【記者通信/5月24日】権力に忖度しない議論を! いま注目のYouTube番組


「体を張って国民の知る権利や言論の自由を守りたい」――。そんな使命感に燃えるYouTubeチャンネル「国民の声を聞いてくれん会」(毎週木曜日午後8時から生配信)が、エネルギー政策などを巡って熱い議論を巻き起こしている。「日本を守る有志の会」の主催、「全国再エネ問題連絡会」の協賛で運営する同チャンネル。国土破壊をいとわない再生可能エネルギー開発政策やワクチンリスクをおざなりにした新型コロナ感染防止対策など、不都合な真実を覆い隠すような政治が行われ、さらには国益をないがしろにする左派勢力が台頭する中、日本を守る有志の会と全国再エネ問題連絡会の共同代表を務める山口雅之氏(元大阪府警警視)や清水浩氏(土木設計エンジニア)らが「日本のあるべき姿」を追求する議論を喚起すべく、番組を立ち上げた。

山口氏は「国民に成り代って真実を追求すべきテレビや新聞は権力に忖度している」と、既存メディアの報道姿勢を問題視する。「このままでは国民の知る権利が知らないうちに奪われ、さらには言論の自由さえも奪われてしまうのではないか」という危機意識を仲間と共有。「自分たちで知り得た真実をありのままに世の中に伝えて、体を張って国民の知る権利や言論の自由を守ろうじゃないか」という思いを強め、このチャンネルを作ることにしたという。

ここで取り上げるテーマは、「原発再稼働 日本復活」「日本の電力事情と未来を考える」「再エネ利権で国民の命や暮らしは危機に」「熱海土石流 真相暴露」「聞け!上海電力」などとバラエティーに富んでいる。顔ぶれも多彩で、これまでに産業遺産国民会議の加藤康子専務理事、社会保障経済研究所の石川和男代表、キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹、国際環境経済研究所の山本隆三所長ら有識者や、長尾敬・元自民党衆院議員、上田令子・都議会議員ら政治家のほか、東京電力パワーグリッドの岡本浩副社長が出演。エネルギーフォーラムの井関晶副社長も、コメンテーターとして参加した。番組の司会を務める公認会計士の並木良樹氏が番組スタッフに支えられながら、示唆に富む発言を巧みに引き出して議論を盛り上げていく。

「今後は再エネ問題を含め、経済や安全保障問題などさまざまな分野の有識者らの協力を得ながら、幅広く世の中の人々に真実を伝えていきたい」と意欲を示す山口氏。国民の暮らしや安全・安心に直結する政策課題が山積みしているだけに、本質的なテーマにズバリと切り込む同番組の存在感は一段と高まりそうだ。

【記者通信/5月24日】「適材適所」で電力不足回避 三菱総研が生成AIでシナリオ


膨大なデータ処理で電力を大量消費する生成AIの普及に伴う「電力需給のひっ迫」が指摘される中、三菱総合研究所は生成AIを持続的に活用し続けるためのシナリオを打ち出した。深刻な電力不足を回避できるよう生成AIを適材適所で使うなど、エネルギーと技術の両面を考慮した三つの道筋を提示したもの。消費電力を抑える半導体技術の開発に加え、電力の供給体制を増強するという課題も投げかけた。

生成ĄĪの利活用シナリオについて説明する三菱総合研究所の西角直樹主席研究員

「40年発電電力量は22年実績の1.5倍」目安にシナリオ作成

三菱総研は「生成AI普及による電力需要爆発を見据えた将来シナリオ」と題する報道関係者向けセミナーを東京都内で開催。「火力発電所の稼働率向上や原発の追加稼働を見込んで2040年の発電電力量を22年実績の約1.5倍に相当する1466TWhに引き上げる」という電力供給の上限を「一つの目安」とした上で、そうした電力制約の下で生成AIを利活用する方策を示すシナリオをまとめた。

電力供給の制約問題を踏まえて導き出されたシナリオの一つが、生成AIに必要な大規模な基盤モデルを惜しみなく生かす「計算量爆発シナリオ」だ。計算量が数万倍に達する性能優先のシナリオに進むと、巨大なデータセンター(DC)で大規模モデルを開発する資金力を持つ「ビッグテック」の市場支配力が拡大。生成AI処理の一部を海外のDCで行うようになる。技術開発の行方次第で電力需給のひっ迫も招き、化石燃料を輸入して電力供給を増やす必要性が生じる可能性が高まるという。

想定される生成AIの利活用シナリオ(三菱総研作成)

二つ目が用途に応じてさまざまな規模の生成AIを使い分ける「適材適所シナリオ」だ。計算量の増加は数千倍以内に収まるため、深刻な電力不足は回避できる。経済や企業が補完し合うエコシステム(生態系)への影響をみると、汎用性が高いが燃費が悪い大規模モデルと目的に特化した低燃費の小規模モデルが併存するため、生成AIを巡るプレーヤーや関連サービスが多様化。これを支えるDCの選択肢も広がり、各地でデータと再生可能エネルギーの「地産地消」も進むという。三つ目が、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロ)の実現に向けて小規模モデルを役立てる「省電力優先シナリオ」だ。このケースの場合、モデルの性能を左右する質の高いデータの確保がカギを握る。

生成AIの利用拡大でDCの消費電力量が急増する問題の解決策として注目を集めるのが、電気信号を扱う回路に光信号の回路を融合させる「光電融合技術」だ。登壇した政策・経済センターの西角直樹主席研究員(研究提言チーフ)は、光電融合やAI特化チップといった半導体技術が進展する動きに注目した上で、「国内で持続可能な生成AIを進めるためには、電力制約のためにAI利活用が阻害されるという事態は避けるべき。まずはĪCT(情報通信技術)による対策を講じることが重要だ」と指摘した。

日本の競争力強化とデジタル赤字解消を

西角氏はĪCTと電力供給の両面から対策を打つことで、「電力が足りないというピンチを逆にチャンスに変えて日本の国際競争力強化やデジタル赤字の解消に寄与することが可能ではないかと考えている」と強調。それでも電力の需要増を吸収しきれない場合は、「電力供給の増強を含めて備える必要がある」との認識も示した。

具体的には、省電力技術の開発という観点から半導体の電力効率を高めるとともに、計算量の削減に向けて中小規模の用途特化型モデルを有効活用するなどの対策を推進。加えて、火力電源の焚き増しや脱炭素電源の追加といった電力供給面の対策も講じることで、持続可能な生成AIを実現するという展開が考えられるという。

情報量は、社会のデジタル化の進展に伴って爆発的に増加する方向にある。こうした動きを踏まえて西角氏は、日本が海外のデジタル関連サービスに支払った額が受け取る額を上回る「デジタル赤字」もさらに拡大するリスクを問題視。40年を視野にĪCTインフラに必要な「周波数」「エネルギー」「投資」が大幅に不足する三重苦に陥る可能性があると警鐘を鳴らした

国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の見直しに向けた議論が本格化する中で今後、電力供給の視点を考慮しながら日本経済の成長力に直結する生成AIの持続的な利活用策を探るという機運も高まりそうだ。

【メディア論評/5月8日】今国会に提出されたエネルギー・環境関連法案の意義


◆提出法案

1月から始まった通常国会は6月23日に会期末を迎える予定だ。裏金問題に時間を費やす中、子育て、経済安保におけるセキュリティ・クリアランスなどの法案が審議された。エネルギー・環境関係では、水素社会推進法、CCS事業法、再生可能エネルギー海域利用法改正、地球温暖化対策推進法改正、生物多様性増進活動促進法、再資源化事業等高度化法(いずれも略称)など、各分野での課題対応を図った法案が提出された。

