右派ポピュリストが躍進 欧州グリーン政策の行方


【ワールドワイド/環境】

11月の米大統領選でトランプ前大統領が復帰した場合、米国のエネルギー温暖化対策は大きく変わる。欧州でも6月の欧州議会選挙の結果によって2050年までのカーボンニュートラル(CN)目標を目指した「欧州グリーンディール」の推進に影響が出る可能性がある。

直近の世論調査では右派ポピュリスト政党のECR(欧州保守改革)やID(アイデンティティと民主主義)が大幅に議席を増やす一方、中道右派のEPP(欧州人民党)、中道左派のS&D(社会民主進歩同盟)、中道リベラル派の「欧州刷新」は低迷が見込まれ、環境重視の 「緑の党・欧州自由連盟」は大幅に議席を減らすと予想された。

欧州では難民急増による財政負担増加、ウクライナ戦争以降のエネルギー価格、食料価格上昇による生活苦、エネルギーコスト上昇の一因である野心的な温暖化政策への不満の高まりが顕著になってきた。これを受け極右政党は、移民受け入れの厳格化、積極的財政政策、高コストの温暖化対策の見直しを掲げ、一般庶民の支持を拡大してきた。 オランダにおいて極右政党PVVが第一党になり、フランスではRN(国民連合)が第二党に、ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)が第三党となっているのはその表れだ。欧州議会最大会派のEPPも右派政党の台頭を懸念し、35年以降にZEV以外の新車販売を禁止とする法案の見直しなど、温暖化政策にブレーキをかける動きを見せている。これに対して中道左派や左派は警戒感を強めているが、EPPのスポークスマンは「われわれは極右政党のようなポピュリズム的な主張はしていない。50年CNにもコミットしているが、ティマーマンス前副委員長が推進する管理主義的な温暖化政策は一般庶民のコスト負担を高めるだけであり、見直しが必要」と述べた。EPPは極右政党のように温暖化政策そのものを否定するものではないが、極右政党の伸長と相まって、グリーン政策にブレーキがかかることは間違いない。

欧州ではベースとしての環境意識は高く、欧州議会選挙の結果、米国でトランプ政権が復活した場合に予想されるエネルギー温暖化政策の180度転換は考えられないが、温暖化政策を先導してきた欧州における風向きの変化には注視が必要だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

独自戦略を促す 柔軟な制度変更を期待


【業界スクランブル/新電力】

新年度がスタートした。昨年度は、電力卸市場の高騰がほぼなく、市場からの調達に依存する多くの新電力には、極めて安定した経営環境であったと言える。今年度も、東京エリアに限れば、夏に五井火力リプレース電源の並列や柏崎刈羽原発の再稼働に向けた取り組み本格化など、市場高騰リスクは低いと言えよう。新電力「冬の時代」はようやく過ぎ去ったのかもしれない。安定した経営環境の下、新電力各社には、顧客サービス向上のための差別化戦略を、腰を据え検討すべき時期が到来したと言える。

新電力各社が独自の戦略を構築する上で、制度面の変化を無視するわけにはいかない。最近の制度変更の議論の中で、内外無差別の徹底ならびに、常時バックアップや部分供給廃止という流れは、新電力各社の独自戦略構築に、水を差す局面もあるものと懸念している。これらの議論は、いずれも、みなし小売事業者と新電力との間の、不公平をなくし、両者が同じ環境下で競争することを促す趣旨であろう。全面自由化から一定の年月がたち、一時乱立した「にわか」新電力が淘汰されつつある今日、この趣旨を否定するつもりはない。

一方で、個別事象を考慮しない一律全面適用は、弊害も多いのではないかと考える。そもそも電力卸契約は、相対の私人間契約であり、契約ごとに卸価格をはじめ諸条件が異なるのは当然のことである。常時バックアップや部分供給にしても、供給する側・される側にそれぞれメリットがあり双方が納得した契約であれば一律禁止する必要はない。規制当局には、新電力各社の独自戦略を促す、柔軟な制度変更を期待したい。(S)

現実路線に転換した英国政策 ガス火力発電新設を推進


【ワールドワイド/経営】

2021年にグラスゴーで開催されたCOP26で英国は世界の気候変動対策を先導していた。しかしエネルギー価格や物価の高騰を経て、スナク首相は昨年9月、国民の負担軽減を目的に内燃車販売禁止時期の延期などを発表した。英国の温室効果ガスの排出削減が目標を上回るペースで進み、他の主要経済圏が経済対策を優先していることも挙げ、これまでの脱炭素化一辺倒の政策から総選挙を見据えた現実路線に転換した。

電力部門に関しては、クティーニョ・エネルギー大臣が今年3月、ガス火力発電の新設を推進する方針を示した。政府は北海ガスの生産強化を表明してきたが、今般の方針は電力部門の脱炭素化に向けた従来のスタンスからは一転した形となった。

英国は系統の柔軟性確保と脱炭素化に向け、水素発電、CO2回収・貯留技術を利用するCCS付きガス火力、揚水発電やフロー電池などの長期電力貯蔵設備、さらには国際連系線の活用を推進し、投資や建設の促進に向け各種支援制度を準備している。しかし、これら技術の導入時期には不確実性が残り、今後休廃止を予定する既存ガス火力もあることから、水素転換やCCSの付帯など脱炭素化対応が可能なガス火力に限定した短期的な新設推進が示された。

ガス火力の必要性は、英国で進められる電力市場改革で示された。日本でも同様の議論が開始されたが、英国ではエネルギー価格の高騰をきっかけに22年7月に始まった。再エネを中心とした電力システム移行に向け、ガス価格に影響を受けやすい卸電力市場制度の見直しや、再エネ変動に対応する調整電源の導入促進に向けた価格シグナルの強化などが主な論点である。

