【技術革新の扉】混合ガスの連続モニタリングシステム/理研計器
複数の成分を常時モニタリングする革新技術を実用化した理研計器。
脱炭素化の潮流を背景に高度化する濃度検知のニーズに応える構えだ。
複数の成分が混合するガスの状態をリアルタイムで精緻に把握できる―。そんな革新的な機能を備える「リアルタイムガスモニタリングシステム(RTGMS)」を実用化したのが、産業向けガス検知・警報器市場でトップシェアを誇る理研計器だ。
エネルギーや半導体などの基幹産業がカーボンニュートラル(CN)時代を見据えた取り組みを加速する中、脱炭素化に欠かせないガス濃度のセンシングニーズが高度化。得意のガス検知技術で産業界に新風を注ぎ込む挑戦の最前線に迫った。
発電や都市ガスから自動車や製鉄に至るまで、多様な業種の現場をガス検知・警報器事業を通じて支えてきたのが同社だ。
理研計器創業の基となった検定器
都市ガス一つとっても、原料となるLNGの受け入れから貯蔵や気化を経てガス受給者に届けるまでの一連のプロセスで、各工程に多くのガス検知器が設置されている。安全性を確保する観点から、微量のガス漏えいを食い止めることが狙いだ。
幅広い業界で培ったガス検知のノウハウや技術を駆使して満を持して開発したのが、二つのセンサーを組み合わせて混合ガスを構成する成分の状態を把握できるようにしたRTGMSだ。
同社によると、組み合わせるセンサーを追加することで多くの成分をモニタリング可能で、特に3~5成分への対応で優位性を発揮する。
創業からの蓄積を反映 逆転の発想で新たな価値
具体的には、ガス中を伝わる光と音の速度を「光波干渉式センサー」と「超音波式センサー」を用いてそれぞれ測定。その結果を基に独自開発した演算方法で、ガスの熱量や燃焼速度などを算出するという仕組み。1秒に4回という頻度で連続して計測できることも売りだ。
中でも光波干渉式センサーは、理化学研究所で発明され創業の礎となった中核技術で、気体の屈折率の変化を捉える役割を担う。光の干渉によって生じるしま模様を示す「干渉縞」の移動量を読み取ることで、各種ガスの濃度を算出するセンサーだ。
このセンサーに超音波式センサーを組み合わせた熱量計「OHC―800」を開発し、これをベースにRTGMSに仕上げた。この熱量計は、可燃性のガスが発生する空間でも稼働できる防爆型のため、安全確保が必須の産業界に応用できる範囲は幅広いという。
開発の原点は、それぞれのセンサーが備える長所と短所を見つめ直す取り組み。開発担当者が、単一のセンサーだと検知してほしくない「雑ガス」にも反応してしまうといった弱点に着目。その反応をセンサーの特性として前向きに捉え、異なる特性を持つ別のセンサーと組み合わせるという考えに行き着いた。
そうした逆転の発想で編み出した技術が、雑ガスの影響を演算処理で除去できる「オプトソニック演算」で、その方式を採用した熱量計を2013年に開発した。その技術をベースに複数センサーを融合するシステムづくりを進め、検証を経てRTGMSに生かした経緯だ。
RTGMSのベースとなる熱量計
RTGMSの展開先として有望視されているのが、水素とCO2を原料に環境にやさしい都市ガス原料を合成する次世代技術「メタネーション」の生産工程。各工程で利用する3種類(水素、CO2、メタン)のガス組成に絞って測定できる。
鉄鋼産業も威力を発揮できる応用先だ。製鉄所で発生する副生ガスは、水素とメタンを主成分としながらも、N2(窒素)とCO2、CO(一酸化炭素)も含み、組成全体が大きく変動する。そうした環境下であっても、発熱量や比重、濃度をリアルタイムでつかめる。 同社が混合ガスのモニタリングを追求する背景には、CN社会を見据えた基幹産業の動きがある。エネルギー業界では、火力発電の燃料をクリーンな水素やアンモニアに置き換える取り組みが活発化しているほか、水素のサプライチェーン構築に向けた動きも広がっている。
次世代エネ市場へ攻勢 社会実装の支援に力
脱炭素を巡る商機を取り込もうと、20年に立ち上げたのが市場戦略課だ。同課は、営業部隊から顧客情報を吸い上げて分析したり製品開発やシステム提案につなげたりする役割を担う部署で、RTGMSを実用化する展開で存在感を放った。
営業推進部副部長で市場戦略課長の寺本考平氏は「顧客の困りごとに関する情報を開発部門に反映し、複数センサーの融合システムを事業化に結びつけた」と振り返る。システム全体の品質を保証・管理する体制づくりにも力を入れたという。
寺本氏は「脱炭素化につながる次世代エネルギーのフェーズが、研究開発や実証試験から社会実装のフェーズに移行しつつある。これに伴い、混合ガスをモニタリングする技術の出番が増えるだろう」と予測。その上で、「エネルギー事業者や産業装置メーカーなどの幅広い業種をターゲットに提案活動を強化していきたい」と意欲を示す。
課題は、RTGMSの普及を促すために必要な導入コストの低減だ。このため、各種センサーの仕様を統合し1台に仕上げる展開を視野に入れている。引き続き用途の可能性も探る方針で、アンモニアの合成・分解反応制御やバイオガスの組成モニタリングへの展開も期待している。ガス検知のイノベーションに果敢に挑む同社の展開から、今後も目が離せない。