大切な家族をそっと見守る 「まもりこ」が提供する安心な暮らし


【中部電力】

中部電力と電気通信事業者のインターネットイニシアティブが設立したネコリコ。同社が2021年から提供している高齢者見守りサービス「まもりこ」が好評だ。

まもりこは、見守りたい家の冷蔵庫の側面や上面など、1日1回は開閉する場所に端末を設置する。端末には通信機能があるため、インターネット回線やWi―Fiは不要。設置場所がNTTドコモのLTEエリア内であれば、コンセントにつなげるだけで使える。見守る家族は、スマートフォンにアプリをダウンロードして利用する。

端末代金の1万3200円(税込み)でスタートでき、月額利用料は550円(同)。兄弟姉妹など複数人で見守りに参加しても追加料金はかからない。設置が簡単で低料金のため、まずは試してみたいという場合にも始めやすくなっている。

端末は朝・昼・晩の1日3回、ドアの開閉を基に状況を判定する。一定時間、ドアの開閉がないなど異常があった場合のみ、アプリに通知が届く仕組みだ。

スマホアプリからは、1時間ごとに更新されるドアの開閉時刻と、その時点の温度・湿度を確認することができる。見守る側、見守られる側双方への負担が少なく、「適度な距離感で、高齢者をそっと見守れる」と利用者から好評を得ている。

異常があった時だけアプリに通知が届く


法人も見守りに活用 派生したサービスが登場

まもりこには、オプションサービスの「まもりこビュー」がある。1ライセンス110円(同)の月額料金で、パソコンやタブレットなどからウェブブラウザを使ってデータを閲覧。異常通知はメールで受け取れる。不動産管理会社などから入居する高齢者の見守りに利用したいとの声もあり、提供を開始した。複数の高齢者の一覧表示や、データをグラフ化する機能などが備わっている。

地方では、まもりこから派生した新たなサービスが登場している。

福岡市東区のタクシー会社では、離れて暮らす家族が異常通知を受け、本人と連絡が取れない場合、ドライバーに確認訪問の依頼ができるサービスを開始した。

まもりこは地域ぐるみの見守りにつながり、離れて暮らす家族の安心に大きく貢献していきそうだ。

端末(右)とスマホ画面

22年度エネルギー決算の明暗 ガス好調も電力は総崩れの様相


主要エネルギー会社の2022年度連結決算は、前年度に引き続き電力とそのほかの業種で明暗が分かれた。

規制料金の値上げ改定を機に、大手電力は収益力を回復し財務基盤を立て直すことができるか。

電力、ガス、石油など主要エネルギー各社の2022年度(23年3月期)連結決算が出そろった。

大手都市ガス3社は、大阪がフリーポート液化基地の火災の影響で減益となった一方、東京、東邦の2社は売上高、最終利益ともに高い水準を記録。ENEOSホールディングス(HD)、出光興産、コスモエネルギーHDの石油元売り大手3社は、ガソリンなどの価格が上昇し全社で増収となったものの、下期に原油価格が下落基調となり備蓄石油の在庫評価損が生じたことや、過去最高益だった前期の反動もあって軒並み減益となった。岩谷産業、伊藤忠エネクス、日本瓦斯のLPガス3社は、資源高などを追い風に売上高、利益ともに好調に推移した。

主要エネルギー各社の2022年度連結決算

際立つ大手電力の苦境 8社が最終赤字に

前年度に引き続き、厳しい決算が際立ったのが大手電力会社だ。前年度は5社が最終赤字となったが、22年度は中部電と関西電を除く8社が赤字を計上。ロシアによるウクライナ侵攻などに伴い燃料費が高騰し、燃料費調整の期ずれ差損が拡大したことに加え、卸電力取引市場価格の上昇に伴う購入電力料の増加といった外的要因が重なったことが主な要因だ。

燃料費調整制度により、燃料費の上昇分は遅れて料金に転嫁できる仕組みではあるが、家庭用など低圧規制料金には急激な上昇による需要家への影響を緩和することを目的に調整上限(基準燃料価格の1・5倍)が設けられている。

昨年2月の北陸電以降、10月までに全社が上限に到達し、燃料費持ち出し状態となったことも業績に大きな影を落とした。既に完全自由料金に移行した都市ガス大手は、原料高騰に伴い上限を引き上げることができたわけで、事業環境の変化への柔軟な対応を阻害する規制の在り方に、改めて課題が突き付けられた形だ。

こうした中、唯一、経常・最終損益ともに黒字となったのが中部電。東京電との火力合弁会社、JERAのLNGスポット調達価格高騰という収益悪化要因はあったものの、期ずれ差損の縮小や、小売り会社の電源調達ポートフォリオ見直しなどによる市場高騰影響の抑制、規制のない高圧以上の顧客向けの料金適正化などに努めたことがプラスに働いたという。

23年度(24年3月期)はどうなるのだろうか。既に業績見通しを公表している中部、関西、九州の3社はいずれも大幅な増益を予想し、明るい兆しが見えている。期ずれが差損から差益に転じることが、業績を押し上げる大きな要因として考えられる。

ただし、燃料価格の水準は落ち着きを見せてはいるものの依然としてボラティリティは高く、電力事業の先行きに対する不透明感はぬぐい切れていない。それはつまり、今期の業績も外部環境次第だということだ。

【マーケット情報/5月26日】原油上昇、供給不足の見方台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油産業への過少投資の懸念が強まり、供給不足の見方が広がった。

OPEC事務総長が、最近の石油産業に対する過少投資を指摘。エネルギー安全保障や市場のボラティリティを抑制するためにも、投資を増やすよう促した。また、サウジアラビアのエネルギー大臣が、追加減産を示唆するような発言をしたことも、原油価格の上方圧力となった。

