GXとDXの先進工場 カギは「徹底的に無駄を省く」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.24】関口博之 /経済ジャーナリスト

来訪者に有料で工場見学をさせる会社がある。愛知県碧南市にある旭鉄工だ。トヨタ自動車のティア1として鍛造やダイキャスト部品を作っている。創業80年の同社が、2016年に木村哲也社長が就任以来、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)の先進工場に生まれ変わった。先日その木村さんと、製造業のGXをテーマにしたパネルディスカッションで同席する機会があった。

旭鉄工の木村哲也社長

なぜGXに取り組むのか。木村さんの答えは明快で「儲かるから」だという。数字がそれを示す。

売上高150億円規模の同社で年間利益を10億円増やした。電力使用量は26%減らし1.5億円のコスト削減につなげた。カギは「徹底した省エネ」、それといわゆる「カイゼン」「原価管理」、この三つを一体で行うことだという。

省エネの手法はこうだ。まず製造ラインの電力使用量を稼働中の「正味電力」と異常や段取り替えで機械が止まっている時の「停止電力」、それに昼休みや稼働終了後などの「待機電力」に分ける。電力計を付けただけでは無駄は見つけられない。稼働状況と突合することで、「正味」ではない「停止」「待機」の無駄な電力をあぶりだす。当初実測してみると実に工場の電力の60~70%が「停止」や「待機」だったという。深夜、早朝にも電源オンのままだったものをきちんとオフにするようにしたことで正味率が71%に向上した。

現場の写真を見ると、昼休みなど休憩時には「必ず非常停止(ボタン)を押すこと」という掲示がある。非常停止は目的が違うのでは? と聞いてみると「非常停止の時は限られた範囲で電力を切る。止めてはいけないところは止めないのでこれがよい」と木村さんは言う。なるほど。

旭鉄工では製造ラインの稼働状況を、IoTを使って常時モニタリングするシステムも自社開発している。その結果どうなるか。消費電力と稼働状況から生産数が分かるので、400近い品番がある部品について「1日ごとの1個当たりのCO2排出量」まで算出できるようになっている。ここまでやってこそ見える化と言えるのだろう。

こうしたシステムとノウハウは自社内で共有されるだけではない。何とそれを外販するため、木村さんは子会社を作り、その代表も務める。積み上げてきたカイゼンやGXのノウハウはまさに自社の競争力の源泉、公開するのはもったいないのでは? と聞くと木村さんは「そこはもはや、競争領域ではない」という。既に主要サプライヤー20社余りにノウハウを提供し、スコープ3のCO2排出削減と(取引先のコスト削減分を反映した)調達価格低下の形でメリットを得ている。

「良い結果が出ているノウハウは共有し、さっさとやって、人材など貴重なリソースは真に付加価値を生むことに振り向けるべきだ」。木村さんは再三、こう口にする。それでこそ日本の製造業の活路が開けるというのだ。確かにここには良い見本がある。ぜひ、工場にも伺おう。ただその前に見学料がいくらかを一応、確認しておかないと。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

能登半島地震に見る火事場泥棒議論 冷静な思考で現実のリスク対策を


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

2024年元日に起きた能登半島地震を受けて、通常国会の冒頭は震災対応が議論の中心となった。私も、国会開会前の1月24日の予算委員会閉会中審査で質疑に立ち、災害時における原子力規制委員会の情報発信の乏しさを指摘した。これを受け、岸田文雄首相からは「規制委員会において審議をし、対応について見直しが行われることになる」という前向きな答弁を得ることができた。

開会後の衆議院の本会議では、震災とエネルギー政策に絡めた二つの質疑がなされた。

一つ目は、日本共産党の「地震、津波など自然災害によって原発事故が起きたら、住民は避難することさえできない。それでも再稼働せよというのが政府の方針ですか。とりわけ深刻なトラブルが発生した志賀原発、柏崎刈羽原発は、直ちに廃炉の決断をすべき」というものだ。

今回の震災で震源地に近い志賀原発では一部の電源系統でトラブルなどが発生したが、原子炉の機能そのものに深刻な影響はなかったのが実態だ。原子力規制委員会が規制当局としての立場から、起きた事象を確認し、リスクを評価して国民に伝える積極的な情報提供を行わないから、共産党のような論調がまかり通ることになる。地震、津波などとの複合災害については、今回のことも教訓として、防災計画などを不断に見直し、必要なインフラを整備していくべきであろう。

もう一つの質疑は、国民民主党の「能登半島地震では、北陸電力と北陸電力送配電会社、そして他の電力会社や送配電会社が応援に駆けつけて、一体となって取り組んだことで早期の停電解消につながりました。有事も想定し、これまで進めてきた電力自由化について、冷静な検証と見直しが必要ではないでしょうか」というものだ。


