【需要家】温対計画の進捗 目標達成見通しの対策は限定


【業界スクランブル/需要家】

5月末の環境省地球温暖化対策計画(温対計画)フォローアップ専門委員会にて、2021年度における温対計画の進捗の素案が公表された。家庭部門においては、CO2排出削減量が30年度⽬標⽔準を上回る見通し、あるいは既に上回っている対策は「高効率照明の導入」と「食品ロスの削減」のみ。ほかの対策は目標水準と同程度か下回る見通しである。

将来的に目標水準を下回る対策の一つが、「HEMS、スマートメーターを利用したエネルギー管理の実施」である。この対策は家庭部門の中でも比較的大きなCO2削減が見込まれ、その算定根拠を見ると、30年度におけるHEMS導入量を約4900万世帯と想定。これは新築住宅への導入はもちろん、既築住宅への導入を早期に進めなければ到達不可能な水準である。足元の導入量は740万世帯にとどまっており、野心的であった目標の達成が困難であることを改めて認識させられる。

他方、30年度に目標水準と同程度になる見通しの対策については、今後問題なく目標達成できると見ていいのだろうか。例えば「高効率給湯器の導入」に関し、潜熱回収型給湯器は30年度目標導入量が3050万台、21年度の実績が1244万台となっている。単純計算で年間200万台の導入が必要であるが、日本ガス石油機器工業会の出荷統計を見ると出荷台数は各年100万台程度である。このように順調と評価されている対策も決して楽観視はできない。

高効率給湯器は配管、設置スペースなど物理的・技術的な導入障壁のほかに、ユーザーや住宅オーナーの導入意識が低い実態もあろう。このような状況を考慮すると、省エネ設備の普及を市場任せにするのではなく、より積極的な政策対応が必要になる可能性が考えられる。(K)

【マーケット情報/7月21日】欧米原油続伸、景気回復の期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物が続伸。景気回復の見通しが一段と広がり、石油需要が増加するとの予測が強まった。

米国では引き続き、インフレ緩和を示す統計が相次いだ。6月の工業生産が縮小し、小売売上高の上昇は市場予測を下回った。加えて、米ミシガン大学が発表する消費者信頼感指数は7月、インフレの減速にともない、2021年9月以来の最高を記録。これらを受け、投資家の間で、2024年前半には米連邦準備理事会(FRB)が金利引き下げに入るとの予測が台頭。景気と石油需要の回復期待が一段と高まった。

供給面では、クッシング含む米国の週間原油在庫とガソリン在庫が減少。さらに、米エネルギー情報局(EIA)が、8月に国内シェール層からの原油生産が縮小する見込みを発表した。

一方で、ドバイ現物は前週から下落。中国経済の先行き懸念が重荷となった。


【7月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=77.07ドル(前週比1.65ドル高)、ブレント先物(ICE)=81.07ドル(前週比1.20ドル高)、オマーン先物(DME)=81.65ドル(前週比0.42ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.47ドル(前週比0.31ドル安)

【コラム/7月24日】大学への排出権取引のお勧めは良策か~~需要家サイドは、安定供給、明朗料金が一番


飯倉 穣/エコノミスト

1,省エネ法改正や東京都の温室効果ガス排出削減の強化で、エネ需要家の非営利法人とりわけ大学経営に波紋を投じている。

気候変動に係る情緒的な報道もあった。「エコ不安 環境問題に悩み気持ちが沈む 若者らに広がる」(朝日夕2023年7月4日)。気候に対する不安が世界中の子どもや若者に蔓延しているという。待てよ、現実の対策を求められている現場の人間はさらに不安で、大変である。夢想にふける人も興味深いが、もっと現場の苦衷に「光を」と問いたい。

最近の排出削減強化から、エネ需要家「大学」に忍び寄るお勧めの選択肢が大学経営に与える影響を考える。

2,カーボンニュートラルに向けた対策が政府・都で強化されている。

政府は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下省エネ法)」(22年5月改正:23年4月施行)に、エネ使用の合理化に加えて非化石エネ転換を盛り込んだ。又東京都は温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度で、排出量削減義務率の新設定とキャップ&トレード制度の充実を予定している。