<法案名称>

・水素社会推進法(4月9日衆議院可決、5月5日現在参議院審議中)

……脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案

・CCS事業法(4月9日衆議院可決、5月5日現在参議院審議中)

……二酸化炭素(CO2)の貯留事業に関する法律案

・再生可能エネルギー海域利用法改正(5月5日現在衆議院審議中)

……海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案

・地球温暖化対策推進法改正(5月5日現在衆議院審議中)

……地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案

・生物多様性増進活動促進法(4月12日成立、4月19日公布)

……地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律案

・再資源化事業等高度化法(4月16日衆議院可決、5月5日現在参議院審議中)

……資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案

<水素社会推進法>

脱炭素化が難しい分野におけるGXを進めるためのエネルギー・原材料として、国が前面に立って低炭素水素などの供給・利用を早期に促進する。

参考=低炭素水素:水素など(水素およびその化合物←アンモニア、合成メタン、合成燃料を想定)で、その製造に伴って排出されるCO2の量が一定の値以下で、その利用がわが国のCO2排出量削減に寄与するもの。

このため、①主務大臣による基本方針の策定、②低炭素水素などを国内で製造・輸入して供給する事業者やエネルギー・原材料として利用する事業者の計画認定制度の創設、③認定を受けた事業者に対する支援措置(価格差支援・拠点整備支援)や規制の特例措置――などを講じる。

<CCS事業法>

CO2を回収して地下に貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)事業を進めるため、①試掘・貯留事業の許可制度の創設、②貯留事業に係る事業規制・保安規制の整備、③CO2の導管輸送事業に係る事業規制・保安規制の整備――を行う。

再生可能エネルギー海域利用法改正>

現行法が洋上風力発電に係る法適用対象を領海および内水としており、排他的経済水域(EEZ)についての定めがないため、EEZにおいて自然的条件などが適当である区域について「募集区域」として指定し、発電設備の設置を許可する制度を創設する。

また、促進区域(領海および内水)、募集区域(EEZ)の指定などの際に、海洋環境などの保全の観点から、環境大臣が調査を行うこととし、これに伴い、環境影響評価法の相当する手続きを適用しないこととする。 

地球温暖化対策推進法改正>

優れた脱炭素技術によるパートナー国での排出削減に加え、脱炭素市場の創出を通じたわが国企業の海外展開やNDC達成にも貢献する二国間クレジット制度(JCM)の実施体制を強化する。

また、地域共生型再エネの導入促進のため、再エネ促進区域などについて都道府県・市町村が共同して定めることができるなど、地域脱炭素化促進事業制度を拡充する。

<生物多様性増進活動促進法

2030年までのネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)の実現に向け、里地里山の保全や外来生物防除、希少種保護など、地域における生物多様性を維持・回復・創出する企業等の活動を促進する。

主務大臣が活動の実施計画を認定する制度を創設し、活動に必要な手続きのワンストップ化、簡素化を図る。

<再資源化事業等高度化法>

脱炭素化、再生資源の質と量の確保などの資源循環の取組みを一体的に促進するため、①主務大臣による基本方針の策定、②再資源化事業等の高度化促進に関する判断基準の策定・公表や、特に処分量の多い産業廃棄物処分業者の再資源化の実施状況の報告・公表、③再資源化事業等の高度化に資する先進的な取組みについて認定制度を創設し、廃棄物処理法上の各種許可手続の特例を設ける――などの措置を講じる。

◆提出法案から見た脱炭素化対応の流れ

昨年の通常国会では、脱炭素成長型経済構造、GX(グリーントランスフォーメーション)実現のためのGX経済移行債発行、成長志向型カーボンプライシング導入を掲げるGX推進法、原発の停止期間を考慮した運転期間の制度化などを定めたGX脱炭素電源法など、GXの根幹をなす事項が法制化された。

・GX推進法

……脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律

・GX脱炭素電源法

……脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律

この法律案提出以降に、昨年は、わが国が議長国となった5月のG7広島サミット、年末にはCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)が開かれ、エネルギー・環境政策の議論も進んだ。こうした議論の進展も受けて、今年提出のエネルギー・環境関連法案は各分野でのソリューションに向けた法改正を図ったものといえる。

~G7広島サミット、COP28

(1)G7広島サミット

わが国が議長国となった昨年5月のG7広島サミット首脳コミュニケでは、〈我々の地球は、気候変動、生物多様性の損失及び汚染という3つの世界的危機並びに 進行中の世界的なエネルギー危機からの未曽有の課題に直面している〉としたうえで、〈経済及び社会システムをネットゼロで、循環型で、気候変動に強靭で、汚染のない、ネイチャーポジティブ(生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せること)な経済へ転換することにコミットする〉とした。

参考=日経新聞寄稿23年8月15日付〈和田篤也・環境省事務次官〉〈今年、G7広島サミット、G7札幌気候・エネルギー・環境大臣会合が開催されました。そこでは、ネットゼロ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)、ネイチャーポジティブの統合的な実現の重要性が再認識されたところです。政府においても、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」や「新しい資本主義実行計画」に、この3つの課題に向けた取組みが位置づけられました。……特にネイチャーポジティブは生物多様性をネットゼロと一体的に取り組むべきビジネス課題と位置付けて事業活動に組み込んでいく動きが加速する中、国際的にも注目されています。生物多様性の損失や自然資本の劣化が事業継続性を損なうリスク、あるいは新たなビジネスを生み出す機会として認識されつつあるのです。〉

(2)COP28

また、昨年末のCOP28(国連気候変動枠組み条約第に28回締約国会議)では、パリ協定の目的達成に向けた世界全体の進捗を評価するグローバル・ストックテイク(GSTが議論された。そこでは、野心的な排出削減とそのための世界的な努力への貢献に向け、いくつか決定事項があった。日本のメディアがよく報道した「化石燃料からの転換への移行」以外に、世界全体の再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍、再エネ・原子力・CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)などの排出削減・炭素除去技術・低炭素水素等の加速なども掲げられた。

参考=第1回グローバル・ストックテイク 

23年に第1回を開催。その後は5年に1度、世界全体のパリ協定の実施状況を評価。(パリ協定第14条)

グローバル・ストックテイク(GST)に関する決定

・1.5度目標の達成に向けて25年までの排出量のピークアウト

・全ガス・全セクターを対象とした野心的な排出削減

・各国の判断、事情等を考慮して行われる世界的努力への貢献

・世界全体で再エネ発電容量3倍・省エネ改善率2倍

・排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減加速

・エネルギー部門の脱・低炭素燃料の使用加速

・化石燃料からの移行

・再エネ・原子力・CCUSなどの排出削減・炭素除去技術・低炭素水素等の加速

・メタンを含む非CO2ガスについて30年までの大幅な削減の加速

・交通分野のZEV・低排出車両の普及を含む多様な道筋を通じた排出削減

・非効率な化石燃料への補助のフェーズアウト など

環境省幹部は、この合意内容について次のように語る。23年12月)〈GSTは地球全体で考えなければならない話であり、そうであれば自ずと、ソリューションにハイライトがあたる。そうすると、まずは再エネをみんなでしましょう、その次は省エネをしましょう、となる。「エネルギー効率」という言葉も今回初めてでてきた。e-fuelや原子力、CCUSまで書いてある。日本が入れ込んだというよりも、結局はソリューションを示す国が日本しかなく、日本の取組み以外にネタがないから、日本の主張するソリューションが評価されて、全て書かれることになったというのが正しい理解だ。〉

参考=別の環境省幹部は、〈今回のCOPが日本にとって成功だったのは、日本が一枚岩だったからだと思っている〉と述べている。その上で同幹部は、メディアの取材姿勢についても、〈メディアも最近では技術を勉強して、ソリューションについて書き始めている。今はペロブスカイト発電や洋上風力、蓄電池がハイライトされており、今後もっと多くの記事が出てくると思っている〉と述べている。

