内燃機関の活用を 世界がEVシフトに待った!


【どうするEV】加藤康子/産業遺産情報センター長

時代の潮流の先に電気自動車(EV)社会があると決めるのはまだ早い。モビリティの選択を決めるのはユーザーであり、政治ではない。現に米国や欧州連合(EU)で政府はEVを支援しているが、売上は頭打ちで、自動車メーカーの多くが市場のニーズに応えるため内燃機関への投資を増やしている。

先進国では独自にEVの普及目標を設定しているが、これは事実上G7広島サミットの共同声明で覆されたといっていい。共同声明は、「35年までにCO2排出量を00年比で50%削減する」とうたい、目標を達成するために各国がとる「多様な道筋を認識する」とした。つまり、EVやハイブリッド車(HV)、eフュエル(水素と二酸化炭素の合成燃料)やバイオ燃料など、各国がさまざまなやり方で目標を達成しようというわけだ。G7に先立ち、3月にはEUで35年以降に新車販売をEVに一本化する法案が、ドイツやイタリアなどの反対で廃案となった。

G7気候・エネ・環境相会合で「EV1本化」への流れが変わった

似たような動きは、日本メーカーが「お得意様」とする米国でも顕著にみられる。国土の広い米国では、急速充電器の普及という高い壁を乗り越える必要がある。バイデン政権はEV化を強力に推進するが、日本とほぼ同じ面積のワイオミング州には、充電ステーションが81カ所しかない。アラスカ州は50カ所、ノースダコタ州は71カ所、サウスダコタ州は73カ所だ。電池の性能や適合する充電器を巡る技術の進化もこれからである。リチウムの供給量を考えても、資源制約という物理的問題がある中で、EVの値段は下がらず普及の道のりは長い。こうした「現実」から、ゼネラルモータース(GM)は6月、次世代の内燃エンジン生産を支援するために総額32億ドル強(約4500億円)もの投資を発表した。GMは35年に新車販売の全車EV化を表明していたが、本年度の投資先の大半が内燃機関となっている。米国市場でも、EV支持者は少数派だ。今年に入り、EVベンチャーはローズウオーターが破綻、リビアンも厳しい経営を強いられるなど失速した。

こうしたニュースは日本では目にしない。日本のメディアは時代の潮流をEVと決め付けて記事を書いているため、不都合な真実は取り上げない傾向にあるのだ。現在、公用車やバスなどEVには巨額の補助金が投下されている。25年の大阪・関西万博には、100台のEVバスが中国から輸入されるそうだ。安全性や耐久性など性能以前にEVであれば先進的とみなすこの風潮は、グローバルエリートを自認する少数の役人が進めている。

だが、EV推進政策は世紀の愚策にならないだろうか? 自動車産業は550万人の雇用を支える日本の基幹産業だ。全世界の新車販売約8000万台のうち、日本メーカーの車は4分の1以上を占める。部品も含む強い日本の自動車産業こそ、わが国の国力である。待たれるのは、安価な水素とカーボンニュートラル燃料の早期開発ではないか。

かとう・こうこ 慶大卒。ハーバードケネディスクール大学院修士課程修了。産業遺産国民会議専務理事、都市経済評論家、元内閣官房参与。鉱工業などの産業遺産を研究。父は自民党の故加藤六月氏。

【火力】これで大丈夫? 「対策パッケージ」への不安


【業界スクランブル/火力】

再エネの普及拡大に伴い、発電量が余剰になった時に行われる再エネの出力制御を実施するエリアが全国に広がっいることが話題だ。

報道では何かとんでもないことが起きているかのような論調だが、需要の変動に連動せず発電する自然変動電源が増えてくれば、このような状況になるのはむしろ当たり前のことだと理解する必要がある。しかし、せっかくの再エネなのだから、なるべく無駄なく使い切れないかと考えるのもまた当然のことだ。

電力系統においては、常時、同時同量を維持する必要があることから、供給力が過剰になるのであれば、需要を増やすか再エネ以外の供給力を減らせばよいということになるが、それは供給力過剰となっている断面のみを切り取った対応でしかない。