加えて、米国で債務上限を巡る議論に進展があり、楽観が広がったことも強材料となった。実際27日に、米大統領と共和党との間で、上限引き上げの合意に達している。経済の冷え込み、およびそれにともなう石油需要の後退を回避できる見通しだ。

供給面では、米国の週間在庫が減少。昨年11月以来の減少幅を記録した。需要増を背景に、ガソリン、軽油在庫も減少した。

一方、山火事の続くカナダ・アルバータ州では、一部で石油、ガスの生産が再開。ただ、弱材料とはならなかった。

【5月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=72.67ドル(前週比1.12ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.95ドル(前週比1.37ドル高)、オマーン先物(DME)=75.22ドル(前週比0.33ドル高)、ドバイ現物(Argus)=75.47ドル(前週比0.60ドル高)

【コラム/5月29日】新聞購読料の値上げから電気料金改定を考える~残る電力供給不安


飯倉 穣/エコノミスト

1,決着はしたが

電力会社7社の料金改定(電気料金値上げ)が、物価問題閣僚会議で了承された(23年5月16日)。半年に及ぶ申請・認可手続きであった。報道は伝える。「電力値上げ、来月14~42% 7社 夏控え家計負担さらに 政府補助9月まで」(日経5月17日)、「電力7社2000円~5300円上げ 標準家庭 来月から政府了承」(朝日同)。

規制料金(自由化過程で消費者配慮の経過措置)の値上げである。申請時、各社の22年度決算見込は赤字で、早急な対応が求められたが、申請・認可手続きは手堅いものだった。新聞購読料値上げを参考に、公共料金としての電気料金改定から電力事業の在り方を考える。

2,突然の値上げ

電力の規制料金値上げが話題となる中、年度初めにA新聞購読料値上げが報道された。「読者のみなさまへ 購読料改定のお願い 来月から月ぎめ4900円台に 文字を大きく 読み解き充実」(朝日2023年4月5日)。いとも簡潔な値上げ通知だった。読者は、一言近時の紙面構成・内容に注文を付けることも出来ず、購読取りやめの選択だけである。

3,新聞は準公共財か

新聞購読料は、不思議な市場価格である。民間企業が、製作し販売する。新規参入自由で、競争もある。市場経済に馴染む民間製作商品の典型である。ところが新聞業界の要望で、価格競争・乱売を防止する再販制度(販売価格指示と維持)と新聞特殊指定(値引き禁止・定価販売強制)で価格を維持している(公正取引委員会Q&A参照)。新聞販売の不公正取引として多様な定価、価格設定を挙げる。実に不可思議である。

戦後ドサクサの歴史的経緯もあるが、業界は、ユニバーサル・サービス維持、宅配制度維持、寡占化による多様な情報機会の低下防止を主張する。その根拠に言論・出版の自由(憲法21条)や権力批判の大切さも言われる。又新聞業界の不思議な雇用構造の維持を考える人もいる。新聞はインテリが作り、○が売り、△が配るという言葉を思い出す。ひと昔前(押し紙が話題の頃)なら、発行部数約50百万部、4万人が新聞を作り、様々な40万人が販売・配達していた(22年現在発行部数30百万、製作3.6万人、販売従業員23.4万人:日本新聞協会)。大いに社会・雇用安定に貢献していたし、今も期待願望はある。これらの事情を考慮すれば独禁法適用除外もむべなるかな。

4,紙面の質を問いたい

ただ今回のA新聞の値上げは、電力料金と違い、コスト関連の数字的根拠の情報公開なく、説明・解説も通り一遍である。値上げ理由は、コスト削減実施ながら、原材料、経費増加、報道の質を維持、安定発行のためと弁明する。

新聞特殊指定の理由として、紙面の質がある。新聞も商品である。前回の値上げ以降商品の質は上がっているか。報道内容や説明・解説に知的工夫があるか。文字を大きくしただけでは、質の向上とは言えない。新聞離れ対策は、自紙の商品価値の向上が第一である。

次代を創る学識者/山口順之・東京理科大学電気工学科教授


電力システムの制度設計は複雑化し、解決すべき課題は山積みだ。

電気工学の領域から課題解決に貢献するべく、研究活動に取り組んでいる。

 太陽光や風力などの自然エネルギーで発電すれば多くの人が喜ぶのに、なぜ大規模集中電源が選択されているのか。自然エネルギーを導入拡大するためには、どのように電力システムに接続していけばよいのか―。

そんな素朴な疑問を持ったことをきっかけに、大学4年の研究室配属の際に、電力システム工学の研究の道を選んだという東京理科大学工学部電気工学科の山口順之教授。以降、再生可能エネルギーの大量導入やマートグリッドの実現に向けた研究に携わり、電力システムの課題を解決する方法を探求し続けている。

高校の物理教師か研究者になりたいと、北海道大学理Ⅰ系に進学。同大大学院で博士号を取得後は、電力中央研究所研究員として13年にわたって電力自由化に関する調査やデマンドレスポンスの研究調査を手掛けた。そして15年に、公募により東京理科大の講師に転身。この4月に教授に就任した。

4年生の後期に3年次からため続けたレポートを駆け込みで提出するなど、「成績はワースト4位に入るような不良学生だった」と、学部生時代を振り返る。それが大きく変わったきっかけは、研究室に配属されたのを機に、自ら設定したテーマで研究に没頭できるようになったことだ。

修士課程では、米PJM(米国北東部地域の地域送電機関)が行っているような地点別電力価格の概念を拡張し、算出するプログラムを自らの手で構築した。「停電が起きないよう、信頼度を確保するための価格を乗せて算出した結果、理論通りの価格が出た時は本当にうれしかった」という。