3,省エネ法は、一定規模(原油換算1500㎘/年以上使用)の事業者に定期報告と省エネ(エネルギー利用の合理化)を求めてきた。

行政の求めで、事業者は、中長期的にみて年平均1%以上のエネルギー消費原単位等の低減を目標に努力を重ねている。一定の成果をあげているが、使用方法や機器・設備の改善による化石エネ利用量引下げもやや限界的な段階にある。そこに2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルの目標である。需要家に対し、今23年度より中長期計画提出(エネ使用合理化、非化石転換、電気需要最適化の三本立て)で、非化石電気割合を示す自主目標を求めている。そして経産省は、省エネの限界を見越し、非化石への転換で、電力会社のメニュー選択、太陽光発電設置、TPA業者、クレジット取引の選択を推奨する。つまり政府が、需要家に再エネ投資か再エネ購入か再エネ商品(証書等)の購入を迫る構図である。

4,東京都は、温室効果ガス排出削減実現のために、基準排出量比削減義務率を課して来た。

対象は、オフィスビル等(第一区分:オフィスビル、商業施設、宿泊施設等の例示で、大学を含む)と工場等(第二区分)である。基準排出量比削減義務率は、10年開始5年刻みで第1計画期間8~6%、第2計画期間17~15%、第3計画期間27~25%である。そして第4計画期間(25~29年度)は基準排出量比50~48%削減義務率とし、さらに35年に60%削減を検討している。これまで需要家は、都のキャップ&トレードの施策に沿って対応している。都は、省エネ限界となれば、排出量取引を勧める。購入側から見れば、相場ながら、適正価格か否か疑問が残る。

技術力で市場に流動性を提供 自由なエネルギー取引を実現する


【エネルギービジネスのリーダー達】野澤 遼/enechain 代表取締役

2019年に創業し、国内最大のエネルギーマーケットに成長したenechain。

テクノロジーの力を活用し市場の流動性を高めることが同社の使命だ。

のざわ・りょう 東大経済学部卒、ペンシルバニア大経営大学院卒。関西電力、資源商社を経て、ボストンコンサルティンググループでエネルギー企業向けトレーディングやリスク管理などのコンサルティングに従事。2019年にenechainを設立。

国内最大のエネルギーマーケットを運営するスタートアップ企業、enechain(エネチェイン)。野澤遼社長は、「自由市場では、誰でもいつでもどこでも商品を売り買いできることは当たり前。電力自由化の最大の課題は、そういった場がないことであり、自らの人生をかけて日本に市場を作り上げたい」と奮起し、2019年に同社を創業した。

既に日本卸電力取引所(JEPX)はあったが、扱っていたのは当日、翌日の現物のみ。より長い契約期間で取引できる市場を作ってこそ、発電事業者が安定的に収益を確保しつつ、小売り事業者が創意工夫しながら需要家のメリットに資する多様なメニューを提供するという、自由化本来の目的が達成できると考えたのだ。

リスク管理を重視 市場参加者の行動変容促す

「Building energy markets coloring your life」 をミッションに掲げ、“テクノロジーの力”で電気などエネルギー市場の流動性向上を目指す同社。そのテクノロジーを支えているのが、IT系のベンチャー企業で豊富な経験を持つなど、社員130人のうち約50人を占める国内トップクラスのエンジニアたちだ。

現在は、オンライン上で商品を売り買いするトレーディングプラットフォーム「eSquare(イースクエア)」、取引に必要な電力や燃料価格といったエネルギーに関するデータや市場の情報をタイムリーに提供するマーケットデータプラットフォーム「eCompass(イーコンパス)」を提供中。この二つのツールを活用することで、事業者はフェアプライス(適正価格)を把握し、自ら取引相手を探したり、価格交渉したりすることなく、ニーズに合わせた商品の売り買いが可能になるという。

また、燃料や電力市場価格のボラティリティが高まる中、電力事業者にとってこうしたリスク管理が大きな経営課題となっている。その解決のためのツールとして、取引状況や市況データから事業上のリスクを可視化、比較する「eScan(イースキャン)」を開発済み。こちらも既に続々と導入が決まり始めている。

イースキャンの商品化について、「販売と仕入れ、価格など、電気のポートフォリオは複雑で、自社がどのようなポジションを取っているのか正確に把握することが難しい。システムを通じて、業界にリスクマネジメントのカルチャーを浸透させ、市場参加者の行動変容を促していきたい」と、その意義を強調する野澤社長。

マーケットのリスク管理の重要性を強く意識するのは、大学卒業後、関西電力、資源商社、ボストンコンサルティンググループと、さまざまな業界に身を置きながら、20年にわたって大激変するエネルギー市場に向き合ってきた経験が大きく影響している。

