脱炭素で新たなブランド確立へ 災害に強い持続可能な島目指す


【地域エネルギー最前線】 新潟県 佐渡市

「トキ認証米」など自然と経済活動の共生に腐心してきた佐渡市が、今度は脱炭素化に挑戦する。

離島の特性を意識した上で、災害に強く持続可能な新たな島づくりに意欲を見せている。

日本最大の特定有人国境離島で、最近では金山の世界遺産登録を巡っても話題になった新潟県佐渡市は、独自色の強い地域資源を複数有している。真っ先に思い浮かべるのは国の特別天然記念物であるトキ。環境省が長年繁殖に取り組み、さらに市や住民も経済活動につなげようと、15年前にスタートした「朱鷺と暮らす郷」認証米などを軌道に乗せてきた。いわゆる〝トキ認証米〟は、トキの餌場確保と生物多様性の確保に配慮したブランド米で、全国での知名度は高い。 

とはいえ、やはり離島の経済や暮らしはさまざまな面で制約があり、エネルギー供給の課題も多い。島内の電力は独立系統で、東北電力ネットワーク(NW)の石油火力が需要の9割強を支える。災害に対して脆弱であり、ここ数十年ほどで実際に起きてはいないものの、いざ電力供給が途絶すれば、復旧には本土より多くの時間を要することになる。また、市は2050年までの「ゼロカーボンアイランド」を宣言しているが、先述のようなエネルギー事情を抱える離島の脱炭素化は相当ハードルが高い。

エネルギー以外でも、人口減少と、島内の経済循環の低さといった構造的な課題を抱えている。市の人口は現在5万人ほどで、年間1000人ほどのペースで減少しており、県内でも少子高齢化の進行が速い。そして基幹産業の柱の一つである観光業は、目下コロナ禍からの立て直しの最中だ。

市は、環境省の「脱炭素先行地域」でこれらの課題解決のストーリーを描こうと考え、その計画が4月下旬発表の第一弾に選定された。①トキと共生する環境の島、②災害時に安心できる防災の島、③自立分散型の再生可能エネルギーを活用した持続可能な島―がコンセプトだ。

「もともと地域の環境意識は高く、『トキ認証米』では自然保護と農家支援の視点で地域のブランド化に取り組んできた。今度は脱炭素のブランド化で、コロナ禍で傷んだ産業の活性化を図りたい」(市総合政策課)と狙いを説明する。

再エネで自立分散型へ EVの可能性にも期待

エネルギー面では、公共の防災施設や小中学校などの125施設を対象に自立分散化を図る。オンサイトではPPA(電力購入契約)での再エネ調達を進め、11月上旬に第一弾のPPA事業者を決定したところだ。太陽光と蓄電池を組み合わせて導入し、特に主要防災拠点10カ所にはそれぞれ1000kWの蓄電池を設置する。

加えて、オフサイトでは太陽光2000kW、木質バイオマス380kWを目標に掲げている。対象施設の年間電力需要約1460万kW時に対し、トータルの再エネ発電量は年間約1360万kW時を目指している。

地域住民は自然や景観保護への意識の高さから、従来は再エネ開発にややネガティブな感情を持つ傾向もあったという。先行地域の取り組みを機に、脱炭素化への機運を醸成し、地域と共生した再エネの導入を図っていく。

需給管理では、EMS(エネルギーマネジメントシステム)を活用してDR(デマンドレスポンス)も駆使し、効率的な再エネ活用を図る。省エネ面では年間約147万kW時の削減が可能と見込む。EMS関連の事業主体は未定だが、東北電NWが独自でメガソーラーやEMSの計画を進めており、市としては東北電との連携を模索していきたい考えだ。

市民や観光客向けに、EVの利活用にも力を入れる。公用車の入れ替えや、急速充電も含めた充電スポットの拡充、レンタカーやホテル事業者へのEV関連の補助拡充などを予定する。「EVの航続距離を考えると島内でのEV利用は向いている。エコツーリズムといった観光ブランディングを図る上でもEVの活用が重要になる」(同)。

このほか、バイオマス発電用の燃料創出やソーラーシェアリング(営農型発電)による農林業活性化、環境教育の充実化、地域コミュニティの創出・活発化などの仕掛けも、順次進めていく考えだ。

地域のキャパシティー意識 トキとの共存経験生かして

課題は、やはり離島ゆえに本土よりさまざまなコストが割高になってしまうこと。あらゆる設備・部材が海上輸送になる点は仕方ないが、それでも民間が再エネや蓄電池、EVなどを導入し脱炭素化を図っていくためのインセンティブをどう示すかには、工夫が必要だという。さらに、設備の設置やメンテナンスなどを外部人材に頼るのではなく、島内の人材を最大限活用して、地域の企業ができる限り作業を請け負えるような体制づくりも重要になる。

市は、「足元のエネルギー価格高騰ですでに予兆も出始めているが、将来的にはコスト面で再エネの自家消費やEVが有利となるタイミングが来る。それを見越して市が旗を振ってやり方を工夫し、普及させていきたい」(同)と強調する。

市は脱炭素推進会議を民間企業と共に設立し、ビジョンを共有。まずは市が公共施設での取り組みを率先するが、民間での具体的な計画はまだ出来上がっていない。先行地域の制度やその他の国の補助制度をフル活用しつつ、最終的に民主導の産業活性化に落とし込むことを目指す。

トキとの共生の経験を脱炭素化にも生かしていく

さらに市は、「持続可能な事業とするために肝要なのは、再エネ乱開発やオーバーツーリズムなど地域とのあつれきを招かないよう、地域のキャパシティーを考えた上でバランスを取ること。トキ認証米も住民に負担を強いない形でトキとの共存の在り方を探り、結果が出てきた。この成功経験を生かしていきたい」(同)と続ける。

貴重な体験を、持続可能な脱炭素の島づくりにつなげることができるのか。離島の独自色を生かした新たな挑戦が動き出している。

変電設備「低炭素」化への一歩 東電PGが挑戦する日本初の布石


【東京電力パワーグリッド】

脱炭素に向けた取り組みの波は電力系統のインフラ設備にも押し寄せている。

東電PGは業界に先駆けて環境にやさしい次世代型の変電設備を導入した。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、今、電力会社の送配電部門は大きく二つの、そして大変に難しい課題に向き合っている。一つは日々導入量が増えている再生可能エネルギーとの共存と、それに対する対応だ。「再エネ主力電源化に向けて何が必要か」。日夜、部門内では技術的かつ経済的な検討を続けている。制度設計の歩みと合わせながら、需給調整機能の大きな役割を担う「火力業界」とのやり取り、需給調整機能の精査……。また、それに伴い、インフラ設備の「保全」や「整備」についても新しい考え方が必要になってきている。従来は、秋や春など需給が緩和するタイミングを見計らって、人員を確保し設備保全やインフラを整備してきたが、再エネ大量導入時代は、そんな常識は通用しない。これらが難事の一つ目だ。

