豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】関口博之 /経済ジャーナリスト

 豪州政府が検討していたLNGの輸出規制が見送りとなった。9月末、キング資源相は国内のガス不足が回避できる見通しになったとして「輸出規制は必要ない」と表明した。日本はLNGの約40%を豪州に依存していて、最大の輸入先だ。関係者はひとまず胸をなで下ろしている。

この輸出規制、ADGSM(豪州国内ガス安全保障メカニズム)という制度に基づいたもので、豪州の競争政策当局が8月に検討を勧告した。NHKニュースでも報じられ、日本政府が日本の輸入に影響が出ないよう要請する事態になっていた。ADGSMは豪州東海岸のガス不足や価格高騰に備えた制度だが、ただし、そのルールは、LNG輸出量が自前の産出ガス量を上回るプロジェクトに対し、輸出数量規制をかけるというもの。つまり「他からガスを買ってきてまで、LNGにして海外輸出するケース」を防ぐというものだ。それによって国内供給責任を課す。しかもこれは東海岸の事業者が対象。日本の輸入は西部・北部エリアが大半で東海岸からは多くない。一報段階での「豪州がLNG輸出規制を検討へ」という見出しのインパクトだけが先走っている感もあった。

そうした中、9月半ば、筆者はLNG基地が多く立地する西オーストラリア州のジョンストン資源相と面会する機会があったが、連邦の輸出規制の行方について彼は、心配は無用とばかりに苦笑まじりにこう答えた。西オーストラリア州にも国内供給を守る保護策はあるが、事業者は当然その義務を承知で、プロジェクト開始前から輸出量・産出量のバランスを見越して操業している。東海岸を含め問題があるとは聞いていない、こういう説明だった。ジョンストン資源相は「西オーストラリア州は、日本とアジアのエネルギー安定供給のパートナーであるという思いを強く持っている」とも明言した。

どうやら今回の問題は日本側の「水鳥の羽音に驚く」的なてん末だったようだ。ただそれも、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、世界的にLNGの安定調達への懸念が拭えていないからだ。日本にとってリスクがいつ、どんな形で襲ってくるかは分からない。

一方で、豪州の重要性はLNG調達に限らない。むしろ脱炭素分野でこそ大きな可能性が開けている。一つは水素戦略だ。ジェトロによれば豪州で日本企業が参画する水素プロジェクトは30以上にのぼる。豪州政府も2040年までに水素輸出額100億豪ドルの目標を掲げる。5月の総選挙で政権交代したアルバニージー首相の労働党政権は、よりグリーンな政策を志向していて、この面での投資機会も大きい。

またCCS(CO2の吸収・貯留)でもポテンシャルがある。枯渇したガス田などをCCSに活用するプロジェクトが各地で検討され、既に商用化もされている。さらには植林によるCO2吸収でも有望だ。資源国であるとともに政治的に安定し、価値観も共有する豪州との関係強化は、常に考えておくべき課題だろう。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

無味乾燥な「所信表明」に思う たそがれの政権を象徴する臨時国会


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 野党・会派が要求していた臨時国会が10月3日にようやく開かれた。同日、岸田文雄首相は所信表明演説を行ったが、体言止めの短文を連ねる演説は政策の具体的な内容に乏しく、現下の日本を取り巻く厳しい情勢を乗り越えようとする気迫も感じられないものだった。代わりに、リスキリング、トランジッション・ファイナンス、スタートアップ・エコシステム、Web3・0サービス、Beyond5Gなどの怪しげな横文字のオンパレード。内容がないときに霞が関が使う常套手段である。30年近く国会での所信表明演説を聞いてきた私にとっても、これだけ無味乾燥なものは記憶にない。

エネルギー政策に関しては、「エネルギー安定供給については……原子力発電の問題に正面から取り組みます」として、「十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示いたしました」としているが、これまで何度も本欄で述べているとおり、原子力規制委員会の審査に合格している十数基の原発の再稼働が、原子力の問題に「正面から取り組」んでいるとは考えられない。何らかの新たな政策への展開を行っているのではなく、単に今進んでいるプロセスを述べているだけだからだ。

岸田首相はまた、「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」とも言っている。ウクライナ危機後、家庭の電気料金は月2000円前後上昇していると言われているが、例えば託送料の値下げ分や燃料費調整分への国費補填といったやり方では、電気料金を十分に下げる効果があるのか、疑問が残る。再エネ賦課金の凍結などの措置もあり得るが、実務的にはさまざまな難しい問題があるだろう。

電気料金対策に悪い予感 国のために必要な政策を

総合経済対策がまとまる10月中には具体的な内容が明らかになっているはずだが、本稿執筆現在、担当部署の官僚は徹夜で対応に追われているという。具体的政策も詰めないままに「前例のない思い切った対策」と言い切っているのは、悪い予感しかしない。検討使と称される岸田首相が「思い切った」決断をした結果がどうなるのかは、国葬問題で実証済みだ。

臨時国会が終わる年末の頃には、岸田政権は青色吐息になっていることだろう。政権末期を感じると、与党内も霞が関も潮を引いたように政権から離れていってしまう。そんな時だからこそ、岸田首相は、虎か猫かはわからないが、「死して皮を留め」てほしい。すなわち、政権を失っても未来に残る何かを残すことが、岸田首相の名を歴史に刻むことになる。それは、真の原子力政策の再構築のような、国民の一時的な人気は得なくとも国のために必要な政策を決断することである。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/11月11日】政府決定の経済対策 日本のエネルギーコストを何%下げるのか


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

政府の経済対策が公表された。

図 経済対策による物価抑制効果(内閣府ホームページより)

特に重点を置いたエネルギー価格対策については「物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガスに集中的な激変緩和措置を講じ、欧米のように10%ものインフレ状態にならないよう国民の生活を守る」と強調。これらの対策は「総額6兆円、平均的な家庭で来年前半に総額4万5000円の支援となる」(日本商工会議所)としている。

日本の人口は1億2570万人だから、平均的な家庭の人数を3人とすると、世帯あたり4万5000円は総額で約2兆円になる。家庭だけでなく企業への補助金も含めると総額6兆円になるということのようだ。

今年のエネルギーコストは13.5兆円増 政府補助はその半分

これはどの程度の規模感なのか? 政府はエネルギーコストの総額を公表していないので分からないが、慶応大学の野村浩二教授が「エネルギーコストモニタリング」として毎月情報を更新しているので、それを見てみよう。

図 エネルギーコストの推移 (慶応大学野村教授「エネルギーコストモニタリング」より)

この推計によると、今年のエネルギーコストは前年に比べて13.5兆円増加の見込み、とのことだ。政府経済対策はこれを6兆円軽減するものだから、だいたい、「この1年に起きたエネルギーコスト増分の半額を軽減する」ものだ、ということになる(正確には6÷13.5=44%)。

経済対策の規模感が分かったところで、このデータの見方について野村教授にいくつか聞いてみた。

Q: このエネルギーコストとは、家庭で支払う電気代を合計したようなものですか?