関電でLNGトレーディングに携わっていた08年には、WTI先物が史上最高の1バレル=147ドルを付けた後、リーマンショックで20ドルまで急落するという歴史的な狂乱を経験。そして20年度には、この日本で、春先には1kW時当たり0・01円だった卸電力価格が冬場に入り200円台まで高騰するという市場運営者として初めての「暴風雨」に直面した。だが、野澤社長に言わせれば、「それが市場」なのだ。

ポテンシャルは100兆円超 自由化を支えるインフラ確立

創業当初は、「勝ち目はあるのか」「ニーズがないのではないか」と言われることもあるなど、決して順風満帆な立ち上がりだったわけではない。それでも、米国の資源商社でPJMなどの電力取引に携わり、ICE(インターコンチネンタル取引所)をはじめ、巨大なプールがあるからこそ、さまざまなプレイヤーがリスクヘッジしながら活発にビジネスを展開できている様を目の当たりにしたことで抱いた、「(まだ自由化されていない)日本も、いずれ同じ状況になる」との確信が揺らぐことはなかった。

そしてそれは的中する。最初は小さな市場にすぎなかったが、口コミで広まったことで徐々に取引量が拡大。さらには、市場のボラティリティを経験したことや、JERAや北海道電力といった大手電力会社が内外無差別への対応強化のために同社のプラットフォームを卸取引に活用するようになったことも後押しし、この1年でプレイヤーは200社を超えるまでになった。

電力小売り全面自由化により、年間流通額が25兆円もの巨大なマーケットが開放されたが、エネルギートレーディングには100兆円規模のポテンシャルがあると見据えている。「市場の流動性を提供するという意味で現状では不十分。今はまだ25mプールにすぎないが、電気のみならず燃料価格のヘッジや排出権など環境価値の取引も含めたさまざまな商品を取引できるインフラとして確立し、プレイヤーが自由に泳げる大海原に成長させたい」(野澤社長)

【再エネ】市場の成長継続 IEA報告書が指摘


【業界スクランブル/再エネ】

今回のG7サミットでは、初めて自然エネルギーの導入目標に言及し、2035年までにG7全体で洋上風力150GW、太陽光1TW(1TW=1000GW=10億kW)の導入に合意した。一方、足下ではこれを上回る速度で自然エネが拡大している。

6月1日、国際エネルギー機関(IEA)は「再生可能エネルギー市場アップデート」を発表した。報告書によれば、23年は、昨年世界で導入された320GWの設備容量を30%上回る過去最大の440GW以上の導入量になる見込みだ。太陽光が今年の増加分の3分の2を占める。成長は続き、加速ケースでは24年の導入容量は550GWに達する可能性があると見通す。

欧州については、電気料金の高騰で小規模な屋上太陽光の魅力が高まり、ドイツ、イタリア、オランダでの政策強化などで予測を40%上方修正した。安価な新設太陽光と風力が化石燃料を代替し、21~23年には電力消費者の支出を1000億ユーロ節約したと推計。こうした追加導入がなければ、22年の欧州の卸電力価格は8%上昇していたという。米国やインドでも「インフレ抑制法」や入札枠増加などにより、今後2年間で大幅な自然エネの増加が見込まれる。一方、23、24年の両方で、中国が世界の自然エネ発電設備増設の約55%を占める、と予測する。

近年伸び悩んでいた風力の導入量も23年には前年比約70%増と急回復するが、今後のさらなる成長は、許認可やオークション設計などの課題に対し各国政府が有効な政策を講じるかによる。太陽光と風力は引き続き市場で最も競争力を持つが、同時に、こうした変動型自然エネを電力系統に安全かつ効率的に統合するには、送電網の適切な計画や投資に焦点を当てた政策が必要としている。(R)

EV時代のギモン 系統は耐えられるのか?


【どうするEV】高木雅昭/電力中央研究所 上席研究員

「電気自動車(EV)が大量に普及した場合、大きなピーク負荷が発生するのでは?」と問われたら、私は次のように答える。「EVがどれだけ同時に充電するかによる。そして、個々のEVがいつ充電するかはEVユーザーの行動次第なので、さまざまな想定ができてしまい、ピークが発生するとも、しないともいえる」

例えば「全EVの3分の1が一斉に充電する」という前提を置かれると、あり得そうだと思うかもしれないが、実際はそこまで同時に充電することはない。仮に最悪条件を想定し、とてつもなく大きなピークが発生したとする。この場合でも時間帯が集中する分、ピークの高さとしては大きくなるが、総充電電力量が増えるわけではないので、ピークの発生時間としては非常に短くなる。つまり、充電時間帯を少し分散させればピークは抑制されるので、容易に対策できる。