そして二つ目が、インフラ設備そのものにおけるカーボンニュートラルへの挑戦だ。「電力系統設備、とりわけ変電設備部門の環境対策に取り組む業界のリーディングカンパニーでありたいと考えています」。東京電力パワーグリッドで変電設備技術部門の実質トップである、工務部の塚尾茂之変電技術担当部長は、力強くこう話す。まず、塚尾さんが目を付けたのは、変電所の設備のひとつを構成する「開閉装置」だ。

日本初の環境型変電設備 自然由来ガスを利用

東京・府中駅から歩いて20分程度の静かな市街地に、東電PGが運用する6万6千Vクラスの変電所が存在する。変電所とは、その名が示す通り、電圧を調整するインフラだ。ここでは、高い電圧で送られてきた電気を低い電圧に落とし、実際の需要家に電気を送り届けるハブのような拠点だ。

敷地内には、設備を監視する機能を備えた無人の建屋のほか、経年化に伴って多少変色した、白や灰色を基調とした設備がいくつかたたずんでいる。設備を構成するのは、開閉装置(遮断器や断路器)、変圧器、避雷器などだ。

この府中変電所では、今秋から、経年化に伴った一部の設備のリプレース工事を進めている。その対象設備が開閉装置である「ガス絶縁開閉装置」、通称GISだ。そして、この設備こそが、東電PGが国内で初めて導入する、環境対応型次世代設備「AEROXIA(エアロクシア)」(東芝エネルギーシステムズと明電舎の共同開発)だ。

東芝の川崎の工場で出荷を控える開閉設備

ガス絶縁開閉装置と脱炭素―。両者に一体どのような相関関係があるのか。まずは、開閉設備の機能を簡単に説明しよう。この設備は、電気を流したり、あるいはその流れを瞬時に止める「遮断機能」や「絶縁機能」を持つ。落雷などで急激に電圧が高まったり、異常な電気が流れたりする時、瞬時に電力系統から切り離す必要がある。その際の「遮断」や「絶縁」は、

まさに電力インフラに不可欠である。そして、その遮断・絶縁に使っているガスがSF6(六フッ化硫黄)と呼ぶ、自然界には存在しない人工ガスだ。遮断や絶縁性能が優れていることから、設備全体を大変コンパクトに設計できる。1970年頃から、世界的に普及してきた。今回更新の対象設備として、78年に運用開始された府中変電所の初期型GISでも例外ではない。ところが、このガスは、地球温暖化係数(GWP)の値が2万5200と高いという欠点を抱えている。

「これまで、日本の電力会社は、このガスを漏らさないように運用してきました。年間の漏洩率は1%未満で、世界に誇れる運用でした。ところが、近年、世界的な脱炭素の流れの中で、SF6を代替するGWP値の低いガスの使用が求められてきました」。

そうした中、塚尾さんが主幹事となって、国内電力、学識者、メーカーとともに、次世代開閉機器の設計要件を議論してきた。塚尾さんらがユーザーとして志向したのは、人体に与える影響と安全性や環境適合性、代替ガスの供給性、SF6と同レベルの簡易なハンドリングな七つの要件だ。

技術駆使し省スペース設計 次なる課題は大型化

「容易な技術開発ではありませんでした」と塚尾さんは振り返る。設備設計をしたのは、あくまでもメーカーである東芝エネルギーシステムズと明電舎だが、東電PGは、公益的な設備を使用する立場である以上、使用者としての公益的な責任がある。公益事業者として、設備の安全性や環境適合性といった技術要件をしっかりと管理しステークホルダーに説明する責任があるわけだ。そんな使命感から漏れ出た塚尾さんの発言だ。

まず、塚尾さんを悩ませたのは、代替ガスの選定だ。代替ガスには、フッ素系ガスと自然由来ガスの2方式が存在している。前者のフッ素系ガスは、自然由来ガスほどではないが、SF6よりもGWP値が低く、絶縁性能も優れている。大型化への対応も比較的容易に可能だ。ただ、ガス自体や分解生成物の人体への健康面(毒性)での課題が解決し切れていないほか、ガスの供給面で不安を抱えている。

次に志向したのが自然由来ガスだ。GWPは1以下であることから、温暖化対策的には究極のガスだ。ただ、課題は主に絶縁性能だった。SF6ガスはその性能が優れていて、設備をコンパクトにできる。国土面積の狭い日本では、最適なソリューションだったが、自然由来ガスではその性能は約3分の1。単純計算で、設備サイズは約3倍になる。

そこを、ガスが収まる「タンク部」や電気が流れる「導体部」を設計改善した。使用した自然由来ガスは、窒素と酸素を混合したドライエア。遮断部に真空バルブを適用したり、実規模検証試験による最適な圧力設計などで、工夫した。そんな苦労が奏功し、リプレース前と比べても、省スペース設置が可能となり、今回、国内に先駆けて導入にこぎつけた。

次なる技術課題は、自然由来ガスによる「高電圧・大容量化」への挑戦だ。今回導入した府中では、変電所としては「小規模サイズ」。今後、27万5千~50万ボルトクラスへといった高電圧化が必須となる。その際どういった代替ガスを使い、どういった設計にして脱炭素を実現できるのか。安定供給を維持しながら、なおかつ託送コストも抑えないといけない。

高度成長期に大量整備されたインフラの更新時期が静かに訪れている中、複雑で多様な「難事」に東電PGは、今挑んでいる。

電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】関口博之 /経済ジャーナリスト

 政府が10月末の総合経済対策で導入を決めた電気・ガス料金の負担軽減策について、さまざまな議論が起きている。来年1月以降、標準的な世帯で電気料金を約2割、月額2800円、都市ガス料金を1割強の月額900円補助しようというものだ。来年9月までの負担軽減額は延長するガソリン代の補助を含め、4万5000円になると政府は試算する。電気代、ガス代は前年比で2割から3割も高騰しているのだから、国民の暮らしを守るため価格抑制策の必要性は理解できる。

ただエネルギー価格の負担感は、低所得世帯ほど重い。本来ならそこに手厚い支援があるべきだが、今考えられているのは使用量に応じた一律の補助だ。それでいいのか、という批判に政府当局は「それは分かってはいるが」と答えるだろう。確かに所得制限などを盛り込むのは実務上、またシステム上も無理がある。結局、原燃料費調整制度の枠を使って、一律に補てんすることになった。月々の請求書の「原燃料費調整額」の欄に値下げ額は明記される。元々、ウクライナ情勢を受けたLNGなどの高騰に起因しているのだから、原燃料費調整の枠組みで対策をとるのは自然だ。