A: そうです。家庭、企業などが毎月支払う光熱費を積算したものに当たります。企業には電力会社なども入りますが、発電のための天然ガスや石炭も入れると二重計算になってしまいますのでそれを除き、日本全体として最終的に利用されるエネルギーのコスト負担額です。

Q: 税金は含まれているのですか?

A: はい。石炭や石油の輸入時の関税やガソリンにかかる揮発油税など、いわゆる間接税が含まれています。再生可能エネルギー賦課金などの賦課金も含まれています。

Q: 補助金も含まれているのですか?

A: はい。今年はじめに始まった石油価格の激変緩和措置によるコスト低減も含まれています。今回の政府の経済対策も実施されれば、このエネルギーコストを抑制する方向に反映されることになります。

Q: すると図の「エネルギーコスト」は国全体としてのコストとは違うのでしょうか。

A: コストには段階がありまして、ここでのコストは消費者が最終的に負担する水準ですので、エネルギーの生産者による売上げの金額(製品への間接税が賦課される前、補助金によって減額される前の価格は「基本価格」と呼ばれますが、その基本価格によって定義されたもの)とは乖離します。

エネルギーには数兆円もの税が課されていますので、消費者が負担する金額は基本価格による生産の金額をこれまで大きく上回ってきました。もし今後、さらに補助金が拡大すればその乖離は縮小(あるいは逆転)します。

ご指摘のように間接税と補助金の影響は分離できることが望ましいですが、月次速報では難しい面があります。

Q: 図の「エネルギーコスト」の推計の元データはどこにあるのですか?

A: ここでは速報性を重んじていますので、細分化されたエネルギー種ごとに、その消費量と対応するそれぞれの価格の月次推計値に基づいて消費金額を推計し、エネルギー全体の積算値として算定しています。基礎となる統計は、さまざまな政府統計や民間データでして、一部では推計値を含みます。より精度の高い年次の金額データはだいぶ後に公開されますので、それと整合的なものとなるように遡及して改訂しています。

政府経済対策によるエネルギーコスト低減は、過去1年の日本のエネルギーコストの増分をほぼ半減させることが分かった。この意味で、激変緩和措置としては意味のある規模になっていることは分かる。もっとも、その政策としての良し悪しはもちろん別途、議論しなければならないが。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「中露の環境問題工作に騙されるな! 」(共著)など著書多数。最近はYouTube『キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志』での情報発信にも力を入れる。

不安視されるロシアからの調達 LNG輸入国「日本」の脆弱性


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

三菱商事、三井物産はサハリン2の権益を維持するが、天然ガス供給には不安がつきまとう。

世界的に生産余力が乏しい中、調達先の多様化や節ガス、緊急調達の制度設計が急がれる。

 ウクライナ情勢が一段と長期化する様相を帯びて来た。9月末、ロシアのプーチン大統領は、軍事侵攻によって支配下に置いたウクライナ東・南部の4州を一方的に併合すると宣言。住民投票でロシアへの編入について賛成が多数を占めたと主張し、ウクライナ側に都合よく停戦を求めた。これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は絶対に受け入れられないとして、「全領土から占領者を追い出す」と猛反発。今後は、自国のものだとする領土の〝防衛〟に全力を注ぐロシアと、占領された領土を取り返そうというウクライナとの間で戦闘が長期化するのは避けられない情勢だ。

こうした中で不安視されているのが、ロシアからのエネルギー調達だ。とりわけガスの需要が高まる冬を前に、供給不足やエネルギー価格の高騰が懸念されている。

LNGの調達環境は激変している

サハリン2の権益維持 供給停止の可能性は低い

日本は、ロシア極東の天然ガス開発プロジェクト・サハリン2からLNG需要のおよそ9%を輸入している。サハリン2を巡ってロシア政府は、事業を引き継ぐ新たなロシア企業を設立。これに対し旧会社に出資していた三菱商事と三井物産はそれぞれ新会社への出資を表明し、これをロシア政府が承認したことで、権益は維持される方向となった。一安心といったところだが、国際社会からロシアへの批判が高まる中で、ロシアのウクライナ侵攻のための戦費にもつながる巨額の資金を支払って、天然ガスを買い続けてもよいものだろうか。

日本側の理屈はこうだ。日本が苦渋の思いで権益を手放したとしても、契約に規定された代金は支払い続けないといけない。ロシアは日本に天然ガスを売らずに巨額の資金を手にすることができ、さらに日本に売却しないことになった天然ガスをほかの国に売れば、さらに巨額の資金を獲得することになる。いわば敵に塩を送る形となるのだ。

また、権益を第三国の中国が買い取れば、資源獲得の競争相手である中国に漁夫の利を与えることになるともいわれている。実際に各国が対ロシア経済制裁を強める中、中国は漁夫の利を得ている。中国が今年8月、ロシアから輸入した天然ガスは67万tと去年の同じ月に比べて36・7%増加、原油は834万tと27・7%増加した。日本がガソリン価格高騰に苦しむ中、中国では逆に一部の地域でガソリンが値下がりしているところもあるという。

このように、さまざまな情勢を総合的に判断した結果、ロシアからのLNG調達を継続することになった日本だが、それでも今後の日露関係の行方によっては、ロシアが日本向けのガス供給を突如断ち切る可能性も指摘される。

ただ筆者は、その可能性は低いと考えている。ウクライナ侵攻でロシアは、欧米各国から最新兵器の供与を受けるなど全面的な支援を受けるウクライナの反転攻勢にあい、苦戦を続けている。戦況が長引けば戦費も一層かさむ。

その一方で、欧州最大の天然ガス売却の得意先だったドイツとは関係が極度に悪化し、ガスの供給を止めようとしているかのようだ。そうなればドイツにとっても大きな痛手となるが、ロシアにとっても巨額の収入を失うことになる。そのうえ、日本との取引を中止して、財政面で自らクビを絞めることはないのではないか、と考えるからだ。

しかし、天然ガスが世界的にも生産余力に乏しい中で、日本には今後も天然ガスの供給不安がついてまわる。

今年8月には、日本のLNG調達の35・8%と最も多くを依存するオーストラリアを巡ってエネルギー政策担当者が肝を冷やす場面があった。日本の公正取引委員会にあたる「競争・消費者委員会」が、オーストラリア政府に対してLNGの輸出を規制する措置を検討するよう勧告したのだ。LNGの輸出が増加し、来年、国内向けの供給が需要を1割程度下回り、ガス不足に陥る恐れがあることが理由だという。

