【東京ガス 笹山取締役代表執行役社長CEO】企業価値向上に向け資本効率を高め成長投資を促進する

中長期経営計画の最終年度となる2025年度を前に、資本政策を重視した企業価値向上策を打ち出した。

米トランプ政権誕生や脱炭素化の潮流の変化を見極め、安定供給を重視した調達戦略を展開するとともに、多様なエネルギーとソリューションの提供を目指す。

【インタビュー:笹山晋一/東京ガス取締役代表執行役社長CEO】

ささやま・しんいち 1986年東京大学工学部卒、東京ガス入社。執行役員総合企画部長、専務執行役員エネルギー需給本部長、代表執行役副社長などを経て2023年6月29日から現職。

井関 1月31日の2024年度第3四半期決算説明会で、現中期経営計画後の経営の方向性を示す「持続的な企業価値向上に向けて」を発表しました。

笹山 当社は、企業価値の向上には資本効率を高めることが重要であることを踏まえ、投資家の意見に耳を傾けながらどのような施策を執るべきか社内で協議を重ねてきました。その上で、第一弾として昨年10月、自社株取得のほか資本政策を意識した企業価値向上策に取り組む方針を示しました。1月の発表はその第二弾となります。来年度には、現行中計の最終年度を迎えます。これらは、中計で掲げた施策を遂行するための重要なマイルストーンであり、今後の施策を具体化する指針です。

井関 資本政策では、累進配当の方針を打ち出しました。

笹山 従来から実質的には累進配当を導入しており、安定配当と緩やかな増配を掲げていました。ただ、その意図がなかなか理解されづらい点があったため、明確に累進配当の方針を示したものです。総還元性向については、かつての6割から4割程度をベースとしてきましたが、投資家に分かりやすいメッセージを伝えることが重要であると考え、4割還元をベースに、必要に応じて追加的な対策を講じることとしました。


目標達成へ進捗は順調 成長分野に一層注力

井関 23年度の連結自己資本比率は43・6%と、財務体質は堅調ですね。25年度の目標として据えた、ROE(自己資本比率)8%、累積営業キャッシュフロー(CF)1・1兆円、成長投資6500億円に対する進ちょくはいかがですか。

笹山 いずれも順調で、それらの目標を達成できる見込みです。累積営業CFを含め、収益を確保しつつ成長投資に注力していきたいと考えています。

また、経営資源を生み出すために、低収益または戦略不適合の資産および事業については、売却ないしは、新たなスキームを考えるなどしてきましたし、それはこれからも変わりません。今後も、中計で示した収益性、成長性、安定性の視点を持った事業ポートフォリオマネジメントを目指していきます。

千葉県袖ケ浦市に建設する火力発電所のイメージ図

井関 第3四半期決算では、連結経常利益が前年同期比59・8%減の685億円となり、通期見通しも従来予想の1060億円から1030億円に下方修正しました。この要因についてお聞かせください。

笹山 円安を含めた期ずれ差益の影響や一部減損があったこと、さらには暖冬で家庭分野のガス販売量が減少したことが要因です。業界の構造上やむを得ないことではありますが、天候や為替に左右されない、ガス・電力に次ぐ第三の柱としてのソリューション事業も伸ばしていきたいと考えています。

井関 そうしたソリューションの一つに「IGNITURE(イグニチャー)」の展開があるわけですね。

笹山 対一般消費者(BtoC)や対企業(BtoB)に加え、自治体など対行政(BtoG)の三分野で、社員一丸で事業の拡大に挑んでいます。BtoC分野では、これまでさまざまなサービスを展開してきましたが、今後はガス器具や高効率ガスシステムといったエネルギー関連設備の導入に一層注力していく方針です。従来の販売方法にとらわれず、ウェブサイトなどを活用した拡販を進めていきます。

また、蓄電池や太陽光発電システムなどの商材の販売についても、東京都の補助金を追い風に積極的に取り組んでいきます。近年は施工の担い手不足が課題となってきました。このため、場合によっては施工会社のM&A(企業の合併・買収)を視野に入れ、着実な対応し成果につなげます。

BtoB分野では、当社が保有する土地や再開発エリアの多くにスマートエネルギーネットワークを導入しており、これにより業務効率化、脱炭素、レジリエンス向上を実現しています。デジタル技術を活用した最適化は、不動産価値の向上に寄与します。この分野でも蓄電池や太陽光発電といった商材の拡充を図るとともに、イグニチャーと連携可能な商材を開発、投入することで収益率の向上を図っていきます。

さらに、脱炭素分野ではCO2の見える化などで支援するESG(環境・社会・ガバナンス)経営サービス「サステナブルスター」を展開しています。特に不動産業界での導入事例が多いのですが、他の業界にも広がりつつあり好調です。

井関 小売全面自由化で、供給エリアに多くの競合が参入していますが、これについてはどうお考えですか。

笹山 競合他社とは、ガス単体でも競争していますが、当社としては、ソリューションを含めたトータルの提案力で競争力を高めていく方針です。

現場力の維持は綱渡り状態 事業者の投資予見性確保が重要

【今そこにある危機】壬生守也/電力総連会長

安定供給とGXの両立には、それを担う人材の確保や定着が必要だ。

事業者が「人」への投資を行えるような環境整備が求められる。

安定的なエネルギー供給は国民生活や雇用、経済活動の礎であり、今後の電力需要の増加を見据えれば電力の安定供給はまさに国家の生命線だ。これからは安定供給最優先、エネルギー安全保障の確保が何よりも重要となる。さらにはS+3E(安全性、供給安定性、経済効率性、環境適合性)の原則に基づく国民生活の向上とグリーントランスフォーメーション(GX)を両立する次世代の電力システムを確立しなければならない。

昨年末に大筋了承された第7次エネルギー基本計画(案)の冒頭では「わが国が将来にわたって豊かな国として存続し、全ての国民が希望をもって暮らせる社会を実現するためには、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素を同時に実現していく必要がある」と記されている。ここで言う「エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素を同時に実現」するための力の源泉は、産業・企業などで働く「人」だ。だからこそ、人材の確保・定着や技術基盤の維持・強化、さらには「公正な移行」に向けて、人への投資を行う必要があると考える。

そこで本稿では、電気事業における人への投資、とりわけ人材の確保・定着の課題について詳らかにした上で、その解決に向けた論点を示したい。

安定供給は「人」が支えている


災害対応力に課題 早期退職者が続出

能登半島地震から1年が経った。北陸電力グループのみならず、地元施工事業者や協力会社、全国の旧一般電気事業者らが応援に駆け付けた。発災直後から一刻も早く被災地に電気を届けるべく、停電復旧から後方支援に至るまで、それぞれの持ち場で懸命に作業に取り組んだことは記憶に新しい。

