【目安箱/5月29日】G7サミットの成功と評価 余計な約束せぬ日本


先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が5月21日に閉幕した。ウクライナ戦争と核兵器廃棄の誓いが焦点となり、エネルギー問題はそれほど関心を集めなかった。そして気候変動やエネルギー問題の宣言では、EUの主張に日本が抵抗し、過激さのない穏当な内容になった。筆者の個人的な見解だが、これは悪いことではないと思う。

共同で原爆慰霊碑に献花する、岸田文雄首相らG7の首脳(首相官邸ウェブサイトより)

◆主役はゼレンスキー・ウクライナ大統領

サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領が訪問したこと、核保有3カ国を含むG7首脳が原爆慰霊碑に献花したこと。この映像が印象に残るサミットだった。そして中国、ロシアと自由陣営の分断を印象付けた。

昨年2月にウクライナ戦争が火ぶたを切り、そして新型コロナウイルスの世界的流行が一服する中で、初めて対面で大規模に行われるサミットになった。この会議でウクライナ戦争と政治に関心が傾くのは当然だ。ただウクライナ戦争ではエネルギー輸出国のロシアが当事国であるために、その資源を今後使わないことも重要な論点になった。

また日本は議長国で独自色を出そうとした。「各国・地域ごとに条件が一様でないと認識した上で、実効的な対策をうつことが重要だ」。20日の気候変動問題の討議で、岸田文雄首相はこう強調した。石炭や、水素利用で、それを熱心に進める日本と、欧州、米加の間に差があるために、それを指摘した発言だ。

そして首脳宣言ではアンモニア、水素の利用など日本の主張が盛り込まれた。化石燃料、特に石炭火力の全廃の期日を指定するなどの過激な主張は盛り込まれなかった。ただし世界の環境派の人からは物足りない内容になった。

◆気候変動・エネルギー関係で、G7広島サミットで決まったこと

首脳宣言では、以下のことが取り上げられた。全66の項目のうち、気候・エネルギーへの言及は18項から27項までを占める。

▼石炭などの化石燃料については、長期的に減らすことが確認された。電力部門で2035年までに大宗を脱化石にすると言うことにとどめた。昨年のサミットからほとんど進展がなかった。(宣言25項)

▼日本が他国に比べて活用が進んでいる水素に加え、アンモニアも利用が書き込まれた。(同)

▼「35年まで、または35年以降に」というあやふやな期日目標だが、小型車の新車販売の大半、35年までに乗用車の100%を排出ゼロ車両にすることで、運輸部門の二酸化炭素排出量を半減することが盛り込まれた。(19項)

▼気候変動のため気温上昇を産業革命以来の1.5度上昇に抑制する。そのために50年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする。こうしたCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)で掲げられている目標の達成が誓われた。(18項)

▼エネルギーでの脱ロシアのための取り組みが強調された。(25項)

▼洋上風力、太陽光を引き続き拡大する。(同)

▼一方で、天然ガスの開発は支援する。(26項)

▼原子力の平和利用は拡大し、協力国のサプライチェーンを再強化する。(同)

▼G7では今、COPで揉め始めた、先進国による途上国への資金援助の話は出なかった。

このような内容だった。

◆京都議定書の苦い経験が生きる

このサミットの結果について、朝日新聞社説はサミットへの批判的論評はあったが、気候変動をめぐる論評はなかった。この問題への関心のなさを反映している。「日本は押しとどめられた」「先進国の責任放棄」(共同通信)などの批判が出た。ただ私はこの「変な言質を取られなかった」という点で、日本にとって良かったと思う

ウクライナ戦争以降のエネルギーを巡る混乱は一服し、価格の乱高下も今年5月には1バレル=70ドル台で推移している。しかし、戦争の結末は見通せない。つまりロシアとエネルギーの関わりが将来どうなるかわからない。表面的に西側各国はロシアとの関係を絶っている。しかしロシアからインドなど第三国を通じた輸出が増え、原油貿易が見えなくなっている。つまり表面的に安定しているものの、エネルギー情勢は不透明さを増しているのだ。

気候変動問題で、欧州を中心に過激な脱炭素の取り組みが10年代に進んだ。化石燃料と石炭火力批判、そして再エネの開発だ。しかし、その脱炭素は、ドイツなどのように、ロシアからの天然ガス、原油に支えられたものだった。その状況が大きく転換した。欧州各国で、この1年、気候変動を過度に問題視することに疑問の声が強まっている。

日本は特に今回や石炭火力や化石燃料の廃絶に関して否定的な姿勢を取り続け、議長国だが無理にその問題で合意を取りまとめなかった。これは仕方がないと思う。

「京都議定書の失敗」。官から民まで、日本のエネルギー関係者には、こうした認識がある。気候変動をめぐる1997年の京都議定書を、日本は議長国として取りまとめた。削減数値目標などの義務を負った。そしてアメリカが抜けるなど、その体制が崩壊する状況の変化をしたのに、最後まで残らざるを得なくなった。日本だけが削減義務を履行し、排出権購入などの負担を負ってしまった。

今回のサミットでは、日本政府は同じ失敗を繰り返さなかった。不透明感が強まっている今において変な約束を結んだら、国際エネルギー情勢が日本に不幸になる状況に陥っても、逃げられなくなってしまう。

◆民間には脱炭素の動きは追い風に

エネルギー問題は政府の合意だけでは解決しない。民間企業による財やサービスの提供が必要だ。サミットで非現実的な合意文書を作っても、電力、ガス、石油や、設備メーカーといった日本の産業界がついていけなければ意味がない。もしくはそれらの企業に迷惑になる約束を、日本政府が外国にしても困る。今回の首脳宣言は、脱炭素に強い日本の産業を応援する文言が散りばめられた。

特に、エネルギーのサプライチェーンの強化がG7の共同の課題となった。日本の経済界はこの分野で「ものづくり」の強さがまだあり、財やサービスが提供できる。将来の需要が期待でき、ビジネスの後押しになるだろう。

日本は今、エネルギーでは国際情勢では「様子見」、国内では「建て直し」の時だ。東日本大震災の余波としてまだ続くエネルギーシステムの混乱を修正する時だ。

今回のサミットは、大きなプラスにはならないまでも、日本にとってある程度は成功したと筆者は思う。サミットに関係して打ち出される政策に乗って、ビジネスを進め、気候変動の抑制と地球環境の改善にも貢献できる可能性がある。「地球を守れ」と、理想を掲げる人たちには、お叱りを受けそうな感想だが。