ガスエネルギー新聞の新年インタビュー(1月1日号)では、環境省事務次官が現政権での環境政策について次のように語っている。

◎ガスエネルギー新聞1月1日付〈和田事務次官インタビュー〉(抜粋)

Q:岸田政権の環境政策について

A:大きく3つの柱がある。

1つ目は「経済のGX(グリーントランスフォーメーション)」だ。従来、環境と経済は対立概念とされてきたが、ここ10年程度で「好循環」を起こせると認識が変わった。GXはこれを具体化したもので、岸田政権の特徴だ。昨年、GX推進法が成立し、「GX推進戦略」「分野別投資戦略」を策定、今年は実行の年だ。2つ目の柱日本が持つさまざまなカーボンニュートラルに向けたソリューションを広く普及させる。世界の成長センターであり、温室効果ガス排出量も伸びているアジアで普及させるため、岸田首相が提唱した「アジア・ゼロミッション共同体(AZEC)」が鍵になる。……アジアでは国によって成長の仕方や産業の仕組み、内容、成長速度が違う。日本には、それに対応するソリューションがある。3つ目は、環境対策をいかに地方創生に役立てるかだ。「サーキュラーエコノミー(循環経済)」がその一つで、リサイクルをはじめとする資源循環が、地域のビジネスとなり、地方創生になる。……さらに生物多様性の損失を止め、反転させて自然を回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」への産業界の関心が広がっている。これら 経済のGX、日本が持つソリューションのアジアへの展開、地方創生と環境政策の3つがトレンドだ

東洋経済オンラインは、こうした情勢の進展を受けて、経産省提出の法案についてであるが、昨年から今年への流れに触れている。

・東洋経済オンライン4月9日号

〈「GX(グリーントランスフォーメーション)」と呼ばれる脱炭素化政策に関連した法律が一通り出そろった。排出量取引の導入などを定めた「GX推進法」や原子力発電推進を盛り込んだ「GX脱炭素電源法」が昨年成立したのに続き、政府は2月13日、「水素社会推進法」および「CCS(二酸化炭素『CO2』の分離回収・貯留)事業法案」を閣議決定した。両法案は今国会での成立を目指している。…… (その上で、「成否未知数のGX戦略、政府は柔軟に軌道修正を」「原発回帰が再エネ拡大抑制、水素はコスト難題」としている。)〉

環境省提出のものも含めて、今回提出のエネルギー・環境関連法案は、エネルギー・環境政策の議論の進展も伴い、各分野でのソリューション強化を目指したものといえよう。次号では、水素、CCS、洋上風力関連の法案に比べて、メディアで取り上げられるボリュームがやや少ないように思われる、地球温暖化対策推進法改正、地域生物多様性増進活動促進法、再資源化事業等高度化法の意義などについて触れたい。

ジャーナリスト 阿々渡細門

【目安箱/5月7日】「もしトラ」で日本のエネルギー産業はどうなるか


「もしトラ」という言葉がネットで生まれている。「もしもトランプ前米大統領が、今年11月の大統領選挙で当選したら?」の意味だ。トランプ氏は、共和党の候補になることは確実だが大統領選挙で勝つかどうかはわからない。しかし仮に選ばれたとしたら、今のバイデン政権が進めてきた米国のエネルギー・温暖化政策の方向性は大きく変わることは確実だ。今年5月時点の情報で、頭の体操をしてみよう。

◆「アメリカ・ファースト」のエネルギー政策

トランプ大統領は第一次政権(2017年1月〜2021年1月)までの4年間で、以下のエネルギー・温暖化政策を進めた。当時は過激と評された。しかし私には意外感はなかった。2016年の大統領選挙の前に、同時に行われる米連邦議会選挙での共和党のマニフェストを読んでいた。すると、エネルギー分野でトランプ政権の行ったことは、ほぼ全て、そこに書かれていたことだった。つまり、これはトランプ氏の独走ではなく、共和党支持者の総意なのだ。

トランプ氏は「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大に」という基本方針を前回掲げた。今回の選挙でもそれを掲げている。第一次政権のエネルギー政策でもそれは現れた。

・パリ協定からの離脱。
・連邦国有地での環境規制の撤廃。
・米国を横断するガスパイプラインの建設促進。
・国産エネルギーの増産支援。オバマ政権が環境配慮の規制で抑制しがちだった、石炭産業、シェールガス支援。
・原子力は推進。ただしオバマ政権の「核兵器なき世界」という政策を批判。
・原子力発電の増加は支援。これは民主党も同じ。民主党が掲げる核不拡散と、それに伴う核燃料サイクルを日本以外に認めない政策を、それほど強調せず。
・オバマ政権が初期に唱えた「グリーンニューディール」政策は徹底批判。
・中東政策はイスラエル寄りだが、サウジ、バーレーン、UAEなど、穏健なイスラム諸国との関係を深めた。

エネルギーと気候変動問題は共和党、民主党間で党派対立が激しい分野だ。トランプ政権時代にはエネルギー温暖化政策の否定が目立った。その反動でバイデン政権はトランプ政権のエネルギー温暖化政策の否定からスタートした。バイデン大統領は、政権発足の第一日目にパリ協定へ復帰し、パイプラインの環境調査など、オバマ政権の時の環境保護政策を復活させた。行政命令でできることを全てやった。

◆「第二次?」トランプ政権のエネルギー政策

では、仮に第二次トランプ政権が発足した場合に、どのようなことが行われるのか。

バイデン政権の政策を強く否定するだろう。テッド・クルーズ、マルコ・ルビオ上院議員など共和党保守派は、エネルギーに絡めて、バイデン政権を批判。またバイデン政権のグリーンニューディール政策が補助金を垂れ流し、アメリカの化石燃料産業を衰退させプーチンを儲けさせたと批判している。共和党側の主張に疑問点もあるが、同党の支持者はその現政権の否定を強く賛成するだろう。

まだ共和党の大統領選挙や今年秋の連邦議会議員選挙のマニフェストは作られていない。トランプ陣営への政策インプットを行っている共和党系の米国第一政策研究所(America First Policy Institute)の掲げる政策提言をみてみよう。エネルギーでは以下の取り組みを提言している。

1.エネルギー自給を実現=海上、国立公園などでの採掘を拡大。原子力を拡大。レアアース、重要鉱物、化石燃料、ウランの自給を試みる。原子力教育、人材育成も行う。

2.エネルギー生産の増大による価格引き下げ=非効率な補助金、規制の廃止、発電所の延命など。

3.予測可能、透明、効率的な許可プロセスと規制環境の構築=補助金を評価し、規制・許認可改革による合理的な制度を作る。

4.すべてのアメリカ人にきれいな空気、きれいな水、きれいな環境を=環境改善と経済成長の成果を促進するために、大気浄化法(CAA)水質浄化法(CWA)などを見直す。そして中国をはじめとする敵対国の膨大な環境破壊を監視する。パリ協定ではなく、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)のような意味のある強制力のある環境協定づくりを目指す。

5.「エネルギードミナンス」というコンセプト。産業競争力をつける=国際パイプライン、ガス輸出を促進。米国のエネルギーが、価格、安定供給など、他国から優れた状況になる「エネルギードミナンス」という状況を作る。

◆政治の波に左右されず、力を蓄える行動を

トランプ第二次政権が誕生すれば、これらが実行されることになる可能性が高い。特に日本に影響を与えそうな問題は、パリ協定からの離脱、天然ガス輸出の積極化だろう。

パリ協定は緩やかな規制だが、それでもトランプ氏と共和党は米国の産業に規制をかけると敵視している。米国の脱退によって、全世界を覆う協定は、当面の間できなくなる。これはさまざまな影響を与えるだろう。ただし、脱炭素の目標が消えることはない。そして日本の省エネ技術、原子力技術が、自由主義陣営で期待される状況は変わらない。