電力業界首脳との懇談会で発言する岸田文雄首相
提供:時事

気になるのは政府の説明で、企業向け支援は「FIT賦課金の負担を実質的に肩代わりする金額」(単価では家庭向けの半額)としたことだ。賦課金に見合う「相当額」を補てんしますよ、という規模感を示したつもりなのだろうが、そもそもFIT賦課金は国が肩代わりする類のものではない。誤解を招く。

この仕組みで値下げの実感を得られるのかも気がかりだ。来年1月にはいったん、支払額が下がったのは目に見えるはずだが、大手電力は来春には本格的な料金改定・値上げも検討している。引き下げ分も値上げと相殺ということになりかねない。さらに原価が上がり続ければ料金自体また上昇に転じる。国民にこれでメリットが実感できるだろうか。ちなみにドイツが検討する価格抑制策は電気・ガスの単価に上限を設け、これを超える分は国が補てんする。いわば「天井」が設けられる分、安心感はある。

一方、別の観点からは、これは化石燃料利用への補助金であって脱炭素化に逆行するという批判もあろう。またこれまで進めてきた電力・ガスの自由化とも整合しないとも。「それも分かっている」と当局は言うのだろう。だからあくまで激変緩和措置だと位置付けている。

もちろん財政負担も大きい。電気・ガス料金の補助に3.1兆円、ガソリンへの補助の継続に3兆円の補正予算を組む。元手はほとんど赤字国債だ。「それももちろん分かっている。恒久的に続けるつもりはない」。だとすればなおさら『出口』をどう見定めるかが重要だ。「それも分かっている」から来年9月以降は支援の幅を縮小するとはしているが、それもその時点の価格動向次第だという。いやはや、それだけ「分かっている」なら政府には批判に答えられる次の手を今から考えておいてほしい。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

「道路利用税」に批判殺到 揮発油税は廃止の公算


政府が2035年乗用車の新車販売で電気自動車(EV)など電動車100%を目指す中、揮発油税や石油ガス税など燃料課税に代わる財源の枠組みについて、10月26日の政府税制調査会で議論が行われた。この場で提起されたのが、走行距離に応じて課税する「道路利用税(仮称)」だ。

EVの重量はガソリン車に比べ2~3割重く道路への負担が大きいことなどが理由だが、SNSでは「重量税との二重搾取ではないか」と批判が殺到し炎上状態に陥った。与党内からも異論が挙がる。自民党の三原じゅん子参院議員は記事を引用し「これは国民の理解を得られないだろう」などと投稿。道路利用税の撤回に向け党内で議論を始めるとした。

ただ要注意なのは「EVには燃料課税が適用されないので、それに代わる新税」という位置付けがあること。このため、道路利用税導入の際には揮発油税廃止という条件が付く公算が大きい。とはいえ、総合経済対策で物価高不況から脱却していこうという時期に、新税の議論はない。消費増税の議論もそうだが、世の中の空気を読めない政府に問題ありだ。

前途多難な料金改定 デフレ念頭の「審査要領」


大手電力6社が料金の値上げ改定を申請した。ウクライナ侵攻で化石燃料価格が急騰。各社ともに燃料費調整制度(規制部門)の上限値を突破し、以後、家庭向けは逆ザヤ状態が続いている。大幅な最終赤字を見込む中、料金改定に踏み切らざるを得なかった。

今回の値上げの理由は明らかに外的要因。しかし経済産業省としては、最大限値上げ幅を圧縮したことを世間にアピールしなければならない。総原価の削減に手心を加えることはないだろう。

電力関係者が懸念するのは、料金改定の『審査要領』がデフレーションを念頭に作成されていることだ。要領には「消費者物価、雇用者所得などの変動見込み(エスカレーション)は原則として原価参入を認めない」の一文がある。今後、円安などでインフレが加速する中、物価上昇を認めなければ人件費、修繕費などを圧縮していくことになりかねない。

また、報酬率も引き下げが避けなれない。福島第一原発事故後に行った前回の改定時から、有利子負債利子率は低下。関係者は「1%ほど引き下がりそうだ。新しい料金では原価算定期間の3年間、持たないかもしれない」と顔を曇らせる。

「捨てない経済」実現へ サーキュラーエコノミーの可能性


【ENEOS】

 ENEOSが主催する新時代のエネルギーを考えるシンポジウムが11月16日、東京国際フォーラムで開催された。同シンポジウムは阪神・淡路大震災によって石油の重要性が再認識されたことを契機にスタートし、今年で27回目。エネルギーの現状や課題、今後の方向性などを考える機会を提供している。

今年のテーマは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。大量生産・大量消費・大量廃棄の「リニアエコノミー(線型経済)」の対極に位置する新たな経済モデルとして、欧州で提唱された。

オランダ・アムステルダムでは2050年までにサーキュラーエコノミーへの完全移行を目標として掲げる。また欧州連合(EU)は20年にサーキュラーエコノミー行動計画を発表した。

日本の経済産業省も同年、「循環経済ビジョン2020」を策定している。循環性の高いビジネスモデルへの転換を後押しすべく、循環システムの検討が急がれる分野として、プラスチック、繊維、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、バッテリー、太陽光パネルの五つを挙げている。

識者6人が意見交わす 意義と課題を強調

シンポジウムでは経済ジャーナリストの関口博之氏をコーディネーターとして、岩本美智彦JEPLAN会長、田中加奈子アセットマネジメントOneシニア・サステイナビリティ・サイエンティスト、所千晴早稲田大学教授、畠山陽二郎経済産業省産業技術環境局長、宮田知秀ENEOS副社長、安居昭博サーキュラーエコノミー研究家の6人がパネリストとして登壇。サーキュラーエコノミーを巡る取り組みと課題について、活発な意見を交わした。

パネリスト6人が活発な意見を交わした

サーキュラーエコノミーは、リユース・リデュース・リサイクルの「3R」と似ている。しかし、3Rが消費者中心の取り組みだったのに対して、サキュラーエコノミーは川上を含めた経済構造全体の転換が求められる〝究極の3R〟だ。畠山氏は、「3Rは最終処分量を減らそうという発想だった。サーキュラーエコノミーを目指す背景には、資源の安全保障があり、日本こそ積極的に取り組むべきだ」と強調した。

