【緊急インタビュー】資源小国・日本が直面する国難 「台湾有事」も視野に自給率向上を


インタビュー:高市早苗/自民党政務調査会長

聞き手:井関晶/本誌

エネルギー資源大国のロシアがウクライナに侵略したことで、世界のエネルギー情勢が緊迫化の様相だ。資源小国のわが国は、この局面にどう立ち向かうのか。自民党の高市早苗・政務調査会長を直撃した。

たかいち・さなえ 1961年生まれ。神戸大学経営学部卒。経産副大臣や総務相などを歴任。2021年秋の衆院選(奈良2区)で9選し、現在は自民党政務調査会長。

―ウクライナ危機を踏まえ、日本のエネルギー政策の課題について、どうお考えですか。
高市 ウクライナ危機で改めて痛感したことは、国連安保理で拒否権を持つ国が「外交」を支配し、核兵器を持つ国が「軍事」を支配し、資源を持つ国が「経済」を支配するという、世界の現実です。
そのいずれも持たないわが国が、どのように生き残りを図るか。これが今、コロナ禍、ウクライナ危機、エネルギー価格高騰という、三つの国難に直面する日本に突き付けられた、重大かつ深刻な課題になっています。
 まずは世界の現実を直視した上で、従来の「平時」を前提とする発想から脱却し、常に最悪の事態を想定しつつ、リスクを最小化するための備えを講じていく。とりわけエネルギーを巡る課題は、国内でも現在進行形で進んでおり、喫緊の対応が求められます。
 今回のロシアによるウクライナ侵略への各国の対応と、欧州のエネルギー情勢を踏まえれば、エネルギーの安定供給の確保に向け、あらゆる選択肢を活用可能な状態にしておくべきことは、論を俟ちません。四方を海に囲まれ、自然エネルギーを活用する条件が諸外国と異なるわが国においては、なおさらのことと考えます。
 今後、あらゆる化石燃料の調達について、資源外交などを通じ、権益の確保や調達先の多角化を一層推進することが必要です。中でも、台湾南部のバシー海峡を通過する割合は、原油で9割、LNGで6割に達しており、仮に台湾有事が発生した場合、ロシアからの輸入の比にならない量の燃料供給が途絶することになります。従って、再生可能エネルギーの導入や、原子力発電の再稼働などによるエネルギー自給率の向上に取り組むことが重要です。


安全性最優先で原発再稼働 SMR開発に大きな期待

―エネルギー政策では脱炭素化に加え、安全保障の重要性が一段と高まっています。
高市 再エネはエネルギー自給率の向上に寄与するので、系統整備などを推進し最大限の導入を目指していきますが、発電が自然条件に左右されることから、蓄電池や他の電源との組み合わせが不可欠です。その点、原子力は数年にわたって国内保有燃料だけで発電が維持でき、かつ脱炭素のベースロード電源であることを踏まえれば、重要な電源として活用していくべきだと考えています。こうした観点から、地元の理解を得ながら、安全性を最優先に原発再稼働を進めていくことが必要です。
 今後、わが党においては火力発電も含め、あらゆる選択肢を追求してエネルギー安定供給の確保を実現すべく、私が本部長を務める経済安全保障対策本部や、総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)などを中心に政策議論を深めていきます。

実用化への期待が高まるSMR(米ニュースケール社)

―現在「クリーンエネルギー戦略」の議論が官邸主導で進んでいます。その柱の一つに原子力の技術開発が位置付けられています。
高市 原子力技術開発では、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立について検討を進めているところです。
 SMRを巡っては、「小さな炉心を生かし、自然循環を利用したシンプルな安全システムを採用しており、ヒューマンエラーや危機故障を回避できること」「モジュール生産による品質管理の容易化と工期短縮によって、初期投資コストが小さいこと」など、大きなメリットが期待されています。
 IHI、日揮グローバル、日立GE、三菱重工業などの日本企業が開発に携わっており、国産技術としての期待も高い。世界の革新炉開発の潮流に乗り遅れることなく、国際プロジェクトに日本企業が効果的に参入できるようにしていくべきだと考えています。

再エネは法令順守が大前提 不適切事案を未然に防ぐ

―一方で再エネは、山間部などにおける乱開発が全国的な問題となっています。
高市 再エネ事業についても、他のエネルギー事業と同様、法令を順守して適正に事業を行うことが、地域での信頼を獲得し、長期安定的に事業を実施するための大前提になると考えます。電気事業法では、設備の安全性を担保する基準と自治体が定めた条例を含む関係法令を順守することが、事業者に求められています。違反があった案件については、指導や命令を行い、改善が見られない場合は罰金や認定を取り消すといった、厳格な対処を行わなければならない。既存のルールで対応できない不適切な事例があれば、ルールや審査を厳格化し、次なる不適切事案を未然に防いでいくことも必要です。
 私の地元・奈良県においても、太陽光発電設備の設置計画に対する反対運動が、複数地域で起きています。太陽光発電のためにみだりに森林伐採が進めば、自然環境や景観への影響、土砂流出による濁水の発生、CO2吸収源としての機能を含めた森林の多面的機能への影響が懸念されます。環境に適正に配慮し、地域における合意形成を丁寧に進めることで、適切な再エネの導入を進めていくことが不可欠です。
 2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す中で、今後はこうした課題に真摯に向き合い、導入に適した場所の確保、自治体との連携を強化した事業規律の確保、コスト低減に向けた研究開発に取り組んでいく必要があると考えています。