これを受けて9月2日、西村康稔経済産業大臣は国際会議の機会をとらえてオーストラリアのボーエン気候変動・エネルギー相と会談。日本に対して今後も安定的に供給を続けるよう要請した。結局、オーストラリア政府は、輸出を規制する必要はなくなったとの認識を示すことになったが、この一件は輸出で潤うエネルギー生産国も、いざとなれば自国向けの供給を優先しかねないという現実を突きつけることになった。

こうした中、経産省は9月末、世界有数のLNG生産国で、日本が調達の13・6%を依存するマレーシアの国営企業「ペトロナス」との間で覚書を交わした。この中で、日本がLNGの調達が滞るといった危機的な状況になった場合に、マレーシア側がLNGを融通するなど、日本を最大限支援することで合意したという。

節ガス制度を議論 罰則付き使用制限も

さらに政府は万一、海外から十分なLNGの調達ができなくなり、都市ガスの需給がひっ迫した場合に備えて、ガスの利用者に節約を促す「節ガス」を要請する制度について議論を進めている。まずは無理のない範囲で節約を求め、不十分な場合は数値目標を設定、それでもひっ迫する場合には、企業を対象に罰則付きの使用制限もあり得るという方向で検討が進められている。

また経産省は、調達に必要な制度を整えるために法改正を目指している。価格高騰の中で、都市ガス会社がLNGを調達できなくなった場合に、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が代わりに輸入を行うなど、国が支援できる仕組みづくりを進めようとしている。

ガスは石油と違って長期間の保存が難しい。日本は今後も産ガス国との間で関係を深め、LNGの調達体制を分厚くする。そしていよいよ窮した時のために、節約で急場をしのぐ制度の整備をはかる。ウクライナ戦争がもたらした憂いに対する備えが急がれている。

東電が柏崎再稼働に本腰 鍵握る岸田首相の新潟訪問


東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に向けた動きが加速している。東京電力HDの小早川智明社長は9月30日、原子力発電事業を巡る今後の方向性を発表した。2026年までに職住環境を整備し、本社機能を柏崎市へ移転。既に配置転換は始まっており、5月までに64人が異動した。さらに柏崎刈羽の再稼働を管轄する本社の「原子力・立地本部」から福島第二の廃炉部門を切り離し、福島第一と統合する検討に着手した。

小早川社長は柏崎刈羽の再稼働について「どの時期を目指すと申し上げられる段階にない」と述べたが、9月16日には23年度の企業向け電気料金算定について、柏崎刈羽7号機の再稼働を織り込む方針を発表している。同社幹部によると、目標時期は7月だ。

ただ地元同意のハードルは高く、関係者からは「首相が新潟を訪れて再稼働の必要性を説くしかない」との声も。10年前になるが、当時の野田佳彦政権は枝野幸男経産相を福井県に派遣。夏場の電力不足回避のため大飯3・4号機の再稼働を実現させた。来年4月に統一地方選が控える中、果たして岸田首相は重い腰を上げるのか。

ガス・水道事業のDX化を後押し 「IoT―R」が出荷200万台突破


【東洋計器】

 ガスや水道メーターの開発・製造を手掛ける東洋計器。2018年10月に発売した双方向通信端末「IoT―R」が、LPガス業界で急速にシェアを伸ばしている。この6月には、出荷台数が200万台を突破。全国のLPガス利用世帯数は2000万軒で、このうち1割が設置したことになる。

土田泰正社長は、「来年度上期には、300万台を視野に入れている」と語り、「さまざまなコンテンツと合わせ、ガス業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に貢献する」と、一層の普及拡大に意欲を見せる。

IoT―Rは、長距離データ通信、低消費電流の通信規格である「LPWA/LTE cat.M1」に対応し、ガスのマイコンメーターと連動することで検針情報や保安情報をスマートセンターに送信するほか、ボンベの遠隔残量監視による配送の合理化など、事業者の業務効率を飛躍的に向上させることができるのが大きな特徴だ。

LPガス業界では、遠隔検針や残量監視のためのテレメータリングの導入が進んでいるが、高い導入費用や通信費などが障壁となり、導入世帯は600万軒ほど。IoT―Rは、設置工事が容易であるのに加え、通信エリアが広く設置先の通信環境に依存せずに双方向通信が可能であることなどから、テレメータリングの活用の幅が広がり事業者のさらなる業務改善が進むことが期待される。

LPガス集中監視を代行するマルチセンター

業務のDX化を推進する 七つのサービスコンテンツ

同社は、①新料金メニューの導入支援、②器具の劣化予測情報、③ウェブ明細サービス、④高齢者見守りサービス、⑤IoTとAIを活用した配送最適化情報、⑥プリペイドサービス、⑦電子請求・決済―といった七つのコンテンツの提案にも力を入れている。

例えばウェブ明細サービス「ガスるっく」は、携帯電話端末での料金明細や使用量グラフの表示機能、決済機能に対応しており、請求書のペーパーレス化を可能にするコンテンツ。決済機能とIoT―Rによるガス栓の遠隔開閉を組み合わせることで料金請求から回収、督促といった人手がかかる業務のDX化を図ることができ、社員の業務負荷を低減、ひいては将来の労働力不足への備えにつなげることができる。

今後は、IoT―Rを通じて取得される膨大なビッグデータをどう活用して事業者の業務効率改善やサービスの拡充に貢献できるかが課題。土田社長は、「IoT―Rをきっかけに、LPガスのみならず、都市ガスや水道事業に対しても、さらなる業務の合理化に取り組んでいきたい」と意気込む。

【覆面ホンネ座談会】硬直状態を打破できるか! 政権の原発政策に物申す


テーマ:岸田政権の原子力政策

原子力政策が前に進み出した。エネルギー危機が現実味を帯びる中、安定・低廉な電力供給での役割が見直されたのだ。だが、まだ検討は始まったばかり。「原子力復活」に向け克服すべき課題は何か。

〈出席者〉A電力業界関係者 B学識者 C原子力ジャーナリスト

―岸田文雄首相は8月24日のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、①設置許可を取得済みの原発再稼働、②運転期間の延長、③次世代革新炉の開発・建設―について年末に結論が出るよう検討の加速を求めた。発言を受けて総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で具体策の議論が進んでいる。政権トップによる踏み込んだ発言であり、「晴天の霹靂」感があった。

A 唐突という印象は受けていない。GX実行会議では経済産業省の官僚がきちんと根回しをして、首相に何を言わせるかを考えている。経産省は少しずつ原子力回帰の動きを進めている。国民の理解を得るために慎重に行っているが、発言はシナリオ通りだろう。