電力の安定供給を維持しながら再エネを増やすためには、時間の経過に伴い再エネの発電量が減少した時も供給力を確保し続けられる仕組みが不可欠だ。

国の委員会において、秋までにまとめる対策パッケージの案が示された内容を見ると出力制御を行う断面の対応のみに偏っていて、このままでは安定供給が毀損されてしまう。特に火力は最低出力の引き下げのみで、夕方の点灯ピークへの対応に効く起動停止の迅速化や、不意の天候変動に対応するための負荷変化率向上やLFC(負荷周波数制御)幅の拡大といった現実的に必要となる対策については全く言及されていない。

委員会の中では、再エネ側からも「現在調整力の多くは火力に依存しており、規制の強化により調整力が不足するようなことがあると本末転倒ではないか」とのコメントが出ている。

再エネは支援、火力は抑制、系統は増強という固定観念が、電気事業の未来を狭めているように思えてならない。(N)

環境を意識した材料調達へ モノづくりの現場も変化


【リレーコラム】山田泰也/パナソニックオペレーショナルエクセレンスグローバル調達本部非鉄部部長

材料調達において、これまで重要視してきた視点は「QCD(=品質・コスト・納期)」の3点であったが、最近、急速に「環境」を重視する声が強まりつつある。恥ずかしながら、当初、個人的には、環境対応というものは、欧州の政治家中心に考えられた競争軸の転換だと、斜に構える見方をしていたが、昨年8月に米国でインフレ抑制法が成立し、グリーンプロジェクトに対する巨額の補助金が相次ぐとともに、EU加盟国が本年4月に国境炭素税の導入を承認し、環境を無視したモノづくりや調達は難しい状況に、世の中が大きく変わりつつあることを痛感している。

かかる状況下、非鉄材料の調達において、極力コスト負担の少ないCO2削減取り組みから着手し始めている。一例として、水力発電由来のアルミ地金の調達と加工メーカーへの支給である。パナソニックではグローバルでアルミ材料を年5万t調達している。アルミは「電気の缶詰」といわれる通り、製造工程で電力を大量に消費するため、1tのアルミを作るのに、世界平均で約11tものCO2を排出する。一方、水力発電を使って製造したアルミ地金であれば、CO2排出量が約4tに減るため、仮に全てのアルミ材料を水力発電由来の調達に切り替えることができれば、年35万tのCO2削減が可能となるため、積極的に取り組んでいる。また、私共が、低CO2のアルミ地金を調達し、非鉄加工メーカーに支給することで、トレーサビリティー面でも見える化が実現できる。これとは別に、当社の工場、ならびに家電リサイクル工場で発生した非鉄屑を循環する取り組み(=サーキュラーエコノミー)も、複数の素材メーカーのご協力のもと、推進している。

当社は、自社の事業に伴うCO2排出量の削減と、社会におけるCO2排出量の削減をPANASONIC GREEN INPACTと名付け、より良い暮らしと持続可能な地球環境の両立に向けて、独自の目標を掲げて取り組んでいる。それは、2050年に向けて、現在の世界のCO2排出量の約1%(≒3億t)の削減インパクトを目指すというものである。


より多くのCO2削減を目指す

自社のバリューチェーンにおけるCO2排出量はスコープ1~3合計で1・1億tのため、その3倍のCO2削減を目指すという壮大な計画であり、私は調達責任者のひとりとして、調達面で発生するCO2排出量(スコープ3カテゴリー1)が年間約2000万tあるうち、非鉄材料で100万tの削減を目標に掲げ、コツコツと実現に向け推進していきたいと思う。

やまだ・やすなり 1992年、東京理科大学基礎工学部卒業。松下電器産業、ゴールドマン・サックス証券を経て、2011年4月にパナソニック株式会社に復職し、非鉄材料の調達に従事。