電力産業で働く私たちは災害時だけでなく、平時でも安定供給を守り抜くという使命を全うするため、日々の業務に従事している。しかし電力自由化や発送電分離が実施されて以降、送配電事業の収益性の低さと労働力不足などにより、現場力、施工力の維持は綱渡り状態だ。それに連動する形で、特に自然災害発生時の現場対応力の強度には課題が生じている。

一方、原子力発電所の再稼働が遅れ、固定価格買い取り(FIT)制度の下で進められた再生可能エネルギー大量導入のあおりを受けて発電事業の収益性は低下した。火力電源の退出が進展している。また投資回収の予見性が低下しているため、新規電源建設も停滞。需給ひっ迫や電気料金高騰などの課題が顕在化し、国民生活に多大な影響を与えている。

こうした中、労働力人口の減少や技術・技能を有する者の流出に伴い、電力産業においても人材の確保・定着が困難な状況を迎えている。次代を担う若年層の採用難や早期退職、豊富な知識・経験を持つ高年齢層の退職など、構造的な課題に直面しているのだ。

家電製品の超効率利用へ 独自アルゴリズムで波形分析

【技術革新の扉】機器分離推定技術/インフォメティス

家電の使用状況を推定する技術を確立したインフォメティス。

今年から導入される次世代スマメを活用し、技術の普及を目指す。

私たちが日々何気なく使っている家電製品のどこに効率化の余地があるのかが分かれば、家庭の省エネに大きく貢献できるのではないか―。そんな問題意識から生まれたのがインフォメティスの「NILM」(ニルム)と呼ばれる「機器分離推定技術」だ。人の顔や声の特徴がさまざまであるように、冷蔵庫には冷蔵庫の、電子レンジには電子レンジ特有の電流波形が存在する。同技術は、この性質を家庭内の電力消費の内訳推定に用いる仕組みだ。

家庭内の電力消費の内訳例


波形の組み合わせを模索 AI活用が開発の契機に

具体的には、NILMによって全体の総消費電力(主幹電力)の電流波形を計測・分析し、家庭内で「何が(どの家電が)、いつ(どの時間帯に)、どのくらい(どの程度の時間)」使用されたかを推定する。主幹で測定した波形は、家庭で稼働している各家電の波形を足し合わせたもの。つまり、この波形を再現できる家電の組み合わせを見つけることで、稼働中の家電を推定できるわけだ。

例えば、測定した主幹波形にマッチするのが、掃除機、電子レンジ、暖房機器の波形の組み合わせであると推定できれば、これらが使用された機器であると判断できる。

この波形の組み合わせを行うのが、同社の機器分離推定アルゴリズムだ。電源のオンオフなど各機器の稼働状態の変化パターンを学習し、その変化パターンが実際に起こる確率を計算する仕組み。稼働状況をシミュレートし、事前に制約を設けることで、アルゴリズムの計算コストを抑制。これが、20機種で約100万通りにも及ぶ膨大な各家電の波形組み合わせの推定を可能にした。

同アルゴリズムの開発の発端は、只野太郎社長がソニーに在籍していた時代まで遡る。

ソニーで環境エネルギーに関する新規事業創造に注力していた2009年に、他社のアプローチとは異なるAIの画像・音声認識に類する技術を、家電の電流波形の解析に取り入れたことをきっかけに、研究開発が本格化した。NILMの実用化は、10年以上にわたって、波形データの収集とアルゴリズムの研究を繰り返してきた努力の結晶と言える。

NILMの基本原理を表した概要図

そもそもNILMの研究開発自体は、マサチューセッツ工科大学を中心に、1980年代初期から進められてきた。この約40年間でさまざまなタイプの技術が生み出されてきた中、その全てに共通する課題として挙げられるのが、各機器の電流波形データをどのように取得するかという点だ。使用された機器をどれだけ高精度に推定できたとしても、解析元となる波形データの取得が可能な環境が整っていなければ、能力を発揮できないからだ。NILMの普及促進には、このデータ取得に関わる導入コストの低減が欠かせない―。その中で同社が着目したのが、スマートメーター(スマメ)の活用だ。


送配電事業との連携を強化 スマメデータの利用が鍵

一般送配電事業者が各地に設置したスマメは電力使用量を自動で集計する。只野氏は、「現段階では各家庭の分電盤に設置されたセンサーで取得している波形データを、将来的にはスマメで取得できるようにする。そうすることで、事業者は既存インフラを活用できるため、新たな投資コストがかからない」と説明。その上で、「実際に当社のNILMで必要なデータの粒度はスマメのハードウエアで対応可能な範囲内に収めてある。リアルタイムで稼働機器を推定する性能を保ちつつ、導入コストの低減も実現したのは最大の特徴だ」と同技術への自信をのぞかせた。

スマメ活用の実現に向け、一般送配電事業者の中でも、首都圏を中心に3000万台弱のスマメを導入した東京電力パワーグリッド(東電PG)との連携を強化。18年3月には、ⅠoTプラットフォームサービスの提供などを行うエナジーゲートウェイを共同設立した。今年から導入される次世代スマメの取得データの活用を見据えるインフォメティスにとって、東電PGとの強固なアライアンスが持つ意味は大きい。

NILMが普及し、最適なエネルギーマネジメントを体現した社会の到来は、そう遠くないのかもしれない。

【鈴木英敬 自民党 衆議院議員】何よりも安定供給が重要

すずき・えいけい 1974年生まれ。兵庫県出身。98年東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。2009年衆院選で旧三重2区から自民党公認で出馬するも落選。11年当時全国最年少で三重県知事就任。21年に辞職し衆院選(三重4区)で初当選、現在2期目。

経済産業省で電力政策などに携わった後、当時最年少の36歳で三重県知事に就任した。

原子力から再エネまでエネルギー政策への思い入れは強く、政策実現に向けて奔走する。

兵庫県西宮市出身。阪神甲子園球場が校区内にある市立南甲子園小学校に通った。当時から「頭から足、血液までもが〝縦じま〟」と豪語する大の阪神ファン。一人っ子で両親は共働き。誰かに構ってもらいたい目立ちたがり屋だった。当時はテレビ番組「オレたちひょうきん族」で明石家さんまが人気を博していた。落語クラブに所属し、黒い服を着て「すずき家まるこげ」という名前で周囲を笑わせていた。

高学年になると、政界では中曽根康弘首相が米国のレーガン大統領、英国のサッチャー首相と蜜月関係を築いていた。「政治家になったらたくさんテレビに出られるんかな」と興味を抱くようになった。漫画『サンクチュアリ』や『加治隆介の議』からも影響を受けた。その後、灘中学・高校に進学し生徒会長を務めたが、校内では勉強ができる方ではなく、一浪して東京大学に進学した。

就職活動時、政治家になるための進路選択という考え方は全くしなかった。民間企業やさまざまな省庁の官僚と面談を重ねる中で、魅力的な人が多いと感じた通商産業省(現経済産業省)への入省を決めた。「生徒会長の経験などから振り返ると、お金儲けよりはみんなや社会のために働きたいという気持ちがあったのではないか」

