【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年5月号)


【東京ガス/国内で初めて海外製のメガワット級水電解装置を運用】

東京ガスは、住友商事と進める水素利活用を目的とした共同実証実験に向け、メガワット級の固体高分子(PEM)型水電解装置を東京ガス横浜テクノステーション内に設置した。この装置は英国のITM社製で、海外製のメガワット級のPEM型水電解装置による運転検証は国内初。水素利活用の課題となっている製造コスト高に関しても大幅な操業費低減を実現するという。共同実証実験は2024年6月に開始。東京ガスは、メガワット級PEM型水電解装置のオペレーション、メタネーション装置などとの連携運用ノウハウの獲得を目指し、製造した水素をe―メタン製造実証実験にも利活用していく。


【沖縄電力/水素社会構築へ水素混焼発電実証を開始】

沖縄電力は3月、沖縄県中城村の吉の浦マルチガスタービン発電所(定格3.5万kW)で水素混焼発電実証を開始した。14日の試験では、体積比30%の水素を混焼。これは、国内事業用既設火力として全国に先駆けた混焼規模となる。同実証は、2050年 CO2排出ネットゼロの実現に向けたロードマップの柱の一つ「火力電源のCO2 排出削減」のための「クリーン燃料の利用拡大」に資する重要な施策。水素混焼発電の運用技術確立を目指すとともに、沖縄エリアにおける水素利活用のファーストムーバーとなることで、水素社会構築に積極的に寄与していく構えだ。


【Daigasグループ/国内最大級のバイオマス専焼発電所で竣工式】

大阪ガスは3月、昨年12月に運転を開始した広畑バイオマス発電所(兵庫県姫路市)の竣工式を開いた。Daigasグループにとってバイオマス専焼発電所の商業運転開始は4カ所目。燃料は、輸入木質チップやパーム椰子殻、同社子会社のグリーンパワーフェエル(GPF)が調達する国産木質チップで、国産木質チップには、林地残材・未利用間伐材などを活用する。バイオマス専焼発電所として国内最大級の発電容量(約7万5000kW)を誇る同発電所の事業会社の広畑バイオマス発電には、Daigasガスアンドパワーソリューションが90%、九電みらいエナジーが10%を出資している。


【ENEOS/東京・晴海に水素供給拠点を開設】

ENEOSは3月、東京・晴海にある東京五輪選手村跡地に、新たな水素供給拠点となる「東京晴海水素ステーション」を開設した。大型商用車含む燃料電池車(FCV、FCバス・FCトラック)などに直接供給するほか、道路下に敷設した水素パイプラインを通じて跡地街区内の純水素型燃料電池にも供給する。導管での供給は東京ガス子会社と連携する。


【三菱マテリアル・三菱ガス化学・Jパワー/安比地熱発電所が営業運転開始】

三菱マテリアル、三菱ガス化学、Jパワーの共同出資会社である安比地熱は3月、安比地熱発電所(岩手県)の営業運転を開始した。標高約1130mの高地に位置する岩手県八幡平地域の有望な地熱資源の活用を見込み、2019年8月から建設を進めてきた。発電出力は1万4900kW。岩手県で発電出力1万kWを超える地熱発電所の稼働は28年ぶりとなる。


【三井E&S/世界初の大型船舶用水素エンジンの燃焼運転に成功】

三井E&Sは3月、ライセンサーのMANエナジーソリューションズSEと共同で、シリンダー直径50㎝の大型船用テストエンジンにおける水素燃焼運転に世界で初めて成功したと発表した。テストエンジンの4本のうち、1本を水素燃料用に改造。同社玉野工場(岡山県玉野市)にある水素ガス供給設備にて水素漏えいなどの不具合なく運転できたことを確認した。

電動化規制のウラに秘めた 自国自動車産業振興戦略


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

電動化規制は、欧州から開始された。2016年10月に独連邦会議が30年までに内燃機関だけを動力とする自動車を禁止する決議案を出し、続いて英仏が独と同様の政策を発表。ボルボは19年以降に発売する全車を電動化すると宣言した。

これらの政策は、15年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」「そのため、できる限り早く、世界の温室効果ガスをピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排気量と森林などによる吸収量のバランスをとる」という、パリ協定の長期目標を達成するためのように見える。

しかし実際には、各国の産業維持や雇用促進などの国益を重視したものだというウラがある。そのきっかけとなったのが、フォルクスワーゲン(VW)の欧州における自動車の動力源として主流となっていたディーゼルエンジンでの排気ガスデータ不正事件である。ディーゼルエンジンは熱効率が良く、燃料消費量が少ないので環境負荷が小さいという考えが根本にある。さらにメルセデスベンツが実用化したブルーテックという技術で排気ガス、特にディーゼルエンジンで課題となっている窒素酸化物の低減が可能となった。

VW不正発覚データ

ブルーテックとは尿素SCR(尿素選択触媒還元:排気ガスに尿素水を噴射して酸化窒素を化学反応で浄化)、コモンレールシステム(精密に制御された燃料噴射システム)、DPF(排気ガス中の微細粒子を通さないフィルター)などで構成されていて、排気ガスをクリーンにするものである。

VW車は米国で出遅れていて、トヨタのHEV車であるプリウスに大きく水をあけられていた。そこで、優れた燃費性能を有するディーゼルエンジンで勝負することとなった。しかし、VWが開発した既存のディーゼルエンジンでは米国の窒素酸化物規制をクリアすることができなかった。さらに、メルセデスベンツからブルーテックを導入することも、コスト増などの課題があって、大衆車には適用が難しいという課題を有していた。

VWはLNT(リーンNOXトラップ)という触媒コンバータとEGR(排気ガス再循環)システムを採用して、新たなディーゼルエンジンの開発を開始した。しかし、さまざまな技術的な工夫と努力にもかかわらず、米国の厳しい規制をクリアするデータは得られなかった。06年の半ばに上層部が下した決断は、デフィートデバイスを利用するという、悪魔の誘いに乗ることであった。デフィートデバイスとはソフトウェアを操作して、排気ガス検査の時だけ有害な排出物質を減らす装置。当時、走行中に排気ガス成分を計測する手段はなく、不正は発覚しないという甘い予想があった。

その後、走行中の排気ガスが計測可能となり、15年に米国で環境問題NPO法人がウェストヴァージニア大学に依頼した測定により不正が発覚し、莫大な和解金を支払うこととなった。その大きな汚点を洗い流すかのように、欧州では自動車の電動化政策が開始されたのだ。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

