源Ⅱ」による火力発電所の増出力運転、10~19日には夏季の追加公募電源(58万1000kW)の市場供出など、あらゆる需給対策を実施した。特に暑さが厳しかった18日は、夕方から夜にかけて小売り各社が家庭の需要家に向けて節電を要請。需給両面の対策で乗り切った形だ。

こうした中、太陽光発電の存在感はますます増している。18日の需要ピークだった午後2時台には1040万kWの太陽光が稼働し、供給力の19%を賄っていたという。夏の需給については、多くの電力業界関係者が楽観視するのもうなずける。

供給力不足の影響がより深刻に出るのは、需要ピークに太陽光が頼みにならない冬。電力危機を繰り返さないための抜本的な供給力対策が急がれる。

LP輸入価格の下落続く 家庭用は相変わらず上昇へ


LPガス輸入価格の下落が続いている。指標となるサウジアラビアのCP(契約価格)は7月分がプロパン400ドルと、今年最高値の2月分(プロパン790ドル)から約半分にまで下がった。3年前の2020年度の水準である。

「北半球の不需要期に加え、米国産カーゴの堅調な輸出、サウジでの石化プラントのトラブルによる輸出増(原料リスク減少)により、供給過多の環境となったことが下押し要因となり相場を押し下げた」。元売り最大手のアストモスエネルギーは、こう分析する。

調達価格の下落傾向にもかかわらず上昇を続けているのが、LPガスの末端価格だ。石油情報センターの調べによると、家庭用10㎥のモニター価格は8936円と前年同月比364円高。円安要因はあるにせよ、卸売10㎥モニター価格の同45円高に比べると、上げ幅の大きさが目立つ。

「エネルギーや食品などあらゆる価格が値上げ傾向の中で、あえて値下げする理由がない」(四国地方の販売業者)。上がっても下がらないLPガス価格の特性はいつになったら変わるのか。

間近に迫る処理水の海洋放出 国際的な「情報戦」に備えよ


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 論説副委員長

処理水の海洋放出の実行には、国際社会からの理解の獲得が欠かせない。

国際原子力機関(IAEA)の報告書を踏まえ、国内外に対する「情報戦」を展開すべきだ。

岸田文雄首相は7月初旬、IAEAのグロッシ事務局長と会談し、処理水の海洋放出計画に対する評価を盛り込んだ包括報告書を受け取った。IAEAは報告書で「海洋放出は国際的な安全基準に合致している。環境への影響は無視できる水準だ」と結論付け、放出の妥当性を認めた。

グロッシ事務局長との会談後、岸田首相は「科学的根拠に基づき、高い透明性を持って国内外に丁寧に説明していきたい」と語った。日本政府としては報告書の内容を国内外に発信して安全性を説明しながら、当初予定通りに今夏にも放出を開始する方針だ。

処理水とは汚染水を多核種除去装置(ALPS=アルプス)で浄化処理し、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質を取り除いた水のことだ。東電の計画によると、その処理水を大量の海水で100倍以上に薄め、トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1未満とした上で、沖合1kmの海底トンネルの先から放出し、さらに海で希釈廃棄する。

IAEAが今回の報告書で特に重視したのが、海洋放出設備の事故防止対策の評価だった。東電が建設したこの設備は、基準値を超える濃度の処理水が海洋に放出されないようにするため、異常を検知したら10秒以内に放出を自動的に中止する緊急遮断弁を2カ所に設置したほか、希釈用の海水ポンプを3基置いたりするなど、多重の防護体制としたのが特徴だ。大地震などが発生した場合でも、想定外の海洋放出が起きないような対策を講じたものだ。

しかし、処理水の海洋放出に対する安全性の評価は担保されても、国際社会の理解を獲得するための活動はこれからがスタートである。グロッシ事務局長は記者会見で「包括的、中立的、科学的な評価をすることが我々の使命であり、その評価はできたと確信している」と強調したが、そうした安全性の評価を国際社会に広げていくのは、日本政府に課せられた重い役割である。これを実現することが、地元の漁連などが懸念する風評を払拭することにもつながると銘記すべきだ。

ALPS処理水の貯蔵タンクは1000基を超える

外交問題化する恐れも 韓国のデマには即対応

実際、中国は今回のIAEA報告書に「放出を正当化するものではない」と異議を唱えている。同国外務省は「報告書は評価に関わった専門家すべての意見を反映しておらず、結論も専門家が一致して認めたものではない」との報道官談話を公表した。中国は海洋放出だけでなく、大気放出や地層注入などさまざまな方法も検討すべきだとする立場だ。