米国のエネルギー輸出積極化は、日本にとってはエネルギー供給源の多様化という形で歓迎すべき話だ。天然ガス、シェールガスをLNGで日本が輸入する形となるだろう。これまで日本はG7でバイデン政権の米国と欧州から脱化石燃料を求められてきた。日本の貿易の柱は対中国、対アジア、対米だ。欧州に気候変動問題で引っ張られる可能性はあるが、米国からの要求が緩まれば、日本の民間企業も政府も自由に動きやすくなるだろう。

ただし米国企業が気候変動のコストを負わず、米国のエネルギー価格の低下を享受すれば、日本の産業界はその競争に苦しむ可能性がある。

エネルギーは長期的な取り組みが必要だ。日本は自由化、原発の長期停止など、政策の失敗で、エネルギー産業は苦しんできた。そうした政治の波にエネルギー産業は翻弄されてしまった。それに加えて米国が、政権交代のたびに左右に大きく振れるのは困ったことだ。

しかし、嘆いても仕方がない。脱炭素の潮流は変わらない。「もしトラ」を頭の片隅に入れながら本業を磨くことしか、日本のエネルギー産業の進むべき道はないだろう。安く、良質の商品やサービスは、政治がどうであろうと、消費者に選ばれて永続する。

【記者通信/5月2日】レジルが新規上場 分散型プラットフォーム構築へ


「日本全体の電力需給の安定化と脱炭素に貢献していきたい」。4月24日に東証グロースに上場を果たしたレジルの丹治保積社長は、こう意気込みを語る。上場を足がかりに、再生可能エネルギーの調達・供給と、高圧一括受電事業を展開するマンション、オフィス・工場などへの蓄電池の導入に加えAI制御を組み合わせた分散型エネルギー事業を強化。社会からの信頼性向上とデジタル人材の確保につなげたい考えだ。

記者会見をするレジルの丹治保積社長

「脱炭素を難問にしない」をミッションとするレジルが目指すのは、「分散型エネルギープラットフォーム」の構築。まずは、既存事業のアセットを活用したVPP(仮想発電所)を実現し、そこで得たシステムやオペレーションのノウハウを新電力会社や自治体に提供することで、巨大なエネルギーネットワークの形成を目指す。

プラットフォームを構築する上で必要な技術については、実績のあるベンチャー企業などと積極的に連携していく方針で、「エネルギー業界のハブ(中心)」としての立ち位置を確立させていく。

「第二の創業。会社を作り直す」を経営目標として掲げた丹治社長は、今回の新規上場について、「ようやくスタート地点に立てた」と強い意欲を見せる。

【記者通信/5月1日】国益重視の議論主導へ 再エネ議連の三宅事務局長が意欲


洋上風力発電事業を巡る汚職事件で起訴された秋本真利衆院議員が運営を仕切っていた自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」が再始動し、後任の事務局長として三宅伸吾参院議が就任した。三宅氏は、自民党随一の脱原発再エネ推進派として知られる前任とは対照的に「原発推進派」で、国益を守る防衛政務官でもある。経済安全保障や産業競争力を強化する観点から再エネを進める必要性を説く三宅氏に、再エネ議連の役割や当面の活動について聞いた。

インタビューに応じる再エネ議連の三宅伸吾事務局長

――再エネ議連は3月の総会で新たな事務局長を承認し、約8カ月ぶりに動き出した。議連が果たす役割は?

三宅氏 世界的にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロ)へ対応する機運が高まる中、再エネを導入する動きが拡大している。日本もあらゆる政策を総動員し、再エネを加速させていくことが極めて重要だ。これまでも議連は、再エネ導入のけん引役としての役割を担ってきたが、それはこれからも変わらない。今年は「第6次エネルギー基本計画」の見直しの議論が進むことになる。議連としても精力的に議論を展開し、次の基本計画に向けて大きな役割を果たしていきたい。今後は、それを期待する柴山昌彦会長の思いを具現化するための現場の作業を進めていくことになる。

――三宅氏の立場は原発推進派と聞いている。エネルギー政策にどう向き合う考えか。

三宅氏 原発を速やかに廃止の方向に持っていくことには賛成していない。「安全性を確保しながら速やかに再稼働できる原発は動かせ」という意味で、原発推進派だ。ただし、100%原発で日本のエネルギー源を賄うという主張ではなく、エネルギーコストや脱炭素などの観点から日本が置かれた状況を見極め、ベストミックス(望ましい電源構成)を追求するという立場だ。

政府は、安全性を大前提にエネルギーの安定供給、環境適合性、経済効率性をバランスさせる「S+3E」を一貫して重視してきたが、その大原則に揺るぎはない。

――ベストミックスの中での再エネの位置づけは?

三宅氏 再エネをどう位置づけるかの具体的な議論はこれからだ。脱炭素に加えてエネルギー安全保障の観点からも再エネを拡大するという視点が重要だ。議連としては、さまざまな再エネに関する政策の検証を進め、課題を洗い出したい。検証結果は、政府が夏に閣議決定する「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」を視野にまとめる提言に反映したい。

日本発の技術で新たな市場創出を

――中でも次世代電池「ペロブスカイト太陽電池」に注目している。

三宅氏 柴山会長から事務局長をやってくれと言われたのは昨年末。やる以上はリスタートにふさわしいテーマを選びたいと考え、自分なりの勉強を経て、ペロブスカイト太陽電池を取り上げることにした。ペロブスカイトは軽量で柔軟性があるため、建物の壁面や耐荷重の低い屋根など、これまでの太陽電池とは異なる場所にも設置できる。世界をリードする日本発の技術で国産化できる可能性は、政治家の心に刺さる魅力だ。国内に豊富に埋蔵するとされている主原料「ヨウ素」は他国に依存しなくて済み、経済安全保障上の懸念がない。それ以外にも産業競争力の強化や環境技術で日本の存在感を高める環境外交の推進など、(国益につながる)旗を多く立てることができる。

――防衛省は、自衛隊施設へのペロブスカイト太陽電池導入に意欲的だ。

三宅氏 政府は、公共施設もしっかり再エネ対応しようという方針を決めている。防衛省としては、自衛隊庁舎や隊舎など約2万3000棟を全国に保有しており、既存施設の更新とペロブスカイトの市場化のタイミングが合致すれば、積極的に自衛隊施設へ導入するための検討を進めたいとしている。ペロブスカイトの市場が一挙に立ち上がり、大きな需要が生まれて大量生産ができるようになれば、コストはどんどん下がっていくだろう。

【目安箱/4月30日】中国企業ロゴ問題を巡るメディアの追及はなぜ鈍い?


