1Fでデブリ試験的取り出し 千里の道も〝ひとつまみ〟から

東京電力ホールディングス(HD)は11月7日、福島第一原子力発電所(1F)2号機で炉心溶融によって溶け落ちた燃料デブリの試験的取り出しを完了した。採取したデブリの量は〝耳かき一杯〟分の0・7g。デブリは茨城県の日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗原子力工学研究所で分析され、同機構が1年以内に総括的な評価を行う。

1Fで採取した0.7gのデブリ
写真提供JAEA

1F内のデブリは安定状態と推定されるが、この状態が長期に継続される保証はない。東電HDは30年代に大規模取り出しを開始する方針で、その手法については3月、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の小委員会が報告書を公表した。同社は小委の提言に基づいて、デブリに水をかけながら作業する「気中工法」を軸に検討を進めている。

過酷事故を起こした原発の廃炉を巡っては、チェルノブイリ原発ではデブリが原子炉下に流れ込んで固まり、巨大なドームで原子炉を石棺化した。スリーマイル島(TMI)原発ではデブリが圧力容器の中にとどまり、原子炉内を水で満たす「冠水工法」で99%を回収した。しかし1Fは圧力容器や格納容器が損傷し、デブリには燃料だけでなく金属などが多く混ざっている。量もTMI原発の約6倍だ。

「石棺化の方が合理的」との声がある中で、デブリ全量取り出しに向けて一歩を踏み出した1Fの廃炉作業。今回使用した「釣りざお式装置」の接続順のミスなど東電の対応の甘さは否めないが、生命の危険を伴うだけに静かな環境下で安全第一での作業が望まれる。

都心の地域冷暖房で新たな一歩 50年の蓄積土台に提供価値を拡大

【丸の内熱供給】

丸熱はビジネス街「大丸有」などで熱エネルギーを絶え間なく届けてきた。

培った経験と技術でサービスを拡充し、脱炭素社会づくりも支援する構えだ。

「都心の地域冷暖房を通じ、より良い都市環境の創造をめざす」―。そんな基本使命を掲げて約50年にわたり街づくりを支えてきた丸の内熱供給(丸熱、東京都千代田区)が、次の半世紀へ向けて新たな一歩を踏み出した。防災機能の強化や脱炭素化など、数々の時代の変化に向き合いながら事業を成長させてきた丸熱の歩みに迫った。

都心の地下に広がる配管網

日本を代表するオフィス街で知られる東京都千代田区の大手町・丸の内・有楽町地区。3地区の頭文字をとって「大丸有」とも呼ばれる同地区の地下にはエネルギー供給用のトンネルが張り巡らされ、その中を総延長約30‌kmに達する配管が走っている。その配管ネットワークを通じて、冷暖房用の熱エネルギーを絶え間なく届けているのが丸熱だ。 

現在は、大丸有以外も含めて23カ所のプラントで熱を製造し周辺の建物へ供給している。1970年代当時の大丸有地区は、皇居の松が枯れるなど大気汚染が深刻化し、公害防止の観点から地域冷暖房を推進する動きがあった。そこで、親会社の三菱地所をはじめとする同地区の地権者が中心となって、73年に丸熱を設立した。


大手町にプラント第1号 環境要請で役割が変化

営業を開始したのは76年。同年に丸熱初の地域冷暖房プラントである旧大手町センターが完工し、大手町に建つ複数のビルを対象に蒸気と冷水の供給を始めた。これが、常駐する専門技術員が供給状況を監視して冷暖房需要に対応する「メインプラント」の第1号だ。80年代に入ってからは、内幸町や丸の内一丁目にもプラントを構え、業容を拡大していった。

大丸有地区はその後、国内外の有力企業が集積する国際ビジネスセンターとして存在感を発揮。同地区の整備強化が望まれる中、88年には「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会)が立ち上がった。丸熱もインフラ部会のメンバーとして同協議会に参画し、再開発に積極的に貢献した。

2000年代に入ると、環境庁が省に昇格し、先進国に温室効果ガス排出量の削減を課す「京都議定書」が発効されるなど、国内外で環境問題を重視する機運が醸成。こうした動きを背景に熱供給事業者へ期待する役割も、当初の都市公害対策から省エネルギー化や地球温暖化防止へと変化していった。

丸熱がそうした要請に応えて、大手町を舞台に追求してきたのが、「スパイラルアップ効果」だ。既存・新設の7カ所の冷水プラントを連携させて高効率の最新プラントを優先的に運転することで、エリア全体のエネルギー効率を高める取り組みだ。

東日本大震災が発生した11年以降に防災や事業継続への対応を強化する意識が高まる中で丸熱は、供給体制の強靭化や効率化に向けた取り組みを強化し始めた。

そうした狙いで機能を強化したプラントの一つが、18年に新設した「丸の内二重橋ビルプラント」。コージェネレーションシステムを導入したことが特徴で、そこで発電した電気を非常時に周辺ビルの帰宅困難者受け入れスペースへ供給できるようにした。20年5月には、旧大手町センターを高効率プラントに更新し敷地内移転する工事を終えたのを機に、重油とガスの両燃料に対応した非常用発電機を取り入れた。

丸熱の視線の先にあるのが、脱炭素社会という潮流だ。20年10月には、新時代を見据えた中長期計画「MARUNETU VISION 2030」を発表。同計画を通じて、従来から重視してきた「強靭化」「省エネ」「環境」という三つの価値を深掘りするとともに、「熱供給エリアへの貢献」と「三菱地所グループ内外のパートナーとの共創」という展開に力を注ぐ方針を明示した。

丸熱の中長期ビジョンの概要


外部パートナーとも共創 AIシステムの活用に意欲

エリア貢献に向けては例えば、熱利用に伴うCO2の排出量を相殺する「カーボンオフセット熱メニュー」を用意し、25年度からの供給を目指す。共創の成果の一つが、地域冷暖房プラントの効率を高める「AI最適制御システム」だ。新菱冷熱工業(同新宿区)と共同開発したもので、既存プラントへの採用拡大を狙う。

「時代の変化やニーズに的確に対応しながら、脱炭素社会をリードする新しい丸熱へと進化していきたい」と広報担当者。都市インフラの未来を照らす挑戦から今後も目が離せない。

原子力はエネ安保の要 必要性を分かりやすく伝える

【巻頭インタビュー】川井吉彦/日本原子力文化財団 理事長

資源小国の日本にとって原子力活用の意義は大きい。

政策の前進のために国や事業者に求められる情報発信とは。

かわい・よしひこ 1943年、千葉県生まれ。68年早稲田大学政治経済学部卒業、東京電力入社。同社広報部長、同社取締役、日本原燃代表取締役社長などを経て24年6月から現職。