―電力業界の根回しもあったのでは。

A それはない。原子力が必要なことは官民共通の理解だ。第六次エネルギー基本計画を策定する時から、経産省は少なくとも「可能な限り低減」の文言を取り除きたかった。しかし閣内の政治家がブレーキを掛けて、「必要な量を持続的に活用する」と入れることしかできなかった。ところがウクライナ侵攻が起き、エネルギーの安定供給が危うくなり、電気料金も上がった。「この機を逃すな」と考えたはずだ。

B 首相発言の意味は大きいと思っている。原子力については誰かが何かを言っても、やはり首相が発言しなければ物事は進まない。中でも次世代革新炉の発言を受けて、マスコミが「新増設・リプレースに踏み出した」と報道し始めたことのインパクトは大きい。

A 原子力復活の第一ステップとして、次のエネルギー基本計画で「可能な限り低減」を取り除くために次世代革新炉について言及した。新増設・リプレースは次の第二ステップとして考えていたと思う。しかし、マスコミが反応したので一挙に進んだ感がある。

C 国会の答弁を見て分かるが、首相は役人の書いた文章を読んでいるだけだ。GX実行会議の発言は経産省出身の首相秘書官、嶋田隆さんが指図したものだと思う。電力供給の安定化、電力料金の引き下げは大切だが、嶋田さんは経営が厳しい東京電力を何とかしなければいけないと考えている。それにはまず柏崎刈羽の再稼働が必要になる。

岸田首相の発言で原子力政策が前に進みだした(電力会社首脳との懇談会、10月12日)
提供:首相官邸

―設置許可を得ている原発の再稼働を目指すとしている。そのうち高浜1・2号機、女川2号機、島根2号機はおそらく順調に作業が進むだろう。しかし柏崎刈羽6・7号機は核物質防護で不備があり、原子力規制委員会が改善を命じている。東海2号機は立地する東海村と周辺の5自治体の事前了解を得なければならず、ハードルが高くなっている。

B 柏崎刈羽の現場は、ほかのプラントと比べてもトップクラスのレベルを維持している。しかし、東電のトップ層はマネジメントに力を入れているが、現場との連携が不足している。それが顕著に現れた例が柏崎刈羽の核物質防護の問題だろう。

―新潟県では地元の同意が得られるかも不透明だ。

B その点は規制委の責任が大きい。規制委が誕生した後、当時の新潟県知事が田中俊一委員長に面会を求めた。福島第一原発と同型のプラントが立地する新潟県としては、事故について説明を求めるのは当然のことだ。しかし、田中委員長は会わなかった。今も規制委は原発立地の地元に行って説明することをしていない。

 原発の安全性を審査して規制基準に適合していると判断したら、規制委はそれを地元に説明する責任がある。まして柏崎刈羽のように根強い不信感がある場所ならばなおさらだ。安全性について地元の理解を得るために、事業者と規制委、それに資源エネルギー庁が連携して対応する仕組みをつくるべきだ。

C 2007年の中越沖地震で柏崎刈羽が全基停止した時、再稼働のために経産省と電力業界は半導体工場を地元に誘致した。おそらく、その時と同じような大掛かりな後押をするのだろう。東海2号機の周辺6自治体の事前了解は、やっかいな問題だと思う。実現させた東海村の村上達也村長の知恵袋になって、関係者と調整したのは文部科学省から出向した官僚の副村長だった。

―そんな役人がいたのか。

C 東海村から離れて霞が関に戻った後、それを自慢げに話していたそうだ。さすがに出世コースには乗らなかったようだが。

「40年」「60年」規制に根拠なし 定期的な技術評価で運転延長を

―運転期間は、今は原子炉等規制法で原則40年、最大20年延長と定められている。その見直しが進んでいる。同時にカウントストップの議論も行われている。

B 原発の高経年化については、原子力安全・保安院がIAEA(国際原子力機関)などとも連携して対策を進めて、1998年に基本的な考え方をとりまとめた。運転開始から30年を目途に機器などの技術評価をして、それ以降の保全計画を策定するものだ。03年からはそれが保安規定での要求になり、10年ごとに技術評価をすることになった。

 福島事故の後、法律で「40年」「60年」と決めたことは技術的にはまったく意味がない。この問題で技術的な議論をする必要はない。運転期間の制限を取り払い、例えば運開から40年を目途にして基準に合致しているか技術評価を行い、それ以降も定期的に技術評価を行っていけばいいだけの話だ。

A Bさんが言うように、技術評価を行って運転延長ができるか号機ごとに判断していくのが最も合理的だ。ただ、技術評価には準備、審査などに大変な手間と時間が掛かる。いま電力会社は再稼働に人や資金を取られている。電力会社によっては、とても技術評価をする余裕はない。すると40年の期限が来るまでに作業が間に合わないことを見越して、「廃炉にしよう」という判断が起きかねない。

―法改正で「40年」「60年」の規制を取り除いても、カウントストップは意味があるのだろうか。

A そう考える。カウントストップがあれば、40年までに技術評価をすると定まっても、その期限を先に延ばせる。そうすると電力会社が廃炉の選択を考える必要もなくなる。

C 要するに、いつまでに廃炉にすると期限を決めないで一定の期間ごとに技術評価を行って、運転継続が可能か決めればいい。Aさんが指摘したのは手続き上の問題だと思う。急な制度変更だったのだから、初めに技術評価をする時期を40年としても、混乱でそれが難しい電力会社があるのなら、規制側が柔軟に対応して40年を先に延ばせいい。

林地開発許可は妥当!? 函南太陽光計画で新疑惑


本誌が報道してきた静岡県函南町軽井沢のメガソーラー計画問題を巡り、新たな動きがあった。林地開発許可の前提となる河川協議について、県河川管理者と事業者の間で適切に行われていなかった問題が浮上しているのだ。

9月26日の静岡県議会で鈴木啓嗣県議は、事業者による河川調査が不十分で、許可要件を満たしているかが明確でないにもかかわらず許可を行ったと指摘。「行政手続き上、瑕疵があった」と県の姿勢を問いただした。

これに対し、県の担当者は事業者側との認識の相違から申請書類に誤りがあったとして、書類を訂正し計画を見直すことで事業を継続する考えを示した。が、鈴木氏は「(県が確認を怠った)許可を追認するために、改めて河川協議を行って事業者に書類を提出させるという対応は適切ではない」と反論。今後の常任委員会で、この問題を徹底追及する構えだ。

全国再エネ問題連絡会の山口雅之・共同代表は「林地開発許可の前提でミスがあったわけだから、まずは許可を取り消すのが筋だ。書類を修正したからよいという話ではない」と主張する。

同計画は中止に追い込まれるのか。今後の行方が注目される。

エネルギー危機下で開催 存在意義問われるCOP


ロシアの侵攻開始以降初となる温暖化防止国際会議の COP27が、11月6日からエジプトで始まる。JCM(二国間クレジット制度)などに関する市場メカニズムを巡り、日本主導で国際枠組みを発足する予定などと報じられている。ただ、ロシア有事で世界の分断が進む中、専門家は「削減目標引き上げへのプロセスを詰めたい先進国と、そのためにさらなる資金を引き出したい途上国の対立が一層深まっている」(有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授)と指摘する。

