【重徳和彦 立憲民主党 衆議院議員】経済と国民生活が最重要


しげとく・かずひこ 1970年愛知県豊田市生まれ。94年東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)に入省。2011年の愛知県知事選で大村秀章・現愛知県知事に敗れるも、12年に衆議院議員初当選。立憲民主党の若手・中堅議員らでつくるグループ「直諫の会」では会長を務める。

立憲民主党の若手を中心としたグループ「直諫の会」で会長を務め、現実路線を追求。

複数の政党をわたり歩いた経験から、政権交代可能な大きな野党の実現を目指す。

愛知県豊田市生まれ。父親はトヨタ自動車の社員で、政治とは無縁のサラリーマン家庭で育った。県立岡崎高校を卒業後、東京大学法学部へ進学し、法曹志望者が多い第1類(当時)で勉学に励んだ。チームスポーツが好きで、高校から大学までの7年間はラグビー部に所属。就職活動中には民間の金融機関から内定を受けたが、日本銀行の面接を受けた際に「パブリックな仕事がしたい」と思い立ち、進路を変更する。1年の留年を経て国家公務員試験に合格し、1994年に自治省(現総務省)に入省した。

数ある省庁の中で自治省を選んだ理由は二つある。一つは同省職員の「人間臭さ」だ。自治体への出向の機会が多く、地域に寄り添い、人とのつながりを大切にして働く官僚の姿を見て、自分に合っていると感じた。もう一つは、地方分権が進む時代の流れを予感していたこと。実際に入省後、その流れは加速した。2000年には青森県庁へ出向し、市町村振興課長として市町村合併などを担当。「合併は『究極の身を切る改革』だ。地域の将来を憂い決断した当時の首長の英断に胸を打たれた」と思い返す。

政治家としての一歩を踏み出したのは39歳の時だった。11年2月の愛知県知事選を前に、自民党愛知県連から出馬の打診を受けた。

当時の民主党政権下では、行政刷新会議で「事業仕分け」が行われ、官僚たちは与党議員や有識者から責め立てられていた。霞が関の雰囲気は悪化しており、「政治が変わらなければ世の中が良い方向に進まない」という思いを抱く。総務省の仕事にも限界を感じていた。「地方交付税などを交付するだけでは、地域の発展につながらない。愛知県知事になれば、より地域を元気にする仕事ができるのではないか」と出馬を決意した。

ところが、県知事選は保守分裂選挙に。自民党の推薦こそ受けたものの、当時自民党の衆議院議員だった大村秀章氏が河村たかし名古屋市長らを後ろ盾として参戦。100万票近い大差で落選した。「最初の選挙が最大の洗礼だった」。その後、2年近くの浪人時代を送った。

保守分裂のしこりが残る中で、12年の衆院選は自民党ではなく日本維新の会公認で出馬。選挙区では5人中3位だったが、比例復活を果たした。重徳氏と日本維新の会は、共に道州制実現を主張している。「考え方が近い日本維新の会が国政に進出していなければ、愛知県の選挙区から出馬していなかった」と振り返る。

16年3月には民進党の結成に参画したが、翌年の衆院選は希望の党との合流を巡って思わぬ形で「排除」の憂き目に遭うことに。重徳氏は安全保障法制や憲法改正に対するスタンスで小池百合子氏の考え方に近い。にもかかわらず、選挙区のライバル候補と小池氏の関係性などを理由に公認を獲得できなかったのだ。しかし、最終的に無所属での出馬を決断して圧勝した。


政策論争こそ政権政党の本質 現実路線の野田佳彦氏を支持

19年1月には野田佳彦氏らと共に衆議院の新会派「社会保障を立て直す国会議員」を結成。同年10月には超党派の政策グループ「直諫の会」を設立し、会長に就任した。20年には立憲民主党と国民民主党が合流した新「立憲民主党」に入党し、現在に至る。

政治家になって以来、いくつかの政党を渡り歩き、離散集合を経験した。そこで学んだ教訓は「政党は大きくてなくてはならない」ということ。「規模が大きくなるにつれ、党内のウイングは広がる。だが分裂するのではなく、どの路線が党内の主流派になるか政策を競い合うのが政権政党の本質だ」

エネルギー政策では「現実路線」を主張する。国内のエネルギー自給率の向上に重点を置き、脱炭素化に対応するため再生可能エネルギーや新エネルギーの普及を進めていく。一方、原子力については「地震大国の日本が依存度を下げていくのは合理的」としつつも、「経済と国民生活の安定が最重要」と強調。「デジタル化などによる電力需要が増加する中、当面原発は活用する必要がある。原発ゼロは現実を見据えながら中長期的に考えることで、経済や技術の動向を踏まえたスマート・トランジション(賢い移行)が望ましい」。9月の党代表選では、こうした現実路線を共有する野田陣営の事務総長として、寝食を惜しまず奔走した。

趣味は町おこし。官僚時代には小中学校の父親が主体となり、地域でのサポート活動を行う「おやじの会」を設立。学校近くで大豆を育て、豆腐づくり教室などを開催した。

政治家は人々に先んじて時代を憂い、問題が解決してから人々の後でひと息つく──。「先憂後楽」という座右の銘の通り、社会問題の解決に向けて今日も汗を流す。

新たな措置でFIP移行を後押し 再エネの市場統合は進むのか


【多事争論】話題:FIP移行への促進策

資源エネルギー庁がFITからFIPへの移行を促す新たな措置を示した。

優先給電ルールの見直しなどが柱。政府審議会委員や業界関係者の受け止めは―。


〈 真の主力電源への呼び水に 新措置の効果に大いに期待 〉

視点A:小野 透/日鉄テクノロジー顧問

FIT(固定価格買い取り)制度がスタートして12年が経過した。再生可能エネルギーの急速かつ大規模な導入が実現し、系統電力に占めるFIT電源比率も15%を超えて、数量的には「主力電源」と呼べる規模になった。しかしFIT制度による再エネ電気は、市場価格を大きく超える固定価格で買い取られ、一般の系統電力利用者の賦課金負担は莫大だ(2024年度賦課金総額2・7兆円)。加えてFIT再エネ電気は、電力需給状況とは無関係に、限界コストゼロで市場に流れ込む。電力余剰時の卸電力市場価格を低下させ、電力安定供給に欠かせない火力電源の維持や新規投資を困難にするなど、電力システム全体に与える課題が顕在化してきた。