※次回はアサヒセイレンの谷山佳史社長です。

【原子力】再処理工場の事業費増加 24年度上期稼働は


【業界スクランブル/原子力】

青森県六ケ所村の日本原燃の使用済み核燃料再処理工場の総事業費が、2022年時点から2600億円増えて14兆7000億円になった。

かつて再処理事業の中止を求める「19兆円の請求書」という怪文書が経産省の匿名のキャリア官僚によってばらまかれ、物議をかもしたことがあった。今回の総事業費の増加は今後の状況次第で再び議論を巻き起こす危険性をはらんでいる。

総事業費の上昇は、再処理工場の完成時期を22年度から24年度へと2年延期したことに伴うものだ。延期により既存施設の維持管理費や人件費に1400億円かかることなどを反映した結果だ。ウクライナ侵攻に伴う資材費の高騰なども響いたという。

日本原燃の増田尚宏社長は6月23日、記者会見で原子力規制委員会による六ケ所再処理工場の認可審査を巡り、地盤モデルに関する内部検討に2カ月を要するとの見通しを示し、5月の会見で「(認可の前提となる)補正の時期は秋」と述べたことについて、「設定を変えないといけないかもしれない」と軌道修正している。一方で「24年度上期のできるだけ早期」と掲げる完成目標については「しっかり守る」と強調した。

審査での議論のポイントとなる設工認について原燃は、6月20日の審査会合で、再処理の建屋と設備の耐震評価の前提となる地盤モデルの検討方針などについて説明した。

原子力規制庁から、地盤モデルの検討の進め方について理解が得られたことから、データの丁寧な分析・考察を行い、1日も早い稼働に向けて、オールジャパン体制で審査に取り組んでいくとしている。

再処理工場の稼働を巡る議論は大詰めを迎えている。行方を注目したい。(S)

【マーケット情報/8月18日】原油下落、中国経済の先行き懸念が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落した。不動産業を中心に景気低迷が続く中国で、需要減の見通しが強まった。

中国では、7月の製油所稼働率が前月から微増にとどまるなど、燃料需要は市場の想定より弱かった。また、不動産大手の恒大グループが、米連邦破産法の適用を申請するなど、中国経済の先行き懸念が強まった。中国人民銀行(中央銀行)は、消費刺激策の一環として利下げを発表したが、油価への影響は限定的だった。

米国では、小売業などで、引き続き旺盛な消費活動が確認されるなど、インフレ圧力を示す経済統計が相次いで発表された。景気過熱を抑制するため、連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ政策が継続するとの見通しから、需要減の見方が強まった。

OPECは、ロシア産原油の今年の供給量見通しを上方修正した。ただ、世界の需要全体については、前回の予測を据え置いた。IEA(国際エネルギー機関)も同様に、需要見通しを据え置いた。

一方で、米石油在庫は、輸出増から1月以来の最低水準となったが、油価の上方圧力には至らなかった。


【8月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=81.25ドル(前週比1.94ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.80ドル(前週比2.01ドル安)、オマーン先物(DME)=85.45ドル(前週比2.47ドル安)、ドバイ現物(Argus)=85.36ドル(前週比2.49ドル安)

【石油】補助金増額のナゾ 削減率は増えたが


【業界スクランブル/石油】

6月第5週(6月29日~7月5日)の燃料油補助金は、1ℓ当たり9・7円の支給となった。第4週の補助金は9円だったから、0・7円の増額である。筆者には、記者や大口需要家から6月以降、2週に10%ずつ補助金は削減されるのにナゼ増額されたのかと、この「逆転現象」について数件の問合せがあった。

確かに9月末の補助金終了に向け、段階的縮減を始めたのに、しかも、第5週目だから削減率は20%から30%に拡大されるのになぜ補助金は増額されるのか、疑問に思うのは当然だ。

この逆転現象、政府が補助金終了に向けて行うのは、補助額縮減ではなく補助率縮減だからだと説明するしかない。政府は毎週円建て原油価格の変動を基本に、補助額を見直しているが、第4週は従来であれば11・2円の補助のところ、20%削減で補助額は9円になったのに対し、第5週は、価格上昇・円安進行があり、従来3・9円のところ、30%削減で9・7円の補助となった。従って、今後もこうした逆転現象は起こるかもしれない。また6月末時点の価格・為替水準が続くならば、9月末に向け、さらに9・7円程度の石油製品価格値上がりは避けられないということだろう。