【記者通信/4月1日】サハリン2撤退を首相が否定 経産省は燃料調達の緊急対策提示


ロシアのウクライナへの軍事侵攻開始から1カ月以上が経過し、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化し続けている。民間でも、英シェルが2月下旬、三井物産と三菱商事も出資するLNG開発プロジェクト・サハリン2からの撤退を表明するなど、「ロシア離れ」が加速。そうした中、岸田文雄首相は3月31日の本会議で、サハリン2について「わが国として撤退はしない方針だ」と明言した。さらに萩生田光一経済産業相は4月1日の閣議後会見で、サハリン2に加え、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と伊藤忠商事、丸紅などが30%の権益を持つ石油開発事業のサハリン1についても「エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクトだと考えており、撤退しない方針だ」と言及し、JOGMECと三井物産が参画するLNGプロジェクト・アークティック2についても撤退しない方針を表明。エネルギー事業では現時点で欧米の「脱ロシア」とは一線を画すという日本の姿勢を打ち出した。他方で岸田首相は3月31日、「主要7カ国(G7)の方針に沿ってロシアへのエネルギー依存を低減すべくさらなる取り組みを進める」とも述べ、長期的にはロシアからの調達の在り方を見直す可能性も示した。

3月31日の対策本部で挨拶する萩生田経産相(央)

首相の指示を受け、経産省は同日「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」の初回会合を開催。ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。石油、石炭、LNGのほか、半導体製造プロセス用ガス、パラジウム、合金鉄が対象となる。産消対話の強化や、代替調達の実現、上流権益獲得の強化、需要への働きかけといった対策を挙げた。

萩生田経産相は会合で、「ロシア・ウクライナから調達先を切り替えた場合、別の特定第三国・地域に依存が生じるケースも明らかになった」「足元の情勢だけに目を奪われることなく、国家の存立、国民生活の安定という観点から、今後も経産省を挙げて取り組んでいきたい」と強調した。

燃料確保対策を強化 ロシア産は輸入継続へ

エネルギー関係でのロシア依存度は、石油が3.6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。特に、世界的に需要が高まり、国内の備蓄能力に限界があるLNGについては「石油よりも厳しい状況」(保坂伸・資源エネルギー庁長官)にあり、仮にロシア産の輸入が止まれば、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組みや、LNG調達への国の関与強化などを検討する。2021年1月の需給ひっ迫を機に今冬講じた燃料確保の対策をさらに一段進めるような内容だ。

石油対策では、短期的には既に取り組んでいる産油国への働きかけや、国際エネルギー機関(IEA)などを通じた主要消費国との連携を強化。中長期的には、JOGMECによる上流権益拡充への支援などで、30年に石油・天然ガスの自主開発比率50%以上という従来方針に沿って取り組む。

そして石炭については、非効率石炭火力のフェードアウトなど、火力の脱炭素化を加速すると改めて強調。石炭の一層の使用低減を図る一方で、安定供給に向けた産炭国への働きかけにも力を入れるという。3月22日の関東、東北での需給ひっ迫危機が記憶に新しい中、石炭火力の過度な退出防止との両立をどう図るか、引き続き難しいかじ取りを迫られそうだ。

【記者通信/3月22日】電力使用率が一時107%に 停止中火力の復旧はいつ?


政府は3月22日、電力需給状況が極めて厳しいとして、東京電力管内と東北電力管内に初となる「電力需給ひっ迫警報」を発令した。寒気の影響で暖房などの電力需要が増しており、経済産業省は各家庭や企業に節電を呼びかけている。東電管内の供給力に対する需要の割合を示す「使用率」は、午後2時台の実績で107%となり、データ上で需要が供給を上回る状況に。東京電力パワーグリッドは、午後8時以降に揚水式水力発電の運転が停止し、約500万kW(200万~300万軒規模)の停電が発生する恐れがあり、「さらに毎時200万kW程度の節電が必要」として、需要家への節電強化を要請。その後、他エリアからの電力融通や需要家の節電協力などが奏功し、電力使用率は午後8時現在、安定的とされる89%まで低下。経産省は午後9時ごろ、東京、東北の両電力管内で停電の恐れなしと発表した。東日本大震災以来となる50Hz地域の電力ひっ迫の原因は、原子力発電所が1基も再稼働していないことに加え、今月16日に福島県沖で起きた地震に伴う大型火力発電所の相次ぐ停止によるものだ。

JERA、東北電力などで火力が停止 綱渡りの状況続く

JERAによると、地震の影響で現在も停止しているのは広野火力発電所6号機(60万kw)。5号機は18日に復旧したものの、6号機では主変圧器の配管が損傷。復旧までに1カ月程度かかる見通しを示している。JERAは「安全面を最優先に、22日から一部発電所で出力を増やして運転している。また、千葉・品川・富津の各火力発電所で予定されていた定検時期を調整しながら運転を継続し、電力不足に対応できる体制を取る」と対策を講じている。

東北電力については、新仙台火力発電所3-1号機(52.3万kw)と原町火力発電所1号機(100万kw)が現在も停止中という。東北電力は節電を呼びかけながら「復旧作業に全力で取り掛かっているものの、現状で運転再開の見込みは立っていない。秋田発電所や東新潟発電所など、日本海側の火力発電所では増出力運転を行っている」(広報部)状況だ。

深刻なのは相馬共同火力発電の新地発電所だ。東電管内に送電している大型火力だが、今回の震源域に近いこともあり、地震によって稼働中の1号機(100万kw)が自動停止した。その後の調査で、石炭を陸揚げする楊炭機4機のうち2基の損傷が判明。残る2基も「稼働できる状況かは不明(新地発電所)」という。地震の数日前に電気設備の修繕工事中だった2号機(100万kw)と合わせて、運転停止の状態が現在も続いている。新地発電所では「昨年2月の地震で停止した際、1号機は同年9月、2号機は12月に再稼働した。前回のノウハウを生かし復旧作業を行うが、今回も同じ程度の期間が掛かるのではないか」(広報担当者)との見通しを示している。

23日は天気が回復するものの、関東や東北では気温が低いこともあり、暖房の需要含めて電力ひっ迫の綱渡りが一両日中は続くと見られている。

東日本大震災で電力供給「強靭化」のはずが逆に「脆弱化」へ

今回、地震が原因となって深刻な電力ひっ迫を引き起こしたことで、首都圏の需要家の中には11年前の東日本大震災後の大規模計画停電を思い起こした人も多いのではないだろうか。当時、こうした事態が二度と起きないよう、電力供給の「強靭化」を目的に、経産省が主導する形で電力システム改革の議論が始まった。しかし結果としてみれば、再エネ大量導入、脱原発、小売り全面自由化、発送電分離といった一連の改革は逆に供給の「脆弱化」を引き起こした格好だ。22日のひっ迫状況を見る限り、震災の教訓が生かされているとは言い難い。今後、経産省には、これまでの脱炭素偏重主義から脱却し、エネルギー安定供給の確保というライフラインの原点に立ち返った政策議論を期待したい。

