再エネ支える調整力を拡大へ VPP基盤事業で新会社


【エネルギービジネスのリーダー達】松村宗和/Shizen Connect 代表取締役CEO

自然電力がVPPプラットフォーム事業を分社化させ、Shizen Connectとして新たなスタートを切った。

再生可能エネルギー拡大へ、脱炭素化された調整力としてVPPの社会実装を目指す。

まつむら・むねかず 東京大学中退後、GMOクリック証券子会社の代表取締役CEO、アステリア事業部長などを経て2018年に自然電力入社。デジタル事業部長、執行役員などを経て23年10月Shizen Connect創設に伴い同社代表取締役CEOに就任。

自然電力の100%子会社として、VPP(仮想発電所)プラットフォーム事業を手掛ける新会社Shizen Connectが10月2日に発足した。同社の代表取締役CEOに就任したのは、自然電力の執行役員、デジタル事業部長などを務めてきた松村宗和氏だ。

「Shizen Connect」は、市場価格予測や蓄電池の充放電計画の策定、遠隔制御などを行い、卸市場、需給調整市場、容量市場といった各種市場での取引やバランシンググループ(BG)を運用するための自然電力のエネルギーマネジメントシステムの名称。その名を冠した新会社を立ち上げた理由について、松村氏は、「資本提携の拡大と人材の獲得強化の意図がある」と明かす。

資本参加を呼び込み パートナーシップを強化

資本提携の拡大については、同社はこのエネマネシステムを電力小売事業者やメーカーなど、VPP事業を手掛けようとするさまざまな企業に提供しプラットフォーム化していく方針で、自然電力のみならず、こうした企業の資本参加を呼び込むことでパートナー関係を強める狙いがある。

また、人材獲得については、2011年の創業以来、太陽光や風力、小水力といった再生可能エネルギー事業の開発、運営を手掛けてきた自然電力のイメージと切り離し、AIとIoTを駆使したエネルギーテック企業を前面に打ち出すことで、優秀なエンジニアの採用につなげたいという。

松村氏は、18年6月に自然電力に入社。それ以来、再エネのさらなる有効活用に向け、脱炭素化された調整力としてのVPPのシステム開発や運用ノウハウを培ってきた。先行する欧州では既にVPPの成熟した市場が形成され、スタートアップとして立ち上がった企業が世界的な企業に成長し、石油や電機の大手に買収されている。日本でも1000億円以上の市場が創出されるとの予測もあり、同社としても30年までに100万kW規模のVPPを構築し、売り上げ規模100億円を目指す目標を掲げる。

事業の柱に据えるのは、家庭用VPPや系統用蓄電池の制御、そしてマイクログリッドの運営の三つ。家庭用VPP事業としては今年7月、東京ガスが同社のシステムを採用し、家庭用蓄電池をアグリゲートし、制御する事業をスタートさせている。これにより、東ガスがJEPX(日本卸電力取引所)で電気を調達する際のコスト低減につながるほか、24年度に支払いが始まる容量拠出金の抑制を図る。

同社の蓄電池制御の特徴は、ニチコン、伊藤忠、オムロンといった家庭用蓄電池メーカー5社と提携することにより各社の遠隔制御クラウドを束ね、追加的に制御システムを導入することなく一括して制御できることにある。家庭用蓄電池のシェアで49%のメーカーの機器に対応できるわけだ。

系統用蓄電池の取り組みとしては、西日本鉄道と合弁会社、西鉄自然電力合同会社を設立。福岡県内の西鉄グループの施設に定格容量1920kW/4659kW時の系統用蓄電池を導入し、来年5月に運用を開始するのをはじめ、計3件のプロジェクトが動いているという。

「独立系であるため、他のユーティリティー企業やメーカーとのパートナーシップが組みやすい」と語る松村氏。さらには、自身も経済産業省のEVグリッドワーキングに参加するなど、社員が制度設計議論に参画していることで、常に最新の情報を得るのみならず、場合によっては制度設計に働きかけながらビジネスを展開できることが、今後事業を拡大する上で大きな強みになると自負する。

【再エネ】蒸気噴出でブレーキも 問われる地熱の十年先


【業界スクランブル/再エネ】

2030年ミックス実現には、今後10年足らずで地熱発電を30億kW時(21年度実績)から110億kW時へと、約4倍にする必要がある。

そうした中、今夏、北海道で発生した蒸気噴出事故は、業界全体に大きな影響を与えた。事故発生以降、資源調査の延期や地元とのコミュニケーションの停滞など、各地で開発にブレーキが掛かり、国による補助金交付にも一部制約が掛かった。混乱状態が正常化するには、相応の時間を要するだろう。