FIP(市場連動価格買い取り)制度は、再エネの市場統合を図る一つの手法として22年4月にスタート。これまでFIT対象である全ての再エネ電源(太陽光、陸上風力、洋上風力、地熱、バイオマス、中小水力)について、新規については大規模なものから順次適用対象が拡大され、既設FIT電源についてもFIPへの移行が進められようとしている。市場価格に上乗せされるプレミアムは、現在小規模再エネにのみ適用され、既に大幅に低減されているFIT買い取り価格と同水準となるように設定される。

そのため、国民負担は抑制された上で再エネ導入インセンティブが維持されるとともに、FIP事業者は、自らの工夫によって再エネ電気の経済価値を高めて販売することができる。FIT電気の市場流入で頻発するようになった最低市場価格(1kW時当たり0・01円)時間帯のプレミアムはゼロとされ、需給タイトな時間帯のプレミアムを上乗せするというルールは、FIP再エネ電気が電力需給状況や市場価格に応じて、売電量をシフトするインセンティブになるとともに、電力需給状態の調整や市場の正常化にも寄与するものと期待される。また近年、RE100など、再エネ電気を求める需要家との相対契約(PPA)も可能であり、その場合は一般の系統電力需要家の負担とならない形で、FIP制度によるプレミアムを超えた経済的価値獲得も可能となる。

今回、さらなるFIPへの移行促進策として、電力余剰時の優先給電ルールにおける出力抑制を「FIT電源→FIP電源」の順番とすること、並びに一定の電源がFIP電源に移行するまでの間、集中的にFIP電源に係る蓄電池の活用や発電予測への支援を強化する方針が打ち出された(第66回再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委)。わが国が今後も再エネ拡大を目指す上で、再エネの市場統合は至上命題であり、そうしなければ再エネは、経済性や市場対応力を有する「主力電源」にはなり得ない。今回のFIPへの移行促進策は、再エネの経済的自立や市場原理への適合に向けた重要な呼び水であり、その効果には大いに期待したい。


再エネ拡大に寄与しない非化石証書 ビジネスモデル狭める可能性

FIPと同時期に制度がスタートしたFIT非化石証書は、需要家が直接調達でき、商材のカーボンフットプリント低減や、地球温暖化対策推進法上のCO2削減に利用される。小売電気事業者が調達し「再エネ100%電気」メニューを作ることもできる。また、FIT非化石証書の収入はFIT賦課金の低減(23年度実績で135億円程度)に充てられ、国民負担の低減と、再エネ価値を求める需要家の要請に応えるという意味で、FIP制度と軌を一にするようにみえる。しかし、その手法や実際の効果は大きく異なる。

実際の再エネ電源拡大を伴うFIPに対して、FIT非化石証書は、系統電力需要家の賦課金負担によっていったん買い取られたFIT電気の再エネ価値・CO2削減価値を証書化して再販するものであり、実際の再エネ拡大には寄与しない。しかも、証書取引価格が安価(23年度は最低価格の1kW時当たり0・4円)であり、需要家は極めて安価に再エネ100%などを主張でき、証書価格以上のコストや投資リスクのある実際の再エネ電源(再エネ自家発やPPAなど)の拡大ニーズは失われてしまう。需要家側からのニーズがなければ、既設FIT電源のFIP移行を通したPPA電源化は促進されず、新規FIP電源についてもPPAという有望なビジネスモデル領域を狭める可能性がある。このままでは、悪貨が良貨を駆逐することにならないか、というのは考えすぎであろうか。

政策立案当局には、国民負担を最大限抑制した形で、経済的に自立し、市場原理に適合した主力電源としての再エネ拡大につながる、実効的な制度の構築を求めたい。

おの・とおる 1981年新日本製鉄入社。2015年から総合資源エネルギー調査会臨時委員、再エネ大量導入・次世代電力NW小委などの審議会委員を多数務める。日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会企画部会長代行。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年10月号)


走行税議論の現在/軍事活動によるCO2排出

Q 走行距離課税(走行税)の議論は現在どうなっているのでしょうか?

A まず走行距離課税ないし走行税とは、自動車の走行距離に応じて課税する税金のことを言います。今後、電気自動車(EV)の普及で、燃料税(揮発油税・軽油引取税など)の税収激減が予想されることから、必要となる道路インフラの維持・更新のための新たな財源確保手段として注目されています。

特に、EVはエンジン車と同一クラスで、約1.3倍の重量があり、道路損傷の影響は約10~20倍と見られることから、エンジン車ユーザーとの道路使用に係る負担の公平性の観点からも導入が主張されています。

既に、オーストリア・スイス・ドイツではトラックを対象にGPSの義務付けを実施(主にアルプス越えの通過車両から実質的道路使用料を徴収)、ニュージーランドや米オレゴン州でも導入され、英国・フランスなどでも導入を検討中です。

他方、走行税は、負担増加によるEV普及の阻害懸念、走行距離の把握の困難性(GPS設置に伴うプライバシー侵害の懸念)、既存の車体課税(自動車税・自動車重量税など)との調整の必要性など、問題点も挙げられます。

2022年10月には、鈴木俊一財務相が衆院予算委で走行税を「考え方の一つ」と答弁、税制の在り方・課題を検討する政府税制調査会でも取り上げられ、話題になりました。最近では、欧米におけるEV普及の鈍化、ハイブリッド車回帰の動きもあって、大きな議論にはなっていませんが、わが国を含め主要先進国で「35年エンジン車販売禁止」が現実的課題となる中、EV普及と財源確保のバランスの関係で、今後の展開が注目されるところです。

回答者:橋爪吉博 /日本エネルギー経済研究所 石油情報センター事務局長


Q 世界の軍事活動に伴い大量のCO2が排出されていますが、COPの枠組みの中でその対策は議論されているのでしょうか?

