経産省がCPの方向性決定 炭素賦課金は28年度以降


経済産業省が、GX(グリーントランスフォーメーション)政策の一環としてカーボンプライシング(CP)の方向性を決めた。炭素賦課金は2028年度ごろから導入し、化石燃料輸入業者に対し炭素比例で課す。

12月14日のクリーンエネルギー戦略会合で決定

23年度から自主的な形で始める排出量取引は、26年度ごろから企業が削減目標を超過達成した分の取引などを本格化させ、33年度ごろから発電部門を対象とした有償オークションに移行。CPの二重負担を避けるため、発電事業者は炭素賦課金の対象から外れる。

経済界からは「経産省としては、岸田降ろしが本格化する前にCPの方向性を決めようとの考えだろう。表向きはCPに積極的なように見せているが、賦課金が始まる28年までは実害はなく、その間に欧米の政策が変われば調整も可能ではないか」と冷静な受け止めが出ている。

問題は、賦課金の水準と、石油石炭税など既存税制との位置付けの整理だ。CPの設計では、将来的な石石税やFIT賦課金などの負担減を見込み、炭素に絡む負担総額は増やさない考え。「そのためには原発36基の再稼働が必須条件になる」(同)。原発政策とセットで、今後CPの詳細設計がどう進むのか、要注目だ。

【覆面ホンネ座談会】先進国と途上国の亀裂深化 専門家がCOPを一刀両断


テーマ:COP27の舞台裏

温暖化防止国際会議・COP27では、議長国エジプトが音頭を取り、先進国が嫌がった「ロス&ダメージ(損失と損害)」基金設立に合意。そんな今会合を専門家が振り返る。

〈出席者〉A研究者  B有識者  C経産省OB

―まずは現地に行かれた方の印象を聞いていきたい。Aさんからどうぞ。

A 今回、「文化祭化」が著しくなっていた。各国の自主的目標設定に委ねるパリ協定という枠組みができて、COPの政府間交渉としての役割が薄まり、アピールの場になるであろうことは前から予想できていた。悪いことではないが、現実的な話が飛んでしまっていた。象徴的なのが化石賞。世界中から石炭を買い集めているドイツや、COP期間中に大幅な石炭火力増設を公言した中国は、今回一度も受賞していない。日本の化石賞受賞を大きく報じるメディアは、裏取り能力の無さを恥じた方がいい。

B 私は京都会議(COP3)の頃から十何年連続で参加してきたが、COP12辺りから行くのをやめた。優秀な人や知人が大勢現地に行っているので、自分が行かなくても大体動向が把握できるので。

A 年に一度の大同窓会という感じ。

B そう。なぜあんなに大勢集まるのかというと、まず環境運動家は運動資金をもらっているので、実績をつくらなければならない。大学の先生なども、COPで発表することが成果になる。そういう側面が多くて、だんだん学園祭的になっている。

ウクライナ戦争の影響端々に 途上国のしっぺ返し

―ウクライナ侵攻を機に、現実的なエネルギー政策の重要性が増す中での開催だった。Cさんも現地を訪れたが、感想は。

C 表面的にはクリーンエネルギー転換を加速すべきという議論が目立ったが、裏ではウクライナ戦争の影響が多方面に出ていた。一点目は、各国が今のエネルギー価格を抑えるため逆炭素税的な補助金を出し、中国やインドなどはどんどん石炭を燃やすなど、温暖化対策が逆行している。二点目は、エネルギー高騰で各国の懐具合が厳しくなった。途上国はさらに資金を引き出そうとするが、先進国もない袖は振れず、原則合意したロス&ダメージ基金は今後本当にどうするのか。三点目は、今回の合意文書に初めてエネルギーというヘッドラインができ、3段落目に「低排出エネルギーおよび再生可能エネルギー」が入った。「低排出エネルギー」はいろいろ解釈できるが、天然ガスやアンモニアなどとの混焼も含まれ得る。産油国の「目指しているのは脱炭素であり脱化石燃料ではない」との主張が入った。欧州は不満顔だったが、やはり再エネ1本での難しさが表面化している。

A その通りで、欧州がリードしてきた再エネ一辺倒には付いていけない、という動きが如実になってきた。各国の産業団が忌憚のない議論をするイベントがあるが、今回そこに欧州勢が軒並み不参加だった。「それどころではない」という状況だからだ。2021年秋からのエネルギー価格高騰は大問題なのに、炭素国境調整措置などばかり議論している欧州委員会への不信感が膨れ上がり、コミュニケーションも成立しなくなりつつあるようだ。このように構図が変わる時、日本が別の温暖化対策への貢献策を示せれば、と強く思った。

―EUと域内の企業、金融が一体的に脱炭素を進めてきた流れも変わるのか。

A COP26でグリーン投資加速に向けたGFANZ(グラスゴー金融同盟)が立ち上がったが、既に岐路を迎えている。GFANZから脱退する大手機関投資家も出てきて、金融業界の人も困惑していた。ESG(環境・社会・統治)投資のリターンが期待値を下回っていることもあって、今後どうなるかポジションが読みにくい。

B 金融業界もぐらついている。JPモルガンなどは割と大っぴらにGFANZへの懸念を口にするし、ブラックロックもESG重視と言いつつ化石燃料への投資停止はあり得ないと言っている。実はESGはそもそも、もうからない上に、右からも左からも攻撃を受けている。右側からは「左翼思想で年金の運用を決めるなど論外」との強力な反論。片や左側も「グリーン投資は見せかけだけ」などと批判する。こうした意見を全て聞いていては、誰もお金を預けようとしなくなるよ。

COP27では温暖化による損害に対する新たな基金設立に合意した

【イニシャルニュース 】TOKIOーBAの裏話 怪しいフィクサーの影


TOKIOーBAの裏話 怪しいフィクサーの影

人気グループの「TOKIO」が、22年5月に福島県西郷村に「TOKIOーBA」という8ヘクタールの土地を購入し、新しい復興の場となる期待が出ている。ところが、この場所はかつて騒ぎを起こした「安愚楽牧場」の所有で、怪しいフィクサーが登場しているようだ。

安愚楽牧場は肉牛への出資者を一般人から募る和牛預託商法をしたが、経営が行き詰まった。総額4330億円の負債を抱え11年に倒産。社長は特定商品取引預託法違反で逮捕され、東京高裁で14年10月に懲役2年6月の実刑判決を受けた。

同社倒産後に畜産業のS社が資産の一部を購入。S社はそれを整理し、この地域の土地を売った。そこでMという東京のフィクサーが仲介に動いていたと、現地でうわさされている。Mは安愚楽の経営にも関わり、秋元司元衆議院のIR汚職事件で偽証し逮捕された人物だ。ちなみにTOKIOーBAの隣接地に、今話題になっている上海電力の太陽光発電所がある。

TOKIOは11年3月の福島第一原発事故の後に、農業を行う番組をしていた縁で福島復興を積極的に手伝い、県民に深く感謝をされた。20年に所属事務所から独立しメンバー3人が「株式会社TOKIO」を設立。今年5月に新プロジェクトとして「TOKIOーBA」を発表し、10月には現地で「フクシマBAマルシェ」という物産販売イベントを行った。各メディアが取り上げ、県も支援し好評だった。

TOKIOとMの関係の詳細は現時点で不明だ。しかし善意で復興に取り組む人々や県、自治体が怪しい人たちに取り込まれないかが心配だ。

小早川氏の次は誰? 東電次期社長を読む

東京電力ホールディングス(HD)の次期社長レースに暗雲が漂っている。「小早川智明社長の後任を務められる有力な人材が見当たらない」(元東電幹部X氏)という問題を抱えているようなのだ。

