【どうするEV】加藤康子/産業遺産情報センター長
時代の潮流の先に電気自動車(EV)社会があると決めるのはまだ早い。モビリティの選択を決めるのはユーザーであり、政治ではない。現に米国や欧州連合(EU)で政府はEVを支援しているが、売上は頭打ちで、自動車メーカーの多くが市場のニーズに応えるため内燃機関への投資を増やしている。
先進国では独自にEVの普及目標を設定しているが、これは事実上G7広島サミットの共同声明で覆されたといっていい。共同声明は、「35年までにCO2排出量を00年比で50%削減する」とうたい、目標を達成するために各国がとる「多様な道筋を認識する」とした。つまり、EVやハイブリッド車(HV)、eフュエル(水素と二酸化炭素の合成燃料)やバイオ燃料など、各国がさまざまなやり方で目標を達成しようというわけだ。G7に先立ち、3月にはEUで35年以降に新車販売をEVに一本化する法案が、ドイツやイタリアなどの反対で廃案となった。

似たような動きは、日本メーカーが「お得意様」とする米国でも顕著にみられる。国土の広い米国では、急速充電器の普及という高い壁を乗り越える必要がある。バイデン政権はEV化を強力に推進するが、日本とほぼ同じ面積のワイオミング州には、充電ステーションが81カ所しかない。アラスカ州は50カ所、ノースダコタ州は71カ所、サウスダコタ州は73カ所だ。電池の性能や適合する充電器を巡る技術の進化もこれからである。リチウムの供給量を考えても、資源制約という物理的問題がある中で、EVの値段は下がらず普及の道のりは長い。こうした「現実」から、ゼネラルモータース(GM)は6月、次世代の内燃エンジン生産を支援するために総額32億ドル強(約4500億円)もの投資を発表した。GMは35年に新車販売の全車EV化を表明していたが、本年度の投資先の大半が内燃機関となっている。米国市場でも、EV支持者は少数派だ。今年に入り、EVベンチャーはローズウオーターが破綻、リビアンも厳しい経営を強いられるなど失速した。
こうしたニュースは日本では目にしない。日本のメディアは時代の潮流をEVと決め付けて記事を書いているため、不都合な真実は取り上げない傾向にあるのだ。現在、公用車やバスなどEVには巨額の補助金が投下されている。25年の大阪・関西万博には、100台のEVバスが中国から輸入されるそうだ。安全性や耐久性など性能以前にEVであれば先進的とみなすこの風潮は、グローバルエリートを自認する少数の役人が進めている。
だが、EV推進政策は世紀の愚策にならないだろうか? 自動車産業は550万人の雇用を支える日本の基幹産業だ。全世界の新車販売約8000万台のうち、日本メーカーの車は4分の1以上を占める。部品も含む強い日本の自動車産業こそ、わが国の国力である。待たれるのは、安価な水素とカーボンニュートラル燃料の早期開発ではないか。
