【記者通信/7月3日】電気ガス代支援「再開」 国費4500億円!?の無理筋な理由づけ


斎藤健経済産業相は6月28日、物価高と酷暑を乗り切るために、8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を行うと発表した。政府による電気・ガス料金に対する補助金は昨年1月から今年5月使用分まで投入されていたが、わずか2カ月で事実上の再開となった。ガソリンに対する激変緩和措置は年内に限り継続するとした。

電気ガス料金支援で会見する斎藤経産相(6月28日)

電気ガス料金支援は、今夏の酷暑を乗り切る観点から、8、9月使用分の負担軽減を重点化した。電力の低圧については8、9月が1kw時当たり4円、10月が同2.5円。都市ガスについては8、9月が1㎥当たり17.5円、10月が同10円の補助を行う。斎藤氏は28日の会見で、記者からの質問に対して「(激変緩和対策事業の)『再開』ではない。この夏の酷暑を乗り切り、かつ即効性が高い政策として必要だと判断した」と強調したが、実質的には「再開」だ。

そもそも、電気ガス料金に絞った一律の補助は必要なのだろうか。6月、所得税と住民税所得から一定額を控除する定額減税が始まったが、これ自体が家計に対する一律の補助となっている。斎藤氏は会見で「(為替など)一定の変動があったとしても0.5ポイントの物価押し下げ効果が得られるように水準を設定した」と述べたが、共同通信が6月下旬に実施した電話世論調査では、家計への支援に「有効だとは思わない」との回答が約7割に上っている。

「酷暑」と「物価高」というが……

補助金の再開は「選挙目的」との批判を免れないだろう。2023年1月~24年5月に実施された電力・ガス価格激変緩和対策で約3.7兆円の国費が投入されたことを踏まえると、今回の酷暑対策における補助総額はおよそ4500億円に上ると試算される。それだけの税金を投じる意味があるのかどうか。一連の負担軽減策を行う理由について、政府は「酷暑」と「物価高」を挙げる。前者については、今夏は「史上最も暑かった」とされる昨夏並みの暑さが予測されるが、文字通りの酷暑対策だとすれば7月使用分が含まれないのはおかしい。

一方、物価高については、主な原因は円安だ。その要因としては日米の金利差、1月に開始した新NISA(少額投資非課税制度)、海外企業に対するAIやクラウドサービス利用料の増加などが挙げられる。金利を断続的に引き上げたり、新NISAを国内株に限定したりすれば円安に歯止めを掛けられるはずだが、政府や日銀はそれを行ってこなかった。企業の収益悪化など経済への悪影響を恐れているからだろう。

緩和的な金融環境を維持することで、企業が儲かり賃金が上昇し、強い需要に支えられた基調的なインフレ率を実現しつつ、円安による一時的な物価高には金融引き締めではなく、補助金などの弥縫(びほう)策で対応する――。これが政府と日銀の協調姿勢だが、弥縫策での支出は必要最小限であるべきだ。肝心の為替も、3月のマイナス金利解除や日銀の介入で円高に転じるどころか、7月3日午後3時現在161円90銭と円安に歯止めの掛からない状況に陥っている。

斎藤氏は会見で「これらの補助は脱炭素化の流れやGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みへの影響を考慮すれば、いつまでも続けるべき政策とは言えない」と語った。6月4日に閣議決定された2023年度版エネルギー白書も、激変緩和措置について「巨額の予算で長期間実施し続けることは現実的ではない」と指摘している。岸田文雄首相は秋の策定を目指す経済対策として、低所得者世帯などを対象に追加給付金や重点支援を講じる構え。一律の電気ガス料金支援は10月使用分を最後とし、継続するのであれば、中小企業などターゲットを絞った支援に切り替えることが求められる。

【記者通信/6月28日】電力株主総会報道への違和感 今年も〝恒例行事〟の見出し一色


「脱原発株主提案、電力9社が否決」(毎日新聞)、「原発への姿勢問う声相次ぐ」(朝日新聞)、「電力大手、原発再稼働に批判の声 経営陣、地元重視を強調―株主総会」(時事通信)――。6月26日に開かれた大手電力9社の株主総会を巡って、今年も脱原発を求める株主提案が否決されたことを大手メディアが一様に報じた。見出しは「脱原発提案否決」のオンパレードだ。

かねてから、大手電力会社の株主総会では、原発反対派の株主が脱原発を提案し、それを経営陣が否決するという展開がある種の恒例行事となっている。とりわけ、2011年3月の東京電力福島第一原発事故後はその傾向に拍車が掛かり、メディアもその切り口で株主総会を大きく取り上げてきた。

だが、カーボンニュートラル社会の実現や電力安定供給の確保、電気料金の上昇抑制という社会的要請が急速に強まり、国のGX(グリーントランスフォーメーション)政策の中で原子力の重要性がクローズアップされている現在、株主総会の内容にも変化が表れている。にもかかわらず、これまでと全く同じ〝紋切り型〟の見出し・報道に終始するメディアには違和感しかない。

「このところの電力株の動きを見ていても分かる通り、原発稼働が株価の上昇に寄与しているのは明らかだ。その意味では、原発反対ではなく、原発の安全で安定した稼働を求めるのが真っ当な株主の姿だろう。少なくともマスコミの経済部に身を置く記者なら、そうした現実は百も承知のはず。それなのに、『脱原発提案否決』という見出しの記事ばかりが目立つのは、記者のやる気がないか、メディアの報道姿勢に問題があるとしか思えない」(大手エネルギー関係者)

大手電力会社の経営陣は総じて、株主総会の場で、電力安定供給や電気料金の低廉化、脱炭素化への対応のため、安全・安心を大前提にした原発稼働の必要性を繰り返し強調している。そのことが、とりもなおさず株主価値の向上につながるとの判断があるからだ。そうした点に着目した報道が、もっとあってもいい。

【記者通信/6月28日】洋上風力発電で人材育成 経産省と民間事業者がタッグ


洋上風力発電事業の担い手を育てる官民の取り組みが動き出した。経済産業省が、洋上風力発電を支える人材の育成に向けて商社やエネルギー事業者が立ち上げた協議会と連携し、産学による人材育成活動を後押しする。洋上風力発電は、裾野が広く新しい産業分野だけに人材育成に必要なノウハウが十分に蓄積されておらず、官民一丸の対応が求められていた。

洋上風力発電を支える人材の不足が見込まれている

海産研と9社が協議会立ち上げ

経産省がタッグを組むのは、海洋産業研究・振興協会(海産研)が事務局を務める「洋上風力人材育成推進協議会(ECOWIND、エコウィンド)」。同協会は21日、グリーンパワーインベストメント、丸紅洋上風力開発、九電みらいエナジー、三菱商事洋上風力、ENEOSリニューアブル・エナジー、JERA、三井物産、住友商事、東京電力リニューアブルパワーの9社と共同で立ち上げたと発表した。