A 軍事活動に伴う排出量は、歴史的には各国の排出量算定から除外されてきました。主な理由は、国家安全保障上の機密にかかわるからという理由です。ただし、関心の高まりを受け、小さくはありますが進展はしています。

1997年に採択された京都議定書の下のルールでは、軍事活動に伴う温暖化ガス排出量の報告はそもそも対象外とされていました。

これが、2015年に採択されたパリ協定の下では、各国の判断に委ねられました。つまり、そもそもの除外から、自主的な報告へと微妙に一歩前進したのです。

加えて、パリ協定体制の下で行われた23年のグローバル・ストックテイク(世界全体での進捗点検)に至る議論の中で提出された意見の一つに、軍事活動にともなう排出は、世界全体の排出量の約5.5%、約27億5000万tに上るという試算もありました(Scientists for Global Responsibilityによる試算)。これは、日本一国の年間排出量をも上回る量になります。

また、ロシアによるウクライナ侵攻は最初の7カ月間だけで約1億tが排出されたと言われ、軍事活動が排出量増につながるという点についても徐々に問題視され始めています。

実際、欧米各国政府は、軍事活動における温室効果ガス排出量削減について程度の差はあれ対策を宣言し始めており、NATO(北大西洋条約機構)も21年に気候変動対策に関する計画を策定しています。しかし、これらがパリ協定の中で直接的に対象にされるには、まだまだ時間がかかりそうです。

回答者:山岸尚之/WWFジャパン 自然保護室長

【需要家】産業界の脱炭素 ドイツは模範か他山の石か


【業界スクランブル/需要家】

気候変動対策で日本はドイツを見習えとの声を聞く。いち早く再エネ中心のエネルギー転換で産業の脱炭素化を進めるドイツは模範的で、日本は周回遅れだという。

しかし徐々に理想と裏腹のドイツの実態が表面化してきた。8月末に独最大の名門鉄鋼コングロマリットであるティッセンクルップで、持ち株会社(TKAG)の役員会と欧州鉄鋼部門事業会社(tkSE)の役員会が収益悪化に伴うリストラ費用の負担の在り方で対立し、tkSEのトップを含む経営幹部5人が一斉に辞職して経営が混乱している。元々TKAGは今年に入って100%子会社であるtkSEの株の20%をチェコの富豪に売却。さらに30%を追加売却して鉄鋼事業から足抜けする姿勢を見せる。

ドイツの産業衰退もここまできたかと、このニュースを見たわずか3日後の9月3日、今度はドイツ最大の自動車会社フォルクスワーゲンが、操業後初めて独国内工場の閉鎖を検討という一報が流れてきた。同社のブルーメCEOは「欧州の自動車産業は非常に厳しく深刻な状況だ。ドイツは競争力で後れを取っており、断固として行動しなければならない」と述べている。ドイツ最大の化学会社・BASFも昨年、コスト削減のため独国内主力工場を含む全世界の従業員の2%、2600人の解雇を発表する一方、中国に1兆円余りかけて巨大な化学工場を一昨年竣工した。

欧州最強を誇ってきたドイツの基幹産業が総崩れの状況に陥っているが、その背景にあるのがエネルギーコスト高騰による国際競争力の喪失である。日本は、エネルギー政策の見直しでドイツの轍を踏んではいけない。(T)

人類に究極のエネルギー提供へ 世界の核融合産業をリードする


【エネルギービジネスのリーダー達】小西哲之/京都フュージョニアリング 代表取締役CEO

核融合の商業化に向け、京都大学発のスタートアップを2019年に起業した。

日本発の革新的なソリューションで世界に究極のエネルギーを届けることがミッションだ。

こにし・さとし 約40年にわたり核融合工学、核融合炉設計、トリチウム工学、ITERプロジェクトに携わる。2003年より京都大学教授として人類の持続可能性問題に取り組む。19年に京都フュージョニアリングを共同創業し、技術、企画、戦略を担当。23年10月から現職。

「世界で最初のフュージョンプラント(核融合)を実現する」

こう語るのは、核融合スタートアップである京都フュージョニアリングの小西哲之CEO(兼Chief Fusioneer)だ。京都大学の長年にわたる核融合研究の成果を商業化につなげようと、2019年に長尾昂氏(現取締役会長)とともに創業した。

核融合は、水素などの軽い原子核同士が結合し、より重い原子核に変化する反応。この際放出される大量のエネルギーを、CO2を出さないクリーンな電気として供給することが期待されている。まさに脱炭素の切り札。近年、国際的な研究開発競争が激化しており、日本でも23年4月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が策定され、国を挙げた取り組みが始まった。