経産省時代から電力との関係は深い。小売自由化、特定規模電気事業者制度に携わり、原発比率4割を掲げて2006年に策定した原子力立国計画では、バックエンドの税制や会計を担当した。「電力事業には並々ならぬ思い入れがある」。中部電力の林欣吾社長など電力会社幹部とはこの頃からの付き合いだ。

政治との距離が近付いたのは小泉純一郎政権時代。構造改革特区の立案を担い、自治体に宣伝に出向いた。当時の名刺には「年中無休24時間」と記し、営業マンさながら全国を飛び回った。「自分の言葉で人や社会が動く面白さを感じた」。その後、第1次安倍晋三政権では官邸スタッフに。安倍元首相からは思想や政策など多くの面で薫陶を受け、「政治家・鈴木英敬の生みの親」となった。

政権交代が実現する09年の衆議院選挙に旧三重2区から出馬したが、逆風には抗えず落選。借金を抱えるなど苦労するも、「当時は改革派官僚ともてはやされていたし、もし当選していたら調子に乗っていたに違いない。落選の挫折がその後の政治家人生の糧となった」と振り返る。その後、11年の三重県知事選に出馬するが、国政を目指してきた中で立候補には悩みもあった。相談した安倍氏から「英敬くんは30代で政治家にならなきゃ」と背中を押され、出馬を決意。結果として、当時は全国最年少の36歳で三重県知事に就任した。「大きな組織のトップとして、さまざまな決断や議会・県民に対しての説明、マネジメントといった経験をした人は国会議員でも数少ない。紀伊半島大水害や新型コロナでは危機管理も経験した」。21年、3期目で知事を辞職し、三重4区から衆院選に出馬。初当選を果たし、現在2期目だ。

【コラム/2月26日】米エネルギー長官が「ネット・ゼロは邪悪」 その真意やいかに

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 


シェールガス採掘企業の社長を務めたクリス・ライトが、米国エネルギー省長官に就任した。
環境団体は猛烈に批判をしている。シエラクラブのベン・ジェラスはライトを「われわれの未来と地球にとって直接的な脅威」と呼んだ。エバーグリーン・アクションのレナ・モフィットはライトを「気候危機を否定する化石燃料企業の重役」と表現した。NRDC(自然資源防衛協議会)のジャッキー・ウォンは「気候変動による災害の壊滅的な影響」を招くとして反対した。そして、サンライズ・ムーブメントの複数の抗議者が、エネルギー長官への指名に関する議会公聴会において、「気候危機は既にここにある」と不規則発言をして警官によって退場させられた。

だが実際のところ、ライトが言っていることは極めてまっとうだ。
ライトの主張は、彼が率いてきたリバティ・エナジー社の100ページを超える部厚い報告書に、もっとも詳しくまとめられている。
その内容は、

① CO2濃度は増えている。これは化石燃料が主な理由である。またその影響で、世界の気温
  も上昇しており、海面も上昇している。
② ただし災害の激甚化などはまったく起きていない。
③ 化石燃料を利用することの人類への便益はきわめて大きい。

といったことである。これはいずれも事実であり、以前ヘリテージ財団の報告書を紹介したように、米国共和党の人々が共通認識としていることばかりだ。

前述の議会公聴会では、上記の①のことを指して「気候変動は現実の問題である」と発言し、このことが報道された。だがライトは決して「気候が危機にある」といった説を信じているわけではない。科学的な事実として①を認めているだけだ。そしてライトにとっては②、③が重要なのだ。

化石燃料、原子力、再生可能エネルギーの全てを開発し、安価で豊富なエネルギー供給をすることが善だとしている。そして、急進的な脱炭素には明確に反対している。


長官就任挨拶で強調 「米国はドイツの轍踏まず」

エネルギー長官への就任にあたっての職員への演説においては、急進的な脱炭素を進めたドイツのエネルギー政策を明確に批判し、米国はその轍は踏まない、と断言している。やや長いが、訳出しよう。

“ドイツは、技術・産業において驚異的な力を誇る国です。しかし、15年ほど前にエネルギーシステムを変更すると決定しました。エネルギー転換(Energiewendeです。

彼らは約0.5兆ドルを費やしました。ドイツの経済は米国の10分の1ですから、米国であれば5兆ドルを費やしたことに相当します。こんなことをすれば、わが国がどれほど貧しくなっていたか、あるいは、5兆ドルを他に何に使えたか、考えてもみてください。

ドイツは5兆ドルで何を手に入れたのでしょうか? 現在、ドイツでは風力タービンを見ない場所を探す方が難しいほどです。 つまり、彼らは畑、海岸、そして海上にまで風力タービンを設置し、至る所にソーラーパネルを設置しているのです。 欧州の北部は冬は曇りがちで寒いですが、そこにもソーラーパネルが敷き詰められています。

しかし、それで何が起きたでしょうか? ドイツの電気料金はほぼ3倍になりました。考えてみてください。もしあなたがその国に住んでいるなら、暖房費を払わなければなりません。あなたが何をするにも、その費用を支払わなければなりません。そして、その基本的な生活必需品の価格は、15年前の3倍になりました。これは米国の2倍以上になっています。

2010年には100GW(1GW=100万kW)強だった発電容量が、240GWの発電容量にまで増加しました。発電容量の増強だけでなく、送電などのインフラ構築にも多額の費用がかかっています。

では発電容量が2倍以上に増加して、15年前の比較で、現在ではどれだけの発電をしているのでしょうか? 驚くべきことに、20%も減少しています。3倍も高価になった一方で、システム全体で生産される電力は20%減少しました。

これは何を意味するのでしょうか? 直接的な因果関係があるわけではありませんが、ドイツの工業生産も、この間、およそ20%減少しました。世界の工業大国ドイツが、その工業力を失いつつあります。石油化学産業はまずドイツから米国、そしてアジアへと移転しました。 エネルギーが高価で信頼性が低いと、誰もが少しずつ貧しい生活を強いられ、自国での製造は難しくなります。そうなるとどうなると思いますか? 製造はどこか他の場所に移転するだけです。なくなるわけではなく、ただドイツでは製造されなくなるだけです。アジアや米国で製造され、船に積み込まれてドイツに送り返されるのです。

この2年間、ドイツの経済成長はゼロでした。さて、いまAI革命の時代ですが、この革命が、ドイツでどれほど起こると思いますか? 知的な能力はありますが、ほとんどドイツでは起こらないでしょう。

彼らが変えようとしたのは何だったのでしょうか? エネルギーシステムを炭化水素に支配されたものから新しいエネルギー技術に変えようとしたのです。 2010年には、ドイツの一次エネルギー総供給量の80%が化石燃料でした。 現在では、0.5兆ドルを費やし、エネルギー価格を3倍にして、国民は貧困化し、産業が縮小した結果、化石燃料の割合は80%から74%に低下しました。

このことからも、エネルギーシステムを変えることがどれほど難しいかがお分かりいただけるでしょう。難しいのです。もし、高価で信頼性が低く、雇用を海外に輸出するようなモデルを構築しようとするなら、どうなると思いますか? 誰もそんなモデルには従わないでしょう。

米国でそんな実験を繰り返すつもりはありません。私たちのエネルギーシステムを本当に変えることができる唯一の方法は、手頃な価格で信頼性が高く、安全で、人々の生活をより良くするエネルギー源を手に入れることだけです。そして、それは可能です。

日本のエネルギー政策関係者にぜひよく聞いて欲しい内容だ。


より道徳的で達成可能 「50年エネルギー貧困ゼロ」提唱

日本はいまグリーントランスフォーメーション(GX)にまい進しているが、これはドイツの轍を踏むことになるのではなかろうか? 

