<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名
今年はオイルショックから50年だが、エネルギー報道はカルテル問題に集中している。
電力間の合意については見解の相違があり、真相は「やぶの中」の感が強まっている。
―今年は第一次オイルショックから50年。エネルギー情勢が緊迫化する中、特集があってもいいはずだが。
電力 40周年の時は中東問題の専門家らが主催して、東京で記念の会合を開いた。元関西電力会長の小林庄一郎さんや元通商産業事務次官の小長啓一さんがスピーチに立っていた。
ガス もうOBにも実際に経験した人が少なくなっている。ましてほとんどの新聞記者は、何のことか分からない。単に「歴史の一幕」として扱われるんじゃないか。
石油 オイルショックとは直接関係はないが、3月に公正取引委員会が電力カルテル問題で中国、中部、九州の各社を「クロ」と判断して、石油闇カルテル事件を思い出した。
―オイルショックに乗じて石油元売りが製品の一斉値上げで合意したことが独禁法違反にあたり、各社が起訴された。通産省が行政指導で引き上げ額の上限を決めていたことも問われた。
石油 「カルテル」とマスコミに報じられると、世間は「業界が談合して暴利をむさぼっている」と見る。石油業界はしばらく世間から袋叩きにあった。結果として最高裁でも有罪となり、業界が信頼を取り戻すには、長い時間がかかった。
石油闇カルテルの教訓 不可解な中国電トップ人事
―ゼネラル石油の社内文書がオイルショックに伴う値上げについて、「千載一遇のチャンス」と書いていたことが分かって、騒ぎになっている。
石油 それでゼネ石の社長は辞任に追い込まれている。不思議なのは、それだけ独禁法、カルテルが怖いものでありながら、電力会社が手を出したことだ。大手電力の社員は優秀。小売り自由化が始まってから営業部門は当然、独禁法についても勉強していたはずだ。それがなぜ、だ。
マスコミ 部外者だから真実は分からない。ただ、カルテルがあったとされる時期は、東京電力の子会社の進出をきっかけに競争が異常に過熱して、電源の固定費を回収できないほどにまで価格が下がっていた。
中部電力や中国電力の営業担当者の立場になって考えると、関西電力の担当者から、「もう価格競争はいい加減にしませんか。うちはお宅の地域から撤退します」と声を掛けられたら、どうしたかと思う。「分かりました」はともなく、はっきり「ノー」と言わず、「そうですね……」と言葉を濁していたかもしれない。
―確かに真相はまだ未解明で、中部電力、中国電力は課徴金の納付命令について取り消しを求めて提訴する方針だ。
電力 解せないのは、中国電力が提訴を検討しながら、瀧本夏彦社長、清水希茂会長の辞任をいち早く決めたことだ。中途半端な対応で、中部電力の関係者は「想定外だった」と話していた。
ガス ただ、関電と中国電力を担当した記者が、「中国電力は正直な会社だ」と言っていた。瀧本さんは辞任の理由を問われ、2017年に自分が営業に関わっていたことを理由に挙げている。
一方、関電は22年6月に森本孝社長が退任する際、会見で理由を問われると「若返り」を理由にしていた。森本さんがカルテルに深く関わっていたことは当然、分かっていたはずなのに、だ。
マスコミ この件で関電は業界内で集中砲火を浴びて、世間からも白い目で見られている。リーニエンシーをするからには、それだけの覚悟はあっただろう。ただ、申告は課徴金を逃れるためではなく、純粋に「こういうことは良くない」と社内で自浄作用が働いた結果とも考えられる。すると4~5年経った時、世の中の評価は違うものになっているかもしれない。
―カルテルについて報道はどうだっただろうか。
ガス 電気新聞が一歩抜き出ていた。独禁法分野の弁護士や学者を登場させて、業界に苦言も呈している。今まで腰が引けていた感があったから、殻を少し破ったと思った。
敦賀2号の審査再中断 気を吐いた産経「主張」
―原子力に話題を移すと、審査資料の不備で敦賀2号の審査が再び中断された。マスコミは日本原電に厳しい目を向けている。
電力 審査資料の「書き換え」問題に続いて2回目の中断で、原子力規制委員から審査の打ち切りを示唆する発言もあったので、新聞各紙はかなり大きく取り上げた。
だが、敦賀2号機の断層の審査について書くなら、本来ならば規制委が発足させた有識者会合にまでさかのぼる必要がある。これまで国の安全審査に呼ばれなかった反原発色の強い変動地形学者などが参加して、「活動性は否定できない」と結論づけた。そこまで報じるマスコミはなかった。
マスコミ その中で産経だけが気を吐いている。主張(4月11日)で、規制側の対応を「健全な評価プロセスから逸脱している」と批判した。最初の中断の理由となった「書き換え」についても、19年10月の審査会合で規制側が「きちんとした形で更新して、最新の形で審査資料として提出」を求めて、それに原電が応えたのに、逆に問題視されてしまったことが原因だと指摘している。
―そこに触れたメディアはなかったはずだ。
マスコミ 産経でなければ書けなかっただろう。規制庁に行くと分かるが、詰めているのは規制側の「御用記者」ばかりで、電力会社・原発=悪という構図でしか見ていない。だから、いつも皆同じような記事しか書かない。
―明治維新から150年経っても、この国にはまだ「お代官さま」がいる。