このところ、原油価格は、景気見通しを巡る不透明感を反映して、70ドル前後の水準で方向感覚を欠く動きをしている。しかし、IEAもOPECも本年下期の石油需要は堅調な見通しを崩していない。

しかも、サウジアラビアの追加自主減産日量100万バレルも始まっているもようである。需給ひっ迫による価格上昇もあり得る状況である。補助金縮減で、国内価格の原油価格との連動性も徐々に戻るであろう。燃料油補助金のソフトランディングを祈りたい。(H)

【ガス】パラダイムシフトへ 将来の戦略転換を


【業界スクランブル/ガス】

激変する現代において、変化の潮流を見据えて正しい意思決定を続けることは至難の技だ。過去、それに失敗し沈んでいった企業は数知れない。

かつて、米国通信業界に君臨していたAT&Tは、1980年代に世界初の携帯電話技術を開発した。しかし、当時の経営者は将来の携帯電話普及は限定的と過小想定したため、携帯電話用無線網よりも既存の固定電話用ケーブル網への巨大投資を選択。半面、携帯電話の普及は予測に反して破竹の伸びを示し、同社は没落していった。

世界最大のフィルムメーカーだったコダック社は、75年に世界で初めてデジカメを開発した。しかし、当時の経営者は「フィルム事業がもうかっているのに、なぜ利益を減らすデジタル化を進める必要があるのか」として、デジカメ技術を封印してしまった。それ以降もコダックは既存フィルム事業に固執し、結局2012年に破綻してしまった。

どんな会社も既存ビジネスが好調な時に、リスクのある未知のビジネスや技術開発へ積極的に投資することは躊躇してしまうものだ。しかし、時代の変化は確実に進み、一企業や業界がコントロールすることはできない。しかも、現在そのスピードは加速度的に早くなっている。そうした環境下で勝ち残っていくためには、常に危機感を持って変化の兆しを察知し、たとえ自分達が不利になることであっても受け入れ、まだ余裕がある段階で大胆な戦略転換を行うことが必須となる。

メタネーションの可能性を否定するつもりはないが、脱炭素化の潮流が進む中、都市ガス事業の存在が厳しくなることは確実だ。時代の潮流をしっかり見据えて、将来における自分達の「生業」を再定義し、「種」となる新規事業を考えていくタイミングは今しかないだろう。(G)

【新電力】競争環境の実現は 国民経済的に望ましいか


【業界スクランブル/新電力】

制度設計専門会合で旧一電の卸売りに関する評価結果が示された。結果から見ると、北海道と沖縄(条件付き)が内外無差別と評価され、他の会社は評価に差があるものの何らかの改善が求められている。当面常時バックアップ(BU)廃止には至らないことになろう。

資本主義社会においては、共産主義、社会主義が結果平等を理想とするのに対し、機会平等が実現して競争原理が働くことを理想と考えることが多い。経済においては、参加者の条件を公平にすることでそれを実現し、市場原理を働かせることである。

ただ、市場が独占的である場合には、市場原理は適切に働かない。独占者はプライスメーカーとして行動して超過利潤を獲得し、結果国民全体の経済厚生は損なわれる。

現在のエリアごとの電力小売市場では旧一電のシェアが高く、卸売市場は買い手独占に近い。そうした状況下では「公平に競争できる市場環境」を作ること自体に意味はなく、結果平等を実現するような方策が適当、ということになる。そうなると常時BUのような実質的にメニューでの相対取引(のみ)を実施するのが最適解となる。

市場原理を適切に機能する市場環境の実現には、「独占者のシェア低下・分散」しか手段はないが、今回はその点で「エリア需要に応じた購入制限」の撤廃に言及されている。

競争評価当初からの論点であるが、市場画定の問題である。広域エリアが一つの市場となれば旧一電各社のシェアは下がる。一方で、連系線や周波数変換所(FC)の制約で卸電力市場が分断することもある。とはいえ、膨大なコストをかけてFC、連系線を増強し、結果市場の広域化、競争環境が実現したとして、それは国民経済的に望ましい結果になるのか。(K)