【記者通信/3月18日】池辺・電事連会長が原子力の重要性を強調「安全保障上不可欠」


池辺和弘・電気事業連合会会長は3月18日、ロシアのウクライナ侵攻後、初となる定例会見を行い、ウクライナ危機について経済的な安全保障に直結する問題との認識を示した上で、エネルギー安全保障の観点から原子力発電の重要性を訴えた。

池辺会長は、ロシアに対する各国の経済制裁状況が時々刻々と変化しているとして、「資源調達の面では欧州のみならず、世界各国で供給不安が増しており、市場価格上昇の圧力はさらに高まっていく懸念がある」と指摘。「地球温暖化防止の観点ももちろん重要だが、経済性とともに、エネルギー安全保障についても、国家的な安全保障そのものとして、同時に達成することが重要だと、改めて強く認識した」と述べた。

その上で、原子力発電の重要性に言及し、「再エネはもちろんのこと、確立された脱炭素技術である原子力発電を最大限活用していくことが、エネルギー安全保障の観点からも不可欠であり、原子力をベースロード電源として位置づけられていることを踏まえ、しっかりと地に足を付けた議論をしていくことが必要」との見解を示した。

池辺会長はまた、ウクライナにある原子力施設を攻撃したロシアを批判。「周辺地域に深刻な影響を及ぼす恐れがあり、一般市民を危険にさらす行為。決して許されることではなく、原子力に携わる事業者として、強く非難するとともに、原子力施設の安全がしっかりと確保されるよう対応を求めたい」と強調した。日本政府に対しては「国際社会と連携して、事態の収拾に当たっていただきたい」と要望した。

一方で、米エクソンモービルや英蘭シェルがロシア・サハリンの石油・ガス開発プロジェクトからの撤退に踏み切ったことに関連し、日本の事業者としての対応を問われた池辺会長は、「日本は島国で資源が乏しい。アメリカ、イギリス、カナダとは状況が大きく違っている。ロシアに対して外交上政治的な動きをすることは重要だが、同じように日本の電力安定供給は重要だ」と述べ、国会議員の一部から聞こえているサハリン撤退論をけん制した。

【記者通信/3月18日】原子力規制行政が変わる!? 山中・規制委員長人事を読む


9月に任期が切れる原子力規制委員会の更田豊志委員長の後任に、同規制委員の山中伸介氏(元大阪大副学長)が就任する人事案が3月1日政府案として国会に示された。この人事の背景には、原子力の再稼動や活用を求める一部自民党議員の動きが影響している。厳しい規制導入に積極的だった更田氏が退任することで、原子力政策の姿に変化があるかもしれない。

当初の安井氏案に自民党中堅議員が反発

昨年末から委員長人事をめぐって関係者の間に、元原子力規制庁長官の安井正也氏の委員長への就任の噂が流れていた。環境省、そして規制庁側は、規制行政の継続のためにこの案を流し、更田路線の継続を求めたようだ。

更田委員長、そして田中俊一前委員長は、規制の厳格化を推進し、原子力の安全性を高めた。その政策のプラス面は評価されるべきだ。しかし民主党政権で選ばれた田中氏は、高速増殖炉「もんじゅ」潰しという強権的な行動を行い、原子力事業者、立地地域などとの対話も乏しかった。規制当局の「孤立化」を進め、更田氏もその路線を大筋で継承した。そんな二人の姿勢は、エネルギー政策を混乱させ、原子炉の再稼動を遅らせ、電力会社の経営を悪化させた。安井氏は両氏を事務方トップとして支えきた経緯があり、関係者は誰もが警戒した。

しかし、この人事案が流れたと同時に、自民党の「電力安定供給推進議員連盟」に属する当選3−4回の議員らが反発。原子力の活用が持論の高市早苗政調会長ら自民党首脳部を動かし、この人事案を潰したようだ。岸田文雄首相はこの問題について、あまり関心がなかったようで、官邸は人事に積極的に介入しなかった。これまでエネルギー政策に影響を与えていた重鎮衆院議員の甘利明氏、細田博之氏から、次の世代の政治家に力が移りつつあることも影響している。

エネルギー危機に配慮した規制政策に転換か

原子力規制行政は、規制委員会のトップ交代で変わる可能性がある。同委員会は独立行政委員会で、政府から自立して活動ができる。しかし与党・自民党と無関係ではいられない。また前述の安定供給議連は規制行政の円滑な推進のために、規制庁の予算獲得や体制整備にも協力している。

公開された規制委員会議事録を見ると、山中氏は規制委員として、更田氏と同じように、規制強化に熱心だ。しかし、この人事での圧力が奏功したことで、「自民党の大勢である原子力の活用という考えをある程度受け入れざるを得ないだろう。エネルギー不足の懸念の中で、政治も世論も原子力の活用を求めている」(学会関係者)という。

エネルギー資源大国のロシアが、2月末からウクライナに侵攻し、経済制裁を受けている。この影響で世界的にエネルギー価格が高止まりし、先行きが見えない。国民民主党や日本維新の会が停止中の原子炉の再稼動を主張し、エネルギー不足への懸念が国内に広がるなど、明らかに原子力をめぐる状況も、世論も変化している。

この人事をきっかけに、経済的合理性、エネルギー安全保障にも配慮しながら原子力の安全性を高める、常識的な規制政策に転換することが期待される。

【記者通信/3月17日】「特重工事中でも再稼働を!」自民議連と維新が経産相に要望


3月15日、停止中の原子力発電所の早期再稼働を目指す政治的な動きが相次いだ。自民党内の電力安定供給推進議員連盟(会長・細田博之衆院議長)と、日本維新の会がそれぞれ原発再稼働などを求める文書を萩生田光一経済産業相に手渡したのだ。これに対し、萩生田氏は安全性の確保を大前提に原発を動かしていく従来の政府方針を強調。ウクライナ戦争で顕在化するエネルギー非常事態に対応するため、政治主導で再稼働を前倒しするような踏み込んだ発言はなく、関係者からは落胆の声も聞こえている。