今後は、ECOWINDに参画する企業や教育・研究機関と協力し、洋上風力に関わる専門スキルを整理して体系化。各スキルの基礎知識や実務上の要点をわかりやすく解説する副読本を2024年度中に作成する計画だ。資源エネルギー庁は「ECOWINDと連携し、産学による効果的な人材育成策を探っていきたい」としている。

ECOWINDとしては、産業界のニーズと教育・研究機関のシーズを結び付ける活動を促す。例えば、高等専門学校(高専)や大学を対象に出前授業や補助教材の作成に取り組むほか、学生が現場を見学したりインターンシップ(就業体験)に参加したりする機会の提供を想定している。洋上風力業界に対する理解を醸成し、就職の選択肢として意識してもらえるようにしたい考えだ。

建設工事や維持管理の担い手不足

洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札として期待されている発電方式の一つ。政府は洋上風力の発電量として、30年までに10GW、40年までに30~45GWを目指す方針を示している。一方で、今後各地で動き出す洋上風力発電所の建設工事や長期にわたる発電設備の維持管理の担い手の不足が見込まれており、人材の育成と確保が大きな課題となっていた。洋上風力産業の国際競争力を強化する観点からも、人材面の環境づくりが喫緊の課題となっていた。

こうした中で経産省は、人材育成の推進に向けた枠組みを産業界一丸で立ち上げることを呼びかけていた。すでに22年度から、洋上風力に関する専門知識を学ぶためのカリキュラムの作成や専門作業員を養成する訓練施設を整備する教育・研究機関などへの支援に取り組んでいたという。

高専機構(東京都八王子市)では、次世代基盤技術として注目を集めるAI・数理データサイエンスや半導体などの6分野を高専教育に組み込む「COMPASS5.0事業(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)」を産学連携で進めている。24年度からは同事業の対象分野として、洋上風力に関わるエネルギー分野が追加された。経産省としては、同事業とECOWINDの活動が効果的に連携できるようサポートすることにも意欲を示している。

【記者通信/6月27日】環境次官に財務出身の鑓水氏 環境省らしさ発揮できるか


環境省は6月25日、幹部人事(7月1日付)を発表した。和田篤也・事務次官(1988年)が退任し、後任には鑓水洋・総合環境政策統括官(87年)が就任する。財務省からの移籍組の次官就任は、中井徳太郎氏以来3年ぶりになる。下馬評通りの順当な人事といえるが、ここ数年存在感が低下したと指摘される環境省の失地回復をどう図るか。鑓水氏の手腕が問われることになる。

環境次官に就く鑓水氏

鑓水氏は87年に大蔵省(現財務省)に入省し、国税庁次長など財務省の本流を歩んできた。環境省の事務官不足が深刻化していたことを背景に、当時の杉田和博・官房副長官の一本釣りの形で2021年に環境省に異動した。移籍後は次官への登竜門といわれる官房長、総合環境政策統括官を歴任した。

本来は、昨年の人事で鑓水氏の就任が想定されていたが、「官房長だけ務めて環境省全体の業務に精通していない。経験を積む必要があり、次官就任後のリーダーシップにかかわる」(関係者)との理由で就任が一年遅れた形だ。

経産省の下請け的存在から脱却できるか

しかし当時は別の見方もあった。ある事情通は、経済産業省との関係性から遅れたと指摘した。「脱炭素政策を主導する経済産業省が財務省出身の鑓水氏を警戒していた。経産省との関係にひびが入ることを懸念した環境省側の忖度が働き、一年留年という運びになった」という見方だ。

経産省主導の脱炭素政策はグリーントランスフォーメーション(GX)としていわば産業政策で日の目を見て、環境省の役割は地方の脱炭素を進めていくという形になった。カーボンプライシングなど環境省が従来推し進めてきた政策は吸収された格好だ。

こうした経緯がありながらも、今回晴れて次官就任の運びとなった鑓水氏だが、省内外の評判は悪くない。ある有識者は「堅実で肝を押さえている人だ。環境省らしい政策を打ち出してくれるのではないか」と期待を口にする。環境政策に精通するある財界人も、「ここ最近は環境省が経産省の下請けみたいな形になっているように思えてならなかった。バランスを保ちながらも環境省が持つポテンシャルを生かしてくれるのではないか」と歓迎する。

小泉進次郎氏が大臣時に、経産省に対し派手に喧嘩を売るようなマネをしたことで両省の関係は相当冷え込んだ時期もあった。その反動から、和田2年体制では経産省との対立を徹底的に避け、関係修復を図ってきた。しかし一部からは「顔が見えない」「降りすぎ」との指摘も絶えなかった。鑓水氏には顔が見える環境省を作りだすことができるかが問われているといえよう。

次の次官候補は秦氏 来年以降は流動的に

鑓水氏の次官就任が順当な一方、事務次官級ポストの地球環境審議官は異例ともいえる松沢裕氏(89年)が留任することになった。松沢氏の手腕は評価されているものの、地球審のポストは一年交代が通例だ。幹部人材が不足している現状を象徴している人事になった。

筆頭局長といえる総合環境政策統括官には、秦康之・地球環境局長(90年)が就任する。和田体制の女房役であった秦氏は、今回の人事で次官の芽が出てきた。地球環境局長には秦氏と同期の土居健太郎・水大気環境局長(90年)が就く。国際通でもある土居氏はかねて将来の地球審との呼び声が高く、松沢氏の後任になる公算が大きい。

地球環境局長に就く秦氏

今回は全体的に順当な人事になったが、来年以降が流動的だ。鑓水氏の後任と目されているのは、留任する上田康治・官房長(89年)だ。直近では、水俣病の被害者遺族との対話とその後の対応が大問題に発展した。差配の不手際も目立っただけに再びトラブルが起きれば、波乱の人事になる可能性も否定できない。

【メディア論評/6月26日】中部電と中国電を巡る注目事案 カルテルの経験は生かされたか


去る5月28日、電力業界関係で、それぞれは別のジャンルの話であるが、二つの発表があった。一つは中部電力が、大口需要家向け都市ガス供給に関する東邦ガスとのカルテル(不当な取引制限)で排除措置命令および課徴金納付命令を受領した件で、元取締役1人に約7000万円の損害賠償請求することを発表した。もう一つは、消費者庁が、中国電力に対して不当景品類及び不当表示防止法に規定する不当表示で課徴金約16億円の納付命令を出したと発表した。それぞれの事案における両社の対応を、電力4社カルテル事案(「特別高圧・高圧のエリア外での営業活動の制限」)への対応の経験により、リスク感覚がどう磨かれていたかという視点で見てみる

◆中部電力  東邦ガスとのカルテルで元取締役に損害賠償請求

3月4日、公正取引委員会は、東邦ガス供給区域に所在する大口需要家向けの小売供給において、独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止)に違反する行為があったとして、中部電力に課徴金納付命令、中部電力ミライズに排除措置命令および課徴金納付命令を出した。この件に関して中部電力は、5月28日、排除措置命令および課徴金納付命令等の受領に係る元取締役の「任務懈怠(けたい)」に対して、約7000万円の損害賠償請求を発表した。本件に入る前に、それ以前にあった電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過について振り返っておく。(電力4社=関西電力、中部電力・中部電力ミライズ、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー) 