その上で「日本が放出を強行するなら、すべての結果を受け入れなければならない」とも指摘し、日本産食品への禁輸措置を強めるなどの対抗手段に出ることを示唆した。中国はこれまでも「太平洋は日本が核汚染水を垂れ流す下水道ではない」などと強い調子で海洋放出に反対する姿勢を示しており、海洋放出が外交問題に発展する恐れもある。

韓国も複雑な立場だ。日本との関係改善を進める尹錫悦政権は「IAEAの報告書を尊重する」としているが、野党は海洋放出を容認する尹政権への批判を強めているからだ。韓国内では「処理水の放出で海水を原料とする塩が汚染される」との出所不明の情報が出回り、スーパーなどで塩を買い占める動きも起きた。店頭での塩不足に対応するため、韓国政府が備蓄した塩を市場に放出する騒動に発展するなど、大きな混乱が生じている。

さらに韓国では、一部のインターネットメディアが「日本はIAEAに100万ユーロ(約1億5000万円)以上を献金し、安全性を評価する報告書を書かせた」とのデマも流した。これに対し、日本の外務省は「事実無根で無責任な偽情報に強く抗議する」との声明を発表した。韓国で広がったデマに対し、日本政府がただちに「偽情報」と断じて抗議したのは評価したい。

政治利用される廃炉作業 「伝わる」情報発信を

日本としては、今後も国際的な緊張状態が続くことを想定しておくべきだ。そのためにも外交を通じた「情報戦」を仕掛けることも不可欠だ。例えば福島第一原発のトリチウムの年間排出量は、事故前の管理目標と同じ22兆ベクレル未満を予定している。これは海外の原発と比較しても低い水準にある。経済産業省によると、中国では秦山第三原発が年間約143兆ベクレルと福島第一原発の6.5倍、陽江原発は5倍、紅沿河原発で4倍の排出量がある。また、韓国でも月城原発が3.2倍、古里原発で2.2倍のトリチウムを排出している。こうした事実を分かりやすく発信し、健康被害がないことを訴える取り組みが重要だ。

トリチウムは技術的に除去が難しいが、体内で蓄積されることなく、排出される仕組みとなっている。東京電力はヒラメをトリチウム水で飼育し、その影響を調査するなどしており、そうした情報も積極的に提供してほしい。何よりも海洋放出は基準値以下に大幅に薄めたトリチウム水を、さらに海で薄めることにしているが、意外にそうした2段階希釈などもあまり知られていない。「伝える」のではなく、「伝わる」情報発信を考えるべきだ。

大きな節目を迎えた海洋放出だが、それは福島第一原発の長い廃炉過程の一歩にすぎない。海洋放出にお墨付きを与えたIAEAは現地に事務所を設置し、数十年にわたってモニタリングを継続するが、さらに今後は溶融燃料(デブリ)の取り出しという難関作業が控える。大量のデブリをどのように取り出し、どこに廃棄するのかという根本的な問題も先送りされたままだ。

海洋放出を巡る問題で明白になったのは、こうした廃炉に向けた動きを政治的に利用しようとする勢力がある現実だ。それは国内外に存在する。そうした動きに対抗するためにも正しい情報発信が必須だが、発信する東電や政府に対する信頼醸成も求められていることを忘れてはならない。

カルテルで業務改善命令 「不服」にじむ中部の反応


大手電力会社が法人向けの電力販売でカルテルを結んでいた問題を巡り、経産省は7月14日、関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社に対し「業務改善命令」を出した。

処分内容を見ると、とりわけ関西の行為について「悪質性」を認定したのが特徴だ。具体的には、中部、中国、九州が「かかる行為の不健全性、故意性、組織性・反復継続性も認められる」とされた中で、関西に対しては「かかる行為の悪質性、故意性、組織性・計画性が認められる」と明記。これまでも、原発立地地域からの多額の金品受領問題や顧客情報の不正閲覧問題で業務改善命令を受けており、これで三度目になる。

競争健全化へ厳しい姿勢で対処する経産省

興味深いのは中部の反応だ。関西、中国、九州が「全社一丸となって、再発防止策の徹底と組織風土改革に全力で取り組む」「多大なご心配・ご迷惑をお掛けしましたことを深くおわび」などと反省の弁を述べる中で、中部だけが「業務改善命令の内容を精査し、適切に対応」と実に簡素なコメント。公正取引委員会によるカルテル処分を巡って裁判で争う構えを見せていることから、カルテル認定を不服とする同社のスタンスがにじみ出ている。