最後に、ライトの思想が端的に現れている、前述の報告書の「結論」部分を抜粋しよう。

“多くの社会では、市民が健康で豊かな生活を送るためのエネルギーが利用できないのが現状です。一方で、産業が海外にアウトソーシングされ、気候変動に関する明らかな便益がほとんどないにもかかわらず生活水準が低下するなど、既存のエネルギーシステムはこれまでにないほど弱体化しています。トレードオフを明確に評価することなく、エネルギーシステムを政治的に変更すべきではありません。

課題に対応できない既存の技術に多額の補助金を与えるのではなく、エネルギー研究と技術革新を大幅に増やすことで世界は恩恵を受けるでしょう。全面的な技術革新こそが、より多くのエネルギーとより優れたエネルギー、すなわち排出量がより少なく、より手頃な価格のエネルギーへの唯一の道なのです。これには時間と協調的な努力が必要です。人為的な緊急性やスケジュールは逆効果です。2050年ネットゼロという世界的なスローガンは再評価され、より人間味があり達成可能な目標、すなわち2050年エネルギー貧困ゼロに置き換えられるべきです。”

ライトはネットゼロという目標は邪悪だと発言して批判を浴びている。だが、ライトが言っていることは、ネットゼロは技術的に困難なだけではなく、道徳的にも誤った目標だ、ということだ。筆者も、50年エネルギー貧困ゼロという目標に同意する。全ての人に、安価なエネルギーを供給するという目標こそ、道徳に適うのではないか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。

指摘されるDX・GXの新局面 どうなる日本の電力需要

【多事争論】話題:日本の電力需要の将来展望

電力需要急増の可能性があちこちで聞かれるが、果たして将来をどう展望すべきか。

エネルギー基本計画の議論でシナリオ分析を行った2機関の専門家の意見を紹介する。


〈 さまざまな不確実性が存在 いずれも価格動向と密接に関係 〉

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構「RITE」主席研究員

日本では2010年頃を境に電力消費量は低下傾向となった。省エネルギーの進展が一因ではあるが、より大きな要因は、電力多消費産業の途上国への移転である。他方、最近になってデータセンター(DC)や半導体工場需要など、IT関連の需要の伸びが顕著である。電力広域的運営推進機関が昨年1月に取りまとめた今後10年の電力需要の想定では、10年前後から続いてきた低下トレンドとは異なって上昇に転じる見通しが示された。

日本の電力需要の上昇要因としては、所得効果、世帯数の増大、気候変動要因による夏季の電力需要の増大、デジタル化による電力需要の増大、CO2排出削減対策に伴う電化の促進などがある。他方、減少要因としては、人口の低下、気候変動要因による冬季の電力需要の低下、海外との相対的な労働生産性低下によって電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、CO2排出削減対策に伴う海外との相対的なエネルギー価格差の増大で電力多消費産業が海外にシフトすることによる需要低下、などが挙げられる。これらが複合的な要因となりつつ、結果としては10年前後までは需要は大きく上昇、その後低下してきた。

今後の需要には大きな不確実性がある。主には、①生成AIを中心としたIT関連需要の増大の程度、②電化の促進の程度、③CO2排出削減対策に伴う海外への電力多消費産業の移転の程度―と見ている。①、②は需要増大要因、③は減少要因である。しかしいずれの要因についても、海外との相対的な価格を含む、電力価格の展望とも密接に関係している。

計算インスタンスは、今後も劇的に増大していくだろう。従来は、省電力を実現する技術進展が見られ、電力需要の増大はそれほど大きくはなかった。今後も過去と同様の省電力効果が続くとする見方と、省電力効果は飽和するとの見方の双方が、以前から存在している。ところが、ここにきて生成AI需要によって、足元でさえも電力需要増が見られる。計算インスタンスが激増するため、仮に省電力効果が続いたとしても相応の需要の伸びが予想されてきている。技術見通しは不確実性が大きく、明確な見通しを持つことは難しい。しかし、従来とは異なった大きな上昇要因が加わってきたことを認識する必要がある。


想定により50年横ばいから30%増まで 在り方誤れば相対価格上昇へ

潜在的には大きなIT需要が存在したとしても、電力価格が高ければ経済的に成立せず、需要が伸びない可能性もある。また、海外と比べ相対的に電力価格が高い状況になれば、DCなどの一部もしくは多くの立地が海外で進むこととなり、国内の電力需要はそれほど伸びない可能性もある。

電化の流れは間違いなく続くが、CO2排出削減に対応して急速に電化率を高める必要があるのは、日本では75%程度を上回る排出削減領域と見ている。50年カーボンニュートラルの公式目標が実現される場合はかなり電化率が高まるが、費用負担の大きさ、海外との相対価格の上昇の回避という点で、実際にどの程度まで排出削減を進められるかは、国内の気候変動・エネルギー政策だけではなく、海外の政策にもよる。そして、これがまた電力多消費産業の海外移転に大きく効いてくる。今般、政府は40年度の排出削減目標を13年度比で73%減とし、この領域では劇的に電化率を高める経済的合理性は大きくない。CO2排出削減により誘発される追加的な電化は40年以降の電力需要への影響が大きい。

RITEのモデル分析では、世界1・5℃未満、そして日本は50年実質排出ゼロを実現するという前提で、技術進展が順調という想定の下では、海外との相対価格は大きく広がらないため、40年の電力需要は17%上昇、50年では②の効果も強まって30%程度の上昇と推計している。他方、世界での排出削減の協調がない中、日本が50年実質排出ゼロを実現しようとすれば、③の効果が強く働き過ぎて、電力需要は50年に向けて横ばい程度に留まると見ている。実質排出ゼロに拘らず、世界協調を優先しつつ排出削減を進めるシナリオ(40年60%減程度)では、40年7%、50年18%程度の上昇と見ている。政策を誤らなければ、保守的に見てもこの程度の電力需要は実現されるとみられる。

供給と需要は一体であり、電力供給の在り方を誤れば、電力の相対価格が上がり需要は低位になる。高位の電力需要とそれに伴う経済成長と電力の安定供給のためには、需要が上昇する予見性の高い、供給側も併せた政策が必要である。