シンポジウムでは、アムステルダムのサーキュラーエコノミーに向けた取り組みなどが動画で放映され、来場者は真剣に見入っていた。宮田氏は、使用済みタイヤからタイヤ素原料を製造するケミカルリサイクル技術について、自社とブリヂストンの共同プロジェクトを紹介。こうした民間の取り組みについて、所氏は「技術は理論だけでは進まない。実証を繰り返し、課題を克服していくしかない。日本人の技術改善能力に期待したい」と語った。

JOGMEC法改正案に反対したワケ エネルギー政策の失敗に警鐘鳴らす


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 11月11日の参議院本会議で可決、成立した「ガス事業法及び独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法改正法案」に、私が所属する有志の会は反対した。立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など主要野党が賛成する中で、だ。私たちのメンバーには、エネルギービジネスに携わった元商社マンや元外交官などもおり、それぞれの知見を集めた結果、そのように判断した。

この法案は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的なLNG需給ひっ迫の中で、①国内のガス需給がタイトになった時に国が大口需要家に対してガス使用の制限命令等が出せること、②緊急時にJOGMECが民間に代わってLNGを調達できるようにすること―が柱。一見もっともらしい内容に見える。電気でも同じような条項がある①については、妥当だろう。問題は②だ。資源エネルギー庁は東京ガスやJERA、大手商社といった日本を代表する企業のガスの調達が困難な状況になった場合、国をバックにした独立行政法人のJOGMECが代わりに出て行ってLNGを調達してくると説明するが、本当に現実的なことなのか。

緊急時に機能できるか 過去の成果見受けられず

JOGMECは「日の丸油田」の開発を目指しながら十分な成果があげられなかった石油公団に代わってできた独立行政法人で、資源の「開発」などが主な任務だが。資源の「調達」を日常の業務としているわけではない。そうした組織が、世界的な需給ひっ迫時に名だたるオイル・ガスカンパニーがしのぎを削る争奪戦の最中、いきなり参入しても機能するわけがない。LNG市場では日常から相手国との緊密な関係の下、長期的な取引関係を結び、それなりの量の取引を続けることが重要であり、いきなり門外漢が登場して何かができるほど甘い世界ではないのだ。

そもそも、日本のLNG調達体制は、電力会社、ガス会社、総合商社などがそれぞれに調達を行っており、世界有数の需要国であるにもかかわらず、それを生かしたバーゲニングパワーを発揮できないことに脆弱性の一つの要因がある。そうした産業構造的な問題に手を付けずして、この程度の法改正で対応できるわけがないのだ。

2010年、12年、16年、20年とエネルギー政策の課題を解決するためJOGMECに新たな業務を追加する法改正を五月雨式に行っている。だが、これらによって何らかの成果が上がっているようには見受けられない。それどころか石油公団失敗を教訓として誕生した組織自体が、鵺のようなわけの分からない組織になろうとしている。

エネルギー政策の失敗に警鐘を鳴らす意味でも、私たちの会派有志の会は反対をしたのである。果たして与党や主要野党内では、この法案に対してどのような議論がなされたのだろうか。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/12月9日】卒FIT時代の再生可能エネルギー


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

以下は、JEPXの取引ガイドの「日本卸電力取引所(J E PX)の役割 はじめに」に以下の記載がある。

 【そもそも電力事業とは,「発電」「送配電」「小売」の3つの事業から成り立ちます。2016年4月以降,電気事業法の改正により,これまで一般電気事業者(電力会社)や特定規模電気事業者(新電力)と統合されていた電力事業を,この事業類ごとに3つに分離されるライセンス制が導入されます。また,2020年までに法人格にグループ化されることも法定されています。事業ごとに分離するということは,それぞれの事業単位での利益を追求していくことになります。例えば,“発電事業者は効率的に発電して高く電力を売る”,“小売事業者は自社の顧客の電気を効率的に卸買いし,それを顧客に届ける”などの活動となります。この発電事業者と小売事業者の間の電力売買の仲介役として,取引所は機能します。取引所での取引を中心として,発電事業者は他の発電事業者より有利となるよう発電効率の向上に努めなければ,売ることが出来なくなります。小売事業者は取引所の価格を仕入れ価格の基準として,取引所から仕入れた電気に,自社の工夫,強みを付加して顧客に届けなければ,顧客に選んでもらえません。

このように発電事業者間,小売事業者間の競争が活発になってこそ,電気事業全体での効率化が図られ,日本の電気事業はさらに発展していくものと考えます。それこそ電力自由化の目的であると考えます。そのためにも安心できる売買を,日本で唯一の卸電力取引所であるJEPXが責任を持って担っていかなければなりません。信頼できる取引所として,JEPX が果たすべき役割を皆さんとともに考え,取り組んでいくことができれば幸いです】

さて、再生可能エネルギーは、FIT→FIP→Non-Fitという流れになっていく中で、発電事業者や電力小売り事業者等はこのJEPX市場において取引をすることが益々増えていくだろう。事実、2007年12月3日のTTVは5,774,500kWh→2022年12月3日のTTVは887,811,500kWhとなっている。直近3年間は8-9億kWh/日の取引量だ。

年月日(受渡日)TTV(kWh)
2007/12/35,774,500
2012/12/324,251,500
2017/12/3190,695,500
2020/12/31816,192,800
2021/12/3910,994,650
2022/12/3887,811,150

ここで①~⑤までのシステムプライスのグラフを見てほしい。①は今から15年前の2007年12月3日のグラフで、夜間が安く(6.25円)、朝方上がりはじめ、お昼に一旦下がって、午後は夕方まで高止まり(15円前後)、夜間に下がる。これはある意味再エネ導入量が少なく、また今のような電力需要が逼迫していない状況を表していると思う。

①2007/12/3受渡分

では直近の②の2022年12月3日はというと、夜間が高止まり(20円)、朝方から昼に向かって下がり、(12時で2円)、また夕方に向かって上がり、夜間に向けて下がるものの20円台くらいで推移している。

②2022/12/3 受渡分

その1年前(③のグラフ)も夜間でも10円超で朝方に向けて上がり、その後お昼にかけて下がり、そこから夕方に向けて上がり(夕方は30円)、夜間も下がりはするが、10円を超えている。

③2021/12/3受渡分

電力の逼迫が騒がれ始めた2020年12月の中旬過ぎ、その後年明けには200円を超えることになったのだが、④は2020年の大晦日のグラフである。夜間が20円以上で高止まり、朝方に40円近くまで上がって、お昼に向けて下がり、夕方に向けて上がる。

