日本の技術で途上国に電気を届ける エネルギー研修を大学で実施


【JICA/早稲田大学】

「ナイジェリアでは経済成長が著しい。地下には天然ガス資源が埋蔵されているものの、発電設備が足りずに電力の需要が追い付かない状況だ。日本の事情や技術を学びたい」「電力系統の安定化のために、日本にはどのような技術があるのか。そして、どのような技術をサモアに持ち帰ることができるのか知りたい」―。

国際協力機構(JICA)と早稲田大学が連携し、主に発展途上国の電力供給の実務を担当している人材を対象とした、日本の技術を学ぶ研修会。6月に行われた研修の場で、ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんがそれぞれ来日した動機を話した。

この研修会は、「再エネ拡大に向けたスマートグリッドと分散型エネルギー資源の管理」をテーマに3年前からJICAが主体となって開催している。過去2年はコロナ禍の影響もあり、オンライン研修だったが、3回目となる今回は、研修生の来日が初めて実現。会場となる早稲田大学で研修生たちは日本の技術を学んだ。

途上国の研修生が日本の技術を学んだ

8カ国の研修生が学ぶ DRの仕組みに期待を抱く

研修会に参加した国はメキシコ、インドネシア、マレーシア、フィジー、サモア、ナイジェリア、ケニア、モロッコの8カ国だ。

ナイジェリアのツンデさん、サモアのビクターさんはともに公務員として国内のエネルギー供給を支えている立場の人だ。両国は、人口も再エネ導入量も増えており、いろいろな課題を抱えている。「今回の研修でデマンドレスポンス(DR)を学んだ。系統の安定化に対応するにはバッテリー導入が対策の一つだがコストが掛かる。でも、DRの仕組みであればコストを掛けずに対応できる」「日本にはいろいろな技術があることが分かった。自分たちが課題を解決しようとするときに、ゼロから準備しなくてもよいことが分かった」。いろいろと研修の手応えを感じているようだった。

早稲田大学にはエネルギー需給を管理するシミュレーション設備があるほか、エコーネットライトに対応した家電設備群が備えられた模擬住宅も存在する。エコーネットライトとは、家電同士の「会話」を支える通信規格のことだ。こうした規格によって、家電設備などを制御するDRをスムーズに行うことができる。

研修業務を担う早稲田大学の石井英雄・スマート社会技術融合研究機構研究院教授は「研修会の場は発展途上国の人たちが日本の技術を知ってもらう機会になる。こうした機会が、今後日本のメーカーが海外に展開するときの一助になれば」と話す。

どうなる!? 函南町メガソーラー計画 トーエネックの提訴で新局面に


函南町軽井沢地区のメガソーラー計画撤退を発表したトーエネックが、関係事業者を相手取り提訴した。

訴訟に踏み切った背景は何か。計画の行方はどうなるのか。静岡県や経産省の対応に、住民側の関心が集まる。

「事業性を評価した結果、事業の開始が困難と判断した」―。

静岡県函南町軽井沢地区で計画されてきたメガソーラー事業。土砂災害を懸念する地元住民らが反対運動を起こし、中部電力子会社のトーエネックが撤退を発表したのが今年1月のこと。あれから約半年。事態は思わぬ方向へと向かっている。

去る6月2日に「既払い金の返還等を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起した」と発表したのは撤退を表明したトーエネックだった。なぜ提訴したのか、まずは事業内容を簡単に振り返ろう。

トーエネックは2017年、約65‌haの土地に約10万枚の太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める事業計画を立てた。再生可能エネルギー事業を手掛ける東京産業の斡旋で、ブルーキャピタルマネジメントが18年4月にFIT認定IDを取得。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、トーエネックがその後の事業を引き継いだ。事業開始を25年10月としていたが、計画が災害リスクを誘発するとして地元住民が猛反対。函南町長も計画への不同意を示したことで、トーエネックは計画を断念し、昨年10月の段階で114億9000万円の特別損失を計上。1月に撤退を発表した。

トーエネックによると、事業撤退に伴い、ブルー、東京産業の両社とこれまでの契約を解除。事業にかかった費用の返還などを求める協議を続けてきたが、「交渉による解決は困難と判断」(トーエネック担当者)。今回の訴訟に踏み切った格好だ。

訴訟を受けた2社は反発 「契約解除の理由がない」

トーエネックから訴訟を起こされた2社はいずれも反発している。ブルー社は「本件訴訟は一方的な内容かつ契約解除の理由がない」などとするコメントを発表。東京産業も「(トーエネックが)主張する本件地位譲渡契約解除は理由がないと考えている」としている。両社とも裁判を通じて契約の正当性を争う構えだ。

実は、トーエネック、ブルー両社を巡っては、山梨県甲斐市菖蒲沢地区のメガソーラー開発事業でミソを付けた苦い経験がある。2年ほど前、ブルー社が林地開発許可を受けて工事を行ってきたメガソーラーの運営権利(FIT認定ID)を、トーエネックが取得。その後、調整池や水路、太陽光パネルの設置などで不正や欠陥が相次いで判明し、地元から不安の声が高まった。

山梨県の長崎幸太郎知事はトーエネックの幹部を県庁に呼び、設備の工事と維持管理に万全を期すよう要請。しかし同社が適切な措置を講じる前に、ブルー社に事業を売却してしまったことで激怒。メディアなどを通じて、「社会的な責任感が欠如している。極めて不誠実な行為で、強い憤りを禁じ得ない」「場合によっては人の命が関わる問題を放擲して逃げ去るのは、あまりにも無責任」などと痛烈に批判し、当時の幹部が謝罪する事態に追い込まれた。

「トーエネックからすれば、メンツをつぶされたようなもの。軽井沢案件で同じ轍を踏むことはできず、ブルー社にも責任の一端があると周知する狙いもあって、訴訟に踏み切ったのではないか」。事情通はこう話す。

ともあれ、住民側の最大の関心は、軽井沢計画のFIT認定IDの行方がどうなるか、だ。この点について、トーエネック側は「お答えできない」との立場だが、住民団体の幹部によれば「軽井沢計画は砂防指定地や土石流危険区域などに抵触していて、法令違反は明らか。静岡県は林地開発許可を取り消し、経産省も事業認定を取り消すべきだ」という。