【覆面ホンネ座談会】経産・環境両省の人事考察 政策協調路線の継続焦点に


テーマ:経産省・環境省の幹部人事

エネルギーを巡るさまざまな課題が噴出した中、昨夏の人事では経済産業省の手堅い守りの陣、そして経産省と環境省の協調路線へのシフトが際立った。それから1年。今夏の人事はどう読み解けばよいのか。

〈出席者〉 A 経済産業省OB B 霞が関事情通 C マスコミ

―また今年も霞が関人事の季節到来。7月上旬に発令があった。まず経産省に関する感想から聞きたい。

A 概ね予想通りだった。経産人事を予想する上でポイントは三つ。①資源エネルギー庁と通商政策局には経験者を多く配置、②「動」より「静」の人を上のポストに置く守りのシフト、③官邸ポストを見据えて内閣府などのポストをどう取るか―。補足すると①について、エネルギーでは特に原子力で不用意な対応を防ぐため。通商政策では経験豊富な重要国を相手に交渉できる人材が必要という理由だ。②は、最近の経産省はアイデアマン・アグレッシブな人より調整型・慎重な人を重視しており、特に足元の不祥事続きではなおさらだ。ポイントを押さえてパズルを組み合わせれば、答えは見えてくる。また、経産省は年次の逆転も気にしない。

B 岸田政権下では政治の影響が少ないことも特徴だ。安倍、菅政権では官邸が人事をひっくり返すことがあったが、現在は各省庁の考えが基本的にはそのまま実現している。

C 西村康稔経産相が6月27日の会見で人事の要点を説明したが、分かりやすかった。政策面で「通商政策、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法の制度設計、半導体、蓄電池戦略といったさまざまな重要施策の継続性」、さらには「大阪・関西万博の開催準備、先般成立した知財関連法案、そして経済安保法の非公開特許などに万全を期す」と幅広く課題を掲げて、留任や登用の説明をしていた。経産省OBで、同年次の幹部の顔が見えている故といえる。

経験者を手堅く配置 岸田政権で政策踏襲へ

―飯田祐二氏(1988年)が次官、保坂伸氏(87年)が経済産業審議官となった。

A 飯田氏の後任の次官は、87年組ではなく、同期で官房長の藤木俊光氏(88年)が定説。その次が経済産業政策局長の山下隆一氏(89年)といったラインだ。

B 他方、省内では今回、保坂次官を予想する声も多かったと思う。

C 保坂氏は資源エネルギー庁長官として原子力の立て直しを図り、官邸などとの調整にも汗をかきGX関連法成立につなげた。功績が評価され、次官級ポストの審議官に格上げとなった。

A 藤木氏は次官待ちポストにいるが、エネ庁の経験が豊富というわけではない。そこで内閣府に出向していた村瀬佳史氏(90年)をエネ庁長官として戻した。村瀬氏は電力・ガス事業部政策課長、電ガ部長の経験がある。

B 私は村瀬氏が引き続き内閣府に残るかと思ったが、本人の希望も含めてエネ庁に戻したのではないかな。内閣府の経済財政諮問会議に関わるポストをどう取るか、などの事情との兼ね合いもあっただろう。

C 電ガ部長からエネ庁次長となった松山泰浩氏(92年)も経験豊富だ。またエネ庁長官、次官候補で産業技術環境局長の畠山陽二郎氏(92年)は今回ステイだった。

A 今回の布陣を見ても、政策変更の動きがあまりないことが分かる。岸田政権としても、今の路線を踏襲するということだ。

B 他方、剛腕な南亮氏(90年)が総括審議官に上がったことは印象的だ。

A 資源のスペシャリストとしての処遇だと思う。総括審議官は官房長とペアで仕事をする。総括審議官は政策検討を、官房長は政策の取りまとめなど調整役で、藤木氏とのコンビでうまく回ると考えたのでは。

C 南氏の後任の政策立案総括審議官は龍崎孝嗣氏(93年)。小泉進次郎氏が環境相時代、温暖化ガスのNDC(国別目標)議論などで暴れた際、抑え役として活躍した。

次官以下トップが動き組織改編も行った経産省。片や次官留任の環境省との関係は……

大掛かりなエネ庁組織改編 部署名から化石燃料カラー消える

A LGBT(性的少数者)関係の不適切発言で首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏(91年)は通商政策局担当審議官で復活。いろいろ言われると思うが、西村経産相の判断だと説明している。