電力安定供給議連の塩谷議員(左から二人目)から決議書を受け取った萩生田経産相(中央)

政府コメントに終始の萩生田氏 印象的だった高木氏のぶら下がり

電力安定供給議連については、塩谷立・元選挙対策委員長と高木毅・国会対策委員長が萩生田氏と面談し、「ロシアによるウクライナ侵略等を踏まえた原子力発電所の緊急的稼働について」と題する決議書を手渡した。決議書は、火力発電への依存度の高さによる電気料金高騰、原発再稼働プロセスの長期化を指摘。「安全の確保を優先しつつ緊急的に稼働させ、国民生活を守るための措置を講じる必要がある」として、停止中の一部原発の速やかな再稼働と、特定重大事故等対処施設(特重施設)の工事完了など新規制基準に関して、制約の一部解除を求めている。

高木氏は、「特重施設の工事をしながら(原発を)動かしていくべきだと考えている」として、早期再稼働を要望。一方、萩生田氏は「自然エネルギーの活用が諸外国と異なるわが国において、エネルギーの安定供給にあらゆる選択肢を持つ可能性は承知している」と提案に理解を示しつつも、「安全性の確保を大前提とし、再稼働をしっかり進めることが重要」とコメントするにとどまった。安全審査の規制緩和に関しても「原子力規制委員会の管轄のため、経産省からのコメントは差し控える」と距離を置いた。

面談後、ぶら下がり取材に応じた高木氏は「萩生田大臣の言われたことが政府のスタンス。それ以上の話はなかった。残念なことだ」とコメント。帰り際には、「さみしいよな、同じ研究会にいるのに」と失望感をにじませたのが印象的だった。高木氏と萩生田氏は自民党最大派閥の清和会(安倍派)で同じ派閥に属する。それだけに、同席した関係者からは「『経産省じゃなくて規制委に言ってくれ』と一蹴するなんて、あんまりのような気がする」との声も聞かれた。

維新は美浜3号、高浜1・2号の前倒し運転を明記

日本維新の会については、藤田文武幹事長、足立康史・国会議員団政務調査会長、遠藤敬・国会対策委員長が萩生田氏のもとを訪れ、「ウクライナ危機等から国民を守るための緊急経済対策提言」を手渡した。緊急経済対策の一つに「特重施設整備を残すのみの美浜3号機、高浜1、2号機などの原発再稼働」を記載し、運転前倒しを求めているのが特徴だ。また原油価格高騰対策として、「軽減税率の段階的引き下げ」のほか、「石油元売り会社への補助金上限引き上げ」なども盛り込み、現在の補助金上限25円から50円超までの引き上げを提案した。一方で揮発油減税などトリガー条項の凍結解除に関しては「行政コストをかけてまで、制度を構想する必要性は何か」と解除に慎重な姿勢を見せている。

萩生田経産相は、維新の会との面談でも「安全性の確保を大前提に、規制委員会や新規制基準に適応したもののみ、地元の理解を得た上で再稼働を進める」と説明した。今後エネルギー価格高騰が進めば国民生活への影響は必至だが、価格高騰抑制の鍵を握る原発の早期再稼働には慎重な姿勢のままだ。

2012年、当時の野田佳彦首相が夏場の電力需給ひっ迫を回避するため、関西電力の大飯原発を政治判断で再稼働させた。「旧民主党政権でもできたことが、現在の自民党政権においてできないわけがない。現在、石炭、ガス、石油の火力燃料が全て高騰している状況を考えれば、原発再稼働の必要性は明らかだ。岸田首相の英断に期待したい」(大手エネルギー会社幹部)。その声、現政権に届くか。

【記者通信/3月10日】静岡「盛り土」改正案に新たな問題 産廃処理物も利用可能!?


3月9日付の記者通信で報じた「静岡県盛土等の規制に関する条例改正案」の骨抜き問題を巡り、新たな疑惑が浮上した。「全国再エネ問題連絡会」の共同代表、山口雅之氏が改正案の附則にある経過措置条項の「適用除外」問題に続き、さらなる不備を指摘する。

「改正案第2条2項の土砂等規定に『土砂等、土砂及び土砂に混入し、又は付着した物、改良土並びに再生土をいう』の文言がある。再生土の定義を見ると、産業廃棄物(事業活動に伴って生じた廃棄物のうち燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類など)の脱水、乾燥などの処理によって生じた物で土砂と同様の形状のものとしている。しかしこれは『産廃で盛り土しても構わない』と拡大解釈される恐れがある」(山口氏)

改正案の土砂等規定には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第2条第1項に規定する廃棄物および土壌汚染対策法第16条1項に規定する汚染土壌を除く」という文言があり、本来なら有害な廃棄物を再生土には使用できない制度になっている。しかし、例えば悪質な事業者が違法な産廃を再生土として偽り、盛り土にしてしまうことも過去の事例などから考えられるというわけだ。しかも9日の記事で指摘したように、「附則(経過措置)4項」によって、既に林地開発許可を受けた業者にはこの条例が適用されないという重大な問題もよこたわる。

自治体の中には「再生土」での埋め立て禁止も

再生土が引き起こした住民トラブルの一例に、千葉県佐倉市神門地区で起きた埋め立て工事がある。神門地区では2016年7月ごろから、再生土埋め立て地の近隣住民から「土壌から異臭がして窓が開けられない、気分が悪くなる」などの被害が出ていた。再生土の撤去を要求したが事業者は取り合わず、住民たちは17年9月に県議会へ請願書を提出した。これを受けた県が現地土壌を調査したところ、フッ素溶出量と鉛の含有量が基準の2倍を超えていたことが判明。再生土の撤去を求める行政指導を行った。佐倉市ではこのトラブルを契機として、「再生土による埋め立て工事を原則禁止」としている。

複数の自治体が再生土の埋め立て規制に動いている中、静岡県の土砂等規定に再生土が含まれていることは、川勝平太知事が標ぼうする「全国一厳しい」基準を目指す条例改正とは言い難い。そもそも産廃処理物である再生土を盛り土材の一つに明記していること自体が問題なのだ。

山口氏によれば、再エネ連絡会は静岡県の盛り土規制条例改正案の問題点について、国会議員を通じて内閣法制局への確認を求めるなど、ロビー活動を展開している。

【記者通信/3月9日】「全国一厳しい」はずの静岡県盛り土条例改正案にまさかの抜け穴!?