実際、昨年12月には函南町議会が、林地開発許可の取り消しを求める請願を全会一致で可決。取り消し要望書を県に提出した。しかし関係者によれば、川勝平太・静岡県知事が林地開発許可取り消しに動く様子は今のところない。川勝氏の消極姿勢を巡っては、「再エネ推進派との関係性から、太陽光開発を否定する施策は打ち出しにくい」(地元関係者)とする見方や、「リニア問題の対応や自身のスキャンダルもあり、火種を抱えたくないのでは」(大手キー局記者)と勘繰る向きもある。

この問題に対し静岡県の動きは鈍い

認定IDの失効は回避か 川勝知事に重い責任

林地開発許可が取り消されない限り、経産省側も事業認定の取り消しには動きづらい。昨年4月施行の再エネ特措法に基づき、一定の期限までに運転開始に向けた進捗がない案件については認定を取り消す制度が導入され、今年3月末時点で約5万件が失効期限を迎えた。が、林地開発許可などを取得し系統連系工事着工申し込みが受領されている場合は、失効が猶予されるのだ。

FIT認定情報照会サイトで軽井沢計画を検索したところ、「23年4月1日以降、失効期限日を超過している可能性があり、認定状態を確認中」とのこと。ただ失効している場合は「認定が無効」と表示されるため、現時点では失効していない可能性が高い。

「トーエネックの撤退という大きな計画変更があり、認定の前提が崩れたことで、IDや訴訟の行方を注視していく。ブルー社が権利を引き続き、工事を強行するような展開だけは何としても避けなければならない」。前出の住民団体幹部は不安を募らせる。

今夏も、全国各地で豪雨による土砂崩れなどの被害が相次いでいる。メガソーラーの乱開発が土地に影響を与え、災害を引き起こす事例も年々増加傾向だ。21年7月には、静岡県熱海市の伊豆山で盛り土崩落による大規模土石流が発生し、28人もの犠牲者を出した。あのような悲惨な災害を回避すべく、国や自治体は住民の生命・財産を守るため最大限の措置を講じることが求められよう。

その意味で土石流災害を経験した県、とりわけ川勝知事の責任は重い。問題の軽井沢地区は、災害発生現場の伊豆山とは背中合わせの位置にあり、その距離はわずか4㎞と近接していることを、今一度思い返す必要がある。

秒読み段階の処理水放出 「国際情報戦」対応が重要に


「情報戦」は始まったばかりだ。福島第一原発の処理水放出を巡り岸田文雄首相は7日4日、来日した国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長から海洋放出の安全性評価を含む包括報告書を受け取った。翌日、グロッシ氏は太田房江経済産業副大臣らと現地を視察。東京電力の小早川智明社長から説明を受けたグロッシ氏は「完璧だ」と評価した。

福島第一原発で東電の小早川社長から説明を受けるグロッシ事務局長と太田経済産業副大臣
提供:EPA=時事

日本政府は一部の国を除いた各国の理解を取り付けている。「反日」が根強い韓国でさえ、政府が国費をつぎ込み、海洋放出は危険ではないというユーチューブ広告を流すほどだ。IAEAのお墨付けを得て「科学か、非科学か」という次元で理解を求めた戦略的勝利といえよう。

一方で非科学的な反発を続けるのが、中国と韓国左派、北朝鮮だ。中国政府は処理水を「核汚染水」と表現し、日本の水産物規制を強化。韓国ではデモ隊が空港の貴賓室の前に座り込み、グロッシ氏への「物理的攻撃」に出た。

日本にも非科学的な姿勢を示した人物が一人。公明党の山口那津男代表だ。海洋放出の時期について、「海水浴シーズンは避けた方がいい」と発言。風評を広げる発言に批判が集まった。

原子力を巡る情報戦は「まだ序の口」と見る向きもある。というのも、六ヶ所再処理工場が稼働すれば海洋へのトリチウム放出量(管理目標値)は年間1京8000兆ベクレル。「京」という単位で明らかなように、福島第一原発だけでなく、中国や韓国の原発から出るトリチウム量をもしのぐ。

情報戦は、今後も日本の原子力政策と隣り合わせだ。だからこそ、今回の海洋放出を着実に実施する必要がある。

混迷深まる「中間貯蔵」の正念場 抵抗貫く青森・福井の舞台裏事情


関西電力は福井県の原発で発生する使用済み燃料の一部をフランスに搬出する方針を示した。

今年末に期限を迎える中間貯蔵施設の候補地提示を巡り、事態は正念場を迎えている。

「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と『同等の意義』がある」

物議を醸す見解だった。関電は6月12日、使用済みMOX燃料約10t、使用済みウラン燃料約190tを使用済みMOX燃料の再処理実証研究のためフランスに搬出する方針を発表。リリースで冒頭の表現を用い、杉本達治福井県知事に言明した「今年末までに中間貯蔵の候補地提示」との約束を「ひとまず果たされたと考えている」と結んだ。同月19日、経済産業省で杉本知事と面会した西村康稔経産相も同様の見方を示した。

福井県側の反応は厳しい。事実として、今回の方針は中間貯蔵の候補地を提示したわけではなく、搬出量は福井県内の原発で保管する全量の5%程度(約200t)に過ぎない。こうした理由から、6月13日の県議会全員協議会では議員から「関電の詭弁」との声も挙がった。福井県は本稿執筆時点(7月21日)で国に再説明を求めており、杉本知事は「国からの回答、立地市町の意見、県議会の考えを聞き、総合的に判断する」としている。

福井県の杉本達治知事(右)に方針を伝える関電の森望社長
提供:時事

立地自治体は一定評価 サイト内貯蔵の可能性は

その後、7月に入り、桜本宏副知事が高浜、おおい、美浜の各町長、美浜町に隣接する敦賀市長と次々に面談。この際、関電の原発が立地する高浜、おおい、美浜の3町長は今回の方針を「一歩前進」との表現で評価したが、「同等の意義」や約束が「果たされた」との見解には「違和感を禁じ得ない」(おおい町長)など苦言を呈した。杉本知事は7月13日の予算決算特別委員会で、「厳しい。一歩前進との声はあるが、今までの約束に至っていない思いがにじみ出ている」と述べ、「四半世紀以上の課題を解決しないといけない山場の時期が来ている」と強調した。

最終決着は、①サイト内での乾式貯蔵、②むつ中間貯蔵施設の共同利用―二つのシナリオが考えられる。だが、どちらも実現へのハードルは相当に高い。

使用済み燃料の貯蔵には、プール貯蔵のほかに金属製容器(キャスク)に入れ空気で冷やす「乾式貯蔵」がある。プール貯蔵よりも安全性が高く、中部電力、四国電力、九州電力はサイト内に乾式貯蔵施設の新設を計画し、運用開始に向け準備を進めている。