21世紀の時代的責任 電力会社は役割果たせるか


【オピニオン】桝本晃章/日本原子力文化財団理事長

昨年の夏は世界各地で記録的な猛暑だった。国際エネルギー機関のビロル事務局長は「われわれは化石燃料利用時代の終わりの始まりにいる」と言った。「終わりの始まり」とはチャーチル英国元首相の言葉だ。1942年、北アフリカの地中海に面するエル・アラメイン砂漠で、無敵といわれたドイツ・ナチのロンメル将軍率いる戦車軍団を連合国軍が破った。その報を耳にしたチャーチルが、これがドイツ・ナチの終わりの始まりになるだろうと言ったのだ。そして昨年ドバイで開かれた温暖化防止国際会議・COP28では、暑さの影響もあったのだろう、初めて原子力発電が認められ、「原子力三倍宣言」を出すことができた。

実は、猛暑は人間が生み出した。人間は長い間化石燃料を利用して豊かになってきたが、CO2排出が続き空気中の濃度が高まると、地球温室効果が進み気候変動が起こる。空気中のCO2濃度と温室効果との関わりは、気象学者の真鍋淑郎博士が解明しており、博士は2021年にノーベル物理学賞を受賞した。

昨年の世界気象機関の発表では、22年の全球平均のCO2濃度は417.9ppmで、1750年以前の濃度の150%になっている。猛暑の原因が地球温暖化であることは気象庁も認めていて、今夏の気象予報解説には、「地球温暖化や春まで続くエルニーニョ現象の影響などにより、全球で大気全体の温度がかなり高いでしょう」とある。

気候変動が問題なのは、ただ暑さをもたらすからだけではない。影響による経済的損失が巨額なのだ。英国のロイズ保険組合とケンブリッジ大学との共同研究では、「気候変動による異常気象が農産物不作や食品飲料不足を増加させれば、今後5年間で累計5兆ドルの経済損失が生じる可能性がある」としている(23年10月11日、ロイター通信)。日本の国内総生産(GDP)が4兆2106億ドル(国際通貨基金・IMF、23年)だから、推計された経済的損失は巨額だ。

われわれは温室効果ガスのCO2排出量を何とかして減らさなくてはいけない。日本の場合、エネルギー起源CO2の4割は発電部門から出ている。CO2排出一大部門の電気事業者としては、少しでも削減して時代的責任を果たしたい。対応策の太宗は発電段階でCO2を出さない原子力発電開発を進めることだ。

ここで時代をさかのぼろう。1989年、佐藤信二・通商産業大臣が年頭の会見で“電力会社をバラバラにする”と言った。そして、電気事業は部門ごとにバラバラにされた。電気は一部とはいえ市場商品となり、電気事業者の経営視野は狭くなった。

電気事業者は事業がバラバラになった今、CO2排出削減を図るためにも、原子力発電開発を進めることができるかどうかが問われている。

ますもと・てるあき 神奈川県生まれ。1962年東京電力入社。同社企画部広報課長、電気事業連合会広報部長、東電取締役広報部長、常務取締役、取締役副社長、電事連副会長などを歴任。2018年6月から現職。

国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始


【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】関口博之 /経済ジャーナリスト

東京オリンピック・パラリンピック後のレガシーの一つが、選手村跡地で行われている大規模街づくり事業「晴海フラッグ」だ。5600戸余りのマンションと商業施設ができつつある。

ここでエネルギー源としての水素の本格活用が始まった。3月29日、マンション棟などがある五つのエリアにパイプラインによる水素供給が開始された。使う水素はENEOSが都市ガスを改質して取り出し、それを専用スタンドでFCV(燃料電池車)へ充填するとともに、パイプラインにも供給する。

街づくりが進む「晴海フラッグ」

「次世代エネルギーの本命」と言われ続けてきた水素。扱いにくさや製造コストなどの課題もありながら、多くの期待を集めてきた。筆者には水素と言えば、自身がNHK北九州放送局長を務めた縁もあり、北九州市八幡東区東田地区の「北九州水素タウン」が思い浮かぶ。製鉄会社から出る副生水素を利用したプロジェクトとして始まりショーケース的役割を果たしたが、あくまでもこれは実証実験としての位置付けだ。

それに対し今回は、水素を使った初の「商用化」だ。将来の日本のエネルギー体系での位置付けを考えた場合、水素新法のようなものを作る考え方もあろうが、現状ではまだ知見も足りない。そこでまずは今の「ガス事業法」の中に水素を位置付けることになったという。こうして晴海事業を担う東京ガスの子会社は「水素を扱うガス小売事業者の第一号」となった。

水素はエリア内に計25台設置された純水素燃料電池で発電に使われ、マンション棟と商業施設の供用部の照明などに使用される。燃料電池の発熱反応で出た排熱は共用部の「足湯」にも使われるそうだ。料金は非公表だが電力代としてではなく、水素の流量を計測し、それに課金するという仕組みだ。

さて初の水素の商用化で課題になったのが安全性だ。パイプラインは都市ガスの中圧管と同じ150㎜径の鋼管、供給圧力も低圧ガス管と同等で安全上問題がないことが検証できたという。ただ公道への埋設なので、掘削などで誤って破損されないようパイプ上部に防護鉄板を今回は敷いている。

もう一つの課題は漏えいをどう検知するかだ。閉空間に水素が滞留すると爆発の恐れもある。漏えい検知のため商用化にあたっては、水素に「付臭」が行われている。「ガス臭い」と漏れに気付いてもらえるよう都市ガスにニオイを付けているのと同じ理屈だ。とはいえ「それってどんなニオイ?」と担当者に聞くとプラモデル用の接着剤のニオイに近いという。今回、施設管理会社の担当者にはそれを実体験して覚えてもらったそうだ。

ただし燃料電池に取り込む前には再度「脱臭」が必要。この付臭と脱臭というプロセスにはコストがかかる。将来、高い精度で価格も抑えた漏えい検知センサーなどができれば、このプロセスは省きたいという。

「水素が身近な社会が来る」というのはこういうことを一つひとつ課題解決していくことにほかならない。「初の商用化」までこぎつけたとはいえ、関連技術のコストダウンにしても制度整備にしても、やるべきことがまだまだ多いと実感させられる。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【マーケット情報/5月10日】WTI上昇も、ブレント下落


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物が小幅に下落。一方で、米国原油の指標となるWTI先物、および中東現物は小幅に上昇した。強弱材料混在で、方向感を欠く展開となった。

4月の米国雇用統計では、求人件数は増加するも、市場の予想を下回っており、経済成長の鈍化が示唆された。利下げ開始および石油需要増加の見通しが強まり、価格が上昇した。また、米週間在庫統計も減少が報告され、国内の石油製品需要への強まりが顕著となり、上方圧力として働いた。

中東での地政学リスク、それにともなう供給不安の強まりも引き続き、価格の強材料として働いている。

一方、4月の中国輸入が前月比で減少。同国からの需要減少が、価格の上昇を抑制した。マージン縮小と石油製品需要の後退が要因だ。


【5月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=78.26ドル(前週比0.15ドル高)、ブレント先物(ICE)=82.79ドル(前週比0.17ドル安)、オマーン先物(DME)=84.78ドル(前週比0.76ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.62ドル(前週比0.71ドル高)