サプライチェーン構築へ 企業・研究機関と協力

国内外のスタートアップが群雄割拠の様相を呈する中、核融合産業のリーディングカンパニーを目指す同社の強みは、核融合反応を起こすために必要なプラズマを加熱するジャイロトロンシステムに加え、エネルギーの取り出しや燃料の循環に必要なプロセスなどで世界有数の技術力を持つことにある。現在は、国内のみならず海外の企業・研究機関とも協力し、核融合炉を構成する機器の開発とプラント全体の設計を手掛けている。

小西氏は、約40年にわたり京大などで核融合工学や核融合炉設計の研究に携わってきた研究者だ。その当時から「核融合が、化石燃料が担ってきた役割を代替する時代が到来し、世界を大きく変えることになる」との確信はあった。とはいえ、素材から加工、プラント、エンジニアリングと、産業の裾野が広く、社会実装するためには技術の確立だけでは不十分。資金調達やリスク管理など、さまざまな業種の企業とネットワークを築き産業構造を作り上げていくことが欠かせない。

「21世紀型の新事業は、技術者集団がスタートアップを起こし新しい発想で資金や人材を集め、難題に挑みイノベーションを起こすことで生まれる。複合的な能力を持つチームを組織し自ら成し遂げるしかない」と一念発起し、起業を決意した。

世界の核融合に対する民間投資は既に1兆円に上り、早くもマーケットの主導権を握る競争は始まっている。同社は、そこに参入し勝っていこうとしているのだ。かつて、技術力で優位にありながら、産業競争力では海外勢に劣勢を強いられることになった半導体の二の舞を演じるわけにはいかない。

年内には、同社の研究施設がある京都で世界初となる発電試験プラントが稼働する予定。日本の「ものづくり力」を結集してサプライチェーンを構築し、先進国のみならず、世界のエネルギー消費の主体となっていく途上国に対しても、究極のクリーンエネルギーを供給していきたい考えだ。


国内外の知見つなぐ 変わらぬ研究マインド

ビジネスに携わるようになり、目まぐるしく変化する日々を楽しいと感じる一方、「経営は難しい」とも実感している。とにもかくにも「フュージョン」をキーワードに、国の内外、そして世代を超えた技術や知識をつないでいてくことこそが自らの役目だと、本社を置く東京、京都、そして海外を忙しく飛び回る毎日だ。さらに、フュージョンエネルギー産業協議会(J―Fusion)会長として、政治や行政と業界の橋渡し役も務めている。

事業の目的は、今も人類の持続可能性の問題にある。むしろ、京都フュージョニアリングのビジネスは、その具体的取り組みだとも言える。

フュージョンが生み出す高熱を、CO2の固定化技術に応用することも目指しており、22年には、京都府内の竹林で育った竹の一部を炭化する取り組みを始めた。「これまで人類がエネルギーを使うために排出してきた7兆tものCO2を回収し、地面に埋め戻すことができれば、過去に使ってしまった分の借りを地球に返すことができる」(小西氏)。そんな壮大なビジョンを掲げる。

ともすると会社経営は、足元の収益を上げやすいビジネスに特化しがち。だが、同社の使命はあくまでもフュージョンエネルギーを実現し、日本発の産業を構築することにある。「長期的視点に立って新たな産業を構築することが、会社にもわが国にも人類にも利益になる」と小西氏。

新しい技術、サプライチェーンを作ることが創業の理念であり、これからもそれが変わることはない。社員全員がエネルギーや環境、そして人類の持続可能性の視点を見失うことなく、研究開発を軸に今後もまい進していく。

【再エネ】「金融・資産運用特区」 北海道に求められる役割


【業界スクランブル/再エネ】

政府は6月4日に東京・大阪・福岡・北海道の4地区を「金融・資産運用特区」に指定した。特区の指定は、国内外の金融・資産運用業者の集積・規制緩和を通じた地域経済の活性化が狙いとされ、中でも北海道は「GXに関する資金・人材・情報を集積し、GX金融・資産運用特区を実現」することがテーマだ。規制緩和の項目は主に3点。1点目がGXで、洋上風力や水素に関する規制が緩和される。2点目が金融で、道内で銀行のGX産業への出資が容易になるとされている。3点目がビジネス・生活環境で、在留資格などの英語での行政手続きが可能になる。

特区指定を受け、大規模な洋上風力発電や水素利活用などのプロジェクトの開発が期待される。一方、北海道特有の課題として、現状の道内再エネ需要量が限定的であること、再エネポテンシャル地域と需要地とが離れており送電網が脆弱であることが挙げられる。これらは、特区の規制緩和により国内外から産業を呼び込むことでの解決が望まれる。データセンターなど電力消費量が大きい企業の誘致を通じた需要創出や、グリーン水素生成時の再エネ活用など、GX産業の集積による需要の創出が期待される。

加えて、行政が企業と連携し、これまで産業が集積してきた道央ではなく、再エネポテンシャルの大きい道北・道東にも企業を誘致することで、発電所の近隣エリアに電力需要を生み出すことができる。長距離の送電網を必要としない地産地消モデルを確立できれば、送電網の問題解決の一助となる。北海道には企業誘致を通じ、道央以外を含めた各地区に電力需要を生み出すことが求められる。(N)

斬新料金プランで地域貢献 再エネニーズ掘り起こしに腐心


【事業者探訪】銚子電力

電力事業を通じ、再エネなど恵まれた資源を地域で活用する必要性を市民に訴えかける。

地元出身アスリートや電鉄などを電気料金で応援するユニークなプランを展開中だ。

夏涼しく冬暖かい千葉県銚子市。関東最東端にあり山頂・離島以外で日本一早い初日の出が見られる犬吠埼、全国屈指の水揚げ量を誇る海産物、醤油や農産物などの特産品、イルカウォッチング―など、多種多様な地域資源を有する。