【記者通信/5月26日】消費者庁が一部業務停止命令 ニチガスは法的措置を示唆


電気やガスの訪問営業の際、強引な勧誘や事実に反する説明など特定商取引法に違反する行為があったとして、消費者庁は5月25日、LPガス卸・販売大手の日本瓦斯(ニチガス)に対し一部業務停止命令を出した。具体的には、同日から8月24日までの3カ月間、電気やガスの訪問販売における契約の勧誘、申し込み、締結に関する業務を停止するよう命じている。

消費者庁によると、今回の処分の対象となったのは、ニチガスが業務委託する訪問販売業者が行った次の6件の営業行為だ。

【事例①(勧誘目的等の明示義務に違反する行為)】2021年3月、委託先の営業員Zが消費者A宅を訪問し、「今回ニチガスから、お客さまにお知らせがあり、お伺いしました」「今まで通り、検針票はハガキで送らさせていただきます」などと、電気契約の勧誘が目的であることを明らかにしないまま、「設備サービスは今まで通りで、料金だけニチガス電気に切り替えて、お安く使えるようになった」などと営業を行った。

【事例②(勧誘目的等の明示義務に違反する行為)】21年4月、委託先の営業員Yが消費者B宅を訪問し、「ガス料金の件でこちらの地域を担当している、ニチガス代理店●●のYと申します。ご自宅の方にお伝えがありまして…」などと告げ、都市ガス・電気契約を勧誘する目的であることを明らかにしないまま、「ガスの仕組みが変わってまして、料金がお安くできるようになった」「電気もまとめてもらうとさらにお安くなる」などと営業を行った。

【事例③(勧誘目的等の明示義務に違反する行為)】21年11月、委託先の営業員Xが消費者C宅を訪問し、「年間で3カ月分ぐらいガス料金を下げて使うことができたんですが、まだご存じない方とか、そのままになっている方がいて、その確認でお伺いさせてもらっている」「お知らせが遅れてしまって申し訳ないですが、最短で来月からガス料金を下げて使うことができます」などと、契約を勧誘する目的であることを明らかにしないまま、営業を行った。

【事例④(契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘)】21年4月、委託先の営業員Wが消費者D宅を訪問し、都市ガス契約を勧誘したところ、Dが「なんだかややこしいからいいや」などと契約締結をしない旨の意思表示をしたにもかかわらず、「簡単に済みます」「特にややこしくはないです」などと勧誘を続けた。

【事例⑤(契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘)】22年3月、委託先の営業員Vが消費者E宅を訪問し、LPガス契約を勧誘したところ、「ガス会社を替えることは考えていない」などと契約締結をしない旨の意思表示をしたにもかかわらず、「ニチガスに切り替えた方が安くなるかもしれないので、ガス料金を調べさせてください」「検針票を見せてください」などと勧誘を続けた。

【事例⑥(役務の対価につき不実のことを告げる行為)】22年2月、委託先の営業員Uが消費者F宅を訪問し、電気契約を勧誘した際、Fが契約していた特定の事業者と比較して、年間を通して安くなる事実はないにもかかわらず、「大丈夫です。これだけ使っているなら安くなります」「1年を平均すると、ニチガスに切り替えた方がメリットがります」などと、あたかも切り替えた方が年間の電気料金が安くなるかのように不実のことを告げた。

業界からは「厳し過ぎる」「やむを得ない」などの声

今回の一部業務停止命令に対し、ニチガスは「本処分で指摘された違反事例6件は、いずれもお客さまからお申込みを頂いた後、お客さまからのご連絡により当社の供給前に速やかにキャンセルとなったものであり、当社との関係でお客さまに金銭的なご負担を生じさせてしまったものはございません」「本処分を真摯に受け止め、今後の営業活動におきましては、コンプライアンスの遵守に一層の注意を払ってまいります。一方で、本処分が前提とする事実関係・本処分の内容に見解の相違がある点については引き続き然るべき法的措置をとることを含め、当社の見解の主張してまいります」などとコメント。コンプライアンスの徹底に力を入れる方針を示しながらも、事実関係と処分内容については消費者庁と争う構えをちらつかせた。

確かに、6件の事例を見てみると、「訪問販売あるあるというか、誰しもが経験したことのあるような勧誘の方法もみられる。これで3カ月間の業務停止命令とは、処分が厳し過ぎるのではないか」(エネルギー業界関係者)。一方で、LPガス業界からは「現場を知っている立場からすると、6件は氷山の一角。業務停止命令はやむを得ないだろう」(販売店関係者)との指摘も。今回の消費者庁の処分は、電力・ガス全面自由化による小売り事業者の訪問販売合戦に歯止めをかけることになるのか。今後の展開に関心が集まる。

【目安箱/5月22日】今こそ「ドイツに学べ」 原発ゼロの失敗を教訓に


◆ドイツは原発ゼロを達成したけれど

2023年4月15日、ドイツで稼働していた3の原子炉が停止した。これによってドイツの電力供給で原子力発電の割合がゼロになった。ドイツが目指した脱原発が実現した。

11年3月の福島第1原発事故を受けて当時のメルケル政権は2022年末までに廃止することを法制化した。しかし、ウクライナ戦争で、延期されていた。

ドイツ社会を外観してみると、この達成の喜びよりも、エネルギー不足や価格の高騰への不安感が目立つ。筆者はドイツ語を読めず、翻訳ソフトや英文ニュースを使い断片的に情報を知るだけだが、そんなニュースばかりだ。そして海外の報道は揃って、「ドイツ経済は大丈夫か」という、懐疑的な分析だった。

日本では、脱原発を唱えていたメディアやエネルギーの専門家が、このニュースを積極的に報道していない。改めて整理して、ここに提供してみたい。

ソーラーぺネルが並ぶドイツの街並み

◆イデオロギーで突き進むドイツらしさ

原発ゼロを巡っては、各種世論調査でドイツの人々が不安を示している。公共報道ARDが今年4月11日に行ったアンケートでは、「原発ゼロが正しい」との回答が34%に対して、「間違っている」との回答が59%だった。

このように不安があるのに、原発ゼロに踏み出したのは、現在は左派連合政権であることの影響が大きいだろう。気候変動政策と経済・産業政策を同時に担当する経済・気候保護大臣は、緑の党のロベルト・ハーベック共同代表だ。この党は1980年代の反原発運動を起源とする政党なので、原発ゼロの危うい政策に固執するのだろう。