とはいえ、当時は電力自由化の情報収集や問題背景の理解に四苦八苦し、論文を書くことには苦労があったのも事実。指導教官であった北海道大学大学院北裕幸教授の忍耐強い指導と、自由な研究ができる環境があったからこそ研究者としての今があると、感謝しきりだ。

その経験からか、指導する立場となった現在は、学生たちがのびのびと学んだり研究したりできる環境づくりに心を砕いている。「鉄は熱いうちに打てと言うが、熱くならなければ打ってはいけない」と教育者としての持論を語る。

電力システムの課題解決へ さまざまな選択肢を提示

今、電力システムの制度設計はますます複雑化し全体像の把握が難しくなっている上に、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの大量導入や脱炭素燃料の開発、エネルギーセキュリティ、価格ボラティリティへの対応など、研究を始めた当初にはなかった課題にも直面している。

「エネルギーは社会全体で取り組むことであり、高価であったり無理を強いたりするようでは、どんなに理想的な目標であっても達成することはできない。研究を通じてさまざまな選択肢を社会に提示し、全国大の電力システムの問題解決に貢献していきたい」と、強い意欲を見せる。

やまぐち・のぶゆき 2002年北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻博士課程修了、 電力中央研究所研究員。 08年、米国ローレンスバークレー国立研究所客員研究員兼務。15年東京理科大学 講師、准教授を経て23年4月から現職。総合資源エネルギー調査会系統WGグループ委員。

【メディア放談】カルテルの衝撃 電力は独禁法をどう見ていたか


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

今年はオイルショックから50年だが、エネルギー報道はカルテル問題に集中している。

電力間の合意については見解の相違があり、真相は「やぶの中」の感が強まっている。

―今年は第一次オイルショックから50年。エネルギー情勢が緊迫化する中、特集があってもいいはずだが。

電力 40周年の時は中東問題の専門家らが主催して、東京で記念の会合を開いた。元関西電力会長の小林庄一郎さんや元通商産業事務次官の小長啓一さんがスピーチに立っていた。

ガス もうOBにも実際に経験した人が少なくなっている。ましてほとんどの新聞記者は、何のことか分からない。単に「歴史の一幕」として扱われるんじゃないか。

石油 オイルショックとは直接関係はないが、3月に公正取引委員会が電力カルテル問題で中国、中部、九州の各社を「クロ」と判断して、石油闇カルテル事件を思い出した。

―オイルショックに乗じて石油元売りが製品の一斉値上げで合意したことが独禁法違反にあたり、各社が起訴された。通産省が行政指導で引き上げ額の上限を決めていたことも問われた。

石油 「カルテル」とマスコミに報じられると、世間は「業界が談合して暴利をむさぼっている」と見る。石油業界はしばらく世間から袋叩きにあった。結果として最高裁でも有罪となり、業界が信頼を取り戻すには、長い時間がかかった。

石油闇カルテルの教訓  不可解な中国電トップ人事

―ゼネラル石油の社内文書がオイルショックに伴う値上げについて、「千載一遇のチャンス」と書いていたことが分かって、騒ぎになっている。

石油 それでゼネ石の社長は辞任に追い込まれている。不思議なのは、それだけ独禁法、カルテルが怖いものでありながら、電力会社が手を出したことだ。大手電力の社員は優秀。小売り自由化が始まってから営業部門は当然、独禁法についても勉強していたはずだ。それがなぜ、だ。

マスコミ 部外者だから真実は分からない。ただ、カルテルがあったとされる時期は、東京電力の子会社の進出をきっかけに競争が異常に過熱して、電源の固定費を回収できないほどにまで価格が下がっていた。

中部電力や中国電力の営業担当者の立場になって考えると、関西電力の担当者から、「もう価格競争はいい加減にしませんか。うちはお宅の地域から撤退します」と声を掛けられたら、どうしたかと思う。「分かりました」はともなく、はっきり「ノー」と言わず、「そうですね……」と言葉を濁していたかもしれない。

―確かに真相はまだ未解明で、中部電力、中国電力は課徴金の納付命令について取り消しを求めて提訴する方針だ。

電力 解せないのは、中国電力が提訴を検討しながら、瀧本夏彦社長、清水希茂会長の辞任をいち早く決めたことだ。中途半端な対応で、中部電力の関係者は「想定外だった」と話していた。

ガス ただ、関電と中国電力を担当した記者が、「中国電力は正直な会社だ」と言っていた。瀧本さんは辞任の理由を問われ、2017年に自分が営業に関わっていたことを理由に挙げている。

一方、関電は22年6月に森本孝社長が退任する際、会見で理由を問われると「若返り」を理由にしていた。森本さんがカルテルに深く関わっていたことは当然、分かっていたはずなのに、だ。

マスコミ この件で関電は業界内で集中砲火を浴びて、世間からも白い目で見られている。リーニエンシーをするからには、それだけの覚悟はあっただろう。ただ、申告は課徴金を逃れるためではなく、純粋に「こういうことは良くない」と社内で自浄作用が働いた結果とも考えられる。すると4~5年経った時、世の中の評価は違うものになっているかもしれない。

―カルテルについて報道はどうだっただろうか。

ガス 電気新聞が一歩抜き出ていた。独禁法分野の弁護士や学者を登場させて、業界に苦言も呈している。今まで腰が引けていた感があったから、殻を少し破ったと思った。

敦賀2号の審査再中断  気を吐いた産経「主張」

―原子力に話題を移すと、審査資料の不備で敦賀2号の審査が再び中断された。マスコミは日本原電に厳しい目を向けている。

電力 審査資料の「書き換え」問題に続いて2回目の中断で、原子力規制委員から審査の打ち切りを示唆する発言もあったので、新聞各紙はかなり大きく取り上げた。

だが、敦賀2号機の断層の審査について書くなら、本来ならば規制委が発足させた有識者会合にまでさかのぼる必要がある。これまで国の安全審査に呼ばれなかった反原発色の強い変動地形学者などが参加して、「活動性は否定できない」と結論づけた。そこまで報じるマスコミはなかった。