そして日射量や風況にも恵まれている。コスモエコパワーの陸上風力「銚子ウィンドファーム」が稼働するほか、再生可能エネルギー海域利用法に基づく促進地域での洋上風力開発(三菱商事やシーテックなどが事業者)も進行中だ。

市は、再エネ資源を生かしたゼロカーボンシティを目指しており、その一環で2018年に銚子電力が誕生した。その際に白羽の矢が立ったのが再エネ普及に力を入れる新電力のLooopで、銚子電力の立ち上げから関わっている。

現役アスリートでもある新谷社長


陸上風力をメインに 一部トラッキングし供給

銚子電力は「銚子をチョウシよく」をキャッチフレーズに、エネルギーの地産地消や地域貢献を図るとともに、再エネ価値の必要性の訴求を目的に掲げる。昨年11月、社長に就任した新谷一将氏は「地域には省エネ法の対象となる企業はわずかで、再エネ電気のニーズは少ない。だが、近年エネルギーの輸入頼りのリスクが表面化。国内で再エネ発電所を増やし、再エネ電力のニーズを高めるべきだ」とし、多様な場で発信を強めている。

銚子電力は電力小売りライセンスを持つが、現在はLooopの取次店となり、需給管理や供給は同社が担う。低圧の供給先は約1600件。市内の低圧シェアの6%程度で、3年以内に20%を目指し、まずは銚子電力の認知度向上に努めている。高圧は公共と民間でそれぞれ40数件ほどだ。

電源比率では銚子ウィンドファームがメインで5~6割を占める。FIT(固定価格買い取り)制度に基づく電気で、トラッキングを望む需要家には非化石証書付きで販売する。市内の小中学校はすべてトラッキングして供給するが、需要家全体でみると14%程度に留まる。

メイン電源の銚子ウィンドファーム

ほかにLooopの相対電源なども活用する。さらに銚子沖の洋上風力が28年度に系統連系される見通しで、その電気の活用面では銚子電力も一枚かみたい考えだ。

そんな同社の料金プランに共通するコンセプトは、需要家が電気料金を通じて銚子を応援すること。応援手段はさまざまで、他社では見当たらないような斬新なアイデアもある。

最もベーシックな「チョウシeデンキ」は、利益の一部を市の再エネ基金に寄付するプランで、これまでの累計額は200万円。加えて停電の備えとして、主要避難所に投光器などの光源を、市内の学校には太陽光パネルや蓄電池を寄付した。

地域の特産品を年数回届ける「銚子ふるさとプラン」は、市外の需要家がふるさと納税的に利用することを想定する。市内の豆菓子屋の商品を受け取った需要家が味を気に入り、後日銚子を訪れ来店したというエピソードもあり、地域の魅力発信の一助になっていると手応えを掴んでいる。

【火力】具体性欠くエネ基議論 実態に即した検討不可欠


【業界スクランブル/火力】

第7次エネルギー基本計画の検討が佳境を迎えている。GX(グリーントランスフォーメーション)を進めるためには、「S+3E」という原則を堅持しつつ着実な投資を促す予見性が必要になるという点まではまとまっているが、その先の具体的な道筋が一向に見えてこない。

ここ数年、火力発電の視点からみると、政策リスクなどの増大により投資の予見性は悪化しているようにすら感じる。長期脱炭素電源オークションなどの整備が進められているが、いったい何が足りないのだろうか。人は往々にしてはるかな理想を仰ぎ見ることを優れていると感じてしまう傾向があり、カーボンニュートラルに向けた高い目標を掲げることばかりに躍起だ。

しかし、エネルギーは現代の社会生活にとって不可欠なもので、目標を遂行しようにも足下で安定供給が阻害されては、にっちもさっちもいかなくなってしまう。

具体的には、安定供給を支える火力発電の活用について、現場の実態に即した検討が不十分ではないか。火力設備の運用やメンテナンスへの配慮が不十分な制度となっているため、機能維持のための投資がおろそかになり、徐々に火力発電全体のパフォーマンスが低下し、供給力や調整力が不足する状況が慢性化している。今後火力の役割が変化するのであれば、なおさら具体的な道筋を描き、まずは足下を固めないと安定供給を維持し続けることはできない。 GXのチャレンジは負けたら即終了のトーナメント戦なのだ。世間もだが、発電事業者やメーカーも、水素・アンモニアといった将来技術だけでなく、足下の対策にも気を配る必要がある。(N)

分散型制御でデジタル取引実現へ アグリゲーションの未来見据える


【リレーコラム】新貝英己/東芝ネクストクラフトベルケ 代表取締役社長

独ネクストクラフトベルケを訪問したのは2018年。当時、国内でVPP事業を担い需要家リソースを束ねて需給調整市場への参入を目指していた最中、全く異なるモデルで成功している彼らを目の当たりにして、大きな衝撃を受けたことを覚えている。大量の再エネを束ねて卸市場で取引し、インバランスを抑えながら値差で収益を上げるトレーディング事業。需給調整市場にも参画し、リソースは現在1300万KW以上に及ぶ。

欧州を参考にアグリゲーション事業を立ち上げたのはFIPが開始された22年度。実績も増え始め、今後の課題はいかにしてスケールするか。そして市場環境に合わせた日本版アグリゲーションとしてのさらなる進化だ。最近の欧州では、時間前市場が活発であり、当日に数万回に及ぶ取引を行う事業者も現れている。一部は現物を伴わないフィナンシャルトレーディングと呼ばれるもので否定的な見方もあるが、市場を活性化し、市場原理に基づく最適な価格形成に一役買っているとも言える。