―原子力を取り巻く現状をどう見ていますか。

川井 エネルギーを巡る安全保障環境の激変が最大のポイントです。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争の終結も見通せません。象徴的だったのは欧州とロシアの関係です。ウクライナ侵攻前、EU(欧州連合)の天然ガスの対ロシア依存度は約40%、ドイツにいたっては55%でした。こうした中でロシアは欧州向けの天然ガス供給を遮断しました。その結果、エネルギーの安全保障で危機感を覚えた欧州を中心に、原子力発電所の運転延長や新増設の流れが急速に広まっています。

フランスは、2022年に6基の新設を発表し、再処理工場も40年以降の稼働を決定。イギリスは設備容量を50年までに最大2400万kW、電力需要の25%を原子力で賄うことを目指し、北欧のフィンランドは旧ソ連時代に建設したロビーサ1、2号機の70年運転を決めました。東欧のエストニアはSMR(小型モジュール炉)建設を検討しています。最近では、これまで原子力発電所がなかったポーランドが日本と建設に向けた覚書を結びました。

─日本については。

川井 日本のエネルギー供給構造は依然として脆弱です。1次エネルギーの8割が化石燃料で、そのうち原油は9割超を中東に依存している。エネルギー自給率も12%。こうした中、原子力の活用方針を明確に打ち出した岸田前政権については高く評価したいと思います。

政府の「エネルギー白書2024」には、昨今のエネルギー情勢について「日本はオイルショック以来のエネルギー危機が危惧される緊迫した事態に直面している」という記述があります。原子力の価値を明確化し、原子力発電所の運転期間などを見直したGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法も「オイルショック以来の危機が危惧される」という厳しい認識の下で作られました。石破政権には岸田前政権の路線を継承してもらい、新たに誕生する米国のトランプ政権に対しては、しっかりとした関係構築を期待したいです。

─最大限活用に向けた課題は何でしょうか。

川井 まずは再稼働ですね。福島第一原子力発電所と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機が12月に、島根2号機が来年1月に再稼働することとなりました。しかし震災後に再稼働を果たした炉は、これらを合わせてもわずか14基にとどまり、審査中が10基もあります。また安全審査が終了した柏崎刈羽6、7号機は、首都圏に電気を供給する東日本の電力需給の要です。東京電力には引き続き地元の理解獲得のため最大限の努力を続けてもらいたい。

また日本の原子燃料サイクル政策の中核を担う青森県六ヶ所村の再処理工場ですが、日本原燃はこの8月に竣工時期を2年半延期し「26年度」としました。新規制基準による原子力規制委員会の審査が長引いている結果ですが、何としても次こそは予定通りの竣工を強く望みます。一方で、むつ市にあるRFS(リサイクル燃料貯蔵)の中間貯蔵施設の操業開始は、原子燃料サイクルの実現に向けた大きな一歩となります。次のステップに進むためにもまずは安全第一に安定した操業を期待したいです。


規制委の組織改革検討を フランスの処分場に注目

─既設炉の再稼働や再処理工場の竣工には、規制委員会の審査が立ちはだかっています。

川井 独立性の高い、いわゆる三条委員会という位置付けは理解できます。しかし、日本が置かれた厳しい現実を踏まえた効率的な審査をお願いしたい。これは決して審査を緩める、手を抜くということではありません。監視機関の設置や外部の有識者を交えた審査の実施など、アメリカの原子力規制委を参考にした組織改革もそろそろ検討すべきと思います。

─他の課題は。

川井 最終処分場については、北海道寿都町と神恵内村に続いて、佐賀県玄海町が文献調査に名乗り出てくれました。実施主体であるNUMO(原子力発電環境整備機構)は、今後ともしっかりと腰を据えて国民の理解度を高めていかなければなりません。また海外を見渡すと、この8月にはフィンランドの最終処分施設「オンカロ」が試験操業を開始しました。ただフィンランドは日本と異なり使用済み燃料を直接処分します。この点、日本と同じくガラス固化体を最終処分するフランスでは、ビュール村で処分場の建設計画が進んでいます。理解活動などいろいろな面で日本の参考になると考えています。

─どうすれば原子力に対する国民の理解を高められますか。

川井 例えば原子燃料サイクルについては、これまで何度となく再処理路線の是非が議論されてきました。六ヶ所再処理工場の竣工が近づけば、再び議論の的となるでしょう。そのためにも、エネルギーにおける日本が置かれた厳しい現実を、広く国民に分かりやすく説明することが重要です。太平洋戦争やオイルショックを経験した日本のエネルギー政策の根底にあるのは、エネルギーの安全保障です。これを確立するために再稼働や再処理といった原子力政策を前に進める必要があり、その一助となれるように職員一丸となって頑張りたいと思います。

当財団は創立55周年を迎えました。これを大きな節目として、先輩の皆さんの志を引き継ぎ、原子力の一層の理解活動に取り組んでまいります。

長期需給見通し巡りバトル 現実路線はエネ研かIEAか

日本エネルギー経済研究所が10日18日、2050年までのエネルギー需給見通し「IEEJアウトルック2025」を発表した。前日には国際エネルギー機関(IEA)が「2024年版世界エネルギー見通し」を公表。関係者からは、50年ネットゼロ達成という「理想の未来」から逆算した「ネットゼロ排出シナリオ(NZE)」があるIEAの見通しよりも、「エネ研の推計の方が現実的で正確だ」との声も聞かれる。

研究報告会であいさつするエネ研の寺澤達也理事長(10月18日)

そんな中、第7次エネルギー基本計画の議論が行われた10月23日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会では、エネ研とIEAが〝対決〟する一幕があった。ゲストとして招かれたIEAのラウラ・コッツィ持続可能・技術・展望局長に対して、エネ研の寺澤達也理事長が「IEAは3年前、(石油・ガス田への)新規の上流投資はいらないと言った。引き続き必要でないと考えているのか」と、厳しい質問を投げかけたのだ。ラウラ氏は「脱炭素テクノロジーへの投資が倍増すれば、化石燃料の需要はピークに達した後に急減するため新たな投資の必要はなくなる。ただこれはNZEだ」と一歩も譲らかなった。

エネ研の「アウトルック」は「気候変動対策の余波などで投資が進まなければ、化石燃料供給がひっ迫する可能性が高い」と警鐘を鳴らす。需給ひっ迫は価格高騰につながり、経済活動に与える影響も甚大だ。次期エネ基では脱炭素に向けた技術進展が進まない場合も念頭に、化石燃料の安定供給維持に向けた目配りが必須だ。

