【事業者探訪】大多喜ガス
創業以来、国産天然ガスをベースとした事業で地域の発展を支え続けてきた。
貴重な資源を長期安定供給できるよう、カーボンニュートラル対応にも意欲的に取り組む。
千葉県産天然ガスの供給を軸とする大多喜ガス(千葉県茂原市)は、最近のエネルギー高騰下でもガス料金が値上がりしない会社として注目を集めている。緑川昭夫社長は「地政学リスクのない国産資源を大事にしていきたい」と強調する。
2014年にホールディングス化し「K&Oエナジーグループ」を設立。緑川氏は同社と大多喜ガスの社長を兼務する。K&Oエナジーグループ子会社の「関東天然瓦斯開発」が天然ガス生産、「大多喜ガス」がエネルギー供給事業、「K&Oヨウ素」が天然ガス生産に付随するヨウ素事業を展開する。

主力の都市ガスの需要家件数は18万件。茂原市、八千代市、市原市、千葉市中央区・緑区などへ供給し、歴史的な背景からエリアが点在している。八千代市は昭和40年代から、ガラス加工用に石炭・石油由来ガスでなくメタンガスが欲しいとのガラス製造会社からの要望に応じたことに始まる。また市原市や千葉市は、集団供給方式による圧縮天然ガスの普及をきっかけに供給を開始した。
家庭・業務用はほぼ県産 数百年は採掘可能
大多喜ガスでは家庭・業務用向けのガスを、ほぼ県産ガスで賄う。千葉県下に広がる南関東ガス田の可採埋蔵量は約800年分とも試算される。県産ガスの生産は主に、井戸に圧縮ガスを送り込み、地層から天然ガスが溶け込んだかん水をくみ上げる方式だ。かん水から分離したガスはメタン純度が非常に高く安定し、都市ガスとして利用する際は熱量調整が不要だ。
分離したかん水にはヨウ素が含まれる。実は日本は世界の3割ほどを占めるヨウ素生産大国で、さらに千葉がその8割ほどを担う。ヨウ素製造・輸出の業績は、今は円安もあり好調だ。
県産ガス主体で供給する家庭・業務用のガスは13Aよりやや熱量が低い12Aだが、多くの需要家が家庭で使用するガス機器は12A・13A共用であり、デメリットは少ない。他方、生産・輸送過程のCO2排出量が輸入LNGより少なく、天然ガスの中でも特に環境に優しいという特徴を併せ持つ。

家庭・業務用ガス料金は燃料費調整制度の適用をしておらず、総括原価での固定価格だ。CIF価格が安い時期は大手都市ガスより高いこともあったが、最近は県産ガスが安い局面が続く。「生産・輸送時の電気代や人件費高騰などはあるが、当面価格は維持したい」(緑川社長)
県産ガスには実質的な生産上限があり、大多喜ガスが供給する都市ガスの全量はカバーできない。そこで同社は、石油化学企業からのオフガスやBOG(ボイルオフガス)の調達を行うほか、産業用向けに東京ガスや東京電力エナジーパートナーからLNGの卸供給を受ける。
そして2年前には、JERA富津LNG基地から姉崎火力をつなぐ「なのはなパイプライン」(総延長31㎞)が完成した。建設費は大多喜ガスと京葉ガスで出資。大多喜ガスとしては、市原の化学工場などの需要の伸びに対応すべく出資を決断した。緑川社長は「さらなる需要増にも応えられる。コロナ禍で各社控えていた設備投資の活性化に期待したい」と語る。