「わが国は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」―。

提供:朝日新聞社
菅義偉首相は10月26日、就任後初の所信表明演説を衆院本会議で行い、50年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を表明した。これまでの政府目標だった「50年80%」削減からさらに踏み込んだもので、エネルギー業界の関係者の間には大きな衝撃が走った。
すぐさま反応したのは、電力業界だ。電気事業連合会は同日、池辺和弘会長名で「極めてチャレンジングな目標と受け止めており、目標達成には、再生可能エネルギーや原子力発電の活用といった従来の取り組みに加え、抜本的な革新的技術を生み出すイノベーションが重要であると考えている」「地球温暖化対策と、電力産業の進化・発展が両立できるよう、主体的・総合的に取り組んでいきたい」などとするコメントを発表。実質ゼロ目標に意欲的に取り組む姿勢をアピールした。
「われわれをつぶす気か」 処方せんはあるものの……
これと対照的なのが、化石エネルギー業界である。日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会、日本LPガス協会、全国LPガス協会、石炭エネルギーセンターなどの業界団体は一様に沈黙。11月中旬現在まで、不気味なほどの静けさを保っているのだ。大手都市ガス会社の関係者が言う。
「われわれの取り組みとしては、メタネーション(水素とCO2からメタンを合成する技術)の活用があるが、その普及には技術、コストの両面で課題が山積している。化石業界は、低炭素化ならまだしも、脱炭素化と言われた途端『打つ手なし』の状況に追い込まれてしまう。そこが、原子力、再エネというノンカーボン手段を持つ電力業界と決定的に違うところだ」
石油・LPガスを扱う大手特約店の幹部も、口をそろえる。
「プロパネーションなどという言葉を最近聞くようになったが、あまりに非現実的。カーボンニュートラル宣言は、全国にあるガソリンスタンド3万業者、LPガス販売1万8000業者に対し、まさに死刑宣告を突き付けるようなものだ。ひと昔前なら、業界の重鎮が『われわれをつぶす気か』と筵旗を立てて、国会周辺で抗議デモを行ったに違いない」
脱炭素化はいまや世界の潮流になっている。欧州諸国はもとより、中国も「2060年CO2実質ゼロ」目標を宣言。米国もバイデン政権が誕生すれば、パリ協定復帰で脱炭素化の取り組みが加速するのは確実だ。「脱炭素社会の流れに乗れない業界や企業は、いずれ市場からの退出を余儀なくされるだろう」(大手電力会社幹部)
現在、国のエネルギー基本計画の議論が行われているが、50年目標の各論に入るほど紛糾は避けられそうもない。水素、アンモニア、CCS(CO2回収・貯留)―。化石業界にも脱炭素化の処方せんはあるが、その効力や副作用は未知数。活路を見いだせるのか。

