【コラム/5月21日】新たな年度を迎えて 電気事業制度・政策動向を検証
3.小売分野
近年、環境変化とともに経営が厳しかった小売電気事業については、足元で卸市場価格が比較的安定していること、さらには事業者側でも市場価格に連動した料金単価や調整項を反映したこともあり、業績は回復しつつある。みなし小売電気事業者でも決算状況は好調との報道も多く見受けられるが、燃調費の期ズレを踏まえると、実態で稼ぐ力が完全に回復したかは、まだ十分でない状況である。
また、事業者のリスク管理や需要家保護の観点から、小売ガイドラインの見直しも適宜、行われる。事業者にとっては少し窮屈なものに見受けられると感じられるが、リスク管理は事業の安定化のために当然やるべきものであり、分かりやすい情報提供や(過剰にならない範囲で)丁寧な需要家への対応はサービスを長く安心して使ってもらうためには必要なことであることを踏まえると、対応は不可欠ということになるだろう。
事業収益の大半を占める電源調達については、旧一般送配電事業者からの内外無差別な相対取引の定着により取引機会の増加に繋がっていると思われるが、その効用がどの程度あったのかは今後、検証が必要だろう。
リスクヘッジの観点では電力先物取引も東京商品取引所(TOCOM)とJEPX(日本卸電力取引所)の連携による現先一体化が進められるなど、取引活性化に向けた施策が順次、進められており、市場・相対取引含め、調達面での環境は少しずつ整備されつつあることがうかがえる。
小売電気事業にも脱炭素化やカーボンニュートラルを意識する局面が増えてきている。そのため、再エネ小売メニューやCO2フリーメニュー等の料金プランを提供するケースは増えている。また、最近では再エネのオンサイトPPAやオフサイトPPA、自己託送、脱炭素化コンサルなどを併せて提供する事業者も出てきており、単なる価格競争や非化石証書を付与するだけのサービスから脱却し、差別化を図ろうとする動きになりつつある。
エネルギーを利用する需要家にとっては、取引先や世の中からの脱炭素化の要請もあり、CO2排出量の削減に向けた計画を策定し、取り組む必要が出ている。経産省が主導するGXリーグへの参加もこの3月に締め切った追加募集では170社強の新規参加があり、その関心が高まっていることもうかがえる。また、統合報告書やCDPの評価、GXリーグ上のダッシュボードでの取組状況の開示、改正省エネ法の定期報告開示制度や省エネ法・温対法・フロン法電子報告システム(EEGS)での情報公表など、自社の取組が外部に見られ、評価される時代にもなっており、エネルギー事業者にとっては、需要家の課題や悩み、ニーズに応えていくことが求められる。
50年CNに向けて 中長期的な取り組みはどうなるか
足元の動向を追ってきたが、中長期ではどのようなことが論点になるのだろうか。現在の日本のエネルギーの基本政策であるエネルギー基本計画は2021年に閣議決定された第6次計画が最新となっているが、24年度中に第7次の策定に向けた検討が行われることとなっている。そこでは、50年カーボンニュートラル実現に向けた移行期間として、これまで設定している30年だけでなく、次期NDCとして温室効果ガス排出削減の目標の設定が必要な35年に加えて、40年も見据えた計画や「あるべき姿」を提示していくことになるだろう。
これまで、日本の電力需要は人口減少や経済成長の伸びの予測を踏まえ、減少の一途を辿るとの見通しであったが、最新の供給計画では、一転して増加との見通しが発表されている。これはデータセンターや半導体工場の新設が主な要因とされているが、さらにEV充電網の整備やCO2回収装置、水素製造のための水電解装置に必要な電力需要も想定されている。まさにGXやDXといったキーワードで語られる新たに創出される需要であり、この変化においては、必要な供給力確保や送配電網の増強、系統安定化のための運用面での対応といった需給一体となった検討が不可欠となる。
よって、特定の施策に着目するという主観的な主張ではなく、聖域ない範囲で合理的に議論・審議していくことが求められることになるだろう。
【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。