小早川社長の後任に悩む東電

小早川氏は2017年に史上最年少となる53歳の若さで東電HD社長に就任し、現在6年目を迎えている。当初は、営業畑を歩み原子力部門の経験がない小早川氏に対し、電力経営の手腕を不安視する向きもあったが、「ポストが人を育てるという言葉通り、今や立派な経営者となり風格も出てきた。頭の良さと精神力の強さが生かされていると思う」(X氏)。問題は次だ。

現在、候補として名前が挙がっているのが、東電HD役員のY氏、S氏、N氏、東電グループ会社トップのN氏とA氏だ。X氏とは別の元東電幹部のZ氏が言う。

「まずY氏は頭が切れて有能だが、大電力会社の社長として経営を取り仕切るには力量不足。S氏は経営のセンスはあるものの、経産省の言いなりになる恐れがある。個人的には、N氏が社長になるとおもしろいと思うが、小早川氏と同様、原子力経験のないことが足かせに。もう一人のN氏も社長を務められるだけの実力を持っているが、小早川氏との人間関係がネックになりそう。A氏については、現職でミソを付けてしまったので、いっても東電HD副社長までだと思う。社内的にはいずれも決め手に欠けるのが実情だ」福島第一原発の廃炉・処理水放出、柏崎刈羽原発の再稼働、東電エナジーパートナーの増資に料金値上げなど、課題山積の東電。社長職の苦労も並大抵ではなさそうだ。

電事連会長人事が混とん 中部・関西に漂う暗雲

電気事業連合会の次期会長の行方が混とんとしてきた。現会長の池辺和弘・九州電力社長は異例の3年目を務め、23年春の交代がうわさされている。

後任として有力視されてきた一人が、林欣吾・中部電力社長。だが、①大手電力カルテルで公正取引委員会から課徴金275億円の処分案、②東邦ガスとのカルテルで公取委が立ち入り調査―といった事情から、雲行きが怪しくなりつつある。

もう一人の有力候補は森望・関西電力社長だ。「関電は会社として電事連会長のポストがほしいのではないか」と話すのは、大手電力会社幹部A氏。背景には、青森県むつ市での使用済み核燃料の中間貯蔵を巡る問題がある。

公取委処分が電事連人事に影響?

関電は21年2月、福井県内の原発から出る使用済み燃料についてむつ市の施設を共用する案を、杉本達治・福井県知事に提示。23年末を期限として確定させることを約束した。しかし宮下宗一郎・むつ市長は「可能性はゼロ」として共用案に反対の姿勢を明示している。このまま事態が進展しなければ、高浜1・2号機、美浜3号機が稼働停止を余儀なくされることになりかねない。

「電事連会長になれば、慣例として青森県と関係の深い日本原燃の会長も務めることになる。23年には県知事選があり、宮下市長が出馬する可能性が取りざたされている。関電としては、電事連・原燃の両会長の立場でこの問題を仕切りつつ、新知事との交渉を進めたい。そんな思いがあっても不思議ではない」(A氏)

ただ、11月下旬に明らかになった大手電力カルテルに対する公正取引委員会の処分を巡って、関電が課徴金減免制度を使って処分を免れたことへの批判が業界内で高まっている。「そんな時期に、関電が電事連会長を務めるのは現実的に難しいのではないか」(経産省関係者)

複数の事情通の話を踏まえると、現在は樋口康二郎・東北電力社長の可能性が急浮上している。「東北初の電事連会長が誕生するか、それとも池辺氏が異例の4年目で続投するか。いずれにしても、最後は両社の話し合いで決まるかも」(大手電力幹部)

太陽光条例は箔付け? 小池都知事の変節

「小池百合子都知事は『東京は国や世界に先駆け太陽光設置都市として名を馳せる』とまで言っていたのに、急にトーンダウンした」。

東京都議会で22年12月15日に可決された新築住宅の太陽光パネル設置義務化条例。恩恵を受けるはずの業界団体幹部はこう嘆いた。中国・新疆ウイグル自治区の人権問題などでネットを中心に「アンチ太陽光」の勢いが増す中、旗振り役だった小池都知事は12月の会見では批判に配慮するなど「変節」。背景に都民の反発があるかと思いきや、実情はそうでもないらしい。

前述の団体幹部は「反対派筆頭のS氏は、保守政治家F氏らとオピニオン誌などでつながりがある。S氏に同調するように、他の保守政治家も反対の姿勢を強めてきた」と話す。元自民党幹事長・二階俊博氏との親交を武器に国政復帰・女性初の首相を目指す小池氏にとって、保守派との対立は望むところではなく、先の変節は保守派議員に配慮した形というわけだ。

そもそも太陽光条例自体への思い入れもなさそうだ。「小池さんにとって太陽光条例は自身の箔付けに過ぎない。当時所属していた木下富美子都議の無免許運転事故問題を隠すためにぶち上げただけ」(都議K氏)。条例は25年4月実施を目指すが、さらなる変節はあるのか。

アカデミアの変化 T大で再エネ派存在

「気候危機」やカーボンニュートラルへの社会的関心の高まりが、アカデミアの顔ぶれにも影響を与えている。

これまで再生可能エネルギー推進派と言えば、洋上風力公募を巡る情報発信を積極的に繰り返したY・K特任教授、再エネ懐疑派だけでなく時に再エネ推進派とのバトルも辞さないY・Y特任教授を擁するK大というイメージが強かった。ただ、ここ数年は、T大も再エネ派の論客を続々教授などに招へいし始めた。「T大の左傾化が目立ち始めている」(気候危機慎重派)というのだ。

例えば、環境系や再エネ系委員として政府の数々の審議会メンバーを務めるT氏は、R大やN大を経て現在はT大教授を務める。また気候危機派の急先鋒のE氏も、つい最近T大教授に就任した。E氏は環境系の公的研究機関に所属し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)評価報告書執筆者としても活躍した。なお、T氏もE氏も、T大の同じ研究センターの所属だ。

ちなみに、再エネ主力化のロビイストとしての役割を担い、大手電力などへの舌鋒鋭い批判も展開するO氏は、現時点ではT大にもK大にも属していない。

革新炉開発の方向性提示 背後に自公の綱引き


政府の革新炉開発に向けた方向性が明確になった。まずは廃炉が決まった原子炉の建て替え(リプレース)を対象とし、具体化を進めていく。

岸田文雄首相は2022年12月12日、①自民党の最新型原子力リプレース推進議連、②公明党の総合エネルギー対策本部・経済産業部会―の与党2団体の申し入れを受けた。原子炉は廃炉に数十年かかるため、全く同じ場所での建て替えはあり得ない。そのため、リプレース推進議連は、敷地にこだわらず「事業者ごとの廃炉と新増設の組み合わせ」を主張する。

リプレース推進議連の申入れを受ける岸田首相

一方、公明党は同じ敷地内でのリプレースを条件付きで認めるにとどめ、新増設も「現時点で認められない」と強調するなど、温度差が目立った。公明党は22年末、自民党との交渉において①反撃能力保持、②原発新増設―のどちらしか認められないと困惑していたとの声も聞く。結果的に①を譲ったため、②は認められなかったのだろう。

いずれにせよ、革新炉開発の政府方針は、官邸のGX実行会議の報告に盛り込まれ、23年から議論が始まる第7次エネルギー基本計画に反映されることになる。絵に描いた餅にならぬよう、実行力に注視したい。