分かりやすく、ドライヤーで考えてみよう。全世帯でドライヤーが一斉に使われれば、非常に大きなピークが発生するが、実際にそんなことは起こっていない。これは人間の生活リズムによって、ドライヤーの稼働時間が自然にばらけるからである。対して、ヒートポンプ給湯機やEVなどは、次に使用する時までに必要なエネルギーを充たしてさえいれば、貯湯や充電する時間帯は自由に選べる。

このように、一定時間内で稼働時間帯を自由に選択できる負荷を可制御負荷というが、EVがこの可制御負荷であるために問題をややこしくしているともいえる。つまり、充電時間帯を上手くコントロールすればピークは発生しないが、間違った電気料金制度などが導入されたら、大きなピークが発生するのだ。

ここからは、充電時間帯の分散のさせ方に関する研究例を紹介する。図は、全国の自家用乗用車を対象に、EVの普及率を20%、自宅充電器の定格出力を3kWとして、中間期休日の負荷カーブを試算したものである。

中間期休日の負荷カーブ(EV普及率:20%)
出典:高木、田頭、浅野:「電気自動車の使用者利便性を考慮した夜間充電負荷平準化対策」電気学会論文誌B,Vol.135, No.1, pp.9-17 (2015)

その日走行した全てのEVが23時(午後11時)に一斉に充電を開始すると、急峻なピークが発生する(23時充電開始ケース)。一方、充電必要時間(満充電までに必要な充電量÷充電器出力)に対して充電開始時刻を均等に分散させると、急激なピークは抑制されるが、朝方に緩やかなピークが残る(図中、均等ケース)。これは、充電必要時間の分布そのものに偏りがあるにもかかわらず(今回の場合、充電必要時間が短いEVの台数が多い)、充電開始時刻を均等に分散させたためである。そこで、充電必要時間の分布を考慮した上で、充電時間帯が重ならないように充電開始時刻を最適に分散させると、ほとんどピークは発生しない(図中、最適ケース)。

このようにEVのピークを抑制するためには、ただやみくもに分散させるのではなく、分散のさせ方の根拠となる元データ(今回の場合は充電必要時間の分布)を分析し、分散のルールを決めることが重要なのだ。

たかぎ・まさあき 千葉県出身。東京大学大学院卒。エネルギーシステムを環境や経済性、持続可能性などの多面から評価し、代表的な将来シナリオの検証と電力システムの有効性分析を行う。

【火力】日欧の技術交流 欧州事業者の生の声


【業界スクランブル/火力】

5月に開催されたG7広島サミットは、ウクライナ情勢のことなどを踏まえ参加国の結束をアピールする場となった。特に、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日したインパクトは大きく、対面威力がいかんなく発揮された。

一方エネルギー政策については、2050年CNの理念を再確認するだけで具体的進展はほとんど無かったと言えるが、今後さらに勢いが増すのか、はたまたブレーキがかかるのか意見の分かれるところである。

さて、G7との関りはないが、コロナ禍の収束を受け、5月のGW明けに火力関連事業者の集まりである欧州のvgbe(欧州大規模発電事業者協会)とわが国の火力原子力発電技術協会との技術交流会が4年ぶりに兵庫県姫路市で開催された。そこでは、今が旬の水素・アンモニアやエネルギー貯蔵技術に関する取り組について日欧双方からの講演があり、そこでの質疑や、それ以外にもレセプションやテクニカルビジットなどの場を通じて活発な意見交換が行われた。

参加者によると、個々の講演の内容もさることながら、次のような点が印象に残ったとのことだ。

「日本と比べ国際連系線や系統規模など欧州の方が有利なこともあるが、彼らも一次エネルギー不足、調整力・慣性力不足など苦労しているところは同じ」

「状況は異なるが、日本の新技術の取り組みには注目している。また、技術動向にお構いなく政策が変わっていくが、事業者はそれに対応していくしかない」との前向きとも愚痴とも取れる本音も聞けたとのこと。

対面で見聞きする情報は、雰囲気を流すだけのマスコミ報道では決して得られない。これらをしっかりつかむことができれば、世の風潮に惑わされることも無くなるだろう。(N)

流動性欠く未熟な卸市場に風穴 価格リスク引き受けマネージ


【リレーコラム】城﨑洋平/エナジーグリッド 代表取締役社長

安定した価格で取引できる市場には、十分な流動性が担保されている。では、日本の電力取引市場はその流動性が高いといえるだろうか。長くエネルギー・コモディティ分野でトレーディング業務に身を置いてきたせいか、私はこの業界が抱える流動性に関する課題の大きさと根深さを人一倍強く感じてきた。同時に、おぼろげながら解決の糸口も見えていた。電力卸に特化したビジネスモデルは、こうした思いに端を発している。