3月に公開された資料では、改革の方向性が多少収縮されていた。これまで検討材料であった、低炭素電源対象のプール市場、ローカル市場、ノーダル制の導入案などが除外された。現行のFIT―CfD制度を改良しながら拡大し、ガス価格の影響や需要家負担の抑制を狙う。ゾーン制市場の導入検討や現行の容量市場制度の改良により価格シグナルを強化する方針だ。

最後にエネルギー大臣が3月、チャタムハウスで行った演説の一節を紹介する。「企業が海外に移転し、国民が高いエネルギーコストに苦しんでいるのであれば、排出削減で世界をリードする意味はない。誰も後に続かないのであれば、ネットゼロで世界をリードする意味はない」

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

世界的な改革の失敗 日本は「無謬」なのか


【業界スクランブル/電力】

政府が東日本大震災後、推進してきた電力システム改革に行き詰まりが見える中で、電気事業法の規定に基づくシステム改革の検証が始まった。そんなタイミングで、竹内純子氏の著書「電力崩壊」がエネルギーフォーラム賞に選出された。煽り気味の書名は出版社の都合もあるだろうが、選出した審査員の思いはいかがだったか。

行き詰まりの背景には、脱炭素政策などの事情の変化もあるが、だから仕方がないわけではない。竹内氏が指摘するように「メリットばかり強調していなかったか」「事前のリスクの洗い出し、対策の検討が足りていたか」を真摯に反省する必要があるだろう。

思うに、電力システム改革は世界的に失敗している。設備が余り、需要の伸びが減速し、必要な投資が縮小する前提で始めたところが、脱炭素化で大規模投資が必要な時代が再来してしまい、「市場の価格シグナルで投資が進む」という理屈が机上の空論であることはもはや明白だ。

失敗の典型は欧州であり、米国もテキサスなど改革に意欲的な州で停電などの問題が伝えられる一方、50州の半分はいまだ地域独占のままだ。

無謬性を標榜する日本の官僚には「供給力不足に備えた事業環境整備、原子力発電所の再稼働の遅れ」を需給ひっ迫の背景とするGX実行会議の総括が精一杯かもしれないが、弊害が容易に想像できる「容量市場なき限界費用玉出し」を漫然と続けた不作為は指摘せざるをえない。世界的に失敗しているのに、日本だけ無謬性を守らんとするのは無理があるし、守らんがために同様に弊害が予想される卸内外無差別が止められないならば、有害でしかない。(V)

【コラム/5月17日】ドイツの陸上風力法の効果


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

国内外で、カーボンニュートラルが重要な政策課題となっている。その達成に向けて、再生可能エネルギー電源の大幅な増大が必要になっているが、同電源とりわけ陸上風力発電に関しては、景観への影響や騒音問題から地域住民の抵抗に会う場合が多い。このため、2030年に再生可能エネルギー電力の総電力消費量に占めるシェアを80%以上とする目標を掲げるドイツでは、2022年に、陸上風力法を成立させ、2030年における陸上風力の導入目標(115GW)の達成のために、ドイツ全土の2%を陸上風力発電の設置が可能な区画として指定することになった。また、これに伴い、州ごとに2027年末と2032年末において達成すべき「区画の貢献値」が定められた。

ドイツでは、風力発電設備と住宅地の最低離隔距離を1,000メートルとするルール(1000-Meter-Regelung)が存在しているが、この規定により、風力発電の設置可能な土地が半減するとの批判が、緑の党や環境保護団体からあった。このため、陸上風力法で定められている面積目標を達成できないときは、最低離隔距離を定めるルールは適用されないことになった。ドイツでは、この数年、陸上風力発電の認可基数は低迷していたが、この法的措置の効果もあり、南西ドイツ放送(SWR)の調べによると、2023年における認可基数は、1,466と2016年以降最多となった(前年は977)。新たに認可されたタービンの出力は、合計約8GWで、前年の認可出力と比べ約80%増となった。

大部分の州で認可基数の増大が見られるが、他州を大きくリードしているのが、ノルトライン・ヴェストファーレン州で364基の風力発電設備が新たに認可された(前年比80%増)。シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州(123基)、ラインラント・プファルツ州(89基)やヘッセン州(82基)も、前年と比べて認可された基数が約2倍となった。このような中で、大きく立ち遅れているのが、バイエルン州である。SWR によれば、同州で2023年に認可されたのは、わずか17基である。ドイツ最大の面積を有し、「区画の貢献値」も大きいバイエルン州で、認可が停滞している。同州では、2030年までに風力発電設備を1,000基建設する計画であるが、そのためには、今後毎年150基を建設する必要がある。しかし、これまでに、同州でそのように多くの風力発電設備が設置されたことはない。

バイエルン州で、風力発電設備の認可件数が少ないのは、同州独自のルールと関連している。同州では、2014年から10-Hルールという独自のルールが存在している。これは、風力発電設備と最も近い住宅地との最低離隔距離が、風力発電設備の高さの10倍でなくてはならないというものであり、それは、通常2,000メートルとなる。このルールが、バイエルン州における風力発電設備の建設を困難にしてきた。陸上風力法成立の動きを受け、バイエルン州の建築規制は変更され、10-Hルールは、2022年11月に部分的に緩和されるとともに、例外が設けられた。例えば、森林の中、工業地域の近く、高速道路や鉄道路線沿い、風力優先地域などにおいて、風力発電設備と住宅地との間の最低離隔距離が1,000メートルに縮小された(連邦イミッション防止法により、風力優先地域では、2023 年 6月から、最低離隔距離は約800メートルに)。さらに、連邦建設法典で、2023年5月31日以降、陸上風力法により指定された風力発電立地地域には、いかなる距離ルールも適用されないことになった。上記の例外対象は、陸上風力法で定義される風力発電立地地域とほぼ一致しているため、すべての距離ルールの適用を免れることになった。