関電が所有する福井県内の原発は、稼働が続けば5~7年で貯蔵プールが満杯になる試算だ。21年2月、「23年末」を約束した関電の森本孝社長(当時)は「計画地点を確定できない場合には、確定できるまでの間、美浜3、高浜1、2号機の運転は実施しないという不退転の覚悟で臨みたい」と語ったが、実際に稼働停止した場合、立地自治体の損失は計り知れない。このため、立地自治体では運転継続や安全性の観点から、サイト内での乾式貯蔵の検討を求める声がある。それでも、福井県全体に受け入れられるかは不透明だ。

立地自治体は県南部の嶺南地域に密集するが、人口比は嶺北地域の4分の1程度に過ぎない。関電との約束の主体が県である以上、嶺北地域の理解が欠かせないが、今回の方針でむしろ反感を買っている状態だ。

宮下知事の態度軟化は 共同利用は「虫がよすぎる」

むつ中間貯蔵施設の共同利用にも、「宮下宗一郎」なる一人の男が立ちはだかる。20年12月、電気事業連合会は共同利用の方針を発表し、説明のために青森県へ幹部を派遣。三村申吾知事(当時)は「全く新しい話だ。本日は聞き置く」と回答を留保する中、むつ市の宮下市長(当時)が「あり得ないことだ」と強く反対して棚上げとなったのだ。

当時、電力業界と激しくやり合った宮下氏は、6月の青森県知事選で40万票を獲得して圧勝。再び共同利用を巡るキーマンとなった。就任会見では共同利用について「市長時代に申し上げたことと何ら変わらないので、同じスタンスで臨んでいきたい」と従来の姿勢を固持したが、宮下氏の決意は揺るがないのか。

宮下氏は原子力政策に理解がないわけではない。いや、むしろ「小野寺氏以上にしっかりとした信念を持っている」(後援会長を務めた末永洋一・青森大学元学長)。選挙公約でも、「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」と掲げた。

こうした宮下氏の姿勢もあってか、宮下氏が反対を貫くのは、関電をはじめ電力業界の対応に問題があったからと見る向きが少なくない。「中間貯蔵施設の運営主体である東京電力と日本原子力発電が方針を伝え、関電のトップが頭を下げればいい」(宮下陣営の関係者)など、電力側が筋を通すことで事態は打開できるのではないかというのだ。

加えて、青森県側には県やむつ市の財政状況から、核燃料税と使用済み核燃料税を求めて共同利用に積極的な声も存在する。宮下知事が県知事選で打ち出した県政改革を実現するためにも、核燃料税は予算確保策の一つだ。確かに「筋」や「金」の面から見れば賛成に傾く可能性もあるのだが、事はそう単純ではない。宮下知事のみならず、青森県側には共同利用への拒否感が根強くあるのだ。

福井県が県外搬出を求めたのは、使用済み燃料は消費地で引き受けるべきだとの理屈だった。しかし、都市部を中心とする消費地では貯蔵が難しい。「福井がダメ、消費地もダメ、だから青森」というのは唐突で、あまりに乱暴ではないか―。これが共同利用に反対する青森県側の理屈だ。異例の40万票を獲得した宮下知事が、簡単に首を縦に振るとは思えない。

関電は使用済み燃料の搬出容量を確保するため、引き続き「あらゆる可能性を追求」するとしている。今後はこうした関電の姿勢や核燃料サイクルの実現に向けた国のコミットを再確認するなど、国と福井県が協議した上で「方向性の整理」が行われる見込みだ。福井県側の違和感を払しょくし、納得感を得られるかが焦点だが、最終決着にはほど遠い。

LNG巡る潮目変化を象徴か 産消会議と資源外交の成果は?


ウクライナ戦争を背景に化石エネルギー資源の安定供給が世界主要国の重要な政策課題になる中、LNGの上流でも潮目が変わってきたようだ。

経済産業省は7月18日、LNGの生産国と消費国が集まる「LNG産消会議2023」を都内で開催した。国際エネルギー機関(IEA)と初めて共催し、17の国と地域が参加。LNGセキュリティの強化やLNGバリューチェーンのクリーン化などが議論の焦点となった。

冒頭、中東を歴訪中の岸田文雄首相が「今回の会議がエネルギーの、そして地球環境の未来を救うターニングポイントとなることを期待する」と動画であいさつ。LNGのクリーンな利用に向けた課題に対し産ガス国と消費国が連携して取り組む必要性を提起した。

会議では、①IEAのLNG分野に対する機能強化、②サプライチェーンから排出されるメタン対策への取り組み、③LNG調達支援に関する取り組み―を議論。この中で西村康稔経産相は、日本の取り組みとして、戦略的余剰LNGという新たな貯蔵制度や、仕向け地条項の撤廃に向けた世界的な取り組みのほか、日本貿易保険(NEXI)が金融機関から保険料を受け取り、短期契約の融資を肩代わりする支援策を表明した。

会議全体の成果については、LNGの安全保障強化やバリューチェーンのクリーン化に向けた課題を整理した上で、自主的な公約として議長国サマリーを発表した。

資源エネルギー庁資源開発課の長谷川裕也課長は、「日本からIEAの機能強化の議論を開始したこと、また議長サマリーに各国の政策を盛り込んだことは非常に重要だ」と話している。

今回のLNG産消会議は歴史の転換点となるか

岸田首相の中東歴訪 カタール復活へ地ならし

産消会議と並行する形で、岸田首相は中東3カ国(サウジアラビア、UAE、カタール)を訪れ、資源外交を展開した。エネルギー企業の幹部らも同行。とりわけカタールについては、増産権益の確保に向けた地ならしとして関係者の関心を集めた。かつてカタールとJERAは年間550万t規模のLNG長期契約を結んでいたが、21年末に終了したことで、関係が冷え込んだ。今回のトップセールスは中長期的な需要動向が見通せず、契約に二の足を踏むエネルギー事業者を、政府が全面的に支援するという意味で〝お墨付き〟を与えた格好といえる。

世界に目を向けても、LNG回帰とも取れる動きが進む。米石油大手のエクソンモービルは、30年までにLNG取扱量を現在の約2倍となる4000万t以上に拡大。英大手シェルも6月にLNG生産能力を年間1100万t増産すると発表した。「LNGの重要性が増すことで、日本が国際市場をリードする立場になる」。エネ庁幹部は意気込みを見せる。

