【エネルギービジネスのリーダー達】川口公一/E―Flow社長
電力市場の取引が活性化する中で昨年4月、関西電力が設立した「E―Flow」社長に就任。
VPP事業などで培った知見を生かし、顧客の設備を活用して需給の安定化を図る。

昨年4月に関西電力が設立したE―Flow(イーフロー)。分散型エネルギーリソース(DER)の市場運用に特化した新会社として、関電が早くから取り組んできた仮想発電所(VPP)事業や系統用蓄電池事業、再生可能エネルギーのアグリゲーション事業などを手掛ける。社長を務めるのは川口公一氏だ。
1995年の関電入社後は、企画畑が長かったという川口氏。2018年に発足した同社の地域エネルギー本部リソースアグリゲーション事業推進プロジェクトチームの責任者となり、エネルギー分野の新領域であるVPP事業の立ち上げに取り組んだ。調整力公募への入札が事業のスタートだった。
AIが入札計画を策定 法人化は一筋縄にいかず
VPPとは、企業や自治体が所有する自家発電設備や生産設備、蓄電池などを束ね、IoT技術を駆使して一つの発電所のように機能させる仕組みだ。例えば需給ひっ迫が見込まれれば、需要側設備の稼働抑制や蓄電池からの放電を行う。E―FlowはVPP事業でのDERの運用データなどをベースに、AIを搭載した分散型サービスプラットフォーム「K―VIPs+(ケービップスプラス)」を開発。再エネ電源や系統用蓄電池の価値最大化、市場動向の予測による取引の最適化を実現する。
21年ごろから関電内では容量市場の需給年度24年を見据え、別会社化が検討されていた。しかし、20年度の初回のオークションの落札価格が1kW当たり1万4217円という高値だったのに対して、21年度の第2回オークションは同3495円(北海道と九州以外)。市場の価格変動性が高く、事業の安定性という点が課題となり検討が滞っていた。そんな中、別会社化に向けて大きな弾みとなったのが系統用蓄電池事業だった。
単独で系統に直接接続する大型の系統用蓄電池は「蓄電所」と呼ばれ、電力需給の安定化や再エネ導入加速への貢献が期待されている。関電は22年7月、オリックスとともに和歌山県で「紀の川蓄電所」(定格出力48MW)の建設に合意。合意に至るまでには、ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーン(供給網)途絶などの世界情勢に大きな影響を受けた。当初検討していなかった補助金を急きょ申請したり、事業計画を都度見直したりと苦労の連続だったが、結果的には系統用蓄電池の運用という事業の柱の確立により、別会社化の検討が加速することになった。
E―Flowは顧客が所有する系統用蓄電池の市場入札と需給計画の作成・提出を代行する。今年4月に全ての商品取引が始まった需給調整市場や容量市場、卸電力取引市場といった複数の市場への入札をAIとE―Flowの取引ノウハウを組み合わせることで、収益の最大化を目指す。 法人設立までの苦労は多く、川口氏は「既存のVPP事業に加え、系統用蓄電池事業や再エネアグリ事業といった新規事業の対応と法人化を並行して進めるのは本当に大変だった。また補助金の創設などにより、系統用蓄電池の保有を検討する事業者が急増し、人的リソースが不足する中で対応が追い付かないほど忙しかった。関電内のほかのグループのサポートも得て新会社設立や事業化を進めることができた」と当時を振り返る。
確度高い再エネ発電予測 経産省と有意義な議論を
再エネアグリ事業は今年春にサービスインしたばかりだ。再エネ事業者は自然条件により発電量が変動する発電量を予測し、ほかの電源と同様に電力広域的運営推進機関に発電計画を提出する必要がある。計画値と実績値が乖離すれば、過不足を調整する一般送配電事業者に費用を負担しなければならない。再エネアグリ事業では、こうしたリスク軽減のため、精度の高い発電予測を行い、計画作成などを代行する。「現在は太陽光が中心だが、将来的な洋上風力の活用に向けても知見を積んでいきたい」(川口氏)
E―Flowの事業には、市場の在り方など制度面が大きな影響を与える。そこで昨年10月、川口氏が中心となり「エネルギーリソースアグリゲーション事業協会」(ERA)を設立し、会長に就任した。26社の正会員や67社の賛助会員をはじめ、計99の企業などが参加。勉強会などを通じての情報共有や、制度を所管する経産省・資源エネルギー庁などへの意見提起を行っている。「DERの最適な運用のため、規制当局と有意義な議論を行いたい」と意気込む。 自身について、「失敗を恐れない性格」と分析する川口氏。「リスクを恐れずにスピード感を持って事業を進められる今の仕事は向いている」。関電時代の経験と最新技術で、顧客のニーズや安定供給に貢献する。