10-Hルールは、長い間、バイエルン州で風力発電設備の建設から住民と景観を守る「防御メカニズム」として機能してきた。住民もそれに安住してきたという経緯もある。このため、バイエルン州の規制当局としては、直ちに風力発電設備の認可のテンポを速めることは難しいのであろう。しかし、陸上風力法の成立により、バイエルン州も認可に積極的な姿勢に転じざるを得ない。風光明媚な同州の8年後の景観を想像し、多くのバイエルン人は複雑な心情を抱いているだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

新興産油国ガイアナ巡り対立 原油生産増は続く見通し


【ワールドワイド/資源】

エクソンモービルが2015年にリザ油田を発見したのを皮切りに、ガイアナ沖合のスタブローク鉱区では、これまでに30以上の油田が発見され、可採埋蔵量の合計は石油換算で110億バレルを超える。油田発見から生産開始まで5年以内と比較的短期間のうちに開発が進められ、19年12月にはリザ油田に設置された浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)が稼働した。その後、2基のFPSOが生産を開始し、同鉱区の原油生産量は間もなく日量約65万バレルとなる見通しである。

同鉱区での油田開発は今後も続けられ、27~28年には6基のFPSOが設置され、原油生産能力は日量120万バレルを上回る計画となる。ガイアナで生産される原油の損益分岐点はバレル当たり25~35ドルと低く、CO2排出量も1バレル当たり9kgと産油国の中で比較的低水準である。原油の性状も中南米で多く産出される重質や超重質の原油ではなく、中質から軽質の原油だ。このような事情から、油・ガス田が発見されたことがなく、原油、ガスともに生産した経験がなかったガイアナが、一躍、新興産油国として注目を浴びた。

ところが、隣国ベネズエラが昨年12月に、ガイアナ国土の約70%を占めるエセキボエリアを併合することへの賛否を問う国民投票を実施し、賛成が多数だったことから、同地域を併合するとした。この併合が現実となれば、スタブローク鉱区はベネズエラが主張する領海に含まれる。両国大統領が会談を行い、相互に脅迫や武力を行使しないことで合意したものの、両国のにらみ合いは続いている。

また、昨年10月にシェブロンが530億ドルでスタブローク鉱区の権益30%を保有するヘスの買収が明らかとなったが、エクソンモービルがこの権益取得について優先権を主張し、国際商業会議所に訴状を提出し、仲裁が行われることとなる。

いずれのケースも、ガイアナ沖合で油田が発見され、開発が順調に進み、原油生産量の急増が争いの火種となったと考えられる。現時点ではベネズエラのガイアナ併合に向けた動きによるガイアナ沖合での探鉱・開発に影響はなく、探鉱・開発中の石油会社はガイアナへの投資意欲を減退させたり、ガイアナから撤退する動きはない。しかし、今年7月に予定するベネズエラの大統領選挙を前に急激に情勢が動く可能性もあり、状況を注視する必要がある。

(舩木 弥和子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【コラム/5月17日】福島事故の真相探索 第6話


石川迪夫

第6話 水素爆発までのカウントダウン

吹き荒れた「水素ガス台風」

ペデスタルの床に溜まっていた水は、ジルカロイ・水反応によって水素を発生させた途端に水ではなくなって、水素ガスに変わる。このチェックの計算の過程で面白い事に気付いた。

ペデスタルの内側に溜まった水は、深さ25cm、約5トンであった。反応で使われたジルカロイは16トンであったから、反応で消費された水は6.3トンとなる。ペデスタルの床上に溜まった水は約5トンであったから、差し引き1.3トンの水が不足した事になる。この不足分は、格納容器の床に溜まっている水が流入して補ってくれると最初は気楽に考えていたのだが、反応が起きている時は、ペデスタルの中は水素ガスの大嵐が吹き荒れることが分かって、少し考えが変わった。大嵐については後述するが、狭いペデスタルの中、大嵐の下で水の補充がスムースに行くものか、それとも途切れるのか、これが難題だ。

なお、もし燃料の6割、19トンのジルカロイが反応したとすると、ペデスタルに流入する水は7.5トンに増える。1号機への炉心注水量約20トンの見積もりは、以外に厳しかったのだ。

では、大嵐を起こした水素ガス量はどれ程あったのか。

反応に使われた水量の6.3トンから、発生水素は約700kgと計算される。その体積は、常温常圧状態(NTP状態)で約8000m³となる。このガス体積は、ペデスタルの容積400m³の20倍、格納容器容積6000m³の1.3倍に相当する。

ところが、上記計算はNTP状態であるから、水素ガス温度を発生時の約3000℃と仮定すると体積は約10倍増となる。ペデスタル体積の200倍もの気体が、反応によって床上で発生して、狭い二つの出口から激しく流出して、格納容器内部を駆け巡る嵐となる。反応の時間を15分とし、二つの出口の合計面積を2m³とすると、吹き抜ける水素ガスの風速は毎秒45mほどになる。まさに大型台風である。

高温の水素ガスは周辺の物体により冷却されるであろうし、反応には多少の強弱があるから、台風の激しさは幾分緩和されようが、ペデスタル内で吹き荒れる水素ガス台風が相当強力であることに、相違はない。

1号機でただ一つ働いていてくれた圧力計は、この嵐で狂ったと思われる。1号機の圧力計データは、12日午後3時ごろに、短時間の急上昇を示した後、翌日まで指示が途絶えた。この途絶えは、急速な水素ガスの大量発生によるものか、水素ガス3000℃の熱で計測器が壊れたのかは分からない。翌13日の昼ごろになってデータ指示は回復しているが、図で見られるように、6気圧付近から緩やかに低下しているだけで、何を意味しているのか判読は不可能である。