日本ではどうか。時間前市場が実需給の5分前まで開いている独に比べ、1時間前に閉場し、取引量も少ない。取引価格を最適化し、インバランスを減らすためにも、市場の活性化が必要だ。他方、日本の特徴は市場取引に頼らないコーポレートPPA(相対)が多いこと。これは再エネと需要のマッチングといえるが、価格、契約期間などの合意には多くの時間を要する。当社ではサイト上で発電所情報を掲載し、小売や需要家とマッチングするサービスを検討しているが、当面はデジタルとリアルの両面でのアプローチが必要そうだ。

ちなみに、かつて私が働いていたインターネット広告の世界では利用者の趣味嗜好や利用傾向をデータ化し、利用者がHPやSNSにアクセスした瞬間に、複数のクライアントの広告が自動的にオークションされ、落札者の広告が表示されるリアルタイムビッディングという仕組みがある。サイトを閲覧している裏側で瞬時にこうした取引が行われていることを知る人はほとんどいないだろう。


需給予測で精緻な自動取引が理想

将来、電力の世界でも発電量と需要量の予測を用いてコマごとの自動取引が行われるような世界になればという思いもある。最近では、需要と供給を時間単位で合わせるアワリーマッチングという概念も生まれている。デマンドレスポンスや蓄電池を活用し、多様なニーズに合わせた取引をデジタルで実現する仕組みを考えていきたい。系統状況を考慮し、需要と再エネの両輪でバランスさせる姿が日本版アグリゲーションと言えるだろうか。

しんがい・ひでき 1994年東芝入社。インターネット乗換案内「駅探」の事業開発に従事。その後エネルギー領域のデジタル化を担い、2020年に独VPP会社と東芝ネクストクラフトベルケを設立。

※次回はEX4Energyの伊藤剛代表取締役社長です。

【原子力】再処理工場の竣工延期 日本原燃の責任なのか


【業界スクランブル/原子力】

日本原燃が8月末、六ケ所再処理工場の完工時期延期を発表した。これで27回目だ。

核燃料施設に関する新規制基準が定められたのが2013年12月で、原燃は年明けに適合性審査(事業変更許可)を申請し、1年もかからず14年10月に完工できると予想していたようだ。実際には20年7月の許可までに6年半、その年の暮れに設工認の申請が出されたが、その後3年半以上が経過。今回は審査にもう1年半、その後1年間で現場を最終確認し、26年度中に竣工とのこと。適合性審査の申請から12年以上かかっている。

原子力規制庁のホームページを見ると、毎日のようにヒアリングが行われ、そのたびに数十MBに及ぶ資料が提出されているが、規制庁の役人は読めているのだろうか。ただ毎回コメントを付けて突っ返しているだけのように感じる。議事要旨には、規制庁が記述の不足などを指摘し、原燃から説明資料を整理し直す旨の回答があったとの記載が繰り返され、役人の裁量でもてあそばれているのではないかと邪推せざるを得ない。

審査会合の映像も公開されているが、いつも原燃の責任者が「当社が規制庁のご指示の趣旨を理解できなかった」とわびることから始まり、審査を担当した元東大教授の規制委員は、誰かが用意した原稿に沿って叱りつけ、それ以外は担当官と事業者との間のやり取りの司会をするだけ、指導する様子もなく無能に等しい印象であった。

本当に原燃の申請書類が悪いのか。審査が進まない責任を事業者が被っているようにしか想像できないのだが、読者諸氏はどのように見ているだろうか。(H)

【シン・メディア放談】エネルギー業界も戦々恐々 報道加熱する自民党総裁選


<エネルギー業界人編> 電力A氏・ガスB氏・石油C氏

過去最多の9人が争った自民総裁選。

エネ基議論も左右しかねず、業界は戦々恐々と見守った。

―柏崎刈羽原子力発電所の対応を議題に9月2日、政府が原子力閣僚会議を開催。岸田文雄首相が、地元の声を踏まえ、再稼働への理解促進に向けさらに具体的対応を行うよう指示した。

A氏 柏崎の再稼働をなんとかしたいという思いの表れだろう。第7次エネルギー基本計画で原子力をどの程度動かすか明示するには、柏崎が動いていないときつい。今後、避難道整備に向け経済産業省・内閣府・国土交通省で協議の枠組みを立ち上げ、事業者の自主性を損なわない形でサポートする形だ。噂ベースだが、佐渡金山の世界遺産登録も新潟県の同意を引き出す手段だとの話も。原発を巡る地元同意では立地市町村がOKでも県のハードルは高い。裏から手を回すことも必要だろう。

B氏 この件でネガティブな報道は少なかったように思う。岸田首相は自分の在任中に柏崎を動かしたかっただろうが、残念ながら間に合わず。それでも風穴を開けるべく、斎藤健経産相やエネ庁幹部らがたびたび関係者に働きかけてきた。


デブリ取り出し中断 粛々とした対応に尽きる

C氏 ただ、朝日は9月7日付で、花角英世新潟県知事が再稼働の判断時期について「あと2年弱くらの間には固まるのでは」とのコメントを載せている。この場でいつも触れるが、産経のように書けとはいわないが、なぜ経済的損得を考えない記事ばかりなのか。正論やVoice、Hanadaあたりは厳しく追求している。特に朝日は部数が急減し影響力が薄れてきている中、そろそろ論調を見直す潮目では?

