斎藤健経済産業相は6月28日、物価高と酷暑を乗り切るために、8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を行うと発表した。政府による電気・ガス料金に対する補助金は昨年1月から今年5月使用分まで投入されていたが、わずか2カ月で事実上の再開となった。ガソリンに対する激変緩和措置は年内に限り継続するとした。

電気ガス料金支援は、今夏の酷暑を乗り切る観点から、8、9月使用分の負担軽減を重点化した。電力の低圧については8、9月が1kw時当たり4円、10月が同2.5円。都市ガスについては8、9月が1㎥当たり17.5円、10月が同10円の補助を行う。斎藤氏は28日の会見で、記者からの質問に対して「(激変緩和対策事業の)『再開』ではない。この夏の酷暑を乗り切り、かつ即効性が高い政策として必要だと判断した」と強調したが、実質的には「再開」だ。
そもそも、電気ガス料金に絞った一律の補助は必要なのだろうか。6月、所得税と住民税所得から一定額を控除する定額減税が始まったが、これ自体が家計に対する一律の補助となっている。斎藤氏は会見で「(為替など)一定の変動があったとしても0.5ポイントの物価押し下げ効果が得られるように水準を設定した」と述べたが、共同通信が6月下旬に実施した電話世論調査では、家計への支援に「有効だとは思わない」との回答が約7割に上っている。
「酷暑」と「物価高」というが……
補助金の再開は「選挙目的」との批判を免れないだろう。2023年1月~24年5月に実施された電力・ガス価格激変緩和対策で約3.7兆円の国費が投入されたことを踏まえると、今回の酷暑対策における補助総額はおよそ4500億円に上ると試算される。それだけの税金を投じる意味があるのかどうか。一連の負担軽減策を行う理由について、政府は「酷暑」と「物価高」を挙げる。前者については、今夏は「史上最も暑かった」とされる昨夏並みの暑さが予測されるが、文字通りの酷暑対策だとすれば7月使用分が含まれないのはおかしい。
一方、物価高については、主な原因は円安だ。その要因としては日米の金利差、1月に開始した新NISA(少額投資非課税制度)、海外企業に対するAIやクラウドサービス利用料の増加などが挙げられる。金利を断続的に引き上げたり、新NISAを国内株に限定したりすれば円安に歯止めを掛けられるはずだが、政府や日銀はそれを行ってこなかった。企業の収益悪化など経済への悪影響を恐れているからだろう。
緩和的な金融環境を維持することで、企業が儲かり賃金が上昇し、強い需要に支えられた基調的なインフレ率を実現しつつ、円安による一時的な物価高には金融引き締めではなく、補助金などの弥縫(びほう)策で対応する――。これが政府と日銀の協調姿勢だが、弥縫策での支出は必要最小限であるべきだ。肝心の為替も、3月のマイナス金利解除や日銀の介入で円高に転じるどころか、7月3日午後3時現在161円90銭と円安に歯止めの掛からない状況に陥っている。
斎藤氏は会見で「これらの補助は脱炭素化の流れやGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みへの影響を考慮すれば、いつまでも続けるべき政策とは言えない」と語った。6月4日に閣議決定された2023年度版エネルギー白書も、激変緩和措置について「巨額の予算で長期間実施し続けることは現実的ではない」と指摘している。岸田文雄首相は秋の策定を目指す経済対策として、低所得者世帯などを対象に追加給付金や重点支援を講じる構え。一律の電気ガス料金支援は10月使用分を最後とし、継続するのであれば、中小企業などターゲットを絞った支援に切り替えることが求められる。