22年2月に始まったウクライナ戦争の後で、ドイツの原発ゼロ政策は迷走した。ドイツの原子力発電の縮小は、ロシアからの安い天然ガスによる発電が支えていた。戦争勃発後に、西側諸国は侵略戦争を支援しかねないことからロシア産のガス、石油の輸入を縮小し、ドイツも追随した。しかもドイツへ天然ガスの2割を供給していたロシアからのパイプラインであるノルドストリームが昨年10月に破壊され、ロシアからのガス供給は大幅に減少した。

ドイツは自国資源の石炭の使用や、他国から天然ガスを購入して急場を凌いでいる。しかし、それは解決策にはならず、エネルギー価格は軒並み上昇した。ドイツの冬は寒い。ベルリンの北緯は52度で、日本の近くだとサハリンと同程度だ。昨年、ドイツは家庭向け電力で小売価格の上限を設定、ガスに補助金を出した。それでも今年の冬は北部地域で、4人家族一戸建てで、燃料費が月800ユーロ(約12万円)を超えた家庭も多かったと報道されている。政府からの補助金で2~3割程度価格が抑制され、エネルギー企業は経営を続けているが、それは巨額の補助金によるもので長続きしない。

◆ドイツ製造業の海外移転の一因

外部環境が変わっても非合理的な政策を突き進めてしまう、ドイツの政治を不思議に思う。脱原発はドイツの環境運動がほぼ半世紀にわたって追求してきた。これは、冷戦終結後の左翼運動のシンボルになってしまったことや、従来からの環境保護への強い関心などさまざまな要素によって支えられている。その結果、もはや抜けられなくなってしまい、イデオロギーが政策を支配してしまった。

また、これまでの脱原発政策の結果、原発から関連企業が撤退し、復活したくても、機材や燃料が作れないために事業を手掛けられなくなってしまった状況もあるようだ。

エネルギー政策の混乱、電力料金の上昇に産業界は悲鳴を上げている。ドイツの産業向け電力料金は、現在E U平均の4割高になっている。

孫引きだが、「ドイツ企業の海外移転が加速か」というIEEI(国際環境経済研究所)の記事によると、22年2月にドイツ産業連盟(BDI)の行った中小企業対象のアンケート調査で、回答した418社のうち、65%がエネルギー高騰への対応を迫られている。23%で経営存続が難しくなっているとし、さらに約20%が一部生産拠点の海外移転を考えていると答えている。

また昨年11月29日に行われた経済・気候保護省などが主催する会議で、ドイツ商工会議所連合会のマルティン・ヴァンスレーベン会長は、「非常に高いエネルギーコストのために、ドイツ企業が海外移転する現実の危険がある」と語った。ドイツ企業は、米国と中国への生産拠点の移転を考えているようだ。連邦統計局の調査によると、エネルギーコストの高騰を理由に、すでに60企業に1つが海外に拠点を移したという。

逆に、欧州諸国では気候変動、大気汚染をもたらす石炭火力からの転換、発電料金が安いとの理由から、原子力発電の増設気運が広がっていた。そしてウクライナ戦争後にそれが加速した。遠い将来にはドイツはフランス、ポーランドなど周辺国から原子力で作られた電力を購入できるため、原発ゼロが可能というおかしな状況になっている。

◆今こそ、ドイツに学ぶ時

日本のエネルギーを巡る議論では、「ドイツに学べ」と、反原発の人や有識者と言われる人たちが繰り返してきた。この人たちは、「ドイツの真似をして遅れた日本が変われ」という意味で述べていた。そして、今や騒いでいた人たちやメディアは静かになってしまった。その沈黙はずるい。

今こそ「ドイツに学べ」の時だ。

今後、世界最高水準の高額さであるドイツのエネルギーコストは高止まりし、発電に褐炭を使うためにドイツの一人当たりの温室効果ガス排出量も上昇し続けるだろう。不思議なことに、昨年のドイツの名目GDP成長率は前年比1.9%増で、大幅な落ち込みは避けられたが、今年の予想はゼロ成長にとどまっている。EU圏で工業製品を輸出し、この20年好景気の続いたドイツ経済は確実に足踏みを始めた。エネルギーがその一因だ。

ドイツの壮大な、そしてほぼ確実に失敗をもたらしそうな脱原発の行動に、多くの学ぶべきことが日本にはある。日本でも、原子力の再稼働が遅れ、エネルギーコストの増加、エネルギーシステムの混乱が起きている。同じ過ちをしないように、私たちは政策、ビジネスを組み立てなければならない。

【記者通信/5月19日】NTTアノードとJERAがGPI買収 国内風力開発加速へ


NTTアノードエナジーとJERAが、グリーンパワーインベストメント(GPI)などの国内再生可能エネルギー事業を共同で取得すると発表した。両社が5月18日、GPIなどの株式を所有する米企業との間で売買契約を締結。年内に株式の取得を完了する見込みだ。一部報道によると、買収額は3000億円規模で、「概ねこの程度」(NTTアノードの伊藤浩司袱紗社長)。出資比率はNTTアノードが8割、JERAが2割となる。昨年話題となったENEOSホールディングスによるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の買収額は約1900億円だったが、今回はそれを大幅に上回る買収劇となった。

北海道・石狩湾新港の沖合で進むGPIの洋上風力開発

2004年創業のGPIは風力開発に力を入れ、特に洋上風力については他社に先駆けて事業化に着手し、北海道石狩湾新港の事業は年内完成を目指している。陸上についても、日本最大級(完成当時)の「ウィンドファームつがる(12.1万kW)」などを運用する。

今後、陸上風力事業はNTTアノード、洋上風力はJERAの経営資源をそれぞれ活用し、GPIの企業価値向上を目指すという。NTTアノードの伊藤副社長は、自社の風力開発実績はまだ不十分だとしつつ、GPIについて「風力の開発、建設、運用を自前でできるリソースがあり、NTTグループに入ってもらい、再エネ開発をスピードアップさせたい」と強調。JERAも3社の強みを生かしつつ、さらにNTTとの関係強化も図りたいとした。

3000億円は妥当か 今後の洋上風力スキームに注目

両社が今回取得する事業資産(他社持ち分含む)は、操業中の事業が太陽光5.6万kW、陸上風力28.1万kW。建設中の案件は、陸上風力が8万kW、洋上風力が11.2万kW。また、今後の開発予定として陸上風力約150万kW、さらに洋上風力公募にも取り組む意向を示している。つまり、その資産価値はこれからの開発動向に左右される部分が大きい。