あきもと・けいご 横国大工学研究科博士課程(後期)修了、博士。RITEシステム研究グループリーダー・主席研究員。東京科学大学総合研究院特任教授兼務。エネルギー、気候変動政策関連の多数の政府審議会委員も務める。

【需要家】コスト指標なく 現実路線迫られるエネ基

【業界スクランブル/需要家】

第7次エネ基の案では、「原発依存度の可能な限りの低減」が削除、「再生エネか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再エネと原子力をともに最大限活用していくことが極めて重要」とされ、原子力政策の方向転換が注目された。本文にある通り、原発の再稼働が進展しているエリアの電気料金が他エリア比で最大3割安いという現実を見れば、電力需要家として歓迎すべきものだ。

前書きでは、欧米の野心的な脱炭素目標が現実と乖離し始め、「経済性と安定供給との間でバランスを取る現実路線への転換」が始まっていると指摘。「わが国が産業を自国に維持・確保し経済成長できるかは、脱炭素電源を十分確保できるかにかかっている」とし、「わが国の産業立地競争力の観点からは、国際的に遜色のない価格で安定した品質のエネルギー供給が不可欠」とされていて、これも歓迎だ。

しかし、エネルギー政策が日本の産業を海外に押し出し、国民に窮乏生活を強いて脱炭素化を進めることがないようにするために不可欠である、「国際的に遜色のない価格」の具体的指標、それを実現する施策は残念ながら明記されていない。エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素の同時実現を追求する同計画であるが、現状はこれらの間にトレードオフの関係がある。脱炭素によるエネルギーコストアップが本文中でも指摘される中、その対策は「経済効率性の向上を行うことが不可欠な視点」と軽く触れるだけでは不十分であり、国際競争力を維持するエネルギー・電力価格の設定と、その実現を目指す「現実路線への転換」が日本にも必要となろう。(T)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年2月号)

エネ基策定の意義/電力自由化の当初の狙い

Q エネルギー基本計画は、どのような目的で策定されたのでしょうか。

A エネ基は、2002年6月に成立した「エネルギー政策基本法」を根拠法としています。その12条には「政府は、エネルギーの需給に関する施策の長期的、総合的かつ計画的な推進を図るため、エネルギーの需給に関する基本的な計画(以下『エネ基』)を定めなければならない」とあります。つまり、エネ基を知るには、基本法の立法趣旨を理解しなければなりません。それは、2条(安定供給確保)と3条(環境適合)、そして4条(市場原理の活用)であり、5条で国は、2~4条に定めるエネルギー需給に関する施策について、総合的に策定し実施する責務を有する、として国の役割を明示しています。

それ故のエネ基ですが、2条2項と4条には重要な立法趣旨が読み取れます。2条2項とは「他のエネルギーによる代替又は貯蔵が著しく困難であるエネルギーの供給については、特にその信頼性及び安定性が確保されるよう施策が講じられなければならない」。つまり電力は安定供給が第一義という趣旨であり、市場原理の活用をうたう4条でも「2条・3条の政策目的を十分考慮しつつ、事業者の自主性及び創造性が十分に発揮され、エネルギー需要者の利益が十分に確保されることを旨として、規制緩和等の施策が推進されなければならない」として、安定供給と環境適合性が前提であることがうたわれているわけです。

基本法は故加納時男参議院議員が中心となって起草した議員立法でした。その後、福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、安全性を大前提としましたが、その立法趣旨は不変です。この趣旨を着実に追求すれば、エネ基の電源比率などの目標は自ずと定まっていくと思います。

回答者:市村 健/エナジープールジャパン代表取締役社長兼CEO


Q 電力自由化は、そもそも何のために実施されたのでしょうか。

A 1983年の臨時行政調査会最終答申には、エネルギーについて、「民間の活力を生かすことを原則とし、公的部門が行う施策は(中略)効率的・整合的なものとする」と書かれています。臨調は、行政改革の文脈で検討されたものであり、高度経済成長期が終焉した日本において、行財政の肥大化への課題意識から、規制産業であるエネルギーにおける公的な規制・施策を縮小すべきとされたことになります。

80年代から90年代にかけては、欧米で新自由主義的な政権が誕生し、エネルギーや通信、運輸などの公益産業の規制緩和が進展しました。日本の電力産業においても、高コスト構造や内外価格差を是正し「国際的にそん色のないコスト水準」を実現するために、競争原理を導入(自由化)することとなりました。

つまり、電力自由化の当初の目的は「日本の電気代を安くすること」であったと言えます。

ただ、電力は国民生活に不可欠な財であるため、自由化の検討は安定供給や環境への適合といった「公益的課題」との両立を前提とすることとなりました。エネルギー政策の基本である3E(供給安定性、経済合理性、環境適合性)について、安定供給と環境適合を制約条件に経済性を最大化することが、95年から数次にわたった電気事業制度改革の目的意識であると言えます。

その後、東日本大震災後の第5次制度改革である電力システム改革においては、事業の環境変化を踏まえて、安定供給の確保、電気料金の抑制、需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大という三点が主な目的とされ、現在もその実現に向けた制度改革が進められています。

回答者:桑原鉄也/KPMGコンサルティングEnergyセクターリードスペシャリスト

【再エネ】安保上のメリット享受へ 海外依存からの脱却を

【業界スクランブル/再エネ】

第7次エネ基の素案では、2040年における自然エネルギー4~5割の目標が示された。原子力が従来同様の2割とすると非化石電源の目標は6~7割となるが、同時に公開された地球温暖化対策計画の素案で40年度に13年度比73%の温室効果ガス削減を目指すこととされている。原子力の再稼働はいまだ安全対策上の問題がクリアされておらず予定よりも遅れる可能性が高い中で、これら目標達成にさらなる再エネの導入が求められることは言うまでもないだろう。

こうした背景をもとに政府が積極的に導入を支援する再エネだが、今や中国は世界最大級の太陽光パネルおよび風力タービンの市場となっているように、ほとんどの再エネ設備が海外製だ。特に中国製の再エネはコスト競争力が高く普及に寄与している一方で、国が大規模に行う再エネ支援が必ずしも国内産業の活性化につながらないというパラドックスを抱えている。そもそも再エネは自然に存在するエネルギーを活用する国産電源としての一面も評価されてきた。これら設備が中国や欧州といった特定のエリアの製造に依存するとなると、エネルギー安全保障の観点での再エネのメリットが享受できないことにならないか。

逆に、国内の再エネ供給モデルを構築できれば、再エネが外貨市場の価格に左右されずに国内産業の技術力・競争力の向上効果が期待できる。政府はペロブスカイトなど高効率ソーラーパネルを早期に国内製造する目標を掲げているが、これにとどまらずメンテナンスやリサイクルも含む国内再エネサービス産業の創出に本腰を入れるタイミングではないだろうか。(K)