1電力4社カルテル事案への中部電力の対応経過(振返り)

中部電力は、電力4社カルテル事案については、2021年4月13日の公取委による立入検査以降、否認の立場を貫いている。23年3月30日に公取委から排除措置命令および課徴金納付命令を受けた同日、取消訴訟の提起決定を発表、その後23年9月25日に訴訟提起したことをプレスしている。一方、株主からは23年6月21日に現旧取締役の責任追及の訴え提起を受領したが、23年8月9日に訴えを提起しないことを決定してプレス、これに対して23年10月12日に株主代表訴訟が提起されている。

〈電力4社カルテル事案の経過〉

◎21年4月13日および7月13日   公正取引委員会による電力4社立入検査

21年4月13日  中部電力・中部電力ミライズ、関西電力、中国電力

21年7月13日  関西電力、中国電力、九州電力・九電みらいエナジー

◎22年12月1日  事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令および課徴金納付命令に係る意見聴取通知書受領と適時開示          

◎23年3月30日  事前リーニエンシーをした関西電力を除く電力3社、公取委より排除措置命令及び課徴金納付命令 

●本件に関連しての経産省関係の動き

・23年3月30日  電力・ガス取引等監視委員会より電力4社に、独禁法違反に関して電気事業法に基づく報告徴収

→4月12日  電力4社 報告徴収への報告

・23年3月30日 経産省より電力4社に小売事業の健全性確保の観点から法令等遵守のための指示

・23年4月3日  経産省 電力4社に対して補助金交付等の停止及び契約に係る指名停止等の措置

・23年7月14日  経産省 電力4社に業務改善命令

・23年7月28日 中部電力・中部電力ミライズが業務改善計画

 (他3社は8月10日)

◎中部電力 取消訴訟提起

・23年3月30日  取消訴訟提起決定

・23年9月25日  訴訟提起 プレス

◎本件に関する株主代表訴訟 中部電力

23年6月21日  株主からの現旧取締役の責任追及の提訴請求 受領

・23年8月9日   訴えを提起しないことを決定(プレス)

〈株主からの提訴請求への対応〉当社取締役とは利害関係のない外部法律事務所に調査を委託し、その結果を監査役会にて精査し、対応を検討してまいりました。検討の結果、本日、当社の全監査役は、当社の現取締役および元取締役20名に関し、本提訴請求書で指摘のあった事項について、善管注意義務違反があったとは認められず、責任追及の訴えを提起しないことといたしました。〉

⇔会社が60日以内に訴訟を提起しない場合、または提訴しないという回答を得た場合、株主自身が会社を代表して訴訟を提起

・23年10月12日 株主代表訴訟提起 当時の取締役14人約376億円

【記者通信/6月26日】経産省が主要幹部人事 エネ基改定などに対応


経済産業省は6月25日、主要幹部人事(7月1日付)を発表した。飯田祐二・経産事務次官(1988年)、村瀬佳史・資源エネルギー庁長官(90年)ら局長級の多くが留任となる中、ナンバー2ポストの保坂伸・経産審議官(87年)が退き、後任に松尾剛彦・通商政策局長(88年)が就任する。松尾氏の後任には、荒井勝喜・大臣官房審議官通政局担当(91年)が就く。経済産業局長には次官候補の一人と目される藤木俊光・官房長(89年)が、また藤木氏の後任には片岡宏一郎・福島復興推進グループ長(92年)がそれぞれ就く。山下隆一・経産局長(89年)は中小企業庁長官に就任する。貿易経済協力局は「貿易経済安全保障局」に改称され、局長には福永哲郎氏(91年)が留任する。

留任する飯田事務次官
経産審議会に就く松尾通政局長

エネルギー・環境関係では、畠山陽二郎・産業技術環境局長(92年)が資源エネルギー庁次長に就く。畠山氏の後任は、菊川人悟・大臣官房審議官経産局担当(94年)。振り返ると、2020年のエネルギー基本計画見直し議論の際、当時の産技局長だった飯田祐二氏がエネ庁次長に充てられており、現在議論が進む第7次エネ基をにらんだ人事と見る向きもある。松山泰浩・エネ庁次長(94年)は「2025年日本国際博覧会協会事務局運営基盤調整統括室長(仮称)」となる。新設する脱炭素型経済移行推進審議官兼GXグループ長には、龍崎孝嗣・政策立案統括審議官兼主席GX機構設立準備政策統括調整官(93年)が就く。

エネ庁次長に就く畠山産技局長

斎藤健・経産相は同日の閣議後会見で、今回の幹部人事に言及し、「日本の経済社会構造の転換が求められる中、経済産業政策の新機軸の推進、エネルギー基本計画の改定、半導体戦略をはじめとする経済安全保障の確立、大阪・関西万博の開催準備などに万全を期す。そして継続性を確保しつつ、重点施策を着実に推進していくことが必要であり、このために飯田事務次官、村瀬資源エネルギー庁長官など多くの幹部を留任させる。また、松尾通商政策局長を経済産業審議官に、中小企業の成長支援などがマクロ経済政策、産業政策として極めて重要となっている局面であることを踏まえ、山下経済産業政策局長を中小企業庁長官に登用する」と説明。「これからも年次や職種にとらわれない適材適所の人事を行っていく」との考えを示した。

【記者通信/6月21日】電気・ガス代補助が再開へ 岸田首相は期限付き措置を強調


これまで記者通信で2回(4月23日付5月28日付)にわたって指摘してきたことが現実になった。岸田文雄首相は6月21日、通常国会の閉幕を受けた会見の場で、「酷暑乗り切り緊急支援」として、電気・ガス料金への補助(負担軽減措置)を8月から3カ月間再開すると表明したのだ。そもそも、再生可能エネルギー賦課金の上昇と負担軽減措置の廃止で、7月分以降の電気料金単価が前年同月比で㎾時当たり9.09円上昇することは今年度当初から分かっていたこと。値上がりを承知の上で補助廃止を決めておきながら、なぜ今になって再開に踏み切ることにしたのか。電力業界の関係者が言う。

「大きく三つの理由が考えられる。まずは5月ごろから、大手一般紙から週刊誌、テレビ、ネット系までメディアがこぞって電気料金上昇問題を巡って騒ぎ出したこと。二つ目が、円安、資源高傾向が思いのほか続いており、電力各社で燃料費調整条項に基づく値上げが相次ぎそうなこと。そして三つ目が、何と言っても秋の衆院選対策だろう。今の電気料金上昇局面で本来、政府が講じるべきは利用者の省エネを支援してエネルギー代抑制とともに省CO2対策を図る政策展開のはずなのに、結局、国民ウケを狙った税金バラマキという最も安易な手法に走ってしまった。だいたい夏場に家庭用の使用量が激減するガス料金についても補助を復活するなど意味が分からない。識者を中心に悪評高い燃料油補助金についても年内いっぱい継続することも表明したが、木を見て森を見ずの政権の無能ぶりにはあきれるばかりだ」