④2020/12/31

2017年12月3日(⑤のグラフ)は電力逼迫の年ではなかったので、価格は夜間で10円を超えてはいないが、お昼が一番安く、夕方が高い。

⑤2017/12/3受渡分

こうしてみると、やはり太陽光発電所の導入量が増加し、その発電量が減少する夕方に需給バランスが崩れて高くなるという傾向は今後益々顕著になってくるのではと考える。

今後、発電事業者であれ、小売電気事業者或いは需要家であれ、再エネ(特に太陽光)が普及することで、時間帯による価格が違うことを意識していくことになるであろう。

FIP制度が導入され、「丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に」といった記事も最近目にしたが、(FIPのメディア関連は主に太陽光のような気もするが)、太陽光は日中にしか発電しない。FITであれば、時間帯による発電量など気にせず、発電量×FIT単価=売電収入で良かった。月次レベルで日射量の違いを考慮する程度の因数分解だ。これが市場取引が前提となっていくと(相対取引でも市場価格を参考にしながら相対価格を決めるであろうことも含めて)、市場高騰といっても、どの時間帯で高騰しているかまでを見なくてはならない。②のグラフのように夜間や夕方が20円を超えてもお昼は2円なら太陽光発電にとっては高騰とは言えない。どの時間帯で、どのくらい発電し、時間帯毎の単価をいくらで想定するのかが重要となる。昼間にどんなに発電量が増えてもここ数年の傾向をみると単価は高くなく、高い単価の夕方の発電量は多くない。

一方、風力発電であれば、基本、24時間発電する。直近の傾向をみると夜間でもそれなりの単価(10~20円台)が見込める可能性がある。24時間発電できることがボラティリティの高い事業の予見性が見えないリスクなのか、収益機会が多いと考えるのか、発電事業者は今後このことを分析していくことになるだろう。

需要サイドにしても、例えば、デジタル化が進むとデータセンターの存在感は益々増し、24時間電気を必要とする。動画やオンラインゲームをする機会が増えたり、サッカーのワールドカップではないが、夜中の中継、しかもテレビだけでなく、インターネットとなればそれなりの電力量になる。我々の生活スタイルの変化が電力の需要カーブを変え、それは時間帯での電力単価がこれまでと異なることを意味する。そういうことを考えながら、今後再エネは普及していくことになるであろう。従って、蓄電池の活用はいよいよ重要になってくる。今後、太陽光発電で価格の安い昼間は電気を貯め、夕方に売るということを実際に行う発電事業者の話題がきっと出てくるだろう。早くそういう事例がメディアに取り上げられる日を見てみたい。

(出典)

取引情報:スポット市場・時間前市場|JEPX
丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に – ニュース – メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)

欧州危機でプロジェクト変化 多様化迫られるエンジ業界


【業界紙の目】宗 敦司/エンジニアリング・ジャーナル社 編集長

ウクライナ有事はエンジニアリング業界に大きな影響を与え、かつ業界への要請は多様化した。

エネルギー危機やプラントコスト上昇への対応、また脱炭素化も引き続きの重要課題となっている。

ロシアによるウクライナ侵攻と、欧米の対ロシア制裁が世界のエネルギープロジェクトの動向に大きな影響を及ぼしてきた。欧州にロシアからのパイプラインガスが来なくなったことで、急きょLNGへの転換が求められている。

しかし生産余力はそれほど大きくなく、ロシアからのパイプラインガス供給のすべてを他地域からのLNGですぐ調達できるわけではない。しかもウクライナ危機以前、欧州のLNG需要はむしろ減少すると見られてきた。また石油価格の一時的な低迷などで、LNGプロジェクトは停滞。おととし頃からは石油価格の上昇と脱炭素化によって、動き出していた一部の案件の停滞や中止もあった。

それがいきなり、欧州が巨大なLNG需要地へと一変したことでプロジェクトが一気に活気づいた。もっとも早く反応したのがパプアニューギニアの次期LNG計画だ。同国政府と事業者との協議が何年も途切れていたが、いきなり対話を再開。また米国では、バイデン大統領の増産指示でLNG輸出認可が出やすくなった。キャメロンLNGの増産計画が動くほか、ドリフトウッドLNGでは米ベクテルが、設計、調達、建設・試運転を一括するEPCを受注。フリーポートの増設なども検討される。豪州では、プルートLNGの増設の検討や、カタールの次期増設では近々EPCコントラクターの選定段階となる。ほかにもアフリカなどで増設計画が動いており、EPCコントラクターへの問い合せも増えてきた。

次期増設計画が進むカタールLNG
出所:カタールガスのウェブサイト

もう一つの動きが原子力発電。持続可能な経済活動を示したEUタクソノミーに原子力が含まれ、以前から欧州で新増設の動きがあったものの、ウクライナ危機以後はさらに活発化した。特に注目されたのがサウジアラビアの原子力新設計画だ。数年間停滞を続けていたプロジェクトだが、危機後に前進を見せ、アドバイザーが選定されるまで進んだ。

原子力ブームが到来 水素市場も活発化

チェコではドコバニ原発増設で入札に向けた作業が始まった。同原発はこれまで全てロシア製原子炉を採用していたが、今回はロシアを除外して米ウェスティングハウス(WH)、仏EDF、韓国水力・原子力会社の3社から選定するという。ほかにも石油、ガス、石炭の価格高騰と調達不安から、原発の検討を進める国が頻出する。特に初期投資が小さく、安全性向上が図れるという名目でSMR(小型モジュール炉)の検討が相次ぎ、原子力プラントメーカーだけでなく、日揮ホールディングスなどのエンジニアリング会社も注目する市場だ。

しかし、原発プロジェクトは実際の着工までに長い時間がかかるし、海外では数多くの案件が検討されても実際に建設されるプロジェクトは限られるのが通常。特にSMRはまだ商用としての実績がない。安全性や建設コストがうたい文句通りかどうか未知数だ。原子力は一つのブームではあるが、実際に動くかどうか、建設リスクをどう評価するかを慎重に見極めなければ、かつての東芝やWHの二の舞となる可能性がある。

さらに活発化するのが水素・アンモニアである。ロシア依存脱却と脱炭素のため、欧米で水素プロジェクトが次々と計画されるほか、欧州やアジアへの輸出を狙い、中東でも次々と計画が立ち上がった。UAE(アラブ首長国連邦)では複数の事業計画が進行中だ。また、サウジアラビアでも計画の検討が始まっている。エジプトも欧州への水素輸出基地を目指す考えで、いくつかの計画が立ち上がる。

アジア・太平洋でもインドネシアやオーストラリアで複数の計画が見られるなど、今年だけで多くのプロジェクトの検討が開始され、エンジ会社にも協力の要請が寄せられているという。