静かでゆったり過ごすキャンプ場 地域活性化の施策として開設

【東海ガス】

東海ガスは今年3月、静岡県藤枝市に「びく石山静かな夜のキャンプ場」を開設した。

キャンプ場を通して、過疎化が進む中山間地域の活性化にも取り組んでいる。

藤枝駅から中山間地域に向けて車を走らせること30分。市街地から離れ、整備された山道を進んだ先に「びく石山静かな夜のキャンプ場」はある。深緑に包まれて耳を澄ますと、木々の揺れる音や風の音が聞こえる。街中の喧騒を忘れさせてくれるようなロケーションだ。同キャンプ場を手掛けるのは地元・藤枝市で都市ガス事業を展開する東海ガスだ。公益性の高いエネルギー事業者には、自治体から地元を活性化する施策を先導してほしいと期待が高まっている。東海ガスでは、地域貢献になるさまざまなアイデアを社内で募集をかけた。この中から、キャンプ場という案が浮上。藤枝市とも中山間地域の活性化に寄与すると意見が一致し今回の開設に至ったという。

「キャンプ場で地元貢献したい」と丸山社長
木を基調としたコテージ


安心・安全、マナーを訴求 他と一線を画すコンセプト

一口にキャンプ場と言ってもさまざまな形態の施設がある。ファミリー・若者向け、学校や団体向け、グランピングなど、アウトドアブームも相まって種類は多彩だ。そうした中で、同キャンプ場が打ち出しているのが名称にもある通り「静かなキャンプ場」だ。

丸山一洋社長は「キャンプ場を宴会場のように利用する人もいるが、ここは『静か』で、プライベートな空間があって、ゆったりとした時間が過ごせることを訴求ポイントにしている。安全・安心で、マナーの良いキャンパーが集まるキャンプ場がコンセプト」と語る。

これに合わせて、設備の建設や運営・管理も徹底している。テントを張る区画サイトでは、全て隣接するサイトの間に2m幅の通路を設けた。隣人の視線を感じたり、話し声が聞こえたりしないように配慮したという。少しでも他人の物音が聞こえると、「静かな自然を楽しむ非日常ではない」からだ。

キャンプ場にはコテージもある。全室エアコン、トイレ、シャワールーム付きで、ビジネスホテルと比較しても遜色がない設備が用意されている。全室ウッドデッキがあり、陶器製の湯舟で、星を眺めながら入浴できる露天風呂付きコテージもある。これらもプライベートな空間がきっちり確保されている。

キャンプサイトには直火を楽しめる区画もある

キャンプ場のクリンネスへの意識も高い。トイレは1日数回点検する。共用の炊事場などの汚れがちな場所もとてもきれいだ。「こうした面に少しでも落ち度があると、女性客はリピートで来場してくれない。SNSの口コミでの評判にもつながっていく」とのことだ。

キャンプ場がオープンして半年以上が経過した。利用状況について聞くと、「週末はほぼ満室で出足は好調。県内はもとより、東京や名古屋からの来場者もたくさんいる。SNSによるプロモーションも奏功している」と話す。

広々した区画のキャンプサイト
静かに星空を眺める空間も好評


地元名物の陶芸で活性化 キャンプ場も応援

キャンプ場のある藤枝市瀬戸ノ谷地区は古くから陶芸が盛んで、同地域の活性化に生かしていきたいと考えている。同市が掲げている「ふじえだ陶芸村構想」では、陶芸を軸にさまざまな事業展開を行い、地域活性化、交流、定住者増加、地域課題の解決や地域ブランドの強化を図ることを目指している。

設備面でも、既存の市営温泉施設「瀬戸谷温泉ゆらく」の隣接地を拡張し、新陶芸センターと道の駅を新設する計画があるなど、強化の様子がうかがえる。東海ガスも、同構想に寄与するように、キャンプ場から宿泊者を複合施設への誘導などを考えている。「キャンプ場は元々市営の牧場があった土地。これを有効活用してキャンプ場を建設した。今後の運営を含めて、地元の皆さんと対話を続けている。同地域の発展に貢献していきたい」と丸山社長は意気込む。

東海ガスでは、キャンプ場に続く、新たな事業も計画中。藤枝市をはじめとする同社エリアの地域貢献に今後も積極的に取り組んでいく構えだ。

むつ中間貯蔵施設が操業開始 安定運営で地元の信頼獲得へ

青森県むつ市に立地する使用済み燃料の中間貯蔵施設が11月6日、操業を開始した。同施設は8月に青森県とむつ市、事業主体のリサイクル燃料貯蔵(RFS)が施設の使用期限を50年とする安全協定を結んでいた。核燃料サイクルに携わってきた有識者は「操業開始はサイクルの運営に柔軟性を持たせ、中長期的なエネルギー安全保障に貢献する大きな一歩だ」と意義を強調する。

むつ市の中間貯蔵施設に入る使用済み燃料を入れた容器
提供:毎日新聞社/アフロ

一方、県内からは「50年という保管期限は守られるのか」と心配する声が上がる。六ヶ所村の再処理工場が稼働しなければ、中間貯蔵施設に保管された使用済み燃料が行き場を失うからだ。そこで宮下宗一郎知事は7月に「搬出先の明確化」を斉藤健経済産業相(当時)に要請。斉藤氏は再処理工場を念頭に、次期エネルギー基本計画で具体的に盛り込む方針を示した。

とはいえ、肝心の六ヶ所再処理工場については日本原燃が8月、原子力規制委員会の審査長期化を理由に竣工時期を「26年度中」へと約2年半延期。中間貯蔵施設に使用済み燃料を搬出した柏崎刈羽原子力発電所は燃料プールの貯蔵率こそ低下したものの、再稼働には地元同意のハードルが残る。東京電力ホールディングスとともにRFSに出資する日本原子力発電は東海第二原発の再稼働が見通せず、敦賀原発2号機は規制委から「不許可」通知を受けた。

原発の稼働から再処理までは、依然として地元同意と規制委という二つのハードルが立ちはだかる。だが「とにかく中間貯蔵施設の安定操業で実績を積むしかない」(原燃関係者)

需要、供給、産業政策、潮流…… 改定への四つの追加検討ポイント

【論点】マスタープランの見直し〈中編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授

需要や供給など、マスタープランを決定付ける要素は激変している。

今後、追加検討が必要となるポイントとは。

本号では第7次エネルギー基本計画をにらみ、マスタープラン(MP)において追加検討が必要となる点に言及したい。MPは電力広域的運営推進機関(OCCTO)が昨年3月、広域での電力系統の長期的な増強方針を示す「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン)」として公表した。11貢の図は、B/C(費用便益分析)の評価対象となる再生可能エネルギーポテンシャルを活用するための新増設と、地内増強の全体イメージ(ベースシナリオ)だ。

地域間連系線及び域内増強の全体イメージ(ベースシナリオ)