自由化との因果関係は? 共通する「牽強付会」

趣旨は、電力自由化が進むとレジリエンス(回復力)が低下して災害対応ができなくなるということなのだろうが、「冷静な」思考をすれば、電力自由化が進めば進むほど災害対応が弱くなるなどと、その因果関係を合理的に説明することは困難だろう。どのような電力システムであっても、そのシステムに応じた危機管理体制を法令などに基づいて作るべきであり、どの電力システムにすればレジリエンスが強化されるのかという議論にはならないだろう。

これら二つの議論は、全く別の観点からのものではあるが、災害にかこつけて自らの実現したい政策の土俵に持っていくという「牽強付会」であることは共通している。

私たちはこうした時こそ、こうした火事場泥棒的な議論に付き合うのではなく、災害を通じて明らかとなった現実のリスクに向き合い、そのリスクを極小化するために必要な体制や対策を構築していく、地道な作業を積み重ねていくべきであろう。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

再エネ有効活用と料金抑制へ 家庭向け上げDRを開始


【SBパワー】

SBパワーがスマホアプリを通じた「上げDR」に乗り出す。

消費者の行動変容を促し、再エネ有効活用と料金の低廉化につなげたい考えだ。

ソフトバンク傘下で電力小売事業を手掛けるSBパワーは今春、スマートフォン向けサービス「エコ電気アプリ」を通じ、再生可能エネルギーの普及により発生頻度が増えている電力余剰時に家庭の需要家に電気の使用時間帯の変更を促す「上げDR(デマンド・レスポンス)」をスタートさせる。

同社は2020年7月に、翌日の電力需要予測や卸市場価格などを踏まえ、同アプリを通じて需要家に節電への協力を呼び掛ける下げDRを開始。これまでに自社の契約者120万世帯、同サービスを実装する大手電力・都市ガス6社の契約者も含めると合計で300万世帯以上が参加し、実効性の高い家庭向け節電サービスとして高い評価を得ている。

九州電力における上げDRの成果

また、卸電力市場価格が落ち着きを見せ節電を求められる頻度が低下している中でも、継続的に需要家とコミュニケーションを取ることで、節電依頼に対して平均40%超という高い参加率を維持しており、エナジー事業推進本部事業開発部事業開発課の楠見嵩史担当課長は、「いつ卸市場価格が高騰しても、お客さまに節電にご協力いただける環境はできている」と自負する。

こうした中、太陽光発電を中心とする再エネの導入拡大に伴い、新たな問題として浮上してきたのが、需給バランス維持のために実施する出力抑制対策だ。CO2フリーの再エネをより有効に活用するためには、需要側の機器制御や蓄電池の導入などと合わせ、需要家の行動変容を促すことが欠かせない。同社が新たに上げDRに取り組もうとしているのも、そこに狙いがある。

仕組みは下げDRと同様、前日にアプリのプッシュ通知により、どの時間帯に電気の使用時間帯を変更してもらいたいか利用者にお知らせ。成果に応じて、翌日に報酬としてPayPayポイントを付与する。上げと下げでは需要家が取るべき行動が大きく変わるため、何を求めているのか一目で分かるよう、アプリ画面にも工夫を加えている。

【マーケット情報/3月8日】欧米原油下落、経済減速が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が下落。景気の冷え込みにともない、石油需要が弱まるとの見通しが強まった。

中国政府は、今年の経済成長目標を5%に設定。消費の減速、地方政府の債務を背景に、前年の実績5.2%から低い値に設定された。また、国際エネルギー機関は、今年の中国製油所における原油処理量の予測に下方修正を加えた。

米国では、連邦準備理事会が、金利引き下げの可能性を示唆。ただ、インフレ率が2%に確実に近づいたと判断し次第開始するとのことで、市場では、金利の高止まりはしばらく続くとの見方が広がった。

供給面では、米国の原油在庫が前週比で増加。6週間連続での増加となった。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は上昇。サウジアラビアやロシアなど、OPECプラスの加盟国8カ国が、自主的追加減産を6月末まで延長すると発表した。また、中東情勢は依然緊迫しており、供給不安が根強い。供給減少の予想が、ドバイ現物の支えとなった。


【3月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=78.01ドル(前週比1.96ドル安)、ブレント先物(ICE)=82.08ドル(前週比1.47ドル安)、オマーン先物(DME)=83.34ドル(前週比1.75ドル高)、ドバイ現物(Argus)=83.32ドル(前週比1.74ドル高)

災害時の復旧活動支援に期待 情報共有プラットフォーム本格運用へ


【電力中央研究所】

電力中央研究所は停電復旧に資する情報を共有するプラットフォームを開発している。

復旧資材や人員の確保、工事班の配置、他社応援の検討などへの活用が期待される。

元日に発生した能登半島地震では道路の寸断などにより、インフラ復旧に時間を要している。災害大国として、レジリエンス強化を追求する必要性を再認識した人も多いだろう。

電力レジリエンスの対応としては、電力設備自体の強靭化対策といったハード面の対応に加え、ソフト面での対応があり、事業者間の連携強化が求められている。災害が発生した際には、被害状況の予測・把握が必要不可欠だが、近年はデジタル技術の発達により、SNSや衛星画像など即時に情報が手に入るようになった。災害対応においても、それらを活用する機運が高まっている。