マスコミ その中で産経だけが気を吐いている。主張(4月11日)で、規制側の対応を「健全な評価プロセスから逸脱している」と批判した。最初の中断の理由となった「書き換え」についても、19年10月の審査会合で規制側が「きちんとした形で更新して、最新の形で審査資料として提出」を求めて、それに原電が応えたのに、逆に問題視されてしまったことが原因だと指摘している。

―そこに触れたメディアはなかったはずだ。

マスコミ 産経でなければ書けなかっただろう。規制庁に行くと分かるが、詰めているのは規制側の「御用記者」ばかりで、電力会社・原発=悪という構図でしか見ていない。だから、いつも皆同じような記事しか書かない。

―明治維新から150年経っても、この国にはまだ「お代官さま」がいる。

【田野瀬 太道 自民党 衆議院議員】 「首都機能移転の息を吹き返す」


たのせ・たいどう 1974年生まれ。99年早稲田大学第二文学部卒。田野瀬良太郎衆院議員秘書、社会福祉法人理事長などを経て、2012年衆院議員(旧奈良4区、現3区)。文部科学・内閣府・復興大臣政務官、文部科学副大臣兼内閣府副大臣、自民党国会対策副委員長などを歴任。当選4回。

自民党総務会長も務めた父・田野瀬良太郎氏の後を継ぎ政治の道を歩む。

文教政策や林業振興による過疎化対策など、幅広い分野でエキスパートを目指す。

政治家としてのキャリアは衆議院当選4回だが、永田町での生活は長い。1993年、父・田野瀬良太郎氏が衆院に初当選。ちょうど早大進学で上京する時期と重なり、議員宿舎で父親と寝食を共にし、秘書を務める。秘書生活は父親が政界を引退するまで、約20年に及んだ。

もっとも、政治との関わりは生まれ育った奈良県五條市での幼少時からだ。名古屋工業大学を出てサラリーマン生活を送っていた良太郎氏は、「故郷を良くしたい」と一念発起。73年、五條市に戻り市会議員に立候補する。以来、良くも悪くも政治は身近な存在だった。

早朝の政務調査会に始まり、議会に出席し地元の陳情を受け付け、役所との交渉やさまざまな打ち合わせを行う―。秘書から見て、国会議員のハードな仕事は想像を超えた。地方政界で苦労を積んだ父親の姿から、もともと距離を置いていた政治の世界。将来、後を継ぐ考えはなく、良太郎氏も進路について言及することはなかった。

だが、秘書として経験を積み、さまざまな人との出会いを重ねるうちに、「これほど人のためになる仕事はない」と思い始める。地元に保育園を開き、後に西大和学園を設立する良太郎氏は教育を重視し、文部科学行政に力を注いだ。一方、日朝国交正常化に力を入れ、日韓議員連盟にも所属するなど隣国との関係構築に功績を遺した。黙々と国と地元のために働いた父親の背中を見て、後継者として出馬の意向を固めるようになる。

世襲批判を跳ね返し初当選  恵まれた環境を生かすために

初の選挙となった2012年衆院選は、民主党政権(当時)の野田佳彦首相が「世襲批判」を展開。しかし50%を超える得票率でトップ当選を果たし、批判を跳ね返している。

「お前が田野瀬さんの息子か」。議員バッジを付け登院すると、こう先輩議員から声を掛けられた。官僚にも顔見知りが多数いる。政治活動のスタートを行う上で恵まれた環境だったが、それはプレッシャーにもなった。「ほかの議員と同じように働いていてはいけない。1.5倍のペースで仕事をしないと、恵まれた環境を生かせられない」。地元に帰り支持者が集う会合に出ると、さまざまな質問や依頼を受ける。「その分野は分かりませんとは答えられない」と、あらゆる政策について把握するため、初当選以来、資料に目を通し専門書のページを開く日々が続いている。

とはいえ、特に力を入れている分野もある。まず少子化対策と文教政策。「急速な人口減少に歯止めをかけなければならないが、それには時間がかかる。その間は教育をより充実させて、一人が1.5~2人分の生産力を持つようにしなければいけない」。良太郎氏が特に注力した教育の分野。そのバトンをしっかり受け継いでいく考えだ。

次に科学技術政策。もともと、ものづくりで経済大国になった日本。成長率が伸び悩む中、科学技術の力で国を発展させるしかない。「宇宙や海洋資源の開発、バイオテクノロジーやナノテクノロジーなど、全般的に技術力を上げなければいけない」。エネルギーでは、発電と水素製造を行える高温ガス炉に期待を寄せる。文部科学大臣政務官としてポーランドを訪問した際は、自ら日本製の高温ガス炉の性能を説明。先方から「共に開発しよう。将来は20基を日本から買いたい」との言葉を引き出した。また、ペロブスカイト太陽光発電などの新技術に注目。国産再エネの実装を目指す議員連盟の事務局長も務める。

森林・林業の振興による過疎化阻止も大切なテーマだ。故郷の奈良県は県土の約8割を山林が占め、選挙区の3区ではその割合が9割程になる。「地方から人が離れるのは仕事がないため。農家林家をつくり、都会の人たちに来てもらいたい」。こう話すが、歯がゆいのは山が大事という国会議員が少ないことだ。山林が「緑のダム」として水源の役割を果たしていること、また貴重なCO2吸収源であることを訴え続けている。