日本の電力市場は、需要家向けの小売りが先行して自由化されたが、新電力が電気を調達する肝心の卸市場は構造的に未熟な状態が続いていた。多くの新電力がリスクを固定化できず、変動の激しい日本卸電力取引所に調達の多くを依存せざるを得なかったからだ。

この大きな要因の一つが、電力の出し手である電力会社や発電所所有会社が卸市場に十分な電気を提供していない点にある。仲介するブローカーは数社存在したものの、どのような状況下でも価格を出して引き受けるようなマーケットメーカーは不在であり、買い手の新電力が理想とするタイミングや価格での取引を臨める構造になっていなかった。

電力卸のマーケットメーカーに

当社が志向する電力卸のマーケットメーカーとは、どの電力会社の資本にも属さない独立系・中立というポジションから、電力の供給側と需要側の双方が抱える価格変動リスクを直接引き受け、金融の知見を生かしてマネージする存在。売りでも買いでも取引したいお客さまが必ず取引を執行できる価格を提示し、当社自身が取引相手となる。この安心感の醸成こそが流動性を向上させ、日本の電力マーケット全体の安定化につながっていくと考えている。

会社設立から間もなく2年。市場での取引開始から1年3カ月が経とうとしている今、こうした思いは有難いことに当初想定を上回る早さで届き始めている。当社の相対取引者数は60社超となり、取引電力量は98億kW時(金額ベースで2300億円)を超える規模まで急拡大した。当社を、単なるいちプレーヤーではなく、日本の電力業界が抱える課題解決に一緒に取り組めるパートナーとして認識いただいていることが何より大きい。

国際情勢は今なお予断を許さない状況が続いており、電力価格のボラティリティも依然として高い。だからこそ、私たちが果たせる役割は少なくないはず。電力の売り手も買い手もウィンウィンになる「電力の絆をつむぐ」ソリューションを、より一層磨き上げていきたい。

じょうざき・ようへい 東北電力、エンロン、野村證券、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスにてエネルギートレーディング&リスクマネジメント業務に従事。2021年エナジーグリッドを設立。

※次回はパナソニック オペレーショナルエクセレンスの山田泰也さんです。

【原子力】基準地震動を了承 泊再稼働へ前進


【業界スクランブル/原子力】

原子力規制委員会は6月9日、泊原発の再稼働に向けた審査会合を開き、原発の耐震設計の目安となる地震の揺れ「基準地震動」を、最大693ガルとする北海道電力の検討結果を了承した。審査の山場の一つを超えたが、まだ複数の審査項目が残っており終了は見通せない。

基準地震動は、原発周辺で起きる可能性がある地震の揺れの強さで、加速度の単位「ガル」で示す。北電はこの日、泊原発周辺の活断層が地震を引き起こした場合など、計19種類の基準地震動を示した。最大値は、過去に起きた地震を基に全国共通で考慮すべき地震の場合で693ガルになるとした。

基準地震動が了承されたことで、原発の耐震設計など再稼働に向けた審査が前進する見通しだ。ただ今後も、津波対策の目安となる基準津波の設定や、原発周辺の火山活動に関する評価、新設する防潮堤の設計などの審査項目が残る。

北電はこれらの説明を来年1月下旬に終える計画だが、今年に入ってからも、規制委から資料作成の不手際を指摘されて説明終了時期を度々、先延ばししてきた。予定通り審査を終えられるかは不透明だ。

こうした不透明さは泊原発だけではない。東通原発の審査が停止したままの東北電力なども置かれている状況は程度の差こそあれ大きく変わらない。

一方、6月の青森県知事選で人口五番目のむつ市の前市長、宮下宗一郎氏が当選し知事に就任した。宮下氏は青森県の経済について「地域の会議体を作り、原発の将来が地域の将来にしっかり一致していく流れを作りたい」と語っている。規制委の審査に不透明感が残る中、立地する地元が原発について考える事を地域の将来にかぶせるという視点は出色ではないか。(S)

【石油】OPECプラスが減産維持 国内価格への影響は


【業界スクランブル/石油】

6月4日、OPEC加盟国と非加盟主要産油国からなるOPECプラス閣僚級会合は、現行の協調減産の枠組みを2024年末まで維持することを合意した。同時に、サウジアラビアは7月の追加自主減産日量100万バレルを表明した。