前回のCOPでは、産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えることの追求に各国が合意。しかし今年6月の補助機関会合では、両陣営の対立構造が再燃した。西側諸国も途上国もエネルギー安全保障リスクが拡大する中、利他的な機運が削がれている。

「先進国は今も化石燃料増産への投資をブロックしようとするが、これでは途上国の反発を招く。COP27の合意を難しくしている」(有馬氏)。理念の追求にこだわらず、足元の危機を踏まえた現実的な温暖化対策の道を探れるか。COPの存在意義が問われている。

【イニシャルニュース 】LPガスが最も安定!? エネルギー事業に異変


LPガスが最も安定!? エネルギー事業に異変

カーボンニュートラル時代への対応が重要な経営課題になっているはずのエネルギー事業者に異変が起きている。

某地方で都市ガス事業とLPガス事業を運営するA社。2016年の電力小売り全面自由化以降、地域の再エネを活用する目的で新電力事業の展開に力を入れてきた。

「脱炭素化が世界的な課題となる中で、CO2を排出する化石エネルギーの一本足打法ではいずれ行き詰まるに違いない。数十年先の経営を考えれば、ガス会社といえどもカーボンフリーの電力事業を手掛けておくべきだと考えた」(A社幹部Ⅹ氏)

ところが、21年初頭に起きた卸電力市場価格の高騰を受け、電力事業は大幅な赤字に転落。春になり市場価格も落ち着き、収支が改善し始めたところに、今度はウクライナ危機による世界的なエネルギー価格の暴騰が発生した。歴史的な円安進行も相まって、燃料・電力調達価格の急上昇は新電力各社を直撃。事業の休止や撤退を余儀なくされるところが相次ぐ中、A社も事業存続の岐路に立たされている。Ⅹ氏が言う。

電力事業に力を入れたが……

「電力に気を取られているうちに、都市ガスの収支も悪化してきた。むしろ足元で安定しているのはLPガスだ。脱炭素化では劣勢に立たされているLPガスが収益に貢献して、最右翼の電力が窮地に陥るとは。将来を考えると、これでいいのかという気がして仕方がない」

国民生活・経済活動を支える低廉で安定した供給の実現こそエネルギー事業の土台。そこが揺らいでは、脱炭素も何もあったものではない。直面する難局をどう乗り切っていくか。事業者の経営手腕が問われている。

杉森氏に鴇田氏…… 不祥事辞任が相次ぐ

ENEOSの杉森務前会長、そしてTOKAIホールディングスの鴇田勝彦前社長と、エネルギー業界トップの不祥事による辞任が相次いだ。

杉森氏は女性への度を越した不適切行為、鴇田氏は交際費の不適切な使い込みと理由は違うが、共通するのは昭和の慣習から抜け出せない企業体質が現れた点だ。

杉森氏を知る人からすれば、今回の報道はさもありなん。普段はフランクな人柄で新聞記者や部下から慕われる親分肌だが、お酒が入ると態度が一変。東京・銀座の高級クラブでこうした態度を見せることもあったという。

杉森氏は旧日本石油の営業畑の出身。これまでは同じ営業出身で親分格でもあったW元会長の存在が重石になっていたが、W氏が亡くなった後は「タガが外れた」(石油業界関係者)。周囲も杉森氏の行き過ぎた行為を止めることはなかったという。

「旧日石の支店長クラスともなれば特約店を回る際などに過度な接待を受けることは当たり前で、派手にお金を使ってきた。しかし石油業界は今でも昭和の慣習が抜けていないと思われてしまい、甚だしいイメージダウンだ」と石油業界関係者は嘆く。

一方で鴇田氏の場合はというと、会食などで不適切な経費の使い込みが発覚したとして、9月15日の同社取締役会で社長を解職された。経産省OBの鴇田氏が同社社長に就いて17年。「元社長のF氏によるワンマン経営から脱却し、グループ再編や持ち株会社化などで果たした功績は大きいが、あまりにも長く社長をやり過ぎた。社内には不満がうっ積しており、今回の電撃解職は〝5人組の反乱〟と見る向きもある」(事情通)

有能だが遊び好きで豪放磊落なトップが許容されたのも、今は昔。企業経営ではコンプライアンス重視の傾向が一段と強まっていこう。ただ、そこに一抹の寂しさを感じてしまうのは、なぜだろうか。

天下り先決まらず 役人「冬の時代」到来

国家公務員総合職の希望者が減っている。かつては全国のエリートが中央官庁の幹部への道を目指した。だが日本経済が長く低迷する中、官僚たちを取り巻く環境の変化が、優秀な学生たちに霞が関で働くことをためらわせているようだ。

旧科学技術庁出身で文部科学省の幹部を務めたT氏。自他ともに認める「やり手」官僚だったが、今年3月に退官した。以前ならば、文科省の関連団体などに相応しいポストが用意されていたが、「まだ天下り先が決まっていない」(文科省関係者)。

役人に冬の時代が到来しつつある (文科省)

もっとも財務省や経産省のOBには、今も手厚い再就職の斡旋がある。しかし旧科技庁の関連組織は規模を縮小する傾向にあり、「天下り先の確保が難しくなっている」(同)。エリートたちが冬の時代を迎えつつある。

福井で地層処分の動き 業界は「ありがた迷惑」

原子力施設の集中する福井県・嶺南地区で、高レベル放射性廃棄物の地層処分を実現させようという動きが起きている。原子力関連団体が地元政治家を集め、勉強会などを開催。しかし電力業界関係者からは、「ありがた迷惑」「難しい状況で余計なことをしないでほしい」などと活動を警戒する声も聞かれる。

団体はO町、M町を中心に、ここ数年、著名人と地元の政治家と合同でセミナーを開催している。原子力関連の学会、ゼネコンなどが支援し、研究者や電力会社のOBが集まっているが、電力業界と直接の関係はない。団体側が「地層処分の可能性を探るのが真の目的」と周囲に話していることが関係者に伝わり、一部の関係者の不信を強めている。

長く原発と共存してきた嶺南地区では原子力に対する拒絶感は少なく、個人レベルでは地層処分に肯定的な人がいる。それにつられ、団体は北海道寿都町のように地層処分受け入れの窓口を作ろうとしているようだ。しかし、「嶺南地区の原発は再稼働や使用済み燃料の中間貯蔵の問題を抱える。いま地層処分について行うべき行動ではない」(電力業界関係者)。