尾鷲第一・第二発電所60周年 徹底した環境対策で地域共生


Jパワー

 名古屋駅から特急列車で2時間半。三重県尾鷲市にあるJパワー尾鷲第一発電所が2022年に、尾鷲第二発電所が21年に、それぞれ運転開始60周年を迎えた。

有効落差225.3mの尾鷲第一発電所

尾鷲駅を出てまっすぐに進むと、尾鷲港が見えてくる。黒潮(日本海流)に面する尾鷲湾は漁業が盛んで、魚の養殖場も目に入る。市街地には寿司店や魚介類の土産店が立ち並び、新鮮な海の幸を振る舞っている。

こう書くと、尾鷲=港町と思われるだろうが、それだけではない。険しい山々に囲まれ、ヒノキを主体とした林業地でもあるのだ。尾鷲湾の背後は大台ヶ原が囲む。「近畿の屋根」と呼ばれ、1000m超級の山々が連なる急峻な山脈だ。紀伊半島一帯に広がる紀伊山地の中でも特に険しく、「紀伊山地の霊場と参詣道」として04年、世界遺産に登録された熊野古道の通り道でもある。

この海と山のコントラストが、尾鷲に多雨をもたらす。海からの湿った空気が大台ケ原にぶつかることで、尾鷲周辺は日本有数の多雨地域として知られる。この地形に加え、阪神・中京といった大工業地帯に近いロケーションでもあり、水力開発地点として注目されないはずがなかった。

両発電所が水を引くのは、大台ケ原を水源とする新宮川水系と銚子川水系の二つ。日本が独立を回復してから間もない1953年、両水系の開発が始まった。

工事は道路建設から開始 マニアに人気のアーチダム

大台ケ原は台風など激しい風雨にさらされ浸食が激しく、川の上流は平地を流れることがほとんどない。このため、開発は資材を運ぶ道路建設からスタートした。尾鷲駅と工事現場を結んだ北山道路は59年に開通し、アクセス困難だった北山川上流地域が太平洋側に直結。尾鷲の漁業を奈良県や京阪神市場と結び付け、総合的な地域開発にも寄与した。急カーブが連続する一車線の山道ながら、国道に指定されているのも納得だ。

尾鷲市街地から北山道路で1時間。尾鷲第一発電所の主要ダムである坂本ダムに到着。全貯水容量は8700万㎥。頂長256・3m、高さ103mのアーチ式コンクリートダムだ。恵まれた地質・地形から、アーチ式を採用しており、その形状から一部のダムマニアからは〝研ぎ澄まされた日本刀〟と評される。

坂本ダムから第一発電所までは約7㎞の圧力トンネルで水を導き、途中にある六つの渓流取水ダムからも合流。225・3mの有効落差を使い、最大出力4万kWの発電を行っている。発電所内に足を踏み入れると、タービンの「ゴー」という轟轟しい音が響きわたっていた。運転開始から60年間、丁寧な保守作業を行いながら発電を続けてきた。

徹底的な水質管理 漁協と常に連携

第一発電所で使用した水はクチスボ調整池に貯められ、第二発電所で再度利用される。第二発電所は尾鷲湾から約3㎞という近さ。クチスボ貯水池の先にある頂長98m、高さ35mのクチスボダムから約2・4㎞の圧力トンネルで水を導き、120・92mの有効落差で最大出力2万5000kWの発電規模だ。その後、発電に使用した水は近くの中川を通じて尾鷲湾に注がれる。

尾鷲湾の養殖場の魚は、塩分濃度の影響を受けやすい。また濁水を流してしまえば、生態系に影響を与えかねない。だからこそ、両発電所では発電水の水質管理を徹底する。

そのカギとなるのが、濁水が与える影響を最小限に抑えるべく05年に導入した第一発電所の表面取水設備だ。貯水池の水は、表面ほど濁度が低い。そこで水位に追従する取水設備(ローラーゲート)により、濁りの少ない部分から取水できるようにした。この表面取水設備は坂本貯水池に設置され、濁度の低い水を第一発電所に送り込む。

発電放流水が直接、尾鷲湾に流れる第二発電所では、放水口で5段階の濁度指標を計測。尾鷲湾に影響を及ぼす可能性がある場合には、漁業組合や養殖組合と協議したうえで運転を制約することもあるという。

高度成長を支えた両発電所は、地域と共に歩み続ける。

託送料金単価大幅値上げへ 「妥当性に疑問」の声も


一般送配電事業者10社が2022年12月8日、23年4月に導入される新たな託送料金制度(レベニューキャップ制度)に向け、電力・ガス取引監視等委員会の審議会による審査結果を反映し修正した「収入見通し」の承認を経済産業省に申請した。正式に承認され次第、各社はこれを基に託送料金を算定し、新たな託送供給約款を申請することになる。

効率的な送配電設備への投資が課題だ

レベニューキャップの導入に伴い、送配電事業者は事前に5年間(第一次規制期間)の事業計画を示し、その実施に必要な費用を見積もった収入上限について国の承認を受け、その範囲内で柔軟に託送料金を設定することになっている。収入の見通しは、査定により7月申請時よりも1~3%強減額されたものの、再生可能エネルギー拡大に伴う送配電網の増強やレジリエンス向上、調整力確保のための費用などがかさみ、特別高圧、高圧、低圧を合わせた1kW時当たりの託送料金単価は、現行の単価より4~16%強値上がる見込み。

燃料費の高騰や円安の影響で小売り料金は高止まったまま。これに新たな託送料金が上乗せされることで、需要家のますますの負担増は避けられそうにない。そして、この新たな託送料金水準について「妥当性に疑問がある」として、早速物言いを付けているのが河野太郎消費者担当相だ。

とはいえ、今後、電力需要が大きく伸びない中で、いかにして老朽化した設備の更新や再エネ導入増に伴う設備増強を進めるかは大きな課題。レベニューキャップ導入にも、効率化を図りながら再エネ主力電源化やレジリエンス強化のための投資を着実に確保することにある。それを阻害するのは、河野氏とて本位ではないはずだ。

【コラム/1月6日】新しい資本主義の具体化と日本経済2023年を考える~壊れゆく日本に理性を求めて


飯倉 穣/エコノミスト

1,新しい資本主義実現会議(以下会議という)は「成長と分配の好循環」に向けた具体的検討を継続している。報道はその一部を伝える。「ユニコーンを100社に増やせ 政府のスタートアップ育成5カ年計画」(朝日デジタル2022年11月24日 )、「与党税制大綱決定 NISA恒久化、非課税無期限に 貯蓄から投資 後押し」(日経12月17日)。

直面するマクロ問題対応の政策もある。原子力発電の活用である。「原発回帰「結論ありき」新規建設・60年超運転 審議会が了承」(朝日同17日)

 このような様々な施策は、短期・中期・長期の日本経済にどう貢献するだろうか。政府見通しは、23年度実質1.5%成長である。新しい資本主義の具体化と23年経済を考える。

2,22年経済は、欧米でコロナ放置・経済回復に伴う需要復活・供給制約で、年越しの物価上昇の中、2月ウクライナ戦争、ロシアへの経済制裁等で資源エネルギー価格高騰となった。物価上昇・金融引締めがあり、経済は下方に向かう。我が国は、予防行動の継続・ワクチン・治療薬の普及でコロナ感染抑制等に奔走し、経済水準維持を目論む。輸入価格・物価上昇、所得流出で、経済は縮小均衡調整となる。菅直人政権の非合理的な原発停止が、貿易収支の赤字幅を拡大し、今回の国際均衡の危うさとなる。膨大な予算措置は継続するが、経済活性化への効果は疑問である。経常支出(138兆円含補正分)の国債依存(62.4兆円、依存率45%)は、公的債務残高(1,055兆円不含補正分)を償還困難な水準に押上げる。浪費癖の準禁治産者状態である。マクロ経済大変動の恐れが顕在化しないことを祈るばかりである。その延長に23年経済がある。