事前には、価格回復のため減産を目指すサウジと増産を目指すロシアの対立が伝えられ、交渉は難航したもようだ。サウジとしては、70ドル前後で低迷する原油価格を下支えしたかったのであろう。

5日のWTI先物は71・88ドル(前営業日比プラス0・05ドル)とわずかに上昇した。既に実施中の日量166万バレルの自主減産、8月以降のサウジの減産の行方と相俟って、引き続き原油市場での不透明な状況は続こう。

さて、わが国では6月から燃料油補助金の縮減が開始された。2週間に10%ずつ補助率がカットされ、9月末には補助金は終了となる予定である。つまり6月第1週で見れば、従来ベースなら1ℓ当たり13・9円の補助金が、12・5円の支給に縮減となり、石油会社のスタンドへの卸価格は1・4円分値上げされることになる。

現行ベースの原油価格・為替水準が続くならば、2週に1・4円、一カ月に3円程度、四カ月にわたり石油製品の値上がりが続くことになろうが、原油価格上昇・円安があった場合には、値上がり幅は大きくなる。

昨年2月以来、補助金効果で、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格(ドル建て)高騰や急激な円安進行による輸入価格(円建て)上昇にもかかわらず、概ね安定的に推移してきた。

しかし国内石油製品価格も、今後は、原油輸入価格との連動性が復活することになろう。今後の原油価格と為替相場の推移が懸念される。(H)

【ガス】方向転換した東京都 エネ政策の行方を注視


【業界スクランブル/ガス】

東京都は今後のエネルギー政策を議論するために、「都エネルギー問題アドバイザリーボード」を発足させ、5月29日に第一回会合を開催した。

小池知事は本アドバイザリーボードを契機に、エネルギー問題に対する都の方向性を大きく転換した。もちろん「ゼロエミッション実現に向けた再エネの普及拡大に引き続き努力を重ねる」とは言っているが、気候変動問題や再エネ促進に関する言及はほとんどなく、①足元の深刻化する電力需給逼迫や電気料金高騰への対処、②新たなエネルギー源としての水素の可能性―にテーマを絞っている。

足元の電力問題に関しては、省エネの呼びかけやDRなどを繰り返すことのみで安定供給確保は難しいとの判断から、石炭・ LNG火力についてトランジションの観点でいかに都民などの理解を得ていくかというリアルな目線に切り替わっている。今までの理想論ばかりではなく、安定供給の観点で現実論が真剣に議論されることを歓迎するとともに、最終的な着地点がどうなるかに注目したい。

一方、水素に関しては、需要の拡大とパイプラインを含めた供給の仕組みの整備を効果的に進める戦略を第一の課題に挙げている。こちらは、都市ガス事業に直接影響を及ぼすテーマだ。パイプライン供給などに関する技術的な観点やメタネーションとの関係も含めて、慎重な議論をお願いしたい。

気になるのはボードメンバーの顔ぶれだ。電力関係の専門家が複数参加しているのに比べ、都市ガス関係者、特に技術系人材が見られないがより現実的な結論を出す場であればあるほど、偏りのない総合的な議論が必要となる。東京都の方針は他の自治体への影響力も大きく、ガス事業の利害に直結する。議論の行方が注視される。(G)

【新電力】値上げ水準引き下げ 不祥事よりも影響深刻


【業界スクランブル/新電力】

規制料金審査がようやく終わった。最終段階における消費者庁からの電力ガス取引監視等委員会への審査厳格化要請に対し、監視委委員から「法令に則り審査するだけ」と反論する場面があった。反論自体は真っ当ではあるが、監視委側の審査体制や思考が昨今の状況に合致していないことも明白であった。

値上げ申請の主因は、燃料費調整上限突破による逆ザヤだが、今回料金改定でも従来同様、全方面の効率化要請、原価審査が細々と行われ長期化した。この間、旧一電のみならず規制料金を参照している新電力小売りにも逆ザヤが居着いた。審査結果も必要以上に料金水準を引き下げており、新旧小売り全社の企業価値、競争環境を損なった。

あえて言うが、カルテル、不正閲覧などの不祥事よりも影響は深刻である。審査長期化と影響度合いは事前に予想できたのだから、審査プロセスの短縮、合理化をあらかじめ取り計らえなかったのか。燃料費調整基準価格変更の自動化もしくは分離審査、いくつかの外部原価のインフレスライド織り込み、宣伝費などマイナー原価項目の審査簡略化等々、先んじて考えられることはあったのではないか。一つ覚えの人件費効率化要請の反作用の大きさは、大震災後の東電離職者数から想像できよう。