福井では県と地元の政治関係者が一貫して「放射性廃棄物を県外に出す」政策を掲げている。一方、行き場が決まらない使用済み燃料の中間貯蔵は重い問題だ。

福井県で原子力発電を行うK社やN社は現在、再稼働とリプレース問題などで手一杯だ。エネルギー業界関係者も政治家も、高レベル廃棄物の最終処分の話などする余裕はなく、地層処分の議論は逆に原子力批判派に攻撃の材料を与えかねない。

「ありがた迷惑な面もある。活動をやめていただければいいのだが」。電力業界関係者はこう頭を抱える。

BGかプールか 電力市場改革で混乱

バランシンググループ(BG)制度の維持か、パワープール制への移行か―。資源エネルギー庁の有識者会合で議論されている卸電力・需給調整市場改革の方向性を巡り、電力業界が混乱の様相だ。

要因は10月4日の会合でエネ庁が提案した、効率的な電源の運転と最適な供給力(kW時)と調整力(⊿kW)の調達を実現するための「同時市場」を巡る議論にある。

これは、前日市場の入札方法としてThree-Part Offer(ユニット起動費、最低低出力コスト、限界費用カーブでの入札)を導入。この情報を踏まえて一般送配電事業者(TSO)がkW時と⊿kWを含む電源起動(停止)計画を作成し、小売り事業者は自社の調達需要とTSOの予測需要との差分も含めて確保する仕組み。 

エネ庁の提案では相対契約で事前に売り先が決まる「セルフスケジューリング電源」も認めるとしている。だが同日の会合で学識者委員のM教授は、「なぜ、セルフスケジューリング電源などわざわざ設けるのか理屈が示されていない」と述べ、事実上のプール制への移行を主張したのだ。

業界関係者X氏は、同時市場は「BGが計画値同時同量を達成するために必要な量をしっかりと確保するための仕組み」との認識。エネ庁も、あくまで現行のBG制度は維持するというスタンスを変えていない。

別の業界関係者O氏は、「送配電事業者の間でコンセンサスが取れているわけではない」と、この議論を巡るもう一つの問題を指摘する。BGかプールかはともかく、同時市場に移行するとなれば大改革になることは間違いない。機能不全に陥ってしまった現行の電力システムの二の舞にならないよう、より冷静な議論が求められる。

議論続くバイオマスの持続可能性 日欧の制度テーマに講演会


【バイオマス発電事業者協会】

 化石燃料の世界的高騰が続く中、コスト面からも木質バイオマス発電への注目が高まっている。他方、木質バイオマスはライフサイクル全体でみて本当にカーボンニュートラルなのか、エネルギー目的の過度な伐採が行われていないか、といった議論も続く。こうした情勢下でバイオマス発電事業者協会が9月末、木質バイオマスの「持続可能性」をテーマに講演会を開いた。

持続可能性に関する国際動向を専門家が講演

自然エネルギー財団の相川高信上級研究員は、EUを中心に持続可能性に関する制度の国際動向を解説した。EUのRED(再生可能エネルギー指令)では2009年から、液体バイオマス燃料のみを対象にし、持続可能性基準として温暖化ガス排出量(GHG)や原料生産地に関する要件などを設定している。しかし近年、森林系や農業系などの固体バイオマスも対象に加え、持続可能性基準を強化する方向で検討が進む。ただ、欧州議会での議論では環境委員会と産業委員会で意見がぶつかり、21年夏に施行予定だったスケジュールが遅れている状況だ。

改定では、木材を多段的に利用し、最終段階で燃料に活用して材を使いつくす「カスケード利用」を原則として導入し、対象設備の規模やGHG基準などについて検討。EUの木質バイオマスの37%が「一次木質バイオマス(PWB)発電」で、このうち半分程度で丸太を利用するが、環境面からこうした点への批判が強まり、PWB発電への補助金は26年以降原則廃止といった方向性だ。

ただこの解釈をめぐり、従来の論点だった丸太の制限に加え、間伐材や林地残材などの制限に関する議論も浮上している。相川氏は「以前はPWB全体を規制する流れではなかったはずが、この問題がヒートアップしてきている」と説明する。

エネ転換での位置付け発信 国際連携の進展が重要

一方、日本では間伐材の利用を前提に、高い買い取り価格で支援するものの、林野庁ガイドラインが示す「未利用木材」には間伐材だけでなく、主伐材など、EU内で批判されるような内容も含まれる。相川氏は、「日本の状況の考慮が必要な面がある一方、抱える課題は世界共有。国際組織などで各国の状況を共有し、言うべきことを主張していかなければ、エネルギー転換への枠組みの中での位置付けを失う可能性もある」と強調した。

このほか、林野庁木材利用課の小島裕章課長が国内事情について講演し、ライフサイクル全体でのGHG排出基準について政府内で検討中だと説明。さらに燃料材の安定供給、熱利用の拡大、持続可能性への配慮といった課題への対応を検討する必要があるとした。

【コラム/11月8日】電力料金負担緩和策を考える~電力システム改革で低下した対応能力


飯倉 穣/エコノミスト

1,エネルギー価格の高止まりが継続している。米国の金融引締め政策の影響でドル高・円安も懸念材料である。公共料金であった電気・ガス料金の値上げが、消費者物価を押し上げ、国民の不満を募る。政府は、企業・家庭向け電力料金等軽減策に執着し、総合経済対策(22年10月28日)に盛り込んだ。報道は伝える。

「電気代支援1月にも 政府、ガス料金も軽減 財政支出バランス懸念」(日経10月15日)、「家庭電気代2割支援へ 1月以降 財政負担兆円規模」(朝日27日)。「総合経済対策 エネ高騰対策 脱炭素に逆行 歳出膨張 強まる懸念」(日経29日)、補助金は、企業向け3.5円/KWH、家庭向け7円/KWHのようである。

今日不安定な政策が後を絶たない。果たして政府補助金は、今後の日本経済の活性化に寄与するであろうか。改めて電力システム改革後の電気料金軽減策を考える。

2,資源エネルギー輸入価格の上昇は、経済にどんな影響を与えるのか。繰り言だが、マクロ経済的に見れば、輸入エネ価格上昇は、所得の海外移転で当面縮小均衡調整となる。

価格転嫁で諸物価を引上げ、需給調整等を通じて、次の経済均衡点を模索する(数%低下見込み)。価格上昇の原因は国内でなく海外なので、現実を受容せざるを得ない。

働く人(消費者)は、当然生産性向上がなければ賃上げがない。観念して、その価格上昇を受忍せざるを得ない。その状況から脱却するには、当面新価格容認(価格転嫁)、消費量減(所得効果)、中期的に他の安定的な財の開発・生産(代替効果)、生産性向上(成長模索)等である。それが市場経済の自然な姿である。