B 荒井氏の報道があって早々に、首相秘書官の嶋田隆氏(82年)が更迭を決定したと聞く。同じ経産官僚として厳しく対処した。

C 荒井氏はこれまで通商政策の経験は少ないし、前のポストより格は落ちる。だが、能力があり、指示されたことに一生懸命取り組む姿勢が買われたのだろう。

―そして注目はエネ庁の組織改編。GXを実行に移す上で、省エネルギー・新エネルギー部、資源・燃料部の課室体制を大きく見直した。

B こちらも西村経産相が会見で趣旨を説明していた。続けて、自身が85年にエネ庁石油部計画課に配属されたことに触れ、「石油も天然ガスも石炭という名前も、エネ庁、経産省からは課の名前としてはなくなる。時代の大きな変化を感じている」と感慨を持って語っていた。外部から長年エネルギー政策を見てきた人にとっても、同じような感慨があったのではないか。

A かつての鉄鋼課や繊維課同様、化石燃料を冠した課が消えるのも時代の必然。西村経産相も役人出身だけあって、思い入れを持って語っていたね。

―新生省新部、資燃部の印象は?

A 特に資燃部の変更が大きく、資源開発課、燃料供給基盤整備課、燃料環境適合利用推進課などさまざまなポストを新設。省新部にも水素・アンモニア課を作った。期待されるメンバーを各所から集めたのではないか。

B なお、資燃部長の定光裕樹氏(92年)は動かなかった。総入れ替えはリスク管理の面で望ましくないからね。ロシア・ウクライナ有事も経験した定光氏の存在感は大きい。

C 電力の不正閲覧問題や、電力システム改革で見えてきた課題の解決という重要局面での電ガ部長に久米孝氏(94年)というのも納得の人選。課長以下も経験者が多い。

顧客とガスメーターのデータを融合 LPガス業界向けに業務改善支える


【愛知時計電機/アイネット】

ガスメーターメーカーの愛知時計電機と、ITによる販売管理を手掛けるアイネットがシステム分野で連携し、LPガス業界向けに、主に閉開栓の業務を効率化する新たなサービスが誕生し、注目されている。

愛知時計電機はガスデータの配信サービス「アイチクラウド」を、アイネットは「プロパネット」と呼ぶLPガス販売・顧客管理システムを、それぞれ展開している。このたび、両社のシステムをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)によって結び付け、ガス事業者が抱える課題を解決していく。

サービスのイメージ図

これまでも、アイチクラウドを通じ遠隔で閉開栓する作業は可能だった。ただアイチクラウドには「個人情報」といった属性の情報がなく、閉開栓の作業の際はエンドユーザーを特定するための確認作業が必要だった。一方、販売管理システムであるプロパネットは、顧客情報・属性がひもづいている。

ではこの連携によって、どのような業務が可能になるのか。

「(エンドユーザーの)名前、住所に基づいた情報で予約登録した日時に自動で閉開栓する業務が可能になる。例えば春の引っ越しシーズンで、あらかじめ退去の日時が分かっていれば、閉栓予約を登録するだけで退去時の立ち合いも不要だ」(愛知時計電機営業本部IoT推進部の渡辺真司副部長)。

料金不払い時に関わる閉開栓の業務も軽減できる。

事業者の悩みを解決 集中監視とは違うサービス

アイネットは、データセンターを自社で運用している会社で、「LPガス向けの販売管理システムをクラウド型で構築した日本で最初の企業。また、請求書などのプリント業務や加工業務の機能も保有しており、(請求書の)発行作業などワンストップで手掛けていることが当社の特徴」(アイネットSS本部第1SS事業部ホームライフエネルギーサービス部の村田栄一部長)。小規模からの導入も可能で、自動検針の導入で「検針票の送付方法」や人員不足などで「業務効率化」に頭を悩ませている事業者にとってはありがたいサービスとなりそうだ。

このサービスは、一見すると、LPガス業界の保安業務を高度化する「集中監視」にも似ているが、保安に資する機能ではないことに留意が必要で、保安には別のシステムをAPI連携する必要があるという。

【マーケット情報/8月4日】原油上昇、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減と需要増の観測が広がったことで、買いが優勢となった。

サウジアラビアが9月も、日量100万バレルの自主的追加減産を継続すると発表。また、必要に応じて減産を拡大すると示唆した。加えて、OPECプラスの合同閣僚監視委員会(JMMC)は、現行の減産計画を維持することを推奨した。