「省エネ支援こそ政府の役割ではないか」との声が聞こえる

6月4日に閣議決定された2023年度版エネルギー白書は、「燃料油価格激変緩和対策事業」で約6.4兆円、「電気・ガス価格激変緩和対策事業」で約3.7兆円の国費が投じられたものの、世界的なエネルギー価格の高止まりに加え、歴史的な円安が進む中で、一時的な負担軽減策だけでは対応しきれないと指摘。その上でエネルギー資源の大半を海外産に頼る現行のエネルギー供給構造から脱却し、原子力や再エネといった準国産エネルギーを軸に、強靭な需給構造への転換を進める重要性を訴えている。実に真っ当な問題提起だ。

一方、政府は脱炭素政策の一環としてカーボンプライシング(CP)の検討を進めている。CPとは「企業などの排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法」(資源エネルギー庁ウェブサイトより抜粋)。CO2を排出する化石エネルギー価格への補助は、少なくともCPの方向性とは合致しない。エネルギー価格を税金によって単純に安くするのではなく、省エネ機器や設備、電動車へのシフトをさまざまな支援で誘導していくことこそ、エネルギー高価格時代に政府が講じるべき政策だと思うが、どうか。

岸田首相「脱炭素の流れに逆行」「原発を速やかに再稼働」

こうした補助金に伴うエネルギーへの影響は、政権側も承知しており、岸田首相は同日の会見で、「ガソリンや電気・ガスへの補助金は、脱炭素の流れに逆行することもあり、いつまでも続けるべきものではない」「物価高に直撃されている地方経済や低所得者世帯の現状を思い、最も即効性のあるエネルギー補助を今回に限って講じることとした」と説明した。


 その上で、白書が指摘している日本のエネルギー構造の問題にも触れ、「今後、投資を活性化させ、国内産業を振興し、国民生活を豊かにしていくためには、わが国のエネルギー構造の脆弱性を克服し、低廉で安定的なエネルギーの自給を確保していかなければならない」「原発の再稼働が進んでいる地域と、まだ全く再稼働が進んでいない地域では、電気料金に最大3割程度の格差がある。安全が確認された原発を速やかに再稼働させるとともに、SMR(小型モジュール炉)など次世代革新炉の研究・開発・実装や、水素、ペロブスカイト(太陽電池の一種)、洋上風力を含めた、脱炭素電源への戦略的投資を確保する仕組みを早急に検討していく」などと強調した。


 今後、年内をめどに、エネルギー供給・産業構造・産業立地を総合的に捉えた国家戦略の策定を進めてまいります。現在、経済産業省で議論が行われているエネルギー基本計画見直し作業の中では、カーボンニュートラルや安定供給への対応を視野に入れた中長期的な観点から、日本の国益に適うエネルギー料金の在り方についても本腰を入れた検討を行うことが求められている。

【記者通信/6月21日】バイオ混合軽油を建設現場に 出光や鹿島など連携


北海道の工事現場で、使用済み植物油由来のバイオディーゼル燃料(BDF)を混ぜた軽油を利用する取り組みが動き出す。BDF混合の軽油は、産業ガス大手のエア・ウォーターが製造し、出光興産のサプライチェーン(供給網)を用いて、ゼネコン大手の鹿島が手がける建設現場へ届ける。こうした枠組みでBDFの地産地消を促すことで、地域の脱炭素化を後押ししたい考えだ。

北海道の建設現場で使うB5軽油

規格をクリアした「出光バイオディーゼル5」

今回のプロジェクトで利用するのは、軽油に5%以下のBDFを混ぜた燃料「B5軽油」。出光が6月中旬から建設現場へ供給する。

具体的には、出光が北海道製油所で製造する軽油と、道内のコンビニエンスストア「セイコーマート」の店内調理などから回収した使用済み植物油で作られたBDFを、エア・ウォーターグループのエア・ウォーター・ライフソリューション(札幌市)の石狩工場で混合して生産する。

その後は、出光が生産物の品質分析などを行い、石油製品の品質確保に関する品確法で定められた「強制規格」をクリアした「出光バイオディーゼル5」として、鹿島の工事現場へ供給。そこで建設機械や発電機向け燃料として役立てるという流れだ。

B5軽油のサプライチェーンのイメージ

出光販売部広域販売二課の栗原知哉課長はオンライン説明会で、「特約販売店のネットワークや小回りの利く配送能力などを生かして道内における供給網の拡大を目指すとともに、プロジェクトで得た知見などを生かして道外でも供給拡大を模索していきたい」と意欲を示した。

30年度「バイオ燃料転換率65%」 脱炭素化を促すインパクト

BDF分野で3社が連携する背景には、工事現場に押し寄せる脱炭素化という潮流がある。現場から排出されるCO2の大部分は建機などで使われる燃料に由来しており、BDFなどの低炭素燃料の普及が期待されている。ただ、利用拡大に向けては供給体制づくりや製造時の品質管理が必要となっており、こうした課題を踏まえた連携スキームとして今後の展開に注目が集まりそうだ。

3社は軽油の一部をBDFに置き換えることで、CO2排出量の削減に貢献したい考え。鹿島は、燃料の脱炭素化の一環で30年度に「バイオ燃料転換率65%」を達成する目標を掲げている。鹿島環境本部特別参与・本部次長の野口浩氏は、B5軽油の利用が広がれば「CO2削減効果という面でインパクトが大きくなるのではないか」との見方を示した。

【目安箱/6月19日】反原発運動に協力する元規制委員 敦賀問題の火付け役


「下北半島と敦賀半島を非核化する」。原子力規制委員会委員だった島崎邦彦氏は、2013年に、原子力発電所の調査をしながらこんな過激な発言をしたとされる。エネルギーフォーラム13年4月号の記事「下北半島非核化へ進む原子力規制委の視野狭窄」に掲載されている。今でもエネルギー関係者の間で語られる問題行為だ。

以下は、間接的に聞いた話だ。この発言の真偽を聞いた原子力反対派の人に島崎氏は「そこまで過激なことは言っていないが、地震だらけの日本に原発を作るのは問題」と答えたそうだ。

中立の求められる行政機関で役職にある人が、このような先入観を持って原子力規制という行政活動を行っていた。彼の任命した民主党政権の政治家、また任命に関わった当時の原子力規制の行政関係者の責任を追及し、もっと政治問題にしてもいいだろう。

◆政府批判を続ける島崎氏

島崎氏は14年に規制委員を退任した。退任後に、16年に当時の田中俊一規制委員長に面会し、地震の審査をもっと厳格にすることを求めた。そして反原発の主張を各所で続けた。非科学的な主張と反原発の記事で知られる岩波書店の雑誌「科学」で、彼は2021年に「葬られた津波対策をめぐって」という長期連載をした。10年ごろ原子力推進派によって、地震の振動や津波の想定が楽観的なものになり、それが福島第一原発事故の原因になったと主張した。それをまとめて「3.11 大津波の対策を邪魔した男たち」(青志社)という本を出している。