暴力的な性格を持つ電力市場 リスクの大波に備える好機


【マーケットの潮流】水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

テーマ:卸電力市場

2023年以降、すっかり落ち着きを見せている電力市場価格。

水上裕康氏は今こそ、次のリスクの大波に備える好機だと強調する。

2021年秋以降、国際燃料市場とともに高騰した日本の卸電力市場価格は、23年に入ると急速に落ち着きを取り戻した。足元の燃料市場の安定に加え、再生可能エネルギーの増加、「限界費用入札」のガイドライン化、大手電力会社の燃料在庫の監視、さらに新規火力の運開や原子力の再稼働による供給予備力の回復などにより、もはや価格高騰はないのでは、という楽観ムードも漂う。本稿では電力市場に潜むリスクについて例示し、その対応についてコメントする。

小売電気事業者のリスク例


電力価格は高騰しないのか 国際燃料市場に潜む危機

卸電力市場価格は、燃料市場価格、特にLNG価格と強い相関を持っている。そのLNG市場は、ロシアのウクライナ侵攻直後に最高で100万Btu(英国熱量単位)当たり85ドルを付けたが、4月上旬現在、9ドル台まで下落している。この価格下落の要因は、「需給の緩和」というより「需要の破壊」というほうが相応しい。価格高騰で起きたことは、欧州での化学工場の操業停止や省エネという名の我慢、インド・パキスタンなどの停電、各国における石炭への燃料振替えなどである。

これに、2年続きの記録的暖冬にも恵まれて、需給は辛うじて均衡しているのだ。ロシアから欧州へのパイプラインガスの供給は、開戦前に比べ、LNG換算で1億t近くも減少したまま。26年までは大規模な生産増は見込めず、供給が厳しい状況は変わらない。大消費地である欧州や中国の景気が戻り、寒い冬がやってくれば、決して安泰とはいえない状況である。

もう一つの主力燃料である石炭は、高騰したガスからの振替え需要などで、22年には1t当たり400ドルを超えた。ESG(環境・社会・ガバナンス)の影響で炭鉱投資が停滞する中、中国とインドの二大消費国のみが国内炭を増産して何とか世界の需給を支えながら、価格は130ドル近辺(4月上旬)まで下落してきたのが現状だ。認識すべきは、この二大国あわせて約50億tの巨大市場の需給バランスの揺らぎが、両国の輸出入の増減となり、わずか11億tの海上貿易市場を左右するという、危うい市場構造である。

21年1月に起こった卸電力市場高騰は、燃料在庫の急減によるものだ。発電用燃料も、トヨタの「かんばん方式」のように必要な分だけ手配されるのが理想だが、現実は厳しい。電力ビジネスでは、相対契約ですら、消費は買い手側に裁量があり、もともと需要が読めない。

景気や出水、さらに近年は日照や風の状況によって発電所の稼働が変わる中、落札の保証のない卸市場まで登場した。この「読めない市場」までも念頭に燃料を不足なく用意せよというのは無茶な注文だ。余剰を覚悟で手配しても、それに伴う大きな市場リスクは、「限界費用入札」では全く報われない。

問題は、いまや主力電源となったLNG火力のタンク容量が、平均的消費量の2~3週間分と、極めて小さいことだ。石炭火力は、在庫能力こそLNGより多少マシだが、この原始的資源は、大雨が降ると生産が止まり、時には港までの鉄道の水没が発生する。積み地の船混みで遅れることも多い。したがって、石炭火力の貯炭能力が、「公称4週間」などと言われても、あまりアテにならないのだ。

そもそも石炭、LNG火力のインフラは、発電所の稼働が変動することを想定していない。もともと発電量の調整を担っていた石油火力は貯蔵が容易で、かつ国内の供給基地から機動的に輸送ができた。「読めない卸市場」の誕生と、kW時価格の競合では稼働が見込めない石油火力の退出は、自由化の成果とされる「広域メリットオーダー」の産物である。この燃料回りの脆弱さは、基本的に3年前の危機からほとんど改善されていない。「戦略的余剰LNG」など、名前がほとんどジョークである。


仕入れと販売のリスク管理 「ズレ」の把握が不可欠

在庫が持てず、短期的には代替不可能な商品である電力の市場は、本来、極めて暴力的な性質を持つのである。それが導入されたからには、参加者は相応の覚悟と準備で臨む必要がある。

対応のキーワードは「マージン」である。電力、燃料市場がそれぞれ乱高下しても、一定のマージンを得られる仕組みを作ればよい。ところが、現代の電力ビジネスにおいては、発電にせよ小売りにせよ、仕入れ、販売それぞれに卸電力市場取引と燃料市場取引(あるいは燃料費調整=燃調)が混在するが、その混在の仕方が仕入れ側と販売側とでズレることで、マージンが不安定になってしまっているわけだ(図参照)

市場に対する感度を仕入れと販売で等しくすればよいのだが、電力ビジネスでは、卸電力市場の価格が毎日、30分単位で異なることや、販売量が買い手の都合で変動することなどによって、その作業は非常に複雑である。仕入れと販売の状況を絶えずウォッチしながら先ほどの「ズレ」をリアルタイムに把握することが、リスク管理の第一歩となる。その上で、無視できない「ズレ」があるならば、価格のヘッジや電力・燃料の売買で速やかに修正を図らねばならない。

こうした業務に、市場リスクがなかった時代の組織で対応するのは、どだい無理ではなかろうか。組織を整えた上で、必要な人材やノウハウの獲得、ETRM(Energy Trading and Ri-sk Management)などのシステムの導入が必要である。

折しも、電力先物市場の流動性もかなり上がってきた。オプションなどを含め、各事業者ニーズに合わせた商品を相対で提供可能な事業者も出てきた。市場が落ち着いている今こそ、次のリスクの大波への備えを始める好機である。

みずかみ・ひろやす 一橋大学商学部卒、米ジョージタウン大学MBA取得。1983年北陸電力に入社し、2011年から燃料部長を務める。20年同社執行役員を退任し同年7月から現職。

沖永良部島の革新的電力供給システム 日本発の世界に広がるビジネスへ


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

沖永良部島では、環境省の脱炭素先行地域の第一弾として選ばれた「ゼロカーボンアイランドおきのえらぶ」構想が進んでいる。沖永良部島の二つの町とリコージャパン、一般社団法人サステナブル経営推進機構がコンソーシアムを組み、町の新庁舎や学校とその周辺地域に再生可能エネルギーを供給するマイクログリッドや、ソーラーシェアリングで発電した電気を自営線で供給する事業を行うもので、蓄電池と疑似慣性力を持つインバーター(デジタル・グリッド・ルーター)を組み合わせて系統安定化を図っていることがミソだ。