内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)構成員の大林ミカ氏が政府に提出した資料の一部に、中国の国営送配電会社「国家電網公司」の社章の透かしが入っていたことが3月に発覚した問題。大林氏は「ミス」と釈明し構成員を辞任したが、大林氏が政府や国際機関に提出した資料でも透かしは見つかった。中国企業の資料を大林氏が頻繁に利用していたことがうかがえる。中国企業が同財団を通じ日本の政策に影響を与えようとしたという疑惑は消えない。日本維新の会や国民民主党が国会で追及しているが、他の野党やメディアの大半が静かなのは、なぜだろうか。

経産省のヒアリングで提出された自然エネルギー財団の資料。右上にロゴの透かしがある。

◆メディアに支援される反原発活動家

理由は想像できる。大林氏は、孫正義氏が作った再エネの過剰重視と反原発を主張する自然エネルギー財団の事業局長だ。そして日本の反原発運動の中心の原子力資料情報室出身で、研究実績のない政治活動家だ。それなのにメディアに異様な量の登場をしていた。彼女は多くのメディアにとって、反原発、再エネの過剰な振興策、政府批判を唱える仲間だった。そのために批判もできないのだろう。

私は以前から何度かシンポジウムで、彼女と顔を合わせていた。その過剰な再エネ賛美をおかしいと思い、間違った点を指摘すると怒鳴り返されたことがある。冷静に議論のできない人だと思った。彼女は「高木仁三郎の弟子」とさまざまな場で繰り返していた。高木氏は反原発活動家で、主張は問題点も多かったが、人の話を聞き、人格的には高潔で、冷静な人だった。高木氏の長所を受け継いでいない。本当に弟子なのか疑いたくなる。

試しに朝日新聞の記事データサービスで「大林ミカ」と検索すると2024年4月まで、大林氏は本紙で28件、アエラなど同社グループメディアも含めると38件も登場した。個人では異例の数だ。ところが問題発覚後は1件だ。ここまで頻繁に、研究者でもない一活動家が朝日新聞に登場するのは異様だ。

同紙は「(ひと)大林ミカさん 国際太陽エネルギー学会の賞を受けた」(2017年11月27日記事)と彼女を紹介。「原発ゼロをたどって:6 仲間はもう増えないのか」(2018年7月31日記事)で、立憲民主党議員らと共に原発ゼロ基本法案作成に動く彼女を「「自然エネルギーのジャンヌ・ダルク」と呼ばれている」などと称えた。

東京新聞は事件について「これって再エネヘイトでは?」(今年4月20日)と、この問題をめぐる記事を掲載。「原子力ムラの巻き返し」などの識者コメントを載せ、再エネ叩きが騒動の理由との奇妙な記事を書いた。

既存メディアによう大林氏の異常な支援は、偏向と言っていいだろう。

◆中国企業が日本に政治工作を仕掛けた?

しかし、これでいいのだろうか。岸田文雄首相は、この問題を巡り3月25日の参議院予算委員会で「外国が日本のエネルギーシステムに関わることはあってはならない」と、質問に答弁した。事の本質は、そこにある。外国企業が、日本の活動家を通じて、日本の政策に影響を与えたかどうかが、問題解明の焦点であるべきだ。

この再エネTFは河野太郎氏が内閣府特命担当大臣(行財政改革、規制改革、国家公務員制度担当大臣)になった2020年に作られた。彼は一度離任した後22年に内閣府特命担当大臣(デジタル政策、規制)に再任され、再びこの委員会を動かした。河野氏主導で動いているため、通称「河野委員会」と呼ばれる。経産省と大手電力会社に対する批判に熱心なのが特徴だ。

それにしても、奇妙な組織だ。委員会という呼称を正式には使わない。また委員も構成員という名前だ。政府の特別委員会は、利害関係者を委員にしてはならない。大林氏は、再エネ事業も行う孫正義氏の作った自然エネルギー財団に籍がある。彼女たちを活用するために、このような曖昧な位置付けにしているのかもしれない。河野氏は反原発派で、中国の政府、企業と親しい。そうした中で、このようなTFを活用し、持論の実現に使うことに問題はないのか。「大林氏のミスと聞いている」と河野氏は繰り返すが、本当か。第三者による検証が必要だろう。

個人が再エネ振興、反原発の主張をすることは自由だ。しかし、そうしたきれいごとを表に出しながら、裏では中国政府が日本にエネルギー分野で政治工作を仕掛けているかもしれない。新聞・メディアには、この問題の真相を究明する報道を期待したい。原子力を巡る不祥事であれば、連日のように批判報道を展開する一部の大手メディアも、こと再エネ関係となると途端にペンの力が鈍る傾向にある。鹿児島県伊佐市や宮城県仙台市で発生したメガソーラー火災が深刻な問題を内包しているにもかかわらず、大きく報道されないのは、その典型といえよう。それこそメディアの偏向と言えるのではないか。

【記者通信/4月26日】宮古島でブラックアウト 「母線」の故障が原因


4月25日午前3時ごろ、沖縄県宮古島市でブラックアウト(全域停電)が発生し、周辺の離島を含む市ほぼ全域の約2万5500戸が停電した。沖縄電力によると、宮古第二発電所内にある発電機と送電線をつなぐ「母線」が故障。事故原因となった装置を切り離し、停電発生から約8時間半後の同日11時42分に全戸復旧させた。横田哲副社長は浦添市にある沖電本店で会見を開き、「宮古島の地域の皆様にご不便をかけたことを深くお詫び申し上げる」と謝罪した。なお、装置が故障した原因は分かっておらず、同社は今後、事故対策委員会を設置し、原因の究明を進める方針だ。

最大で約2万5500戸が停電した宮古島

【記者通信/4月25日】岩谷・コスモが水素拠点開設 資本提携を機に整備拡大へ


燃料電池(FC)搭載トラックなどに燃料の水素を大量に充填できるステーションが4月上旬、国内最大の貨物取扱量を誇る東京都大田区平和島の物流拠点「京浜トラックターミナル」に誕生した。岩谷産業とコスモエネルギーホールディングス(HD)グループの共同出資会社が運営するFC商用車向け水素ステーションだ。23日には、岩谷とコスモHDが資本業務提携を結んだと発表しており、これを機に両社は水素インフラの整備などで攻勢をかけたい考えだ。

水素ステーションの開所式に臨んだ(左から)コスモHDの山田社長、岩谷産業の間島社長、資源エネルギー庁の村瀬長官

4月8日に開所したのは「岩谷コスモ水素ステーション平和島」。岩谷とコスモHD傘下のコスモ石油マーケティングが2023年2月に共同設立した「岩谷コスモ水素ステーション合同会社」が建設した。トラックターミナル内への水素ステーション設置は国内初で、コスモHDグループ系列のSS(サービスステーション)に併設した。水素ステーションは、大型のFCトラックに短時間で大量の水素を充填できることが特徴だ。水素の貯蔵能力は3000kg。トラック1台当たり30kgの水素を入れる場合、100台分を充塡できる。同様のケースで、1台の充塡にかかる時間は10分程度になるという。

岩谷の間島寬社長は、同日の開所式で「コスモのSSに当社水素事業のノウハウを融合し、より効率的に水素ステーションを建設し運営したい」と強調。さらに地球上に無尽蔵に存在し利用時にCO2を排出しない水素の特性に触れ、「水素エネルギー社会の早期実現に向けてさまざまな取り組みを行いたい」と意欲を示した。

◆都有地2カ所にも拠点づくり                                     

岩谷コスモ水素ステーションは平和島での取り組み以外にも、東京都有地2カ所に25年以降に開所する水素ステーションの整備・運営事業者として選定されている。具体的には、江東区の有明自動車営業所内にFCバス向け水素ステーションを設けるほか、同区内にFCバス・FCトラック向けステーションの整備も計画しているという。

岩谷とコスモHD は、22年に水素分野の協業検討で基本合意して以来、関係を強化してきた経緯がある。23年12月には「物言う株主」関与の投資会社などが保有する2割弱のコスモ株式を岩谷が買い取り、筆頭株主となった。今回の資本業務提携に先立つ今年3月には、岩谷がコスモ株式を追加取得し、議決権ベースの出資比率を20.07%に引き上げた。

両社は提携を機に双方のノウハウや経営資源を持ち寄り、協業の領域を拡大。コスモHDグループ保有のSS網を活用した水素ステーションの整備拡大に取り組むほか、脱炭素関連事業の拡充なども狙う。コスモHDの山田茂社長は「(水素ステーションを整備する)歩みを加速するくらいの勢いで積み重ねたい」としており、そうした展開に提携で弾みをつけたい構えだ。 