追加検討が必要となる一つは、需要面での現状想定に合わせた改定だ。現行では、2050年時点の社会全体の電化率を46%とし、非電力部門からの電化需要を2607億kW時と算定している。だが、直近では、半導体工場やデータセンター(DC)などの立地により需要想定が大幅に変わった。OCCTOの今後10年の電力需要の見通しによると、昨年1月と今年1月に発表した予測の比較では、全体量の増加に加えて北海道、東京、中国、沖縄で最大需要が急拡大する想定となっている。

AI(人工知能)の利用拡大により、これらの電力需要はさらに大幅に拡大する予想もある。図のMPの前提となる50年の発電設備量も当然、これを反映して変更する必要がある。それだけではなく、需要に関してはより現実的な要素を入れる必要がある。 例えば、DAC(CO2の直接回収)がエネルギー転換に伴う需要増の26・7%を占めているが、ベースシナリオではそのうち20%がその一般送配電事業者エリアでのCO2貯留ポテンシャル、80%が需要実績比率で各地域に電力需要として割り振られている。他の脱炭素技術と比較したDACの技術優位性や費用対効果は不明であり、現状に即した技術を考慮すべきだ。


50年の最適な電源構成 透明性のある議論が不可欠

二つ目は供給面での再検討だ。系統計画の前提である発電設備の構成が、現状の50年の想定で本当に最適であるかの議論が必要である。OCCTOのMPは、50年度断面における系統整備について、この便益と費用を評価期間(36年)にわたって合計(割引率を考慮)し評価したものである(50年度断面を36年間評価している)。従って、50年度の設備形成は妥当性があるものでなければならない。例えば、日本風力発電協会が「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の20年7月17日の会合で示した、「洋上風力の主力電源化を目指して」では、着床式で1億2800万kW、浮体式で4億2400万kWと、計5億5200万kWのポテンシャルがあるとしている。

だが、現行のMPに反映されているのは、洋上合計で4500万kWに過ぎない。この点、発電事業者とOCCTOとのより密なコミュニケーションが求められるだろう。MP構築の前に、しっかりとした長期電源計画モデルによる発電設備の形成の議論が、より透明性のある形で行われるべきだ。

三つ目は、産業政策的観点から産業立地を誘導する必要性だ。DC、半導体工場、再エネポテンシャルの大きい地域への立地を推進するとともに、最適配置を考慮しなければならない。どの洋上風力を開発し、どこにDCなどの需要を誘導するか、いくつかのシナリオを決めた上で、どの連系線を新設、増強するかを検討するべきだ。 通信事業者、自治体との連携も不可欠だ。一般に電力ケーブルの敷設にはコストと時間がかかるが、通信ケーブルの敷設コストは100分の1程度だ。再エネが豊富な地域にDCを建設し、都市とは光ファイバーで情報をやり取りし、電力とデジタルインフラを最適化し、全体的なコストを下げるなどの検討も必要となるだろう。ただし、建設コストだけを見れば再エネ適地にDCを立地するのは有利だが、そのエリアはVRE(変動型再エネ)集積地域にもなるため、曇天無風時の供給力や短周期変動の調整力確保も必要だ。こうした点も包括的に考慮、電力と通信の統合を踏まえた国家戦略としての50年の長期電源計画を構築するべきである。


複数シナリオを提示 シミュレーションの実施を

さらに現在、半導体工場やDCの誘致は国際競争になっているため、ある程度送電ネットワーク会社が国と協力して送変電投資をしなければならない部分があり、両者の負担責任を明らかにしなければならないことも今後、重要な論点となるだろう。

最後に、全体の需給と融通の結果の提示だ。現行のMPは、再エネの近傍における需要(水素製造とDACのみ)有無でケースを分けているが、50年の需要の具体的な立地をどのようにノードごとに振り分けているか、明示する必要がある。その上で特定の連系線、基幹送電線のB/Cだけでなく、全国的な潮流の動きを見なければならない。 さらに、それらの前提データを大学、研究機関など、第三者機関がデータ結果を再現し、シナリオを検討できるような情報公開も必要ではないだろうか。欧州の系統運用者の協調機関である欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO―E)では、シナリオ設定、結果、使用データについて全てウエブに公開し、自由に使用が可能となっている。

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ながやま・ひろあき 慶応大学経済学部卒後、三菱総合研究所入所。企業戦略構築のコンサルティングなどに従事。エール大学経営大学院修了(MBA取得)。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了(博士)。2008年から京大国際交流センター教授。20年から現職。

共和党が「トリプルレッド」 トランプ2・0で政策転換必至

米国の次期リーダーがトランプ氏に決定した。11月5日に投開票され、6日未明(現地時間)に勝利宣言した。直前まで勝負は五分五分と見られていたが、ふたを開ければ激戦7州全てでトランプ氏が勝利。得票数でも過半数を獲得し、大統領職・上下両院を共和党が押さえる「トリプルレッド」となった。温暖化防止国際会議・COP29開幕直前にこの報がもたらされ、8年前のフラッシュバックとなった。

勝利宣言するトランプ次期米大統領
提供:AFP=時事

民主党候補がバイデン氏からハリス氏に代わった直後はハリス氏に追い風が吹いたが、徐々に失速。一方、トランプ氏は終盤、現政権の政策が国民の生活不安を招いたことに焦点を絞った。エネルギーでは「ドリル・ベイビー・ドリル(石油の大量生産)」に代表されるグリーン政策を翻す方針を訴えた。

来年1月20日に大統領に就任後、実際にどんな政策が展開されるのか、世界中が注目する。パリ協定からの再離脱で、国際交渉への影響は。インフレ抑制法(IRA)見直しが浮上する中、既にEVの税額控除を外すと報じられており、その他の支援も後退するのか。米国内での石油・ガス開発が促進し、自由貿易協定(FTA)非締結国向けのLNG輸出許可申請の凍結が解除されるのか。そして外交ではどう立ち回るのか―。

論点は枚挙にいとまがないが、アナリストからは「エネルギー関係では米国内政より外交への影響が大きい」「特に中東情勢への関与の仕方が注視される」といった見方が出る。トランプ2・0で世界はどう変わるのか(覆面ホンネ座談会で詳報)

設立4年目の新生労組 多様な人材抱え試行錯誤

【電力事業の現場力】JERA労働組合

東京・中部電力からの社員の転籍を受け、2021年に誕生した。

旧一般電気事業者の枠組みにとらわれない、福利厚生制度の構築が課題だ。

発足から間もなく10年を迎えるJERA。労働組合の活動には新たな船出に胸が躍るとともに〝生みの苦しみ〟もあった。

2021年4月、東京電力や中部電力からの出向者の多くがJERAに転籍した。JERA労組は半年後の10月に誕生することになるが、それまでに東電労組と中電労組で「新しく労組を作る」という難作業があり、時間をかけて丁寧に対応した。発足後は、会社側との交渉の末、高年齢期雇用制度や退職給付制度などを統合・構築。新たにJERA健康保険組合を設立した。