約3000億円という買収規模について、NTTアノードは「GPIが既に抱えるアセットが将来どんな利益を生むか、第三者の意見も入れ価値をはじいた。適正な価格で案件を取得できたと考えている」(伊藤副社長)と、その妥当性を強調した。

とはいえ、ENEOSが1900億円を投じてJREを買収した際も、エネルギー業界内では「JREの売上高を踏まえれば、ここまでの巨額を投じる価値があるのか」と疑問視する関係者は多かった。国内風力開発競争が今後さらに激化し、かつ地域との共生が強く求められるようになる中、GPIの開発計画は想定通り進むのか。

なお、21年末の政府による洋上風力公募第一ラウンドでは三菱商事グループが3地点を総取りしたが、NTTアノードは「地域共生策の共同実施」という名目で協力企業に名を連ねていた。これら協力企業とのPPA(電力購入契約)で入札価格を低く抑えるスキームが、三菱商事圧勝の勝因だとされている。今回の買収を経て、NTTアノードとJERAが今後の洋上風力公募でどのような戦略を立てるのか、要注目だ。

【記者通信/5月16日】電力7社の補正値上げ認可 6月使用分から反映へ


経済産業省は5月19日、北海道電力、東北電力、東京電力エナジーパートナー(EP)、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の7社による規制料金の値上げ補正申請を認可したと発表した。各社の標準モデル家庭で見た上げ幅は12.9~41.1%。大手7社は昨年11月から今年1月にかけて、27~43.5%の値上げを申請していたが、今年に入り石炭やLNGなどの燃料価格が大きく下落。電力・ガス取引監視等委員会の審査や経産省と消費者庁の協議、政府の物価関係閣僚会議による査定方針の決定などを経て、7社は5月16日に補正申請を行っていた。値上げは6月の使用分から実施し、7月の請求分から反映される。

北海道と東京を除く5社は当初、4月1日からの料金見直しを想定していたが、実施時期が6月にずれ込んだことだ、事業者によっては収益面で数十億円規模の影響が出ているとみられる。一方、対象エリアの利用者にとっては、例え2カ月のずれ込みとはいえ、相応の負担軽減にはなっているもようだ。これとは別に、電気料金に上乗せされている「再エネ賦課金」が今年4月から標準家庭で月額800円強ほど引き下げられたほか、政府の負担軽減策によって家庭向けで1㎾時当たり7円が補助されている。このため、実際の負担はさらに軽くなる見通しだ。

電力7社のトップは16日に相次いで会見。東電EPの長﨑桃子社長は「電気がお客様の暮らしやビジネスの基盤であると認識し、徹底した経営効率化に取り組み、事業運営を推進する」と述べた。また、東北電力の樋口康二郎社長は「大幅な値上げとなり、大変なご負担をおかけすること、誠に心苦しい限りだが、ご理解くださるようよろしくお願いしたい」と料金値上げに理解を求めた。

中でも沖縄電力、北陸電力の2社は値上げ幅が大きく、標準家庭の場合、沖縄電力が2771円、北陸電力が2548円の値上げとなった。沖縄電力の本永浩之社長は「燃料がこれまでにないぐらい高騰した。それを料金で回収できない状況が去年の4月からずっと続いていた」と苦渋の決断であることを明かし、北陸電力の長高英常務執行役員は「石炭を中心とする化石燃料価格の高騰の影響が大きく響き、結果として料金の値上げ幅が大きくなってしまった」と説明した。

電力大手7社の規制料金(標準家庭)の値上げ状況は、次の通り。

【北海道電力(従量電灯B、契約電流30A、使⽤電⼒量230kWh/⽉の場合)】現行料金:8391円、値上げ後の料金:1万287円、当初申請時の料金:1万1229円、値上げ額:1896円(22.6%)、当初申請時の値上げ額:2838円(33.8%)

【東北電力(従量電灯B、契約電流30A、使⽤電⼒量260kWh/⽉の場合)】現行料金:8032円、値上げ後の料金:1万142円、当初申請時の料金:1万1282円、値上げ額:2110円(26.3%)、当初申請時の値上げ額:3250円(40.4%)

【東京電力EP(従量電灯B、契約電流30A、使⽤電⼒量260kWh/⽉の場合)】現行料金:6809円、値上げ後の料金7690円、当初申請時の料金:1万1737円、値上げ額:881円(12.9%)、当初申請時の値上げ額:2611円(28.6%)

【北陸電力(従量電灯B、契約電流30A、使⽤電⼒量230kWh/⽉の場合)】現行料金:6200円、値上げ後の料金:8748円、当初申請時の料金:9098円、値上げ額:2548円(41.1%)、当初申請時の値上げ額:2696円(43.5%)

【中国電力(従量電灯B、契約電流30A、使⽤電⼒量260kWh/⽉の場合)】現行料金:6053円、値上げ後の料金:7720円、当初申請時の料金:1万428円、値上げ額:1667円(27.54%)、当初申請時の値上げ額:2399円(29.88%)

【四国電力(従量電灯A、契約電流30A、使⽤電⼒量260kWh/⽉の場合)】現行料金:7382円、値上げ後の料金:9537円、当初申請時の料金:1万120円、値上げ額:2155円(29.2%)、当初申請時の値上げ額:2818円(27.85%)

【沖縄電力(従量電灯、契約電流30A、使⽤電⼒量260kWh/⽉の場合)】現行料金:8314円、値上げ後の料金:1万1085円、当初申請時の料金:1万2320円、値上げ額:2771円(33.3%)、当初申請時の値上げ額:3473円(39.3%)

【記者通信/5月12日】関電が「発販分離」検討を表明 小売り競争の健全化対応で


顧客情報の不正閲覧など相次ぐ不祥事に揺れる関西電力は5月12日、電力小売事業の競争健全化に向け、発電事業との分離を検討していることを明らかにした。JERAを設立した東京電力、中部電力の両社に続いて、発電、小売り両事業の分社化が実現することになるのか。将来的に他の大手電力会社に波及する可能性も否定できないことから、関係者は関電の動向に大きな関心を寄せている

役員による多額の金品受領、顧客情報の不正閲覧、そして中部・中国・九州の大手電力3社とのカルテルと不祥事が相次ぐ関電に対し、経済産業省は4月28日、①関電が保有する電源の内外無差別な卸取引を強化し、これを通じた、短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金、サービスのさらなる選択肢の拡大、③これらの実現するための発電事業・小売電気事業の在り方――について、具体的な検討を行うよう指示していた。