将来的には島内の全ての集落にマイクログリッドを形成し、それらを連係させてゼロカーボンの電力供給が実現することを目指している。これが実現すれば、全国の離島のみならず、世界中で分散型電源として活用され得る供給システムとなる可能性があるが、問題となるのはやはり事業を実施するための資金面と、現行の電気事業法の特例措置を可能とする規制面の対応である。3月15日に国土交通委員会で奄美振興法改正法案の審議が行われたため、この場で私は斉藤鉄夫・国土交通大臣らと議論を行ってきた。


資金、規制両面で課題 斉藤国交相は前向き答弁

まず資金面について。奄美振興法に基づき鹿児島県が作成した振興開発計画に基づき交付金が交付されることになっているが、現行の政令ではこのような電力供給事業に交付金が使えるか不明であった。このことを確認すると、黒田昌義・国土政策局長からは「現行の政令の中で対応できる」との明確な答弁を得た。

次に、規制面について。現在沖永良部島は九州電力の供給区域となっているが、九州電力の送配電網と並行してマイクログリッドが形成されていくこととなる。おそらく、これは現行の電気事業法で想定していない事業になる。

そうなると、私がかつて創設に関わった構造改革特区制度の活用や、奄美振興法自体に電気事業法の特例措置を規定する必要が出てくる。こうしたことを斉藤大臣に問うたところ、「先行的な取り組みの進捗状況を踏まえて、地元自治体としっかりと議論を進めていきたい」という前向きな答弁をいただいた。

一般送配電事業者にとっても、離島などで脱炭素化に対応しながらユニバーサルサービスを確保していくことは大変。国策としての再エネ推進が、中国製パネルなど外国製品の流入と海外勢の投資ビジネスになることも馬鹿らしい。新技術の実用化による革新的な電力供給システムが、わが国から実現することで社会的な課題の解決につながり、日本発の世界に広がり得るビジネスとなることを期待したい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年5月号)


NEWS 01:洋上風力の八峰・能代沖 JREが執念の勝利

政府による洋上風力公募第2弾で発表が延期されていた秋田八峰・能代沖の結果が、3月下旬に公表された。当初から有力視されていたジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)、イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、東北電力陣営が落札。代表企業のJREとしては、国内再エネ専業として、また同海域の先行事業者として悲願の勝利を手にした。

八峰沖は順当にJRE陣営が落札した

JRE陣営が差を付けたのは、まず運開予定時期を2029年6月末と最も早く設定したことだ。ただ、「総合点で次点のJERA陣営が仮にJREと同じ迅速性評価だったとしても、僅差で勝てなかっただろう」(再エネ業界関係者)との見方も。JERAは昨年末の男鹿・潟上・秋田沖で勝利し、その勢いに乗るかとも思われたが、事業計画の基盤面や実行面で前回ほどの評価を得られていない。

他方、JREとその親会社のENEOSとしては、「長崎西海沖のリスクを嫌い、八峰にかけたのだろう」(同)。JREは昨年末の西海沖に入札した際のFIP価格が相対的に高く、価格点は低かったが、今回は多数の項目で高評価を得た。特に「洋上風力銀座」となった秋田の港湾バッティング問題では、「他陣営は能代港を利用する見込みだが、JREは秋田港、さらには北海道・室蘭港も併用する計画。JREの執念がうかがえる」(同)結果となった。


NEWS 02:具体化する系統整備計画 希薄な経済効果に疑問符も

国の政策目標である2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現を見据え、洋上風力発電など再生可能エネルギー電気の全国融通強化につながることが期待される「地域間連系線の増強」構想。

電力広域的運営推進機関は3月末、北海道~東北~東京間の日本海側をつなぐ高圧直流送電(HVDC)の敷設と、関門連系線増強の二つの系統整備計画について、整備費用や工期などを盛り込んだ基本要件を取りまとめた。

このうち北海道・本州間の日本海ルートは、800㎞にわたり200万kWの直流海底ケーブルや交直変換所を新設するほか、各エリアの地内系統を増強する

計画。概算工事費は1・5兆~1・8兆円と試算されており、このうち0・9兆~1・1兆円という大半を海底HVDCが占める。

連系線増強は、再エネ大量導入、そして脱炭素社会実現への切り札として既定路線化されてきた。ところがここにきて、この整備計画を実行に移すことへの疑問の声が絶えない。最大の理由が費用対効果の低さだ。

系統整備を決める上での判断材料は、燃料費・CO2対策コストの抑制、アデカシー(広域的に供給力を活用できることによる信頼度)向上効果、送電ロスの抑制―といった便益が整備費用を上回るかどうか。ところが、1を上回れば費用が便益を上回ることを示す費用便益評価(B/C)の結果は、北海道・本州間で0・63~1・72、関門連系線は0・29~1・00と、相当厳しい。

これら系統整備に伴う工事費用は、全国調整スキームに基づき再エネ賦課金や託送料金で回収される。国民に負担を求めるからには、国は金銭的価値を上回るメリットを得られることを明確に説明しなければならない。


NEWS 03:調整力の市場調達が本格開始 「未達」状態続き出足不調

安定供給を維持する上で欠かせない調整力。これまで「三次調整力①②」を除き、一般送配電事業者がエリアごとに公募で調達してきたが、今年度に入って五つ全ての商品区分が市場で取引されることとなった。だが、4月1~19日の取引結果は、全商品区分で募集量に応札量が満たない「未達」状態に。その出足は低調と言わざるを得ない。

需給調整市場を運営する「電力需給調整力取引所(EPRX)」によると、周波数低下を抑制する「一次調整力」は全国平均で80%超の不足で、東京・中部エリアに至っては応札がなかったという。また、先行して取引が始まっていた再生可能エネルギーの予測誤差に対応する「三次調整力②」も、23年度は全国月平均の不足率が4~32%だったが、4月に入ってからの3週間は、週間取引の未達分が募集量に加算されている影響もあり、全国平均の不足率は67%と悪化してしまっている。

市場取引のスタート当初、22社(24取引資格)だった参加事業者は、18日までに63社(69資格)まで増えたが、それが必ずしも入札行動に結び付いているわけではない。「今後も、取引会員数を拡大していくとともに、事業者へのヒアリングを通じてニーズを把握し、市場の魅力を高める必要がある」(市場管理グループ)

不思議なのは、調整力の調達が不調にもかかわらず、電力供給に支障が出ていないことだ。この背景には、容量市場で落札された調整機能を有する電源が、一般送配電事業者の指令に応じてゲートクローズ後の上げ・下げ余力を調整力として提供する「余力活用契約」がうまく機能していることがあるもよう。