大きなきっかけとなったのは、千葉県を中心に大規模停電を引き起こした2019年の台風15号だ。多数の倒木や飛来物などで復旧作業が難航し、停電は長期化。被害の全容把握に時間を要し、復旧見通しに関する不確かな情報が流れたこともあった。

その後、経済産業省は電力レジリエンスワーキンググループ(WG)で復旧対応の検証を行い、被害状況の迅速な把握・情報発信、国民生活の見通しの明確化、被害発生時の関係者の連携強化などの論点を整理。取りまとめでは「現場状況の把握が困難な場合にも活用可能な情報を検討し、情報を迅速に収集して停電復旧時間を見積もり、関係者に情報を届けるための情報基盤が必要」との提言が行われた。この提言を受け、電力中央研究所は経済産業省の委託研究として「早期電力復旧情報プラットフォームRESI(レジ)」の開発を20年から開始。一般送配電事業者の協力を得ながら、現在も独自に開発作業を進めており、近い将来、本格運用を見込む。

「早期電力復旧情報プラットフォーム RESI」の概要


レジリエンス強化に向けて 情報共有の新たな取り組み

RESIは、①災害情報プラットフォーム、②災害情報データアーカイブス、③復旧見通し予測―という三つの機能を有する。

①については、リアルタイムでSNS投稿数や停電情報、各種災害情報を収集・表示する。府省庁や都道府県、指定公共機関などの災害情報システムをつなぐ基盤的防災情報流通ネットワーク「SIP4D」とも連携しており、あらゆる情報から「いま何が起きているか」を支店や営業所といったさまざまな解像度で確認できるのが強みだ。

②では過去災害の検索から、停電状況など当時の様子を画面上で再現できる。

③では、①②から復旧の阻害要因を見つけ出し、過去の災害情報などと組み合わせて自動的に復旧見通しを予測する仕組みを研究中だ。できるだけ早い段階での電力各社への提供を目指す。20年6月に成立したエネルギー供給強靭化法では、事業者に48時間以内の復旧見通しの公表が求められているが、この対応への参考情報としての活用も期待されている。

脱炭素とエネルギー安保両立へ 重層的な戦略志向のエネ基に


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説副委員長

ウクライナ危機以降、各国は脱炭素とエネルギー安全保障の両立を迫られている。

年内に改定される国のエネルギー基本計画には、重層的な戦略志向が求められる。

 「どんなシナリオが描けるのか。検討すべき課題が多過ぎて、今は五里霧中だ」―。政府の「エネルギー基本計画」の改定に向け、経済産業省幹部から悩ましい声が漏れている。前回の第6次計画(2021年10月閣議決定)以降、エネルギーを巡る環境や国際情勢は激変し、新たな計画策定のハードルは格段に上がった。

ウクライナ危機で環境激変 計画策定は難作業に

前回は、気候変動問題に対応した脱炭素の取り組みをいかに進めるかにテーマがほぼ絞られていた。当時の菅義偉政権が「30年に温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する」とぶち上げ、これに平仄を合わせる形で30年度の電源構成をはじめとする計画が仕立てられた。

再生可能エネルギーや原発の比率を高く見積もる一方、電力需要見通しを過小評価した計画は「現実味に乏しい」(識者)と批判を浴びたが、問題の所在が火力発電への過度の依存や脱炭素の取り組みの遅れにあることは明白だった。この延長線上なら新計画も比較的立てやすかったはずだ。

だが、今や脱炭素を強調するだけでは済まされず、エネルギー安全保障の確保が至上命題となっている。22年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻が世界的なエネルギー供給不安を顕在化させ、国民や企業が電力・ガス不足や価格高騰のリスクを目の当たりにしたからだ。欧米各国が対露経済制裁を強化する中、日本はロシア産天然ガス輸入を続けるが、これが止まれば、供給不安が一気に再燃しかねないのが実態だ。

再エネ活用も一筋縄ではいかない

さらに、米中対立を背景にした民主主義国と権威主義国との分断や、それに伴う国際的なサプライチェーン再構築の要請も重くのしかかる。脱炭素を進める上でカギとなる再エネや蓄電池、電気自動車(EV)の中核技術や生産能力を中国が寡占的に握っているためだ。再エネ拡大では地政学的リスクを考慮しなければならない。企業や国民がエネルギー価格上昇に敏感になったことも逆風だ。原油や天然ガスの輸入コスト上昇を受け、岸田文雄政権が多額の血税を投じてガソリン購入や電気・ガス代の補助策を打ち出したのは象徴的。「脱炭素に逆行するバラマキ」と批判されたが、官邸筋は「補助しなければ、昨春闘の賃上げ効果が吹き飛び、個人消費が冷え込んで、日本経済は再びデフレに逆戻りする恐れがあった」と訴える。