これを受け、関電は5月12日、保坂伸・資源エネルギー庁長官宛てに「小売電気事業の健全な競争を実現するための対応について」と題する文書を提出。この中で、「今後、営業活動における透明性を確保し、多様化するお客さまニーズにスピーディかつ的確にお応えするために、発販分離も含めた、最適な小売電気事業体制の検討を引き続き進めます」と明記したのだ。

森社長「発販分離は選択肢の一つ」

この日会見した森望社長は、記者からの質問に答える形で、「(発販分離は)発電事業、小売事業の機能を明確に分けて仕事をするということ。いわゆる分社化も選択肢の一つだと思うが、現時点で決めているわけではない。公正な競争のために、顧客のために(発電、小売りが)どうあるべきか、ふさわしい体制はどうあるべきか、並行して考えていく」と述べた。

ただ、発販分離が一連の不祥事の再発防止策になるかどうかを巡っては、業界内外に懐疑的な見方も少なくない。「現実問題として、発販分離した中部電力でも、顧客情報の不正閲覧は起きているし、公正取引委員会から電力カルテル問題で課徴金処分も受けている。再発防止に当たっては、形よりも実効性をどう確保するかが重要だ」(エネルギーアナリスト)。果たして、関電は発販分離に踏み切るのか。今後の行方が注目される。

【論考/5月10日】電力ビジネスは脱kWh・価値創造化を急げ


データの不正閲覧、カルテルという電力小売事業をめぐる一部旧一般電気事業者の愚行は、エネルギー危機後進んでいた電力制度・市場の再構築にすっかり水を差す形になってしまった。そして、競争の趣旨に反する行為という一般的観察から、もう少し電力制度・市場の深い知の場所からこの問題を見た場合、実は2011年以降の制度設計時、あるいはその実行時にあった政策側・助言者である学識者・当の事業者の不見識が見てとれる。

「販売電力量をあげる」という不見識が生んだ厄災

まず家庭用市場の場合、世界の電力小売り自由化地域の中で、例えば北米のパワープール地域では家庭用の半分以上のシェアを旧電気事業者のユーティリティが契約する規制約款(タリフ)が持っているが、その各社は決してそのシェアを経営目標にも活動目標にもしていない。タリフはすべて市場調達または大手発電会社間の入札であり、そのシェア拡大は経営的に何のメリットもないからだ。15~16年に北東部を襲った極渦(ポーラー・ボルテックス)の際には新規参入者の大量破綻が起こり、タリフへの回帰が急速に進んだ(バック・トゥー・デフォルト)が、各ユーティリティは州当局と協調して「新規参入者にも切り替え可能ですよ」というスイッチPRにも力を入れている。

また日本が12年に小売り自由化設計のモデルにしたテキサスは、規制約款価格を一度引き上げ、「プライス・トゥー・ビート」(倒すべき価格)として徹底したスイッチ推奨をし、2年あたりで契約数をゼロまで持って行った。このやり方では貧困者保護が著しく困難になる(現在大手小売各社で貧困者用ファンドを持っているが、最終保障約款は標準料金の3~4倍である)し、停電時大手小売会社は一切対応しないが、逆にここまで割り切ればクリアな制度は設計可能といえる。

次にカルテルで問題になった大口・業務用の場合、市場が完全流動化している米国・欧州では自社発電の固定費回収年数を引き延ばして(自社メニューの大幅値下げ)kWh販売を増やせばそれだけ電源の収益が悪化し、経営が傷つくだけなので自由化ごく初期のドイツを除けばそうした判断をした経営者は世界にいなかった。またこうしたことが起こったのは発電の収益力が世界的に類を見ない実質的な可変費での一日前市場投入規制によって歪み、「この市場ルールなら投げ売りした方がましだ」という判断を呼んだとすればその責任は市場当局、あるいは市場調達依存の新電力を放置したルールメーカーにも帰するものだ。

まさかこの程度の電力市場・制度の常識を当時の政策当局・学者者・事業者(経営者)が知らなかったとは思いたくないが、彼らが「kWh販売競争」という23年の電気事業では世界中どこにもないコンセプトに一種の夢をみていたことは否定できない。今や日本中の電力小売り事業者が「顧客を捨てる」ことに必死だ。もし今冬が今年の裏返しの厳冬で、中国のLNG需要が回復すれば、日本の小売り電気事業で余計なkWh販売を持つことは経営破綻に直結するからであり、しかもその状況は予備力が豊潤になるまで当面続く。

価値化の鍵は分散型電力システムへの参画

では、「販売電力量をあげる」ビジネスから脱した電力ビジネスはどこにいくのだろうか。今後は日本の電力市場は「完全流動化+堅牢な容量市場」という北米のパワープールに極めて不完全な形ながら近づいていく。電源の共有化、各種の容量確保市場、それらの小売り負担がその内容であり、旧来型の電気事業(電気を作り、送り、売買する)はそちらに収れんしていく。そこでは旧一電は実質的なデフォルトプレーヤーとして役割を果たし、生き残った新規参入者は得意顧客を集めて対抗していことになる。

その上で、重要なのは顧客にとっての電力ビジネスの価値化であり、鍵がエネマネ、再エネ、蓄電池、EV、機器制御、それらを使ったDR(デマンドレスポンス)といったDER(分散型エネルギー資源)であることは論を待たない。22年11月から始まった資源エネルギー庁の分散型電力システム検討会はDER活用の課題となっていた機器点計量による需給調整市場参入、省エネ法改正に伴うDRのルール、本格普及期に入るEVと電力グリッドの課題整理、活用のために必要なDERプラットホームの送配電事業者・アグリゲータ双方にとっての必要条件について議論し、各課題を電力・ガス小委などに順次送り出している。

英国をはじめ需要側フレキシビリティ活用の先進地に比べて制度は整備途上だが、自動車各社と送配電・EVビジネス関係者が具体検討を始めるEVグリッドWGが立ち上がるなどの取り組み内容は画期的である。一方、国内DERビジネスも、エネルギー危機の進行とともに屋根乗せ太陽光、PPA(電力供給契約)、エネマネツールの開発・普及、蓄電池活用、あるいは系統蓄電池、EV導入など多くの事業者・ベンチャーが参入して活況を呈している。