エネルギーアナリストの中には、「化石回帰はウクライナ戦争などに伴う一時的な現象。欧米で脱炭素志向が主流であることに変わりはない」と見る向きも。果たして、来年の産消会議ではどんな議論が展開されることになるのか。

原子力開発最前線 三菱重工業 「SRZ―1200」に〝横綱〟の風格


【澤田哲生 エネルギーサイエンティスト】

GXで原子力発電の役割が欠かせない中、三菱重工業は強力なラインアップを揃えた。

中でも安全性、経済性を格段に高めた革新軽水炉「SRZ―1200」には、〝横綱〟の風格が漂っている。

日本の重工業を常にリードしてきた三菱重工業。維新なった明治の治世、富国強兵策をガッチリと支えてきたのである。始祖・岩崎弥太郎の下、重厚長大をもって日本の産業構造の基盤を下支えすることは三菱の創業以来の至上ミッションであったし、それは実践と実績に基づいた史実でもある。

弥太郎の理念はその三綱領にあらたかである。①所期奉公(社会貢献)、②処事光明(フェアプレイ)、③立業貿易(グローバル対応)―。これらは昨今のSDGs(持続可能な開発目標)にも通じるものがある。

1873年の三菱商会の発足から今年でちょうど150年。三菱グループの枢要企業三社の一角をしめる三菱重工が、GX(グリーントランスフォーメーション)のエネルギー政策の要である「原子力発電を最大限に活用する」ための切り札を打ち出してきた。

それは三つの構成要素からなる。革新軽水炉、高温ガス炉、そして高速炉のトリニティだ。

最大限活用の切り札 三菱ならのラインアップ

SRZ―1200―。GXに欠かせない大量の電源、しかも既に実用化されている大型軽水炉の範疇で、太陽光や風力というVRE(変動電源)との相補性に優れる革新軽水炉をまず打ち出した。

革新軽水炉「SRZ―1200」のイメージ図

それに加えて、GXに欠かせない大量水素製造の可能性を秘めた高温ガス炉、そして資源小国日本の国是であるウラン資源の最大活用、つまり〝閉じた〟核燃料サイクルの中核を担うナトリウム冷却高速炉。いずれも実績に裏打ちされた原子力開発のリーディングカンパニーならではのラインアップである。それらは日本のみならずグローバルに通用するものである。

EUタクソノミーは欧州を基軸に、それぞれの発電方式が地球温暖化の阻止に役立つか否かのレッテルを貼る分類法であり、世界の価値基準と目される。そして、2023年1月に欧州議会で「原子力はグリーン」と裁定された。まことに真っ当かつ未来に明かりをともす喜ばしいニュースであった。

SRZ―1200は、3.11で得られた教訓が随所に実践展開された、まさに〝決め打ち〟の革新軽水炉である。

世界に目を転じれば、フィンランドでちょうど今年4月に稼働したヨーロッパ式大型軽水炉は、建造過程で変更に変更を重ね大幅な工期延長と最終的に1兆円を超えるコストを費やしてしまった。

三菱重工の〝決定打〟、SRZ―1200は、資源エネルギー庁が2030年の新設プラント建設費として想定している6200億円と同等の水準を目指すとしている。うれしい話ではないか。安全確保上、いわゆる世界一の極めて厳しい地震・津波対策が必須の日本でこの価格なのである。海外ではもっとお安くなるのではないか。

そして特定重大事故等対処施設(特重)は大幅な合理化も期待される。重大事故に対する安全確保の要は、建屋を強固な岩盤に埋め込むことによる耐震性強化、津波などによる溢水を排除するドライサイト、受動的と能動的な安全システムのベストミックス、二重格納容器による航空機などの外部飛来物への耐衝撃性の向上、そして放射性希ガス(XeやKr)さえも環境に漏らさない放射性物質放出防止システムの導入などである。

結果として、現行の原子力規制の下では追加設置が義務付けられているあの長大でドンキーな特重施設がもはや不要となる可能性を秘めている。これはとてつもなく明るいニュースだ。

3.11で得られた教訓を基に安全対策は多重性、多様性を重視している

原子力志望の若者 未来への熱い夢

原子力セグメント長の加藤顕彦常務執行役員の話では、ここ数年、三菱重工の原子力部門の新規採用は増加傾向にあるという。一部のアンチのメディアに惑わされることなく、自分の頭で思考する若者が確実に増えていることは、私自身の中学生や高校生への授業と対話交流、大学生・院生への講義などを通じて如実に感じてきた。

3.11以降、大学院の人財育成は助成金行政のもと、原子力分野では福島第一の廃炉と原子力規制に資源が集中投下されてきた。が、私に言わせればどちらも後ろ向きである。あまり夢がないのだ。これでは弥太郎の「三綱領SDGs」に能うところがない。革新的原子炉の研究にこそもっと熱い夢が語られ資源が配分され夢の実現がなされるべきである―そう思ってきた。

三菱重工には、原子力の革新的未来に応えようとする若者が集まってきているという。それは、いわゆる原子力プロパーの学部や選考ではなく、どうやらその他分野の工学や理学などから目先のきく若者がやってきているようなのである。

横綱を土俵に上げるには 政府は投資環境の整備を

土俵は整いつつある。つまり、政府はGXに向けて「原子力の最大活用」の掛け声のもと、革新軽水炉の新増設と従来の原子力政策を180度転換した。そして原子力産業の〝横綱〟、三菱重工はこれぞ決め打ちの革新軽水炉SRZ―1200をもって、土俵下でどっかりと構えている。横綱は呼び出しの声を待っている。設計図はある。工場も準備万端、手ぐすねを引いている。しかし呼び出し(発注)がなければ、横綱も土俵に上がることさえままならない。

電力会社が発注をためらう理由は何か。3.11以後の原子力を巡る環境の急速な悪化である。

稼働中の発電所をいきなり停止させる「仮処分」、いまだに再稼働の審査を続ける原子力規制委員会の怠惰、稼働を巡り「住民投票」をちらつかせる首長の存在―。 これだけのリスクが顕在化する中、誰がリプレース・新増設に数千億円の費用を融資するだろうか。投資した金額の回収を保証する枠組みをつくること。これこそが今、政府が取り組むべき事柄である。 今年、第7次エネルギー基本計画の策定が動き始める。この場で良識ある人たちが声を上げ、政府に重い腰を上げさせなければならない。

三菱重工は、呼び出されれば10年でSRZ―1200を完成させるという。政府が本腰を入れるならば、50年に向けてのGXにはなんとか間に合いそうである。

私たちは今、向こう半年程度で一体何が起こるのかを注視せざるを得ない―。そう思うのである。

さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ工学所客員研究員、東京工業大学助教などを経て2022年から現職。工学博士。専門は原子核工学。著書に『原子核工学入門』『やってはいけない原発ゼロ』など。