海外でも燃料高は大きな政治問題だ。スナク英首相は昨冬の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で「環境保護に動かなければ、将来のコストが膨大になると分かっているが、働く世代への負担を抑えられる現実的な方法を取らなければならない」と強調した。実際、英政府は温室効果ガスを排出するガソリン車の販売禁止期限を先延ばししたり、家計への燃料補助策を講じたりしている。これらの対応から浮き彫りになったのは、各国がエネルギー源をなお化石燃料に依存する中、危機が起きれば、いくら立派な脱炭素の理想を掲げても国民や企業に受け入れてもらえないという事実だ。生活や経営が疲弊すれば、気候変動に目を向ける余裕さえなくなりかねない。

現実を直視すれば、第7次エネ基の策定作業は複雑な連立方程式を解く難作業となりそうだ。

【覆面ホンネ座談会】公取委の不見識で明暗か!? 騒動の顛末と訴訟の行方


テーマ:電力・ガスカルテルの深層

公正取引委員会が昨年末、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガス3社への処分案を提示したことを受け、電力・ガス販売を巡る一連のカルテル騒動が一つの区切りを迎えた。今後の電力・ガス市場の在り方にどのような影響を及ぼすのだろうか。

〈出席者〉 Aアナリスト  Bジャーナリスト  C電力業界関係者

―公正取引委員会が昨年12月に提示した中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガス3社へ処分案(意見聴取通知書)は、関係者の事前の予想を大きく覆すものだった。

A 公取委の事実上の敗北だね。これだけの時間をかけて調査しておきながら、電力小売りで中部電とミライズ、ガス小売りで東邦という主事業者に懲罰を課すことができなかったことが全ての答えだ。つまり、疑惑を立証することができなかった。「電力分野における実態調査報告書」でも明らかだが、公取委は電気・ガス事業について正しい認識を持っていない。推定有罪―。旧一般電気事業者、旧一般ガス事業者が悪であるという認識に基づいて調査に入るからこのような結果になるわけで、この認識を正さない限り、このようなリスクが今後もつきまとう。

B 業界内では、東邦の1年分の経常利益が飛ぶことすらあり得ると言われていた。電力カルテルでは中国電力が史上最高額の707億円だからね。ところがふたを開けてみれば、東邦は課徴金なし、中部は2600万円で大きな落差があった。中部・東邦の場合、初めは家庭用の電気・ガス小売りで調査に入ったにもかかわらず、東邦がリーニエンシー(課徴金減免)制度を使ったと思われる大口ガスで中部に課徴金を科し、なんとか格好を付けただけ。家庭用では課徴金納付命令などに至らなかったという点で、Aさんの言う通り公取委の敗北と言っていいだろう。われわれも4電力カルテルの処分内容が内容だっただけに、かなり惑わされていた。

C 公取委は、4電力カルテルにしても中部・東邦にしても、リーニエンシーに基づいたものでしか処分できていない。考えてみると、それだけカルテルを認定することはハードルが高くて難しいことを意味しているのだと思う。それにもかかわらず、4電力カルテルの課徴金が過去最高額に達したということは、絶対に勝てると公取委に思わせる材料を、リーニエンシーを活用した関西電力から得たということではないか。それがどのようなものだったのか興味がある。そういう意味でも3電力による取消訴訟の行方、その過程で出てくる情報は非常に注目されるだろうね。

カルテル処分の妥当性の判断は裁判所に委ねられた

A かつて、公取委の関係者がカルテルを証明することは難しいと語っていたことが印象に残っている。刀と鞘のような関係で、ぴったりと収まらない限り、黒にはできないということだ。過去において、多くのカルテル事件が課徴金にまで至らなかったのはそのため。どうしても警告や勧告、注意といった処分でお茶を濁すしかない。

B 先ほど、中部・東邦で公取委の敗北という話があったけど、九州電力の小売子会社である九電みらいエナジーにも課徴金命令が出ていない。九州の小売りは役割分担がはっきりしていて、本体は域内で域外営業はみらいエナジーが担う。公取委がカルテルの合意があったと主張しているにもかかわらず、みらいエナジーの違反の証拠を見付けられなかったというのも、なかなかの負け戦に見える。

―中部、東邦では、この処分案を受け入れる可能性が高いのかな。

B 昨年には関係筋から、双方がリーニエンシーを使っているという話を聞いていた。中部も、大口ガスでは抗弁できないと、電力カルテルとは別の対応をしているのだろう。取り消し訴訟はないのではないか。

A この内容であれば、両社とも受け入れておかしくないね。

CCSビジネス花開くか 事業法を閣議決定


2050年カーボンニュートラル(CN)実現の切り札として、30年までの事業開始が期待されているCCS(CO2の回収・貯留)。2月13日、事業に必要な環境を整備するための「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS事業法案)」が閣議決定された。

新法案では、試掘・貯留事業の許可制度を創設し、貯留層が存在する可能性がある区域を政府が指定した上で事業者を募集、試掘権や貯留権を付与することのほか、貯留後にCO2の漏えいの有無を確認するためのモニタリングの義務や、試掘や貯留事業に起因し事故などが発生した際の賠償責任の在り方などの事業・保安規制を定めている。