首都機能移転はライフワークにしている。1992年、「国会等の移転に関する法律」が成立。99年には有識者会合が移転先として、栃木・福島、岐阜・愛知、三重・畿央の3地域を選定している。しかし、選定と同時に「誘致合戦」が勃発。移転は事実上、氷漬けの状態にある。

東京、大阪などに若者が集まるのは、地方から人を吸収しているためだ。「これを是正しなければ、地方は荒れ放題になる」。危機感は強く、首都機能の移転を都会への人口集中を止めるシンボルとして捉え、「氷結した法律を電子レンジに入れて、息を吹き返させる」と力を込める。

座右の銘は「為せば成る」。取り組むのは重い課題ばかりだが、父親譲りなのか、絶やさない笑顔に強い自負心がうかがえた。

LNG未利用冷熱を活用 「知多クールサーモン」実証


【エネルギー企業と食】東邦ガス×サーモン養殖

エネルギー企業は地域密着という事業の性質上、食分野との関わりが深い。食文化や地域産業への貢献は、かねて重要なテーマの一つだ。今号から連載で、食関連事業の取り組みを紹介する。

LNG未利用冷熱で冷却した海水を使い、陸上養殖実証事業を展開する
提供:東邦ガス

LNG未利用冷熱の歴史は意外と古い。1984年には冷熱を利用したドライアイス製造に関する論文が発表されるなど、その用途拡大は積年の課題だ。

東邦ガスでは、夏場の生育が困難なサーモン養殖に注目。温度が低下した海水でサーモンの飼育、出荷を目指した実証実験を大手水産会社、ニッスイと進めている。「地域のエネルギー会社として社会課題の解決や地域振興に貢献できることがあるという思いから生まれた」と、同社事業開発部の嶋野純・次長は話す。養殖には「かけ流し式」を採用。LNG気化器を通した低温海水を直接水槽に取り込む手法で、ランニングコスト面で優れるのが特長だ。

2019年から実証実験を開始したが、国内ガス事業者として初の陸上養殖に取り組んだこともあり、最初は試行錯誤の連続だったという。四つの容量1tの水槽で計100尾程度の飼育から始まり、ガス会社ならではの導管設備や水流解析といった技術も生かした。「水槽内の酸素濃度維持からサーモンを成長させる餌のやり方まで、トライ&エラーを繰り返し、ノウハウを得ることができた」(嶋野次長)。21年11月、知多緑浜工場の敷地内で、直径10mの大型水槽を設置。実験の過程で運営手順や設備コストなどの課題も出たが、着実に成果を出した。

こうして生育したサーモンを「知多クールサーモン」として、東海地方の大型スーパーなどに2tほど出荷した。このサーモンは通常と比べさっぱりとした味わいで、老若男女問わず好評。昨年6月の水揚げには多くの報道陣が訪れ、実証への関心の高さをうかがわせた。今後は知多市のブランドを生かしながら、地域貢献につなげたい考えだ。また5月から予定している今年度のサーモン出荷目標は約10tで、大きさも昨年の1.5㎏から1.8㎏程度への大型化を目指すとしている。

将来は大規模な事業化で、エネルギーの効率的な活用と海洋資源保護への貢献を狙う。「最終的にはパッケージ化することで、各地のLNG工場で養殖産業を展開できれば」と嶋野次長は展望を語る。需要の高まりから世界でサーモン獲得競争が起きる中、日本の都市ガス工場で元気に泳ぐ数多くのサーモン。「クール」な味わいを各家庭で堪能できる日は近い。

困難増す原発新増設での資金調達 投資を誘引する合理性と信用力


【多事争論】話題:原子力発電所の建設

2050年カーボンニュートラル達成に原発新増設が柱の一つに位置付けられた。

しかし投資資金の回収に不確実性がある中、さまざまな支援策が欠かせなくなっている。

〈  プロジェクトに合理性はあるか 鍵握る収益見通しの「現在価値」〉

視点A:荻野零児 /三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニアアナリスト

原子力発電所の新増設の資金を民間から調達する場合には、民間企業のプロジェクト投資に関する評価方法で同事業が合理的と判断されなければならない。本稿では、電力会社などの上場会社が革新軽水炉を建設するケースを想定し、株式市場の注目点を説明する。

政府GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針(2月閣議決定)の参考資料によると、次世代革新炉の例として、革新軽水炉、小型軽水炉、高速炉、高温ガス炉、核融合が挙がっている。これらの中で、最も早く商用炉の実現を目指しているのが、革新軽水炉(製作・建設の目標時期は2030年代)である。

30年代に電力会社による革新軽水炉の建設が具体化する場合には、その建設コストや運転による経常利益への影響は、現在の原子力発電事業のように大きいであろう。このため、株式市場での革新軽水炉の建設計画への注目度はとても高くなると考える。

上場会社である電力会社は、東京証券取引所の定めたコーポレートガバナンス・コードの原則に基づいた経営が求められている。株式市場における電力会社と投資家とのエンゲージメントに関して、同コードの原則5―2(経営戦略や経営計画の策定・公表)を次に紹介する。

原則5―2によると、上場会社は自社の資本コストを的確に把握した上で、収益計画や資本政策の基本的な方針を示すとともに、収益力・資本効率などに関する目標を提示し、その実現のために、事業ポートフォリオの見直しや、設備投資・研究開発投資・人材投資などを含む経営資源の配分などに関し具体的に何を実行するのか、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべきである。