【マーケット情報/7月28日】原油上昇、需要の回復期待がさらに拡大


先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇した。米国の利上げ終了観測や、中国の景気刺激策などから、需要増の見通しが広がった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が追加の利上げを発表した。ただ、市場では年内の再利上げの可能性は低いとの観測が広がり、需要の回復期待が高まった。第2四半期の米GDP成長率は年率換算で2.4%と、市場予測を上回った。これらを受けて、FRB議長が、年後半に不況入りする見通しはないとする発言も材料視された。

中国では、建設業界に対する景気刺激策の発表が市場で好感された。

国際通貨基金(IMF)は、米金融セクターにおける脆弱性の改善などを受けて、今年の世界経済成長予測を、4月の発表時から0.2%、上方修正した。

供給面では、米国の週間在庫が、輸入減から減少に転じた。石油ガスリグの稼働数が、前週から減少したことなども、油価の上昇圧力となった。

また、ナイジェリアでは、フォルカドス輸出ターミナルが、装置不具合とみられる原因から一時閉鎖された。サウジアラビアが、日量100万バレルの追加減産を9月も継続するとの見方が広がった。


【7月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.58ドル(前週比3.51ドル高)、ブレント先物(ICE)=84.99ドル(前週比3.92ドル高)、オマーン先物(DME)=85.26ドル(前週比3.61ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.97ドル(前週比3.50ドル高)

次代を創る学識者/金田一清香・広島大学大学院先進理工系科学研究科准教授


建物の省エネと快適な空間の両立を目指す建築環境工学。

この研究を生かし広島大学の2030年カーボンニュートラル達成に取り組む。

人間にとって最も身近な環境としての建築空間を考える建築環境工学。住宅に限らず、学校や店舗、ビルなど建築物全般の建築空間に関する学問であり、風の取り入れ方、空気の流れ、採光や断熱といった工学的設計を施し、快適な空間を実現していく。さらに、空調や換気設備においては省エネも踏まえなければならない。

この中で、金田一清香准教授は「空調システムの省エネルギー化」「未利用エネルギーの熱的活用」をテーマに取り組む。

現在注力するのが、2021年に広島大学が東広島市、住友商事と締結した連携協定と合わせて発表した「カーボンニュートラル(CN)×スマートキャンパス5・0宣言」に関する活動だ。大学敷地内に再生可能エネルギーを設置するなどして30年のCN達成を目指しており、金田一准教授は建物の省エネに関する取り組みを担当する。現在PPA(電力購入契約)で5000kWの太陽光発電を導入中。今後は金田一准教授が専門の地中熱利用システムの導入を進める計画だ。

地中熱に関しては20年ほど前から研究を行ってきた。欧州や中国の導入事例などを横目に見ながら、ポテンシャルの高さを感じていたが、ボーリングなどのコストがネックとなり、国内では大きな広がりを見せていない。

国内では、スウェーデンの家具大手イケアが複数店舗で地中熱設備を導入しており、金田一准教授の研究室でも運用面でサポートしている。地中熱は導入時だけでなく、導入後も継続して運用の仕組みづくりが必要とのことだ。広島大では比較的小規模な既存建物でも省エネ運用ができる仕組みを目指す。

「中国地方は温暖だが、東広島市は内陸で冬の冷え込みが厳しく、夏の冷房と冬の暖房で同じくらいの電力を消費する地域。地中熱は活用しやすい。大学は教員や学生の滞在時間が長く、多くのエネルギーを消費する。最適な設備が導入できたらと考える」(金田一氏)


北海道より寒い本州の住居 温暖地で快適な空間構築へ

北海道出身の金田一准教授は1972年の札幌五輪選手村施設を活用した集合住宅で育った。「当時ではまだ珍しい地域暖房を採用した建物で、家族で光熱費に関する話などをよくした。また、父が新聞記者でスパイクタイヤの粉じん公害問題を取材していた。今思い返すとそうした素地がエネルギーに関連する研究に携わるきっかけになったかもしれない」(同)

北海道から、東京と広島に移住して感じたことがある。それは温暖地のはずなのに家の中が寒いことだ。北海道の住居はきちんと断熱が施されており寒さをがまんすることはない。温暖地でも寒さをがまんしたり使用エネルギー量を増やすことなく、快適な空間で過ごせるように、温暖地の風習に合った全館暖房、セントラルヒーティングの構築も検討する。

そうした活動にも積極的に取り組んでいく考えだ。

きんだいち・さやか 1976年北海道生まれ。2004年9月北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻博士課程修了。北海道大学大学院工学研究科特任助教、東京大学大学院工学系研究科特任助教、広島大学大学院工学研究院助教を経て、18年から現職。

【メディア放談】関西電力の使用済み燃料貯蔵 意表を突いた中間貯蔵の解決策


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ・ジャーナリスト/5名

関西電力は使用済みMOX燃料、使用済み燃料をフランスに輸送する計画を明らかにした。

それで県外搬出を求めた福井県との約束を果たしたとするが、先行は見通せない。

―この座談会でも度々話題になった、関西電力の使用済み燃料中間貯蔵の問題に進展があった。仏オラノ社での使用済みMOX燃料の再処理の実施研究用に、関電の使用済みMOX燃料(10t)と使用済み燃料(190t)をフランスに輸送する。

ジャーナリスト 電事連の発表(6月12日)と同じタイミングで、関電の森望社長が福井県の杉本達治知事を訪れて、「中間貯蔵の県外立地と同じ意義がある」と説明した。フランスでの共同実証は電事連の発表で、一見、電力業界としての取り組みに見える。だが、実際は関電の関電による関電のための事業だと見ている。

―マスコミ関係者はそういう見方のようだ。

ジャーナリスト 六ケ所再処理工場ですら稼働していない中で、今、使用済みMOX燃料再処理の実証研究を始める必然性はない。日本から使用済みMOX燃料を運ぶ理由を、フランスよりもプルトニウム含有量が多いためとしているが、使用済み燃料の輸送も必要なのか分からない。

―確かに、なぜ費用をかけて、放射性物質の海上輸送というリスクを冒してまでフランスに運ぶのかとの疑問は残る。

ジャーナリスト 「2023年末までに中間貯蔵施設の計画地点を示す」という福井県との約束を果たすために練った計画だろう。関電は約束が果たせなければ、40年超運転の高浜1、2号機、美浜3号機を運転しないと明言していた。電力さんはどう思う?