燃料が買えなくて停電する国


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

パキスタンLNG(政府系企業)は、6月に約1年ぶりのLNGの購入を試みたが、計6隻の入札に応じた供給者はなかったと報じられた。海外の銀行が信用状(銀行による買い手の支払保証)発行を拒んだことで、売り手が敬遠したという。

昨年春以降、LNG価格は急騰し、市場価格が100万Btu(英国熱量単位)当たり30ドルを超えた夏ごろから、同国のほか、インド、バングラデシュなどの買いが消えていった。パキスタンでは、計画停電などを行いながら、慢性的な燃料不足の状況をしのいできたのだ。幸い、一時は80ドルを超えた価格が、6月初めには10ドル近辺まで下がったため、満を持して実施したのが今回の入札だった。

本件が突きつけるのは、お金がなければ電気がつかないという当たり前の現実だ。昨年の最高値である100万Btu当たり80ドルのLNGは、発電するとkW時当たり約80円、船1隻分で約350億円にもなる。外貨準備高が落ち込むパキスタンならずとも、相当の資金力と信用力がないと買えない代物だ。

化石燃料資源の供給に大きな増加が期待できないなか、市場は今後も景気や天候の状況により価格の乱高下が懸念される。日本では原子力の再稼働が遅れ、火力燃料の輸入量は高止まりが続く。次に燃料価格が高騰すれば、貿易収支はさらに悪化し、円安にも拍車が掛かる可能性がある。資源輸入型企業の信用力には間違いなくマイナスに働くものだ。燃料を購入する発電事業者の多くは、今回の燃料高騰で価格転嫁に苦しみ、財務状況を大幅に悪化させた。容量市場は始まるものの、限界費用玉だしのガイドライン化や、再エネの導入拡大の進展により、今後も電力市場で利益を上げるのは容易ではない。「燃料が買えなくて停電する日本」が妄想ならよいが。

【コラム/8月18日】電力分野における販売事業の成功要因


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電力市場における競争の激化、分散型電源の大量導入およびデジタル技術の急速な普及などで、内外の電気事業のビジネスモデルは大きく変化している。そのような変化は、電気事業の価値連鎖のすべての段階でみられるが、とくに、顧客に近い販売分野は、顧客と電気事業の接点であり、同分野のビジネスモデルの変化は、顧客に対しての電気事業の顔の変貌を意味している。販売事業の成功には、プロダクトのデジタル化が欠かせない。ドイツでは、電気事業の販売部門でデジタル技術に支えられた様々なプロダクトが開発されているが、業界団体BDEWの調査によれば、デジタルプロダクトの販売を成功させるために販売事業に求められるものは、つぎのようなものである。

(1)プロセス、インターフェイスおよびプロダクトのデジタル化

(2) 顧客(とくに、フレキシビリティの利用可能性)に関する詳細な知識

(3) 顧客のニーズを最適化し、操作が簡単で理解しやすいプロダクト開発のための能力

(4) プロダクトのコスト最適化(最大の利益を実現するためのコストの適正化)

(5) 市場の発展とその企業収益や顧客行動への影響に関する早期認識

(6) 収益、コストおよびチャンスやリスクの展開に関する理解

(7) 良好なデータ品質を確保するための優れたデータ処理

(8) IT企業や保険会社のような新しいパートナーとの戦略的な協調

以上の成功要因から明らかなことは、販売事業に従事する企業は、新たなコンピタンスの獲得に迫られているということである。顧客のニーズに最適化し、操作が簡単で理解しやすいプロダクトを開発・販売する能力を有する企業は、大きな成功を収めることができる。そのようなプロダクトは、多くの場合、顧客のニーズに応じて多様なサービスをバンドルしたものであり、例えば、コモディティとしてのエネルギー供給と併せて、フレキシビリティや分散型電源を制御するサービス、さらには、セキュリティサービスや快適な暮らしをもたらすサービスなどを提供するプロダクトである。