その上、今後掘削調査が可能になっても、滞留案件が一気に動き出すことで、リソースひっ迫によるコスト上昇や工程の長期化が懸念される。さらに国は安全強化のために、掘削調査のあり方や暴噴防止装置の取り扱いなどを見直す方針で、ミックス実現の壁は高まる一方だ。

地熱業界には、潤沢とはいえない機材や、人材が分散しているという構造的な課題がある。そのため、各事業者における経験の蓄積やPDCAには自ずと限界がある。さらに、経験人材の高齢化が深刻で、知見や技能の承継は待ったなしの状況だ。

今回のような事故を防ぐ観点にとどまらず、業界の未来を守るためにも、事業者や国が有する知見の集約が不可欠だ。併せて、デジタル技術の活用など、知見の価値を最大限発揮する工夫にも取り組むべきだ。

また、産業全体のリソースが限られる中で、事業者の競争に委ねることの弊害もあるはずだ。例えば、国による資源調査を大幅に拡充し、実現確度の高い大規模開発をけん引できれば、リソースの効率的な活用にもつながるのではないか。

事故で被害に遭われた方や地域への支援、安全対策は当然として、これを機に、十年先を見据えた変革にもぜひ挑んでもらいたい。(C)

【火力】JERAの脱炭素CM 「NO!」への異論


【業界スクランブル/火力】

世界的に「グリーンウォッシュ」に対し厳しい目が向けられる中で、日本でも環境NGOなどがJERAの企業広告の中止勧告を求めて日本広告審査機構に申し立てを行った。JERAの「CO2が出ない火をつくる」とのCMが「具体的根拠を述べていない」「消費者に誤った印象を与える」と主張しているが、どうだろうか。

この手の話ではあいまいな表現が問題となるが、CMの中では「CO2が出ない火をつくる」の後に「2050年CO2排出ゼロに挑戦します」「発電の常識を変えてみせる」と続き、CO2削減はこれからであり、今のJERAの電気が実際よりCO2排出量が少ないと誤認されるようにはなっていない。加えて見せかけだけの取り組みというのであれば問題だが、アンモニア混焼については、NEDOの実証事業に採択済みで実態があり、国の方針にも沿っている。

環境NGOなどは、こうした事実に目をつぶり、「ゼロエミッション火力などできるわけはない。しょせん化石燃料の延命化だ」「火力が減れば再エネが増えCO2が減る」との考えに基づき行動しているようだ。

しかし、再エネの拡大を阻む最大要因は再エネの変動性を補完する調整力不足であり、火力を減らすとそれに拍車を掛けてしまうことは、リアルに事業を行っている再エネ事業者ならば既に感じていることだ。さらに、彼ら彼女らは火力の活用策に根拠がないと主張するが、再エネがあれば大丈夫であると、根拠を持って説明するのを見たことがない。

何かをやめろと主張することは簡単で分かりやすいが、対策を示し、さらにそれを実現することはとても難しい。JERAの言う「常識を変えてみせる」は、まさにこういうやり方への挑戦なのだろう。(N)

【原子力】ドイツが原発停止 企業は国外へ


【業界スクランブル/原子力】

4月15日、ドイツはエネルギー危機の真っ最中に順調に動いていた3基の原発を全てイデオロギー的に止めた。以来、ドイツが一番多く輸入しているのは、フランスの原発電気だ。しかも、ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は、石炭火力を2030年までに全てなくすという無謀な計画を修正しない(法律ではメルケル政権時代に38年の脱石炭が決まったが、緑の党はそれを8年早めると主張)。そして、風の吹かないところに風車を立て、太陽が十分に照らないところに太陽光パネルを設置するために膨大なお金をつぎ込もうとしている。

この緑の党のミッションを全面的に支援しているのが、社民党のショルツ政権だ。ショルツ首相の次の言葉は驚嘆に値する。「われわれは30年までに、毎日4~5基の風車と、40のサッカー場と同じ面積のソーラーパークを新設しなければならない。また、送電ネットワークを鍛え、水素経済に投資し、電気モビリティーを前進させなければならない。これらはわが国の未来にとって重要なことだ」。当然の帰結として、産業界はエネルギーの高騰にあえいでいる。このままでは力のある企業は製造工程を国外に移し始め、それほど力のない企業では閉鎖、あるいは倒産が始まるだろう。今後、国民を襲うのは失業の波だ。「ドイツの有権者が何を考えていようが、どうでもよい」という緑の党の幹部の言葉は本当のことだったのだ。