22年以降は新卒・中途採用者が急増し、他社で経験を積んだ人材がJERAの門をたたく。働く人の多様性は企業の課題解決力や生産性向上につながる一方で、労組に求めることはさまざま。「他社に比べて労働条件が劣後しているのでは」―。時にはこうしたストレートな声も寄せられ、「制度を作る上で、何が正解なのか」(松井秀典書記長)と、しばしば悩まされる。

燃料アンモニア転換実証試験を開始した碧南火力発電所

「職場が原点」という理念の下、労組役員は国内の現場はもちろん、これまで、台湾、インドネシア、シンガポール、米国、インド、タイ、英国、ベルギーで働く組合員のもとを回ってきた。JERAは海外で法人を設立し、現地の人材を雇用して事業を展開することが多い。社員が配偶者とともに海外へ赴任し、そこで子どもが産まれることもある。しかし、福利厚生や給与体系などは旧一般電気事業者の制度設計を参考にしたものが多く、「現状との整合性が取れなくなっている」(同)。いかに現場の声を聞き、〝JERA流〟の制度を構築するかが課題だ。

国内の発電所での意見交換会


語学力よりも技術力 労組の役割とは何か

JERAが成長する中で、近年は発電事業、再生可能エネルギー事業、燃料事業など各部門の「個」の強みが増してきた。とはいえ、JERAの強みは、あくまでも上流から下流まで自社でバリューチェーンがつながっていることにある。個の強さゆえに、全体のつながりが途切れてしまっては本末転倒だ。この点、労組は管理職以外の社員全員が同じ組合員。組合活動は社内の一体感醸成にも一役買うことのできる存在なのだ。

人材育成にも課題がある。海外勤務には語学力ととともに技術力も欠かせない。「現場では英語で上手く伝わらないことが図面を書けば伝わり、信頼を得ることができる」という、海外の現場で働く組合員の言葉はそれを象徴している。海外勤務を夢見て入社した社員も、まずは国内の現場でこれまで積み上げ、連綿と継承されてきた運転・保修技術の習得が重要。海外への気持ちがはやる中で、学ぶ姿勢、それに応える真剣な指導と教育、人材を生かすローテーションや仕組みが不可欠だ。

チレボン火力発電所(インドネシア)の中央制御室
組合役員は海外組合員の声を聞きに行く

松井氏は労組の活動で悩むと、事務所の壁に掲げた綱領を見上げる。「働く者の団結をはかる、組合員と家族のよりよい生活をめざす、社会の平和と発展のために貢献する」と記されている。「綱領を実現するために動けばいいんだ」と前向きになれるといい、〝育ての喜び〟をかみ締めながら試行錯誤を続ける。

労組は「会社のチェック機能」と言われる。設立9年目のJERAの成長は早い。そんな中でJERA労組は「常にブレーキを踏むのではなく、いざという時よく効くブレーキ」(栁沼宗昭委員長)であり続ける。

国は原子力に「本気」なのか 政策遅滞でたまる福井の鬱憤

使用済み燃料の県外搬出を巡る関電のロードマップ見直しを巡り、福井県が揺れている。

実効性の担保だけでなく、国が立地地域に寄り添う「誠意」を示すことが肝要だ。

「こうなることは分かっていた」というのが率直な感想ではないか。

関西電力による「使用済燃料対策ロードマップ」の見直しである。原子力発電所から出る使用済み燃料の県外搬出を求める福井県は昨年10月、関電が提示したロードマップを容認。ところが、今年8月に青森県の六ヶ所再処理工場の竣工時期が延期となったため、ロードマップに狂いが生じた。県議会では自民党県議が資源エネルギー庁と関電の幹部らを前に、「『もう一度出すから信用してくれ』では信用できない。3基(40年超運転となる美浜3、高浜1、2号機)を直ちに止めていただきたい」と迫った。

福井県に立地する関電の3原発の使用済み燃料プールは、5年程度で満杯になる見込み。同社は今年度末までにロードマップを見直すとしているが、福井県の了承を得られなければ稼働継続に暗雲が立ち込める。

福井県は原子力の最前線だ(敦賀市役所)


「むつ」共同利用案から4年 「上関」は掘削調査が終了

ロードマップの要旨はこうだ。①再処理工場が2026年度から使用済み燃料の受け入れを開始、②使用済み混合酸化化合物(MOX)燃料のフランス搬出(積み増しも検討)、③中間貯蔵施設の他地点を確保し30年ごろの操業開始を目指す、④発電所構内に乾式貯蔵施設の設置を検討─。

④の乾式貯蔵施設については3月、福井県が3原発全てのサイトでの建設を了承した。だが、ロードマップの見直しを受けて杉本達治知事は「今回の話に決着がつかなければ、乾式貯蔵の事前了解はない」との考えを表明。建設に向けて動き出した時計の針が止まってしまった。とはいえ、あくまで乾式貯蔵は県外搬出までの「つなぎ」の施設で問題の根本解決にはならない。

それは②のフランス搬出も同じだ。搬出量を積み増したとしても3000tを超える使用済み燃料の一部に過ぎず、継続的な搬出は望めない。①の再処理工場の竣工は関電が日本原燃に協力するにせよ、基本的には原子力規制委員会マター。最終的には、やはり③県外の中間貯蔵施設への搬入しかない。

思い出されるのが、青森県むつ市に立地する中間貯蔵施設の共同利用案だ。20年12月、電気事業連合会が共同利用の方針を発表したが、同市の宮下宗一郎市長(現青森県知事)の猛反発などにより棚上げとなった。あれから約4年……。同施設は11月8日に操業を開始した。「(中国電力と共同で建設を計画する)山口県上関町の中間貯蔵施設完成には相当な時間がかかるし、現実的には『むつ』しか選択肢はないのでは」(電力関係者)との声も聞こえてくる。ただ共同利用を再提案するにしても、安定操業の実績を積むまでは動きにくいか。

上関町の建設候補地では11月、ボーリング調査が完了した。今後、中国電力が「適地」と判断すれば町が建設の認否を最終判断することになるが、「むつ」の建設時には現地調査の開始から貯蔵建屋の完成(1棟目)まで8年近くを要した。規制委の審査もあり、「上関」の操業がロードマップで示した「30年ごろ」に間に合うかは不透明だ。

原子力問題に関心なし!? 問われる石破首相の政治手腕

エネルギー業界的には不安の中での船出だ。10月下旬の衆院選を受けた特別国会が11月11日召集され、石破茂首相(自民党総裁)が衆参両院で第103代首相に指名。皇居での首相親任式と閣僚認証式を経て、第2次石破内閣が発足した。