市場を介した低廉かつ安定的な需給運用の実現には、長い道のりをたどることになりそうだ。


NEWS 04:再始動する新電力 価格競争再燃の兆し

2022年春以降、国際的な燃料価格や電力市場価格の高騰を受け事業停止していた新電力会社が、再開する動きが出てきた。帝国データバンクが3月に発表した調査によると、前回調査(23年6月)で新規受付停止状態だった87社のうち、16社が今年3月までにサービスを再開した。同社によると、卸電力市場の落ち着きが要因と見られる。

新電力再開で価格競争へとつながるか

また、多くの新電力が撤退や事業停止に追い込まれ、大口分野では、他の大手電力や新電力に切り替えできず、一般送配電事業者と最終保障供給契約を結ぶ需要家が続出したが、経済産業省によると、3月時点でピーク時よりも8割以上減少した。この背景には、大手電力が大口需要家向けの新たな標準メニューによる新規受付を再開したことがある。

業界関係者によると、需要家の大手回帰が一時的に進んだが、ここにきて新電力が存在感を取り戻している。前年までは料金より信頼性を重視する需要家が大半だったが、低位安定化した市場価格を背景に新電力が再び価格重視のプランで攻勢をかけ、新規顧客を獲得しているという。

今年度、容量拠出金の支払いが始まり、新電力の負担が増えると一部で報じられているが、それでも大手より競争力のある料金を提示できるということなのか。直近の新電力動向は、し烈な価格競争再燃の兆しかもしれない。

急増する再エネの出力制御 「主力化」に向け対策強化を


【論説室の窓】西尾邦明/朝日新聞 論説委員

太陽光や風力による発電を一時的にとめる「出力制御」が急増している。

再生可能エネルギーを主力電源にしていくために、需給両面の対策強化が必要だ。

今年のゴールデンウイークも晴天が続いているとすると、太陽光発電や風力発電の出力抑制も大きくなっているはずだ。日差しが強くなって発電量が増える一方、工場は休みで、冷暖房も使わないため、需要は少ないからだ。

朝日新聞の調べでは、大手電力の2023年の「出力制御」はその2年前の3倍以上に増えていた。九州で発電が止められた割合(制御率)は、4月が25・3%、年間では8・9%に達した。太陽光発電が多く原発の再稼働も進んだ西日本での実施が多いが、最近は他の地域にも広がっている。日本全体では他国と比べても高い水準にはない。

おさらいになるが、国の「優先給電ルール」では、太陽光の発電量が多く電気が余りそうな時には、①火力の抑制、揚水や蓄電池の活用、②他地域への送電、③バイオマスの抑制、④太陽光・風力の抑制、⑤水力・原子力・地熱の抑制―の順番で制御することになっている。⑤は出力の回復に時間がかかるほか、技術的に制御が困難とされている。

「出力制御」は悪いことではない。太陽光や風力の発電が天候次第である以上は、ある程度は必要な仕組みだ。ピーク時を抑えることで接続できる設備は増え、それ以外の時間帯の再エネ発電を増やすことができる。

だが、二酸化炭素を出さず、純国産エネルギーである再エネを有効利用する観点からは、出力抑制を減らすための一層の工夫が求められる。再エネの事業計画が見通せず、新規投資の足かせになるようなことは避けるべきだ。

太陽光発電の出力制御への対応が問われる


対策は費用対効果優先で 期待したい「上げDR」

需給両面の対策が必要だが、電気料金の抑制の観点からは費用対効果の見極めが欠かせない。需要創出の対策は特に力を入れたい。

太陽光発電が多い時に、電力消費の多い工場で電炉などの設備の稼働を増やしたり、事業所や家庭のヒートポンプ給湯器や蓄電池を動かしたりすれば、出力抑制を減らすことができる。「上げDR(デマンドレスポンス)」と呼ばれている。

実際に九州電力で既に始まっており、18年秋以降、東京製鉄に九州域外の生産を移してもらって需要を作っている。春と秋の候補日を両社で事前協議し、候補日の前々日に需給想定を確認した上で、実施するかどうかを決める。東京製鉄は通常の平日昼間の単価よりも安い電気で電炉を動かすことができる。23年春は5回実施し、毎回数万kWの需要があったという。

22年秋からは中越パルプ工業と、自家発電の抑制による「上げDR」を実施している。この仕組みは系統を切り替えるだけなので、働く人たちへの影響も少ない。中越パルプは自家発電よりも安く電気を調達し、九電は電力販売量が増え、太陽光発電事業者の出力抑制も減らすことができる。

家庭向けでも、4月から「おひさま昼トクプラン」を創設し、昼間の電気代が安い料金プランの提供を始めた。エコキュートや蓄電池について、夜から昼へ電気使用の移行を促す。

需給予測の精度を高め、エコキュートや蓄電池をオンライン制御するなどデジタル技術を活用することで、一層の効率化につなげることが期待される。

蓄電池は足元で価格低下が進み、世界的にも設置が拡大している。将来的には、水素も季節を超えて長期間・大容量で貯めることができる。水素の供給は、国産の再エネ由来を最優先するべきだろう。

供給側では、政府は昨年末の対策パッケージで火力発電の最低出力を50%から30%に引き下げることを決めた。九電は、大型石炭火力である松浦発電所(長崎県)や苓北発電所(熊本県)で15%にまで下げて運転している。他地域でも、最低出力を可能な限り引き下げ、広域対応を進めるべきだ。

洋上風力発電の拡大と連系線の増強も急ぐ必要がある。

風力は太陽光と補完的な関係にあり、夜でも発電できることは強みだ。経済産業省の審議会では「海外では変動再エネを上げ下げ両方の調整力と活用している」と報告され、スペインでは21年、必要な調整力の7%を風力が供出したという。

地域間連系線の増強では、再エネが国内の電源の半分程度に増える想定で、必要な投資額が6兆~7兆円と見積もられている。まずは再エネのポテンシャルの高い北海道から秋田県を経由し、東京をつなぐ海底直流ルートを新たに設置するとともに、九州と中国を結ぶ関門連系線の増強する方針だ。


広域的な系統運用拡大 災害レジリエンス強化も

国民負担につながることから費用便益を含む丁寧な検討は必要だが、災害時のレジリエンスの観点からも、広域的な系統運用を拡大し、発電所を全国で活用していくことは重要だ。

最後に、原発について触れておく。原発の「出力制御」については慎重に検討するべきだ。確かに原発依存度が高いフランスでは日常的に行われているが、日本では実績がない。実証が試みられたことはあるが、1980年代の四国電力伊方原発のように住民の強い反対運動があった経緯もある。ドイツのブロックドルフ原発では17年、出力制御を繰り返した結果、核燃料棒が損傷する事案が発生している。既設原発の出力制御は設計や制度面に加え、安全面からも課題がある。