今、ドイツに必要なのは真に救国の志だろう。わが国も同様である。1年限りの所得減税だの、交付金だの目先のばらまき選挙対策に走るリーダーではなく、原発再稼働・新設などによるエネルギー関係をはじめとする国民負担の真の軽減を現実化する「ジャンヌ・ダルク」の登場が求められている。(S)

GXでの課題克服に実力発揮 高い専門性と解決力で企業を支援


【日本エヌ・ユー・エス】

日本エヌ・ユー・エス社は、エネルギー・環境分野でのコンサルティングで高い評価を得ている。

複雑さを増す課題の解決にどう取り組んでいくのか、松本真由美氏が近本一彦社長に尋ねた。

松本 真由美(東京大学教養学部客員准教授)
まつもと・まゆみ 上智大学外国語学部卒。専門は環境エネルギー政策論・環境コミュニケーション。持続可能な社会の在り方をテーマに研究に取り組む。現在は教養教育高度化機構環境エネルギー科学特別部門で教鞭を取る。

松本 社名を拝見して初めは外資系の会社かと思いました。ところが100%日本の企業でした。どういう経緯で設立されたのですか。

近本 実は、私が入社した1986年当時は外資系企業だったんです。当社の生い立ちをご紹介するとき、創始者である榊原愷夫についてお話ししなければなりません。

榊原は、1960~70年代に米国に駐在していた商社マンで、原子力発電所が次々と立ち上がっていく米国の原子力の勃興期を見ていた。それで「日本の高度成長にも原子力が欠かせない」と商社マンの血が騒いだ。

日本原子力研究所(当時)の動力炉「JPDR」の導入に携わり、JPDRが順調に稼働した後、京大の研究炉、続いて商用炉を手掛けることになった。商用炉に取り組む過程で紆余曲折があり、日揮に入社します。日揮はフランスのサンゴバン社と提携して東海再処理工場を建設していました。

当時、原子力の規制体系など、日本には商用炉を始めるのに必要な十分な知見がなかった。それで榊原は日揮と話し合い、既に信頼関係を築いていた米国の原子力専門企業だったエヌ・ユー・エス社の総合代理店として、コンサルタント企業をつくることになりました。コンサルティングとエンジニアリングを行う会社として、日揮45%、エヌ・ユー・エス社45%、それに東京電力が10%出資して1971年に設立したわけです。

松本 それで「エヌ・ユー・エス」の名前が残っているのですね。

近本 その後、エヌ・ユー・エス社がM&Aなどをされ、1997年に日揮が同社の株を全て買い取りました。その時点で、「日本企業」になったといえます。

松本 榊原さんが原子力開発に熱心だったということで、原子力関連の事業が中心だったのですか。

近本 当初はそうでした。しかし、原子力発電所の安全規制などに携わると、環境への影響などの調査も必要になります。発電所の温排水の沿岸の海洋環境への影響を調査したのをきっかけに、環境コンサルティングサービスに進出します。やがて原子力だけでなく、他の分野での環境アセスメントなども手掛けるようになりました。

創業した71年は環境庁が設置された年でもあり、2001年に格上げされた環境省の仕事を受託することが徐々に多くなりました。当時は大気汚染などが大きな社会問題です。当社は汚染物資による環境や人の健康などへの影響について、国や自治体の調査・分析の支援を行いました。

松本 エネルギーの分野でも、幅広くコンサルティングなどの事業を展開されています。

近本 一例を挙げると、原子力規制について制度を見直すとき、国や電力会社は米国、欧州の動向に非常に敏感になります。そのときにわれわれは海外に出向いて、米国ならば「米国原子力規制委員会で今、こういう議論が行われている。日本にはこういう影響が考えられる」という情報を提供する。原子力に限らずエネルギー・環境の分野では、常にフロントラインに立って情報提供やビジネス支援などのサービスを行っています。

松本 コンサルティング会社は多くありますから、情報やサービスの「質」が問われませんか。

近本 ご指摘の通りです。ありがたいことに、「困ったら日本エヌ・ユー・エスに聞け」という声を多くいただいています。もっとも、そういう評価をいただくようになったのは、われわれの先輩たちの功績によるところが大きい。

当社の取引先のほとんどが電力会社と国・地方自治体です。そのためか当社には知識が豊富で、真面目にこつこつと解決策を追い求めていく社員が多い。先輩たちが築き上げたものを、しっかりと引き継いでいると思っています。