コスト高や複雑化など課題 リソースどう確保するか

プラント市況は活況となっているが、課題も多い。まずはコストだ。石炭や鉄鉱石などの資源価格がウクライナ危機を契機に一段と高騰し、鋼材価格にこれが反映され、資材や機器類の価格も高騰している。大量の物資が必要となるLNGや原子力も足下では価格が高騰し、輸送費などを含めてプロジェクトコスト全体が高止まりになっている。

対してLNGへの要求は「より早い供給を」。しかしコスト高騰時にプラントを建設すると、プロジェクトの採算性に影響する。事業者が早急な投資決定に踏み切れないのが現状だ。エンジ会社にとっても、このコスト対応が足元の課題。これから受注する案件では価格転嫁もできるが、コスト上昇以前に受注したものでは、契約により上昇分を請求できないものもあり、その分は損失となってしまう。ただ、コスト上昇はここに来て「落ち着いてきた」と各社が口をそろえる。従って、来年にかけて投資決定が続くと考えられる。

また、LNGでは特に、脱炭素化のためにCCS(CO2回収・貯留)設備を導入してカーボンニュートラルLNG販売を検討する案件も増えてきた。LNGに加えCCSの建設も同時にマネジメントする必要があり、プロジェクトの複雑性が増しているのも課題だ。

もう一つの課題がリソースの確保。特にLNGプロジェクトは大規模案件となるため、これまでエンジ会社はそこにリソースを集中する傾向があった。しかし今、大規模LNGが複数具体化しようとする一方、水素・アンモニア、CCS、原子力という脱炭素分野にもリソースを置いておく必要がある。そのため人的リソースの確保が必要となり、アジアでの拠点設立の動きも出てきた。またDX(デジタルトランスフォーメーション)化によるEPCの効率化も重要なテーマ。各社既に取り組んでおり、効果も出てきたようだ。

ただ、脱炭素で必ずしもエンジ会社に知見が積み上がっている訳でもない。スタートアップを含めた他企業との連携の模索により、技術や知見の領域を拡大する動きがより加速しようとしている。こうした多様な活動が、エンジ業界には求められるようになった。

〈エンジニアリングビジネス〉〇1981年創刊〇発行部数:1万部〇読者構成:エンジニアリング会社、プラントメーカー、機器ベンダーなど

東ガスの袖ケ浦ガス火力 再び計画変更で後ろ倒しに


現在進行中の貴重な大型火力新設計画が、またも計画変更する。東京ガスの「千葉県袖ケ浦天然ガス発電所」(計195万kW)計画は、これまで石炭からLNGへの変更、出光興産や九州電力の撤退を経験してきたが、今度は復水器を海水冷却から空気冷却方式に変える。環境アセスメントの準備書を2月に公表し、10月中にも環境大臣意見が示される予定だったが、事業主体が11月11日に準備書を取り下げた。

同計画を巡り、漁業などの地元関係者からは、地球温暖化の動向も踏まえ、温排水の影響への懸念が高まっていた。こうした声を踏まえ、海沿いでは珍しい空冷式を選択することになった。

第六次エネルギー基本計画の策定以降、初めて環境相意見が示されるガス火力計画となる予定で、その位置付けがどうなるのかが注目されていた。だが、今度の変更で一つ手前の方法書からやり直すことになり、28年ごろを予定していた運開時期は30年度にずれ込む見込み。東ガスは「首都圏の需要を支えるために必要な電源として引き続き計画を進め、なるべく前倒しを図りたい」としている。

見える化から施策作成を自動で 国内初の脱炭素サービスを提供開始


【アークエルテクノロジーズ】

脱炭素社会を実現するべく、デジタル技術を活用したサービス開発に注力しているベンチャー企業のアークエルテクノロジーズが、温室効果ガス(GHG)排出量の可視化から脱炭素化への最適手法の提案までを自動化する新サービス「カーボンニュートラルシミュレーター」を開発。12月に個別企業の要件などにも対応するカスタム版、来年4月以降に中小企業が利用できるよう業種別に汎用化したクラウド版の提供を開始する。

脱炭素化の最適な手段を自動で提案する

2050年カーボンニュートラル(CN)社会に向け、中小規模を含めた企業の取り組みが重要視され、最近では、GHGを可視化するサービスが続々と登場している。その一方で、実際の脱炭素化に向けた具体的な施策を立案するには、コンサルティング会社に依頼しなければならないなど、手間やコストが具体的なアクション策定の障害になっているのが実情だ。

同社が開発したシミュレーターはこうしたコンサルティング機能を有し、GHG排出量を計測するだけではなく、最適化アルゴリズムを利用した「排出量削減に向けた具体的な施策抽出や効果のシミュレーション」を行い、予算内で最も効果的な組み合わせを抽出して自動で提案する。

具体的な施策としては、厨房機器や空調設備の電化やEV(電気自動車)の導入、高効率機器への買い替えや高断熱・高気密の強化といったエネルギー効率化をした上で、エネルギーの供給源を再生可能エネルギーに移行していく。電化が難しい高温の熱領域については、石油からガスへの燃料転換を進めるとともに、クレジットによる相殺などにより実質ゼロ化を目指すことになる。サービスを構築するに当たっては、最新の機器の情報やエネルギー関連の補助金制度などを積み上げデータベース化しており、それらを参照することで、現段階で採用可能な最も経済的な施策を選択できるという。

30年にシェア10%獲得 他のソフトウエアと連携も

サービスの利用料金は、1拠点当たり月額8000~1万円程度となる見込み。企業規模や業界を問わず活用できるサービスとして普及拡大を進める方針で、今後、地方銀行や地域都市ガス会社、運輸系企業との共同実証やアライアンスも予定している。

宮脇良二代表取締役CEOは、「当社が構築しているエネルギーマネジメントシステムや、EV充電マネジメントシステムといった他のソフトウエアサービスのデータを連携させ、より精度と鮮度の高い見える化と削減策の抽出が可能になる」と、他社サービスとの違いを強調。30年に1000億円と見込まれるGHG見える化サービスの市場で10%程度のシェア獲得を目指す。

「原発回帰」を急ぐ岸田政権 国民的な議論欠く状況を憂う


【論説室の窓】竹川 正記/毎日新聞 論説副委員長

エネルギー危機対応と脱炭素化を掲げ、政府が「原発回帰」の姿勢を鮮明にしている。
だが、山積みする課題を国民にきちんと提示し議論しないままで理解が得られるのか。

 「足元の危機克服とGX(グリーントランスフォーメーション)を両立させていかねばならない」

岸田文雄首相は今夏、原発政策の大転換を表明した。「GXを進める上で不可欠な脱炭素エネルギー」と位置付け、既存の原発について、再稼働の促進と運転期間の延長を図る方針を示した。さらに、次世代革新炉の開発・建設についても年末に結論を出すべく議論を加速させるよう関係省庁に指示した。これは東日本大震災と福島第一原発事故以降、政府が封印してきた建て替えや新増設を事実上解禁する趣旨だ。