電力 ノーコメントだ。

マスコミ ただ、今まで使用済みMOX燃料の再処理についてはあいまいなところがあった。以前、共同通信が「電力業界が使用済みMOX燃料の再処理を断念」と配信して、経産省も巻き込んで騒動になったこともあった。それで、プルサーマルを行っている発電所の地元の人たちは不安を募らせている。その点で、例え関電の中間貯蔵問題の解決が目的だったとしても、実証研究の開始は意義のあることだと思う。


リスク多い海外再処理 むつ市「拒絶」で準備か

―電力業界は、もう使用済み燃料の海外再処理は行わないと表明していたはずだ。

マスコミ 核不拡散上のリスクはあるし費用もかかる。それを再開するわけだから、かなりの時間をかけて水面下で国内外の関係者と調整していたはずだ。

関電は、電事連とエネ庁の幹部が20年12月に青森県むつ市を訪れた時から、役所と準備を進めていたんじゃないか。むつ市の中間貯蔵施設を電力業界が共同利用する案を当時の宮下宗一郎市長に示して、一蹴された。その時点で、23年末までの国内での計画地点の提示はあきらめたと思う。

【礒﨑哲史 国民民主党参議院議員】「次世代燃料に複数の選択肢を」


いそざき・てつじ 1969年生まれ。東京都出身。93年東京電機大学工学部卒、日産自動車入社。2005年日産労組常任委員、12年自動車総連特別中央執行委員。13年参院議員初当選(比例区)。21年3月国民民主党入党。同党副代表、参議院国会対策委員長。当選2回。

モノ作りへの興味から日産に入社。労働者が安心して働ける環境づくりに奔走する。

当選後は「対決よりも解決」の姿勢を堅持。議論ではデータに基づいた政策を訴える。

幼い頃からモノ作り、特に車のメカニズム部分に興味があった。「将来は車の開発に携わりたい」と思い、東京電機大で機械工学を学び、日産自動車に入社した。開発部門で腕を振るう中、労働組合の活動にも従事。真面目に地道に働く組合員が、安心感を得られる環境づくりに奔走した。

2011年秋ごろに、組合幹部から政治家への転身を打診された。これまで支える立場だった議員に自分がなれるだろうか、という思いを抱える中で「働く者の代表として、声をかけてもらった期待に応えたい」と政治の世界に飛び込む覚悟を決めた。13年の参議院選挙に民主党(当時)から比例区で出馬すると、約27万1500票を獲得し、同党の比例区で最多得票を得た。

参議院議員になってからは、自動車産業での経験を生かし、議員として各委員会で質疑を行い、政府・与党に政策を実行するよう提案してきた。中でも16年の決算委員会では、対面通行の高速道路で反対車線飛び出しによる死傷事故が増加していることを懸念。中央分離帯をラバーポールから安全性の高いワイヤーロープに変更することで事故数を減らせると説得した。

すると「委員会終了後に、国交省から『先ほど礒﨑先生から質問があった問題について、大臣からすぐ検討するよう指示があった』と言われた」。野党でも批判ありきで質問するのではなく、データに基づいた議論をすれば政策は動くと確信した。民主党以降は民進党を経て、21年に国民民主党に合流。現在は党副代表、参議院国会対策委員長を務める。労組出身として働く人の不安を解消するために活動する信念はこれまでも、これからも変わらない。

自動車産業での知見、労働組合での経験はエネルギー分野にも生かされている。自動車関係の諸税では購入時、保有時、使用時の3段階で9種類の税金が課せられ、二重課税や税収用途変更を問題視。とりわけエネルギー面では、ガソリン価格に含まれる税金から、消費税が上乗せされる構造の見直しを訴える。石油燃料の代替えとなる可能性がある水素由来の液体燃料や合成燃料(e―フュエル)に対しても、カーボンプライシング(CP)などの課税には疑問を呈している。

内燃機関の未来については「液体燃料でなければならない分野と、電気自動車(EV)、燃料電池を活用できる分野。どちらか一つではなく、さまざまな組み合わせで総合的に進むだろう」と予測する。液体燃料は持続可能な航空燃料(SAF)や、船舶での活用が前提だが、自動車産業も液体燃料普及の一端を担うことができると話す。

他方で、電気自動車の普及促進も欠かせない。水素を燃料とする燃料電池車(FCV)やEVには、既存設備の活用や環境面など、それぞれに強みを持ち、水素製造コストやレアメタル埋蔵量などで課題を抱える。「インドや東南アジアなど新興国の産業が何を望むのかも重要だ」。次世代燃料に複数の選択肢を持ちながら、同時並行で開発する必要性を訴える。


GX法案は「時間かけ議論が必要」 雇用配慮しながら脱炭素を訴える

5月には、参議院で可決成立した「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」について、経済産業委員会のメンバーとして精力的に質疑を行った。電気事業法、原子炉等規制法、原子力基本法、再生可能エネルギー特別措置法(FIT法)、再処理等拠出金法の5改正案による「束ね法案」として提出された同法案について「時間をかけて法案の中身を審議する必要性を感じた」と、法案を束ねたことによるマイナス面を指摘。原子力法案と再エネ法案を分けて議論すべきだと話した。

自身もGXの推進は理解するものの、その中身が国民に広く知れ渡っていない現在の状況に警鐘を鳴らしている。車のEV化に伴う産業従事者の不安の声を聞き、「GX脱炭素電源法」より先に成立した「GX推進法」の中に、雇用に配慮しながら脱炭素を進める「公正な移行」という条文の記載を与野党で調整した。

問題の周知に必要なのは、丁寧な議論と、時間をかけた国民への説明だと話す。「エネルギーは普段当たり前にあるが、不都合が起きて初めて『当たり前ではない』と気づく世界。知っているようで理解するには難しい話が多い」。議論を分かりやすく伝え、国民民主党の「対決より解決」の姿勢を堅持する。

多忙な議員生活の傍ら、数少ない癒しのひと時は家族との家庭菜園だ。「車の機械をいじるのと同じで、やはりモノ作りが好き」だと話す。これからもモノ作りの精神で一つひとつ着実に成果を生み出し、現実的かつ柔軟な政策を提案していく。

