【脱炭素時代の経済探訪 Vol.24】関口博之 /経済ジャーナリスト
来訪者に有料で工場見学をさせる会社がある。愛知県碧南市にある旭鉄工だ。トヨタ自動車のティア1として鍛造やダイキャスト部品を作っている。創業80年の同社が、2016年に木村哲也社長が就任以来、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)の先進工場に生まれ変わった。先日その木村さんと、製造業のGXをテーマにしたパネルディスカッションで同席する機会があった。

なぜGXに取り組むのか。木村さんの答えは明快で「儲かるから」だという。数字がそれを示す。
売上高150億円規模の同社で年間利益を10億円増やした。電力使用量は26%減らし1.5億円のコスト削減につなげた。カギは「徹底した省エネ」、それといわゆる「カイゼン」「原価管理」、この三つを一体で行うことだという。
省エネの手法はこうだ。まず製造ラインの電力使用量を稼働中の「正味電力」と異常や段取り替えで機械が止まっている時の「停止電力」、それに昼休みや稼働終了後などの「待機電力」に分ける。電力計を付けただけでは無駄は見つけられない。稼働状況と突合することで、「正味」ではない「停止」「待機」の無駄な電力をあぶりだす。当初実測してみると実に工場の電力の60~70%が「停止」や「待機」だったという。深夜、早朝にも電源オンのままだったものをきちんとオフにするようにしたことで正味率が71%に向上した。
現場の写真を見ると、昼休みなど休憩時には「必ず非常停止(ボタン)を押すこと」という掲示がある。非常停止は目的が違うのでは? と聞いてみると「非常停止の時は限られた範囲で電力を切る。止めてはいけないところは止めないのでこれがよい」と木村さんは言う。なるほど。
旭鉄工では製造ラインの稼働状況を、IoTを使って常時モニタリングするシステムも自社開発している。その結果どうなるか。消費電力と稼働状況から生産数が分かるので、400近い品番がある部品について「1日ごとの1個当たりのCO2排出量」まで算出できるようになっている。ここまでやってこそ見える化と言えるのだろう。
こうしたシステムとノウハウは自社内で共有されるだけではない。何とそれを外販するため、木村さんは子会社を作り、その代表も務める。積み上げてきたカイゼンやGXのノウハウはまさに自社の競争力の源泉、公開するのはもったいないのでは? と聞くと木村さんは「そこはもはや、競争領域ではない」という。既に主要サプライヤー20社余りにノウハウを提供し、スコープ3のCO2排出削減と(取引先のコスト削減分を反映した)調達価格低下の形でメリットを得ている。
「良い結果が出ているノウハウは共有し、さっさとやって、人材など貴重なリソースは真に付加価値を生むことに振り向けるべきだ」。木村さんは再三、こう口にする。それでこそ日本の製造業の活路が開けるというのだ。確かにここには良い見本がある。ぜひ、工場にも伺おう。ただその前に見学料がいくらかを一応、確認しておかないと。