同書を読んだが、違和感を覚えた。島崎氏は当時、政府の地震関係の委員会のメンバーで、その後に規制委員となった。その邪魔をした原子力保安院の職員などは現在の原子力規制庁に横滑りをしている。彼の言う通りなら、そうした規制や警告を形にせず、自分の責任を棚にあげて、他人を攻撃していた。

さらに彼は各地の反原発訴訟で、原子力発電所の危険を講演して歩いている。直近では今年5月25日、金沢市で、志賀原発の差し止め訴訟の原告側の総会で講演している。一度、政府の役職に就いた人が、行政を批判して歩くのは、原子力政策、原子力規制政策に傷をつけけるものだ。

◆原子力発電所の過剰規制を主導

在任中の島崎氏の行動も問題は多かった。彼は規制委員として、2013年施行の新規制基準の策定に関与した。これは法律ではなく、政令扱いのため、国会など民主的なチェックをされていない。

その規定は、地震関係でかなり強い規制を取り入れた。活断層の上に原子力発電所の主要施設を置いてはいけないと言う規定はこれまでの規制基準にあった。その活断層と認定される期間を 「将来活動する可能性のある断層等は、後期更新世以降 (約12~13万年前以降)の活動が否定できないもの」と、書き換えた。以前は5〜6万年以降だったが、その結果、規制は強化された。そして廃炉になった時の補償規定などを定めないで、このルールは施行されている。

世界史上、12~13万年前は中期旧石器時代(30万~3万年前)の頃になる

この規制は、一度、国の認可で建設された発電所を、事後認定で使えなくする可能性がある。また活断層の判断期間が長期になったため、地震と地質の審査が長引き、原子力発電所の再稼働が遅れている。これは企業の財産権の侵害だ。

さらに彼は、地震と地質を巡る専門家委員会をという組織を作って、各サイトを調査させた。そこで14年に日本原電敦賀2号機で、活断層の疑いがあるとの判断が出た。これは法的に規定のない組織で、のちに原電などが反論し、「参考」という扱いになった。

ところが審査の中で、「活動性を否定することは困難」との認識が24年5月に石渡明原子力規制委員が主導する審査で示された。規制委・規制庁は6月6~7日に現地調査を行った。

この「否定することは困難」との論理は、「悪魔の証明」と言える。「悪魔の証明」とは、論理学の言葉で、反証することが困難な証明を言う。過去の断層から10万年の間に活動したかどうかを判定することも、未来に地震が起こらないことも、証明するのは困難だ。活断層を巡る議論は、このような不毛な取り組みが延々と続いているように見える。この審査は、島崎氏が規制委員としてルールを作り、始めたことだ。

◆個人が行政に悪影響を及ぼさない仕組みづくりを

原子力発電所を1年動かせば、1000億円前後の化石燃料の代替費用が節約できる。さらプラントの建設費は、新造で数千億円かかる。それの原資は国民の電気料金だ。原子力規制で、延々と続く、地震動や活断層の議論は、その費用の価値があるものだろうか。島崎氏のこれまでの発言を見ると、金銭や経済のことを考えている形跡がない。

原子力規制において、島崎氏が個人で過去と現在に起こした問題を検証するべきだろう。そして彼の発言の自由は十分尊重されるべきだが、今の不安を煽る、島崎氏の言論活動は、抑制するように、誰かが説得するべきであろう。そして、個人の人間が、行政組織に悪影響を今後及ぼさない、その悪影響を最小限度にする仕組みづくりを真剣に日本の行政で検討するべきであろう。

【表層深層/6月19日】豪州で浮上する原発導入論 世論調査で6割支持


資源供給国として日本と密接な関係があるオーストラリアの国民意識に、異変が起こっている。豪州政府の政策決定に強い影響力を持つシンクタンク、ローウィが実施した国民世論調査で、原子力発電の活用を支持すると答えた人の割合が過去最高の6割に達した。豪州では1990年代に制定した二つの法律で、原発の活用を禁じており、長い間原発の導入に関する議論はタブー視されてきた。しかし気候変動問題が浮上し、主力の化石燃料の存在意義が揺らいだことなどが契機になり、国民意識にも変化が出てきたようだ。2025年にも予定されている総選挙で政権奪還を狙う保守政党がこの調査結果に即座に反応し、原発の導入を選挙公約に含めることを明言した。原発回帰は日本だけでなく、世界でも顕著になってきた。

2011年の調査と「逆転」

ローウィは24年3月に豪州全土の成人2028人を対象に調査を実施した。日本の人口と比較すると約1万人の成人に調査したことになる。この調査は05年から始まっており、約20年間にわたって国民意識の変化を追跡している。項目は安全保障から外交、経済と貿易、社会課題など多岐にわたっており、エネルギーと気候変動の項目は常に注目されているという。

今回の調査では豪州の国民の61%が、原発に「やや」または「強く」利用することを、「やや」または「強く」支持すると回答した。「やや」または「強く」反対していると回答した国民は37%にとどまった。原発を「強く支持する」と答えた人は27%で、「強く反対する」(17%)を上回った。

東京電力福島第一原発の事故が発生した11年に、この世論調査では原発の導入を質問項目にした。その際の回答は、温室効果ガス排出削減計画の一環として原発を建設することに「強く反対」(46%)または「やや反対」(16%)の反対と答えた人は計62%に及んでおり、今回の調査で原発への期待感を示す国民意識が鮮明になったといえる。

勢いづく保守政党

今回の調査結果に溜飲を下げたのは野党自由党と、行動を共にする保守系野党だ。25年の総選挙に向けて、現労働党政権の打倒を日増しに強めている。すでに自由党のピーター・ダットン党首は、次期総選挙の選挙公約に「豪州国内6か所の原発新設」を掲げることを明言している。気候変動対策を重視する与党労働党との違いを鮮明にして、気候変動対策よりエネルギーの安全保障を重視する路線をひた走る。

ダットン氏はさらに思い切った政策を打ち出した。6月8日の豪州全国紙「オーストラリアン」で、政権交代を果たせば、現労働党政権が打ち出した温室効果ガス削減目標を「取り消す」と表明した。現政権は30年までに05年比で43%減という目標を掲げているが、「達成できる見込みがない目標に意味はない」とバッサリ切って見せた。

ドナルド・トランプ氏並みの強硬論をダットン氏が振りかざす背景には、今回の国民世論調査がある。豪州ではエネルギー価格の上昇と生活費の上昇圧力が国民を苦しめている。エネルギーの優先項目という質問で、回答者のほぼ半数(48%)が「家庭の光熱費の削減」を最優先事項と答えている。21年調査の同様の質問から16ポイントも上昇している。そして、ダットン氏を勢いづかせたのは「炭素排出量の削減」を最優先事項とすべきだと答えた人の割合で、21年調査に比べて18ポイント減の㊲%となり、国民が気候変動対策を最優先に求めていないことが浮き彫りになった。