「今回の盛り土に関する規制条例は全国一厳しいものにしたい。それがご供養になる」――。昨年7月に静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害を受けて、川勝平太静岡県知事が条例改正に意欲を示した10月26日の会見。このほど、「静岡県盛土等の規制に関する条例」の改正案が県議会に提出された。3月中の成立、7月の施行を目指している。しかし中身は「全国一厳しい」条例とは程遠い、骨抜きの改正案だと指摘する意見が出ている。

改正案では盛り土の土地面積1000㎡以上、または土量が1000㎥以上の場合は知事の許可制とし、許可申請の予定者には周辺住民への事前説明を義務付けた。土砂災害の危険に対し、業者が行政指導や命令に従わない場合は、土地所有者に対策を命令することができる。罰則も強化し、罰金だけでなく懲役刑も規定した。一見すると「全国一厳しい」条例のように思えるが、メガソーラーや大規模風力発電設置に伴う環境破壊に反対する住民ネットワーク「全国再エネ問題連絡会」の共同代表、山口雅之氏は「重大な欠陥がある」と指摘する。

「適用除外」条項の不可解 問われる川勝知事の本気度

「条例改正案の『附則(経過措置)4項』に問題がある。分かりやすく解釈すると、既に林地開発許可を受けている案件には条例を適用しない旨の規定になっているのだ。他の法令や判例を踏まえると、工事に着手している案件を除外するのであれば理解できるが、この経過措置ではそれ以前の許可取得の段階で適用除外としており、明らかにおかしい。そもそも、事業者の利益を優先するような経過措置条項など不要。(改正案に)なぜわざわざ入れたのか」(山口氏)

政府が3月1日に閣議決定した盛り土規制法案に関して、国土交通省は「指定日までに工事に着手していなければ、改正法の適用対象になる」との見解を示している。国や自治体の方針に矛盾する静岡県の改正案は、全国一どころか「改悪だ」と批判する関係者は少なくない。川勝知事は、熱海・伊豆山の盛り土崩落で死亡した住民への供養と言いながら、そのための条例改正の裏でこのような抜け穴をつくろうとしているのだろうか。

山口氏は取材に対し、「経過措置の問題点に関して、県の担当課長や局長に指摘した上で、なぜそのような規定を設けたのか、理由や法的根拠、他法令との整合性を含めて1カ月以内に回答するよう求めている」と話し、徹底追及する姿勢を示した。

熱海市の土石流災害の原因となった盛り土に関しては、土地の前所有者と現所有者が責任の所在を巡り真っ向から対立している。川勝知事は、現所有者側の代理人を中心とした再エネ推進派の集まり、通称「四谷グループ」と親交があるだけに、関係者の中には「知事側が現所有者側や再エネ開発業者などに配慮し、改正案に手心を加えたのでは?」と勘繰る向きも。静岡県の盛り土規制条例改正案が真の意味で「全国一厳しい」ものとなれるかどうか、川勝知事の本気度が問われている。

【記者通信/3月7日】人為起源を強調したIPCC報告で考える「軍事」のタブー


気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2月28日、オンライン会議を通じて最新の研究結果に基づく議論を行い、気候変動がもたらす自然や社会への影響に関する報告書を8年ぶりにまとめた。

報告書は、気候変動の要因として「人為起源」を改めて強調。地球や太陽の活動が原因とする説も根強い中、「人類が引き起こした気候変動は、自然と人間に対して広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を引き起こしている」と結論付けた点が注目される。さらに地球の平均気温が1.5℃を超えて上昇した場合、多くの自然・社会的システムにおいて「適応の限界」に達し、「一部は不可逆的なものになる」と警鐘を鳴らした。

山口壮環境相は3月1日の閣議後会見で、「今回の報告書では、気候変動への適応策の推進、気温上昇を1.5℃に抑えるためのより一層の緩和策の重要性が改めて示された。こうした最新の科学的知見を国内の気候変動対策に反映させながら、適応と緩和、両方の取り組みを国内外で一体的に推進していくことが必要だ」との見解を示した。

また世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之・気候エネルギー海洋水産室長は、本誌の取材に対し、「地球温暖化は避けられない」とした上で、「これからはどう温暖化に適応していくかが問われる。また、途上国の気候変動による被害についても考えていかなければならない」と指摘した。

国家安全保障の大義に霞む「軍事起源」

IPCCが人為的温暖化問題の深刻さを改めて打ち出す一方で、世界的にはロシアとウクライナの戦争が激しさを増している。国家安全保障という大義の前では霞んでしまいがちだが、戦闘機やミサイルといった軍事兵器によって、どれほどのCO2や汚染物質が大気中にまき散らされていることか。そもそも、施設などの破壊や市民の殺害行為は、現代社会が目指すSDGs(持続可能な開発目標)に、完全に逆行するものだ。

世界中の大量軍事兵器がもたらす地球環境への悪影響については、国連の地球温暖化防止国際会議(COP)などで重要テーマに上がってもいいはずだが、国際政治の下では「不都合な真実」なのか。真剣に議論される気配すらない。いずれにしても、今こそ環境NGOは気候変動対策の観点から「反戦」を訴えるべきだろう。人類への脅威で見れば、石炭火力の比ではない。まして、CO2排出の観点から飛行機に乗ることを問題視する「飛び恥」など、世界主要国が戦闘機やミサイルを飛ばしまくる現実の前では、どうでもいいことのように思えてならない。