しかし、衆院で少数与党となり、第2次石破内閣は政策面や国会対応で野党の主張への配慮が避けて通れない。しかも、衆院予算委員長に就いたのは、立憲民主党の安住淳・前国会対策委員長。来年夏の参院選を見据え、国会での与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

少数与党として厳しいスタートとなった第2次石破内閣

「岸田(文雄)前政権時代にかじを切った原子力推進路線が引き続き堅持されるのか。石破首相の姿勢や官邸スタッフの陣容、原子力理解派議員の軒並み落選などを見る限り、政治主導の勢いが急減速しそうな気がしてならない」。大手電力会社の幹部は、こう懸念を隠さない。

石破氏は最初の首相就任直後こそ、10月4日の衆参両院本会議における所信表明の中で、「安全を大前提とした原子力発電の利活用」に触れたものの、日本経済新聞が12日に報じたインタビューでは「(エネルギー基本計画について)原発比率の低減があり得る」と語り、電力関係者を驚かせた。そして11月11日の国会召集後の会見では、エネルギー・原子力問題への言及が全くなかったことも特筆される。


官邸主導期待できず 鍵握る国民民主と維新

岸田前首相が2022年10月3日の臨時国会の所信表明の中で、「ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組む。そのために十数基の原発の再稼働、次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示した」と力説したのとは大違いだ。

その言葉通り、昨年5月の通常国会では原発の「60年超」運転に道を開くGX脱炭素電源法が成立。8月には、関係者の多くが難しいと考えていた、福島第一原発から出る処理水の海洋放出を実現させた。

「岸田政権では、政務秘書官の嶋田隆氏が中心になって原子力政策をリードしてきた。彼が官邸から抜けた影響は大きい。しかも石破氏はそもそもエネ政策に関心がない。これまでのような官邸主導体制はもう期待できないだろう」(永田町関係者)

こうした状況に追い打ちを掛けるのが、エネ政策に造詣の深い議員の相次ぐ落選だ。重鎮の甘利明氏をはじめ、原子力正常化に精力を注いできた鈴木淳司氏、党の電力安定供給推進議員連盟事務局長の高木毅氏、同事務局次長の細田健一氏―。

「政治的には、原子力推進に黄信号が灯った格好になった」(自民党関係者)。再稼働、新増設、中間貯蔵、再処理、最終処分など課題は山積みだ。幸い、国民民主党、日本維新の会は原子力推進を公約に掲げている。どうする! 石破首相。

【北海道電力 齋藤社長】北海道をCN拠点へ 脱炭素技術を社会実装 GXビジョンを実現する

最先端の半導体工場やデータセンターの建設が相次ぎ、
今後、大幅な電力需要増が見込まれる北海道。

これまでの知見や技術を最大限活用し
企業の円滑な進出をサポートするとともに、
脱炭素技術の社会実装を着実に進める。

【インタビュー:齋藤 晋/北海道電力社長】

さいとう・すすむ 1983年北見工業大学工学部卒、北海道電力入社。2015年苫東厚真発電所長、19年常務執行役員火力部長、21年取締役常務執行役員火力部・カイゼン推進室・情報通信部担当などを経て23年6月から現職。

井関 今夏は全国的に記録的な猛暑となり、各地で電力需給がひっ迫しました。冬季に向けた供給体制は盤石ですか。

齋藤 10月29日の電力・ガス基本政策小委員会において、今年度冬季の需給に関する見通しが示されました。北海道エリアは最も厳しい1月でも、10年に1度の厳寒を想定した最大需要に対する予備率を10%以上確保できる見通しです。北海道においては暖房機器の稼働などにより、冬季が電力需要のピークとなります。引き続き、ほくでんグループ各社が緊張感を持って設備保全などに努め、安定供給を果たしていきます。

井関 昨年度の長期脱炭素電源オークションで、石狩湾新港発電所2号機の新設と苫東厚真発電所4号機の既設改修で応札し、落札されました。

齋藤 北海道エリアは電力需要の増加に加えて再生可能エネルギーの導入拡大が見込まれていますが、それぞれがいつ、どの程度の規模であるかを見通すことは難しく、予見性の観点から新規電源投資のリスクが大きい状況です。

長期脱炭素電源オークションで落札した電源は、原則20年にわたり、他市場収益(卸取引市場・需給調整市場・非化石収入など)を約90%還付する必要があるものの、建設費用や運転開始後の維持費、事業報酬を回収できる制度であるため、投資回収の予見性が確保できるものと考えています。

井関 石狩湾新港2号機の前倒し稼働を決めました。不透明な電力需要にどのように対応していくことになりますか。

苫東厚真発電所4号機ではアンモニア混焼を予定している

齋藤 石狩湾新港2号機の運転開始時期を、2034年12月から30年度まで前倒しすることにしました。電力広域的運営推進機関が公表している北海道エリアの需要想定では、経済成長やデータセンター(DC)・半導体工場の新増設が続くことによる需要増が、人口減少や節電・省エネなどの減少影響を上回ると見込まれ、当社として、将来の需要増を踏まえ前倒しが必要だと判断したものです。社長に就任した昨年6月ごろは、今後需要が縮小していく中で地域に寄り添いながらどう生き残っていくかが課題でしたが、ラピダスの千歳進出を機に半年ほどで状況は一変したと感じています。 こうした需要増に対しては、まずは既存の発電設備を活用しながら供給していく方針です。それでも、北海道の300万~400万kWという需要規模の中に100万kW規模のハイパースケールDCが立地すれば電力システムへの影響は甚大です。発電設備、ネットワーク設備の在り方を考え、効率的かつ迅速に産業を誘致する観点からプッシュ型で増強を進めていく必要があると考えています。とはいえ、それには資金調達と資金回収の面で大きな課題があります。

まん延する誤情報と印象操作 処理水の次は「処理土」が標的に

【今そこにある危機】林 智裕/ジャーナリス

福島第一原発事故以降、原子力を巡る悪質な言説が後を絶たない。

国内の一部政治家までが加担する「風評加害」は続きそうだ。

多核種除去設備(ALPS)処理水海洋放出開始から1年以上経った。「汚染」は無論、漁業者や福島県民が懸念した風評被害も起きなかった。ただし、これで解決とみなし問題を「過去」にすべきではない。そもそも、処理水放出がなぜ「汚染」と喧伝されたのか。空費された時間もリソースも、山積した莫大な補償も、代償は今後時間をかけてわれわれが支払わされる。

原発事故後、特に原子力関連のイシューは偽・誤情報と恣意的な印象操作にゆがめられてきた。それらが世論を不安に沈め、復興の遅延と原子力産業の荒廃を招いた。処理水放出の社会問題化の背景を分析・対策する必要がある。