―福島のデブリ取り出しは1回目の作業を中断し、約3週間後の9月10日に再開。しかし17日、再度中断を発表した。

A氏 本当に難しい作業。とはいえデブリが存在する以上やめることはできない。結局原子力はイデオロギーの話だが、デブリの問題はそうした世界とは別次元にあり、エネルギー政策とは独立した事象として率直に見るべき。それ以上でもそれ以下でもなく、東電は外野の声は気にせず粛々と取り組んでほしい。

B氏 メディアは絶対言わないだろうけど、1回目で直前に手順の間違いに気づいて止められたのはある意味ファインプレー。常に東電のネガティブ情報を流すのではなく、きちんと対応できていることも報じてほしい。そうすれば、柏崎再稼働に向けた県民の意識に影響する可能性もある。ただ、今回取り出す予定のデブリは3g。3基で合計880tほどあるとされ、このギャップの甚大さで長きにわたる作業だと改めて認識した。

C氏 ところで、処理水放出で日本産水産物を禁輸する中国が、日本近海で大量に漁獲していることを、朝日も報じ始めた。いずれの媒体にも、国民に事実を周知すべく頑張ってほしい。一方、地方紙の方が言いたい放題の傾向にある。電力業界は正しい事実が伝わるよう、もっと説明を尽くさなければ。


総裁選の結果やいかに 各候補発言の注目点

―本誌発行時には既に自民党新総裁が決定しているが、この座談会開催は9月中旬。結果を受けた議論ができないことに歯がゆさはあるが、これまでの各候補の発言で注目した点は?

B氏 候補者9人は今回、一定の原子力の必要性を認めており、従来と雰囲気がかなり変わった。ただ、石破茂氏は「ゼロに近づける努力を最大限に」、河野太郎氏や小泉進次郎氏は利用できる原子力を使えばよいといったスタンス。それに対し、推進派の高市早苗氏や小林鷹之氏はもとより、茂木敏充氏も「新増設を含め取り組むべき」との主張だ。前者のような人が総裁になれば、柏崎をはじめ再稼働にアクセルはかからないだろう。原子力は電気代を下げる要素だが、新総裁が真の原子力賛成派かどうかで政策が大きく変わる。

A氏 裏金問題にあれほど関心があるというアンケート結果にはがっかりだ。極論、無能で清廉潔白な首相より、金に汚くても有能なリーダーの方が望ましい。また、海外から御しやすい首相の誕生を誘導するような報道はやめてほしい。気概があり、エネ政策も持論を持って進められる人が必要だ。エネルギー安全保障を考え抜いた上での政策を持たない首相で本当に良いのか。ただ、今回もエネルギーは主要議題ではないけどね。

C氏 アゴラで澤田哲生氏が「小石河連合のその後:変節漢の脱原発空想」と題して3者を批判している。一般紙も鋭い記事を書かなければ。議員票は集めても政策は空っぽな人が選ばれればエネ基がどうなってしまうのか。中でもテレビが人気投票化に拍車をかけており罪深い。

B氏 7日に小泉氏が銀座で、翌日に石破氏が柴又で演説、なんて報道を見たが、一体何を紹介しているのかと思った。

C氏 特に日経にはクオリティペーパーを自負するなら、もっと硬派でいてほしい。グリーンの副作用が顕在化し、最近の英国やドイツのメディアはがらっと方針を変えているのに。

A氏 高市氏や茂木氏についてはイメージの問題があり、役人の反応も今一つ。両者とも強固なブレーンを作る必要がある。ただ、やはり一番怖いのは、小泉首相が誕生したら外交で何を言い出すかということだ。

B氏 その前に立憲民主党代表が野田佳彦氏になれば、党首討論でKOされる様が目に浮かぶ。

―良きにつけ悪しきにつけ小泉氏の発信力は絶大。「セクシー首相誕生か」などとも報じられたが、結末はいかに。

【石油】不透明な原油価格 読みづらい米大統領選の影響


【業界スクランブル/石油】

NY原油先物は、9月初めに1バレル70ドルを割り軟化している。米中経済と石油需要の見通し、OPECプラスの減産緩和動向、パレスチナ紛争とウクライナ戦争の行方が主な変動要因だが、先行きは不透明だ。そうした中、米大統領選の原油価格への影響についてよく質問される。

トランプ前大統領が選挙公約に掲げる共和党の政策綱領では「掘って掘って掘りまくれ」と、石油・ガス増産を前面に出した。供給増で原油安になりそうだが、成長志向で国内産業振興という需要増の原油高要素もある。他方、民主党のハリス副大統領は左派・環境派で増産反対や環境規制継続を唱えていたが、その姿勢を転換。最近、シェールオイル・ガス生産に用いる水圧破砕法を禁止するつもりはないと明言した。

電気自動車(EV)化に反対していたトランプ氏は、起業家イーロン・マスク氏の支援で推進派に転じた。ハリス氏はインフレ抑制法(IRA)を継続するだろうが、失速するEVの普及速度には大きな差は出ない気がする。

外交面でも、パレスチナ紛争とウクライナ戦争へのコミットで両者の差は大きいが、原油価格への影響は小さいのではないか。イランとベネズエラへの経済制裁にしても両者は、国内ガソリン価格への影響から違反の原油輸出が黙認されても、建前上、正面切って解除できないだろう。

どちらが勝っても、原油価格には上昇要因と低下要因の双方があり、選挙戦が進むにつれて両者の主張も近づいている。外交政策も差の出しようがない。やはり現時点で原油価格への影響を占うと、不透明としか言えない。(H)

【ガス】隠れたる自民総裁候補 メタハイ開発を一貫主張


【業界スクランブル/ガス】

本稿を書いている8月末時点で、自民党総裁選の立候補者が乱立する状態が頻繁に報道されている。その中で、いち早く立候補を表明したにもかかわらず、マスコミから無視されている人物がいる。青山繁晴参院議員だ。

青山氏は元共同通信社の記者であり、2016年に参議院議員選挙(全国比例区)に初当選し、現在2期目である。無派閥、支援団体なしを貫くなど独自の姿勢を持ち、メディアや講演、ブログなどを通じて、国民に分かりやすいメッセージを発信し続けている。自身のユーチューブには60万人を超える登録者がおり、3年連続で自民党員獲得数1位となっている。「既存の権益や利益構造を壊す」ことを公言しており、一定の支持者から強い支持を得る一方、批判や論争も巻き起こしており、自民党内では微妙な立場なのかもしれない。