米国の原油在庫は、輸出増で、1月以来の最低水準を記録。さらに、下落幅は過去最高となった。

需要面では、米ゴールドマンサックスが、米国およびインドにおける消費増加を背景に、今年の石油需要予測に上昇修正を加えた。また、今年後半は、需要に対して供給が一段と不足すると指摘した。

一方、ロシアは減産縮小の見通し。ただ、油価の下方圧力にはならなかった。


【8月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=82.82ドル(前週比2.24ドル高)、ブレント先物(ICE)=86.24ドル(前週比1.25ドル高)、オマーン先物(DME)=87.13ドル(前週比1.87ドル高)、ドバイ現物(Argus)=86.87ドル(前週比1.90ドル高)

【イニシャルニュース 】燃料油とLPが稼ぎ頭 地域新電力は危機に


燃料油とLPが稼ぎ頭  地域新電力は危機に

海沿いの某地方都市で、燃料油やLPガスなどエネルギー販売事業を手掛けるK社。2016年の電力小売り全面自由化を受け、カーボンニュートラルを目指す地元自治体と共同で地域新電力X社を発足させた。太陽光や水力など地域の再エネ資源を活用した自前電源をベースに、日本卸電力取引所(JEPX)からも調達。事業開始から数年を経て、経営が軌道に乗り始めた矢先、JEPXのスポット高騰に見舞われた。

「ご多分に漏れず、X社も大赤字に転落し、存続の危機に立たされた」。こう話すのは、K社代表のZ氏。「一時は、大手エネルギー事業者系に売却する案も出たが、自治体側が地域新電力を何とか存続させたいと考えており、当社も支援を強化する形で何とか踏ん張っている」

幸い、K社では現在燃料油、LPガスの両事業が好調。新型コロナ禍の収束や、燃料油高騰に対する政府の激変緩和措置も奏功し、販売量、収益ともに安定した状態が続いているという。

「X社を立ち上げた当時の見立てでは、脱炭素社会の実現に向けて燃料油やLPガス販売は次第に縮小し、いずれはX社が地域のエネ供給で主役の座を担っていくと考えていた。ところが、現状では燃料油とLPガスのもうけで新電力を支える構図になっている。しかもX社の先行きは依然暗雲。脱炭素とは真逆の方向なので、これでいいのかという思いは正直ある」(Z氏)

こうした構図は他のエリアでも見られており、地域の再エネ資源を活用しながら、脱炭素化や経済活性化に結び付けていく事業の難しさが浮き彫りになっている。

燃料油販売は今や安定収益に⁉

北電の内外無差別絶賛  ネット媒体Nへの違和感

大手電力会社による内外無差別な卸取引を巡る議論が過熱する中、大手経済紙系のネット媒体「N」が「北電の群を抜く内外無差別対応、卸電力取引を社内外問わずブローカーに一本化」―のタイトルで配信した記事が、業界人の間で物議を醸している。

電力・ガス取引監視等委員会は、公平な電力市場競争環境を担保するために、電源の大部分を保有する大手電力各社に対し、自社の発電部門と小売部門間の取引と、社外の新電力などとの取引を公平に扱うよう求めている。

これに対応するため、各社は相対入札を実施するなど各様の取り組みで対応しているが、取引の透明性を確保するため第三者であるブローカーを介した卸売りの手法を選択したのが北電だ。

実際、6月27日に開催された電取委の制度設計専門会合でも、北電と沖縄電力の2社だけが23年度の相対契約について、「内外無差別な卸売りが担保されている」との評価を受けている。

だが、この記事に対し、電力市場に詳しいX氏は「まるで内外無差別であればあとはどうでもいいと言わんばかりだ」と厳しく批判する。記事の通り発電収益が最大化されているのであれば、それは発電部門が事業支配力を行使していることを意味し、独占禁止法抵触の可能性を指摘されてもおかしくないという。

北電社員の中からは、同記事中の「小売事業のことは小売部門が考える」との発言について、身内の小売部門を突き放すようなことを、胸を張って社外に言う必要があるのかと批判的な声も聞こえる。

「自社の小売りの競争力を削ぐような取り組みがまかり通るのであれば、いっそ発販分離してしまった方がいい」(X氏)。内外無差別への対応から、発販分離が一気に進んでもおかしくない。