近本一彦(日本エヌ・ユー・エス社長)
ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事・新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年から現職。

鉱物資源業の観点から考える 共同事業で持続可能な社会へ


【リレーコラム】ガントス 有希/BHP Japan Country President

脱炭素化社会への変遷が急速に進み、化石燃料からのエネルギートランジションを達成するという課題の重要性がさらに増している。同時に世界の人口は2050年までに現在のレベルから20億人増えると予測されるほど大幅に増加し、都市部への人口集中も加速する。

このような人口増加に伴う鉱物資源への需要に加えて、エネルギートランジションの達成のためにも資源が必要となる。例えば、再生可能エネルギーの発電インフラ建設には、既存のものよりも数倍の鉄鋼が必要となり、多くのニッケルや銅がEVの原材料に使用される。また、過去30年間に比べて、今後30年間では、ニッケルの需要が4倍、製鉄は2倍に、そして銅の需要も2倍になるという。

弊社は世界最大の銅資源の保有量、世界第2番目の硫酸ニッケルの資源保有量を持つ資源会社であるが(鉄鋼の原料となる鉄鉱石や原料炭も生産)、急激な需要の拡大の中、鉱物資源業界は、既存の資源を2倍から4倍のレベルで生産し、かつ鉱山操業からの環境などへの影響が出ないよう、サステナブルな運営を迫られる。必要不可欠な資源をできる限り確実に世界中へ供給することの重要性についての認識は、業界でますます深まっている。

他業種との連携が課題解決への道

このような大変複雑で大きな課題を解決するには、既存の事業分野を超える広い分野での多くのコラボレーションが必要になると考える。日本とオーストラリアといった国同士の連携だけではなく、さまざまな分野での関係者による協力、例えば関連業界、金融市場、地域社会、政府という民・官での課題共有および実践的なアクションが必要となる。

弊社と日本との関係はおよそ60年にも及び、1965年に日本事務所を開設して以来、数多くのパートナーシップを日本の皆さまと共に築き上げてきた。長年にわたる資源開発の合弁事業のパートナーシップに加えて、弊社の鉱山でディーゼルを使用せずに走ることのできる機材の技術開発のためのメーカーとの取り組み、鉱石の輸送・運搬に使用されるバンカー重油を削減するための海運会社との取り組み、製鉄業界の脱炭素化へ貢献するための製鉄会社との取り組み、よりサステナブルな銅のサプライチェーンを構築するための取り組みなど、長年にわたり培ってきた日本との強固な基盤をもとに、エネルギートランジションへ向けてのさらなるパートナーシップへと拡大している。今後も、さまざまな分野でのパートナーシップを構築・強化して、日本の皆さまと共にサステナブルな未来を築いていきたい。

ガントス・ゆき 関西学院大学卒業。西豪州カーティン大学でMBA取得。西豪州政府、リオ・ティント社を経て2018年にBHP入社。プロジェクトを複数主導し、成果を残す。20年7月に現職に就任。BHPの主要市場である日本のCountry Presidentを務めている。

※次回はオーストラリア大使館商務部公使のエリザベス・コックスさんです。

【石油】ガソリン価格への影響 「ガザ」よりも補助金


【業界スクランブル/石油】

依然、イスラエルとハマスの戦闘は続いている。関係者から「戦闘でガソリン価格はまた上がりますね」とよく尋ねられるが、「あまり関係ないでしょう」と答えている。

理由は二つ。まず、ここ20~30年間、国際原油市場はパレスチナ情勢にはあまり反応していない。中東の産油国には波及しないからだ。事実、衝突直後には3.5ドル、地上侵攻の観測直後には5ドル急騰したが、11月初めには衝突前水準まで戻っている。

ただ今回は衝突の規模が大きいこと、イランの関与・サウジアラビアなどへの反発の意図が疑われていることから、産油国への波及が懸念されることは間違いない。

特にホルムズ海峡に火が付けば、原油価格は暴騰する。しかし、今回、イランがホルムズ海峡に手を出すことはまず考えられない。イラン自身の存亡に関わるならともかく、他国支援にそこまではしない。封鎖で困るのは、今や日本・韓国・台湾といった米国友好国より、むしろ中国・インドなどグローバルサウスの自身の友好国だ。

その意味で、封鎖のハードルは昔より格段に上がっている。それにイランは経済制裁解除が最優先であり、口先はともかく、米国を過剰に刺激することはないだろう。

二つ目の理由は、仮に原油価格が上昇したとしても、補助金効果で、国内石油製品小売価格には影響は出ないことだ。基本的に原油の輸入価格が上昇したら、補助金は自動的にその分増額される。