他方、原子力再稼働見込みは楽観的で『料金水準引き下げ所与』のマインドがうかがえる。日本の電力制度設計では、国民負担軽減の名分で一部費用の事業者付け替えが構造化している。旧一電高コスト体質を批判するメディアもあったが、安定供給と競争環境維持の観点からは疑問視する声もある。制度設計側は今回の審査をレビューし、規制料金の存廃検討、維持する場合は審査プロセスの簡略化、合理化を行ってほしい。(K)

「高騰するのか」よりも大切なこと


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

世界的なエネルギー価格の下落が続いている。昨年末まで「欧州は冬を越せるのか」と騒いでいたのがうそのようである。6月上旬現在、LNGは最高値から約7分の1、 石炭は約3分の1まで下がった。

そこで話題になるのは、「価格は再び高騰するのか」ということである。単純な答えは「火種は十分」であろう。エネルギー危機の原因となった供給側の制約は変わらない。石炭の増産投資は相変わらずタブーだし、LNGも今後3年は大きな供給増がない。大幅に減ったロシアから欧州へのガス供給に回復の見込みもない。市場価格が落ちたのは、世界的な暖冬と景気の停滞による需要の低迷が原因だ。従って、景気が上向き、寒い冬が到来ということになれば、状況が一変する可能性は十分と思われる。

エネルギー価格の先行きに関して、電力経営者の関心は高い。ここ2年ほど、電力・燃料価格の騰落に翻弄されてきた企業としては当然である。私もかつて業界で燃料調達を担当したときには「市場を読むのがお前の仕事」と言われ続けたものだ。今だから言うが、正直、市場の現状は分析できても、先行きを「予言」するのは無理である。この数年だけをみても、コロナの流行、ウクライナの戦争、記録的暖冬など、予測不能な「事件」は必ず起こる。

電力市場が自由化されて以降、欧米の電気事業者が目指したのは、電力価格がどれほど乱高下しても一定のマージンを確保できる仕組みづくりである。電力や燃料を機動的に売買し、価格のヘッジを行うのは、相場を読んで大儲けするためではない。在庫が持てず、簡単に代替のきかない電力は、わずかな需給の過不足で価格が極端に振れる「この世で一番危険な市場商品」と言ってよい。「仕組みづくり」を進めつつ、不意に訪れる巨大な波に備えたい。

【マーケット情報/7月17日】原油続伸、需要拡大の見通し広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

7月17日までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。米国経済の景気回復と需要増の観測が強まり、買いが優勢だった。

米国では、新規雇用者数や生産者物価指数などの伸びが鈍化したことを受けて、インフレ緩和の見通しが広がった。このため、連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ政策の終了に対する見方が強まり、景気と需要の回復期待が高まった。また、米戦略備蓄原油(SPR)の在庫が、40年来の最低水準になったことも、油価の上昇圧力となった。米当局はSPRへの補充計画を明らかにしている。

中国では、製油所における原油在庫の減少を受けて、6月の原油輸入が過去3年で最高水準となった。一方、国内経済は、6月の生産者物価指数が9カ月連続で低下。第2四半期のGDP成長率も、前期比で0.8%にとどまるなど、景気低迷が続いている。そのため、週後半には先行き懸念から売られる局面もあったが、相対的に買いが先行した。

一方、供給面では、米エネルギー情報局(EIA)が今年の国内石油生産予測を前月から下方修正したことも、強材料となった。


【7月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.15ドル(前週比1.16ドル高)、ブレント先物(ICE)=78.50ドル(前週比0.81ドル高)、オマーン先物(DME)=79.61ドル(前週比1.32ドル高)、ドバイ現物(Argus)=79.56ドル(前週比1.37ドル高)

【コラム/7月18日】2023年度第1四半期の制度設計を振り返って


加藤 真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2023年度も第1四半期が終わり、夏本番を迎えている。毎年のように夏冬の電力需要ピーク時期は節電や省エネを意識するようになっているが、今年もその傾向は変わらない。

一方で、電気事業をはじめとしたエネルギーに関わる政策や制度は、毎月のように多く開催される審議会などで議論・審議・報告されているように、その変化は終わりを知らないものとなりつつある。