また、販売事業は、供給コストの変化が複雑化してくることを理解しなくてはならない。例えば、系統の容量制約と間欠性の再生可能エネルギー発電の相互関係から供給コストの複雑な変化が生じる。将来的には、販売事業は、包括的なソリューションの価格付けにおいて、比較的単純なコスト見積もりによる価格設定を行うことは不可能である。事前に確実に見積もることができない価格に影響する要素が多く出現するからである。また、価格計算式に影響を与える要素をすべて適切に表現することは不可能と思われる。このため、販売事業者は、コストの変化を通じて販売のリスクとチャンスが増大することを認識しておく必要がある。

販売事業は、顧客と電気事業の接点であり、将来、破壊的なイノベーションが創出されるのは、主として顧客に最も近い販売部門と考えられている。このため、販売事業は、早期に事業全体のデジタル化を進め、プロダクト開発や顧客グループ等に関する中長期のポジションニングを行い、コモディティ販売(純粋なエネルギー販売)を超えた新たな価値創造戦略を開発することが求められている。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【電力】負の価格導入を提言 再エネTFのミスリード


【業界スクランブル/電力】

再エネ等規制等総点検タスクフォース(TF)が6月29日、電力市場の下限価格を撤廃、負の価格を導入すべきとの提言を公表した。

負の市場価格は欧米では普通に許容されており、数%程度の頻度で価格はマイナスになる。一般的に、市場による需給調整を機能させるためには、価格の制約がないに越したことはないし、電力需要がそれに反応して増加すれば、再エネの出力抑制は減るだろう。ただし、それ以上の効果を安易に喧伝するのはどうも感心しない。

長期固定電源と通常呼ばれる原子力・流込水力・地熱に石炭火力を加えて「長期固定電源等」と呼び直してまで、石炭火力をやり玉にあげようとするのは、火力・原子力サゲと再エネアゲへ先鋭化したこのチームらしいが、優先給電ルールは書かれているような「電力過剰供給時も含めて、季節を問わず発電を続けさせることによって収益を確保させて、旧式の火力発電機を温存する」ものではない。

石炭火力は、再エネ発電が増えれば出力を抑制する。最低出力まで下げてしまえば、今度は再エネが抑制される。最低出力を維持して運転を継続するのが気に入らないようなのだが、これは太陽光が発電しなくなる夕方の需要ピークに備えるためで、収益を確保するためではない。

負の価格導入後も、需給バランス上必要な電源は最低出力以上の運転を継続するし、そのために必要な再エネの出力抑制は実施される。kW時市場からの収入が負の価格により細るなら、別手段(例えば容量市場)で補完するべきものだ。 今のFITの世界からFIPへ移行、加えて負の価格も解禁とくれば、再エネ発電事業者が直面する市場リスクも高まる。こうしたミスリードで過剰な期待を煽るのはいかがか。(V)

COP28の新たな火種 GST巡り対立激化か


【ワールドワイド/環境】

12月にドバイで開催のCOP28。最大の争点はグローバル・ストックテイク(GST)である。GSTとはパリ協定の目的および長期的な目標の達成に向けた全体の進捗状況評価であり、23年から5年おきに行う。COP28は初のGST実施だ。

GSTの評価対象は緩和、適応(ロス&ダメージを含む)、実施手段(気候資金、技術など)である。野心レベル引き上げにもっぱら関心を有する先進国はIPCC第6次評価報告書を踏まえ、「各国の目標値を足し上げても1・5℃目標が求める削減経路に足りない」というメッセージを打ち出し、25年に予定する各国目標見直しを野心的なものにしようと考えている。他方、途上国は「先進国からの資金援助、技術協力、ロス&ダメージ支援が足りない」というメッセージを打ち出したい。24年は新たな資金援助目標を決定する年にあたり、途上国は先進国が20年の目標数値である年間1000憶ドルすら達成できていないと非難する。事務局は30年までに途上国が緩和・適応に必要とする資金量を約6兆ドルと見積もり、途上国はGSTを使って24年の新資金目標交渉を有利に運びたい考えだ。