3,現経済を打開する政策はどうか。当面は、総合経済対策(10月28日)・補正予算(12月2日)で諭す。中長期には、新しい資本主義で、実現朦朧たる「成長と分配の好循環」を目指す。

 政策は、第一に成長戦略で①科学技術・イノベーション、②デジタル田園都市国家構想等による地方活性化、③カーボンニュートラルの実現・GXの実行、④経済安全保障を目指す。第二に分配戦略で①所得の向上につながる「賃上げ」、②人への投資の抜本強化、③未来を担う世代の中間層の維持を追求する。第三に全ての人が生きがいを感じられる社会の実現を挙げる。

4,最近の会議は、企業間の労働移動の円滑化・リスキリング・構造的賃上げ(11月10日)、資産所得倍増プラン(25日)、スタートアップ育成5か年計画及び資産所得倍増プラン(28日)を取り纏めた。新たな事業再構築のための私的整理法制(30日)も検討した。

 検討事項の多くは、バブル崩壊後の苦難の打開策として90年代に芽生えた。爾後手を変え品を変え登場する施策である。

5,例えば労働移動は、「経済改革研究会(平岩レポート)」(93年12月16日)で「転職しやすい労働移動」、「構造改革のための経済社会計画(95年12月1日)で「円滑な労働移動を可能とする・・・労働市場を整備」。小泉改革「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(骨太の方針)」(01年6月26日)で、「円滑な労働移動が促進され、労働力の再配置が円滑に実現するように環境整備を進める・・」と。

「経済財政運営と改革の基本方針」(13年6月13日」は、三本の矢(金融、財政、民間投資喚起)を掲げ、日本再興をめざし「行き過ぎた雇用維持から労働移動支援型への大胆な政策転換、民間人材ビジネスの活用等により、成熟分野から成長分野に失業なき労働移転を進める」とした。

 その考え方は、政策で成長実現そして成長分野に労働移動という文脈と労働の流動化で成長実現という思いが込められている。成長力の乏しい経済の本源を見失っている。経済の目的を雇用第一と考えるなら、経済実態に沿わない労働移動は、不安定雇用(現非正規雇用割合38%)を助長し、社会保障コストを積み上げる。

6,スタートアップ(起業)はどうか。90年代シリコンバレーの成功に触発されて、成長牽引の新規事業への期待で、ベンチャー企業等への資金供給の円滑化等を措置した。その後ベンチャー育成は、ベンチャーキャピタル機能強化を経て、大学等技術移転促進法の制定(TLO活動支援:98年)、大学発ベンチャー1000社構想(01年)。小泉改革「骨太の方針」の「チャレンジャー支援プログラム(貯蓄優遇から投資優遇、起業・創業重視の税制等検討)」(01年)となる。「アベノミクス日本再興戦略2016」(16年6月)もベンチャー創出力の強化は成長戦略で重要と位置づけた。ユニコーン期待、シリコンバレー人材派遣(16年)。そして新しい資本主義でスタートアップとなる。

この政策への執念は、公的関連機関の組織と公的資金を拡大した。30年間経済成長率年平均0.8%程度を省察すると、効果不明である。起業に財政依存体質が蔓延している。

ベンチャーは、米国型を追い求めたが、見果てぬ夢のままである。日本型の模索が必要である。近時、企業は自らコーポレート・ベンチャー・キャピタル(例三井化学)を設立・活動している。このような民間企業の取り組みこそ経済活性化を招来するのではなかろうか。その際、企業経営を混乱させている株主・投資金融重視の現コーポレートガバナンスや株主代表訴訟等の見直しが必要である。

7,このように新しい資本主義の検討施策は、とにかく「昔の名前で出ています」にある「忍が渚」になるような看板書き換えが多い。実現希望課題を現施策の塗り替えで新機軸的印象を伴わせ再提出する意味は、現行制度維持や予算確保という思いに加え、まだ実現不十分でもうすこし継続したいという意味合いもあろう。だが30年間も同じようなものを提案し続けることは、知恵の無さを想起させ哀しい。つまり政策担当者(行政)、政治家、会議参加の一部エコノミストのいずれもが、マクロ経済運営のあり方で誤解・錯覚・混迷している。

8,思考錯誤的施策の遊びでなく、現経済に大きく影響する永続課題がある。その最たるものがエネルギー資源確保問題である。経済は、エネルギーの流れの中で構築されている。必要エネルギー確保こそ経済水準維持、経済成長の基礎である。

カーボンニュートラルの下での化石燃料開発の縮小、ウクライナ戦争による化石燃料不足・価格高騰、再エネ開発の限界、原子力開発の停滞でエネルギー供給不足が現出している。この結果経済はより停滞する。この状況を打開する有力な策は、省エネでは足りず、非化石エネルギーの供給増である。再エネ開発の加速が念頭に浮かぶが、現開発スピードを見れば、長期は別として短期は限度がよぎる。故に種々問題を抱えているが、原子力エネルギーの活用が現実的な解となる。

 今回漸く経産省資源エネルギー庁総合資源エネルギー調査会基本政策部会は、「原子力の活用」(22年12月16日)の取りまとめで、安全最優先で再稼働、廃炉の建て替え、運転期間の延長を提言した。合理的な原子力利用を掲げ、今回・将来のエネルギー危機解決に向けて一歩踏み出した。

繰言になるが、原子力発電は、準国産エネルギーで海外事情と離れて数年間は稼働可能なこと、変動費を資本費に置き換えているため発電コストの安定性があること。発電量が多ければ、化石エネ需給に影響を与え価格安定に寄与すること。この結果日本の貿易収支の改善に貢献し、また国内投資を喚起することでマクロ経済にも寄与する等の利点が認められる。

 勿論安全性の確保、事故が起きたときの対応の工夫は常に必要である。東日本大震災の経験が活きることを思えば、よりよき対応が可能である。

経済論として、マクロ経済運営で明るい材料が決定的に不足する中で、新しい資本主義の目玉となる。

9, 23年経済は、原子力利用拡大で貿易収支等の改善は多少あろうが、現政策を見ると、生産面で新胎動がみられず、支出側でも企業設備投資、住宅投資、輸出に動意が乏しく、財政出動拡大でも実質経済成長率は、0~1%の状況であろう。そして現経済の中身は、借金まみれの高水準横ばいで心神喪失状態でもある。23年は、フィクションの経済政策・エネルギー政策を超えて、政策に成長を求めることでなく、民間企業の創意工夫の中に成長を求めたい。

近時、経済にとってUnknown Unknowns(知らないことを知らないこと)が頻発している。自然災害に加え20年新型コロナ感染拡大、22年ロシアのウクライナ侵略等である。23年はどうであろうか。経済ショックへの対応が経済活性化維持のキーになる。そのような予期せぬことに対応できる均衡のとれた力強い経済の構築が常に必要であることにも留意したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

大手電力カルテルの表層深層 業界を震撼させた公取委処分の問題点


独占禁止法違反の課徴金としては史上最高額の1000億円になる見込みの大手電力4社による電力カルテル。

電力間で取り交わされたとされる「相互不可侵」の合意の有無が最大の争点になりそうだ。

 「(大手電力会社の)供給区域を元に戻すような形で、分割して、それぞれのエリアを守ることがあれば、電力自由化に反するものであり、わが国が目指している電力市場の方向性に反する」

公正取引委員会の小林渉事務総長は12月7日の定例記者会見で、電力供給を巡る大手電力4社のカルテルについて厳しい口調で、こう断罪した。

公取委は独占禁止法違反(不当な取引制限)で、中部電力、中国電力、九州電力の大手電力3社に対し、計約1000億円の課徴金納付を命じる処分案(中部275億円、中国707億円、九州27億円)を通知した。決定すれば課徴金額は国内の独禁法案件では過去最高額になる。

