【原子力の世紀】晴山 望/国際政治ジャーナリスト
フィンランド、スウェーデン、カナダ、米国、そして日本―。
〝核のごみ〟の最終処分場を巡る世界の動向を3回に分けて紹介する。
核のごみは、高い放射線を持つため、放射線量が安全なレベルに下がるまで10万年以上の長期間にわたり人間が居住する環境から隔離することが好ましい。プルトニウムなど原爆の材料となる物質も含まれているため、テロリストの襲撃や強奪から防ぐ防護策も必要となる。
これまで、さまざまな処分法が考案されてきた。だが、海洋投棄や南極への投棄などが禁じられ、宇宙空間への投入も安全面やコスト面がネックとなる。現在は、地下への深層処分が最善と位置付けられている。
核のごみの処分法と問題点
日本は1976年に地層処分研究を開始。旧動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構=JAEA)が北海道幌延町や、岩手県釜石市などで地層処分の手法を探った。
政府は2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)」を制定、最終処分地の選定を担当する原子力発電環境整備機構(NUMO)を設立した。17年には、処分場としての適否を示す「科学的特性マップ」を公表、自治体に応募を呼びかけている。
北海道西部の積丹半島に近い神恵内村と寿都町の2町村が20年に、佐賀県玄海町が24年に手を挙げた。NUMOは10前後の自治体が立候補することを期待している。
北海道は足踏み状態 幻の最終処分地構想も
調査は3段階ある。最初の文献調査は2年間で、論文などで候補地周辺の火山の状況や、断層などを調査する。20億円の補助金が自治体に交付される。次の段階に進むには地元自治体の長だけでなく、都道府県知事の同意が必要となる。2段階目は概要調査。4年間かけボーリングや地質・地下水の状況を調査する。70億円が交付される。最終段階は14年かけて実施する精密検査で、地下に調査用施設を整備し岩盤や地下水の動きをチェックする。
NUMOは24年11月、文献調査の報告書を初めてまとめた。寿都町全域と神恵内村南端の一部、両町村の沿岸海底で第2段階の概要調査に進めるとする内容だった。だが北海道の鈴木直道知事は、処分場を受け入れない条例があることを理由に「現時点で反対」と表明。足踏み状態が続いている。この3町村以外でも、長崎県対馬市や島根県益田市が、文献調査への応募を検討したが、市長や知事の反対表明を受けて断念している。
日本最東端の南鳥島
出典:小笠原村ウェブサイトより
選考作業が進まない状況を受けて、選考手法の見直を求める声も上がる。4月25日に開かれた経済産業省(経産相の諮問機関)総合資源エネルギー調査会の特定放射性廃棄物小委員会では、委員が「国が新たな方向性を示すべき」と提案した。ただNUMOには、国が主導する形での候補地選定は「世界各国での失敗の歴史を繰り返すだけ」(幹部)との思いが強い。フィンランドやカナダなどが選定に成功したのは、手を挙げた自治体との粘り強い交渉を重ねた経緯があり、NUMOはこうした手法が「最善」と考えている。
「10年ごとに浮かんでは消える」。そう原子力関係者が呼ぶ幻の最終処分地構想がある。東京都小笠原村の南鳥島だ。太平洋上に浮かぶ島で、日本最東端に位置する。一辺2㎞ほどのほぼ正三角形状の島だ。無人島だが、現在、海上自衛隊、国土交通省、気象庁の職員が交代で勤務。戦前に整備した滑走路や港湾があり、輸送機なら東京から片道約4時間、船舶なら横須賀から片道4~5日の距離にある。
処分地になり得るのか。NUMOは、陸地面積が島全体でも1・51㎢という点が難点と見る。ガラス固化体を船で持ち込み、島の地上施設で、金属製容器に納める作業を実施することになるが、安全面に配慮すれば1~2㎢ほどの敷地が必要とされる。また、島の外側はすぐに深さ約1000mの断崖絶壁に。地下300mに設置する地下施設は、約6~10㎢の敷地が必要となるが、これを確保できない。
シェール技術を活用 安全面などで課題山積
ただ、解決策がないわけではない。石油や天然ガスを掘削する手法を援用して地上から2~5㎞の深層部にまで縦穴を掘り、そこに埋める手法だ。深層ボアホール処分と呼ばれる。米国ではシェールガス・石油掘削と同様の手法を使い、2㎞ほどの深さに掘った上で水平に横穴を掘る手法も提案されている。
メリットは、坑口の面積が1㎢程度と小さくてすむこと。深層処分地の建造には数十年単位の時間がかかるが、5年以内で済む。デメリットもある。深くなるほど、大口径でのボーリングが難しい。石油・ガス掘削は直径22㎝の管を使うが、放射性廃棄物を詰めたキャニスターは直径30㎝以上ある。穴の口径は40㎝以上が望ましい。そうしないと、キャニスターの口径を小さくする必要が生じ、1基当たりの容量が減る。キャニスターの数が増えればコストが上がる。
安全面でも課題がある。廃棄物から出るガンマ線は、薄いキャニスターだと透過し、作業員が被爆する。狭い穴を通すために肉厚を減らすことはできない。また、地表から2㎞以下が最善とされる処分深度に達しない時点で、キャニスターが引っかかって動けなくなる懸念もある。破損して、放射性物質が漏れれば大事となる。
南鳥島でこの方式による処分を採用した場合、「数百本の縦穴を500m間隔で掘る必要がある」と専門家は見ている。ただ、日本には、まだ大口径掘削技術はまだ確立されていない。