バイオマスの中でも特に環境負荷が大きいパーム油発電を巡り、FIT認定に関する見直しの議論が進む。だが生産国との外交にも絡むことから官邸が介入。議論が骨抜きにされないか、懸念が広がっている。
温室効果ガスの排出を抑えた発電として注目されるバイオマス発電だが、トータルで排出量が高い燃料を燃やしている問題が浮上している。FIT(固定価格買い取り制度)に基づく認証制度の甘さが原因で、排出量の多い安い燃料を燃やしている事業者が後を絶たない。脱炭素の潮流に逆行する動きを、所管する経済産業省も問題視し、持続可能性を担保したバイオマス発電を導入するための制度改革に着手した。だが経産省の狙いとは裏腹に、前政権が残した負の遺産が大きな障壁となって立ちはだかっている。
経産省が設置したバイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)が昨年8月から議論を進めている。輸入燃料の持続可能性を担保する第三者認証の追加や、食料と競合しない基準をどう策定するかなどについて検討。また、燃料の栽培から加工、輸送、燃焼に至る全ての過程で温室効果ガス(ライフサイクルGHG)をどれぐらい排出しているかを確認する手法も大きな論点だ。
問題大ありのパーム油 GHGはLNG火力以上
燃料で最大の問題に浮上しているのが、ヤシの果実から得られる植物油のパーム油を使ったバイオマス発電の在り方だ。パーム油発電については、FIT創設時には第三者認証が必要なかった。主にインドネシアやマレーシアといった東南アジアからの輸入燃料で、安く大量に仕入れられることから多数の事業者が参入して、認定量が急増した。
2018年当時にあまりにも認定量が多くなったことが問題になり、経産省はいったん認定を制限する方向に傾いた。しかし事業者からの反発などで認定制限の期限を半年延ばしたところ、駆け込みでさらに認定量が増加した経緯がある。その後、新規認定する場合にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証などの第三者認証によって持続可能性を確認するようになった。
しかしこのパーム油は、温室効果ガスを大量に排出する燃料なのだ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた調査によると、パーム油を使ったバイオマス発電のライフサイクルGHGは、LNG火力と同等か、それ以上の値を示している。温室効果ガスの排出を抑制するという触れ込みで、太陽光発電などの再生可能エネルギーと同じくFITが認められている燃料のはずなのに、である。このほかにもキャノーラ油、落花生油、ひまわり油、大豆油などについても、パーム油と同様の結果が報告されている。
しかも、パーム油は泥炭地と呼ばれる大量の炭素を含む湿地を改良して栽培されているところが多い。泥炭地を土地改良した場合のGHGは、通常の農園で栽培する場合に比べて5~139倍も排出が増えることが指摘されている。脱炭素の最大の敵である石炭をはるかに上回るのだ。FITで国民負担を強いていながら、温室効果ガスは化石燃料以上という話は、到底受け入れられないだろう。
現に日立造船が計画していた京都府舞鶴市の国内最大規模のパーム油バイオマス発電所は、地元住民や環境団体の猛反発に遭い、外資系の出資予定者が出資をしないことで断念した。
旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の関連会社が所有する宮城県角田市の発電所についても、環境団体などが反対署名を提出している。脱炭素機運の高まりとともに、厳しい事業環境に追い込まれている。
経産省のWGは、既存の認証案件については認証取り消しなどを行わない方向で一致しているが、今後新規に認証を取得する燃料については、ライフサイクルGHGを考慮した上で制限を掛ける意向を示している。パーム油は当然、認証外になるとの期待感が生まれている。ところが、どうもそう簡単にはいかないようだ。

外交問題への影響を忖度か パーム油制限の着地点は
ある政府関係者は、「バイオマス燃料は外交問題の側面もあり、官邸がグリップしている」と打ち明ける。
安倍政権時代、インドネシアとマレーシア政府が当時の安倍晋三首相と会談した際に、自国の経済発展を後押ししてほしいと懇願。安倍首相は両政府に対して「支援する」と約束してしまったのだ。その方針は菅義偉政権にも受け継がれており、菅首相の外交デビューになったインドネシアでも支援を約束している。前出の政府関係者は「中国の脅威が東南アジアで広がる中、相手国の要望をむげにすることは今後の外交戦略に響いてくる。そういう判断が官邸内では共有されており、経産省だけで決められる案件ではない」と語る。
政権の顔色をうかがってか忖度してか、経産省WGも当初は燃料の線引きに前向きだったが、ここに来て「ライフサイクルGHGの高いものについては『買わない』ということではなく、買ってもいいが『使わせない』という方向にするように知恵を絞っている」(経産省関係者)とトーンダウンしている。トウモロコシなどの食料品燃料は認証外にする、とした明瞭さとはずいぶん差がある。
WGの審議は今後も継続するが、最終的な結論がいつまとまるのかが判然としない。その様子は、新型コロナウイルス対策が後手後手となり、支持率低下で早くも「秋まで持たない」とささやかれる菅政権の終焉を待っているかのようにも見受けられる。
欧州連合(EU)が策定した「EU-RED2」(欧州再エネ指令)では、バイオマス燃料を生産するための森林開発を、直接的にも間接的にも禁止している。日本国内でも一種の脱炭素ブームが起きているが、EUのようにバイオマスの分野でも野心的になれるかは疑問だ。
安倍前政権の負の遺産を引きずり、温室効果ガスの排出減につながらないバイオマス発電に継続的に金をつぎ込み続けることに国民は納得するだろうか。結論次第では、50年カーボンニュートラル宣言で気を吐く菅政権の欺瞞が垣間見られる一例となりそうだ。