従って、石油会社の補助金込みの卸価格は抑制される。その意味で、従来の原油価格とガソリン価格の連動性は切断されている。問題は補助金終了後だ。その時のガソリン価格は原油価格次第ということになる。(H)

【シン・メディア放談】戦争・不祥事・再エネ汚職……… 現実に翻弄された2023年


<エネルギー人編> 電力・石油・ガス

業界人は政策や制度のゆがみが顕在化した1年をどう振り返るのか。

─オイルショックから50年の今年、ハマス・イスラエル紛争が勃発するとは……。

石油 とはいえ、50年前とはエネルギーを取り巻く状況が大きく変わった。当時はアラブ諸国が団結して石油の減産にかじを切ったが、今回はそんな気配がない。50年の歳月で西側諸国との経済的な結びつきが強くなり、アラブの「大義」よりも経済的な「利益」を優先するようになった。一方で西側諸国のリーダーである米国は、今や石油輸出国だ。アナリストたちが「第五次中東戦争」「第三次オイルショック」などとあおっても、市場はほとんど反応しない。

電力 メディアでも紛争の「リアルタイム実況」的な報道が多く、エネルギーの視点で語られることはほとんどない。こうした報道姿勢からも、「50年の変化」を見てとれる。ガスさん、LNGはどうだろう。

ガス 足元では落ち着いているが、一寸先は闇だ。日本はウクライナ戦争を受けて、カタールなど中東でのLNG権益の維持に動いた。その矢先のハマス・イスラエル紛争だ。オーストラリアも昨年、国内供給力が不足した場合に輸出制限ができるルールが導入されるなど、火種は残り続けている。

電力 ただオイルショックの経験から、日本はエネルギー源の分散化に動いた。ガソリンは仕方ないが、電気・ガス料金が石油価格に左右されなくなったことは評価できる。

石油 ちょうど12月号の『Voice』で米国の経済アナリスト、ダニエル・ヤーギンが日本のオイルショック後のエネルギー政策を褒めていたよ。論壇を見ると、『Voice』『正論』といった保守系の月刊誌はエネルギー情勢を現実的に見ている。リベラル系はそもそも月刊誌自体が少ないが、『世界』は強烈な反原発。新聞にしても、朝日が10月に中間貯蔵問題などで視野狭窄な記事を連発していた。地元の反対の声を取り上げるばかりで、「日本のエネルギー供給をどうするか」という視点がまるでない。

「第七次エネ基」策定へ 現実路線への修正を

─来年は「第七次エネルギー基本計画」の議論が始まる。エネルギー危機の顕在化で現実的な計画立案が求められるが。

ガス 原発は60年超運転が認められ、女川や島根など再稼働の見通しが立ったサイトもある。第六次エネ基の電源構成比率で原子力は「20~22%」(2030年度)だったが、第七次エネ基では「~」を取って、はっきりとした数字を明示できるかもしれない。

電力 再エネは第六次エネ基で「36~38%」を打ち出したが、現実的な運用を考えると難しい。昨年度の電源構成比率は22%だったが、それでも東京以外の全エリアで出力抑制を行っている。系統につなげない状態で、なお増やすことに意味はあるのだろうか。

一方で、事業者は石炭火力などバックアップ電源を確保しなければならない。再エネの導入費用以上に「導入しなければ掛からなかった費用」がかさみ、最終的に需要家負担につながっている。メディアにはこうした再エネの現実を分かりやすく伝えてほしい。エネルギーが世間の注目が集めている今がチャンスだ。

ガス 水素やアンモニアを本格導入すれば、今の価格では済まないからね。それでも、今年はEU(欧州連合)が35年の新車販売目標に合成燃料を活用するガソリン車を認めるなど、風向きが変わり始めた。日本は相変わらず目標達成にばか真面目だが……。

電力 EUは高い目標を立てながら、「国内法が整備できなかった」など理由をつけて逃げられる。合成燃料もドイツの自動車産業の突き上げをくらっての政策変更だった。エネ基で非現実的な目標を立てると、予算が縛られ市場がゆがむ。いかに現実路線に軌道修正できるかが、第七次エネ基のポイントだろう。

市場における「あと出しジャンケン」


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

今から約20年前のこと、欧米の資源メジャーが一斉に、石炭売買契約の買い主オプション(以下OP)をやめたいと言い出した。景気や天候に左右される燃料消費に応じ、一定価格で購入を増やせる便利な権利だったので、非常に困ったものだ。