掛川市で耕作放棄地を利用 地域振興へ新たな名産目指す


【エネルギー企業と食】中部電力×ホップ栽培

中部電力では地域振興の一環として、静岡県掛川市で耕作放棄地を利用したホップの試験栽培を行っている。4月には地元の小学生20人を招いて、ホップの植え付け体験会を開催。およそ1400㎡の土地に約200株を植えた。中部電力静岡支店・地域共生グループの清水康広副長は「この取り組みが、掛川市の産業活性化と地域振興につながればうれしい」と話す。

中部電力の清水康広氏(右)と、農業法人「多好喜」の鈴木孝之氏(左)

栽培のきっかけは、静岡経済同友会の会議体「テイクオフ静岡」で、クラフトビール事業などを手掛ける「ZOO(伏見陽介社長)」が、ホップ活用策を提案したことだ。「中部電力の掲げる地域振興の理念と共通する部分があった」(中部電力静岡支店・地域共生グループ中野進課長)として、中部電力が事業の安定化まで協力。地元の農業法人「多好喜」が栽培を担う。柑橘系の香りが特徴のカスケードという品種を採用し、昨年度から始めた栽培は500株に達した。近隣の島田市でもホップ栽培の実績があることから、掛川市でも新たな地域事業になると見込んでいる。実ったホップは地場産ビールとして販売を検討するほか、風味を付けた炭酸水など新たな商品開発にも取り組む予定。

品質の良いホップが育つには3~5年ほどかかると言われる。初年度に栽培を始めたホップは来年夏に3年目を迎える。取材で訪れた栽培地では、2年目のホップながら、収穫を前に青々とした実がついていた。清水氏は「ホップの栽培は掛川の主力農産業である茶畑と収穫時期がずれている。地元の新たな産業に育てていきたい」と将来を見据えた。掛川市も「耕作放棄地の増加や農業の担い手不足に直面している。今回の活動が課題解決の一助になれば」と期待を寄せる。

ホップ栽培は、次世代に向けた環境教育の側面でも地域に貢献している。4月の植え付け体験会に参加した小学生は、畑に穴を掘ってホップの苗を植え、肥料や水をまくなど、地場農産業の大切さを学ぶ機会に。生徒たちからは「苗が成長するのが楽しみ」と大好評だったという。「ホップの天ぷらも食べてもらったが、子供たちには少し苦かったようだ」と清水氏は振り返る。

中部電力は、地域の課題解決や地域の発展に少しでも貢献できればという考えのもと、全社を挙げて「地域共生活動」を展開しており、ホップ栽培などを通じて、地域の皆さまからの信頼に応え、エネルギー企業として地域と共にこれからも歩んでいく。

温暖化最優先の政策を堅持 G7サミット成果を分析


【多事争論】話題:G7サミットの評価

燃料調達を巡る世界的混乱が落ち着きを見せる中で開催されたG7広島サミット。

さまざまに報じられたエネルギー・環境分野のコミットを専門家はどう評したのか。


〈 合意文書に日本の努力の跡 エネルギー問題は現実的な着地点に 〉

視点A:有馬純/東京大学公共政策大学院特任教授

今回のG7サミット(主要7カ国首脳会議)共同声明を読むと、エネルギー分野については、産業革命前からの温度上昇を1・5℃未満、2050年カーボンニュートラル(CN)という非現実的な目標のくびきの下で可能な限り現実的なメッセージを出すべく、議長国日本が非常に頑張ったことが分かる。欧州諸国は30年までに排出削減対策を講じていない石炭火力の段階的廃止や、35年までに電力部門の完全な脱炭素化を強く主張していたが、石炭火力の廃止年限は設けられず、電力部門については「完全もしくは大宗の脱炭素化」との表現で決着した。安価で安定的なエネルギー供給は不可欠であり、天然ガス価格の動向や原発再稼働の進捗が不透明な中で、エネルギー安全保障リスクの相対的に低い石炭火力を放棄する合理的理由はない。また石炭火力もアンモニアとの混焼などによりカーボンフットプリントを下げることができる。

天然ガス投資の重要性が盛り込まれたことは特筆に値する。昨年来、日本はガスの需給ひっ迫が途上国に経済的苦境をもたらしているなどの理由で、ガス部門全体の投資の重要性を指摘してきた。欧州諸国は自らの天然ガス調達のためにLNG受け入れターミナルを建設しながら、ガス全体の投資の重要性について否定的であったが、これを抑え込んだ形だ。新聞は「石炭のみならず天然ガスについても段階的廃止」と強調したが、共同声明では「遅くとも50年までにエネルギーシステムにおけるネット・ゼロを達成するために、排出削減対策が講じられていない化石燃料のフェーズアウトを加速させる」とし、G7諸国が50年CNを目指すことを言い換えたにすぎない。天然ガス投資の重要性が認識されたことこそ、見出しにすべきであった。

道路部門については、米国がZEV(ゼロエミッション車)の比率を30年までに50%にするとの数値目標を主張したが、G7全体で35年までに道路部門のCO2排出を半減するという技術中立的な文言で決着した。

原子力に関しては、「原子力エネルギーの使用を選択した国々は」という形で主語を限定しつつ、エネルギー安全保障、脱炭素化、ベースロード電源、系統の柔軟性の源泉としての原子力の重要性についてしっかり書き込み、既存炉の最大限の活用、革新的原子炉の開発、建設の重要性が指摘された。

再生可能エネルギーでは、G7全体で洋上風力150GW、太陽光1TW(1TW=1000GW=10億kW)という数値目標を掲げたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、再エネやEVに不可欠な重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済・安全保障上のリスクも指摘された。ウイグルの強制労働や石炭火力を使う中国製パネルに市場が支えられているが、先述の課題に取り組めばコストアップ要因になる。再エネ拡大を図る上で大きな課題となろう。

水素ではグリーン、ブルーといった区分ではなく、炭素集約度に基づく取引可能性や国際標準・認証の必要性が指摘され、エネルギー転換期のトランジション・ファイナンスの重要性が指摘されたことも特筆したい。

とはいえ、1・5℃、50年CNという呪縛により、温暖化については昨年のエルマウサミット以上に非現実的な数字が並ぶことになった。「25年全球ピークアウト」や「新興国に対して1・5℃目標と整合性を保つべく、30年目標を見直し、50年CNをコミットすることを求める」などが盛り込まれた。


温暖化目標の非現実性は拡大 途上国との溝は深まる一方

温暖化はグローバルな問題であり、世界の排出量の4分の1程度でしかないG7がいくら野心的なメッセージを打ち出したとしても、60年、70年のCNを標榜する中国やインドが同様の行動を取らない限り、意味がない。彼らが参加するG20サミットにこうしたメッセージが盛り込まれる可能性は皆無である。