図:1号機の格納容器圧力変化

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年5月号)


【東京ガス/国内で初めて海外製のメガワット級水電解装置を運用】

東京ガスは、住友商事と進める水素利活用を目的とした共同実証実験に向け、メガワット級の固体高分子(PEM)型水電解装置を東京ガス横浜テクノステーション内に設置した。この装置は英国のITM社製で、海外製のメガワット級のPEM型水電解装置による運転検証は国内初。水素利活用の課題となっている製造コスト高に関しても大幅な操業費低減を実現するという。共同実証実験は2024年6月に開始。東京ガスは、メガワット級PEM型水電解装置のオペレーション、メタネーション装置などとの連携運用ノウハウの獲得を目指し、製造した水素をe―メタン製造実証実験にも利活用していく。


【沖縄電力/水素社会構築へ水素混焼発電実証を開始】

沖縄電力は3月、沖縄県中城村の吉の浦マルチガスタービン発電所(定格3.5万kW)で水素混焼発電実証を開始した。14日の試験では、体積比30%の水素を混焼。これは、国内事業用既設火力として全国に先駆けた混焼規模となる。同実証は、2050年 CO2排出ネットゼロの実現に向けたロードマップの柱の一つ「火力電源のCO2 排出削減」のための「クリーン燃料の利用拡大」に資する重要な施策。水素混焼発電の運用技術確立を目指すとともに、沖縄エリアにおける水素利活用のファーストムーバーとなることで、水素社会構築に積極的に寄与していく構えだ。


【Daigasグループ/国内最大級のバイオマス専焼発電所で竣工式】

大阪ガスは3月、昨年12月に運転を開始した広畑バイオマス発電所(兵庫県姫路市)の竣工式を開いた。Daigasグループにとってバイオマス専焼発電所の商業運転開始は4カ所目。燃料は、輸入木質チップやパーム椰子殻、同社子会社のグリーンパワーフェエル(GPF)が調達する国産木質チップで、国産木質チップには、林地残材・未利用間伐材などを活用する。バイオマス専焼発電所として国内最大級の発電容量(約7万5000kW)を誇る同発電所の事業会社の広畑バイオマス発電には、Daigasガスアンドパワーソリューションが90%、九電みらいエナジーが10%を出資している。


【ENEOS/東京・晴海に水素供給拠点を開設】

ENEOSは3月、東京・晴海にある東京五輪選手村跡地に、新たな水素供給拠点となる「東京晴海水素ステーション」を開設した。大型商用車含む燃料電池車(FCV、FCバス・FCトラック)などに直接供給するほか、道路下に敷設した水素パイプラインを通じて跡地街区内の純水素型燃料電池にも供給する。導管での供給は東京ガス子会社と連携する。


【三菱マテリアル・三菱ガス化学・Jパワー/安比地熱発電所が営業運転開始】

三菱マテリアル、三菱ガス化学、Jパワーの共同出資会社である安比地熱は3月、安比地熱発電所(岩手県)の営業運転を開始した。標高約1130mの高地に位置する岩手県八幡平地域の有望な地熱資源の活用を見込み、2019年8月から建設を進めてきた。発電出力は1万4900kW。岩手県で発電出力1万kWを超える地熱発電所の稼働は28年ぶりとなる。


【三井E&S/世界初の大型船舶用水素エンジンの燃焼運転に成功】

三井E&Sは3月、ライセンサーのMANエナジーソリューションズSEと共同で、シリンダー直径50㎝の大型船用テストエンジンにおける水素燃焼運転に世界で初めて成功したと発表した。テストエンジンの4本のうち、1本を水素燃料用に改造。同社玉野工場(岡山県玉野市)にある水素ガス供給設備にて水素漏えいなどの不具合なく運転できたことを確認した。

電動化規制のウラに秘めた 自国自動車産業振興戦略


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

電動化規制は、欧州から開始された。2016年10月に独連邦会議が30年までに内燃機関だけを動力とする自動車を禁止する決議案を出し、続いて英仏が独と同様の政策を発表。ボルボは19年以降に発売する全車を電動化すると宣言した。

これらの政策は、15年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」「そのため、できる限り早く、世界の温室効果ガスをピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排気量と森林などによる吸収量のバランスをとる」という、パリ協定の長期目標を達成するためのように見える。

しかし実際には、各国の産業維持や雇用促進などの国益を重視したものだというウラがある。そのきっかけとなったのが、フォルクスワーゲン(VW)の欧州における自動車の動力源として主流となっていたディーゼルエンジンでの排気ガスデータ不正事件である。ディーゼルエンジンは熱効率が良く、燃料消費量が少ないので環境負荷が小さいという考えが根本にある。さらにメルセデスベンツが実用化したブルーテックという技術で排気ガス、特にディーゼルエンジンで課題となっている窒素酸化物の低減が可能となった。

VW不正発覚データ

ブルーテックとは尿素SCR(尿素選択触媒還元:排気ガスに尿素水を噴射して酸化窒素を化学反応で浄化)、コモンレールシステム(精密に制御された燃料噴射システム)、DPF(排気ガス中の微細粒子を通さないフィルター)などで構成されていて、排気ガスをクリーンにするものである。

VW車は米国で出遅れていて、トヨタのHEV車であるプリウスに大きく水をあけられていた。そこで、優れた燃費性能を有するディーゼルエンジンで勝負することとなった。しかし、VWが開発した既存のディーゼルエンジンでは米国の窒素酸化物規制をクリアすることができなかった。さらに、メルセデスベンツからブルーテックを導入することも、コスト増などの課題があって、大衆車には適用が難しいという課題を有していた。