先進国としては、IPCC第6次評価報告書はIPCC総会で採択されたから、19年比で25年ピークアウト、30年43%減、35年60%減を盛り込みたいが、ことはそう簡単ではない。途上国の交渉戦略に理論的支柱を与える組織TWNはIPCCについて以下の批判的コメントを出した。

「IPCC第6次評価報告書第3作業部会は、提出された2425のシナリオのうち、1202のシナリオの一部に基づいて、世界の緩和経路の分析を実施している」「IPCCの著者がシナリオを選定しているが、その際、国連気候変動枠組条約の衡平性、共通だが差異ある責任とそれぞれの能力の原則の遵守が考慮されていない」「10地域分類を使用し、パリ協定の気温目標に対応し 、IPCC 第3作業部会で取り上げられたシナリオの衡平性評価を実施すると、全てのシナリオにおいて発展途上国の成長、発展、化石燃料、エネルギー使用を制約し、先進国・途上国間の不平等を永続化させる結果になっている」

途上国はIPCCのシナリオを是とせず、COP28ではGSTを巡り先進国、途上国が激突することになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

太陽光パネルの再利用 米企業で期待も課題は


【ワールドワイド/経営】

米国では、現在約1億4950万kWの太陽光発電が導入されているが、仮にこれが全て一般的な太陽光パネルで構成されているとすると、5億枚以上ものパネルが設置されているという試算になる。また、2022年に成立したインフレ抑制法の後押しもあり、米国内における太陽光の導入は今後も加速することが見込まれている。一方で、太陽光パネルの寿命は通常20~30年といわれており、この先急増する使用済みパネルの廃棄問題への関心も高まりつつある。

将来的な廃棄パネルの増加を見据え、一部の事業者はリサイクルの新規事業に乗り出している。22年に設立された太陽光パネルリサイクル事業者のソーラーサイクルは、設立後間もなく大手事業者との提携を発表しており、23年5月に米大手発電事業者のAESと、さらに6月には世界的な再エネ大手のオーステッドと、太陽光パネルのリサイクル・再利用に関する事業提携を発表した。

ソーラーサイクルは、独自の技術により、太陽光パネルに使用されている銀、シリコン、アルミニウムなどの貴重な材料を95%再資源化することが可能としている。なお同社は、23年4月に米国エネルギー省から150万ドルの助成金を受けており、現在は太陽光パネルに使用される資源をより効率的に回収・分離する技術の研究を進めている。

現状、米国で廃棄される太陽光パネルの約90%は埋立地で処分されているといわれている。これは、リサイクルした場合の資源の再販価格では、輸送を含めたコストを賄うことができず、埋立地で処理した方がはるかに安価であることが背景にある。一方で、米国では太陽光パネルの需要が伸び続ける中、対中貿易摩擦やパンデミックの影響によるサプライチェーンの問題が顕在化しており、新規太陽光パネルの原材料価格の上昇も懸念される。このような中、リサイクル事業はこれら課題の救済策となり得る。

調査会社のライスタッド・エナジーによると、米国内の使用済み太陽光パネルから回収可能な資源の価値は23年時点で1億7000万ドル相当であるのに対し、廃棄パネルの増加に伴い30年に27億ドル、50年には800億ドル規模まで増大することが予想されている。今後、リサイクル技術の向上や政府の支援など、さまざまな要因も相まってリサイクル市場が醸成されることで、埋立地への廃棄処分が縮小されるとともに、国内サプライチェーンの強化が期待される。

(三上朋絵/海外電力調査会・調査第一部)

サハリン2権益巡る情報戦 今夏の定期改修に注目


【ワールドワイド/資源】

サハリン2を巡っては、英シェルの撤退を受けて、2022年内にシェルが保有する権益を継承するロシア企業が選定されるはずだったが、現在に至るまで遅延している。

ロシア政府の本命は、ヤマルLNGを進める露ノバテクであることはほぼ疑いない。しかし、シェルとしては自身が依然として権益の保有者であり、対価を確実に獲得することに主眼がある。