当時は電力用炭の市場が育ってきた時期で、市場価格の下落時は、買い主はOPを行使せず、競争入札などで調達するようになった。そうなると、売り主はOP契約のために生産した石炭を投げ売りせざるを得ない。売り主は市場価格上昇の恩恵も放棄することになる。買い主に元の価格で売らねばならないからだ。市場が発達すると、OPは「あと出しジャンケン」のように、権利を持っているほうが一方的に儲かる仕組みとなる。

日本の電力取引でも卸売市場が活性化し、卸電力契約における「通告変更」というOPにがぜん価値が出てきた。例えば、買い主は、日頃は安価な市場からの購入を優先し、市場価格急騰時には相対からの購入を最大に増やせばよい。売り主は、急な増量の通告に対し、下手をするとkW時当たり200円の電気を市場から購入して供給する羽目になる。ところが、売り主が被る市場リスクへの対価という概念は旧来の卸電力契約にはなかった。契約kWの範囲内での通告変更は、基本料金の見返りとして当然のように扱われてきたのだ。基本料金はあくまで発電事業の固定費をカバーするものだった。

ここにきて、OPの価値は発販双方で認識されつつある。だが、価格を付けようにもいまだ「相場」というものがない。海外の市場では既に電力のオプションが活発に取引されるが、わが国でもこうした取引が次第に浸透し、「あと出しジャンケン」の価値が適正に認識される日を期待したい。

【ガス】なぎの状態に安心せず エネ安全保障の検討を


【業界スクランブル/ガス】

10月上旬にパレスチナのイスラム組織ハマスがイスラエルに奇襲攻撃を行ってから1か月が経った。現時点では、中東情勢緊迫化の状況はまだ深刻でないという見方なのだろうか。イスラエルからの報復攻撃が始まり、石油価格は一時期急騰する兆しがあったが、11月上旬の時点で80ドル前後を維持し、落ち着きを見せている。

天然ガス価格については、11月上旬のTTFは15ドル台、JKMが16ドル台とこちらも落ちついている。TTFの高騰をにらんで昨年急騰した石炭価格も、現在は豪州一般炭価格が120ドル台と同様の状況だ。

これから需要期の冬を迎えるが、欧州では暖冬予測が出ており、地下ガス貯蔵量も11月中旬には100%に達する見通しだ。さらに欧州の天然ガス需要量は例年の2割程度減少する傾向が続いている。ウクライナ戦争以来、ロシア産天然ガスの供給量は正常時の1割という状況が続いており、天然ガス不足の欧州がスポットLNGを相当量購入している状態は変わらないが、LNG需給自体は安定し、欧州天然ガス市場価格とスポットLNG価格はここ数年に比べて落ち着きを示している。

しかし、一度イスラエル・ハマス間の戦争がイエメン武装組織フーシ派ヒズボラ、そしてイランへ飛び火すると、広範囲に戦火が広がり、ホルムズ海峡の閉鎖、第三次石油危機へ一気に進んでしまう可能性も。ウクライナ戦争がエネルギー情勢を一変させたことは記憶に新しい。日本政府や各エネルギー企業は、今のなぎのような状況に安心してしまうのでなく、過去のさまざまな失敗経験を生かし、インテリジェンス能力を十分に効かせて、どのようなエネルギー危機であっても乗り越えられるような安全保障策を検討・準備しておく必要がある。(G)

「エネフェス」で冬商戦本格化 ハイブリッド給湯のメリット訴求


【ニチガスグループ】

 10月下旬から11月にかけて、ニチガスグループである東彩ガス、東日本ガス、北日本ガスの都市ガス各社が秋のガス展を開催した。各社共通して力を入れるのは、ヒートポンプとガス給湯を組み合わせた「ハイブリッド給湯機器」の拡販だ。

「総合エネルギー企業としての立場を明確にするため、従来の『ガス展』から『エネフェス』へと昨年改称した。扱う製品はガス給湯器だけでなく、蓄電池や太陽光発電パネル(PV)なども手掛け始めている。このエネフェスにふさわしい商品の一つがハイブリッド給湯(HB)で、昨年から本格的に販売している」。3社の中でもHBの販売実績が多い東彩ガスの展示会責任者である杉本晃一氏は話す。

ハイブリッド給湯のニーズが高まっている

ガス会社にとって、ヒートポンプを主体に動かすHBの販売は、裏を返せばガスの販売減を受け入れることを意味し、いわば「ご法度」商材だ。ただ、電気も販売し総合エネルギー企業を標榜するニチガスグループにとって、HBはおあつらえの商材である。