VWはLNT(リーンNOXトラップ)という触媒コンバータとEGR(排気ガス再循環)システムを採用して、新たなディーゼルエンジンの開発を開始した。しかし、さまざまな技術的な工夫と努力にもかかわらず、米国の厳しい規制をクリアするデータは得られなかった。06年の半ばに上層部が下した決断は、デフィートデバイスを利用するという、悪魔の誘いに乗ることであった。デフィートデバイスとはソフトウェアを操作して、排気ガス検査の時だけ有害な排出物質を減らす装置。当時、走行中に排気ガス成分を計測する手段はなく、不正は発覚しないという甘い予想があった。

その後、走行中の排気ガスが計測可能となり、15年に米国で環境問題NPO法人がウェストヴァージニア大学に依頼した測定により不正が発覚し、莫大な和解金を支払うこととなった。その大きな汚点を洗い流すかのように、欧州では自動車の電動化政策が開始されたのだ。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

21世紀の時代的責任 電力会社は役割果たせるか


【オピニオン】桝本晃章/日本原子力文化財団理事長

昨年の夏は世界各地で記録的な猛暑だった。国際エネルギー機関のビロル事務局長は「われわれは化石燃料利用時代の終わりの始まりにいる」と言った。「終わりの始まり」とはチャーチル英国元首相の言葉だ。1942年、北アフリカの地中海に面するエル・アラメイン砂漠で、無敵といわれたドイツ・ナチのロンメル将軍率いる戦車軍団を連合国軍が破った。その報を耳にしたチャーチルが、これがドイツ・ナチの終わりの始まりになるだろうと言ったのだ。そして昨年ドバイで開かれた温暖化防止国際会議・COP28では、暑さの影響もあったのだろう、初めて原子力発電が認められ、「原子力三倍宣言」を出すことができた。

実は、猛暑は人間が生み出した。人間は長い間化石燃料を利用して豊かになってきたが、CO2排出が続き空気中の濃度が高まると、地球温室効果が進み気候変動が起こる。空気中のCO2濃度と温室効果との関わりは、気象学者の真鍋淑郎博士が解明しており、博士は2021年にノーベル物理学賞を受賞した。

昨年の世界気象機関の発表では、22年の全球平均のCO2濃度は417.9ppmで、1750年以前の濃度の150%になっている。猛暑の原因が地球温暖化であることは気象庁も認めていて、今夏の気象予報解説には、「地球温暖化や春まで続くエルニーニョ現象の影響などにより、全球で大気全体の温度がかなり高いでしょう」とある。

気候変動が問題なのは、ただ暑さをもたらすからだけではない。影響による経済的損失が巨額なのだ。英国のロイズ保険組合とケンブリッジ大学との共同研究では、「気候変動による異常気象が農産物不作や食品飲料不足を増加させれば、今後5年間で累計5兆ドルの経済損失が生じる可能性がある」としている(23年10月11日、ロイター通信)。日本の国内総生産(GDP)が4兆2106億ドル(国際通貨基金・IMF、23年)だから、推計された経済的損失は巨額だ。

われわれは温室効果ガスのCO2排出量を何とかして減らさなくてはいけない。日本の場合、エネルギー起源CO2の4割は発電部門から出ている。CO2排出一大部門の電気事業者としては、少しでも削減して時代的責任を果たしたい。対応策の太宗は発電段階でCO2を出さない原子力発電開発を進めることだ。

ここで時代をさかのぼろう。1989年、佐藤信二・通商産業大臣が年頭の会見で“電力会社をバラバラにする”と言った。そして、電気事業は部門ごとにバラバラにされた。電気は一部とはいえ市場商品となり、電気事業者の経営視野は狭くなった。

電気事業者は事業がバラバラになった今、CO2排出削減を図るためにも、原子力発電開発を進めることができるかどうかが問われている。

ますもと・てるあき 神奈川県生まれ。1962年東京電力入社。同社企画部広報課長、電気事業連合会広報部長、東電取締役広報部長、常務取締役、取締役副社長、電事連副会長などを歴任。2018年6月から現職。

国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始


【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】関口博之 /経済ジャーナリスト

東京オリンピック・パラリンピック後のレガシーの一つが、選手村跡地で行われている大規模街づくり事業「晴海フラッグ」だ。5600戸余りのマンションと商業施設ができつつある。

ここでエネルギー源としての水素の本格活用が始まった。3月29日、マンション棟などがある五つのエリアにパイプラインによる水素供給が開始された。使う水素はENEOSが都市ガスを改質して取り出し、それを専用スタンドでFCV(燃料電池車)へ充填するとともに、パイプラインにも供給する。

街づくりが進む「晴海フラッグ」

「次世代エネルギーの本命」と言われ続けてきた水素。扱いにくさや製造コストなどの課題もありながら、多くの期待を集めてきた。筆者には水素と言えば、自身がNHK北九州放送局長を務めた縁もあり、北九州市八幡東区東田地区の「北九州水素タウン」が思い浮かぶ。製鉄会社から出る副生水素を利用したプロジェクトとして始まりショーケース的役割を果たしたが、あくまでもこれは実証実験としての位置付けだ。

それに対し今回は、水素を使った初の「商用化」だ。将来の日本のエネルギー体系での位置付けを考えた場合、水素新法のようなものを作る考え方もあろうが、現状ではまだ知見も足りない。そこでまずは今の「ガス事業法」の中に水素を位置付けることになったという。こうして晴海事業を担う東京ガスの子会社は「水素を扱うガス小売事業者の第一号」となった。

水素はエリア内に計25台設置された純水素燃料電池で発電に使われ、マンション棟と商業施設の供用部の照明などに使用される。燃料電池の発熱反応で出た排熱は共用部の「足湯」にも使われるそうだ。料金は非公表だが電力代としてではなく、水素の流量を計測し、それに課金するという仕組みだ。