【論考/3月7日】戦時モードに入った国際エネ市場 「脱ロシア」問題を考える


ロシア軍侵攻以降、エネルギー市場のモードが一変した。3月7日のWTI原油先物価格は一時139ドル/Bblまで急騰し、過去最高値の147ドルに迫ってきた。また,欧州天然ガス価格は200ユーロ/MWh (66ドル/MMBtu)、LNGのJKMは60ドル/MMBtu、豪州ニューキャッスルの石炭は440ドル/Mt (3日現在)。ドイツの電力先物も足元は50円/kW時、日本の年度(2022年4月~23年3月)ベースで40円/kW時ほどの値段が付いている。エネルギー企業の関係者は、価格の上下に驚きながら、燃料や電力の確保に奔走されているのではないだろうか。

こうした有事には過去の経験や常識が通用しない。今、何が起こりつつあるのか、今後、世の中がどうなっていくのかについては、日々、必死に足元の対応をされると同時に、冷静に事実を俯瞰することも大切だ。

繰り返しになるが、世界は戦時モードに入ったことを明確に認識する必要がある。具体的には、世界は「ロシアの切り離しに入った」ということではないか。

もちろん、「天然ガスの3分の1をロシアに依存する欧州、石油の10%を依存する世界はロシアの供給を切れない」。現に「SWIFT(国際金融取引システム)からの切り離しも天然ガスなどエネルギー関係は除外じゃないか」という声もあるだろう。

それでも、ウクライナ市民への蛮行に対し武器、供与やSWIFTからの排除というレベルの経済制裁を行うのは、もはやロシアに対して宣戦布告したのも同然だ。こうなるとエネルギーの輸出停止という報復にも備える必要がある。戦場から近い欧州の危機感は半端ないものだ。

ドイツ「戦後終了」に転換へ 日本政府の認識・対応は?

今回はその欧州、特にロシア依存の高かったドイツの動きについて整理した。ドイツのショルツ首相はロシアの侵攻からわずか23日後の2月27日、下院で次のような安全保障に関する方針を表明している。

①今年1000億ユーロ(13兆円)の防衛予算を確保するとともに、今後、防衛費をGDPの2%以上とする(ちなみに21年の防衛費は470億ユーロ=約6兆円、GDPの1.53%とのこと)、②EU各国との新型戦闘機,戦車の開発,イスラエルから最新武装ドローンの購入、③ガス貯蔵能力を2BCM以上向上、④世界市場からのガスの購入、⑤石炭とガスの国家備蓄の構築、⑥Brunsbuettel とWilhelmshavenにLNG受入基地を建設――。

これに続き3月2日には、ハーベック経済・気候保護大臣がロシア依存度の低減に向け、次のように言及した。

①ロシア以外のLNGソース購入に15億ユーロ(1950億円)分の発注を行った、②最悪の事態に備え、石炭火力を延命・待機させ状況に応じ運転を行う(電力大手RWEはこれを受け、脱石炭計画による発電所の休止の延期、休止中の発電所の復帰など要請に応じ対応としている)――。

ハーベック氏はまた、年末で廃止予定の3基400万kWの原子力発電所の延命についても「なかなか難しいようだが所管の経済・気候保護省で検討中」と語った。

注目すべきは、次の3点である。

①ドイツが戦後初めて、国として「安全保障」を前面に出したこと。しかも今回の侵攻後,わずか3日にして国の根幹たる政策を変えている。日本同様、平和主義・軽武装で、安保は米国頼みだったドイツの「戦後の終了」とでもいうべき転換だ。

②その「安全保障」の柱にエネルギー政策が位置付けられていること。

③ショルツ氏(SPD:ロシアと平和友好・相互依存)、ハーベック氏(緑の党:脱石炭・脱原子力)が、少なくとも短期的には政治的立場を棄てて,なりふり構わず「脱ロシア」で安全保障を確保しにきていること。ハーベック氏の発言など、立憲民主党の泉健太さんを通り越して日本共産党の志位和夫さん、社会民主党の福島瑞穂さんが「原子力の再稼働を」と言っているようなものだ。

日本の政府およびエネルギーのバイヤーは,このレベル感を共有しているだろうか。少なくとも欧州各国は、死に物狂いで非ロシアのエネルギーを獲りにきている。ここを理解するのが第一歩かと思う。

【記者通信/3月5日】エネ価格が歴史的全面高 「電力ガスにも補助金を」の声


エネルギー資源価格の高騰に歯止めがかからない。3月5日現在、WTIの原油先物価格は1t当たり115.68ドルと、この1週間で20ドル以上も上昇した格好だ。石炭先物価格も豪州産が前週比で75%高のt418.75ドルと過去最高値を更新。天然ガス先物価格も同様で、オランダのTTFが4日夜の取引で1MW時当たり212ユーロの史上最高値を記録した。これにつられる形で、北東アジアのLNGスポット価格指標のJKMも100万BTU当たり43.6ドルの高値を付けている。またLPガスの輸入価格指標であるサウジアラムコ社のCP(契約価格)も、3月積みでプロパン895ドル(前月比15.48%高)、ブタン920ドル(同18.71%高)と約8年ぶりの高値水準だ。

ちなみに、実質的にJKM連動となっている日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格(全国平均システムプライス)を見ると、3月に入り寒さが緩んできたにもかかわらず、6日の夕~夜を中心に依然として㎾時当たり30円台後半~40円台前半で推進している。

「もはや『エネルギー緊急事態宣言』を発出しても不思議ではないレベルだと思う」。大手エネルギー会社の関係者は危機感をあらわにする。「石油製品だけではない。日本の場合、長期契約ベースの資源調達が主体とはいえ、電気料金、都市ガス料金、そしてLPガス料金まで、あらゆるエネルギー価格が全面高の局面に突入している。石油元売り会社に対する補助金を5円から25円に引き上げたところで、焼け石に水なのではないか。国民生活への影響が甚大な電気・ガス料金についても、事業者への補助金支給などの上昇抑制対策を早急に打ち出すべきだろう」