不確実性高い革新炉のプロジェクト  株主に収益力・資本効率の説明を

ここでは、原則5―2の①資本コストと収益力・資本効率など②株主への分かりやすい言葉・論理で明確に説明―に着目する。

革新軽水炉のプロジェクト(建設、運転、廃炉)の期間は、一般的な民間プロジェクトよりも長期間となり、その分、事業環境の不確実性は高く(リスクが高く)なるだろう。

民間企業がプロジェクトへの投資を検討する時の一般的評価方法にNPV法がある。NPVとは、Net Present Valueの略称であり、日本語では正味現在価値法である。NPV法は、①そのプロジェクトへの投資金額、②同プロジェクトの運営による将来の収益見通し(例:フリーキャッシュフロー)の現在価値―の合計を比較する手法である。評価対象の投資プロジェクトのNPVがプラスである場合には、収益性があると判断され、NPVがマイナスである場合には収益性がないと判断される。

ここでのポイントは、プロジェクトの将来の収益見通しの「現在価値」の計算が重要なことである。現在価値とは、将来の収益見通しに関する現時点の価値である。ファイナンス理論では、将来のことはリスクがあるため、将来の収益100億円(見通し)の現在価値は、100億円よりも低く評価される。現在価値を計算する時に使われる割引率の計算式は無リスク金利+リスクプレミアであり、それで計算した負債コストと株主資本コストを加重平均したWACC(加重平均資本コスト)が採用されることが一般的である。例えば、割引率を5%とすると、10年後の現金100億円(見通し)の現在価値は61億円と計算される。

革新軽水炉のプロジェクト期間中に、事業環境が変化して、建設または運転が計画外に停止するリスクは十分に考えられる。特に、原子力発電事業は、他の発電方法(火力発電など)と比較して、政治、行政、司法による影響が大きいと考えられる。例えば、日本政府または地方公共団体の政策変更により、革新軽水炉が一時停止するリスクシナリオを考慮する必要がある。現在価値の考え方では、革新軽水炉の数年間の計画外停止の後に、通常運転に回復したとしても、年数が経過した分はプロジェクトの現在価値は低下する。

コーポレートガバナンス・コードの原則5―2に基づくと、株式市場に対して電力会社が革新軽水炉の投資計画について情報発信する場合には、革新軽水炉の事業環境の不確実性への対応策について「分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うべき」である。

GX実現に向けた基本方針の参考資料には、革新軽水炉などの開発・建設を行う事業環境整備の必要性が明記されている。上場企業である電力会社が革新軽水炉に投資する場合には、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードに対応できるような事業環境整備が重要と考える。

おぎの・れいじ 1998年国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社。2001年から企業調査課で電力・ガス・石油セクターを担当。

【需要家】C&T制度と炭素税 脱炭素に向けた公平負担


【業界スクランブル/需要家】

3月末の省エネルギー小委員会の中で、家庭ごとのキャップ&トレード(C&T)制度実現が望ましいとの意見があった。家庭部門の2030年度削減目標は66%削減であり、8年後のストック排出量の大幅削減には、現状の経済活動や新築住宅対策(住宅着工数は86万戸であり、8年分でも国内世帯数の1割程度)での達成は不可能だ。よって、既存住宅、および「大多数の経済性優先家庭」への強力な対策が不可欠だ。

C&T制度は、炭素削減の経済性向上と炭素排出量に応じた公平なコスト負担を実現できる良い制度だが、制度運用コストを考慮すると、一定規模事業者までが限界で、一般家庭では炭素税により脱炭素社会移行コストを賄うことが適切である。また、炭素税なら消費財購入の炭素排出責任にも適切に対応できる(輸出入調整は必要)。

日本の脱炭素追加コストは実質的に再エネ賦課金で賄われており、暖房や給湯にガスなどの燃料を使用する家庭より、炭素排出が少ない電化機器を導入した家庭の方が、負担額が多くなっている。

この、逆進性に似た不公平負担を解消する効果もあり、ドイツでは22年から再エネ賦課金の電気料金加算を廃止し、連邦予算と排出量取引収益によるエネルギー・気候基金から当該コストを賄っている。

日本でもGX推進法により、28年度から化石燃料賦課金がスタートする見込みである。再エネ賦課金も含めた炭素削減政策費用を当該財源に移行し、各家庭の実排出量(電力メニューと燃料の実排出量計)に応じた、「より増大せざるを得ない炭素削減政策費用」の公平負担の実現、および「脱炭素行動の経済性向上」を図ることこそが、最終的な国民負担が少ない合理的な政策手法である。(T)

【再エネ】東京都に続き川崎市も 住宅PV義務化進むか


【業界スクランブル/再エネ】

3月中旬、「東京都に次いで川崎市が戸建住宅へのPV設置義務化」と報じられたが、「義務化」の意味が不正確なので経緯を整理する。2021年に3省合同の脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策のあり方検討会で、住宅用PV義務化の議論が行われた。だが、結論は「将来におけるPVの設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取り組みを進める」との内容にとどめた。議論も「義務化すると個人の負うリスクが顕在化する」など、個人に義務を課すことの是非が焦点となっている。

一方、川崎市の条例改正の内容は、①大規模な建築物を新増築する建築主へのPVなどの設置義務、②中小規模の建築物を市内に年間一定量以上建設する建築事業者へのPV導入義務、③建築士に対する説明義務、④誘導支援の枠組みの創設―である。住宅購入者ではなく、住宅建築事業者が一定の義務を負い、東京都の義務化も同様だ。こうした違いを明確にせず「義務化」だけが先行し、希薄な議論が行われていると感じる。

さて、本題の「義務化は進むのか」であるが、行政がPV・建築関係事業者に対して、住宅購入者にPV設置を誘導するよう何らかの義務を負わせる措置については、東京都、川崎市の先行事例が他自治体へ普及・拡大すると想定される。設置者に直接支払う補助金のような財政負担がないことも行政側にとっての魅力だろう。逆に前述の検討会で議論されたように、住宅購入者に直接義務を負わせるような義務化は時期尚早だろう。