相手の管轄区域で営業しないよう「相互不可侵」の協定に合意し、実行したことが独禁法違反に当たると公取委は認定した。いずれも関西電力との不可侵協定なのだが、違反を最初に公取委に自主申告したため、関電は独禁法の課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づき処分を免れた。この協定の合意を巡り、公取委と電力側で判断が分かれたままだ。

「(関西電力が)一方的に『出て行く』と宣言したわけですよ。うちはそれに対してただ黙っていただけ。否定も肯定もしていない。それを合意と認定されてはたまらない」。電力A社の関係者はこう述懐する。A社は頻繁に関電の経営陣と面会をしていた事実は認めている。面会のたびに、関電からは「(A社が関電のエリアから)出て行ってくれたらいいんですが」「(A社を)これ以上攻めるようなことはしません」などと言及したという。ただ前出の関係者は「合意認定の是非はともかく、いかんせん関電側と会いすぎたことで疑念を招いた」と指摘する。

関電のメモで事実認定 他社は「合意」を否定か

公取委は先に〝自首〟した関電から詳細なメモを押収し、それを基に事実認定していったとみられる。事情通は「電力には懇談の内容を詳細にメモに残す習性があるようで、いつ、どこで、誰が、何を言ったまで、きっちり書かれている。このメモを照らし合わせていったのだろう」と説明する。

だが電力B社の関係者は、A社同様に「積極的に取り決めしなくても、どこかの電力に追随するということで認定されたら何でもありということになってしまう」と不満をあらわにする。

過去、社内調査で独禁法違反がなかったと結論付けた電力C社の事情を知る人物は「C社の弁護団は相当自信をもっていた。公取委に対し意見書を提出するなど、社内調査をたてに徹底抗戦だった」と話す。政府関係者によると「C社については最後まで判断を迷っていた。裁判になっても負けないぐらいの証拠固めを慎重の上にも慎重に進めていた」と打ち明ける。

実際、公取委の調査は難航した。関電や関係する電力のリーニエンシーによって2021年の立ち入り後は、短期決戦ではないかとの臆測も流れていた。しかし蓋を開けてみると、合意の有無を巡って判断が割れた。関電のメモには「合意された」とあっても、相手方のメモには「要請された」とだけ記してあったり、一方的な通告と受け取っただけということも見受けられたという。別の政府関係者は「通常、立ち入りから1年後には何らかの結論が出るが、ここまで延びたのは合意の有無の裏取りが難航した」と解説する。

もっとも、公取委は関電のメモに依りすぎて見切り発車したのが難航した要因の一つではないか、と指摘する向きもある。エネルギー業界関係者は「関電のメモに信ぴょう性があるのかを吟味する必要があったのではないか。金品授受問題などで関電の企業体質が明るみに出たが、その教訓でコンプライアンスにはとりわけ敏感になっている。他社からすると、そんな関電にしてやられたという感じかも」と話す。

さすがの公取委も功を焦ったか

賭けに打って出た公取委 電力は訴訟の可能性も

事の発端は自由競争で顧客を奪われて焦った関電が、ほかのエリアで採算度外視の強引な営業をかけたことが起因しているという説が根強い。

関西のある自治体出資の地域新電力は関電の攻勢で「市民から監査請求を受けるはめになった。常軌を逸する攻勢だった」と振り返る。もちろん自由競争だから正当な商行為ではある。しかし関電は過当競争の影響大と見るや、カルテルを主導してしまうという疑いが不信感を生んでいる。そんなところのメモを頼りにして事を進めては「公取委の信頼性も揺らぎかねない」(電力関係者)。

見切り発車と指摘される公取委側にも事情がある。新型コロナウイルスの感染拡大で思うように立ち入り調査ができない時期が続いていた。今回の電力カルテルは旧法が適用されるが、悲願だった独禁法改正をしながら「何の成果も出なければ肩身が狭くなる」(政府筋)。売上規模の大きさからして電力カルテルの課徴金は1回の処分で通常の1年分相当の課徴金が取れる可能性があり、いわば賭けに出たという見方もできる。

ただ事情通は「公取委内部では魑魅魍魎の電力業界を知れば知るほど、当初の甘い見立てと打算とは別に『これは意地でも挙げなきゃならん』と士気があがったらしい。C社が対象から外れるという話しも一時浮上したが、最後に入れたところに矜持を示したと言えるでしょう」と分析する。

電力カルテル問題は、まだ緒に就いたばかりだ。事業者からの異議申し立てなども経て、正式に処分が決まるのは年明けになりそうだ。資源高の影響で体力を落としている電力会社が巨額の課徴金支払いにすんなりと応じるのか。応じれば、株主代表訴訟という線も出てくる。

対象となった大手電力の中には値上げ申請をしているところもある。政府の電気料金値下げの補助金も入る。そういった政治的配慮を台無しにしないために、電力はメンツをかけて、行政訴訟を選択する可能性も否定できない。電力側の出方が今後の焦点になる。

公取委が電力競争を調査へ 卸価格「内外無差別」焦点に


旧一般電気事業者と新電力の間の公平な競争条件の整備・確保がなされているかどうか。現在の市場や制度が抱える課題について、競争環境確保の観点から改めて実態調査を行う」

12月14日、またも電力業界に衝撃が走った。公正取引委員会の小林渉事務総長が定例会見の場で、電力会社間の競争環境に関する実態調査に着手する方針を表明したのだ。具体的には、大手電力会社の発電・小売り部門、送配電会社、新電力など約130社を対象にアンケートなどを実施し、公正な条件で実際の競争が行われているかなどを調べるという。

公取委の一挙手一投足に業界は重大関心

「焦点の一つは、大手電力の発電部門が小売り部門に卸す際の条件が、グループ内とそれ以外で差別的な設定になっているのではないか、だ」。電力問題に詳しい有識者の一人はこう指摘する。「それとは別に、大手電力の小売価格が卸価格を反映した水準になっていないという不当廉売の疑いなども浮上している。公取委の調査を通じて、こうした疑惑が裏付けられるのか、注意深く見守りたい」

電力販売を巡っては、中部電力、中国電力、九州電力の3社が11月下旬、カルテルを結んでいた疑いで公取委から史上最高額の計1000億円を超える課徴金の処分案を提示されたばかり。ただ、この件では、カルテルの中心にいた関西電力がリーニエンシーによって課徴金処分を免除されたり、課徴金額が実際の損害額を反映した水準になっていないことなどを問題視する向きが出ている。

「公正競争を担保する制度整備が不完全なまま全面自由化を実施したことが、そもそもの問題なのでは」。新電力幹部の指摘を、経産省はどう受け止めるのか。

世界最高水準の熱効率63%以上 脱炭素に寄与する火力発電所


【東北電力】

2022年12月、東北電力が建設を進めてきた上越火力発電所1号機が営業運転を開始した。

最新鋭の火力発電として、高い経済性と環境性を有する同機の果たす役割は非常に大きい。

 上越火力発電所1号機の出力は57万2000kW。年間の発電電力量は、一般家庭約80万世帯が年間で使用する電力量に相当する。発電方式には、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた「ガスコンバインドサイクル発電システム(一軸型)」を採用し、世界最高水準となる熱効率63%以上を達成。最新鋭の火力発電として、燃料消費量と運転に伴うCO2排出量の削減に貢献する。

エネルギーを取り巻く環境はここ数年で大きく変化し、火力発電には「燃料の高騰」や「脱炭素社会の実現」に向けた対応、さらには増加する再生可能エネルギーの出力変動に対応する調整力としての機能が必要不可欠だ。高い経済性と環境性を有し、刻々と変化する電力需要への追従性も高い同機には、大きな期待が寄せられている。