CCSを巡っては昨年6月に、30年までにCO2の年間貯留量約1300万tを達成するべく、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がモデル性のある「先進的CCS事業」として7案件を選定している。政府は、今通常国会での同法案の成立を目指しており、次は具体的な支援策が課題となる。CNに向けた動きがいよいよ本格化する。

処理水放出後の福島へ 水揚げや取引に影響なし


【東京電力・福島第一原子力発電所】

昨年8月24日、ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出を開始した福島第一原発。今年度は4回に分けて約3万1200tを放出する計画で、2月下旬には4回目の放出が始まっている。これまで海域モニタリングで優位な変動は確認されていない。

気になる風評被害は―。日本国内では、中国による禁輸措置でナマコやホタテなど一部魚種で価格低下が見られたが、福島県沿岸の水揚げや取引に大きな影響はない。「オキナマコ」以外の主要魚種の産地市場価格は、2022年と23年でほぼ変化なし。福島県水産事務所が行った聞き取りでは、流通加工業者から「国内で応援の機運を受けて、出荷に追い風を感じている」との声があったという。

震災前の10年、福島県沿岸の水揚げ量は2万5000tを超えていた。12年以降は徐々に増加しているが、22年にようやく5000tを上回った程度。かつては隣県の漁船が福島県に水揚げに来たが、震災後は断っていることも水揚げ量が戻り切らない理由の一つだ。今後は5年以内に震災前の6割の水揚げ量を目指し、関係者の努力が続く。

震災前後で変わったのは水揚げ量だけではない。水温など海の環境変化により、水揚げ魚種に大きな変化が見られるのだ。コウナゴやカレイ類、タコ類が減少し、震災前はほとんど取れなかったトラフグやタチウオが多く水揚げされるように。相馬市では天然トラフグを「福とら」と命名。新たな冬の味覚として注目を集めている。

相馬港で水揚げされたトラフグ


デブリ取り出しは延期 「緊張感」続く現場

福島第一原発の廃炉作業は、使用済み燃料プールからの燃料取り出し(1、2号機)、デブリの試験取り出し(2号機)に向けた準備が進んでいる。使用済み燃料については、2号機は24~26年度の取り出しに向けて原子炉建屋の南側に取り出し用の構台を設置中。1号機は27~28年度の取り出しを目指して、放射性物質の飛散防止や雨水流入抑制のための大型カバーを設置する予定だ。現在は設置時の被ばくなどを防ぐため、別の場所で組み立てている。デブリの試験的取り出しは今年度中を目指していたが「今年10月まで」に延期となった。格納容器への貫通部をふさぐ堆積物の除去や、取り出しに用いるロボットアームの改良に時間を要したためだ。

処理水放出後には、人為的なトラブルが相次いでいる。昨年10月、ALPSの配管洗浄中に作業員5人が防護服の上から放射性物質を含む液体を浴びた。今年2月7日には、汚染水浄化装置が入る建屋から汚染水を含む洗浄水が約1・5t漏えい。手動弁の閉め忘れが原因だという。処理水放出以降は「現場の緊張感が強すぎる」との指摘も聞かれる中、一段と緊迫した状況下での作業が続きそうだ。

【イニシャルニュース 】原子力政策に影響か 安倍派解体の余波


原子力政策に影響か 安倍派解体の余波

自民党最大派閥の安倍派(清和政策研究会)が約45年の歴史に終止符を打った。岸田文雄首相が1月にパーティー券を巡る不正会計処理の問題で派閥解消を呼び掛け、疑惑渦中の幹部らがそろって公職を離れた結果、清和会は1月19日の議員総会で解散決議に追い込まれた。この一見関係なさそうな政治騒動によって、電力、とりわけ原子力政策に影響が出ることが懸念されている。

清和会は岸信介元首相、福田赳夫元首相らがかつて率いたグループ。自民党の中では、国防、安全保障、経済安全保障に関心を持つ保守色の強い議員が多い。そして、かつてオイルショックを経験し、エネルギー安全保障に関心を向けた福田氏が、原子力開発を支援し、原発立地地域の政治家を国政にスカウトした。現在でも党内で、原子力の活用、エネルギー安全保障の観点からの電力産業支援を主張する議員が多い。

安倍派解体に揺れる自民党

パーティー券問題で批判を受けた同会の幹部T議員、S議員は、2世議員で父譲りの原発擁護の中心的人物だった。また別のS議員は、かねてから原子力政策の推進に取り組み、昨年のGX関連法の制定にも尽力した。さらに安倍晋三元首相の側近であり経産大臣となった同会のS議員、H議員、N議員も原子力の活用を大きく進めたとは言えないが、前向きだった。在任中は原子力と距離を置いていた安倍氏も退任後は、原子力の復活に関心を寄せていた。