政府がインフラ整備支援も課題

水素社会の実現に向けては、政府が23年6月に「水素基本戦略」を改定し、官民合わせて15年間で15兆円を投じる計画を打ち出した。その中に、多様な水素利用ニーズに応えられるよう水素ステーションの整備を促す方針も明示した。

政府が水素の有効な活用先として重視するのが、FCトラックだ。中でも移動距離が長い大型トラックには、十分な航続距離と短い充填時間が求められるため、電気自動車よりもFC車両が有望視されている。

すでにモビリティー分野の水素普及に向けては、経済産業省の主導で官民が議論を重ね、23年7月に中間的な取りまとめを公表。この中で、温室効果ガス排出ゼロに向けた国の実行計画「グリーン成長戦略」の達成に必要な車両の供給量を予測し、30年までに少なくとも1万7000台のFCトラックが必要と試算した。

資源エネルギー庁の村瀬佳史長官は、開所式で「意欲のある事業者や自治体に対して政策資源を重点的に振り向け、モビリティーにおける水素の利活用を先導したい」と強調。脱炭素社会の実現に向けて低炭素水素などの供給や利用を促す「水素社会推進法案」が閣議決定した動きにも触れ、「クリーンで大規模かつ強靭な水素サプライチェーン(供給網)が立ち上がり始め、水素の普及拡大の強力な後押しになる」とも述べた。

ただ、FC商用車を増やす取り組みは道半ば。自動車メーカーと物流・荷主企業、水素供給企業ともにFC車両と水素ステーションの先行きに不透明感を感じて投資計画を立てられない「三すくみの状態」となっているのが現状だ。物理・荷主企業にとっては、車両や水素燃料の価格が高いことも投資に踏み込みづらい要因となっている。経産省はこうした状態を打破する取り組みの一環で、「トラック向け水素ステーションを重点的に設置する地域を指定したい」考えだ。

岩谷とコスモHDは政府からの追い風を背に、水素普及への道筋をつけることができるか。両社が注力するFC商用車向け水素インフラ事業は、日本に水素社会が根付くかどうかの試金石の一つとなりそうだ。               

【記者通信/4月24日】自民党にe-メタン議連が発足 梶山・元経産相が会長就任


自民党の有志議員は4月18日、天然ガスの高度利用や脱炭素につながるe-メタン(合成メタン)の社会実装を促す議員連盟を立ち上げ、同日に初会合を開いた。会長には梶山弘志幹事長代行(元経済産業相)が就任。梶山会長は、e-メタンの社会実装に向け、技術開発やルール整備などが課題であることを指摘した上で、「カーボンニュートラル実現に向けて国の政策を進めていかなければならない」との決意を示した。

議連の初会合であいさつする梶山会長

議連の名称は「GXにおける天然ガスの高度利用とe-メタン促進に関する議員連盟」。初会合には、代理人を含む自民党議員が34人のほか、関係省庁、日本ガス協会の内田高史会長をはじめとする業界関係者らが顔をそろえた。

都市ガス産業では熱利用分野のカーボンニュートラルへの円滑な移行を目指し、将来的には天然ガスから既存のインフラ設備や消費機器をそのまま利用できるe-メタンに代替していく構えだ。

議連は5月までに3回会合を開き、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)への提言をまとめる。今回の会合では上流分野におけるLNG権益取得の確保などに焦点を当てたが、今後は中下流分野に着目した議論を進めるという。

会合後、記者の囲み取材に応じた事務局次長の山口晋衆院議員(元内閣官房長官秘書)は、「CO2カウントルール(の整備)が一番の課題」と指摘し、「日本の産業競争力が損なわれないような仕組みを作っていきたい」と述べた。

【記者通信/4月23日】電気料金が段階的に上昇へ 夏場に負担増が顕在化


今年5月から、電気料金が段階的に値上がりする。再生可能エネルギー賦課金の上昇と国による電気料金の負担軽減措置の終了が主な原因だ。また電力小売事業者によっては、容量市場の拠出金の支払い額を電気料金に転嫁するところもあり、その場合、利用者の負担額はさらに増えることに。標準家庭の平均的な使用量で月2000円以上の値上がりになるとみられる。加えて託送料金についても、レベニューキャップの導入という制度変更によって単価が上昇し、小売料金を押し上げるケースも発生してくる。エネルギー資源高や円安の進行もあいまって、需要期の夏場に電気料金の大幅上昇による利用者の負担増が顕在化する公算が大きく、業界関係者の一部では政治問題化することへの懸念も出始めている。

再エネ賦課金上昇と補助廃止でkW時5.59円上昇

まず再エネ賦課金については、23年度(23年5月~24年4月)は1kW時当たり1.4円と低水準だったが、24年度は同3.49円と2.09円上昇する。電力市場価格の低迷で回避可能費用が減少したためだ。22年度の3.45円を上回り、過去最高水準となる。また、国による電気料金補助については、現在1kW時当たり3.5円となっているが、これが5月分で1.8円に減少し、6月分から廃止される。これらの結果、6月以降の電気料金は4月までと比べ、月間使用量300kW時の標準家庭で1680円ほど値上がる計算だ。

これに輪を掛けそうのが、電力小売事業者による容量拠出金の支払いである。20年の初回入札で約定した1億6769万kW、金額にして約1.6兆円に上る負担の支払いが今年度から始まるのだ。朝日新聞社が新電力116社(回答75社)を対象に行った調査報告書によると、容量拠出金についてはkW時当たり2~4円未満が56社となったほか、41社が電気料金に反映させる方向であることが分かった。仮に平均値の3円が上乗せされると、標準家庭で900円程度の負担増になる。

なお、電気事業連会では、朝日新聞が4月14日付朝刊1面トップで「大手電力との不公平感」を強調する記事を掲載したことに対し、「日本全体の電力の安定供給は、電力の消費者に等しくメリットがあることから、容量市場における供給力(kW)の確保に係る費用を日本全体で負担することは消費者の皆さまにとって公平であり、また、供給力(kW)を中長期的に確保する仕組みは、電気料金の安定化など価格高騰リスクの抑制にもつながるものと考えている」との見解を公表している。

このほか、大手電力会社の燃料調達費も3月ごろからのエネルギー資源(原油、LNG、石炭)価格上昇や円安加速によって増加が見込まれている。これは燃料費調整条項によって4~6カ月後の電気料金に反映されるため、夏以降の電気料金に影響を与えることになる。

夏場の電気料金明細を見て驚くケースも

「エアコンなどで電力を多く使う夏場に、電気料金の上昇が顕在化するのは確実。オール電化や大家族の家庭では、前年同期に比べ数千円規模のレベルで負担が増える可能性もある。電気料金制度に関心のない家庭だと、7~8月の料金明細を見てびっくり、という展開になりそう。それで一部のマスコミや消費者団体、政治家が騒いだりすると、負担軽減措置の復活とかおかしな矢が飛んできかねない。そうならないためにも、今のうちから小売事業者などによる需要家への丁寧な説明が必要だろう」(大手電力会社関係者)

ちなみに、ガス料金についても、国の補助金が現在の1㎥当たり15円が5月に7.5円に縮小し、それ以降は廃止される。月平均30㎥を使用する標準家庭で600円程度の負担増となるが、ガスについては夏場の使用量が少なく冬場に増えるため、補助金廃止の影響が顕在化するのは今年の冬になりそうだ。

