災害時の緊急対応エネルギーといえば、可搬性に優れたLPガス―。そんな業界常識はもはや過去のものとなりつつあるかのようだ。能登半島地震を受け、石川県内で建設が進む仮設住宅の調理器を見ると、一般的なガスコンロではなく、電気式のIHクッキングヒーターが標準装備されている。この状況に危機感を抱く業界関係者は少なくない。

「県の住宅当局からの要請と聞いている。仮設住宅を利用する被災者の多くが高齢者ということもあり、火気厳禁としたい意向があるようだ。室内の暖房も電気式のエアコンとパネルヒーターで、石油機器は使われていない。輪島市の朝市が大規模火災で焼失したことも火気厳禁の一因になっているのかもしれないが、かつてはLPガスの独断場だった非都市ガスエリアの仮設住宅供給でも、電化の波が浸透しているのは間違いない」(LPガス元売りの幹部)
今回、給湯器はLPガス仕様だが、火災防止の観点に加え、脱炭素化の社会的要請が今後一段と強まれば、仮設住宅にも太陽光発電や蓄電池を併設し、IHとエコキュートをベースにしたオール電化が標準仕様となる可能性はなきにしもあらずだ。実際、一部のタイプでは三重の窓ガラスによる断熱仕様が採用され、省エネ化が図られている。しかも内装はパイン材で木のぬくもりを感じられるなど、「壁は薄く、夏は暑く、冬は寒い簡素なプレハブ」といった、これまでの仮設住宅のイメージは塗り替えられつつある。
「入居者の負担軽減を」 業界団体に協力要請
そうした中、仮設住宅へのLPガス供給を巡って、興味深い動きが出ている。資源エネルギー庁が1月15日付でLPガスやプレハブの業界団体に対し、設備工事費をガス料金に上乗せすることがないよう事業者への協力を求める異例の通達を出したのだ。
具体的には、2011年の東日本大震災の際、仮設住宅の建設業者がコスト削減の必要性からLPガス業者に対し設備工事費の圧縮を求めたことから、「当該工事費の一部をガス料金に転嫁することを余儀なくされた」事業者があったと指摘。その上で、石川県エルピーガス協会には「設備工事費の支払いをプレハブ建築業者に求めるなど、仮設住宅入居者の経済的負担が極力軽減されるよう」会員への協力を要請。またプレハブ建築協会などにも、設備工事費の負担に関する協力を求めている。
この背景には、経済産業省の審議会がLPガス料金の透明化・低廉化を目的に、設備の無償貸与禁止を図る制度改正を提起したことがある、と見る向きは多い。
能登半島地震による住宅被害は石川県内で7万棟。県では3月末までに4000戸の仮設着工を目指しているが、7400件以上の入居申し込みが寄せられているという。地盤の隆起などに伴う復旧の困難さや高齢者の多さも相まって、仮設住宅入居の拡大、長期化が予想されている。〝LPガス離れ〟を招かぬよう業界は的確な対応を図れるのか。「災害対応エネルギー」の真価が試されている。