岸田政権はGX法によって原子力活用にかじを切ったが、今年元日に発生した能登半島地震の影響もあり、原発再稼働などに追い風となるかは不透明だ。そうした中での安倍派解体―。政治の応援が弱まる問題が相次ぐ現状に対し、「つくづく原子力は運が悪い」(立地地域の政治家)との声も聞こえている。


政府の災害時対応 政権の違い際立つ

能登半島地震では最大約4万戸の停電が発生し、元日の発災から1カ月半後には約1100戸まで減少した。今回は幹線道路の寸断や津波被害、余震の多さなどが影響し、復旧に長期間を要している。

斎藤健・経済産業相は発災直後から会見で「想定以上の道路被害などの状況により復旧にはなお時間を要する見込み」などと説明。こうした対応に、「省内からは、ありがたいといった反応が出ているようだ」(霞が関事情通)。

そこで思い起こされるのが以前の政府対応である。象徴的なのが、2019年9月9日からの房総半島台風に伴う大規模停電。東電パワーグリッドは全体像がつかめないうちから11日中の全面復旧を目指すと発信したが、結局延び延びになり、被災者の不満につながってしまった。

当時は「官邸主導」の安倍政権下で、折しも11日は内閣改造当日。そんな状況を鑑みて、「政治などの圧力で東電が言わされたのではないか」ともっぱらのうわさだった。なお、当時経産相だったS氏はその後、公職選挙法違反容疑で議員辞職し、公民権停止が確定している。

たらればだが、今回、安倍派で前大臣のN氏が政治資金裏金問題で辞任することなく続投していたら、状況は違っていたかもしれない。

ちなみに、当時の千葉県知事はM氏、現石川県知事はH氏と、ともにタレント知事であり、発災直後どちらも積極的に表に出ようとせず、有事の対応力が批判された。二つの災害に似た側面があるだけに、政府対応の違いが際立ったとも言える。

容量単価の上昇傾向続く エリアごとの価格差も


電力広域的運営推進機関が1月24日に公表した、2027年度を実需給年度とする容量市場の23年度メインオークションの約定結果は、総額が前年度比56%増の1兆3140億円、1kW当たりの単価が同34%増の7847円となり、21、22年度に行われた過去2回を上回った。

この結果を踏まえ、広域機関は27年度の小売電気事業者の拠出金負担額を同55%増の1兆1986億円となるとの試算を示しており、このまま容量単価の上昇傾向が続けば、特に市場依存型の小売事業者の調達や料金戦略に影響を及ぼすことになりそうだ。

エリアごとに見ると、北海道と九州で1万円を超え新設投資の指標価格となる「ネットコーン」(9769円)を上回り、東北、東京が9000円台とそれに近い水準となった。一方で、中部・北陸・関西・中国・四国は7000円台と九州を除く西日本は総じて低く、供給信頼度に応じたエリア間の価格差がより鮮明となった。

電源の新設投資を促すため、容量市場とは別に長期脱炭素電源オークションも始まった。将来への必要な供給力を確保するための最適な仕組みはどうあるべきか。試行錯誤は続く。

第3四半期も全社黒字 下半期の業績に注目


大手電力10社の2023年度第3四半期決算が出そろった。純利益は北海道536億円、東北1963億円、東京3513億円、中部3571億円、北陸603億円、関西3510億円、中国1205億円、四国562億円、九州1870億円、沖縄45億円と10社全てが黒字を確保。前年同期は四国以外の9社が赤字だったが、今期は東京・沖縄以外の8社が過去最高益を記録した。

燃料価格の低下や電気料金の値上げなどが要因で、関西、九州は原子力発電所の稼働増による燃料費減も寄与した。

東京以外の8社は23年度通期業績予想も公表し、いずれも黒字。北陸は能登半島地震における設備復旧コストなどが未確定なため「未定」に修正した。

「電力総崩れ」だった前年の影響で各社は厳しい財務状況に置かれている。関係者からは「上半期と比べて期ずれの影響は低下しており、下半期単独の業績が本来の姿」との見方も。国際紛争や米国の利上げ動向など燃料価格の行方には不透明感が漂う。経営安定化のためにも原発再稼働などによる財務基盤の立て直しが急務だ。

e-メタンの本格導入へ 求められる持続的な支援策


【識者の視点】草薙真一/兵庫県立大学副学長

2030年のe-メタンの社会実装に向け、投資判断のタイミングが迫っている。

都市ガスのカーボンニュートラル化に欠かせないe-メタンの導入支援に求められることとは。

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル(CN)」を宣言し、50年までに温室効果ガスの排出をネットでゼロにする目標を掲げた。この実現のため政府は翌年、グリーンイノベーション基金事業により、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)にまず2兆円の基金を創設し、企業などに対して10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援することとした。

これはGI基金と呼ばれ、22年度第2次補正予算により3000億円が積み増され、積み増しはその後も続いた。さらに、今年2月中旬から順次発行されるGX経済移行債の規模は20兆円にも及ぶ。