問題は多くのユーザーを持ち、kWh販売というエネマネや再エネ導入のベースであるビジネスのプラットホームを持つ大手小売り電気事業者が、本当にこのビジネスをkWh販売に変わる主軸として自分の「価値」と考え、行動できるかという点ある。kWh販売に比べるとこのビジネスは安易にマネタイズしにくく、システムやアライアンスの工夫やイノベーションが必要だ。「知恵」なくしては発展しないのである。

多くの電力ユーザーがDERを使った新しい電力システムへの参画を果たせれば、再エネ大量導入時代の大きな課題である再エネバランシングはより容易になり、予備力が乏しい中でも日本の電力システムはより強固になる。今回の不祥事がこうしたより良い電気事業の姿に結びつけば、それだけ犠牲を払った甲斐があったと言えるのかもしれない。 

西村 陽  大阪大学招聘教授

【記者通信/4月28日】2024年の完成なるか!六ヶ所村再処理施設の現状


日本原燃の核燃料サイクル施設(青森県六ヶ所村)の完成が近づいている。同社は2024年上期のできるだけ早くの完工を目指す。これによって核燃料サイクル政策が動き出す。3月末に現地を取材した。

日本原燃の六ケ所工場(日本原燃提供)

◆原子力発電を支える重要施設

「バックエンド施設が一箇所に集まっているのは、世界的にもここ六ヶ所だけです。発電と再処理は原子力における車の両輪。一日も早く稼働させ、地元、そして原子力関係者の期待に応えたい」。施設を案内した幹部はこう話す。

原子力発電のウラン燃料はこのようなペレット状に加工され、金属の容器に入れられる

この六ヶ所村の日本原燃には、核燃料再処理、建設中のMOX燃料製造、低レベル放射性廃棄物の処分、高レベル放射性廃棄物の一時保管、そしてウラン濃縮の5つのカテゴリーの施設が立ち並ぶ。

現地を訪れると敷地の広さ、それぞれの建物の巨大さが印象に残る。その面積は、青森県下北半島の六ヶ所村に約730万㎡。再処理の新規制基準対策工事のピーク時には、約3200人の同社社員に加え、約8000人の協力会社の人が働いていたという。MOX燃料工場(ウラン・プルトニウム混合酸化物)も建設中だった。

「トイレなきマンション」と、原子力反対派は50年前から変わらないスローガンを掲げ批判している。日本の原子力政策では、廃棄物処分の対応がされていないというものだ。しかし実際には、ここで着々と取り組みが進んでいる。

20年以上前に、高レベル、低レベル放射性廃棄物を施設に搬入する際、反対派が全国から押し寄せた。しかし安全な運営を続け事故もなかったために、今ではそのような運動は施設周辺で見られなくなったという。

◆再処理工場稼働で原子力の諸問題が前進

この施設の中核は、核燃料の再処理工場だ。原子力発電で行われる核分裂反応で、ウラン燃料の全てが物質転換するわけではない。大半の成分はそのままで、プルトニウムや核分裂の生成物ができる。その使用済み核燃料を化学反応させて物質を分離させ、使えるウランとプルトニウムを取り出す。

使用済み核燃料6体(約3t)から、ウラン燃料1体、MOX燃料は1体、高レベル放射性廃棄物のガラス固化体(約500kg)3本が作られる。燃料は再利用ができ、処分しなければならない廃棄物の体積が4分の1に減り、プルトニウムもMOX燃料で消費できる。年約800tの使用済み燃料を処理できる。

仮に使用済み核燃料を直接処分した場合、放射線量が天然ウラン並みに低下するのは10万年必要だ。これに対し、燃料を再処理することによって同じ程度に低下する期間は8000年程度で済む。

つまり再処理をすることで、燃料再利用、放射性廃棄物の減容、有害度低減というメリットがある。そして余剰プルトニウムを持たない国策の実現という意味がある。日本は無資源国だ。この核燃料サイクルによって、核燃料をできる限り使い続け、エネルギーの海外依存度を減らそうと1950年代から構想されてきた。それが今、実現しようとしている。

再処理工場の建設費は当初計画の4倍の3兆1000億円になり、建設開始から40年ごろまでの総事業費のめどは14兆4000億円になる。確かに巨額であり、その予定外の出費の是非は検証されなければならない。しかし現在の電力市場の規模は22年で15兆1000億円と巨大なもので、核燃料サイクル事業費はそれよりはるかに小さい。核燃料サイクルの多くのメリットを考えれば、コストは決して高いものではなくなる。

◆なぜ審査は遅れたのか

ただし再処理工場の竣工は遅れている。日本原燃は、1992年に建設を始めたが、昨年9月に26回目の工事完成の延期を発表した。同社は「24年度上半期のできるだけ早く」と期限を設定した。ところが、今年3月末の原子力規制庁との審査会合では原燃が提出した申請書6万ページのうち約3000ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。

繰り返される延期には原燃のマネジメント体制の問題がある。しかし11年以降の原子力の新しい規制体制にも問題があると思える。

東日本大震災の後に、これまでの許認可を棚上げし、原子力規制で建設の認可が全ての原子力施設やり直しになった。これは無駄なことだし、法律上の根拠はなかった。

日本原燃は14年1月に事業変更許可申請を出し、それが20年7月にようやく認められた。現在、設計と工事計画の認可を求め、並行して認可前でも施工可能な場所は安全対策工事を行なっている。

再処理施設は国内でここしかない。そこには他の原子炉の6倍程度の多くの設備がある。国内で審査の先行事例がないため、規制庁も、原燃も審査に試行錯誤を繰り返している。この事情を考えた対応を規制庁もするべきだった。

◆過剰規制が工事を遅らせた

また素人の記者の判断であるが、装備を過剰につける形で安全対策の規制が行われていた。それが合理的であるか疑わしかった。

新規制基準では、航空機衝突、天災による冷却機能の喪失などの重大事故への対応が行われている。再処理施設は高熱を管理する必要のある原子力発電所ではなく、化学プラントだ。アクシデントが起きても、その事故の進行度が全く違う原子力発電所と同じような規制を課している。

例えば、ここでは主要設備に竜巻対策が取られていた。他の原子力発電所と同じように、国内の気象観測で最大級の風速毎秒100m以上の竜巻対策を規制庁は求めた。そのために施設の冷却に必要な冷却塔、排気・換気ダクト、重要な配管に、竜巻での飛来物から設備を守る、鋼鉄製の防護網や板が設置されていた。また火災対策として、これまであった消火設備の地下化などが行われていた。ここでは過去、大規模な竜巻は観測されていない。ここまでの対策は必要なのか。