中国や北朝鮮が加担 メディアの責任大

「風評加害」とは何か。風評「被害」があれば原因の「加害」も必ずあるとの観点から、主に「事実に反した流言飛語の拡散」「科学的知見の無視や結論が出ている議論の不当な蒸し返し」「不適切な因果関係のほのめかし」「正確な事実の伝達妨害などによる印象操作や不安の扇動」などを指す。

処理水の汚染喧伝は、まさに風評「加害」の典型例と言えた。外務省はホームページで、「汚染喧伝の背景には国家及び非国家主体が日本の政策に対する信頼を損なわせる、民主的プロセスや国際協力を阻害するといった目的の為に、偽情報やナラティブを意図的に流布するプロパガンダ、情報戦の側面があった」と異例の言及をした。

NHKも、「外交戦と偽情報 処理水めぐる攻防を追う」との特集で中国の「汚染水」プロパガンダやネット上の偽情報拡散を取り上げた。韓国公安が逮捕した北朝鮮スパイからは、処理水の偽情報を用いた日韓離間工作の指令書が押収されている。

つまり、処理水問題は無知不安に基づく風評「被害」ではなく、「何らかの目的の為に正確な情報が確信的に無視された」風評「加害」こそ本質であった。

誤った情報は復興の遅れにつながる(相馬港)

こうした状況は、鳥海不二夫・東京大学大学院教授が処理水放出直前の昨年7月、1カ月間にSNS(X)上における「汚染水」「処理水」を含む投稿101万件以上を対象とした調査からも示唆される。放出反対の主張は立憲民主党・共産党・れいわ新選組の支持層に極端に偏っており、政治党派性との強い相関が確認された。

主要論点も当事者最大の懸念であった「風評と偏見差別」とは乖離していた。むしろ非科学・差別的かつ当事者に直接不利益をもたらしかねない「汚染水が海洋放出される」に類した、関東大震災時の「井戸に毒」を彷彿させる流言拡散が相次いだ。立憲・共産・社民・れいわの議員や一部著名人には、自ら直接加担した者さえ少なくない。不祥事は野放しにされ、党や業界からの処分抑制もなかった。

報道も沈黙、処理水の理解醸成が必要な時期の周知も怠った。新聞は「汚染水」(北海道、赤旗、社会新報、桐生タイムス、中外日報)、「処理済み汚染水」(朝日)、

「放射能汚染水」(東京)、「汚染処理水、処理汚染水」(朝日、東京、中国、毎日、北海道、河北新報、共同通信)「Radio Active Water」(NHK)、「Fuku-shima Water」(共同、毎日、Japan Today News)などの表記を執拗に続け、読者に「汚染」の認知固着を招いた。世論の理解合意を自ら妨げ、その理解合意不足を盾に反対した。少なからぬ処理水放出反対論が「当事者のため」を目的とせず、「風評加害」を用いて解決を妨げ続けた実態は明らかだ。 「汚染」の予言が外れた後も「風評加害者」らは謝罪一つなく、社会から何ら責任を問われぬまま次の問題に標的を変えた。すでに一部は福島県内の除染で発生した除去土壌の減容化・再生処理を施した処理土に対して「汚染土」と喧伝する、処理水の二番煎じの社会運動に移った。

【コラム/11月28日】地方創生戦略とその体制を考える~違和感伴走の10年

飯倉 穣/エコノミスト

1、地方の低迷継続

日本の地方の多くは、経済停滞や人口減少に悩む。人口戦略会議は消滅可能性地方自治体(744)を予測する。2014年まち・ひと・しごと創生総合戦略が策定され、地方創生の言葉が生まれて10年を経た。毎年基本方針が作成され、石破内閣は、改めて地方創生を基本政策に掲げた。報道もあった。

「地方創生問われる実効性「2.0」始動 首相、交付金倍増方針」(朝日2024年11月9日)

「政府、地方創生に5本柱 東京一極集中是正やデジタル活用 閣僚会議初会合 首相「付加価値を創出」」(日経同)

施政方針演説(10月4日)で「(五)地方を守る」があった。「地方創生の原点に立ち返り、地方を守り抜きます・・「産官学金労言」・・こうした地域の多様なステークホルダーが知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し・・すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会。それが地方創生の精神です・・「地方こそ成長の主役」です・・これまでの成果と反省を活かし、地方創生2.0として再起動させます。全国各地の取組を一層強力に支援するため、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指します・・私が先頭に立って、国・地方・国民が一丸となって地方創生に永続的に取り組む機運を高めてまいります」と述べた。そして地方経済・生活環境創生本部を設置し議論を始めた。地方開発担当で過去経企庁・国土庁という担当官庁があった。永続的課題である地方創生・地方開発の取組みを考える。


2、ローカル・アベノミクス

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(閣議決定14年12月27日)は、人口減少と地域経済縮小の克服を謳い、東京一極集中是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望実現、地域特性に即した地域課題解決を目指した。しごとの創生で雇用量の確保・拡大、ひとの創生で若者の地方就労を促し、まちの創生で都市のコンパクト化と公共交通網の再構築等を例示した。基本方針は、縦割り、全国一律、バラマキ、表面的、短期的政策を改め、政策5原則として自立性(地公体・民間事業者・個人等に自立)、将来性(前向き取組支援)、地域性(各地域の実態実態適合施策支援)、直接性(直接的支援かつ産官学金労連携)、結果重視(PDCA採用:計画・実施・評価・改善)を挙げた。

政策の基本目標は、4つである。①地方で安定した雇用創出(30万人)、②地方への新しい人の流れをつくる(地方雇用年10万人増で、東京転入年6万人減少、東京から地方への転出4万人増加で転出入均衡)、③結婚出産・子育ての希望実現(出生率1.8)、④時代にあった地域つくり・暮らしの安心・地域連携(まちの活性化:小さな拠点整備、地域連携推進)だった。担当は、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部、内閣府地方創生推進事務局だった。今回前者は、何故か「新しい地方経済・生活環境創生本部」に名称を変更した(24年10月)。

政府の支援策は、情報支援(地域経済分析システム)、人材支援(地方創生人材支援制度)、財政支援(地方創生交付金)である。そして強調する。日本を変えてきたのは、地方である。地方が自ら考え、責任をもって自ら取り組むことが何よりも重要である。全国一律でなく、地方による裁量性と責任ある地方主導の政策づくりを全力で支援していくと。政治的プロパガンダである。当初から時代や経済の流れに浮かぶ大風呂敷で実効性に疑問があった。