熱効率63%以上を達成した上越火力発電所1号機

最新の技術や知見を導入 保守・点検の高度化も実現

上越火力発電所1号機は、東北電力で9カ所目の火力発電所となる。自社火力の経年化が進んでいる状況や競争環境の進展を踏まえ、計画的に経年火力を廃止し、コスト競争力のある最新鋭火力への置き換えを進める一環として、2019年5月から建設工事を進めてきたものだ。

随所に最新の技術や知見を導入しており、ガスタービンの冷却には、メーカーと共同開発した「強制空冷燃焼器システム」を採用。同システムは、18年度に「優秀省エネ機器・システム表彰」(主催=日本機械工業連合会)の最高位である「経済産業大臣賞」を受賞している。

ガスタービンの入口の燃焼ガスは1650℃と極めて高い温度に達する。同システムに加えて、燃焼器の遮熱コーティングやタービン翼の冷却の最適化を組み合わせることで、世界最高水準の熱効率を実現した。

また、タービンのクリアランスコントロール技術の採用などにより、発電出力の変化速度向上や最低出力の低減、プラント起動時間の短縮などが可能となり、再エネの出力変動に対応する調整力としての機能を高めた。

このほか、機器配置にも特徴がある。発電に使用した蒸気を冷やす「復水器」をタービンの横に配置し、発電所建屋の高さを抑えることで、建設コストを低減した。災害への備えとして、発電所周辺で想定される津波の最大高さよりも高い2階以上に電気盤や制御盤、各種の非常用設備を設置した。

さらに発電所の保守・点検の面でも、多彩な技術が導入されている。機器の保守・点検には、ロボットやドローンを活用。ロボットおよびドローンは、構内の決められたルートを自律移動しながら機器の画像を取得し、異常の有無を自動で判定する。ロボットは、同時に機器の振動データも取得し、過去のデータに照らして異常の有無を自動で判定する。判定の結果、異常を発見した場合は速やかに運転員に知らせる。こうした最新技術の導入により、トラブルの兆候を早期に検知することができ、保守・点検の精度の向上が図られるとともに、所員の負担軽減にも寄与する。

構内の決められたルートを飛行し、機器の撮影を行うドローン

さらに、ウェアラブル端末を装着した所員が現場に向かうことで、現場から離れた中央制御室と機器の様子などをタイムリーに共有することも可能だ。

同社では今後も、東北電力グループ中長期ビジョン「よりそうnext」のもと、競争力の徹底強化や脱炭素社会実現に向けたさまざまな取り組みを加速していく。

大幅値上げも新電力受難のワケ 過度な規制が招いた自由化の破綻


大手電力5社が低圧規制料金の値上げを申請したが、新電力関係者の顔色はさえない。

今後の査定次第では、いよいよ電力自由化は事実上の終焉を迎えることになるかもしれない。

 東北、北陸、中国、四国、沖縄の大手電力5社が、低圧規制料金の値上げ改定を経済産業省に申請した。正式に認可されれば、2023年4月以降、家庭の電気料金は現行比3~4割程度の大幅値上げとなり、家計の負担感はさらに増すことになる。

各社の申請を受け、経産省電力・ガス取引監視等委員会は22年12月7日、値上げの妥当性を判断する査定に着手した。同日の会合には各社の経営トップが出席し、「効率化をはるかに上回るコスト増要因が重なり、現行の料金水準では安定供給にも影響を及ぼしかねない」(北陸電力の松田光司社長)などと理解を求め、委員からは、「経営効率化でカバーできる部分は最大限抑えてもらいたい」(河野康子・日本消費者協会理事)といった意見が出された。

今後の焦点は、この査定でどれだけ燃料調達費などのコスト削減や、さらなる経営合理化に踏み込み、値上げ幅を圧縮できるか―に移った。西村康稔経産相は12月6日の記者会見で、「燃料調達の費用見込みなどが厳格に審査される」と言及。査定には消費者庁も関与するほか、公聴会や物価問題に関する関係閣僚会議を経ることになるため、各社思惑通りに値上げできるかどうかは不透明だ。

とはいえ、松村敏弘委員(東京大学教授)が、「調達が非効率でないかを厳しく見る必要がある」と電力側をけん制しつつも、「それで査定できる部分は限定的だ」と指摘した通り、コスト圧縮の余地がそれほどあるとは考えづらい。

大幅値上げとはいうものの、実のところ、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、高止まりし続ける燃料費と円安の影響による増加分がほとんど。中国や沖縄などに至っては、改定後の料金が燃料費調整制度の上限がなかった場合の現行料金を大幅に下回っており、「事実上の値下げ」と受け止める業界関係者も多い。

ある大手電力OBは、「東日本大震災後の料金査定で、たとえ厳しい査定を受けることになったとしても、物価高に伴う賃金上昇分など、織り込むべき原価は織り込まなければならないと痛感していたはず。それを端から放棄してしまうとは」と嘆く。

想定外の小幅値上げ 自由料金の不利続く

「燃料費+αの値上げに踏み切ったのは北陸電力だけ。厳しい査定を回避するためか、需要家保護の使命感からか、物価高で値上げは仕方がないというムードがある中で、各社が思い切った値上げをしなかったことは残念だ」と語るのは、ある新電力の幹部。実は、想定外の小幅な値上げ申請に、最も落胆しているのは新電力関係者かもしれない。

そもそも家庭用の低圧分野では、新電力は大手電力の規制料金よりも割安であることを打ち出し、契約を獲得してきた。ところが、燃料価格と卸市場価格の高騰で調達コストが増大。赤字供給を回避するため、規制に合わせて設定していた燃料費調整制度の上限を廃止するなど対策を講じているが、それでも調達コストの増加分を賄い切れていない。売れば売るほど赤字が拡大してしまうため、新規の契約獲得を停止せざるを得ない状況に陥っている。

大手電力6社の料金改定申請の概要

今回の料金改定に合わせて自社の料金メニューを見直し営業を再開できるはずだったが、今の卸価格の水準では、改定後の規制料金に対して競争力のある料金メニューを作ることは困難だという。

「ここで一気に値上げし、原発が再稼働した段階で値下げをすればよかった。値上げまでに時間がかかるほど新電力の収支は悪化するし倒産リスクが高まる。そうでなくとも、規制料金が最安の状態が継続すれば、スイッチングの動きはますます停滞し、規制に戻る動きが加速しかねない」(前出の新電力幹部)

自社の調達構造に合わせた独自の燃調制度に加え、デマンドレスポンス(DR)の活用や市場連動型の料金体系など、生き残りをかけてさまざまな工夫を模索する動きが既に出てきているが、料金改定後も、しばらくは新電力の受難が続くことになそうだ。

競争を阻害する規制 廃止に向けた動きも

1970~80年代の石油危機時以来、そして16年の小売り全面自由化後初の大幅な規制料金値上げを巡り、浮き彫りとなったのは、経過措置規制を存続させたまま需要家保護と競争政策を併存させることの限界だ。

「エリアシェアが5%程度以上の有力で独立した競争事業者が2社以上存在する」ことが規制解除基準となっているが、適切な値上げができずに需要家の規制への出戻りを促すようなことになれば解除はさらに遠のく。

この事態に、経産省も経過措置規制廃止を視野に検討に着手する方針だ。ただ、規制料金を「需要家保護」の錦の御旗にしてきただけに、議論の落としどころをどう探るのか注目される。今となっては、当初予定されていた20年に解除しておくべきだったのだろう。

