【多事争論】話題:EV失速
欧米を中心にEV販売台数の伸びが鈍化し、一時期の勢いを失っている。
この流れは続くのか。それとも次世代モビリティの主役の座は不変か。
〈 自動車産業の成長が最重要 各国は導入目標見直しにかじ 〉
視点A:古野 志健男/SOKENエグゼクティブフェロー
2023年から24年にかけて世界の自動車市場の潮流変化に関して、メディアではバッテリーEV(BEV)バブル崩壊の正否論争が盛んだ。筆者の見解は以下の通り。
BEVバブル崩壊は正しい。だからと言って、将来BEV市場が縮小するということではない。過剰な拡大傾向が鈍化し、BEVも含めてカーボンニュートラル(CN)に対応した全てのパワートレイン車両が市場ニーズに合わせて適正化していく。
非現実的な35年のCO2排出規制というマイルストーンに対して、欧州中心に世界の自動車メーカー(OEM)はBEVの利便性や充電インフラなど市場の受容性を充分に考慮せず、BEV開発と市場投入へ急激にかじを切り過ぎたのだ。各国政府も市場を直視せず、補助金と称してBEV普及をやみくもに推進し過ぎた。アーリーアダプター(新しい商品やサービスを早期に購入する消費者)にはBEVが行き渡ったが、ユーザニーズによっては課題も多く、その後の新車販売が急減速している。BEVに肩入れしすぎたOEMは、収益悪化や財政難に陥った。つまり、そのアンバランスがBEVバブル崩壊と言える。
一方、35年の各国の自動車CO2排出規制は変わっていない。欧州の「Fit for 55」パッケージでは、35年から販売する乗用車と小型商用車は、テールパイプでCO2排出ゼロでなければならない。中国では、35年から各OEMに対して新エネルギー車(NEV)50%以上を義務付けている。米カリフォルニア州でも35年までに新車販売を100%ゼロエミッション車にする法案(ACCⅡ)が成立している。米国環境保護庁(EPA)では、32年の自動車CO2排出量を26年比で56%削減する案のパブコメ中である。これらへの対応は現実的に厳しく、適正に見直される可能性がある。
経営不振に陥るフォルクスワーゲン BEV一辺倒ではなく全体最適へ
欧州委員会では24年12月1日、環境派のフォンデアライエン委員長の2期目がスタートした。新体制で同委員長が主導する「欧州自動車産業の将来に関する戦略的対話」では、欧州自動車産業の競争力を強化することが重要で、その上で脱炭素化の推進をしていくという。そのためには、BEVやハイブリッド車(HEV)の普及促進、再エネの利用拡大が焦点となる。つまり、欧州OEMの経営体力を向上する方向でのCN政策となるので、35年のFit for 55での乗用車CO2規制の見直しも有り得るのではないか。その背景には、BEVに大きくかじを切っていたフォルクスワーゲンが、大幅な収益悪化による経営不振で初めて自国の複数の工場閉鎖や人員削減の検討に入ったことがあると思われる。
中国ではBEV離れが顕著だ。BEV生産しか行わない国内OEMの倒産や淘汰が相次いでいる。BEV事業で収益を得ているのは、BYDくらいではないかとも言われている。未使用も含めたBEVの墓場が随所に存在するとの報道もある。経済も低迷していて、政府財政も厳しい。エンジン開発部門のあるBYDやジーリーは、エンジン熱効率46%台という超高効率な電動車専用エンジンの開発に投資し、それらを搭載した収益性が高いプラグインハイブリッド車(PHEV)をそれぞれ24年に市場投入した。中国でもやはり、まずはOEMの企業体質を強化しつつ、CNで収益性の高い電動車を推進する政策に移行していくのではないか。
米国では、25年1月20日に第二次トランプ政権が誕生する。EPAの32年CO2削減案が大幅に緩和される可能性が大きい。第一次トランプ政権でも、EPAはオバマ政権時代の自動車燃費基準の考え方を180度方針転換した経緯がある。またカリフォルニア州のACCⅡ規制について、米OEMの対応が困難を極める。ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラ会長兼最高経営責任者(CEO)は「35年に全車をZEVにするのは困難な道のりで、最終的には顧客に従う」と述べている。フォードは、BEV事業の大幅赤字で製品の投入計画の中止や延期を決定し、今後はエンジン車も含めて全方位戦略へ方向転換すると宣言した。州政府としても見直しを余儀なくされるだろう。
いずれにせよ、CNへの取り組みは世界の自動車産業の持続可能な成長がベースにある。CNを追い求めて産業が崩壊すれば元も子もない。BEV一辺倒ではなく、各種電動車、CN燃料対応エンジン車、CO2回収や植林などのカーボンクレジット活用など、ほかのセクターとともに全体最適で対応していくしかないのだ。