機器側の改良進む 簡単施工で導入加速へ

エンドユーザーの立場に立てば、HBを使うことで毎月のランニングコストとCO2が大幅に削減できる。エネルギー価格の上昇局面の昨今において家計に優しい商材ということでニーズが高まっているそうだ。杉本氏は「今回、展示会での販売を200台と見込んでいる。今期は昨年度の販売実績数を大きく上回るペースだ」と話す。

製造するリンナイやノーリツによる機器側の改良も進む。最近では「PVモード」搭載機種もラインアップされている。昼間の太陽光の電気によってヒートポンプを優先稼働させて貯湯し、夜間の風呂向けなどの給湯需要を賄う。いわば再エネ自家消費の促進だ。

また、導入する際の設置工事も改善されている。ヒートポンプとガス給湯設備のセパレート式の機種や、電源のプラグイン式が登場している。前者は設置・施工ペースの制約をクリアできるし、後者は従来必要だった電気回りの工事が不要になる。「ランニングコスト面以外でも訴求できるポイントが増えている。国や自治体、あるいはメーカーからの補助金も組み合わせながら販売数を増やしていきたい」(杉本氏)

寒冷の季節に向かって、エネルギー機器の冬商戦が本格化する。エンドユーザーはいま商材に何を求めているのか。総合エネルギー企業を標榜する他の大手企業もニチガスの販売動向に関心を寄せている。

UAEでCOP28開幕 中東混乱で分断に拍車


【ワールドワイド/環境】

ハマスによるイスラエル攻撃により、中東情勢は緊迫化している。石油価格が上昇しているが、これが1970年代のような石油危機につながるとの見方は現在のところ少ない。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長のように「ハマス・イスラエル戦争は世界のクリーンエネルギー転換を加速させる」との観測もあるが、各国の温暖化対策強化につながるかは疑問である。

この戦争はむしろ、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される温暖化防止国際会議COP28の合意形成に暗雲を投げかける可能性がある。エネルギー価格の高騰が、多くの政府の関心を温暖化防止よりもエネルギー安全保障に向かわせることは、ウクライナ戦争で経験済みだ。議長国のUAEは、戦争中でも温暖化アジェンダを前に進めようと努力するだろう。しかし戦争が激しさを増せば、同じ中東地域で開催されるCOP28で温暖化対応だけが前進するだろうか。

懸念されるのは、イスラエルを明確に支持する西側諸国への「ロシアのウクライナ攻撃を非難する一方、ガザへの攻撃を続けるイスラエルを擁護するのはダブルスタンダードだ」というグローバルサウスからの批判だ。同様の批判は、温暖化防止の分野でも存在する。もともと温暖化問題は南北対立の要素が非常に強い。近年、西側先進国は1・5℃目標達成を重視する観点から化石燃料フェードアウトなどを提唱するが、「化石燃料を使って国富を築き上げた西側先進国が、途上国の経済発展に必要な化石燃料利用に反対するのは一方的な価値観の押しつけだ。エコ植民地主義だ」という反発が高まりつつある。

ウクライナ戦争によって生じた西側諸国とロシア・中国などの権威主義国家の分断、温暖化防止を巡るグローバルノースとグローバルサウスの対立に加え、ハマス・イスラエル戦争を巡ってグローバルサウスから西側諸国に対する反発が高まれば、西側諸国が主導する国際秩序の変更を企図している中国、ロシアにとっては好都合となる。中国、ロシアは主要20カ国・地域(G20)首脳会議の場でも西側先進国が主導する温暖化アジェンダに水をかけてきた。ハマス・イスラエル戦争はグローバルストックテイクという宿題を抱えたCOP28のハードルを上げているのだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【新電力】内外無差別と表裏一体 経過措置規制の見直し


【業界スクランブル/新電力】

電力小売事業者が、直近で最も重点的に行っている業務は卸電力の調達だ。年度単位で売買されることが多い卸電力の契約は、年末から年始にかけて相対交渉で締結されることが多かったが、ここ数年は毎年手法や仕組みが変わっており、時期も前倒しされてきている。

特に今年は、旧一般電気事業者系の卸販売の方式が複雑化している。昨年度から実施されている入札のパターンも多様化し、さまざまな条件が変化している上に、複数年契約も登場した。事業者ごとに条件が異なるため、比較が難しく、これまでの経験だけで対応できない担当者泣かせの状況といえよう。