もう一つ、22年終盤に電力業界にとって不穏なニュースが流れてきた。公正取引委員会が、電力市場や制度が公平な競争条件を整備、確保できているか実態調査を行うと表明したのだ。公取委の動きを後押ししたのは、卸取引の「内外無差別」を担保するために大手電力会社が実施した入札にあると見られる。 入札に参加した新電力の関係者は、「50‌Hzエリアのベース電源の落札価格は、足元の燃料・市場価格を評価すると、とても小売りで利益が得られるような水準ではない」と不満をあらわにする。東北に続き、北海道、東京も低圧規制料金値上げを申請する見込みだが、その水準次第では、卸と小売りの価格にギャップが生じて「不当廉売」との指摘を受ける可能性すら出てくる。新旧電力双方に利益を生まない、まさに「勝者なき自由化」の責任をだれが負うのか。

規制料金の赤字影響緩和へ 大手電力5社が値上げを申請


 規制部門の赤字供給解消へ―。大手電力各社がようやく重い腰を上げ、値上げ改定に向けた手続きに踏み切った。

値上げするのは、2016年の小売り全面自由化後も、競争なき独占を防ぐ目的で規制が残されている低圧向け経過措置料金。23年4月の改定を見据え、東北、北陸、中国、四国、沖縄(高圧含む)の大手5社が22年11月中に経済産業省に対し改定を申請した。また、本校執筆時点(22年12月16日)ではまだだが、東京電力エナジーパートナーと北海道電力も、年内に申請するもようだ。

値上げ申請を受け会見する東北電力の樋󠄀口康二郎社長

各社の平均値上げ率は、東北32・94%、北陸45・84%、中国31・33%、四国28・08%、沖縄40・93%で、標準家庭(月使用量260KW時)の場合、月額2000円から3500円程度の負担増となる。

この背景にあるのが、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料や卸電力市場の価格高騰だ。これにより、燃料費や為替の変動を料金に迅速に反映するための燃料費調整制度に基づく調整額が、10月までに、全10電力で上限に到達してしまった。

各社は、既に規制が外れている高圧・特別高圧契約の料金値上げや、低圧契約の自由部門で燃調上限を廃止するなど赤字供給解消に手を打ってきたが、燃調上限を維持しなければならない規制部門は、標準家庭1件当たり1700~3600円(12月分料金)を持ち出しているのが実情。これが財務状況悪化の要因となっており、値上げにより規制部門の赤字供給解消を図らなければ、安定供給体制の維持が困難になりかねない。

値上げ要因は燃料高 求められる迅速・適切な査定

抜本的な料金改定は、北陸、中国、沖縄が08年以来、そのほかは13年以来で、いずれも小売り全面自由化後は初めて。自由化の進展や再生可能エネルギーの導入拡大により、電力の需給構造は前回改定時から激変しており、総じて料金算定の根拠となる総原価にそれが色濃く反映されている。

一方で、東日本大震災後の原発停止に伴う料金改定の有無や、再稼働に向けた審査の進捗状況に応じた、原価算定期間中(23~25年度)に織り込むことができる原発利用率などが、地域間格差として鮮明に表れているのも事実だ。

今後、電力・ガス取引監視等委員会の専門会合による値上げの妥当性についての査定や公聴会を経て正式に認可されることになるが、注目されるのは査定によってどれだけコストが減額され、値上げ圧縮につながるかだ。とはいえ、大幅値上げの要因のほとんどが燃料費であり、「査定できる部分は限定的」(松村敏弘東京大学教授)。実際、中国や沖縄などでは、申請料金が燃調の上限がなかった場合の現行料金を大幅に下回る。

認可までの期間は4カ月とされており、4月の改定に間に合う公算は高いが、業界関係者の中にはそれ以上に時間がかかると見る向きも。健全な電力安定供給体制が維持困難な状況を放置してはならず、迅速で適切な審査が行われることが求められる。

地域貢献と社員の一体感を醸成 北海道社会人野球の継承担う


【北海道ガス/野球部部長】土谷 浩昭

 大昭和製紙が1974年に都市対抗を制するなど、かつて北海道には社会人野球の黄金期があった。しかし、バブル崩壊以降はチーム数が激減。2016年には民間企業チームがゼロになった。危機感を持った北海道地区連盟から野球部設立の相談を受け、営業担当役員として窓口を担っていた。

その後、17年1月の年頭の訓示で、大槻博会長(当時社長)が「18年春までに硬式野球部を創設する」と表明し、野球部創設の動きが一気に加速した。土谷浩昭野球部部長はその時の心境を「入社した当時(1984年)は事業規模も小さく、野球部を持つ会社になるとは思っていなかった」と振り返る。北海道の社会人野球の復活へ、元高校球児として期する思いもあり、創設担当を志願した。

22年の都市対抗で優勝候補東芝を破る大金星を挙げる

野球部立ち上げの背景は事業の変化だ。電力・ガス全面小売り自由化により顧客の対象が全道に拡大。北海道全域への事業展開を図るためにも、北海道ガスを多くの人に知ってもらう必要があった。「地場企業として身近に感じてもらい、地域に貢献したい思いがあった」。また「社会人野球には高校野球ともプロ野球とも違う高揚感がある」と社員の一体感を高める旗印の役割を期待した。そして「仕事と野球の両立」を柱とした活動を重視。シーズン中は午前・午後で仕事と練習を分け、オフシーズンは終日勤務後に自主練習を行う。野球部の活躍だけでなく社員としての貢献も評価対象となる。「礼儀正しく体力あるアスリートの存在が社内全体に良い効果を与えている」と、職場での相互効果が出た。

18年4月に新卒社員11人、社内公募5人の計16人でスタートしてから、4年目の21年には都市対抗初出場を果たす。2年連続出場となった今年は、優勝候補東芝を破る大金星を挙げた。この勝利で全国大会北海道勢通算99勝目となり、節目の道勢通算100勝は目前だ。「25年にベスト8を、30年に全国優勝を目指せるチームにしたい。その道筋はまだ1合目から2合目」と前を見据える。

結果の目標だけでなく、地域社会への貢献も野球部の重要なミッション。オフシーズンには、道内各地で野球教室を行う予定だ。「野球をする子が、将来も北海道で野球を続けるための受け皿でありたい」と話す。まだ歴史の浅い野球部だが地域の期待は大きい。北海道のスポーツ文化の継承を担い、社会人野球の推進で生まれたエネルギーを地域社会に還元し続ける北ガスの挑戦は、始まったばかりだ。

1960年北海道函館市出身。明治大学卒業後、84年北海道ガス入社。人事部長、経営企画部長、営業副本部長などを経て取締役常務執行役員。大槻博会長(当時社長)の方針を受け、野球部創設に奔走。

次代を創る学識者/黒﨑 健・京都大学複合原子力科学研究所教授


紆余曲折の原子力政策が大きな転換点を迎えている。

政策議論と研究両面で、将来の原子力に光を当てようとしている。

 「原子力は技術だけではどうにもならない社会的な問題がある。カーボンニュートラル社会実現に向け原子力政策の流れが大きく変わろうとしている中、既存原子力の活用、新設・リプレースを合わせ、将来の安定供給に資する政策がより一層重要になる」

こう語るのは、京都大学複合原子力科学研究所の黒﨑健教授だ。1986年、中学生の時に発生したチェルノブイリ原発事故のニュースに触れ、何か大きな仕事を成し遂げられる可能性を感じたことが、原子力の分野で研究者を目指すきっかけに。大阪大学工学部原子力工学科に進学し、以来、助手、助教、准教授と阪大に籍を置き、2019年4月に同研究所教授に就任した。