さて初の水素の商用化で課題になったのが安全性だ。パイプラインは都市ガスの中圧管と同じ150㎜径の鋼管、供給圧力も低圧ガス管と同等で安全上問題がないことが検証できたという。ただ公道への埋設なので、掘削などで誤って破損されないようパイプ上部に防護鉄板を今回は敷いている。

もう一つの課題は漏えいをどう検知するかだ。閉空間に水素が滞留すると爆発の恐れもある。漏えい検知のため商用化にあたっては、水素に「付臭」が行われている。「ガス臭い」と漏れに気付いてもらえるよう都市ガスにニオイを付けているのと同じ理屈だ。とはいえ「それってどんなニオイ?」と担当者に聞くとプラモデル用の接着剤のニオイに近いという。今回、施設管理会社の担当者にはそれを実体験して覚えてもらったそうだ。

ただし燃料電池に取り込む前には再度「脱臭」が必要。この付臭と脱臭というプロセスにはコストがかかる。将来、高い精度で価格も抑えた漏えい検知センサーなどができれば、このプロセスは省きたいという。

「水素が身近な社会が来る」というのはこういうことを一つひとつ課題解決していくことにほかならない。「初の商用化」までこぎつけたとはいえ、関連技術のコストダウンにしても制度整備にしても、やるべきことがまだまだ多いと実感させられる。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【マーケット情報/5月10日】WTI上昇も、ブレント下落


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物が小幅に下落。一方で、米国原油の指標となるWTI先物、および中東現物は小幅に上昇した。強弱材料混在で、方向感を欠く展開となった。

4月の米国雇用統計では、求人件数は増加するも、市場の予想を下回っており、経済成長の鈍化が示唆された。利下げ開始および石油需要増加の見通しが強まり、価格が上昇した。また、米週間在庫統計も減少が報告され、国内の石油製品需要への強まりが顕著となり、上方圧力として働いた。

中東での地政学リスク、それにともなう供給不安の強まりも引き続き、価格の強材料として働いている。

一方、4月の中国輸入が前月比で減少。同国からの需要減少が、価格の上昇を抑制した。マージン縮小と石油製品需要の後退が要因だ。


【5月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=78.26ドル(前週比0.15ドル高)、ブレント先物(ICE)=82.79ドル(前週比0.17ドル安)、オマーン先物(DME)=84.78ドル(前週比0.76ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.62ドル(前週比0.71ドル高)

暴力的な性格を持つ電力市場 リスクの大波に備える好機


【マーケットの潮流】水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表

テーマ:卸電力市場

2023年以降、すっかり落ち着きを見せている電力市場価格。

水上裕康氏は今こそ、次のリスクの大波に備える好機だと強調する。

2021年秋以降、国際燃料市場とともに高騰した日本の卸電力市場価格は、23年に入ると急速に落ち着きを取り戻した。足元の燃料市場の安定に加え、再生可能エネルギーの増加、「限界費用入札」のガイドライン化、大手電力会社の燃料在庫の監視、さらに新規火力の運開や原子力の再稼働による供給予備力の回復などにより、もはや価格高騰はないのでは、という楽観ムードも漂う。本稿では電力市場に潜むリスクについて例示し、その対応についてコメントする。

小売電気事業者のリスク例


電力価格は高騰しないのか 国際燃料市場に潜む危機

卸電力市場価格は、燃料市場価格、特にLNG価格と強い相関を持っている。そのLNG市場は、ロシアのウクライナ侵攻直後に最高で100万Btu(英国熱量単位)当たり85ドルを付けたが、4月上旬現在、9ドル台まで下落している。この価格下落の要因は、「需給の緩和」というより「需要の破壊」というほうが相応しい。価格高騰で起きたことは、欧州での化学工場の操業停止や省エネという名の我慢、インド・パキスタンなどの停電、各国における石炭への燃料振替えなどである。

これに、2年続きの記録的暖冬にも恵まれて、需給は辛うじて均衡しているのだ。ロシアから欧州へのパイプラインガスの供給は、開戦前に比べ、LNG換算で1億t近くも減少したまま。26年までは大規模な生産増は見込めず、供給が厳しい状況は変わらない。大消費地である欧州や中国の景気が戻り、寒い冬がやってくれば、決して安泰とはいえない状況である。

もう一つの主力燃料である石炭は、高騰したガスからの振替え需要などで、22年には1t当たり400ドルを超えた。ESG(環境・社会・ガバナンス)の影響で炭鉱投資が停滞する中、中国とインドの二大消費国のみが国内炭を増産して何とか世界の需給を支えながら、価格は130ドル近辺(4月上旬)まで下落してきたのが現状だ。認識すべきは、この二大国あわせて約50億tの巨大市場の需給バランスの揺らぎが、両国の輸出入の増減となり、わずか11億tの海上貿易市場を左右するという、危うい市場構造である。

21年1月に起こった卸電力市場高騰は、燃料在庫の急減によるものだ。発電用燃料も、トヨタの「かんばん方式」のように必要な分だけ手配されるのが理想だが、現実は厳しい。電力ビジネスでは、相対契約ですら、消費は買い手側に裁量があり、もともと需要が読めない。

景気や出水、さらに近年は日照や風の状況によって発電所の稼働が変わる中、落札の保証のない卸市場まで登場した。この「読めない市場」までも念頭に燃料を不足なく用意せよというのは無茶な注文だ。余剰を覚悟で手配しても、それに伴う大きな市場リスクは、「限界費用入札」では全く報われない。

問題は、いまや主力電源となったLNG火力のタンク容量が、平均的消費量の2~3週間分と、極めて小さいことだ。石炭火力は、在庫能力こそLNGより多少マシだが、この原始的資源は、大雨が降ると生産が止まり、時には港までの鉄道の水没が発生する。積み地の船混みで遅れることも多い。したがって、石炭火力の貯炭能力が、「公称4週間」などと言われても、あまりアテにならないのだ。