価値創造の地盤を築く太陽光開発 大量保有で長期安定供給を目指す

【エネルギービジネスのリーダー達】上野嘉郎/エネグローバル執行役員事業開発部部長

本社が所在する茨城県を拠点に、太陽光発電所の開発と運営を手掛ける。

1GW保有を目指し、営農型太陽光の展開など新たな可能性を模索する。

うえの・よしろう 1989年宮城県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、複数の会社を経験。エネグローバルの初期メンバーとして2017年に入社し、太陽光発電所の事業開発を推進。21年から現職。

「再生可能エネルギーは供給量で貢献しなければならない」

こう語るのは、北関東で太陽光発電所の開発事業を手掛けるエネグローバルの上野嘉郎執行役員だ。同社の目標は2030年までに100万kWを開発すること。再エネを長期的に安定供給するには「GW単位の保有」が最低ラインと上野氏は強調する。直近では営農型太陽光の開発に注力するなど、新たな可能性を模索しながら、目標達成への道を歩んでいる。


コストと効率性を重視 本社周辺で事業を展開

同社は2014年11月の設立以降、本社が所在する茨城県を中心に、出力500~2000kWの高圧領域で開発を進めてきた。建設した発電所の案件数は約200件に上る。

FIT(固定価格買い取り)やFIP(市場連動価格買い取り)を活用した売電やオフサイトPPA(電力供給契約)を結ぶビジネスモデルを確立。小売電気事業者やアグリゲーターに加え、三井物産などの総合商社とも実績を積み重ねてきた。
太陽光の企画、設計、施工、保守・管理までを一貫して手掛けられるのが強み。コストと効率性を追求する事業スタイルだ。

17年に入社し、同社の成長を支えてきた上野氏は「本社を中心に車で二時間以内の地域で開発してきた」と、リソースを本社周辺に集中させ、現場主義に徹することを心掛けてきたことを強調する。

これまで、年間3万kW以上のペースで開発を進め、昨年11月時点で、同社が稼働させている発電所は約19万5000kWに達した。今後は、開発エリアの拡大を視野に、埼玉や群馬、千葉など、他の関東エリアのほか、福島や宮城などの東北への進出を検討中だ。

同社が近年、注力しているのが、営農型太陽光の開発事業。背景には、制度変更により山林開発が制限されてきたことがある。李力欧代表取締役とともに、「これからは営農型の時代だ」と、22年に営農法人「EGファーム」を設立し、23年に本格的に始動した。
EGファームでは里芋やジャガイモなどを栽培している。「営農型太陽光を開発するためのごまかしの栽培ではなく、本格的な農業に挑戦している」と農業への熱意も見せる。

代表取締役には、元農家のエネグローバル社員を登用。農機具には2000万円以上を投資し、農業の知見を持つ人材を積極的に採用している。

こうした努力の背景には、設立後に実施した農業業界へのヒアリングがある。営農型太陽光に対する厳しい評価を聞き、同業界に認められる存在になる必要性を痛感した。

「太陽光と農業を別々に考えるのではなく、新しい事業体として両立させることが重要だ」

エネグローバルが自社開発・運営にこだわる理由は、李氏の経営理念にある。

価値創造の原点は事業開発にあり、0から1を作り出すことが重要だ。1がなければ何も始まらない。われわれは0から1に特化する―というのが、李氏が創業時から掲げ続けるポリシー。上野氏がエネルギー業界への扉を叩いたのも、この理念に共感したからだ。


やりがい求め企業を転々 李氏との出会いが転機に

上野氏は大学卒業後、エネグローバル入社前に民間2社を経験するが、やりがいを見いだせず、いずれも3年未満で退職。その後、大学時代から熱中していたバンド活動に3年ほど取り組むも解散した。

「音楽は好きだったが、誰かのためになることがしたかった」と20代半ばに自分の進むべき道を真剣に考えるようになった。

解散後は自分探しのために、青年海外協力隊に応募。書類選考も順調に進み、面接が決まったタイミングで父親から、家族ぐるみで親交のある李氏との会食に誘われた。

「上野君、アフリカに行くよりもつくば(茨城県)で一緒に面白いことをしてみないか」
この言葉が印象に残り、数カ月後には入社していた。

それから月日が経ち、今年で入社8年目を迎える。エネルギー業界の変化を肌で感じながら、再エネの重要性を実感し、直面する課題に挑み続けている。

今後の挑戦として見据えるのは、FIT調達期間終了後に手放された太陽光設備を維持する体制を整えること。FIT以外にノウハウを持たない事業者は、調達期間終了後、事業を撤退し、発電所を撤去あるいは放置する可能性がある。「打ち捨てられる発電所をリパワリングし、長期的に活用できる仕組みを作りたい」と展望を語る。

政府が掲げる50年カーボンニュートラルの達成には、さらなる再エネの推進が不可欠だ。新規開発、そして既存設備の活用の両輪でそれに貢献していく。

【火力】エネ基議論に積み残し 具体策欠く火力活用

【業界スクランブル/火力】

第7次エネ基は、昨年末に原案が示され今月中にも閣議決定される予定となっている。野心的目標という点が際立っていた前回と比較し、バランスを重視し、より現実解に近づいたものになったとされており、事業者からも原子力の復権や予見性確保の必要性などが明記された内容に歓迎の声が聞かれるが、果たしてどうだろうか。

エネ基の議論は昨年5月から13回の会合が重ねられ、その上で原案が示されたわけだが、その間に多数の関係団体からヒアリングが行われ多くの情報を集めた。ただ、意見を聞くばかりで、具体的な議論があまり交わされなかったように見受けられる。

国内外の政治状況を鑑みればやむを得なかったとも言えるが、そうだとすると閣議決定がゴールではなく、積み残している実行プランを検討するスタート地点にようやく立ったばかりと、肝に銘じてもらいたい。

火力については、安定供給確保のための役割とトランジションの必要性が明記されたのは大きな前進だが、個々の文脈では矛盾した内容も多い。非効率な石炭火力のフェードアウトという文言が5回も出てくる一方、石炭火力の安定供給は引き続き重要という記載もある。しかるに、高効率石炭火力の扱いや石炭利用における脱炭素化の道筋については、ほぼ触れられていない。LNG火力についても推して知るべしである。

エネ基では、将来の不確実性への対応として複数のシナリオが示されたが、その変動を補う役割は火力が担うことになる。時間軸も意識した火力活用の具体策を詰めることが無ければ、画竜点睛を欠くことになるだろう。(N)

消費者が求める価値を追求 地域の輪の中心で発展サポート

【事業者探訪】青梅ガス

人口減少社会に突入する中、人々が地域に留まり続けるために何をすべきか―。

青梅ガスは「地域密着」から一歩踏み込み、多角的に地域作りをサポートする考えだ。

都心から西に約50㎞に位置する東京都青梅市。都内でありながら御岳の山や渓谷の四季折々の姿が魅力だ。他方、二次産業の割合が大きくハイテク産業が多く立地するという顔も持つ。この地で、青梅ガスは家庭向けの都市ガス供給を主力に60年間事業を営んできた。都市ガスは市内平坦部を中心に2・3万件に年間1600万㎥程度を供給し、家庭用が約4割。LPガスは2300件程度で家庭用の他、多くの特別養護老人ホームにも供給している。