本年5月に来日したマレーシア元首相のマハティール氏が核兵器問題を念頭に「同じような考えを持つ国々が集まって会議をするのは、独り言を言っているようなものだ」などと批判したが、これは温暖化問題にも当てはまる。ウクライナ戦争に伴うエネルギー危機、経済苦境などを背景に世界中で自国第一主義が台頭する中、温暖化防止に対する先進国の優先順位が新興国、途上国でシェアされていないことは明らかである。しかも先進国は彼らの行動変容を促す有効なレバレッジを有していない。1・5℃、50年CN目標は事実上破綻しており、これに捉われる限り、先進国と途上国の溝は深まるだけであろう。

ありま・じゅん 1982年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。2020年から現職。


【需要家】温対計画の進捗 目標達成見通しの対策は限定


【業界スクランブル/需要家】

5月末の環境省地球温暖化対策計画(温対計画)フォローアップ専門委員会にて、2021年度における温対計画の進捗の素案が公表された。家庭部門においては、CO2排出削減量が30年度⽬標⽔準を上回る見通し、あるいは既に上回っている対策は「高効率照明の導入」と「食品ロスの削減」のみ。ほかの対策は目標水準と同程度か下回る見通しである。

将来的に目標水準を下回る対策の一つが、「HEMS、スマートメーターを利用したエネルギー管理の実施」である。この対策は家庭部門の中でも比較的大きなCO2削減が見込まれ、その算定根拠を見ると、30年度におけるHEMS導入量を約4900万世帯と想定。これは新築住宅への導入はもちろん、既築住宅への導入を早期に進めなければ到達不可能な水準である。足元の導入量は740万世帯にとどまっており、野心的であった目標の達成が困難であることを改めて認識させられる。

他方、30年度に目標水準と同程度になる見通しの対策については、今後問題なく目標達成できると見ていいのだろうか。例えば「高効率給湯器の導入」に関し、潜熱回収型給湯器は30年度目標導入量が3050万台、21年度の実績が1244万台となっている。単純計算で年間200万台の導入が必要であるが、日本ガス石油機器工業会の出荷統計を見ると出荷台数は各年100万台程度である。このように順調と評価されている対策も決して楽観視はできない。

高効率給湯器は配管、設置スペースなど物理的・技術的な導入障壁のほかに、ユーザーや住宅オーナーの導入意識が低い実態もあろう。このような状況を考慮すると、省エネ設備の普及を市場任せにするのではなく、より積極的な政策対応が必要になる可能性が考えられる。(K)

【マーケット情報/7月21日】欧米原油続伸、景気回復の期待高まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物が続伸。景気回復の見通しが一段と広がり、石油需要が増加するとの予測が強まった。

米国では引き続き、インフレ緩和を示す統計が相次いだ。6月の工業生産が縮小し、小売売上高の上昇は市場予測を下回った。加えて、米ミシガン大学が発表する消費者信頼感指数は7月、インフレの減速にともない、2021年9月以来の最高を記録。これらを受け、投資家の間で、2024年前半には米連邦準備理事会(FRB)が金利引き下げに入るとの予測が台頭。景気と石油需要の回復期待が一段と高まった。

供給面では、クッシング含む米国の週間原油在庫とガソリン在庫が減少。さらに、米エネルギー情報局(EIA)が、8月に国内シェール層からの原油生産が縮小する見込みを発表した。

一方で、ドバイ現物は前週から下落。中国経済の先行き懸念が重荷となった。


【7月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=77.07ドル(前週比1.65ドル高)、ブレント先物(ICE)=81.07ドル(前週比1.20ドル高)、オマーン先物(DME)=81.65ドル(前週比0.42ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.47ドル(前週比0.31ドル安)

【コラム/7月24日】大学への排出権取引のお勧めは良策か~~需要家サイドは、安定供給、明朗料金が一番


飯倉 穣/エコノミスト

1,省エネ法改正や東京都の温室効果ガス排出削減の強化で、エネ需要家の非営利法人とりわけ大学経営に波紋を投じている。

気候変動に係る情緒的な報道もあった。「エコ不安 環境問題に悩み気持ちが沈む 若者らに広がる」(朝日夕2023年7月4日)。気候に対する不安が世界中の子どもや若者に蔓延しているという。待てよ、現実の対策を求められている現場の人間はさらに不安で、大変である。夢想にふける人も興味深いが、もっと現場の苦衷に「光を」と問いたい。

最近の排出削減強化から、エネ需要家「大学」に忍び寄るお勧めの選択肢が大学経営に与える影響を考える。

2,カーボンニュートラルに向けた対策が政府・都で強化されている。

政府は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律(以下省エネ法)」(22年5月改正:23年4月施行)に、エネ使用の合理化に加えて非化石エネ転換を盛り込んだ。又東京都は温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度で、排出量削減義務率の新設定とキャップ&トレード制度の充実を予定している。

3,省エネ法は、一定規模(原油換算1500㎘/年以上使用)の事業者に定期報告と省エネ(エネルギー利用の合理化)を求めてきた。

行政の求めで、事業者は、中長期的にみて年平均1%以上のエネルギー消費原単位等の低減を目標に努力を重ねている。一定の成果をあげているが、使用方法や機器・設備の改善による化石エネ利用量引下げもやや限界的な段階にある。そこに2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルの目標である。需要家に対し、今23年度より中長期計画提出(エネ使用合理化、非化石転換、電気需要最適化の三本立て)で、非化石電気割合を示す自主目標を求めている。そして経産省は、省エネの限界を見越し、非化石への転換で、電力会社のメニュー選択、太陽光発電設置、TPA業者、クレジット取引の選択を推奨する。つまり政府が、需要家に再エネ投資か再エネ購入か再エネ商品(証書等)の購入を迫る構図である。

4,東京都は、温室効果ガス排出削減実現のために、基準排出量比削減義務率を課して来た。

対象は、オフィスビル等(第一区分:オフィスビル、商業施設、宿泊施設等の例示で、大学を含む)と工場等(第二区分)である。基準排出量比削減義務率は、10年開始5年刻みで第1計画期間8~6%、第2計画期間17~15%、第3計画期間27~25%である。そして第4計画期間(25~29年度)は基準排出量比50~48%削減義務率とし、さらに35年に60%削減を検討している。これまで需要家は、都のキャップ&トレードの施策に沿って対応している。都は、省エネ限界となれば、排出量取引を勧める。購入側から見れば、相場ながら、適正価格か否か疑問が残る。