首相からの指示を受けて、経済産業省は「原発回帰」の実現に道筋を付けるための方策を相次いで打ち出している。既存原発の運転延長に必要な法整備や革新炉の開発・建設スケジュールの策定、電力会社に建設を促すための公的支援制度、原子力産業のサプライチェーン(供給網)強化策―などである。

世界有数の産油・産ガス国、ロシアによるウクライナへの侵攻以降、石油や天然ガスの世界的な供給不安が高まっている。一方で、地球温暖化対策の手は緩められない。CO2を多く排出する旧式の石炭火力発電所が廃止される中、経済・社会活動に不可欠な安定電源の確保が求められているのは確かだろう。最近の世論調査で再稼働に賛成する声が増えたのは、そうした厳しい現実を反映したものと言える。

GX実行会議の第3回会合で発言する岸田首相

提供:首相官邸ウェブサイト

国民の呪縛は解けたか 新増設には拒否反応も

「ウクライナ危機で国民の原発に対する呪縛が解けた」。経産官僚からはこんな声も漏れるが、そう単純ではない。福島事故から11年が過ぎたが、原発の安全性に対する不信感は根強い。再稼働支持者の中には「足元のエネルギー危機対応としてやむを得ない」と考えた人も少なくないはずだ。実際、新増設の是非に関する質問では、反対の声が優勢の調査が多い。短期的に必要でも、中長期的には「脱・原発依存」を望む人が多いことがうかがえる。

にもかかわらず、経産省や自民党の動きを見ると、まるで国民から原発政策に「白紙委任状」を得たかのように性急だ。とりわけ原子力規制行政への干渉は問題だ。自民党の議員連盟は原子力規制委員会に対し安全審査の迅速化に加え、テロ対策の特定重大事故等対処施設(特重)が未完成でも再稼働を認めるように求めている。経産省は運転開始から原則40年、特例で60年という原発の寿命を定めたルールを「利用政策側の問題だ」として見直す構えだ。

自民党議員は「特重建設が遅れても安全面で大きな問題はない」と主張する。経産省は「『40年・60年』に科学的根拠はない」と言い放つ。だが、いずれも福島事故後の安全審査の大前提とされてきた重要事項で、国会が全会一致で決めた経緯もある。それを安易に変えようとする動きが国民にどう映っているか。

規制委は、原発行政の権限が経産省に集中し過ぎたことを反省し、推進と規制を厳格に分離する目的で独立性の高い「三条委員会」として設けられた。3基同時メルトダウンという過酷事故を起こしながら、再稼働を国民が受け入れているのは、規制委が安全審査を徹底すると約束したからだ。その信認を傷つければ再稼働促進はあり得ない。安全性に関わるルールに触るなら、最低限、規制委が主体となって国民に透明な形で議論する必要がある。

もっと解せないのは、新増設の支援策の検討が国民を置き去りにしたまま経産省主導で進められていることだ。減価償却を終えた既存の原発と異なり、新増設する原発の発電コストが他の電源に比べて大幅に割高になるのは必至だ。安全対策費の膨張で建設コストが1基1兆円程度とかさむ上、再生可能エネルギーの補助電源と位置付けるならフル稼働は難しく、採算ラインは相当高くなる。

原発増設を表明したフランスが原子力事業者を100%国有化する方針を示しているのは「民間では採算が取れない」(業界筋)からだ。英国は国策民営形式だが、35年間の固定価格を保証する支援制度を拡充する方針を打ち出している。運転開始前から電気料金に含めて投資回収することを認めるのが柱で、そこまでしないと新設が進まないためだ。事実上の総括原価方式復活に「電力自由化に逆行する」との批判も出ている。

日本も新増設を進めるなら厳しい事情は同じだろう。実際、経産省は、電力会社に建設を促すため運転開始から20年間にわたり安定収入を保証する支援制度を検討中だ。東日本大震災後の新増設停止により弱体化した原子力産業のサプライチェーンを立て直すため、関連企業への支援策も導入する方針だという。原発復権への執念がうかがえるが、支援の原資は税金にせよ電気料金への上乗せにせよ、結局は国民負担となる。

専門家のみで議論 国民の声に耳を傾けて

にもかかわらず、支援策の議論はもっぱら総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の専門家らだけで行われている。審議会メンバーからも「国民各層とのオープンな議論が必要ではないか」との声が出ているが、経産省が気にかける様子はない。このほか、放射性廃棄物の処分という深刻な問題も未解決だが、新増設ほどの熱意は感じられない。

近年の慢性的な電力需給のひっ迫に象徴されるように、現行の技術レベルでは再エネだけで電力供給を賄えないのは確かだ。火力発電の脱炭素化にも時間がかかる中、安全審査を徹底し、地元の同意を得た上で既存原発を当面活用することに道理はあるだろう。

しかし、福島事故の重い教訓である「脱・原発依存」の方針を覆す新増設の是非は全く次元の異なる問題だ。ましてや手厚い公的支援が必要と言うなら、国民の声に耳を傾けることが不可欠のはずである。安定電源や脱炭素という原発の長所ばかり訴えるのではなく、課題やコスト、リスクなども詳らかにして中長期的なエネルギー戦略を幅広く熟議すべきだ。

洋上風力公募の第二弾 今度も入札価格に要注目


政府が実施する再エネ海域利用法に基づく着床式洋上風力事業者の公募第二ラウンドの火ぶたが、まもなく切って落とされる。年明けにも公募が始まる見込みだ。

第一弾は他の追随を許さない入札価格を提示した三菱商事グループの圧勝だったが、ルール変更を経た第二弾は特に商社勢の鼻息が荒いようだ。長崎・新潟・秋田の4地点が対象となり、中でも秋田の八峰・能代沖が激戦区となっている。

注目はやはり入札価格だ。11月4日の調達価格等算定委員会では、事業者が1kW時当たり3円以下を提示した場合、供給価格点を120点満点にすることを決定。これにより、仮に3円と4円で札入れする事業者がいた場合、両者には30点もの差がつく計算で、ほかでの巻き返しがほぼ不可能になる。「3円を狙わないと勝てないと考える事業者は多いのではないか。しかしこの価格だけでは当然コスト回収できず、別途、三菱商事のようなPPA(電力購入契約)の活用といったスキームの工夫が必須になる」(再エネ業界関係者)

第二弾がこの見立て通りになれば、今後の洋上風力公募の流れを決めそうだ。その行方に関係者は大いに注目している。

注目の第二弾の価格は(写真はデンマークの設備)