一方、柔軟性を欠く電源には応分のコストを負担させるような仕組みの検討は必要だ。海外では卸電力市場で「マイナス」の価格(ネガティブプライス)での取引がなされ、供給側に出力抑制を促すとともに、小売料金に適切に反映されれば、需要側に電力消費を促すことが期待できる。検討を深めていくべきだろう。

いずれにせよ、エネルギー自給率を高め、脱炭素化を実現するには「再エネの主力化」が本道だ。そのためのさまざまな努力を怠ってはならない。

【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話


石川迪夫

第5話 ジルカロイ燃焼を防ぐには

ジルカロイの弱点

一般に、酸化物は低温では脆いといわれている。例えば、乾物屋で売っている湯葉は脆くて壊れやすい。だが、湯で暖めて本来の薄皮に戻すと、中に具を入れて煮炊きができる。湯葉は温度が高いと強靱となり、破れないからだ。ジルカロイの酸化膜も湯葉に似て、温度が200℃ほどに低下すると脆くなって、破れやすくなる。これがジルカロイの弱点であり、事故を起こした原因である。

炉内実験で、燃料棒をある程度の高温で照射した後に冷却して取り出すと、燃料棒はUO2ペレットのつなぎ目で折れて出てくる。燃料棒が冷えると、ジルカロイの酸化膜が脆くなるので、ペレットのつなぎ目で酸化膜が破れて、燃料棒が折れるのだ。これをわれわれは燃料棒の分断と呼んでいる。

燃料棒温度を上昇したり、照射時間を長くすると、酸化膜の厚さが増して分断の数が多くなる。この例が示すように、ジルカロイの酸化膜は冷えると脆くなり、壊れやすい。

軽水炉で使っている燃料棒は、ジルカロイ被覆管の中にUO2ペレットを入れた構造であるから、原子炉の運転中、被覆管は原子炉の圧力により常に圧迫されている。通常運転での被覆管温度は、概略300℃程度であるから問題は起きないが、事故が起きて燃料棒温度が上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力によって圧され、座屈してペレットに密着して、その表面は黒い酸化膜で覆われる。このような状態の原子炉に、冷たい水を入れると、何が起きるか。

被覆管表面の酸化膜は水で冷やされて収縮しようとするが、密着したペレットに阻止されて収縮できない。このため、冷えて脆くなった酸化膜にはヒビ割れが起きて破れる。この破れ目は、燃料周辺を取り巻く水や水蒸気にとっては、高温のジルカロイと接触できる自由市場となるから、反応は一挙に増えて、発熱が増大する。これがジルカロイ燃焼の出発点である。

先ほど、酸化膜の厚さが大きくなれば燃料棒の分断数が多くなると書いたが、これは酸化膜の破れと共通したことで、燃料棒が高温となり表面の酸化膜が厚くなるほど、冷却による酸化膜の破れも多くなる。

爆発的なジルカロイ・水反応の発生、これが今まで知られなかった――正確に言えば、知られてはいたが忘れられていた――ジルカロイの弱点である。水で冷やされると、燃料棒の表面を覆っている酸化膜が破れ、高温のジルカロイは水や水蒸気と接触できるので、激しい化学反応が起き、大きな反応熱を発生させるのだ。以降は、この激しい現象を一般のジルカロイ・水反応と区別して、「ジルカロイ燃焼」と呼ぶ。この点については後ほど詳述する。

【覆面ホンネ座談会】成長戦略への布陣固めへ 大手電力・ガス人事を読む


テーマ:電力・ガス業界の人事と評価

電力・ガスカルテル問題が落ち着きを見せ、両業界団体トップがそろって交代し、スタートした2024年度。脱炭素社会に向けた経営基盤強化へ、今後どのような人事が予想されるだろうか。

〈出席者〉 Aアナリスト Bジャーナリスト Cメディア関係者

―まずは電気事業連合会の会長人事から。異例の4年を務めた池辺和弘九州電力社長から林欣吾中部電力社長へとバトンが渡った。

A 今年、中部の社長交代があった場合には紆余曲折が予想されたが、留任となり順当な人事になった。関西の森望社長が就くとの観測もあったけど、関西が電力カルテル疑惑の中心的存在だと目されている以上、業界がまとまらなくなる可能性があったからね。

B 業界に衝撃が走ったのは、1月末に伊藤久德前副社長が中電シーティーアイ社長に就任することが発表され、社長レースから外れることが確定したことだ。これで林さんの電事連会長が見えた。それにもかかわらず、ダイヤモンド・オンラインが3月12日に「有力候補は関西電力社長、中部電力社長に絞られているがどちらも一長一短で決め手に欠く」などという記事を配信したり、日本経済新聞が「金品受領問題から年数が経っているから(関西でも)大丈夫だった」といった記事を書いたり、メディアはあまりにも雑な見方をしていた。流れをきちんと見ていれば、林さん以外あり得なかったよ。

C 林さんが電事連会長を1期2年務めることになれば、次は神谷泰範中部電力ミライズ社長で決まりじゃないかな。もともと中部は技術系の会社。神谷さんは技術系だけど企画にも携わってきたという点で、水野明久相談役とキャリアが似ている。

B この4月に就任した伊原一郎、鍋田和宏両副社長も候補かもしれないが、来年副社長に就任する人が最有力候補になるのだろうね。そう考えると、電事連会長1期2年が個社の人事に与える影響は大きい。

池辺氏(左)から会長を引き継いだ林氏はどう手腕を発揮するのか


電力業界が担う脱炭素化の中心的役割 林欣吾新会長に求められる手腕とは

―林さんに期待される電事連会長としての手腕とは。

A 中部は浜岡原発がすぐ動くわけではないから、その点では再稼働していたり準備段階にあったりする他電力との間で温度差があるのは否めない。原子力は会長マターの話にはならないだろう。電力はこれから、低炭素を飛び越えて脱炭素に向けて取り組まなければならない。原子力と再生可能エネルギー、火力についてはアンモニアと水素は専焼が難しいので切り札とはならない。需給バランスを考えると、これからも化石燃料による火力を使っていかなければならないのだから、どのように社会全体で費用を分担しながら安定供給を確保していくかが電力業界全体の課題としてのしかかってくる。各社の主張を取りまとめ、電気事業全体として脱炭素化とエネルギー安定供給の中心的な役割を果たせるか。もちろん、料金の経過措置規制廃止に向け音頭を取ることも重要な役割となる。

B 核燃料サイクル・中間貯蔵の話となると業界全体の話複数の都道府県にまたがることになるから、どうしても電事連が関わらざるを得ない。ただし、林さんの在任中に大きく進展することはなさそうだ。

―この座談会実施時点ではまだ発表がないが、九州は池辺さんが続投との見方が強い。

B 池辺さんは、これまで電事連会長としての仕事が忙しく思うように社業に取り組めていなかったからね。電気新聞は早くから電事連は代わるが九州は代わらないと見ていたし、3月15日の電事連の会見では、本人が社長として林会長を支えるということを何度か言っていた。直後に交代を考えている人があそこまでは言わないだろうから、続投を確信した。