「内外無差別」をより深化させるべく、各事業者が試行錯誤していることがよく分かる。特に多くの募集においてエリア需要に伴う制約や転売禁止といった条件が撤廃されたことは大きな変化である。これにより、卸電力の市場範囲はJEPXの分断に準じた形で画定されることになり、特に西日本においては実質的な競争市場にかなり近付いた。旧一電各社卸売の募集条件やタイミングがバラバラで調達の仕方は難しいが、新電力にとっては、悲願であった電源への平等なアクセスが実現しようとしているのである。

同じようなコスト構造で電源調達すれば、同じような料金水準で提供されるはず。そうなると現在のようにエリア間で提供される料金が大きく異なる状態は持続的ではない。みなし小売各社にとっても、毎年電源調達・電源構成が安定しない可能性もあり、原価性を持った経過措置料金の維持は困難化するだろう。業界および事業者の健全性を担保するために、経過措置料金の撤廃や標準メニューの在り方の見直しなどが、内外無差別と表裏一体の形で、必須になってくるだろう。(S)

【マーケット情報/12月15日】原油上昇、需要回復の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み、小幅に上昇。需要回復の見込みが台頭した。

米国の連邦準備理事会は、年内最後となる13日の会合で、金利の据え置きを決定。また、2024年には引き下げる可能性を示唆した。さらに、欧州中央銀行、およびイングランド銀行も、金利を据え置いた。これにより、景気減速に歯止めがかかり、石油需要が回復するとの見方が広がった。

また、国際エネルギー機関が来年の石油需要予測を上方修正。先月より、GDP成長率の見通しが改善したことを要因とした。

中国では、11月の工業生産指数が前年比で改善し、2022年2月以来の最高を記録。価格の支えとなった。

一方で、中国における消費の減少は依然弱材料となっており、主要指標の上昇を小幅に留めた。


【12月15日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.43ドル(前週比0.20ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.55ドル(前週比0.71ドル高)、オマーン先物(DME)=76.04ドル(前週比0.19ドル高)、ドバイ現物(Argus)=76.40ドル(前週比0.64ドル高)

ドイツで新方式の洋上風力入札 事業者の負担増加を懸念


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは洋上風力拡大に向けて入札制度が一新され、2023年夏から二つの入札方式として①事業者調査方式、②政府調査方式―が導入された。①と②の大きな違いは、落札選定基準にある。①では入札額のみが判断されるのに対し、②では入札額に加えて複数の評価項目がある。それぞれ6月と8月に初回入札を実施したが、いずれも競争倍率が高く、入札額は非常に高額となった。

6月実施の①方式では、まずプロジェクトに対する補助(FIPのプレミアム)額について競争入札が行われる。最も低いプレミアム価格を提示した事業者が落札となり、指定海域の開発権利を得る。しかし、開発権利を求め、FIP補助なしでも落札希望(0セント入札と呼ばれる)の事業者が複数いる場合は、別枠で海域リース料に関わるオークションを実施し、最も高額な支払額を許諾した事業者が落札に至る。制度としてはFIP補助入札となっているものの、洋上風力の開発需要が高い限り、入札を通して事業者は政府へ多額の支払いを行うことになる。

初回入札では補助なし希望が殺到し、別枠のオークションを実施した。莫大な資金力を持つ石油メジャーのBPとトタルエネジーズが落札し、総支払額は約126億ユーロとなり、海域リース料としては国際的にも非常に高額となった。なお、RWEやオーステッドなどの大手電力は落札を逃した。

8月実施の②方式ではプレミアムは付与されず、開発権利をかけて入札が行われる。落札者の選定には入札額のほか、環境や社会問題などに対する事業者の取り組みを考慮する。初回入札ではRWE、ウォーターカントエナジー、バッテンフォールが開発権を獲得した。総支払額は総額7億8400万ユーロ、1MW当たりでは43万5555ユーロ相当となった。入札額の多寡のみによらない制度設計であるため、①方式(最低落札額=1MW当たり156万ユーロ)よりは低額となったものの、依然として高い水準であった。

これまでの洋上風力入札は電力会社中心であったのに対し、新たな事業者の参入が目立った今回の入札は一つの分岐点となったと思われる。高額化する入札額は洋上風力への参画ニーズの高さを示したと言えるが、インフレなどの影響で設備投資額が高騰している中、事業者にはさらなる負担増となる。特に入札額のみの評価となる①方式については、業界団体や大手電力からはルールの再検討を求める声が上がり、政府はどのように対応するのか注目される。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)