今回は、この第1四半期の制度設計の状況について、簡単に振り返ってみることとしたい。


年度が替わっても相変わらずの慌ただしさ

筆者が追っている審議会などの開催件数は第1四半期の3カ月間で約100件と多く、その議論の内容も資源燃料から発電、送配電、小売り、その他、金融から省エネ、分散型エネルギーリソースの活用、保安、デジタル、地域、環境など、幅広に展開されており、その一つひとつを把握することに加え、それぞれの制度間の関係や、さらには事業への影響を踏まえた活用まで考えると、全体像を理解するのはなかなか困難なことである。

第1四半期は国や自治体、多くの企業にとって、年度の開始であるではあるが、通常国会の会期末であることに加え、毎年、この時期に政府が経済政策を打ち出すため、どうしても、その前までに各審議会などで議論を整理しておく必要があることも、上述のような慌ただしさの要因の一つではないかと考えている。


第1四半期に行われた議論

では、これだけ多くの審議会などで議論が行われ、様々な取りまとめがなされた第1四半期には、具体的に何があったのか。資料1に整理してみた。

大きな流れはこれまでと変わらないが、筆者の整理としては、3つの軸で進んでいると考えている。

1.「方針の提示」

これは政府が示す経済政策などの方向性になる。例えば、今で言えばGX推進のための政策である。第1四半期で言えば、新しい資本主義実現のためのグランドデザインの中に織り込まれているほか、G7の札幌会合でも日本の意を汲んだ内容が盛り込まれ、通常国会では2つの関連法案「GX推進法」、「GX脱炭素電源法」が審議され成立している。

2.「具体的な制度設計」

上記1における法改正や関連審議会の取りまとめがなされた施策については、実務で活用していくための詳細議論が行われる。例えば、GX推進法では、今後10年間で150兆円と言われる投資を支えるために国が主導して発行するGX経済移行債は既に今年度の予算措置が取られているが、その償還財源とされる化石燃料賦課金(28年度導入予定)と排出量取引における発電事業者への有償割当(33年度開始予定)の具体的な設計は、今後2年間かけて検討することとなり、その役割を担うのが、同法で規定されているGX推進機構(今後、創設)となる。

一方、GX脱炭素電源法では、原子力関連と再エネ関連の2つが織り込まれているが、そのうち再エネ特措法については、法成立後、直ぐに関連審議会での議論を始めており、その施行は来年4月を予定している。

特に、最近ではカーボンニュートラル実現に向けた具体策の議論は進んでおり、資源燃料関連であれば、水素・アンモニア、メタネーション、合成燃料、バイオガスなどが、発生したCO2の対応としてCCUSに関する政策の方向性は整理されつつあり、実用化に向けた技術開発支援(GI基金)や予算を活用した調査委託、関連法令などの整備といった準備や具体検討に入り始めている。

脱炭素施策の別の施策として再エネの普及・最大限活用が挙げられているが、特に送配電部門の対応の議論が進みつつある。例えば、系統増強では3月に公表されたマスタープランを踏まえた整備を進めるために「GX脱炭素電源法」の中で電事法を改正し、重要な整備計画などを大臣が認定、資金的な手当て(再エネ賦課金、広域機関による貸し付け)を行うことが規定されたが、この重要な整備計画などの規模について、具体的な制度設計を始めている。系統運用面では、再エネ出力制御量の低減や、ノンファーム型接続のローカル系統での受付開始を踏まえた、今後の系統混雑解消の対策や取り決めの議論を始めている。

エリア需給バランス維持のために行う再エネ出力制御については、この6月に関西エリアで初めて発動したことで、東京エリア以外すべてで実績が出ることとなった。30年度の電源構成上の再エネ目標を実現するには、案件形成やO&Mの高度化などによる発電量増加も必要だが、この再エネ出力制御量の低減も課題となっている。既に4つの包括パッケージを打ち出し、詳細検討や実施を始めているが、特に、需要側の対応(蓄電池の導入・活用、㏋給湯器による上げDR、それらを生かすことができる電力メニューの提供など)も重要と位置付けられ、エネルギー小売り事業者への間接規制や、機器へのDR Readyの搭載促進、揚水発電の最大限活用など、年内には包括パッケージの見直しを行うこととしている。

さらに、小売り電気事業者については、カルテル事案や情報漏洩発生も踏まえ、より一層、健全な競争環境構築について大臣指示が出ており、こちらも電取委含め、具体的な議論を始めている。

電力小売りで言えば、旧一電の内外無差別な卸売について、昨年度来、入札やブローカー取引、個別協議を各社が進め、この6月に電取委にて一定の評価が出された。結果として、北海道・沖縄の2社で内外無差別と評価されている。