C 池辺さんの後任は西山勝常務執行役員が最有力かな。池辺さんからも瓜生道明会長からも信頼が厚く経験も十分だ。中野隆常務執行役員もバランスの取れた人なので、対抗馬の一人だと見ている。

―今年中に柏崎刈羽、女川原発が再稼働すれば、来年度は東京電力ホールディングス(HD)と東北で社長交代がありそう。

A 東北にとって最大の課題が女川の再稼働だった。樋口康二郎社長は、地元との調整を含め着実に再稼働の準備を進め目途を付けたということで社長としての重責を果たした。東北はあまり抜擢人事がないから、後任の最右翼は石山一弘副社長だと思うが、砂子田智副社長ということもあり得る。

C 石山さんが本命視されているのは間違いないけど、佐々木裕司・宮武康夫両常務執行役員の名前も聞こえてくる。東京は柏崎刈羽の再稼働までは吉野(栄洋執行役)・小早川(智明社長)体制でいくしかない。後任は、酒井大輔副社長が有力視される。

B 東電については正直、誰がなっても変わらない気がするし、電力業界初の女性社長が出てもおかしくない。長崎桃子東電エナジーパートナー社長の可能性は十分あり得るし、実現すれば象徴的な人事になる。

A 順当にいけば酒井さんだろうが、日本航空に女性社長が誕生したことで長崎さんを抜擢するべきだという声も聞こえてくるのも確か。この二人のどちらかかな。

B 営業畑を歩んできた長崎さんが、原子力にきちんと取り組めるかが最大のネックになりそうだ。

C それにしても、これまでは小売り、送配電、原子力、火力などいろいろな分野で経験を積むことで、電力会社社長としての帝王学を学べたが、そういった状況ではなくなってきているね。20年の送配電部門の法的分離によって、今後はますます総合力を培うことが難しくなりそうだ。

多様性推進で変わる働き方 あらゆる場面で女性が活躍


【電力事業の現場力】中部電力労働組合

男性の多くが育休を取得するなど、社員の意識変革が進んでいる。

女性活躍にも力を入れ、全ての社員が働きやすい環境を作っていく。

実質週休3日制―。ファーストリテイリングやリクルートなど大企業で広がりを見せるこの制度を、4月に中部電力が導入した。1日分の標準労働時間(7時間40分)を残りの勤務日に振り分けることで「ゼロ時間勤務日」(事実上の休日)を設定できる。月に4回を上限として使用することができる。

こうした多様な働き方と並んで中部電力が力を入れるのが、「DE&I」の推進だ。DE&Iはダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平)とインクルージョン(包括)の頭文字を取った概念で、性別や年齢、障がいの有無、性自認などにかかわらず、全ての働く仲間の活躍を目指す。

春闘集会で約1000人の前で演説する辻真理菜さん

国民民主党・浜野喜史参議院議員を訪ねる室門麻里さん

これまで中部電力の最大の使命は、電力の安定かつ安価な供給だった。現在もその使命に変わりはないが、電力データを用いた医療・介護や不動産など事業領域は多岐にわたる。近年はITなどの専門人材を登用するためにキャリア採用に力を入れており、2025年度までに年間採用数全体の20%とすることが目標だ。

女性活躍の推進では、従前、若手や主任の女性社員を対象に、キャリア形成を目的としてステップアップ研修を実施していたが、「女性を部下に持つ男性」の意識変革も必要となることから、研修の対象を男性にも拡大した。

このように研修を見直すなどして活躍している女性が、昨年度のキャリア採用で入社した、ダイバーシティ推進グループスタッフ副長の服部沙由理さんだ。服部さんの所属するチームは他社出向経験が長かった人事未経験者、4月入社の新入社員で構成されており、メンバー構成そのものがダイバーシティに富んでいる。それぞれの経験や強みを生かし、研修や社内PR活動などの取り組みを行う。

昨年度のキャリア採用で入社し活躍する服部沙由理さん


労組で女性役員が活躍 男性育休取得率100%

中部電力労働組合でも、専従者として3人の女性役員が組合員への世話役活動に従事しつつ、多方面で活躍している。本店総支部書記長の鮎川弓子さんは、連合愛知の執行役員も務め、「女性のための労働相談ホットライン」では女性が抱える悩み相談に対応した。三重総支部書記長の辻真理菜さんは、電力総連と連合三重の執行委員も兼務し、今年の春闘決起集会においては約1000人の前で演説した。本部組織教育局部長の室門麻里さんは、女性12人で構成される電力総連の女性委員会に参加し、エネルギー関連施設の視察や国民民主党との対話活動などをテーマにした勉強会を実施している。最近は女性委員会の活動内容を知ってもらうため、インスタグラムを活用している。

女性が抱える悩みの相談を受ける鮎川弓子さん

育休取得に関する男性の意識も大きく変化している。ここ2、3年で中部電力と事業会社全体での男性の育休取得率は飛躍的に上昇。経営目標として25年度に男性の育児休職取得率30%以上を掲げていたが、昨年度の取得率は100%(育児休職と育児目的休暇を含む)を達成した。労使で協調し、22年度から両立育児休職とリレー育児休職を導入したことが目標を大きく上回った要因の一つ。前者は休職期間中にも就業が可能、後者は夫婦で交互に育休を取得できる制度で、育休がより取りやすくなったと好評だ。

今後も労使が密に連携し、働きやすい環境の実現を目指す。

【イニシャルニュース 】河野氏と運命共同体? 注目される内閣府X氏


河野氏と運命共同体? 注目される内閣府X氏

内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)の会議に提出された資料に、中国の国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークの透かしが入っていたことが3月末に発覚した問題で、所管大臣の河野太郎・規制改革相だけではなく、経済産業省出身で再エネTFの事務局を務めるX氏の動向にも注目が集まっている。

X氏は2020年の人事で、内閣府に出向した。エネルギー規制改革に意欲を見せる河野氏の要請などから、X氏も就任を希望したという。経産省関連の公的団体の理事に就任したばかりだったが、内閣府での仕事を選んだようだ。

X氏は核燃料サイクル政策に否定的で、霞が関の男性キャリアで初の育児休暇を取得。その経験を書籍化した異色の経歴を持つ。目立ってしまったためか「希望通りの仕事は、なかなかできなかったようだ」(官僚OB)。河野氏と組むことで、官僚としての大仕事を成し遂げたいと思ったのかもしれない。経産省側にも「河野氏のブレーキ役」としての期待もあった。

ところが再エネTFをはじめ河野氏の行動は、電力業界や経産省の政策に敵対的だった。経産省内部では、なぜX氏が河野氏の行動を止めないのかといった不満も高まっていたという。