50年カーボンニュートラル実現に向けて、あらゆる消費財のコストアップや使用制限が個人の自由よりも優先され、社会的に容認される時期まで待つ必要があるのではないか。(Z)

CO2ネットゼロ社会の実現へ 脱炭素化をテクノロジーで加速


【エネルギービジネスのリーダー達】青井 宏憲/booost technologies 代表取締役

CO2排出量の可視化にとどまらず、企業のESG経営をサポートするサービスを展開している。

テクノロジーで企業の脱炭素化を支援することで、持続可能な社会の実現を目指す。

あおい・ひろかず 2010年大阪府立大学卒、東証一部コンサルティング会社に入社、スマートエネルギービジネスチームのリーダーとして、創エネ、省エネ、エネマネなど脱炭素化のソリューションを手掛ける。15年4月booost technologiesを設立、代表取締役に就任。

パリ協定が採択され、温室効果ガス(GHG)削減への機運が世界的に高まった2015年、クライメートテック企業として創業した「booost technologies(ブーストテクノロジーズ)」。青井宏憲代表取締役は、「CO2排出量は年々増加している。持続可能なCO2ネットゼロの未来を実現し、1.5度シナリオを達成するには、テクノロジーで取り組みを加速させるしかない」と使命感を燃やす。

四つのサービスを展開  サステナビリティ経営を加速

同社はこれまで、国内外に多くの支拠点を持つ大企業を対象に、CO2フリー電気の調達や供給を可能とするクラウド型のエネルギーマネジメントシステム「ENERGY X」と、CO2排出量を可視化するツールとして「ENERGY X GREEN」の二つを提供してきた。

だが、今やこうした大企業にとっての経営課題は、CO2排出量の可視化・削減といったGHGの管理のみならず、ESG(環境・社会・ガバナンス)全般の管理にまで広がっている。

そのニーズに対応するため今年2月には、「ENERGY X」を「booost Energy」に、「ENERGY X GREEN」を「booost GX」にリブランドするとともに、ESGに関するデータを収集・管理する「booost ESG」、サプライヤーを含むCO2排出量の一次データを管理する「booost Supplier」を追加。この四つをトータルで「booost Sustainability Cloud」と名付け、企業のサステナビリティ経営を加速させるための脱炭素化プラットフォ―ムとして提供を始めた。

グループ会社や国内外の拠点、サプライヤーを含むサプライチェーン全体のCO2排出量とそれ以外の環境対応の見える化、さらには、人権や調達リスクの管理といったガバナンスの見える化によって、ESGに取り組む効果を的確に企業価値向上につなげることが、同クラウドサービスの開発コンセプトだ。

CO2排出量の可視化サービスを提供しているライバル会社は複数存在しているが、「大企業のサプライチェーン全体のESG情報を含め、トータルで管理できることは当社の大きな強み」(青井代表取締役)とし、企業間の排出量データ交換の国際的な方法論、技術要件の構築にも携わるなど、国際的な規格に準拠することで海外サプライヤーが多い企業でも安心して利用できることも、選ばれる要因だと自負する。

実際、同社のユーザーはIT大手のZホールディングスや流通大手のイオンといった大企業が多く、顧客企業の累計GHG排出量は年間約8000万tにものぼる。国内排出量はおおよそ11億5000万tだというから、そのうち7%ほどの排出管理を担っていることになる。

親族に会社経営者がいることもあり、子供のころから将来、自ら会社を立ち上げて事業を手掛けることを思い描いていたという青井代表取締役。「これだ」というビジネスの種を見付けられないまま、大学卒業後は大手コンサルティング会社に入社。そこで出会ったのが、スマートエネルギービジネスだった。

脱炭素化の機運高まり  CN宣言が大きな転機に

エネルギーシステムのスマート化はグローバルな動きであり、社会性が高くマーケットも大きい。さらに、入社1年目の3月に東日本大震災が発生。その際、支援のために現地入りした同僚が滞在した家庭には、太陽光発電やエコキュート、蓄電池が導入されていて、電力不足が深刻な中でも生活に全く困らなかった―。そんな経験談も、エネルギーを一生の仕事にしていこうという決断を後押ししたという。その後退社するまで、創エネや省エネ、脱炭素化のためのエネマネに関する知見を積み上げた。

15年に独立し起業。当時はもう少し早い段階で今のような脱炭素化のムーブメントが起きると見ていたが、法人向けビジネス立ち上げは、20年の菅義偉前首相によるカーボンニュートラル(CN)宣言を待たなければならなかった。

実は、ちょうどそのころ同社では、電気やガスといった日常で使用するエネルギーにまつわる一般消費者向けのサービスのリリースに向けた準備が佳境を迎えていた。しかし、CN宣言を受けて即座に一般消費者向けサービスの計画を中止し、法人向けサービスであるCO2排出量の可視化サービスの提供に大きくかじを切った。ようやく訪れた脱炭素の機運に、柔軟に事業のベクトルを合わせたのだ。この決断が今に至る同社の道のりを決定付ける転機となった。

同社のサービスは、既に235の国や地域ごとの排出量管理と25言語に対応しており、将来は本格的な海外展開も視野に入れている。企業経営にとってなくてはならないテクノロジーパートナーとしての存在感を高め、持続可能な社会の実現に貢献していきたい考えだ。

EV界の「アンドロイド」 中国BYDが日本上陸


【どうするEV】陰山惣一/『Eマガジン』編集長

4月7日、中国の電気自動車大手BYDが2023年にテスラの販売目標である180万台を上回って、EV販売で世界首位になる可能性があると日本経済新聞が報じた。同月4日には「BYD AUTO 東名横浜店」で同社日本初の乗用EVとなるATTO 3(アットスリー)の初納車式を開催。話題となっているBYDの魅力をATTO 3納車第一号オーナーに尋ねてみた。