市の計画づくりにも関わる中村社長

現社長の中村洋介氏はNECに20年勤めた後、関係者に請われ2003年に就任。「社長になるつもりはなかったが、とある講演で『同じ仕事をしているとどんなに優秀な人も20年で燃え尽きる』との言葉を聞き、決意した」と振り返る。自身は青梅に住み都心に通ったが、それは少数派だ。13万人弱の人口の流出を食い止め、地域で仕事ができる環境を促すことが、長い目で見て自社の利益にもなると考える。その点、地域のハイテク産業のエネルギー需要は電気が主で、ガスの供給拡大には直結しないものの、元気な企業の存在はアドバンテージになる。

一方、電力は家庭向けを中心に2500件ほどで、いち早く15年4月にスタートさせた。電力小売全面自由化が見え始めた頃から参入は不可欠と考えたが、ガスの卸元であるINPEXは電源を持っていない。そこで中村氏は、旧一般電気事業者で自由な社風が感じられた中部電力に協力を打診した。最終的にはINPEXを巻き込み、首都圏のガス事業者に電力を卸供給するスキームが出来上がった。中部子会社のダイヤモンドパワーのバランシンググループに入り、数年前の価格高騰時も大きな打撃を受けずに済んだという。


「地域密着」の在り方模索 CNの影響力を実感

ここ数年はカーボンニュートラル(CN)の波が押し寄せ、「環境に優しい都市ガス」とうたえず、社員には忸怩たる思いがある。今後の経営ビジョンをどう位置付け、単なる「地域密着」でなく具体的に何をすべきか―。社員のアイデアを募り、22年にその答えを示した。『個と個をつなげ、輪と成す』。青梅の人々がともに支え合い輪を成すような地域を目指し、そこに同社が寄り添い続ける、という絵姿だ。「単にスローガンを掲げるだけでなく、ある社員のお客さまとの実際のやり取りをストーリー仕立てにし、意識の共有を図っている」(中村氏)

コンサルの助言を踏まえガス展を見直した

他方でCNの威力を肌で感じた場面も。同社の提案で、電子部品大手の太陽誘電の子会社が23年、2000kWのコージェネレーションシステムを導入したのだ。同社は、企業がパリ協定に合致した目標を設定するSBTに取り組んでおり、30年に向けた現実的な計画としてコージェネの活用を選択した。

「以前はメーカーなどにコージェネのバックアップ機能をアピールしてもなかなか導入されなかったが、今やCNを目指すグローバル企業にとっては必要な投資だ」と実感する。30年以降については、オフセットガスやe―メタンなど、複数の選択肢を訴求していくという。

また、市のゼロカーボンに向け、INPEXとの3者で協定を締結した。脱炭素に加え、災害に強く、活気ある地域づくりも連携事項としており、多角的に市の計画作りをサポートする。

【原子力】新増設なく目標達成可能も 求められる規模拡大

【業界スクランブル/原子力】

エネ基の改定に伴い、2040年度のエネルギー需給見通しが公表された。温室効果ガス(GHG)排出量の13年比73%減を念頭に、五つのシナリオから、電力供給については再エネ4~5割程度、火力3~4割程度とし、原子力は2割を担うべきとされ、シナリオごとの電力需要の違いで幅はあるが、2100億~2400億kW時の貢献が求められた。

これを発電する原子力の設備規模は利用率に依存しておおむね3000万~4000万kWで、廃炉していない既設炉の全てと建設中の3基の合計3700万kWとほぼ一致する。40年に60年目を超える原子炉が4基あるが、福島事故後の停止期間を除外すれば40年の稼働が可能だ。

つまり、現在建設中の3基以外の新増設に期待しなくても原子力の40年目標は実現でき、そのためにも「原発依存度を可能な限り低減する」という文言は消された。

一方、原子力以外では革新技術によるコストダウンで再エネが4800億~5800億kW時を発電、水素供給が0・2億㎘(石油換算)、CO2回収が0・6億~1・2億tで、GHG排出削減コストは毎年10兆円前後としたが、これを産業界と国民が負担可能だろうか。コストダウンが現状技術の延長上にとどまる場合には、GHG排出の85%を占めるエネルギー起源CO2排出が56%しか減らないとするシナリオもあり、本来ならば原子力の大幅な規模拡大が必要である。

それにもかかわらず、新聞各紙の論調は原子力が脱炭素とコスト抑制に貢献することに触れず、「可能な限り低減」を消したとの批判的な見出しが踊るばかりである。(H)

友が問う大学教育の真価 自由に生きるための知とは

【リレーコラム】吉田善章/核融合科学研究所所長

「あなたのは、官製学問というのですよ」

敬愛する友であり、さまざまな事を教えてもらった先輩でもある社会学者の似田貝香門氏から言われた言葉を思い出す。

大学という権威をバックに、カリキュラム体系の中で、単位認定という教師と学生の間の契約関係に基づいて、学生たちは小難しい話を聞いている。講義の目的は専門技術の伝授であり、大学は国家に役立つ人材を生産するシステムである。こうした大学教育のあり様を憂いての指摘だったと思う。

「辻説法をやって聞いてもらえるか? それで学問の真価が問われる」―。なるほど、文学部の先生はそういうところに賭けているのかと感心した。最近では、アウトリーチの重要性が指摘され、サイエンスカフェなどもしきりに行われるようになった。だが、居心地の良い空間で、コーヒーの香りを楽しみながらサイエンスの面白さを語る、というプチ・ブルジョア的な情景と、寒風にさらされながら辻に立って説法する、というモノクロが似合いそうなシーンでは、気迫の違いというものがある。

プロの研究者を大量に生み出すシステムが出来上がってきたのは、ちょうど、マックス・ウェーバーが『職業としての科学』を著した20世紀初頭のようだ。本のテーマは、先述の学問論のアンチテーゼのように見えるが、当時のドイツの時代背景に思いを致しつつ、書かれている内容を読み込むと、わが国で一足早く、福沢諭吉が『学問のすすめ』に記したことと重なる。


人の心に響く「辻説法」のごとく

「一身独立して一国独立す」とは、リベラル・アーツ「自由に生きるための知の技法」のすすめだ。大学に学ぶ人たちは(学生のみならず、教師も一生をかけて学び続ける)、「一身」とともに「社会」の独立、すなわちさまざまな制限、干渉、圧力からの自由を求めて知の技法を磨こうとしている。大学の講義は、単に専門技術の伝授といった職業訓練ではなく、「戦って獲得すべき自由」というエスプリを持った説法でありたい。それは「楽しい科学」というものとも少し違う、もっと生活者としての人の心に響く「辻説法」のごときものだと、似田貝氏は言いたかったのではないかと思う。彼が亡くなって2年ほど経つが、友の言葉は深く心に残っている。