【表層深層/6月12日】内閣府調査結果の波紋 再エネ大量導入改革は終焉か


内閣府が6月3日発表した、再エネ規制改革タスクフォース(TF)関連資料に中国国営企業のロゴが表示されていた問題に関する調査結果を巡り、波紋が広がっている。この調査では、ロゴの混入は「事務的な誤り」とし、「中国政府などから不当な影響力を行使され得る関係性を有していた事実は確認されなかった」と結論付けた。河野太郎規制改革担当相はTFを廃止すると明言し、再エネ規制改革の議論は規制改革推進会議に移すことで幕引きを図った格好だ。だが自民党内からは「調べが甘い」と指摘する声が挙がるほか、これまでエネルギー官庁や業界を糾弾してきたTFの手法を問題視する発言も飛び出した。中国ロゴ問題を契機に再エネ規制改革のあり方は立て直しを余儀なくされる。

中国国家電網のロゴマーク(右上)が入った問題の資料

◆「ケアレスミス」を強調した調査結果

中国ロゴ問題は3月22日に開催されたTFに、有識者の一人である自然エネルギー財団の大林ミカ氏から提出された資料の表紙以外のすべてに、中国国営のエネルギー企業の中国国家電網のロゴが表示されていたことに端を発する。

ロゴはこれ以前の会議や経済産業省、金融庁の会議にも表示されていたことが判明した。資料は大林氏が作成したことから、大林氏と中国政府との関係、再エネ規制改革の議論に中国政府の影響があったのではないかという疑念が生じた。

所管する内閣府は即座に資料を削除し、大林氏は有識者を辞任した。大林氏が所属する自然エネルギー財団は調査を実施し、記者会見などで中国政府との親密な関係性、議論への影響を否定した。

しかし事は簡単には収まらず、経産省や環境省が自然エネルギー財団からの政策意見の聴取を停止したり、国会でも詳細調査の実施を求めたりするなどの指摘が相次いだ。内閣府は追及に応える形で2カ月間にわたり関係者や関係機関へのヒアリング調査を実施した。

3日に公表した調査結果は、大まかに次の3点を結論付けた。

①TF資料へのロゴ混入は事務的な誤りであり、中国政府、中国の団体を出所とする資料は含まれていない中国政府などから自然エネルギー財団、財団職員への資金提供、会食や送迎といった便宜が図られていない

②省庁の会議などで財団職員から中国政府や中国国家電網に関する発言はなかった。中国に関する発言は、国際比較などの事実関係を除きなかった

③内閣府の調査は指摘されている疑念はなく、あくまでケアレスミスの類であったということを強調し、調査前の主張を繰り返したにすぎなかった。

河野規制改革担当相は4日の記者会見で、TFについて「議論の内容そのものには問題はなかった」と述べた。ただTFの今後については「一定の成果も上げたこともあり、タスクフォースは廃止する」と明言した。河野担当相の肝いりで作られたTFはあっけない幕切りとなり、一連の騒動は収まったように見えた。

◆かみついた自民党経済安保族

しかし異を唱えたのが自民党の経済安全保障推進本部だ。本部長で経済安保族のドンともいえる甘利明前幹事長は4日、会合後に記者団に対し「中国との関係については調べが甘いのではないか。引き続き厳しく、再度調べようという話だ」と苦言を呈した。部会としても政府に調査の継続を要請する意向も示した。

最も問題視したのはTFそのものの位置付けだ。内閣府の調査結果でも「(TFが)規制改革会議の答申の一部と誤解される恐れがあったことは否定できない」と指摘している。甘利氏は「この問題は極めて深刻で、大臣の私的な懇談会でそれがあたかも公的審議会と同等の権限を持たされている。そしてエネルギー担当省庁を呼んで、糾弾する。そんなこと許されていいのか。私的諮問機関に公的機関と同等の扱いをしないというのは『いろはのい』で、大臣としてそんなことやったら日本がどこいっちゃうかわからなくなりますから」と痛烈に批判した。

甘利氏がここまで問題にするのは中国が再エネを利用して他国から情報を取り出していたり、自国マネーを搾取したりしていることが国際的な問題になっているからだ。米国では中国製の太陽光パネルが跋扈し、そこからサイバー攻撃を加えられるなど損失が出ているという。バイデン政権も中国製を締め出す策を講じている。欧州でも中国製を締め出す方向に動き始めている。

G7で共有する問題でかつ緊張関係にある国であることの認識が欠如していることに、経済安保族からはあまりにも「能天気な話」と映るというわけだ。日本の危機意識の希薄さは欧米では有名な話になっており、例えばサイバー攻撃に関する国際情報網から除外されていることがある。甘利氏は「緊張関係にある国が、重要なインフラであるエネルギーを間接的に支配できることになる」と危機感をあらわにした。

◆規制強化と推進団体再考の必要性

2020年のカーボンニュートラル宣言を契機に、再エネの導入拡大のためにさまざまな規制を見直すことを目的で作られたTFだが、今後は規制改革会議で議論が継続する方針とされている。だが中国ロゴ問題によって、有名無実化するのではないだろうか。

岸田政権はグリーントランスフォーメーション(GX)として、脱炭素を進める施策を打ち出している。さまざまな規制はあるものの、国益やコストなどを踏まえながら担当省庁がそれぞれ担う時代になった。再エネについては主力電源として従来にはない仕組みが作られており、導入環境は20年当時と比べ格段によくなったといえよう。

再エネを巡っては度重なる事故や地域住民との軋轢、事業者の不正や衰退などで規制改革というより規制強化が必要になってきている状況にある。闇雲に開発や導入を叫ぶフェーズは終わり、社会に受け入れられるルールの下、開発や運営、管理をしていくフェーズに入った。その意味では大量導入のための規制改革の役割は終わったという見方もできる。

今回のやり玉に挙がった自然エネルギー財団は、再エネ導入を強力に推し進めていたパイオニアではある。内閣府の調査結果が公表された同じ日、同財団は凍結されている経産省や環境省との交渉を再開するとウェブサイトで宣言した。

しかし両省の関係者は「勝手に再開すると言っているが、再開を決定するのはこちら側で財団に言われる筋合いはない」と冷淡だった。霞が関筋は「これまでさんざん攻撃されてきましたからね。公開処刑もされてきたし。今回は手切れのいいきっかけになったかもしれません」。

同財団は再エネシンクタンク、コンサルタント的な役割を果たしていたが、中国ロゴ問題はこうした再エネ推進団体の必要性や役割を再考する余地を与えたのかもしれない。

【目安箱/6月11日】浮ついたエネルギー政策を懸念 GXもいいが…価格を下げて


岸田政権の経済政策の柱は、気候変動に対応したエネルギー供給体制と経済の作りかえ、GX(グリーン・トランスフォーメーション)という。もちろん、それは意義ある政策だ。しかし話が大きすぎる。私たち庶民の関心は、自らが今体験しているエネルギー価格の上昇だ。その改善のための政策に注力するべきではないだろうか。

24年5月13日、総理大臣官邸で行われたGX実行会議での岸田総理と大臣たち(首相官邸HPより)