今後も料金上昇傾向は続く!? 負担抑制は省エネ推進で

「さまざまな物価が上昇する中で、エネルギー価格も例外ではないわけだが、エネルギーの場合は省エネ化を進めることで、支払い額を抑えることができる。また、地球温暖化対策にも貢献することになる。その意味で、小売価格低減のために国の税金を注ぎ込むことは、もう止めたほうがいい。これは、人気取りの政治判断で継続が決まった燃料油補助についても当然充てはまる。市場を通じた価格形成メカニズムを歪めるだけだ」(エネルギー市場関係者)

小売り事業の全面自由化をはじめとする電力システム改革が始まった当初は、競争促進による料金の低廉化が狙いの一つにあったが、ふたを開けてみれば、再エネの大量導入や原発稼働停止の長期化、火力発電の維持コスト・燃料費の上昇など複数の要因によって、価格の上昇傾向が鮮明になっている。2023年度に導入された「託送料金のレベニューキャップ」も、小売価格の押し上げ要因になるとみられている。「今後も、世界的なエネルギー資源価格の上昇や、カーボンニュートラル化への対応、安定供給システムの維持などを背景に、電力事業におけるコスト増加は避けられそうもない」(前出の市場関係者)。今となっては、電気料金が安い時代の到来は、夢のまた夢なのか。

【記者通信/4月22日】東ガスがLNG基地点検でドローン活用 作業時間3分の1に


東京ガスは4月16日、ドローンを用いて巨大なLNGタンクを点検する作業を、報道陣に初めて公開した。舞台は茨城県日立市留町にある日立LNG基地で、人の目視に頼っていた作業時間を従来の90分から3分の1に短縮することに成功。今後は蓄積した経験やノウハウを生かし、他のLNG基地にドローンを展開することを目指す。先進技術を保安業務に生かす「スマート保安」の先行事例として注目を集めそうだ。 

ドローンを使ったLNGタンクの点検作業

ドローンを点検に取り入れたのは、東京湾外に立地する日立LNG基地。地上式としては世界最大規模の基地で、高さ約60m、直径約90m、容量23万klのタンク2基からなる。この日の説明会では、ドローンが実際にタンクの上部付近まで上昇して点検する様子を披露。ドローンはLNGタンクのほかLPGタンクの周辺も飛行した。

活用するドローンは、自動飛行機能を備える米国製。点検を担う作業員は、ドローンから送られてくる高精細な4K映像をタブレット端末の画面で確認しながら、タンク上部のポンプや張り巡らされた配管などに異常がないかを確かめていた。

これまでは、一人の作業員が地上50m超の長い階段を上り下りし、設備を毎日点検していた。このため作業員にかかる負担は大きく、ドローンで作業を効率化する対応が求められていた。さらに高所で作業を行う機会が多い点検の安全性を高める観点からも、ドローン活用が望まれていたという。

そこで、実証試験を経て2023年9月からドローンによる点検作業を開始。週に6日のペースでドローンによる点検を行うことにした。担当者は「人が入っていきにくい場所の点検業務の効率化にドローンは有効だ。今後はAIによる画像判定技術を組み合わせ、業務を高度化していきたい」と手応えを強調。ドローンの活用範囲を、海上設備などの点検業務にも広げていく構えだ。

【目安箱/4月16日】ENEOS不祥事を巡る報道はなぜ物足りないのか


ENEOSホールディングス(HD)社長に宮田知秀・副社長執行役員が4月1日付で就任した。女性への不適切行為で経営トップが2年連続で辞任したスキャンダルの後だ。日本を代表する大企業の企業の奇妙な事件だが、新聞報道は少なく浅い。なぜだろうか。

「2年続けてセクハラ不祥事」のなぜ?

同グループの売上高(予想)は2024年3月期で13兆4000億円と日本有数の大きさだ。石油元売り、非鉄金属、資源開発の各分野で、この10年の経営判断が次々と成果を出して業績は好調だ。会社の評判も良い。ところが経営トップは異様な行動をした。

杉森務前会長は22年8月に「一身上の都合」で辞任。ところが週刊新潮が「沖縄での代理店向けの酒席で女性に杉森氏が絡み、ケガまでさせた」と辞任の理由を暴露。同社は追加発表をして、新聞は「ENEOS前会長、女性へ「不適切な言動」―辞任理由を公表」(日経、同年9月22日)などと伝えた。各新聞は週刊誌に先を越され、事件の真相をつかめなかった。

さらに斉藤猛前社長は令和5年12月、酒席で酔って女性に抱きつき、それが内部通報で発覚し解任された。

2人のトップは、合併が繰り返された同社では、旧日本石油の営業・企画畑の出身。大方の予想通り、旧東燃出身で技術畑の宮田知英副社長が、4月1日に社長に就任。宮田氏は「経営層が問題起こさない仕組みが不十分だった」と述べ、社内改革を進める意向を示した。

◆物足りない報道 企業の内部に踏み込めない

ところが報道は物足りない。「ENEOSHD社長解任、斉藤氏―2代連続で不適切行為」(日経、22年12月21日)などと、ENEOS側の発表を単に伝え、会見をそのまま流す記事ばかりだ。「水商売の女性に性暴力、相次いだ退場―ルールに昼夜の境なし」(朝日、22年9月28日)など、新聞の好きな女性の権利問題に引き寄せた記事は散見された。その視点は大切だが、それ以外に企業ニュースとして伝えるべき論点は多い。

辞職した2人は有能な経営者だったとされるが、なぜこんなことをしたのか。「仕事さえできればいいという古い価値観が会社に残っている」(同社中堅)という。どこの企業にもありそうな社内文化の「古さ」の根本的問題に迫るような記事は、多くの読者の興味を引くはずだ。

一方で、経営層による不祥事が起きても対処する仕組みをすでに作っていたため、問題発覚で是正をしたのは、ENEOSの経営の評価すべき点だろう。

ENEOSほどの大企業でも、日本のメディアは食い込んでいないため、広報発表に頼らずに独自の情報をなかなか集められないようだ。

◆企業取材の量が減っている?

総務省統計局によれば日本には368万社の企業があり、5795万人の従業員が働く(令和3年6月1日時点)。企業は現代日本で、大きな存在感を持つ。ところが新聞・メディアの報道は行政、犯罪が中心で、企業をめぐる報道は全体の中では少ない。

メディア不況の中で、記者の数が減らされて、個別の企業取材までなかなか手が回らないのかもしれない。

また理由の一つは、日本の記者の考えの「古さ」と筆者は推測している。金儲けを批判する「企業性悪説」の人がいる。批判的な視点のみで、嫌々取材しても、企業人の本音を引き出し、読者に役立つ記事は書けないだろう。

メディア不況が叫ばれる。その理由の一つは、日本で大きな割合を占める「企業人」のニーズに、メディア側が答えていないためではないか。

ENEOSの事件をはじめ、企業という面白いテーマを分析するエネルギーが日本の新聞に乏しいのは、もったいないし不思議だ。各メディアは取材と報道に、もっと頑張ってほしい。

【記者通信/4月8日】太陽光トラブル多発で国民に不安 国は法制度面で対策強化


太陽光発電設備を巡るトラブルで、国民の間に不安が広がっている。きっかけのひとつが、鹿児島県伊佐市のメガソーラーで3月下旬に発生した火災で、消防庁の協力を得て地元の関係機関が4月9日にも原因究明に向けた合同調査に着手する。時を同じくして総務省は、自治体の約4割で発電設備に起因するトラブルを抱えていたとする初の調査結果を公表しており、大きな議論を呼びそうだ。

傾斜地にある太陽光発電施設が崩壊した(山梨県甲斐市・団子新居地区)

伊佐市のメガソーラーで火災が起きたのは、3月27日。地元の伊佐湧水消防組合によると、「ハヤシソーラーシステム高柳発電所」敷地内にある軽量鉄骨造の倉庫で発火。同日午後6時8分に「白煙が見える」と119番通報があった。