また昨年6月の大統領令では、外資がもたらした損害に対して賠償を求めるとも読める内容が含まれ、ロシア政府がシェルに対して、罰金を科すような事態になれば、シェルは国際司法に場を移す可能性が高く、ノバテクからすれば、シェルとロシア政府との訴訟に巻き込まれるリスクが発生する。このことがノバテクによるサハリン2参画が遅延している理由と考えられる。

このような中、ノバテクが3月6日にサハリン2におけるシェルの権益取得に向けて、入札書類をロシア政府に申請。「非友好国」の非居住者(法人)に対してはロシアからの海外送金が時限的(現在は2023年9月30日まで)に禁止されている中で、シェルが保有するシェア分の売却対価の海外口座送金については、プーチン大統領が承認する方向にあるという報道が流れた。ノバテクにとってシェルによる国際訴訟を回避できる状況が整いつつあることが示唆された。撤退を志向するシェルにとっては、プーチン大統領が海外への送金を認める判断を下したのであれば、大きな一歩となるはずだった。しかし、現在に至るまで新たな情報は出てきていない。

サハリン2については、今後のオペレーションを占う上で重要なイベントが今夏に予定されている。2年に1度実施されることになる定期改修であり、液化プラント停止に伴って7月から8月にかけてLNG生産量も通常の3分1程度まで低下する。ロシアは昨年、ノルド・ストリーム定期改修時に欧米制裁を理由に供給を削減し、ガス価格高騰を演出した。サハリン2でもシェルの撤退や欧州制裁によってLNG機器が入手できないことを理由に、供給を削減あるいは停止することもできるだろう。ロシア産LNGの最大需要国である日本を揺さぶり、価格高騰によってロシア政府は歳入確保も可能となる。

今夏の改修はガスプロムが独自に行うという点もこれまでにない不確実性リスクであるが、同時にロシア政府がどのように行動するのか注視しなくてはならない。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【視察②】脱炭素への挑戦 資源活用模索の現場


【エネルギーフォーラム主催/北海道視察・団長印象記】

山地憲治/地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長

今回の北海道視察は大変印象的で学ぶことが多かった。北海道には洋上風力を含め莫大な再生可能エネルギー資源があり、原子力や天然ガス活用にも取り組んでいる。特に風力は洋上を含めて大きな資源ポテンシャルがあるが、道内にはそれを受け止めるエネルギー需要が不足している。鍵になるのは莫大な資源ポテンシャルを活用するための、需要側も含めたエネルギーインフラの整備だと感じた。

豊富町内の鉱山設備でガス事業について説明を受ける山地団長

北海道北部風力送電は、風力発電事業者が自ら設立・運用する送電会社で今年4月に操業を開始した。政府補助事業として複数の応募・採択があったが商用操業を達成したのはこの1社のみ。Y字型の約80㎞の送電線を建設して54万kWの陸上風力を北海道電力ネットワーク(NW)に連系する。24万kW×3時間の容量の蓄電池を持ち、風力と蓄電池の合成出力によって電力需給安定化のための「変動緩和要件(北電NWが設定)」を満たす。ビジネスモデルとしては、振替供給サービスとして発電事業者から対価を受け取る。変動性電源である風力を多数束ねて蓄電池と共に運用して安定電源として活用する供給側アグリゲータの一種として注目される。

なお、この送電線に連系する風力発電所の現場2か所も視察した。一つは建設工事中の芦川ウインドファーム、もう一つは操業中の川南ウインドファームである。いずれも4000kW級風車を採用し、芦川は風車31基で13万3000kW、川南は19基で8万2000kWである。工事中の芦川サイトでは、基礎工事段階の現場や85mのタワー、60mのブレードを強大なクレーン車で組み立てている様子を見て4000kW級風車の建設工事の巨大さを実感した。視察当日は快晴で風も強く、操業中の川南サイトでは風車が勢いよく回っている姿を間近で見てその迫力を感じた。