「足元のエネルギー産業の状況はガタガタなのに大風呂敷を広げて大丈夫なのか」。エネルギー分野の担当が長かった経産省OBと会話をしたところ、最近の政府・経産省の行動を不安がっていた。この懸念に私は共感する。

◆気候変動対策でITや飛行機? 原子力ではないか

GX政策を2022年末から岸田文雄首相自らが唱えた。岸田首相は21年10月に政権についたものの、明確な経済政策を打ち出していなかった。そこで経産事務次官出身の嶋田隆秘書官の「気候変動対策で経済を作り替えよう」と言う入れ知恵に飛びついたのだろうと、ささやかれている。

GX政策の構想は壮大だ。16の産業分野にテコ入れし、23年度からの10年間で150兆円の投資、そのうち政府による出資20兆円を行うという。その20兆円は当初「G X債」を発行し、現在検討中の排出権取引での負担金、カーボンプライシング、事実上の炭素税などで支払う計画だ。

世界各国は、気候変動対策をテーマにした経済政策や大規模な国主導の投資計画をコロナ前に打ち上げていた。日本もそれに追随した。しかし、ウクライナ戦争やパレスチナ紛争の激化の中で、各国がエネルギー安全保障に注目する今、GXを唱えるのは少しずれているように思う。

そして関心の向き方がおかしい。岸田首相が最初にGXを語り始めた頃は「原子力発電の活用」を強調した。エネルギー問題に理解ある人はこの政策を期待した。気候変動対策で一番効果のある政策は、温室効果ガスを出さない原子力発電の推進なのに、日本では福島の原発事故の後遺症のためなかなか進まなかったためだ。

ところが、焦点がぼやけてしまった。GXでは支援の産業は16に拡大。新型原子炉の開発や送配電網の作り替え、燃料電池などは残っているものの、エネルギー産業の作り替えに直結する支援は目立たなくなってしまった。総花的になったのは、経済界からの要請を全て受け入れたためという。そのために経済界からの反対は少ない。

経産省内部では、潤沢な補助金で行政が行えるために、士気は上がっているという。そして同省は、国産半導体の支援や、国産航空機の製造も唱え始めた。高性能の半導体も航空機も、GXに多少は関わるだろう。しかし気候変動対策やエネルギー産業の強化に直接の関係はない。また半導体や航空機は残念ながら他国との競争で、日本のそれらの産業が厳しい状況に追い込まれている産業だ。経産省は時代錯誤の補助金による産業支援政策をやりたがっているように見えてしまう。

◆私たち庶民が求めるのは「安さ」

現実のエネルギー問題は、なかなか良い方向に動かない。それどころか問題は山積している。原子力発電所の再稼働は遅れている。その原因である原子力規制の改革は進まない。SNSで風光明媚な釧路や阿蘇での太陽光発電による環境破壊の映像が流れて、再エネへの不信感が高まっている。22年にひとまず完了したことになった電力自由化は、さまざまな問題が発生して制度設計の手直しが続く。エネルギー産業そのものの改革に本格的に手をつけず、GXという壮大な話を語る岸田首相と経産省を、私は一国民として浮ついていると思うし、不安を感じてしまう。

電気料金が7月から上昇する。〈政府の電気料金補助廃止が直撃!この夏は「災害級の暑さ」予想で国民生活どうなるのか〉と、夕刊紙の日刊ゲンダイは5月27日の記事で政府を罵った。これは一例だが、メディアは庶民の不満を代弁する形で、この値上がりを批判する。

電力・ガス料金は「値上げ」ではなく、これまでの「電気・ガス価格激変緩和対策事業」補助金が6月末で終わることで上昇する。繰り返されるメディアのセンセーショナルな政府批判にはうんざりする面もあるが、私たち庶民にはエネルギーを考える際に「価格」が注目されることを、報道を通じてあらためて感じる。

◆エネルギー産業そのものへのテコ入れを!

補助金は市場の価格決定メカニズムを歪める筋の悪い政策だ。22年度末から24年度まで、この補助金は総額約6兆5000億円にもなる。価格を下げる政策で行うべきは、エネルギーシステムの需要と供給の強化だろう。

需要を減らすために、省エネの推進が必要だ。エコポイントという過去に行った政策がある。供給を増やすには、エネルギー産業を強くし、その供給能力を増やすことだ。原子力発電所の再稼働、再エネが活用できる送配電網の作り替えというGXで語られた政策を、推進すべきだ。そうした本筋の取り組みを、政府・経産省は熱心にやっていないように思える。

このままでいいのだろうか。最初の関係者の心配に戻るが、今の政策は「足元のエネルギー産業の状況はガタガタなのに大風呂敷を広げて大丈夫なのか」という感想を、私は抱いてしまう。日本の産業構造の作り替えは必要だ。しかし目の前の現実の問題を放置して、未来を語っても仕方がない。岸田政権も経産省もスローガンばかりで足元がしっかりしていないように見える。

まずはエネルギー価格の抑制だ。多くの識者の言うとおり、エネルギー政策の目標を「価格」にしてもいい。首相も、最近の政治家も、今やるべきことをやってから、未来を語ってほしい。

【論考/6月7日】国際石油市場で今何が起きているのか 足元の価格安定に油断するな


6月2日、サウジアラビアなどのOPECプラス「有志国」は、2024年第3四半期まで原油生産量を概ね据え置くことで合意した。第4四半期以降に緩やかな増産に転じ、来年は今年対比、ロシア分を除けば日量平均130万バレルの増産を目標とした。一般に、「減産の継続」と報じられて分かりにくいが、この「減産」とは名目基準量や特定時点の生産自主目標量からの差分を指しているだけで、実質は「当面現状を維持し、来年に向けて増産を伺う」姿勢と理解しておけばいい。

中東情勢の緊迫化を背景に、ブレント原油価格は4月前半にバレル当たり90ドルを超えていた。4月初のイスラエルによる在ダマスカス・イラン公館周辺の空爆に端を発し、同月13日のイランによるイスラエル領を直接狙う示威的なドローン・ミサイル攻撃を経て、19日にイスラエルがイラン核施設を擁するイスファハンを限定空爆。しかしイラン、イスラエル双方に全面戦争回避の自制が働き、一連の軍事的応酬はひとまず終息した。これを受け、ブレント原油価格は5月半ばには80ドル近辺にまで下落した。

今回のOPECプラスの決定も、事前の大方の予想と概ね違わず、かえって来年の増産方針が注目され、直後のブレント原油価格はむしろ下落して80ドルを割り込んだ。1~5月は平均84ドルで昨年の年間平均と大差なく、また価格の変動幅も比較的小さい。足元では、国際石油価格は安定している。

今年の世界石油需給は引き締まる方向へ

しかし、OPECプラスの生産量据え置きは、今年末にかけて次第に世界石油需給を引き締めていくだろう。また、より根本的に、国際石油供給を支える秩序基盤が脆弱化している。目先の価格動向にとらわれない、慎重な考察が必要だ。