【覆面ホンネ座談会】繰り返される電力危機 供給力確保策は機能するか


テーマ:電力供給力対策

毎年のように繰り返される電力需給危機。資源エネルギー庁と電力業界は、これまでさまざまな対策を講じてきたが抜本的な解決策にはつながっていない。供給力をいかに確保するべきか。

〈出席者〉A発電事業関係者 B大手電関係者 C学識者

―今冬は、電力需給対策により厳寒時に必要とされる予備力をかろうじて確保しているようだが、毎年のように危機が繰り返されていることを踏まえると、安心はできない。

A もっと事前に準備していれば、ここまで費用をかけずに確保できるのではないか。設備容量(kW)も電力量(kW時)も不足しているのだから対策を打つのはいい。だが、kW時についてはウクライナ戦争のために燃料が高騰しているからなのでやむを得ないとはいえ、kWについては行き当たりばったりで非効率な印象が否めない。準備不足だと思う。

B 2013年の経済産業省の「電力システム改革専門委員会」の報告書には、セーフティーネットとして電力広域的運営推進機関入札が盛り込まれ、資源エネルギー庁関係者は「いいことを思い付いた」という感じだったし、容量市場が立ち上がるまではそれでつなぐのだろうと考えていた。いいことを思い付いたと自信を見せていたのだから、もっと早く発動してもよかったのではないか。

C 不足しているのだから、当たり前の対策を講じているだけのことだ。それにしても石油火力が残っていれば、需給状況は全く違っていただろうね。こうした事態を招いたのはここ10年の政策担当と学識者であって、今の電力基盤整備課は一生懸命だと思うけどね。

―東日本の予備率は、マイナス予想から対策を講じてなんとか4%台を確保した。

A 計画外停止は昔からあったことで、その頻度が上がっているわけではない。JEPX(日本卸電力取引所)へ半強制的に限界費用で玉出しをさせられ、容量市場の約定価格が2回目で大暴落するなど、老朽化した設備を直しながら維持していこうとしていた発電事業者は適正な水準の支払いが受けられないと判断し廃止に向かっている。そうした設備を急に運転再開しようとすると、どうしてもお金がかかってしまうし、ほかの電源よりも信頼度が落ちてしまうのは当たり前のことだ。計算上だけでつじつまを合わせようとするから、何かあるたびに騒ぐことになる。

C プロ野球の監督だって中継ぎのピッチャー5人に4回から8回まで登板させて、絶対に0点に抑える戦略なんて立てないでしょう。今発電側の対策で行われているのは、そういうことだ。原子力以外の電源は、1カ月運転すれば1割の確率で故障が起きるもの。そういうことを考えると、予備力が確保されていれば安心だというのは大間違いだ。

 今年3月の福島県沖地震で損壊した新地発電所1号機が11月11日に冬を前に運転再開にこぎつけたけど、そのメンテナンス力だって石炭火力をいじめ続ける限り、いつまで維持できるか分からない。火力をばかにしていると大変なことになるよ。

将来の電力需給対策は万全なのか

小売り側の規律正常化 安定供給にプラス効果

―燃料不足によるkW時不足を回避するため、国による燃料在庫の監視が行われている。

C 発電事業者は、価格ヘッジもされず売る当てのない燃料を買うことはできないから、小売り事業者のヘッジを徹底させた意味は大きい。その分燃料を積みやすくなるし、発電事業者の燃料を積むことのリスクが縮小される。燃料の先買いができない小売り事業者は潰れてしまえと明確に言っているようなものだけど、もともとは、需要の上振れ分以上のシェアを新電力が取ったら停電するような仕組みだったわけで、供給側の対策ばかり注目されるが、小売り側の規律が正常化されれば自ずと燃料在庫は積み増しされ安定供給に相当のプラス効果が働く。そうすることで、監視さえ必要なくなるはずだ。

A 発電側からすれば、小売り事業者が需要を予測してそれに合わせて燃料を調達するのだから、そこがいい加減である限りどうすることもできない。監視すべきは、小売り側であって発電側ではないんじゃないかな。

―今冬実施される節電プログラムやデマンドレスポンス(DR)の効果はどうだろう。

C ユーザーに毎年節電するよう要請しても、いずれ効果はなくなる。そうならないために大事なのは、節電に対価を与えるか自動で節電する仕組みを定着させることだ。今回の取り組みは、そのプラットフォームを作ることが目的。多くの事業者が手を挙げ、SBパワーのようにプラットフォームを提供している会社もある。電力業界関係者は、DRをしたところで、しょせん数万kWにしかならないと言いがちだけど、長期で累積することが大事なんだよ。そういう意味で、明らかに電気の調達コストと価格が上がっている中で税金をばらまくようなことは、省エネとDRを邪魔することにほかならない。

A DRはやっぱり量的に大したことないということははっきりさせておきたい(笑)。だからやめろということではなく、DRは数時間しか持続しないのだから、それとは違う次元の予備力や調整力としての効果が火力にはあるということをきちんと認識する必要がある。節電するということはどこかで経済を痛めるということだよ。

B 経済活動の機会損失よりも高い値段で買い戻してくれるはずだから、経済を痛めないとすら考えている人が多い。

A そういいながら価格スパイクを抑え込むから経済は痛むし火力は退出せざるを得ない。

LNG調達問題が長期化も 中堅ガスの業績に影響か


産ガス国側のLNG生産・出荷基地の相次ぐトラブルによって、国内エネルギー事業者は今冬もLNG調達に頭を悩ませそうだ。マレーシアのLNG生産設備のパイプラインが地滑りで損傷しガス漏れトラブルが発生した問題で、国営石油会社のペトロナスは10月、供給契約の履行が免除される「不可抗力条項」を宣言した。現時点で復旧の情報はなく、同国産LNGの供給減少と調達価格上昇への懸念が強まっている。

LNGを巡っては世界的な争奪戦が激化の様相

「不足分をスポット市場から調達しようにも、アジアの先物価格指標であるJKMは12月分で30ドル台前半と相変わらず高値圏で推移している。JERAや東京ガス、東北電力などの大手は調達全体に占める割合が低いため影響は軽微にとどまる見通しだが、マレーシア比率の高い中堅都市ガス会社は心配だろう。場合によっては、調達コストが大幅上昇し業績の下方修正を迫られるかもしれない」(エネルギー関係者)

関係筋によると、米テキサス州のフリーポートLNGでは、火災で損傷したプラントの稼働再開時期が11月中からずれ込む見通し。ロシア・サハリン2も依然として「ウクライナ戦争」という爆弾を抱える。LNG市況が正常化するのは、いつの日か。