私も今年、大学および研究所という所属機関を離れるべき時を迎える。さすがに辻説法に出かける勇気はないが、残りの時間を何らかの仕方でリベラル・アーツ教育に捧げたいと思う。

よしだ・ぜんしょう 1985年東京大学大学院工学系研究科原子力工学専攻・博士課程修了(工学博士)。東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授を経て、2021年核融合科学研究所・所長。

次回は、理化学研究所計算科学研究センターの伊藤伸泰さんです。

【コラム/2月21日】物価上昇超え賃上げを再考する~楽しい日本になるために

飯倉 穣/エコノミスト

1、遅ればせながら~デフレ脱却インフレ認識

2025年の国際経済は、対中加墨トランプ関税の話題から始まった。実行は、経済縮小と当事国の物価上昇危惧である。日米首脳会談もあった。引き続き日本経済への注文も気になる。国内経済は、21世紀に入り24年間経済政策を支配し続けた所謂「デフレ」認識で、風向きが変わった。遅ればせの日銀の追加利上げがあった(25年1月24日)。その後報道があった。「日銀の植田和男総裁は4日の衆院予算委員会で・・昨年も話した通り、現在はデフレではなくインフレの状態にあるという認識に変わりはないと述べた」(日経com同2月4日)。「今の物価上昇について、赤澤経済再生担当大臣は「経済学的に言えば、インフレの状態というのはそのとおりで、植田総裁の認識と特にそごはない」と述べました」(NHK同5日)。

四半世紀経て公式見解(?)もデフレから漸く脱したようである。その要因が気に懸かる。輸入物価かコストプッシュかそれとも他か。日銀は「既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響は減衰してきているものの、賃金上昇等を受けたサービス価格の緩やかな上昇“へ”(経済・物価情勢の展望 2025年1月)」と述べている。

この認識を前提とすれば、公正取引委員会の強権や下請法改正の趣旨にある物価を上回る賃上げや国を挙げての価格転嫁推進は妥当だろうか。過去のデフレ認識の経緯を見ながら、物価上昇超え賃上げの意味を再び考える。


2、デフレ宣言(2001年)の政治的継続

平成バブル崩壊後の90年代経済調整を経て、2000年ITバブル崩壊があり、企業収益低下と株価下落があった。マイナス成長転換となる。内閣府は「デフレ」定義を物価下落(2年以上)に伴う景気後退とした。そして「持続的な物価下落をデフレと定義すると、現在日本経済は緩やかなデフレにある」と述べた(月例経済報告01年3月16日)。その後07年まで米国サブプライムバブル・輸出好調等で経済は回復した。06年内閣府は「物価指標の動向をみると、90年代末から日本経済において顕在化した物価が持続的に下落するという意味でのデフレ状況にはない。今後の海外経済の動向によっては、デフレ状況に後戻りする可能性が残っていることから、デフレを脱却したとまでは言えず」と述べた(経済財政担当大臣報告06年12月)。同様の表現が07年も続く。経済変動看過の実に曖昧な表現だった。日銀は、経済・物価情勢が着実に改善と見て金融引締めに転換した(06年7月、2007年2月金利引上げ)。これも出遅れだった。

リーマンショックがあった(08年9月)。GDPマイナスに慌てふためき財政金融出動の経済調整に陥る。経済対策は、中身の吟味もしづらい巨額な事業規模となった。4回の経済対策の規模は、合計138.2兆円(金融以外32.5兆円:国費26.6兆円程度、金融105.7兆円)だった。財政出動規模の妥当性が問われた。やり過ぎの感があった。その中身を説明不足と民主党が批判した。

因みに各経済対策を挙げれば、「安心実現のための緊急総合対策:事業規模11.5兆円うち金融9.1兆円 」(08年8月29日)。「生活対策:事業規模26.9兆円うち金融21.8兆円」( 同10月30日)。「生活防衛のための緊急対策:事業規模43兆円うち金融33兆円」(同12月19日)。「経済危機対策:事業規模56.8兆円うち金融41.8兆円」(09年4月10日)である。


3、デフレ宣言再び(2009年)

民主党政権登場で経済実体無視の政策運営となった。経済の流れ読まずである。紆余曲折があった。菅直人経財相のデフレ宣言があった(月例経済報告09年11月20日)。必要性疑問符の事業仕分けをしつつ、確実な景気回復・デフレ克服を目指すと言い訳した。その前にデフレ脱却の宣言は見当たらずだが、「政府デフレ認定3年5か月振り」と報道があった。経済の戻りの中で、東日本大震災があった。経済低下は△1~2%程度だったが、政権による対応混乱と混迷助長があった。災害対応と財政金融政策の不慣れな対応に加え、不要な原子力発電停止で経済は混乱した。それでも経済変動論理の通り経済は回復に向かった。デフレどころでなかった。民主党政権の政治・経済運営不安が強く印象に残る。


4、デフレ脱却標榜(2013年)

安倍晋三政権となる。そしてアベノミクス(大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略)である。日銀に「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」という「共同声明」を強要した(13年1月22日)。デフレ・円高解消と叫びながら、デフレ認識を事後10年以上継続した。その間賃上げ・消費増・投資増の好循環という根拠無き政策スタイルが罷り通った。金融緩和・財政出動頼りの意味不明な政策が続いた。何もせずとも経済基調は上向きの時期だった。経済の動きは、通常の景気変動等で多少の上下があったものの、水平飛行状態だった。

リーマンショック等の経済的ショック時は、やや恐慌的で物価下落は当然であるが、留意したいことがある。この四半世紀の“デフレ的”物価停滞状態の理解である。略ゼロに近い低成長経済(成長要因不足)なら、物価横ばいは当然である。その状態で日本特有の過当競争や不要な競争促進政策となれば、趨勢的不況(停滞)という現象は当然である。残念ながら、その政策の過誤が現在も継続している。


5、コロナ回復、エネ資源等輸入物価インフレ

20年1月新型コロナウイルス感染症に直面する。21年(第2四半期)以降コロナ回復過程で、国際資源エネ・食料品価格の上昇で、輸入物価が上昇し(前年比20%程度増加:円・契約通貨ベースとも)、企業物価上昇となる(同4.6%増)。このとき消費者物価への波及は、価格転嫁の遅れがあった(同△0.2%)。ウクライナ戦争(22年2月)が始まると、国際エネ価格の急騰があり、22年輸入物価は急騰し(同円ベース39%増、契約通貨ベース21%増)、企業物価も高騰する(同9.8%増)。消費者物価も、価格転嫁等で22年同2.5%増となる。明らかに輸入物価牽引インフレ現象だった。だがデフレ脱却宣言も金融政策変更もなしだった。物価上昇の原因を考えず、何故か政府主導の賃上げが喧伝された。