話をうかがったのは旧車をEVに改造するコンバートEVを手掛けるOZモーターズの代表、古川さん。テスラオーナーでもある彼は18年にBYDの本社工場を視察。最新のブレードバッテリーを体感したいということから、ATTO 3を誰より早く購入したという。

ATTO3と納車第1号オーナーの古川さん

「テスラはiPhone、BYDはAndroid。一言で表すならそんな感じですね」とは古川さん。テスラ・モデル3は発売されたときに「まるで走るスマホ!」といった評価が多く見受けられた。iPhoneが携帯電話の在り方を変え、他社が似たようなスマホを次々と誕生させたように、EVではテスラがクルマの在り方を変え、新興EVメーカーがテスラをベンチマークにして開発を行っている。

ちなみに古川さんはかつてiPhoneを使用していたが、現在はファーウェイのAndroid機を愛用。「ファーウェイのP30proはiPhoneと同じような性能なのにコスパがよく、搭載カメラはライカで写真もキレイ。性能、価格、デザインのバランスで選んだ結果なんですよね」と語る。主要OSの割合は日本でiOSが67.11%、Androidは32.76%だが、世界を見るとiOSが26.98%でAndroidが72.37%と後発であるAndroidのシェアが圧倒的だ(アウンコンサルティング調べ)。

古川さんはATTO 3が納車された後、横浜から名古屋間を無充電で350km走破したそうで、省エネ走行をすれば400kmは走りそうとのこと。同車カタログ値の航続距離は470km(WLTC)と記載されているが、EVは現実的にその7~8割程度が実質的な航続距離と言われており、現在販売中のEVで400kmを無給電で走れる車種は限られている。

ATTO 3のインテリアは、未来的でテスラのように中央にタッチパネルをレイアウト。先進運転支援システムにアラウンドビューモニター、ドラレコ、サンルーフなどフル装備で税込価格440万円。国からの補助金85万円を引くと355万円で購入できる。

「スタイリッシュで性能も良いiPhone。最先端でクリエイティブなテスラ。iPhoneやテスラじゃないと! という層はいますが、3分の2ぐらいの値段で同じようなものが手に入り、多くの人が『これでいいじゃん』って気付いた時に、あっという間にブレイクスルーしちゃう気がします」(同)

Androidユーザーの皆さま、もしかするとスマホ同様、ATTO 3の性能、価格、デザインのバランスがハマるかもしれませんので、気になる方は一度試乗をしてみてください。

かげやま・そういち  『世田谷ベース』などライフスタイル誌の編集長を経て、EV専門誌『Eマガジン』を創刊。1966年式の日産・セドリックをEVにコンバートした「EVセドリック」を普段使いしている。

【火力】野球から考える 同時同量の難しさ


【業界スクランブル/火力】

今年の春は、ワールドベースボールクラシックで大いに盛り上がった。侍ジャパンは各選手が持ち味を発揮し、米国との決勝戦では、最後に投打二刀流の大谷選手が米国主将のトラウトを三振に切り、14年ぶりに世界一の座を奪還した。

大谷が最後に投じたスライダーは、球速143km/時で、曲がり幅は43‌cmにもなり、好打者トラウトのバットは空を切ることになったのだが、この魔球のような変化球を中村捕手はどうして事もなげに捕球することができるのだろうか?

当たり前のことであるが、捕手はサイン交換によってあらかじめどんな球種が投げられるのかを事前に知っている。もし、サインミスがあれば、プロであってもボールを逸らさずにキャッチするのは至難のことになる。

この話と電気事業に何の関係があるのかと思われるかもしれないが、電気事業における「同時同量」は、刻々と変化する需要と供給を一致させるべく、延々とキャッチボールを続けるようなもので、難易度はさらに高いと言ってよいのではないか。

以前の垂直統合の仕組みであれば、発送小売の間での情報共有に何の支障も無かったが、送配電を分離し、市場を介してのやり取りとする場合、適正な競争環境を作るのみならず、エラーをしない(停電しない)制度を作りこむのは大変難しい。

現在佳境を迎えている「あるべき市場の検討会」では、ユニット起動費、最低出力コスト、限界費用カーブの三つの情報を一斉に伝えるスリーパートオファー方式が有力視されているが、火力発電設備の特性は三つの情報に集約できるほど簡単なものではない。発送分離が徹底される中、発電設備に対する知識不足により、停電に至らないまでも非効率な運用になるのではと危惧を深めている。(N)

【マーケット情報/5月19日】原油上昇、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。需給逼迫感が、経済減速にともなう需要後退の懸念を上回った。

国際エネルギー機関は、今年の世界需要予測を上方修正。中国需要の想定以上の回復が背景にある。また、米国政府は近く、戦略備蓄の積み上げを開始する計画。最大300万バレルのサワー原油を調達する見通しだ。供給面では、カナダ・アルバータ州で山火事が続き、最低でも日量36万7,000バレル原油相当の生産が停止している。

一方、米国では、失業保険の申請件数が予想を下回る水準で下落。労働市場の過熱が続いていることを示唆し、米連邦準備理事会が再度利上げをする可能性が台頭。価格上昇を幾分か抑制した。加えて、同国では、債務上限を巡る議論が続く。協議は難航しており、デフォルトに陥るとの懸念が強まっている。

【5月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.55ドル(前週比1.51ドル高)、ブレント先物(ICE)=75.58ドル(前週比ドル1.41高)、オマーン先物(DME)=74.89ドル(前週比1.51ドル高)、ドバイ現物(Argus)=74.87ドル(前週比1.28ドル高)