OPECプラスはOPEC側9カ国、非OPEC側10カ国から成るが、このうち原油生産量を生産枠に整合して変動する能力を有するのは、昨年5月以降に自主的追加減産を行ってきた「有志国」に限られる。サウジ、UAE、クウェート、イラク、アルジェリアのOPEC側5カ国とカザフスタン、オマーンの非OPEC側2カ国で、これが中核集団を成す。ロシアはこれら7カ国と協調した生産調整目標を掲げているが、有事の同国にとってその遵守は優先事項ではない。いずれにせよロシアを含め、他の参加国の多くは基準割当量に生産能力が追い付かず、実生産量は概ね横這いで推移し、従ってその参加は形式的なものにとどまる。今年初にアンゴラがOPECを脱退、同時にOPECプラスからも離脱したが、同国もこの「形式参加組」だったから、実質的な影響は乏しい。

昨年7月にサウジが単独で追加減産して以来、「有志7カ国」の原油生産量は日量2200万バレル強で推移している。本年1月以降にサウジ以外の6カ国が日量合計50万バレル弱の追加減産を約束したが、全体として守られていない。このうち特にイラク、カザフスタン両国は、第1四半期における超過生産量を今年中に帳消しにすべく追加減産を計画。これを加味した上で、直近の国際エネルギー機関(IEA)石油需給見通しに基づき、「有志7カ国」が5月以降に自主生産目標を遵守し、かつ他のOPEC産油国の原油生産量が4月時点の水準で一定と仮定すると、今年は年間平均・日量100万バレル超の需要超過となる。目標を超えた現行水準並みの生産量を見込んだとしても、今後次第に価格が強含みとなる展開を示唆する。非OPECプラスの増産を主導してきた米国で伸びが鈍化しつつあり、これが有志産油国に有利に働く。

またIEAが今年の需要増を日量110万バレルと堅く予想する一方、例えばOPEC事務局などは日量200万バレル以上とするなど、見通しには相当の幅がある。需要の強さ如何で、需給の引き締まりと価格への上方圧力が一層に鮮明となり得る。

【記者通信/6月7日】光合成細菌でCO2固定 出光が西部石油に実証設備


出光興産は、CO2を固定する光合成細菌の量産技術の確立に向けた取り組みで、京都大学発スタートアップのSymbiobe(シンビオーブ、京都市左京区)と連携する。両社がこの分野の協業で基本合意したもので、出光完全子会社の西部石油が運用する山口製油所(山口県山陽小野田市)の敷地内に実証設備を建設する計画。出光はこうした協業を通じて脱炭素化を後押しするとともに、新規事業の創出にもつなげたい考えだ。

紅色光合成細菌を培養する実証設備のイメージ(提供=出光興産)

CO2の固定に生かすのは、「紅色光合成細菌」と呼ばれる海洋性微生物。海の中に生息し、太陽の光を受けるとCO2や窒素を取り込み固定化する特徴を持つ。微生物開発で高い知見を持つシンビオーブと石油精製や石油化学事業を通じて技術やノウハウを蓄積する出光は、こうした細菌を温室効果ガスの固定化技術や有用な資材として社会実装する可能性に注目し、大量培養技術の構築を目指す。

27年度に商業プラントで検証

具体的には、まず海水やボイラーなどからの排ガス、太陽光を用いて、シンビオーブから提供を受けた細菌を「フォトバイオリアクター」で培養。バイオリアクターは透明のガラスチューブからなる装置を予定しており、培養の進行に伴い細菌が増殖し濃度が高まることで、リアクター全体が赤紫色に変化するという。その後は後処理を経て、アミノ酸などの有価物「グリーンバイオ資材」として生かす計画で、肥料や飼料などの用途を想定している。

まずは量産技術の実証に向けたベンチプラントを2024年度に建設し、検証を実施。その成果を土台に27年度には、小型商業プラントで生産性や採算性の確認を行う。将来的には、確立した技術を国内外に広げることを狙う。

製油所が事業転換へ

西部石油は、脱炭素の潮流などを踏まえて製造・供給体制を見直す出光グループの方針に沿って、3月に山口製油所の精製機能を停止。30年代までに温室効果ガスを発生させないカーボンフリーエネルギーの供給や資源循環を担う「地域産業ハブ拠点」に事業転換する構想を打ち出していた。

すでに出光は、高機能材事業の重点領域の一つとして「バイオ・ライフソリューション」を位置付け、微生物の代謝を生かす「バイオものづくり」の事業化に挑んでおり、今回の協業もその一環。先進マテリアルカンパニー技術戦略部戦略企画室の水野洋室長は「大学やスタートアップとさまざまなトライアルを行いながらものづくりの実証に取り組んでいる。この中から実際のビジネスとして仕上げられるものを育てたい」と意欲を示しており、石油元売り大手発のイノベーションとして注目を集めそうだ。

【記者通信/6月6日】23年度版エネ白書 長期補助金「現実的でない」と指摘


政府は6月4日に閣議決定した2023年度版のエネルギー白書の中で、電気・ガス代や燃料油価格を抑える政府の補助金について、巨額の予算で長期間実施することは「現実的ではない」と指摘した。近年の世界的な化石エネルギー価格の高騰・高止まりや歴史的な円安進行下では、一時的な負担軽減策では対応しきれない。エネルギー資源の大半を海外産に頼る現行のエネルギー供給構造から脱却し、原子力や再生可能エネルギーといった準国産エネルギーを軸に、強靭な需給構造への転換を進める重要性を訴えた。

白書は、増加する化石エネルギーの輸入金額の影響で、「国富」の流出が拡大している状況について説明した。日本の化石エネルギー輸入量は20年から22年にかけて大きな変化が見られない一方で、20年に11.3兆円だった化石エネルギーの輸入価格は、22年には33.7兆円と約3倍に急増し、23年も27.3兆円と高止まりしている。これにより、日本の貿易収支は、20年に記録した0.4兆円の黒字から、22年には過去最大の赤字、20.3兆円を計上した。

また、22年1月に発動した「燃料油価格激変緩和対策事業」には約6.4兆、23年1月以降の使用分を対象として始まった「電気・ガス価格激変緩和対策事業」には約3.7兆円を計上し、補助金総額は10兆円超となったことも明記した。

エネルギー白書は、エネルギー政策基本法に基づく法定白書で、04年から毎年作成しており、今回が21回目となる。例年3部構成で、第1部は各年度のエネルギーを取り巻く動向を踏まえた分析、第2部は国内外のエネルギーに関するデータ集、第3部はエネルギーに関して講じた施策集となっている。このうち今回の第1部の第1章では「福島復興の進捗」を取り上げ、多核種除去設備(ALPS)処理水の放出などの取り組みを紹介した。第2章では「カーボンニュートラルと両立したエネルギーセキュリティの確保」と題し、世界的なエネルギー情勢の変化や日本のエネルギーが抱える構造的課題などを明記した。第2部では、国内外のエネルギー需給や一次エネルギーなどの動向を紹介。世界のエネルギー消費や需給の展望などをグラフ化して解説した。第3部では、水素・アンモニア、再エネ導入拡大策、原子力政策、GX推進戦略などの項目における施策状況についてまとめた。