自他ともに認める山中伸介原子力規制委員長の一番弟子。阪大山中研究室が立ち上がった当初からスタッフとして所属し、核燃料・原子炉材料の研究のほか、排熱を活用して発電する高性能熱電変換材料の開発などに共に取り組んできた。福島第一原発事故後は、事故耐性燃料の開発に着手するなど、より安全・安心な原子力の活用に資する研究に力を注ぐ。

山中委員長の「三つの研究の柱を持つことが望ましい」との教えを受け、京大に移ってからは、情報科学と材料科学を融合した「マテリアルズ・インフォマティクス」を三つ目の研究テーマに据えている。これは、世界に散在する素材に関する情報をデータベース化し、人工知能(AI)が学習し研究者が望む性質を示す材料を予測。材料探しにかけてきた膨大な時間を短縮し、研究の効率化を図るもの。当初は、熱電変換材料と関連してスタートさせた研究だが、今後は原子力材料の研究に活用していくことも目指しているという。

研究所が迎える転機 将来の原子力活用のために

22年4月には、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)原子力小委員会革新炉ワーキンググループ(WG)の座長に就任。多くの人から「大変な役目だ」と激励を受けつつ、原子力産業の未来に向けた政策立案に関与することにやりがいを感じている。

原子力発電所全てを国内でつくることができるという日本の大きな強みが崩れつつある中、優秀な原子力人材を社会に送り出し続けるためにも、原子力の未来を見せる同WGの意義は大きい。一方で、「核燃料サイクルをどう完結させいてくのか、足下の課題解決にもまっすぐに向き合う必要がある」と言い、自身の核燃料研究を通じて貢献することに意欲を見せる。

来年度には、同研究所長に就任することになっている。所有する研究用原子炉が、26年5月にその役割を終え運転を停止することが決まっており、大きな転機に直面する研究所の今後の在り方に道筋を付けるという重責を担うことになる。原子力人材の育成に大きな役割を担ってきただけに、同研究所のみならず、日本の原子力研究の未来がその双肩にかかっているといえよう。

くろさき・けん 1973年徳島県生まれ。97年大阪大学大学院工学研究科博士前期課程原子力工学専攻修了、2003年博士(工学)。同大助教、准教授を経て19年から現職。22年4月から総合資源エネルギー調査会革新炉ワーキング座長。

【メディア放談】総合経済対策での負担軽減策 いつかバラマキのツケが


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

政府は総合経済対策で、エネルギー料金の負担軽減策などを打ち出した。

無駄な施策も多く見られ、将来世代に余計な負担を残すことになりかねない。

 ―ウクライナ戦争、化石燃料の高騰、料金値上げなど、今年もエネルギー業界ではいろいろと出来事があった。

電力 ロシア軍のウクライナ侵攻で化石燃料の価格が高騰し、世界中の国がダメージを受けた。中でもロシアに依存していた西欧の国は大きな痛手を被った。今の暮らしはエネルギーが安定的に供給されることで成り立っている。1年間を振り返ると、その大切さを痛感した年になった。

―電力6社は規制部門の料金改定の申請に踏み切った。

電力 各社の決算を見てほしい。燃料費の上昇で逆ザヤが続いて、売れば売るほど赤字が増える。料金改定での査定は米櫃に手を突っ込まれるようなもので、誰もそんなもの受けたくない。だが、コスト削減や効率化で何とかなるような状態はとっくに超えている。

―政府も総合経済対策で電気・ガス料金、ガソリン価格などの抑制策を打ち出している。

マスコミ 欧米ほど値上がり幅は大きくなく、経産省は政府の意向を深刻に受け止めていなかった。だが、支持率が低下気味の政権は電気料金の上昇に敏感だった。総合経済対策の目玉の一つにして、経産省に「料金を引き下げろ。案を考えろ」と下達した。

ガス 日経が10月から連載した「ニッポンの統治」がその辺のドタバタ事情を書いている。経産省は託送料金の引き下げなどを考えたが、政権は「請求書に直接反映する形」にこだわった。それで「目に見えるかたちで下げろ」と突き返されて、アパシー状態に陥った。電力会社が知恵を出して何とかなったが、今も経産省幹部は「やる必要は全くないことなのに」と話しているらしい。

マスコミ 確かにエネルギー料金値上げの影響を大きく受ける低所得者層には、既に「価格高騰緊急支援給付金」などの制度がある。

電気・ガス料金の負担軽減策の予算額は約3兆1000億円。それだけあれば、風力発電の地域から首都圏に送電線が敷ける。あるいは安全性が高い新型原発が3基建設できる。経産省幹部の無力感も分かる。

電力 電気・ガス料金の負担軽減の補助は来年9月に半分にするとしている。だが、燃料価格と為替の動向次第でダラダラと続けるかもしれない。経産省はやる気を失っているようだよ。

耳を疑った首相答弁 政権の体たらくを露呈

―岸田政権の政務担当秘書官は経産省OBの嶋田隆さんだが、どうも官邸と経産省はしっくりいっていないようだ。

ガス 耳を疑うことがあった。10月7日の参議院本会議のことだ。公明党の山口那津男代表から電気料金だけでなく、都市ガスの引き下げも検討するよう求められた。その時、首相は「ガスはほとんどが長期契約で調達され、比較的調達価格の安定性が高い」と答えている。

―電力会社もガス会社もLNGの契約は同じだ。

ガス 記者会見での発言ならまだ分かる。だが国会の代表質問で、しかも相手は連立を組む党の党首だ。役人は首相の草稿を何度も推敲するはずだが、誰も気が付かなかった。今の政権の体たらくを露呈してしまった。

石油 負担軽減策は昨年のガソリンから始まって、当初は電気料金にとどめるはずだった。しかし普通に考えると、都市ガスもLPガスも値段が上がっているから、対策を考えなければ不公平が生じる。それで都市ガスは1㎥当たり30円を補助する。

―ところがLPガスは配送合理化などの約150億円の補助事業になった。

石油 おそらく急にLPガスも対象になって、官邸から「この日までに案を出せ」と経産省に指示が下りてきた。それで業界に相談する時間がなくて、役人だけで案をまとめた。中身はというと、業界人から見ると明らかに政策がこなれていない。例えば充てん所の自動化。「これが料金の低減につながるとは思えない」と業界人は皆言っている。

マスコミ 一方で、全国で180万世帯が利用している簡易ガスには何の補助もない。都市ガスやLPに比べて需要家数が少ないから無視でいいということか。まさに片手落ちだよ。

22兆円の国債追加発行 否めないバラマキ感

―総合経済対策を裏付ける補正予算の額は約29兆円。そのうち約22兆8000億円を国債発行で賄う。話を聞くとバラマキ感は否めない。

電力 残念なのは今回の対策を読み込んで、取材して無駄を指摘するジャーナリストがいないことだ。誰も気が付かないうちに、将来に膨大なツケを残すことになりかねない。

石油 一昔前は世代や「左右」を問わず、『文藝春秋』『中央公論』『世界』『朝日ジャーナル』などの雑誌に存在感があった。ところが今は、定年退職者が図書館で読むものになってしまった。

―その代わりにSNSで情報を集めている。

石油 それでフェイクニュースや、誰が書いたか分からない記事が世の中に広まるようになった。「自国通貨建てならば、国債はいくら発行してもかまわない」という説がある。それを信じる人たちが増えている気がする。

マスコミ 野党だけでなく、自民党の中にも積極的な財政政策を主張する人たちがいる。だが、岸田さんは財政規律を重んじた宏池会の総理総裁。その政策だけに、財務省などのまともな役人は茫然としているよ。

―赤字国債の発行を悔やんでいた故大平正芳首相が、草葉の陰で嘆いているはずだ。