3,近時の政府は、上記のような見方を国民に知らしめ、節約の協力、価格の容認を求めず、経済変動を軽視し、経済水準維持を声高に叫ぶ。要請等も曖昧なまま、高騰分緩和の補助金給付という政策に走る。昨年決定のガソリン価格激変緩和補助金であり、今回は電力料金等抑制のための補助金となる。その問題点は何か。

4,多くの企業は、急激な変動に戸惑う。屡々企業人は、コスト高対応の調整・期間等を確保する意味で緩和策の導入を叫ぶ。今回も世論意識で電気代軽減という思いつきが浮上した。ポピュリズム的ではなかろうか。

大事なことは新価格体系への迅速な適応である。各企業は、価格高騰となれば、使用するエネルギーの合理化、代替品の導入・開発等の対策を打つ。個人も代替品がなければ、消費量を削減する工夫を行う。ここでは経済の担い手の合理的行動が、改善をもたらす。調整期間は、一般企業の場合、高価格の継続性を睨みながら、1ヶ月(節約)、3ヶ月(代替品か仕入れルート)、半年(合理化)、1~2年(設備投資)程度の対応策を検討するであろう。対応に補助金不要である。補助金は、適応を長引かせ、企業活力を低下する危惧がある。それは市場を歪曲し、人為的コストの嵩上げで経済調整を遅延させる。創意工夫こそ企業の生きる術である。

5,電力業はどうか。エネルギー産業は、原油・LNG価格上昇の直撃で、コスト増となり収支維持のため価格転嫁が必要になる。勿論合理化等でコスト増を吸収する努力を行い、又値上げに伴う需要減も考え、さらに競争力を確保するため値上げ幅も要検討事項である。基本は、企業存続・活動に必要な収支の維持である。企業であれば当然である。私企業であろうと公的企業でも変わりない。

6,電力システムの有様が、電気料金値上げ幅や時期に微妙に関係し、政府の対策を左右する。政策手段として適当か否か議論もあるが、過去の9電力(需給調整・料金規制・総括原価)のような公益事業なら、原価・事業報酬の査定、意見聴取の場(公聴会)もあり、必要な情報公開もあることから、値上げ幅・日程に納得感がでる。又料金引き上げの若干の遅れで生じる収支のずれがあっても、金融サイドは、信用力の評価で、査定の余裕があろう。

一般企業であれば、価格転嫁に伴う原価が必ずしも合理的かわからない。且つ競争下では、合理化もあろうが、価格付けは企業任せである。且つ競争的な市場の一般企業の場合、金融サイドの収支の見方はより厳しくなる。故に早急な価格転嫁が必要となる。

7,値上げは当然でも、業態で需要家の受け止め方も異なる。値上げに対し需要家の理解を腐心せず、私企業の価格面への政府関与はいかがであろうか。公益事業なら、料金値上げの幅や時期の検討で需要家が認容せざるを得ない環境を作りやすい。輸入価格高騰に伴う物価対策なら、国民にとり現行システムより公益事業体制のほうが分かりやすい。

8,既述したように企業・個人の適応軽視、不満対応の政策は、方向を歪め、経済の展開を遅らす。企業は水膨れのまま、消費者は環境適応できない状態を現出する。経済論的には、電気料金引き下げの補助金が、なぜ必要なのか首を傾げる。また中長期的影響も懸念される。まして電力自由化・市場重視の下では、さらに意味不明である。

適切な対応とは何か。縮小均衡調整の下で、企業は、新価格に対応した適応を図る。合理化を進め、創意工夫を行う。個人も消費行動の合理化を模索する。政府のあるべき施策は、一時的な緩和策でなく、スムーズな適正な価格転嫁とその監視であろう。企業・個人の新環境への適応を促進することこそ、経済的ショックへの適切な対応である。また電力システムの在り方として、海外ショックへの対応では、公益事業体制が優れているようである。現システムの見直しこそ必要である。輸入価格高騰というショックは、臥薪嘗胆とまではいかなくとも、資源少なく人多い日本列島の現実を考えて対応すべきである。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

都の太陽光義務化に「反対」 中止撤回求める動き活発化


「新築住宅への義務化の動きは、国際社会の潮流だ」。

東京都の小池百合子知事は9月20日、都議会の所信表明で太陽光パネルの新築住宅設置義務付けに意欲を示した。12月の議会で関連条例案が可決すれば、2025年4月から施行される。小池知事は都内のCO2排出量の7割超が、建物のエネルギーに起因していると説明し、再生可能エネルギー普及を進めたい構えだ。

しかし、制度案のパブリックコメントでは41%が反対し、設置の費用面や太陽光パネルの廃棄による環境破壊の懸念に多くの意見が集まっている。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は「中国政府によるジェノサイドや人権弾圧に加担し、国民都民の負担が巨額に上り、水害時には人命が失われる恐れもある」として、都の太陽光パネル義務付けに反対。条例案の中止撤回を求める請願書を提出した。現在は上田令子都議による請願書への署名活動が行われている。

小池都知事は都議会で「大都市の強みである屋根を最大限活用することで、地産地消のエネルギー源の確保につながる」と意義を強調したが、都民負担や災害時の対策についての言及は控えた。誰のための太陽光義務化なのか。

パネル設置の弊害は語られず……

エネ価格・需給危機で四苦八苦の欧州 エネルギー市場の分断と混乱は続行


【識者の視点】山本隆三/常葉大学名誉教授

ロシアへの経済制裁とその応酬が続き、EU内、さらには世界的にエネルギー市場の分断と混乱が起きている。

この状況は2023年も継続の可能性が高く、天然ガスに加え石炭への影響も注視する必要がある。

 ロシアのウクライナ侵攻前から始まっていた欧州連合(EU)諸国とロシア間のエネルギーを巡る綱引きは続いている。ロシアは制裁に対する報復として、EU向けの天然ガス供給量を昨年同期の10分の1以下にまで削減し、EU諸国が音を上げるのを待っている。

EUにとって、パイプライン経由が主体のロシア産天然ガスの輸入をすぐに断ち切ることは難しいが、ロシア産石炭の禁輸を8月10日から開始し、石油も年内に原則禁輸する。ロシアに渡る戦費縮小に努めているが、2月24日の開戦以来、10月中旬時点で、EUは既に1000億ユーロを超える額(約15兆円)をロシアに化石燃料代金として支払っている。

ロシアは原油・石油製品、天然ガスでは世界一の輸出国だ。BP統計によると2021年の世界貿易に占めるシェアは、それぞれ12%、20%。石炭は世界3位だが輸出市場の寡占化が進み、ロシアが占めるシェアは約20%ある。