冷却塔に加わった防護ネット(日本原燃提供)
再処理工場の遠景(日本原燃提供)

原子力施設が安全になることは良いことだ。しかし対応で高まる安全性と、経費や建設の手間に釣り合いは取れているのか。日本原燃の経費は電力の利用者が最終的に負担し、遅れは利用者に負担を強いる。

◆24年完工を目指し、努力は続く

再処理工場の完工の遅れに対し、電力業界も支援を続けている。審査対応などで日本原燃に電力各社から多数の社員を派遣している。日本原燃の増田尚宏社長は24年度上期のできるだけ早くに完工させるという目標は変えていない。そしてMOX燃料工場も同時期に完工の予定だ。

19年に社長に就任した増田氏は、エネルギー業界では「英雄」として知られる。東日本大震災の時に、津波に襲われた東京電力福島第二原発の所長として、対応を行い、プラントを安全に冷温停止させた。その実績が高く評価されている。その熱意は社長に転じた日本原燃にも活力を注ぎ込んでいるとされる。

同社は、21年12月から体育館に関連企業、社員を集め、コロナ対策をしながらそこで400人ほどが机を並べて働いている。審査対応を、一緒に練る場所を作り、連携を強めるためだ。竣工を目指し、関係者が一丸になって取り組んでいる。

工期の遅れは、再処理事業を受け入れ、それによる経済の発展を期待してきた青森県の人々を失望させることにもなる。

1日も早く完成させ、核燃料サイクルを形にしてほしい。再処理施設の完成は核燃料サイクル政策を動かし、原子力を巡る諸問題を解決へ前進させることになる。

【目安箱/4月26日】原産年次大会で実感 原子力を巡る前向きの変化と期待


「第56回原産年次大会」が4月18、19両日、東京国際フォーラム(東京・千代田区)で開かれた。国内外から630人が参加し(オンライン参加を含む)、「エネルギー・セキュリティの確保と原子力の最大限活用-原子力利用の深化にむけて」を基調テーマに議論した。

外国から原子力界で著名な人を招くこの会合。業界関係者が一同に会するため、筆者も傍聴者として参加してきた。コロナ禍の後で出席者が増え、参加者が「原子力に前向きの変化があった」と口をそろえて歓迎していたことが印象に残った。

◆政策変更を歓迎、進展を期待―今井敬会長

開会セッションの冒頭、原子力産業協会の今井敬会長があいさつ。最近の日本における政府方針・法案決定の動きに関し「原子力利用の価値を明確にした」として、「わが国の原子力政策は大きく前進しようとしている」「世界で原子力へ回帰する動きが出ている」との認識を示した。今井氏が述べたように、日本の原子力を巡る政策が大きく変わったことが、関係者に希望を抱かせている。ただし、この変化を「着実に進展することを強く期待」と、実行の必要性を強調した。

経団連会長、新日鉄会長を務めた今井氏は93歳だ。その見識の高さで知られ、まだ「財界」に権威のあった時代の企業人だ。しかし、その頭脳の明晰さと声のはりは全く衰えず、スピーチ後も各セッションを最前列で傍聴し、有識者の発言から学ぼうとしていた。その姿勢に、筆者は感銘を受けた。

続いてあいさつした経済産業省の保坂伸・資源エネルギー庁長官は「原子力活用がG X(グリーントランスフォーメーション)の柱になった」と政策変更を強調。「わが国の原子力産業は今や大きな危機に直面している。原子力産業を盛り上げていくことの重要性は今や世界的な共通認識となっている」と述べ、原子力のサプライチェーン、技術基盤・人材確保の維持・強化に努める政策を説明した。

筆者は、エネ庁の政策の甘さとそれがもたらした混乱が、原子力・電力産業の苦境を招いた一因と思っている。頭脳明晰とされる保坂氏もそれはわかっているだろうし反省の言葉はほしかった。しかし、現役の官僚にそれを求めるのは酷かもしれない。

◆世界も日本の原子力に注目

国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシー事務局長からはビデオメッセージが寄せられた。IAEAが2022年7月に新たなイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standard Initiative」(NHSI)を開始したことを紹介。NHSIでは、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進的原子炉の設計標準化、規制活動の調整、情報交換を行うが、「日本の活躍に期待」と述べた。また。「次世代のプロを着実に育てていく必要がある」と強調。男性に原子力研究者が多い現状を是正する目標を掲げ、日本に対し理解・協力を求めた。

さらにジャーナリストで国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏が「原子力発電を日本の元気の基にしよう」と題して特別講演。規制政策の合理化を訴えた。「日本の原子力技術は非常に優れている。現場の人たちの努力を形にすることは国の責任だ」と桜井氏は訴えた。

セッションは1日目「揺れ動く国際情勢と各国のエネルギー情勢」「再評価される原子力-原子力産業活性化と世界的課題への貢献」。2日目は、「福島復興の未来」「原子力の最大限活用とその進化-2050年を見据えて」が行われた。

◆雰囲気の変化を形にしよう

原子力では、関係者の内輪の会合でも、昨年(22年)まで「意気消沈」という印象を与えるものが多かった。2011年の東日本大震災とそれによる東京電力福島第一原発事故で、さまざまな立場の人から原子力関係者は批判を受けた。関係者も必ず反省を語った。仕方のないことにしても、後ろ向きの印象を抱き、暗くなりがちだった。

ところが今回の会合は変わった。世界的な原子力再評価が気候変動問題で起こり、2022年にウクライナ戦争でのエネルギー危機でそれが加速した。さらに、その機会に合わせ、岸田文雄政権が原子力活用に政策を転換した。社会の雰囲気は変わっているし、政府の決断を評価したい。

原産協会の大会で会った旧知のメーカーの技術者が話していた。「業界が前向きの雰囲気になった。電力会社の不祥事が続いていて、原子力の再生の機会を逃さないか心配だ」。また知人の電力会社幹部は「原子力を巡る雰囲気が変わり、セッションや講演でも前向きの話ばかりだった。あとは新型炉を開発してほしい」と述べていた。後は、この機運をバネに、原発の再稼働、新増設・リプレースなど、具体的な形や成果に結びつけることが必要だ。

【記者通信/4月18日】電力カルテル会見を徹底検証 「合意の有無」巡る対立の深層


公正取引委員会から過去最高の課徴金納付命令が出た電力カルテル問題を巡り、当事者の大手電力4社(中部、関西、中国、九州)の間で「カルテル合意があったのか否か」に世間の関心が集まっている。今後、中部電力などが処分の取り消しを求める訴訟を起こせば、法廷闘争における重要な争点になるのは確実。公取委・関西電力対他3社という異色の構図となる可能性もあり、業界関係者の視線を集めている。