エネルギー関係で青山氏が他の候補者と違うのは、日本近海に存在する表層型メタンハイドレートの実用化に向けた活動を積極的に行っている点だ。青山氏は国会での質疑応答や政策提言を通じて、表層型メタハイの開発が国家的な戦略として優先されるべきと主張している。

表層型は取り出せる量も限定的で運搬方法にも課題があるなど、商用化の可能性については未知数だ。が、国がこうした天然ガス資源を自己開発する姿勢を積極的に国内外へ示していくことは非常に有意義。特に産ガス国からは「買う以外に選択肢がない」と見なされている日本のLNGの買い手にとって、交渉力を強化する上で、メタハイの開発検討は重要であり、今後もこうした青山氏の活動に注目していきたい。(G)

G7とグローバルサウス〈下〉 アフリカ囲い込みを巡る角逐


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

G7広島サミットは2023年5月、新興国・途上国との橋渡しを目指し、国際的なパートナーを招き、さまざまな課題を討議した。日本は議長を務めたが、基本姿勢は法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り、国際的なパートナーとの関与を強化する観点からG7 を主導した。

一方、同年9月、G20議長国インドはG20ニューデリー・サミットを主宰した。同サミットでは「一つの地球、一つの家族、一つの未来」をテーマに食料安全保障、気候・エネルギー、開発、保健、デジタルといった重要課題が議論された。 岸田首相(当時)は、直後の国連総会でロシアによる侵略により、食料・エネルギーを含め世界経済の運営は深刻化しており、G7/G20として対処する必要性を指摘した。

24年に入ると11月のG20サミットに向け、2月にブラジル・リオデジャネイロでG20外相会合が開催された。同会議で上川陽子外相は、緊迫する中東情勢が世界経済に直接的な悪影響を与えていること、日本はハマスなどによるテロ攻撃を改めて非難、ガザ地区の人道状況に深刻な懸念を表明した。G20あるいはグローバルサウスの一員として、インド、インドネシア、サウジアラビアなどは近年存在感を増している。しかしながら、グローバルサウスは一枚岩ではなく、それぞれが自国の利益に基づいて動いている。BRICS5カ国は23年8月、南アフリカ・ヨハネスブルクで首脳会議を開き、イランやサウジアラビアなど6カ国を新メンバーに迎えることに合意した。

日本は、G7の一員としてのみならず、グローバルサウスの国々に対し、G20のパートナーに共通の利益を提示することが重要である。

さて、日本とアフリカ外交の柱となってきたTICAD(アフリカ開発会議)は8月24~25日、東京で閣僚級会合を開催した。TICADは、25年8月20~22日に横浜で第9回首脳会議の開催を予定しているが、日本は存在感を示すことができるだろうか。

一方、中国は9月4~5日、北京で「中国・アフリカ協力フォーラムサミット」を開催した。今回のサミットでは、国政運営、工業化と農業現代化、平和と安全保障、「一帯一路」の質の高い共同建設の4会議で中国とアフリカの関係指導者が共同議長を務め、アフリカ諸国の多くの代表団メンバーが出席した。中国がこの協力フォーラムを始めて以来、米、仏、英、独、印、日、韓などもアフリカとの間で、同様の趣旨の定期的な会議を開いている。22年に開催されたワシントンサミットでは今後3年間で少なくとも550億ドルの投資を行う計画を発表しており、アフリカでの開発利権を巡っても米中は競い合っている。23年の中国・アフリカ間の貿易額は2821億ドル(40.3兆円)で、2年連続で過去最高を記録した。

アフリカ諸国から見れば、中国はG7と比べれば価値観の違いに寛容であり、自由貿易を推進するように見えるのだろう。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

日本でのDMEの再評価は可能か


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

世界リキッドガス協会(WLGA)は7月23日、6~7月にスイスで行われた国際危険物輸送に関する国連専門家小委員会で「ジメチルエーテル(DME)混合率(ドロップインブレンド)12%以下のLPガス」が既存LPガスの貯蔵と輸送に関する規制の定義に含まれることを発表した。

日本では20数年前から、多様な原料から製造できるDMEをLPガスに混合させる実証試験が進んでいた。しかしながら、当時はLPガス需要供給が安定してきており、費用対効果の面からDMEの本格的普及に至らなかった。

またDMEは、ゴムへの膨潤・浸潤や潤滑性の乏しさなどから、バルブ漏えいにつながる欠点も存在した。5~8%程度の混合比率の試案まで出たものの、DMEの混合比率が大きな課題となった。本格的に導入する場合には、今でもこれら欠点の克服が課題となっている。

近年、欧米を主軸にカーボンニュートラル(CN)への対応から、再生可能原料を使ったrDMEの開発が進んでいる。グリーンLPガスへの社会的要請が高まる日本でも、DMEが大きな役割を果たすのではないかという見方が広がり始めている。すでにグリーンLPガス推進官民検討会の「LPガスのCN対応に向けた今後のロードマップ」には、2035年に向けた数値目標にグリーンLPG/rDME輸入調達として年間100万t、国内生産として20万tが目標値とされている。日本で独自展開している合成LPガス製造と、欧米諸国が積極的に取り組んでいるrDMEの既存LPガスへのドロップインブレンドの技術開発が競い合っているのである。かつての基礎知見では欧米に負けない技術開発を行ってきたDME研究開発技術が復活、再評価されるのか注目を集めている。

(花井和夫/エネルギ―コラムニスト)