このGX経済移行債の20兆円という数字が話題になっている。もともとGX実現には、今後10年間だけで官民計150兆円超の投資が必要とされており、20兆円はその呼び水との位置付け。これを財源に民間投資を促進していくことが期待されるのであって、巨額に見えるかもしれないが、50年のCN化にはあくまでも初期段階のものに過ぎないことを理解しておかなければならない。

都市ガスのCN化 規制と支援一体で推進

本稿では、GX経済移行債による支援の有効性の確認と、これとは別に、各種規制を組み合わせた支援制度を検討する必要を都市ガスの例から明らかにしたい。

都市ガスの分野では、メタネーションによる水素と二酸化炭素(CO2)を合成し製造されるe―メタン(合成メタン)を30年に1%分、50年に90%分を導管に注入することが政策目標となっている。合成メタンは100年以上前に確立された技術ではあるが、東京ガスなど大手都市ガス会社による30年代以降の革新的メタネーション技術の大量投入が待たれる。

また、バイオガスを大量導入することが欧州では盛んである。下水処理の過程などにおいてCO2と合成しメタンガスを効率的に取り出すことが可能である。日本ではどうか。日本ガス(鹿児島市)がこの分野で野心的な計画を立て、すでに実践に移しつつあるほか、大阪ガスなども実証実験を盛んに行っている。

このような合成メタンによる都市ガスのCN化を、規制と支援の一体型で強力に推進することになる。昨年12月15日に開かれた第10回GX実行会議において、政府は①国際水素サプライチェーン技術の確立および液化水素関連機器の評価基盤の整備、②水素発電技術(混焼、専焼)を実現するための技術確立、③再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造、④燃料アンモニアサプライチェーンの構築―を対象に30年度までに7兆円の官民投資がなされるという設計をしていた。しかも、水素など分野別投資戦略として10年程度でe―メタン・合成燃料の官民投資2.4兆円以上の枠をあてがい、これを先述の官民合計150兆円超に含めていた。

CNな原燃料の製造には非常にコストがかさむことが予想されている。コスト高の新しい原燃料には既存原燃料との値差を埋める支援も必要である。もちろん政府も、これについては正面から扱っている(表参照)。今のところ既存原燃料との価格差に着目した支援の実績はないが、今年度を含め今後5年間で4570億円を措置し、これに水素などの供給拠点の整備を加える計画である。そして、ファーストプロジェクトの25年度FID(最終投資決定)が実現できるよう導く。それを完了させる上でなすべき措置、さらに持続性を持つ措置を制度論として具体的に考えたい。

GX経済移行債による投資促進策(水素等を抜粋)(政府案、数字は概数)
出所:経産省分野別投資戦略(2023年12月22日リリース)11ページより筆者抜粋

食と地域の豊かな未来のために 遊休地を活用した陸上養殖場を運営


【九州電力】

九州電力の新規事業創出プロジェクトから生まれたサーモンの陸上養殖事業が、本格的に始まった。

1号機廃止、2号機停止中の豊前発電所内の施設で、食の安定供給や地域経済の循環に貢献する。

「野菜や食肉は人が育てるのに、なぜ魚は天然が良いと言われるのだろう、天然よりおいしい魚を育てられるのではないか、と思ったのがきっかけです」と話すのは、海外・イノベーショングループの満畑祥樹副長だ。「調べるうちに、国内の魚の消費量は年々減少し、経験や勘に頼る自然相手の漁業界には、高齢化の波が押し寄せていることが分かった」

満畑さんは、情報通信部門で培った知識や経験を生かし、デジタル技術を取り入れて安定的においしい魚を提供したいと考えた。すしネタとして人気があり、世界的にも需要が高いサーモンの養殖に着目。養殖技術を持つ企業を訪ね、九電3人、パートナー企業数人で検討チームを作り、議論を重ねた。

こうして2018年、社内の新規事業創出プロジェクト(i―プロジェクト)に応募。採用に至った。

陸上養殖は今の時勢に合っていると話す満畑さん

自社の遊休地を活用  システム制御で生育見守る

養殖場は自社の遊休地、廃止・停止中の石油火力発電所の中から選ぶことにした。県外や海外への出荷を見据え空港にも利便性があり、福岡市や北九州市といった一大消費地に近く、地下水が豊富な豊前市の豊前発電所の敷地内に決まった。

市場調査などを経て、20年に直径約4mの10㎥水槽2基を使って試験養殖を始めた。豊前の地下水が利用できるのか、寒い地域の魚を九州で育てられるのか―。めどが立った21年10月、九電グループの西日本プラント工業(NPC)、水産専門商社のニチモウ、養殖事業の知見を持つ井戸内サーモンファームと4社で「フィッシュファームみらい合同会社」(FFM)を設立。養殖場の建設に取り掛かった。

