日本のメディアを見ると、世界の流れに取り残されているのではないかと思うことが頻繁にある。エネルギーでもそうだ。世界のメディアのエネルギーを巡る論調は、日本とドイツ以外は原子力の復権だ。
ウクライナ戦争以降、国際エネルギー情勢の不透明感が続く。AI(人工知能)の利用拡大、ICT(情報通信技術)の深まりで、全世界で電力需要の拡大が見込まれる。新興国は経済成長のために電力を欲しがる。一方で気候変動も深刻だ。福島事故の後遺症はあるが、脱炭素の電源であり、巨大な量の電力を生む手段として、原子力発電が期待されている。
「かつて敬遠された原子力は今や気候変動の新たな星」(Nuclear Power Was Once Shunned at Climate Talks. Now, It’s a Rising Star.)。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版は15日、アゼルバイジャンの首都バクーで開かれた国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)を取材した記者の記事を伝えた。
気候変動交渉での原子力への期待が以前より強まっており、首脳らの演説や会議に関連して行われるセミナーなどでも積極的に取り上げられるようになったという。以前は、環境活動家が原子力活用の主張を締め出そうとしていた。今もそうした感情的な反対をする人たちはCOPの会場に来ていた。しかし各国首脳が原子力への期待を語り、さまざまな専門家のセッションが行われ、雰囲気が変わっていたという。
◆世界の変化に遅れる日本のメディア
NYタイムズは米国で影響力があるメディアで、リベラル色が強い。原子力を否定はしていないが、再エネを推していた。しかし、この1年は論調が変化している。世界の原子力再評価の流れを感じ取っているのだろう。
日本の民意も敏感だ。10月27日に行われた衆議院議員選挙ではエネルギー問題が特に争点になはならなかった。そして原子力の活用を主張し、再エネの過剰支援に疑問を示す、国民民主党が議席を増やし、新興政党の日本保守党、参政党が議席を確保した。これらの政党は若い世代が推していた。産経新聞は10月20日に「衆院選とエネ政策 原発で日本回復を目指せ 国民生活とAI立国のために」との社説を出した。これは前述の世界の流れに沿った考えの内容だ。
◆日本のメディアの再エネ推しは消えず
ところが、いつもの通り、日本のメディアの論調はずれている。「原発は悪」という一種の思想にとらわれ続ける新聞・メディアもある。COP29を伝えた朝日新聞の社説「気候変動会議 世界の結束に力尽くせ」(11月13日)では、NYタイムズと同じ会議を論評したのに、原子力は他電源と並べ「議論も注視する必要」との言及のみだ。
「再エネへの期待が大きすぎる」(電力会社幹部)と批判される日本経済新聞も「再エネ投資で地方活性化 石破政権初のGX会議」(1日)という記事で、岸田政権のGX(グリーントランスフォーメーション)政策が継承されることを歓迎した。しかし、同紙には再エネのコストの冷静な検証の視点はない。他の記事にも少ない。
それどころか原子力への敵意をむき出しにする日本のメディアの報道は消えない。原子力規制委員会は、日本原子力発電の敦賀2号機の下に活断層がある可能性があるとして、11月13日に新規制基準に基づき不合格とした。同日の東京新聞は「敦賀原発2号機「不適合」が覆る可能性は? 日本原電に「反省」求めた山中伸介・原子力規制委員長」と、その判断に批判的な見方もある規制委の言い分をそのまま掲載した。
規制委の廃炉の決定については、おかしな報道が多かった。原電側に非があるかのような論調の記事ばかりだった。しかし、世界で進行している原子力再評価の視点はそこになかった。
◆第7次エネ基での議論深化を期待したいが…
東京電力福島第1原発事故の後で、日本の新聞は反原発を主張しすぎた。そのために原子力を巡る世界の変化を知っても、論調を変えられないのかもしれない。原子力問題に「思想」を持ち込まず、公平な視点で、合理性に基づいて見てほしい。
第7次エネルギー基本計画の原案づくりが今、経産省・資源エネルギー庁の審議会で議論されている。論点の一つが原子力の扱いだ。「可能な限り低減」という2020年に作られた第6次エネ基の文言が消えて、原子力活用に舵を切るかどうかが、注目される論点だ。しかも石破茂首相は、最近は封印しているが、持論は再エネ振興と原子力の可能な限り低減がエネルギーの基本的な考えだ。
国民的な議論の深まりが望まれる。しかしそのきっかけになるメディアの論点が、世界の流れから外れて、原発の賛成、反対という単純な議論のままでは、その構想の深まり、そして効率的なエネルギーシステムづくりにも悪影響を与えてしまうだろう。
このままでは、日本の経済記事も、それに影響を受けるエネルギー政策、供給体制作りも、世界の流れからますますずれてしまう。