そもそも石炭、LNG火力のインフラは、発電所の稼働が変動することを想定していない。もともと発電量の調整を担っていた石油火力は貯蔵が容易で、かつ国内の供給基地から機動的に輸送ができた。「読めない卸市場」の誕生と、kW時価格の競合では稼働が見込めない石油火力の退出は、自由化の成果とされる「広域メリットオーダー」の産物である。この燃料回りの脆弱さは、基本的に3年前の危機からほとんど改善されていない。「戦略的余剰LNG」など、名前がほとんどジョークである。


仕入れと販売のリスク管理 「ズレ」の把握が不可欠

在庫が持てず、短期的には代替不可能な商品である電力の市場は、本来、極めて暴力的な性質を持つのである。それが導入されたからには、参加者は相応の覚悟と準備で臨む必要がある。

対応のキーワードは「マージン」である。電力、燃料市場がそれぞれ乱高下しても、一定のマージンを得られる仕組みを作ればよい。ところが、現代の電力ビジネスにおいては、発電にせよ小売りにせよ、仕入れ、販売それぞれに卸電力市場取引と燃料市場取引(あるいは燃料費調整=燃調)が混在するが、その混在の仕方が仕入れ側と販売側とでズレることで、マージンが不安定になってしまっているわけだ(図参照)

市場に対する感度を仕入れと販売で等しくすればよいのだが、電力ビジネスでは、卸電力市場の価格が毎日、30分単位で異なることや、販売量が買い手の都合で変動することなどによって、その作業は非常に複雑である。仕入れと販売の状況を絶えずウォッチしながら先ほどの「ズレ」をリアルタイムに把握することが、リスク管理の第一歩となる。その上で、無視できない「ズレ」があるならば、価格のヘッジや電力・燃料の売買で速やかに修正を図らねばならない。

こうした業務に、市場リスクがなかった時代の組織で対応するのは、どだい無理ではなかろうか。組織を整えた上で、必要な人材やノウハウの獲得、ETRM(Energy Trading and Ri-sk Management)などのシステムの導入が必要である。

折しも、電力先物市場の流動性もかなり上がってきた。オプションなどを含め、各事業者ニーズに合わせた商品を相対で提供可能な事業者も出てきた。市場が落ち着いている今こそ、次のリスクの大波への備えを始める好機である。

みずかみ・ひろやす 一橋大学商学部卒、米ジョージタウン大学MBA取得。1983年北陸電力に入社し、2011年から燃料部長を務める。20年同社執行役員を退任し同年7月から現職。

沖永良部島の革新的電力供給システム 日本発の世界に広がるビジネスへ


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

沖永良部島では、環境省の脱炭素先行地域の第一弾として選ばれた「ゼロカーボンアイランドおきのえらぶ」構想が進んでいる。沖永良部島の二つの町とリコージャパン、一般社団法人サステナブル経営推進機構がコンソーシアムを組み、町の新庁舎や学校とその周辺地域に再生可能エネルギーを供給するマイクログリッドや、ソーラーシェアリングで発電した電気を自営線で供給する事業を行うもので、蓄電池と疑似慣性力を持つインバーター(デジタル・グリッド・ルーター)を組み合わせて系統安定化を図っていることがミソだ。

将来的には島内の全ての集落にマイクログリッドを形成し、それらを連係させてゼロカーボンの電力供給が実現することを目指している。これが実現すれば、全国の離島のみならず、世界中で分散型電源として活用され得る供給システムとなる可能性があるが、問題となるのはやはり事業を実施するための資金面と、現行の電気事業法の特例措置を可能とする規制面の対応である。3月15日に国土交通委員会で奄美振興法改正法案の審議が行われたため、この場で私は斉藤鉄夫・国土交通大臣らと議論を行ってきた。


資金、規制両面で課題 斉藤国交相は前向き答弁

まず資金面について。奄美振興法に基づき鹿児島県が作成した振興開発計画に基づき交付金が交付されることになっているが、現行の政令ではこのような電力供給事業に交付金が使えるか不明であった。このことを確認すると、黒田昌義・国土政策局長からは「現行の政令の中で対応できる」との明確な答弁を得た。

次に、規制面について。現在沖永良部島は九州電力の供給区域となっているが、九州電力の送配電網と並行してマイクログリッドが形成されていくこととなる。おそらく、これは現行の電気事業法で想定していない事業になる。

そうなると、私がかつて創設に関わった構造改革特区制度の活用や、奄美振興法自体に電気事業法の特例措置を規定する必要が出てくる。こうしたことを斉藤大臣に問うたところ、「先行的な取り組みの進捗状況を踏まえて、地元自治体としっかりと議論を進めていきたい」という前向きな答弁をいただいた。

一般送配電事業者にとっても、離島などで脱炭素化に対応しながらユニバーサルサービスを確保していくことは大変。国策としての再エネ推進が、中国製パネルなど外国製品の流入と海外勢の投資ビジネスになることも馬鹿らしい。新技術の実用化による革新的な電力供給システムが、わが国から実現することで社会的な課題の解決につながり、日本発の世界に広がり得るビジネスとなることを期待したい。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年5月号)


NEWS 01:洋上風力の八峰・能代沖 JREが執念の勝利

政府による洋上風力公募第2弾で発表が延期されていた秋田八峰・能代沖の結果が、3月下旬に公表された。当初から有力視されていたジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)、イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、東北電力陣営が落札。代表企業のJREとしては、国内再エネ専業として、また同海域の先行事業者として悲願の勝利を手にした。