消防隊員が屋外で排煙機材を設置する準備を行っていたところ、倉庫で爆発が発生。20~40代の隊員4人が負傷し、このうち2人が入院しているという。

鎮火したのは28日午後2時35分で、通報から20時間以上が経過していた。倉庫内には、リチウムイオン電池を用いた蓄電装置があったという。鎮火に時間を要した理由について、消防担当者は「放水すると感電や爆発の恐れがあるため、自然鎮火を待つことにした」と説明する。

メガソーラーの蓄電設備で火災が発生した事例は特異なケースとみられる。そこで地元の消防組合は、消防庁の消防研究センターに協力を要請。地元警察とも連携し、爆発の原因究明などに向けた現地調査を近く始める計画だ。

◆市町村の約4割で問題発生

太陽光発電設備は、再生可能エネルギーの普及を後押しする国の固定価格買い取り制度(FIT)が2012年7月に導入されて以降、全国で急速に拡大。一方で、さまざまなトラブルが各地で続発している。総務省行政評価局が発電設備の認定件数上位の24都道府県の全市町村を対象に導入調査を行ったところ、回答を得られた 861市町村のうち41.2%に当たる 355 市町村で、発電設備に起因するトラブルなどが発生していると回答。さらに、市町村の2割弱(143市町村)で未解決のトラブルを抱えている状況も浮き彫りになった。

トラブルのイメージ。土砂崩れで太陽光パネルが崩落した(経済産業省のウェブサイトより)

調査で把握した主なトラブルは、①開発工事中の敷地や調整池から土砂や泥水が発生して道路や河川などに流入、②発電事業者による地域住民への説明が不足、③工事の施工内容が許可条件と相違、④稼働後の緊急時に対応できる事業者の連絡先が不明、⑤発電設備からの反射や騒音――といった事例だ。

◆現地調査の強化で経産省へ勧告

総務省は調査結果を踏まえ、再エネ事業計画の申請前に発電事業者が周辺地域住民への説明会を開くなどして事業を周知することを要求。その内容は、地域と共生した再エネ導入を求める4月1日施行の「改正再エネ特措法」の詳細設計に反映し、事前周知を計画認定の要件と位置付けた。関係法令に違反する事業者への早期是正を促すため、FITとそれに代わるFIPの交付金を一時停止することなども盛り込んだ。

さらに総務省はそれ以外にも、トラブルの未然防止に向けて発電設備の現地調査を強化するよう、事業者への指導権限を持つ経済産業省に対して勧告。法令違反の状態を放置した事業者が改善されない場合には交付金の留保などの必要な措置を講じることも、経産省に求めた。行政評価局は「地域と共生しながら適切に太陽光発電設備を導入することが大事。トラブルが起きないような体制づくりを促したい」と強調。経産省と自治体が円滑に情報連携を行うための環境整備も重視した。

斎藤健経産相は2日の閣議後会見で改正法に触れ、「施行後速やかに対応すべく本日、森林法違反が明らかな9件に対してこの措置を実施する。 引き続き関係省庁や自治体と連携しつつ、現地調査を行う体制も強化しながら、違反案件には厳格に対応し、地域と共生した再エネの導入を進めていく」との考えを示した。

NPO法人「防災推進機構」の鈴木猛康理事長(山梨大学名誉教授)は、行き過ぎた再エネ開発がもたらす災害を警告する著書「増災と減災」(理工図書、2023年)で知られる専門家。鈴木氏は「大規模な太陽光発電施設の建設を検討する際には、ローカルな土砂災害だけでなく、将来の森林や河川、海などへの影響まで考慮して評価する必要がある。そこをクリアしてから開発すべきだ」と強調。続けて「行き過ぎた再エネ開発は増災につながる可能性があり、そのリスクにしっかりと向き合ってほしい」と述べた上で、国土を適正利用するための新たな国土利用基本法を制定する必要性も説いた。

【記者通信/4月4日】洋上風力公募の八峰・能代沖を落札した旧JRE「背水の陣」


昨年末、政府は洋上風力公募の第2ラウンドで3海域(秋田県男鹿・潟上・秋田沖、新潟県村上・胎内沖、長崎県西海市江島沖)の結果を公表したが、秋田県八峰・能代沖に関しては港湾の利用重複が生じ、発表を先送りしていた。関係者が注目する中、3月22日に同海域の結果も公表され、旧ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE・代表企業、4月1日付でENEOSリニューアブル・エナジーに社名変更)、イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、東北電力のコンソーシアムが勝利した。併せて、昨年末発表の3海域も含めて、選定結果の詳細も公表している。

今回勝利したJRE陣営の計画では、合計出力37.5万kW(ヴェスタス製1.5万kW×25基)で、2029年6月末運転開始を予定している。これは入札者の中で最も早く、二番目の東京電力リニューアブルパワーの陣営は30年6月末、そしてJERAの陣営は同年12月末としていた。

JERA陣営は昨年末、男鹿・潟上・秋田沖を落札したが、その計画では28年6月末運開としていた。「リスクを承知でどの計画よりも早い設定としているが、工程が全てかみ合わなければ即遅れにつながる」(洋上風力事情通)という勝負の姿勢に関係者は驚いた。こうした姿勢や地域点の評価により、同海域で勝利を収めたわけだが、この結果を踏まえ「八峰・能代でJERAが優位に立つ可能性が高まった印象」(再エネ業界関係者)との声も出ていた。だが、蓋を開ければ、JERA陣営は男鹿・潟上・秋田ほどの攻めの姿勢は見せなかった。

価格点については、今回もFIP(フィードインプレミアム)基準価格が1kW時当たり3円という「ゼロプレミアム」で札入れし、120点満点を獲得。これはほかの2陣営も同様だった。洋上風力公募では、コーポレートPPA(電力購入契約)で需要家を確保し、FIT・FIPには頼らず収益を挙げるというビジネスモデルが確立されたといえる。

背水の陣制したJRE 第3ラウンドも火蓋切る

JREは、今回が背水の陣ともいえる戦いだった。

同社は2年前、ENEOSに約2000億円で買収されている。ENEOSとしては先細りが避けられない石油事業に代わる成長分野として再エネ事業を拡大させるため、米ゴールドマン・サックスなどからJREの全株式を取得した。JREは太陽光や陸上風力、バイオマス発電などのアセットを幅広く有し、買収に当たりENEOS側に開発リストを提示したと見られている。ただ、「当初からこれほどの巨額を投じる価値があるのか」といった声が出ていた。ENEOSに買収額分の価値があったと認められるためには、洋上風力公募での勝利が必要だった。

しかし、第1ラウンドは三菱商事陣営が全勝。そして昨年末発表された海域のうち、JRE陣営は長崎・江島沖で札入れしたものの、落札はならなかった。促進区域の指定にも限りがあり、公募があと数回で終わる可能性が高まる中、今回落札できたことは大きな成果となった。「JREでは、会長を務めていた安茂氏が2月に不祥事で退任したことで、社内にも動揺が広まっていたが、『背水の陣』で挑んだ公募を無事落札できたことは、新生・ENEOSREの船出に当たっても間違いなくプラスに働くだろう」(エネルギー業界関係者)

他方、今回の八峰・能代沖に入札していたわけではないが、コスモエコパワーや東京ガスなどはいまのところ未勝利のままだ。以前はコンソーシアムの再編が激しかったが、勝利した陣営が現在のアライアンスの枠組みを解消するマインドになることは考えにくく、洋上風力参入の可能性はじわじわと狭まっている。今年1月下旬には、第3ラウンドの青森県沖日本海(南側)、山形県遊佐町沖の公募が始まった。年末発表の予定だが、今度はどのような競争が繰り広げられるのか。