ウクライナショックがいつまで続くのか。危機の長期化が懸念される中、日本政府としてもエネルギー価格・調達の安定化に向けた抜本的な対策に取り組むことが求められる。あの東日本大震災から間もなく11年。全国の原子力発電が正常に再稼働できていれば、少なくとも電気料金については相応の上昇抑制効果が図られているはずなのだが、現状では望むべくもないのが残念だ。

【目安箱/3月4日】ロシア軍が稼働中商業原発を制圧 食い違う両者の主張


ウクライナ南東部にある国内最大規模のサポリージャ原発が4日夜、同国に侵攻したロシア軍の攻撃を受け火災が発生した。ウクライナ当局はそれを公表し、直ちに攻撃をやめるよう訴えた。これに対し、ロシア国防省はウクライナ側の破壊工作員による挑発行為があったと主張している。両者によると、同原発はロシア軍が制圧したもよう。稼動中の商業原子炉への攻撃は歴史上初だ。

ウクライナのクレバ外相は4日、Twitterで南東部のエネルホダル市にある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所について「ロシア軍があらゆる方向から攻撃している。すでに火災が起きている。もし爆発したらチェルノブイリの10倍の影響が及ぶ。ロシア側は直ちに攻撃をやめるべきだ」と訴えた。

4日にはエネルホダル市民が人間の鎖を作り、同原発近くのロシア軍が撤退したとA F P(フランス通信)が報じていた。日本時間4日12時時点で、まだウクライナのエネルゴアトム社と同国政府の管理下にあるとしている。

一方、ロシア国防省の報道官によると、同原発付近でウクライナ側の破壊工作グループがロシアの警備隊を攻撃したのが発端だという。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、同グループは訓練施設を放棄し火をつけ逃走したというのだ。ウクライナ側の主張とは真っ向から食い違っているが、いずれにしても同原発はロシア側が掌握したもようだ。

600万kW原発への攻撃は不測の事態に発展するのか

『【目安箱/2月24日】原発だらけの国で初の戦争?もう一つの「ウクライナ危機」』で指摘したようにウクライナは電力の6割を原子力に依存。サポリージャ原発では、1980年台後半に作られた原子炉6基が運用。いずれも出力100万kw程度で、計600万kwある。

ただし原子炉の破壊はロシア軍も被害を受ける可能性があり、原子炉はなかなか壊せない。このロシア軍の行動は、威嚇による人心の動揺、また制圧によるエネルギー供給の停止を狙ったものと思われる。

国際原子力機関(IAEA)は同日日本時間正午、ウクライナ当局からこれまでのところザポリージャ原発で放射線量に変化はないと報告を受けているとウェブ上で明らかにしている。ロシア側も「原発は正常に稼働を続けている」との見解だ。IAEAのグロッシ事務局長は、「もし原子炉が攻撃されれば深刻な危険が及ぶ」とコメントを発表した。

ただし原子炉の破壊など、不測の事態の発生の可能性があるため、ロシア軍の行動に懸念が広がっている。過去にイスラエルが、イラク(1981年)、シリア(2007年)に核兵器開発に関連する原子炉を爆撃で破壊したが、稼動中の民間発電用原子炉への攻撃はおそらく史上初になる。

【記者通信/3月4日】原発「再稼働」「防衛」が喫緊の課題に


「電力の供給力の確保にあたっては、原子力の再稼働は重要だと思っている」――。3月3日の参院予算委員会で、萩生田光一経産相は電力需給ひっ迫の懸念にこう答え、原発再稼働に前向きな姿勢を見せた。萩生田氏は「産業界に対して、事業者間の連携による安全審査への的確な対応を働きかけるとともに、国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組む」と説明。閣僚が原子力の再稼働に言及したことで、原子力関係者から期待の声が上がっている。

原子力政策に関しては、福島伸享議員が2月16日の衆議院予算委員会で「原子力政策の再構築に取り組むべきではないか」と質問。それを受けた萩生田氏が「これから先どうするのか。私も感じるところはある」と踏み込み、話題になっていた。3日の萩生田氏の答弁は、原子力政策の再構築というよりも、資源価格の高騰や電気ガス料金の上昇などによるエネルギー危機を意識したものとみられている。

福島氏は4日、本誌の取材に応じ、萩生田氏の答弁について「2012年以降の安倍政権下での原子力政策の不作為に対し、これまでずっと『原子力の再構築を行うべきだ』と言い続けてきた。その点ではまだ物足りないが、やっと腰を上げ始めた印象だ」と感想を述べた。

ロシアのウクライナ侵攻を契機に、石油・ガス・石炭価格の高騰、新設天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の停止、原子力発電所への攻撃など、エネルギー安全保障に対する危機感が世界的に広まっている。萩生田氏は3日の予算委で石油やLNGの備蓄は十分にあるとしながらも「日々刻々と情勢は変わっている。引き続き関係国や国際機関と連携しながら、国際的なエネルギー市場の安定を図りつつ、電力の安定供給に万全を期す」と答弁し、エネルギー問題の解決に意欲を示した。

ところが、岸田文雄首相は3日夜の会見で「これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をすることが大切だ」と、エネルギー資源の確保というより省エネの推進に主眼を置いたメッセージを発出。SNSなどで、「岸田首相の発言からは危機感が全然伝わってこない」「岸田政権、大丈夫か?」といった批判が相次いだ。

ロシア軍の原発攻撃に見る日本の危機管理対策

わが国のエネルギー危機回避のため原発再稼働に対する国民的期待がようやく高まり始めた矢先、これに水を差すような事態が勃発した。ロシア軍は4日、ウクライナ南部にある欧州最大級のザポリージャ原発を砲撃したのだ。原発への軍事攻撃は世界で初めてのこと。かねてから懸念されていた原発攻撃、もっといえば核攻撃の現実化を受け、世界に衝撃が走った。