話題の洋上公募第2戦  大手電力系が火花

再エネ海域利用法に基づき政府が実施する洋上風力公募が6月末に締め切られた。今回は応札企業に対し「かん口令」が敷かれているが、各海域を巡る情勢が少しずつ見えてきた。第一ラウンドを総取りした三菱商事以外の商社勢や外資の参加が目立つ中、注目されるのは大手電力系のR社とJ社の争いだ。両陣営とも、対象の4地点(秋田県八峰町・能代市沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、新潟県村上市・胎内市沖、長崎県西海市江島沖)のうち複数地点に応札しており、2地点ではバッティングしている。両社の親会社には同じ企業が名を連ねるが、応札に際して調整した様子はなく、激しい火花を散らしている。

自社ポートフォリオの脱炭素化に洋上風力が欠かせないとして、M&Aなどさまざまな手段を講じているJ社。今回は4地点中3地点に応札したとみられ、前回の辛苦をばねに悲願の落札に意欲を見せる。また、J社の大本命は次回以降のI地点とも言われている。公募では「国内実績」が必須。本命地点の権利獲得の確率をさらに高める意味でも、第2ラウンドの結果は重要な意味を持つ。

他方、R社は再エネ専業であり、最大30年占有できる促進区域への参入は必須だ。ある海域では自社軍より可能性が高い陣営に相乗りしたともみられ、第2ラウンドにかける意気込みが感じられる。

どちらの陣営に軍配が上がるのか。それとも勝者はまた別のグループとなるのか。引き続き業界の話題の的となりそうだ。

活況を呈す洋上風力ビジネス

船頭多くしてどこへ?  混迷する都のエネ政策

東京都のエネルギー政策にちぐはぐ感が否めない。都は二つの有識者会議を発足させた。一つは元首相補佐官の今井尚哉氏らによる「エネルギー問題アドバイザリーボード」。水素に光を当て、火力発電を供給力不足への対応策と位置付け、積極活用に都民の理解を得る方策なども論点に上げた。ある都政関係者は「地に足のついた議論が期待できる」と評価する。

もう一つは「再エネ実装専門家ボード」。コアメンバーには脱原発と再エネ推進を掲げるS財団のL理事らが参加している。初会合でL理事は、火力の調整力を認めない典型的な再エネ万能論をぶち上げた。「再エネに前のめりだった菅政権と、現実解を模索する岸田政権の良いとこ取りをしたいのだろう。政界風見鶏の小池知事らしい。でも方向性が定まるわけがない。船頭多くして何とやらだよ」(都政関係者)。迷走の末、エネ政策はどこにいくのか。

メタハイに暗雲も  引くに引けない事情

次世代のエネルギーとして注目されるメタンハイドレート。「2027年度までの商業化」を国は目指すが、状況は厳しい。調査と試掘が進むものの、深海から採取されるためにコストがかかるなど、いまだに商業生産の見通しは立っていない。しかし「政治主導で決まったプロジェクトのため引くに引けない状況」(経産省OB)という。

メタハイの調査は1990年代から始まり、それまで年数億円程度の調査費だった。それが、15年にいきなり100億円規模に拡大した。テコ入れが本格化したのは「安倍晋三元首相が関心を持ったため」(同)。当時は3.11の影響で全国の原発が停止中。さらに中国の経済成長に伴うエネルギーの爆食が大きな問題となり、自前資源の開発が叫ばれていた。

安倍氏に近いシンクタンク経営者で論客のA氏がメディアでメタハイの可能性を盛んに強調し、彼の支持層、保守派評論家が追随した。そして安倍氏の側近だった元経産相のS氏も関心を寄せた。「首相案件なら多額の予算が付くとみて、経産省は調査事業を拡大した」(同)という。

A氏はその後16年に、自民党から参議院議員に当選。彼に近しいK参議院議員、T衆議院議員とそれに近い河野太郎氏がメタハイ予算をバックアップし、政治の応援団の規模が増えるに連れて予算も膨らんだ。22年度に太平洋側の試掘が始まり、予算は約272億円になっている。

A氏は自らが調査した日本海側にもあると主張し、花角英世新潟県知事も、産業振興から関心を寄せている。経産省は6月に日本海側のメタハイ調査も始めると西村康稔経産相が表明。東電柏崎刈羽原発の再稼働のために新潟県に送る「お土産」に見える。

しかし、産出試験の結果は芳しくない。そもそも脱炭素・脱化石の世界的な潮流の中で、「メタハイ開発自体の意義が問われている」(大手電力関係者)と見る向きも。これまでに投じられた巨額の国家資金が海の藻屑と化さないことを祈るばかりだ。