八峰沖は順当にJRE陣営が落札した

JRE陣営が差を付けたのは、まず運開予定時期を2029年6月末と最も早く設定したことだ。ただ、「総合点で次点のJERA陣営が仮にJREと同じ迅速性評価だったとしても、僅差で勝てなかっただろう」(再エネ業界関係者)との見方も。JERAは昨年末の男鹿・潟上・秋田沖で勝利し、その勢いに乗るかとも思われたが、事業計画の基盤面や実行面で前回ほどの評価を得られていない。

他方、JREとその親会社のENEOSとしては、「長崎西海沖のリスクを嫌い、八峰にかけたのだろう」(同)。JREは昨年末の西海沖に入札した際のFIP価格が相対的に高く、価格点は低かったが、今回は多数の項目で高評価を得た。特に「洋上風力銀座」となった秋田の港湾バッティング問題では、「他陣営は能代港を利用する見込みだが、JREは秋田港、さらには北海道・室蘭港も併用する計画。JREの執念がうかがえる」(同)結果となった。


NEWS 02:具体化する系統整備計画 希薄な経済効果に疑問符も

国の政策目標である2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現を見据え、洋上風力発電など再生可能エネルギー電気の全国融通強化につながることが期待される「地域間連系線の増強」構想。

電力広域的運営推進機関は3月末、北海道~東北~東京間の日本海側をつなぐ高圧直流送電(HVDC)の敷設と、関門連系線増強の二つの系統整備計画について、整備費用や工期などを盛り込んだ基本要件を取りまとめた。

このうち北海道・本州間の日本海ルートは、800㎞にわたり200万kWの直流海底ケーブルや交直変換所を新設するほか、各エリアの地内系統を増強する

計画。概算工事費は1・5兆~1・8兆円と試算されており、このうち0・9兆~1・1兆円という大半を海底HVDCが占める。

連系線増強は、再エネ大量導入、そして脱炭素社会実現への切り札として既定路線化されてきた。ところがここにきて、この整備計画を実行に移すことへの疑問の声が絶えない。最大の理由が費用対効果の低さだ。

系統整備を決める上での判断材料は、燃料費・CO2対策コストの抑制、アデカシー(広域的に供給力を活用できることによる信頼度)向上効果、送電ロスの抑制―といった便益が整備費用を上回るかどうか。ところが、1を上回れば費用が便益を上回ることを示す費用便益評価(B/C)の結果は、北海道・本州間で0・63~1・72、関門連系線は0・29~1・00と、相当厳しい。

これら系統整備に伴う工事費用は、全国調整スキームに基づき再エネ賦課金や託送料金で回収される。国民に負担を求めるからには、国は金銭的価値を上回るメリットを得られることを明確に説明しなければならない。


NEWS 03:調整力の市場調達が本格開始 「未達」状態続き出足不調

安定供給を維持する上で欠かせない調整力。これまで「三次調整力①②」を除き、一般送配電事業者がエリアごとに公募で調達してきたが、今年度に入って五つ全ての商品区分が市場で取引されることとなった。だが、4月1~19日の取引結果は、全商品区分で募集量に応札量が満たない「未達」状態に。その出足は低調と言わざるを得ない。

需給調整市場を運営する「電力需給調整力取引所(EPRX)」によると、周波数低下を抑制する「一次調整力」は全国平均で80%超の不足で、東京・中部エリアに至っては応札がなかったという。また、先行して取引が始まっていた再生可能エネルギーの予測誤差に対応する「三次調整力②」も、23年度は全国月平均の不足率が4~32%だったが、4月に入ってからの3週間は、週間取引の未達分が募集量に加算されている影響もあり、全国平均の不足率は67%と悪化してしまっている。

市場取引のスタート当初、22社(24取引資格)だった参加事業者は、18日までに63社(69資格)まで増えたが、それが必ずしも入札行動に結び付いているわけではない。「今後も、取引会員数を拡大していくとともに、事業者へのヒアリングを通じてニーズを把握し、市場の魅力を高める必要がある」(市場管理グループ)

不思議なのは、調整力の調達が不調にもかかわらず、電力供給に支障が出ていないことだ。この背景には、容量市場で落札された調整機能を有する電源が、一般送配電事業者の指令に応じてゲートクローズ後の上げ・下げ余力を調整力として提供する「余力活用契約」がうまく機能していることがあるもよう。

市場を介した低廉かつ安定的な需給運用の実現には、長い道のりをたどることになりそうだ。


NEWS 04:再始動する新電力 価格競争再燃の兆し

2022年春以降、国際的な燃料価格や電力市場価格の高騰を受け事業停止していた新電力会社が、再開する動きが出てきた。帝国データバンクが3月に発表した調査によると、前回調査(23年6月)で新規受付停止状態だった87社のうち、16社が今年3月までにサービスを再開した。同社によると、卸電力市場の落ち着きが要因と見られる。

新電力再開で価格競争へとつながるか

また、多くの新電力が撤退や事業停止に追い込まれ、大口分野では、他の大手電力や新電力に切り替えできず、一般送配電事業者と最終保障供給契約を結ぶ需要家が続出したが、経済産業省によると、3月時点でピーク時よりも8割以上減少した。この背景には、大手電力が大口需要家向けの新たな標準メニューによる新規受付を再開したことがある。

業界関係者によると、需要家の大手回帰が一時的に進んだが、ここにきて新電力が存在感を取り戻している。前年までは料金より信頼性を重視する需要家が大半だったが、低位安定化した市場価格を背景に新電力が再び価格重視のプランで攻勢をかけ、新規顧客を獲得しているという。

今年度、容量拠出金の支払いが始まり、新電力の負担が増えると一部で報じられているが、それでも大手より競争力のある料金を提示できるということなのか。直近の新電力動向は、し烈な価格競争再燃の兆しかもしれない。