今のところは原発の管理棟や訓練施設への砲撃にとどまっており、原子炉の被害はなく、周辺の放射線量も正常な状態とされている。が、ウクライナ当局によれば、ロシア軍は同原発を制圧したもよう。ロシア側にとっては、原発という最大の武器を人質に取った形で、今後の交渉を有利に進める狙いがあるのは間違いない。

沿岸部に数多くの原発を抱えるわが国も決して他人事ではない。とりわけ、日本海沿岸の原発は、北朝鮮に近い立地条件などから攻撃にさらされるリスクは常に存在しており、小説や映画の題材になったことも。これまで国の原発防衛に幾度も提言を行ってきた福島氏は、「日本の原発防衛体制は、全くなっていない」と警鐘を鳴らす。「今回ウクライナで起きたように、敵国軍隊が原発制圧に乗り出してきたときの防衛策はないに等しい。実際に軍事進攻が起きたら脆いという現実から、これまで目を背けてきた」「そもそも日本の原子力安全体系では、特定重大事故等対処施設などで設備の安全を見ることはあっても、有事の危機管理対応について、国がどう関与して、どこまでが国の責任で、民間でできないことをどうやって自衛隊や警察が補うのかを含めた体系ができていない。20年前から必要性が指摘されていたにもかかわらず、やってこなかった」などと、日本の原発安全保障の不備を指摘する。

原発防衛には自衛隊と企業と自治体の連携が不可欠だが、足並みをそろえる以前の状態で、突然の攻撃にさらされた際の危機管理対策はないに等しい。2日午前には北海道・根室半島沖の上空にロシア機と見られるヘリコプターが領空を侵犯した。隣国の北朝鮮も日本海でミサイル実験を繰り返している。たとえ原発の現状のまま再稼働が進まなかったとしても、そこに存在する現実に変わりはない。今回のウクライナ危機をきっかけに、わが国の原発防衛策の在り方を政府主導で議論しなければならない時期に来ている。

【記者通信/3月3日】「原子力は自動車と並ぶ成長産業」CE戦略会合が明示


脱炭素化を日本の成長戦略につなげるための「第4回クリーンエネルギー戦略検討合同会合(CE戦略会合)」が3月1日、経済産業省で行われた。注目はグリーントランスフォーメーション(GX)時代に成長が期待できる分野として、自動車産業と共に原子力産業を明記したことだ。議論が進まず停滞していた原子力産業にスポットが当たったことで、日本のエネルギー戦略の大きな転換点となり得ると、関係者からの期待が高まっている。

CE戦略会合では、原子力の現状と2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた影響について報告を行った。全世界では50年までに400GW(1GW=100万㎾)以上の原子力発電所を建設する見通しで、次世代原子力産業となる「革新炉」(高速炉、小型モジュール炉=SMR、高温ガス炉、核融合炉)のシェアは全体の4分の1を占めるとしている。

原子力再構築へバックキャスティング方式を採用か

「CE戦略会合が、自動車と並ぶ成長産業として原子力を位置づけ、高速炉など4つの革新炉に関するビジョンを打ち出した意義は大きい。あえて想像するに、足元で問題になっている再稼働や運転延長などの側面から原子力を議論していくと、反対派から総攻撃を受け、どうしても議論がスタックしてしまう。そんな現状を打開するために、今回はあえてCN時代における原子力の長期ビジョンを明示した上で、バックキャスティング方式で原子力政策の再構築を議論しながら、足元の課題を浮き彫りにしていく。政府は、そんな戦略に方向転換したのではないか」(エネルギーアナリスト)

いずれにしても、ウクライナショックを背景に、原油、天然ガス、そして石炭までもが価格高騰の脅威にさらされている。片や、再生可能エネルギー賦課金の上昇問題も横たわっており、このままではわが国のエネルギー価格は上昇する一方だ。電気料金の上昇抑制や電力安定供給不安の解消を図るべく、全国の原発再稼働を求める国民の声は日増しに高まっている。政府は、第六次エネルギー基本計画に盛り込んだ「2030年度の原子力比率20~22%」を本当に実現することができるのか。CE戦略の議論の行方が大いに注目される。

【記者通信/3月3日】三菱連合が洋上風力で地域共生策 地元不安の払拭なるか!?


秋田、千葉両県3海域で洋上風力発電事業を落札した三菱商事、シーテックなど4社連合はこのほど、同事業を通じて広範で強靭な国内・地域サプライチェーンを構築し、雇用機会の創出や地域経済の活性化を目指す方針を発表した。当初予想を大きく超える安値での落札により、地元を中心に事業実施に伴う利益の還元や地域経済などへの影響を不安視する向きが広まる中、4社連合は「地域共生」を軸に事業を推進していく姿勢を鮮明に打ち出した格好だ。

具体的の取り組みを見ると、サプライチェーンの構築については、事業で使用する部品・資材調達、それを運ぶ輸送や発電所管理まで国内企業で行い、国産化を進めていくとともに、発電所建設に伴う雇用を地元で創出していく。また地域共生策については、洋上風力発電事業の関係者が地元の交通・飲食・宿泊などのサービスを利用するなどで地域コミュニティとの共生を図る構えだ。漁業面では新たな漁礁・藻礁を作ると説明。情報通信技術(ICT)を活用して漁業データを可視化し、業務の効率化を進めていくとしている。

4社連合が今回の共生策を打ち出した背景には、地元への拠出金が減額されるのではないかという不安を払拭したい狙いがある。同グループが落札した3海域でのFIT(固定価格買い取り制)価格はいずれも、入札上限価格である29円を大幅に下回っている。「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」1kW時13.26円、「秋田県由利本荘市沖」1kW時11.9円、「千葉県銚子市沖」1kW時16.49円と破格の安さだ。拠出金の目安は、事業を行う20年間の売電収入として見込まれる額の0.5%で、事業者は地元に還元することが求められている。拠出金は自治体が基金として積み立て、漁協振興策などに充当する計画だ。

秋田県漁協協同組合関係者は共生策の内容を評価する一方で、「あまりにも売電価格が低いと、漁業への補償も削減されるのではないか」と不安視する。三菱商事側は2026年の着工に向け、自治体へのメリットをしっかりと示していく必要がありそうだ。