【業界紙の目】白井康永/北海道住宅新聞社代表取締役
省エネルギー住宅技術が日本一普及している北海道が、ZEH率は日本一遅れているという。
積雪寒冷地特有の難しさに苦悩する北海道が直面する課題を、一緒に整理していきたい。
住宅断熱の技術開発とその普及が日本で一番早かった北海道。1980年代に開発された暖かくて省エネルギーな住まい、高断熱・高気密住宅は、北海道内で地域差はあるものの、既に新築戸建て住宅で5割以上の普及率に達しているとされ、日本一寒い地域にもかかわらず、道民は日本で一番冬暖かい住宅に暮らしている。
その技術は、すぐに津軽海峡を渡って本州に伝わり、80年代後半には東北地方の一部の工務店に広まったものの普及は進まず、北海道を除く日本全体としては、30数年たった今でも高断熱・高気密住宅の普及が始まったといえる段階ではない。まだ普及前夜である。
ところが、住宅内で使うエネルギーを差引ゼロにする省エネ住宅、ネット・ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)は、北海道が日本で最も普及が遅れている。正確には沖縄に次ぐブービー賞だ。
高断熱・高気密で十分 冬発電しないPVに消極的
ZEHは、住宅内で使う暖(冷)房・給湯・照明家電などの消費エネルギーを減らした上で太陽光発電(PV)を搭載し、使った分のエネルギーを自家発電する家をいう。ZEHの普及率は北海道が8・2%で、沖縄の3・4%に次いで低い。普及率は低い順に沖縄、北海道、富山、秋田、石川、新潟の各県が続く。沖縄を除き全て日本海側の積雪地なのだ。
北海道では家の中で使うエネルギーの半分以上が暖房だ。その暖房エネルギーをより少なくする技術に優れているのに、なぜZEHは遅れるのか。実はPVの搭載住宅数が少ないのだ。その理由はいろいろあるが、一番の課題は冬季の降雪。雪が降るとPVパネルに雪がかぶさり発電しなくなる。晴れると落雪するが地面に落雪が積み重なり、場合によっては南面の窓をふさいでしまう。旭川市や富良野市といった極寒冷地になると外気温が低いためにパネルにかかった雪が落ちない。結果、冬は発電しにくい。
もっとも、北海道では屋根に積もる雪を落とさない無落雪屋根が主流なので、冬の初めに雪が降ったらそのまま春までパネルは雪の下なのだ。

独自の省エネ住宅基準を定め、これまで高断熱・高気密住宅の普及に一役買ってきた北海道庁も、戸建住宅にPVを搭載する推進役にはなってこなかった。むしろやや後ろ向きだったと言える。
この間に、PVパネル搭載をセールスポイントの一つにして全国を席巻している住宅メーカーが道内でも受注棟数を伸ばしている。その会社は今や注文住宅棟数で道内のトップに立つと言われている。
2020年10月、当時の菅義偉首相が50年までに「カーボンニュートラル(CN)」を目指すことを国会で宣言した。それ以降、住宅を取り巻く政策が大きく動き出している。
北海道庁は住宅分野で独自の断熱基準「北方型住宅」を1988年に制定。以後、断熱・省エネ性能基準を数回にわたって強化してきた。「基準強化」の言葉の響きは窮屈な世の中をイメージするかもしれないが、断熱性能に関して道民の受け止めは、むしろ「先進的」なイメージを持つ人が多いだろう。そして今年、ゼロカーボンへ向けた新基準「北方型住宅ZERO」を制定・公開した。
他県では、国が定める断熱等性能等級やZEH基準をそのまま自治体基準とする例が多い中、北海道は独自基準を打ち出した。そこには、ゼロカーボン化の手法はPVだけではない、といった思いがにじむ。