ロシア産化石燃料は、EUのエネルギー供給の約2割を占める。エネルギー資源大国ロシアを代替する燃料調達は容易ではないし、大きな価格上昇を招くことになった。エネルギー価格の高騰に直面し天然ガスも十分に使えない欧州市民が厳しい冬を迎える中で、EUは天然ガス消費量節約に力を入れている。例えば、ドイツは閉鎖予定の石炭火力を継続利用し、褐炭火力を再開。船上設置の石油火力設備も準備しており、石炭と石油で天然ガスを代替する構えだ。オーストリア政府は「ミッション・イレブン」と呼ぶ11%のエネルギー節約キャンペーンを行う。

ガス削減に努めるEU 世界市場から露産の大半蒸発

ロシアからの化石燃料が欧州において大きな地位を占めたのは、皮肉なことに欧州諸国が脱炭素を進めた結果だ。欧州では国内炭鉱の生産量が減り石炭消費も減少していたが、パリ協定により脱石炭が加速し、天然ガスの利用量が増えた。EU内では天然ガスの生産量も減少していることから、ロシアからの輸入増とロシア依存度の上昇を引き起こした。

EUではロシア産ガス途絶への懸念が高まる

EU内の化石燃料生産減に伴いロシアからの輸入シェアは上昇し、21年の石炭、天然ガス、石油のシェアはそれぞれ52%、46%、26%に達した。ロシアの侵略開始後、EUはロシア産化石燃料の削減に努め、今年の第2四半期の石炭、天然ガス、石油の輸入に占めるロシアシェアは、それぞれ46%、26%、21%と下落した。削減が困難とみられていた天然ガスの削減が目立っているが、それが可能であったのは、米国産LNGの供給が増えたことが大きい。ロシアからの供給の落ち込み分をLNG供給がほぼ補う形になっている。ただし、ロシアはノルドストリーム1経由の供給を8月末から停止するなど供給減を強化しており、9月以降EUの天然ガス輸入量は昨年同期を下回っている。

EU諸国は天然ガス消費抑制にも努める。今年1~9月の対前年同期比の消費量は、フィンランドの53%減を筆頭に、ドイツ11%減などEU全体では7%減を実現している。そして各国とも冬季に備えた天然ガスの貯蔵量増に努めた結果、10月中旬時点でEU合計貯蔵能力の92%、3・3カ月分のストックを確保している。

欧州諸国は、石炭、石油においてもロシア依存度が高いため、他ソースからの購入量を大きく増やさざるを得なかった。米エネルギー省によると、21年にEUがロシアから購入した原油は日量233万バレル、石炭6250万tだ。この代替は簡単ではない。

一方、ロシアはEU市場に代わる購入者を見つけられていない。中国、インドに値引きして販売するものの、EU市場の代替になる数量ではない。要は、世界の化石燃料市場からロシア産化石燃料供給量のかなりの部分が蒸発する形になり、需給バランスは大きく崩れ、価格上昇が引き起こされた。

エネインフレでドイツに批判 ガス価格23年も上昇の可能性

EU内では、エネルギー問題を巡る分断がみられる。各国が化石燃料調達を競ったため、エネルギー価格は大きく上昇しインフレを引き起こした。多くの国は、ロシア依存度が約30%と高いドイツがエネルギーを買いあさっていると見ている。加えてドイツは2000億ユーロ(29兆円)の資金を調達し、ガス・電気料金の抑制を行う政策を9月末に発表したところ、資金調達能力を持つドイツの産業界のみが不当な競争力を付けると周辺国から非難を浴びた。

また、17カ国以上のEU加盟国は、天然ガス調達価格に上限額を設ける提案を行ったが、ドイツが「EU以外の国が高値で天然ガスを購入し、EUは数量を確保できない。消費削減意欲も削ぐ」と主張し反対したと報じられた。ドイツは天然ガスの共同購入を提案し、この方向でまとまることになりそうだ。EU内での競合を避けることは可能だが、アジアの需要家との競合は残ることになる。EUの天然ガス価格は、ロシアがノルドストリーム1からの供給停止を通告した8月末にはLNG換算1t当たり5000ユーロを超えた。10月中旬時点では多少落ち着いたが、それでも2000ユーロを超えている。アジア市場とは異なる動きを見せている。

EUでは、来年ロシアが天然ガス供給を途絶するとして「天然ガス2023年問題」が注目を浴びているが、石炭にも注意を払う必要がある。代替として石炭の使用量が増える中でロシアからの禁輸が始まったため、EU諸国はロシア炭と品位が似ている豪州、南アフリカなどからの買い付けを増やしているが、脱石炭により投融資が細った石炭の増産能力には限りがある。石炭価格は9月初旬、史上最高値を付け、その後は南アフリカの港湾ストもあり、1t当たり400ドル前後で推移している。

23年、化石燃料価格は高止まりし、物価、世界経済に大きな影響を与える可能性が高いと見た方がよいだろう。EU内の分断が意思決定に与える影響も注視する必要があるが、日本の発電量の3割を占める石炭の価格が日本経済に大きな影響を与える可能性があり、足元の心配もしなくてはならない。

やまもと・りゅうぞう 京都大学工学部卒、住友商事入社。2010年富士常葉大学総合経営学部教授。21年から現職。国際環境経済研究所所長も務める。

【マーケット情報/11月4日】原油混迷、方向感を欠く値動き


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物と、北海原油の指標となるブレント先物の価格が上昇。一方で、中東原油ドバイ現物は下落。経済見通しを背景に、強材料と弱材料が混在し、方向感を欠く値動きとなった。

米国の10月における非農業部門の雇用者数は、市場の想定を上回って増加。ただ、増加幅は2020年12月以来の最低を記録した。また、前月から失業率も上昇している。米連邦準備理事会による金利引き上げの影響とみられており、今後は引き上げのペースが落ちると予測される。これにより、経済の冷え込みに歯止めがかかり、石油需要が回復するとの見方が台頭した。

また、米国では製油所の稼働率が上昇。週間原油在庫の減少につながった。さらに、OPECプラスは2025年の石油需要予測に上方修正を加えた。

一方、中国一部地域における新型コロナウイルスの感染再拡大とロックダウンは、価格に対する下方圧力として働いている。経済減速や移動制限にともなう石油消費の減少が懸念されている。米ゴールドマンサックスは、中国経済の完全開放は来年夏になるとの見通しを公表した。

また、ノルウェー、ヨハン・スベルドラップ油田の出荷は、12月、過去最高となる見込みだ。加えて、米国は戦略備蓄(SPR)1億8,000万バレルの放出を完了。米バイデン大統領は、今後も必要に応じてSPRを放出するとしている。

【11月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=92.61ドル(前週比4.71ドル高)、ブレント先物(ICE)=98.57ドル(前週比2.80ドル高)、オマーン先物(DME)=92.24ドル(前週比0.01ドル安)、ドバイ現物(Argus)=92.28ドル(前週比0.40ドル安)