【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題
ドイツ政府は2045年カーボンニュートラルの実現を国際公約とし、CO2削減目標に多額の予算を投じている。メルケル前政権は環境問題を重視する政策にかじを切り、再生可能エネルギーの導入拡大を軸にエネルギー転換していく方針を打ち出した。21年に発足したショルツ政権も前政権の目標を具体化しようと動いている。
ところが、連邦会計検査院は政府のエネルギー政策に批判的だ。21年にメルケル政権下におけるエネルギー転換政策の怠慢を批判する報告書を出し、今年3月にも2回目の特別報告を発表した。この特別報告は、エネルギー転換実現への措置は不十分で、重大なリスクを抱えていることを指摘。「再エネと電力系統の拡充、並びにバックアップ電源の拡充が遅れている」などと、政権にとって厳しい内容となった。
ハーベック経済・気候保護大臣は、この数日前に「このテンポで継続すれば、プロジェクトを達成できる。われわれは現在、目標達成の過程に入っている」と楽観論を述べていたが、特別報告は「早急にエネルギー転換計画の変更に着手すべき」とこれを全否定した。
ドイツ経済界も、エネルギー政策については会計検査院と同様、否定的な見方だ。政府は21年秋、30年までに脱石炭・褐炭を実現すると標榜しているが、これについてドイツ経団連(BDI)のルスヴルム会長は23年末に、「極めて困難である」との見解を示した。
今年2月にも、「原子力発電と石炭・褐炭発電からの撤退は非現実的だ」と述べており、「国際的な競争市場でドイツ企業に不利益が生じる」と断言。「誰も7年後にドイツの電力供給や電力価格がどうなるのかを確信持って言えない。投資決定を行う企業にとって絶対に有毒である」とも強調した。
さらに4月初旬には、「ドイツ経済の停滞の観点から状況の深刻さを過小評価している」と政権に対する強い懸念を示し、21年末からのショルツ首相の政権担当期間を「失われた2年間」と表現した。これに対し、ショルツ首相は4月末のハノーバー・メッセで、「2年間を振り返って」と題した演説の中で、ルスヴルム会長の名前を上げて反論した。首相府と経済界との対立が鮮明化し、経済界の危機感は募るばかりだ。
このような状況下で、ショルツ政権は政権期間の折り返しを迎えた。23年のGDP(国内総生産)成長率は0.3%、今年の民間予想は0.1%のミニ成長率となっていることから、経済界は危機感を抱いている。
エネルギー政策について、政府は環境理想論を訴えるのに対し、産業界は現実論を主張している。この状況はエネルギー危機下で当分続くことが予測される。現在、政権与党内でも意見がまとまっていない中、25年の予算編成が既に焦点となっている。そして25年秋、国民の信を問う総選挙を迎えるのだ。
(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)