日本維新の会、国民民主党は、河野氏への責任追及

を続ける構えだ。「当然、X氏の責任も追及される。経産省は、彼をかばわないだろう」(同)という。官僚に時々ありがちな政治家と運命を共にする道を、X氏は今後歩むのだろうか。


静岡県知事選で注目 再エネ開発と原発問題

川勝平太・静岡県知事の辞職に伴い、5月26日に投開票が行われる静岡県知事選。有力候補として注目されているのが、鈴木康友・前浜松市長だ。記者会見などでは、JR東海のリニア中央新幹線建設工事について「環境との両立を図りながらリニアを推進していく」と述べ、川勝県政との違いをアピールしている。

静岡県知事選はエネルギーも争点に

ただ一方で、エネルギー政策の観点で見ると、太陽光など再生可能エネルギーの開発を積極的に推進してきた鈴木氏の姿勢を不安視する向きは少なくない。

静岡では、多数の死傷者を出した熱海市伊豆山の土石流災害の教訓を踏まえ、山間部などでの再エネ開発に反対する住民運動が盛り上がっている。しかし川勝氏は、再エネ推進の立場から、乱開発を規制する太陽光条例の制定などには後ろ向きの姿勢を見せてきた。

「次の知事こそ、太陽光条例を制定し乱開発ストップに注力してほしい。その点、鈴木氏はどうなのか」。こう話す地元住民団体幹部が懸念するのは、シンクタンクT社とのつながりだ。かねて太陽光発電ビジネスに取り組みながら不透明な疑惑も取りざたされているT社。そんな組織の設立に、民主党議員時代の鈴木氏が有力者Y氏と共に関わったとされているのだ。

4月17日現在、知事選では鈴木氏のほか、元総務省官僚で元静岡県副知事の大村慎一氏が立候補を表明している。

エネルギー分野では再エネ問題以外にも、中長期的には「中部電力浜岡原発の再稼働」という地域の世論を二分しそうな超重要課題が横たわる。浜岡問題について、大村氏は「県民の安全確保が議論のスタート」、鈴木氏は「原子力規制委の判断を待つ」というスタンスだ。来る知事選は、エネルギー業界でも大きな関心を集めそうだ。


気になるH知事の動向 選挙に備え後援会発足

「来年9月に辞めます。皆さん(与党県議)には迷惑をかけませんから」

原発再稼働問題に揺れるN県のH知事が県議にこう告げたのは「昨年」のこと。つまり発言中の「来年9月」とは「今年9月」を指す。H知事は当時、今年9月に知事の職を辞し、「再稼働ワンイシュー」の出直し知事選を考えていたようだ。その後、自民党の「裏金」問題などで周辺状況は悪化。政府から知事選に「待った」が入っていることは想像に難くない。

H知事を巡っては、与党の県議から「人格的に素晴らしい」「辞めてほしくない」との声が聞かれる。そこで「万が一」に備えて、N県では与党がH知事の後援会を発足させた地域も出てきた。

出直し知事選となった場合、野党系の候補として名前が挙がるのが前知事のY氏だ。本誌の取材に対して、仮に知事に復帰した場合には原発再稼働を巡り「住民投票」の実施を示唆。「エネルギー問題に住民投票は馴染まないのでは」と問うと、「原発、火力、自然エネルギー……。どれを選ぶかは、結局お金の話。そういう問題は住民投票でいい」との持論を展開した。

N県は地元紙も住民投票に前向きとも取れる論調が目立つ。だが外野の声を尻目に、ひょうひょうとしたH知事は再稼働「容認」のタイミングを見極めているように見える。

後絶たないメガソーラー惨事 政府は事業規律強化へ動く


太陽光発電設備で大惨事が相次いで起きている。異例のメガソーラー火災が鹿児島県伊佐市に続いて、4月中旬に仙台市でも発生。総務省は、発電設備に起因するトラブルの調査結果を踏まえて必要な措置を取るよう経済産業省に改善を勧告しており、発電事業者の事業規律が厳しく問われそうだ。

全焼した太陽光発電施設の蓄電装置(伊佐市) 

「白煙が見える」。伊佐市のメガソーラーで3月27日午後6時過ぎに、そんな119番通報があった。地元の伊佐湧水消防組合によると、敷地内にある倉庫で発火。通報から20時間以上でようやく鎮火した。倉庫内には、リチウムイオン電池を用いた蓄電装置があった。原因解明に向けて地元の消防組合と警察は、設置事業者や消防庁の関係機関などと連携し、4月前半に約50人態勢で実況見分を行った。

火災の衝撃が冷めやらぬ中、4月15日には仙台市青葉区にあるゴルフ場近くのメガソーラーで火災が発生。焼失の範囲は約3万7500㎡にも及んだ。

総務省行政評価局が発電設備の調査を行ったところ、回答が得られた861市町村のうち約4割に当たる355市町村で、設備に起因するトラブルが発生。「工事中の敷地から土砂や泥水が流出」「事業者による住民説明の不足」「設備からの反射」などの問題が確認された。

調査結果は、発電計画の事前周知を求める4月1日施行の「改正再エネ特措法」の議論に反映。斎藤健経産相は「現地調査を行う体制も強化しながら違反案件には厳格に対応し、地域と共生した再エネの導入を進めたい」としており、トラブル予防の実効性が問われる。

ガソリン補助金の出口見えず 相次ぐ延長で副作用増幅


政府は、4月末までを支給期限としていたガソリンなどの燃料油価格を抑制する補助金について、一定期間延長することを決めた。原油価格高騰が国民生活や経済活動に与える影響を最小化する激変緩和措置として2022年1月に導入され、今回で7回目の延長。ただ、価格を一定水準に抑え込むことは市場を歪めるとの指摘もあり、出口戦略が焦点となりそうだ。

補助金によって価格上昇は抑えられているのだが……(さいたま市内SS)

補助金は石油元売り会社に支給し、卸値に反映させて店頭価格を抑えるという仕組み。補助金制度の効果で、レギュラーガソリンの1ℓ当たりの全国平均価格は現在、175円前後で推移している。足元で、20円以上の価格抑制効果が得られているという。

物価高対策として一定の効果が得られた一方で、補助金で執行した予算は4・6兆円に達し、財政的な負担が増大。「脱炭素化を遅らせる」「市場メカニズムを歪めてしまう」といった副作用が問題視されている。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミストは「補助金制度が長期化すると副作用も増幅してしまう。政府は出口戦略を明確にした上で、条件を達成した際には段階的に終了する対応が望ましい」との見方を示している。

石油販売の関係者からは「流通の現場で混乱が生じないようソフトランディング(軟着陸)できる出口戦略を策定し、国民に周知してほしい」といった声が聞こえてくる。原油高や円安が落ち着くという保証はない。政府が有権者の批判を恐れて補助金を延々と引き延ばすと、歯止めが利かなくなる。