3、5年経過して~2019年見直し

第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(19年12月20日)は、5年間の実績を検証した。基本の流れ(人口減少、東京一極集中)は変わらないが、起業、副業・兼業、サテライトオフィスで動意もみられる。また各地域の取組みで地域により,観光、経済産業、移住・定住、子ども・子育て、交通ネットワークの目標設定(KPI)を達成・進捗した例もあるという。好評価を言えず、多くで効果不鮮明を印象づけた。成果は乏しかったが、行政の仕事作りは継続する。

第2期は従来の4基本目標に加え、横断的な目標を追加した。①多様な人材の活躍を推進する(地方創生を担う人材確保等)、②新しい時代の流れ(Soceity5.0やSDGs)を力にするという2つである。政策5原則は、①自立性、②将来性、③地域性、④総合性、⑤結果重視となった。当初の5原則のうち④の直接性を総合性にかえた。多様な主体・地域連携等で総合的な施策に取組みつつ、直接的に支援する施策に取り組むとした。

地方創生を、地域活性化と捉えた場合、5年程度の政府誘導で、地方の活力(雇用確保、生活条件、地域魅力等)を取り戻す、あるいは向上することは容易でないことを示した。毎年1000億円の予算が注ぎ込まれた。勿論生活環境等の整備・改善例もある。ただ従来の地域行政の取組みとの違いが分かりにくい。

光学と音速のセンサー融合 独自開発の演算手法を駆使

【技術革新の扉】混合ガスの連続モニタリングシステム/理研計器

複数の成分を常時モニタリングする革新技術を実用化した理研計器。

脱炭素化の潮流を背景に高度化する濃度検知のニーズに応える構えだ。

複数の成分が混合するガスの状態をリアルタイムで精緻に把握できる―。そんな革新的な機能を備える「リアルタイムガスモニタリングシステム(RTGMS)」を実用化したのが、産業向けガス検知・警報器市場でトップシェアを誇る理研計器だ。

エネルギーや半導体などの基幹産業がカーボンニュートラル(CN)時代を見据えた取り組みを加速する中、脱炭素化に欠かせないガス濃度のセンシングニーズが高度化。得意のガス検知技術で産業界に新風を注ぎ込む挑戦の最前線に迫った。

発電や都市ガスから自動車や製鉄に至るまで、多様な業種の現場をガス検知・警報器事業を通じて支えてきたのが同社だ。

理研計器創業の基となった検定器

都市ガス一つとっても、原料となるLNGの受け入れから貯蔵や気化を経てガス受給者に届けるまでの一連のプロセスで、各工程に多くのガス検知器が設置されている。安全性を確保する観点から、微量のガス漏えいを食い止めることが狙いだ。

幅広い業界で培ったガス検知のノウハウや技術を駆使して満を持して開発したのが、二つのセンサーを組み合わせて混合ガスを構成する成分の状態を把握できるようにしたRTGMSだ。

同社によると、組み合わせるセンサーを追加することで多くの成分をモニタリング可能で、特に3~5成分への対応で優位性を発揮する。


創業からの蓄積を反映 逆転の発想で新たな価値

具体的には、ガス中を伝わる光と音の速度を「光波干渉式センサー」と「超音波式センサー」を用いてそれぞれ測定。その結果を基に独自開発した演算方法で、ガスの熱量や燃焼速度などを算出するという仕組み。1秒に4回という頻度で連続して計測できることも売りだ。

中でも光波干渉式センサーは、理化学研究所で発明され創業の礎となった中核技術で、気体の屈折率の変化を捉える役割を担う。光の干渉によって生じるしま模様を示す「干渉縞」の移動量を読み取ることで、各種ガスの濃度を算出するセンサーだ。

このセンサーに超音波式センサーを組み合わせた熱量計「OHC―800」を開発し、これをベースにRTGMSに仕上げた。この熱量計は、可燃性のガスが発生する空間でも稼働できる防爆型のため、安全確保が必須の産業界に応用できる範囲は幅広いという。

開発の原点は、それぞれのセンサーが備える長所と短所を見つめ直す取り組み。開発担当者が、単一のセンサーだと検知してほしくない「雑ガス」にも反応してしまうといった弱点に着目。その反応をセンサーの特性として前向きに捉え、異なる特性を持つ別のセンサーと組み合わせるという考えに行き着いた。

そうした逆転の発想で編み出した技術が、雑ガスの影響を演算処理で除去できる「オプトソニック演算」で、その方式を採用した熱量計を2013年に開発した。その技術をベースに複数センサーを融合するシステムづくりを進め、検証を経てRTGMSに生かした経緯だ。

RTGMSのベースとなる熱量計

RTGMSの展開先として有望視されているのが、水素とCO2を原料に環境にやさしい都市ガス原料を合成する次世代技術「メタネーション」の生産工程。各工程で利用する3種類(水素、CO2、メタン)のガス組成に絞って測定できる。

鉄鋼産業も威力を発揮できる応用先だ。製鉄所で発生する副生ガスは、水素とメタンを主成分としながらも、N2(窒素)とCO2、CO(一酸化炭素)も含み、組成全体が大きく変動する。そうした環境下であっても、発熱量や比重、濃度をリアルタイムでつかめる。 同社が混合ガスのモニタリングを追求する背景には、CN社会を見据えた基幹産業の動きがある。エネルギー業界では、火力発電の燃料をクリーンな水素やアンモニアに置き換える取り組みが活発化しているほか、水素のサプライチェーン構築に向けた動きも広がっている。


次世代エネ市場へ攻勢 社会実装の支援に力

脱炭素を巡る商機を取り込もうと、20年に立ち上げたのが市場戦略課だ。同課は、営業部隊から顧客情報を吸い上げて分析したり製品開発やシステム提案につなげたりする役割を担う部署で、RTGMSを実用化する展開で存在感を放った。

営業推進部副部長で市場戦略課長の寺本考平氏は「顧客の困りごとに関する情報を開発部門に反映し、複数センサーの融合システムを事業化に結びつけた」と振り返る。システム全体の品質を保証・管理する体制づくりにも力を入れたという。

寺本氏は「脱炭素化につながる次世代エネルギーのフェーズが、研究開発や実証試験から社会実装のフェーズに移行しつつある。これに伴い、混合ガスをモニタリングする技術の出番が増えるだろう」と予測。その上で、「エネルギー事業者や産業装置メーカーなどの幅広い業種をターゲットに提案活動を強化していきたい」と意欲を示す。

課題は、RTGMSの普及を促すために必要な導入コストの低減だ。このため、各種センサーの仕様を統合し1台に仕上げる展開を視野に入れている。引き続き用途の可能性も探る方針で、アンモニアの合成・分解反応制御やバイオガスの組成モニタリングへの展開も期待している。ガス検知のイノベーションに果敢に挑む同社の展開から、今後も目が離せない。