21年10月といえば、新型コロナウイルスがまん延していた時期だ。欧州の会社に設計や資材を発注したが、打ち合わせは最初から全てオンライン。意思疎通に苦労した。加えて、翌年にはロシアによるウクライナ侵略が始まった。資材は空輸できず、船便に切り替えた。「設計図も資材も予定通りに届かない。工事の数か月前から人員を手配していたNPCさんが、工程を何度も立て直してくれた」

NPCと力を合わせ、昨年3月、直径10m深さ3・6mの250㎥水槽8基を備えた、水槽容量約2000㎥の養殖場が完成した。一つの水槽で、約5000匹を育てている。サーモンがストレスなく育つよう、ph値、酸素濃度、水温などを、センサーを使ってコントロールし、一定の水質を保つ。異常が発生すると管理者に自動的に連絡が入るシステムを作り、24時間監視する。水槽上部と水中にカメラを据え付け、生育を見守る。

水槽内の環境は全てシステムで自動制御している

一度、試験養殖時に酸素発生装置が故障。深夜にアラートが鳴ったことがあった。養殖場へ駆けつけて予備の酸素発生装置を自前で動かし、サーモンの一命を取りとめた。電気事業で培った、迅速な障害復旧対応の経験が生きた瞬間だった。

送配電網の維持・運用に必要なコスト 発電側課金で生じる多様なケース


【論点】制度変更と電気料金〈第2回〉/加藤 真一 エネルギーアンドシステムプランニング副社長

発電側課金の導入で、発電側はもとより小売りや需要家まで広くコストを転嫁するようになる。

多種多様なケースがある中、各段階で想定される具体的な影響を解説する。

電気の安定供給確保のために、一般送配電事業者は送配電網設備の新設や更新、日々の点検・保守、災害時対応などの役割を担っている。設備の維持・拡充には多額のコストが必要で、その費用を回収する制度として託送料金がある。

送配電設備の老朽化や再生可能エネルギーの導入拡大が進み、安定供給のために増大するコストを既存設備の最大限活用や効率化で抑えつつ、必要な投資を行うことが求められる。そうした中、現行は小売電気事業者が全てを負担する託送料金(費用は小売料金の中で需要家に転嫁)のあり方が見直され、4月からは同じく系統利用者である発電事業者にも一部負担してもらう「発電側課金(系統連系受電サービス料金)」を導入する。これに伴い、小売事業者が支払う需要側託送料金も併せて改定(主に電力量料金単価の引き下げ)が行われる。

ここから発電側課金に伴う影響を、電気事業者(発電・小売り)、需要家それぞれについて見ていく。

発電の負担額はエリアごと 小売りへの転嫁もさまざま

まず、新たに負担が課される発電事業者。最大受電電力(認可出力でなく、順潮流と逆潮流をネットした数値)が10‌kW以上であれば原則、どの電源種でも課金対象で、料金はkWとkW時の二部料金制となる。各エリアの上位系統にかかる費用から発電分を割り当て想定されるkWとkW時をもとに単価を算定するため、エリアごとにバラつきが見られる(北海道・関西が割高で、中部・九州・沖縄が割安)。さらに電源の所在地による割引措置があり、電源ごとに割引の有無や種類が異なり、トータルの負担額も変わる。

また、レベニューキャップ制度で運用され、料金単価・割引対象エリアは5年ごとに見直されることから(今回、認可された料金は2027年度まで)、事業計画での予算計上には注意が必要である。

では発電事業者にとって対策はないのか。資源エネルギー庁や電力・ガス取引監視等委員会での制度設計の中で、発電側課金で負担した金額は、卸電力・容量・需給調整・ベースロードの各市場および小売事業者への相対卸売りでの転嫁ができるとしており、特に小売りへの転嫁については「相対契約における発電側課金の転嫁に関する指針」で、基本的な考え方や紛争解決が記載されている。

相対取引における転嫁の方法については、kWとkW時単価双方への反映や、一律kW時単価への上乗せ、実際に発電側が負担する金額相当を単価とは別に上乗せするなど、さまざまなケースが想定され、発電・小売り、または小売り間の協議は、必要な情報を開示した上で丁寧に行うことが求められる。転嫁の事例として、第91回制度設計専門会合で旧一般電気事業者からの内外無差別な卸売における方針を報告している。単年卸の場合は、発電側課金相当額を転嫁する事業者もいればそうでない事業者もいる一方、長期卸の場合は、概ね転嫁するとの回答が見られるなど、それぞれスタンスは異なる。

発電側課金の転嫁の構図

転嫁によって小売事業者にどのような影響が出るのだろうか。論点としては、小売りにとって真水のコスト負担が増えるのか減るのかということである。

一般的には、改定後の需要側託送料金による低減額と発電事業者らから転嫁される金額とを比較し、コスト負担が増える場合には小売料金に転嫁。負担が減る、または相殺される場合には転嫁しない(=小売料金単価は据え置き)ことになるだろう(図表参照)。一方で、小売事業者は複数の電源調達方法を組み合わせているため、一概に影響額を算出するのは難しい。各事業者は調達方法ごとに転嫁される金額と、需要側託送料金の低減分とを比較考量する必要がある。