九州電力、合意はないが提訴は未定

4月14日に行われた電気事業連合会の定例会見。池辺和弘会長はいつになく饒舌だった。「(九州電力社長の立場として)カルテルに関しては、全く聞いていなかったと明確に申し上げることができる。当社では、カルテルが行われていなかったので、CEO(最高経営責任者)である私に相談がなかったと考えるのが、当然の結論ではないか」。記者から「公取委との間で一部見解の相違があるとのことだが、どこに相違があるのか」と問われると、池辺氏は「カルテルの合意があったことだ」と言い切った。

その一方で、取り消し訴訟の可能性については「まだ社としては決めていない」とお茶を濁した。記者からは「九電としてカルテルはなかったと言っているようにしか聞こえないが…」との声が上がったが、池辺氏は「(役員・社員らが)CEOに相談を行わないままに、カルテルを結んでいた可能性は残っている。私が知る限りの証拠に基づけば、カルテルはなかったと思うが、現時点でカルテルはなかったと言い切っているわけではない」との考えを示した。察するに、現時点で「九電としてカルテルはなかった」と断言できるほどの材料はないのだろう。そこに池辺氏の苦しい立場が読み取れる。

中部電力、行政訴訟で徹底的に争う構え

その点、中部電力の林欣吾社長は公取委との対決姿勢を鮮明に打ち出している。「各命令に関しては関電との間で営業活動を停止するよう合意しておらず、取り消し訴訟の準備を進めている」「公取委との間で見解の相違がある。訴訟を通じて具体的な意見を述べて、的確に対応していくことが大切な経営責任だと考えている」「役員級が会合していたのは事実だが、誰が誰といつどこで何を話したかなど具体的な内容は訴訟の場で説明する」――。

林氏は4月7日の会見で、大手電力4社のカルテル認定に対する公取委の処分を受け入れず、行政訴訟で徹底的に争う考えを繰り返し強調した。去る3月30日も、公取委が処分を発表した直後に、水野仁副社長が名古屋の本店で会見を行い、取り消し訴訟の提起を発表。2018年当時、専務執行役員販売カンパニー社長として当事者の立場にいた林氏自らの強気の姿勢には、カルテルで合意した事実はないという自信が垣間見える。

「中部電は2018年以降も引き続き関電管内での顧客を増やしているが、おそらくはその事実にとどまらず、カルテルを否定できるだけの十分な証拠を持っているのではないか。例えばICレコーダーの音声データとか。そうでもない限り、林さんのあの自信は説明がつかない」(大手電力関係者)

【記者通信/4月19日】G7エネ環境相会合 「現実路線」に軌道修正


主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合が4月15、16両日、札幌市で開かれた。脱炭素とエネルギー安全保障を両立させる「現実的なエネルギー移行」が焦点となる中、西村康稔経済産業相は会合後の共同会見で、①多様な道筋の下で共同のゴールを目指す、②グローバルサウス(途上国)との連携、③地政学リスクに対応――の三点について合意できたと語った。共同声明では、さまざまな分野で「現実路線」への軌道修正が図られた。項目別に解説する。

石炭火力の廃止期限は明示せず 処理水放出への理解は?

石炭火力

最も注目を集めたのが石炭火力の廃止期限を巡る問題だったが、昨年同様に明示を避け、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズアウトを再確認する形に収まっている。原発再稼働が進まない日本にとって、石炭火力の早期放棄は電気料金のさらなる上昇や供給安定性の低下につながる可能性が高い。一部の国からは、日本が作成した共同声明の初期草案段階から廃止期限の不明示について懸念の声があったとされるが、振り切った格好だ。2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することへの関与も再確認した。

原子力

昨年の共同声明から記述量が倍増した。革新炉開発や強靭なサプライチェーンの構築、技術や人材の維持・強化が明記され、力強い内容となっている。しかし会合の数日前、「脱原発」を完了したドイツの影響もあり、共同声明の主語が「われわれ(We)」ではなく、「原子力エネルギーの使用を選択する国々(Those countries that opt to use nuclear energy)」となっている点は要注目だ。同会合に合わせて国際原子力フォーラムも開かれ、G7閣僚からは西村経産相のほかに米国、英国、フランス、カナダの担当閣僚が参加。ウランをはじめとする「原子燃料分野のロシア依存低減」などが合意され、G7共同声明にも盛り込まれた。

福島第一原発

「福島第一原発の事後対応」についての項目が加えられた。今夏以降に予定する処理水放出を巡っては、国際原子力機関(IAEA)による独立したレビューが支持された。レビューは夏前に包括報告書が提出される予定で、放出前にG7の支持を得られた意義は大きい。廃炉作業については、科学的根拠に基づいて日本の透明性のある取り組みを歓迎するとした。日独伊の閣僚が参加した会合後の共同記者会見では、こんな一幕があった。西村経産相が「“処理水の海洋放出を含む”廃炉の着実な進展、科学的根拠に基づくわが国の透明性のある取り組みが歓迎される」と説明した後、ドイツのレムケ環境相が「処理水の放出は歓迎できない」と反発したのだ。日本の取り組みが歓迎されたのは、あくまで「廃炉作業」であり、処理水放出についてはIAEAレビューを支持したという趣旨だったようだ。西村経産相は会見後、記者団に対して「言い間違い」を認めたが、ヒヤッとする場面だった。

「現実路線」でガス投資の必要性明記 合成燃料にも言及

天然ガス・LNG

エネルギー価格の高騰とインフレが特にグローバルサウスへの悪影響を及ぼしていることに触れ、将来のガス不足を防止する観点から、気候目標に反しない形での投資の必要性が明記された。石炭火力の休廃止が進む中で、化石燃料の中でCO2排出量が最も少ないLNGは「トランジション・エネルギー」としても重要だ。日本が支持を求めたとみられ、現実解の一つといえる。

水素・アンモニア

電力部門の脱炭素化に資する点が明記された。日本は昨年、アジア各国の脱炭素化を推進する理念を共有し、協力する「アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)」を提唱。水素サプライチェーンの共同開発や水素・アンモニア混焼などによる低炭素化に貢献する。共同声明ではこれらを念頭に、電力部門で水素とその派生物(アンモニアなど)の使用を検討する国についても触れた。水素・アンモニア混焼など日本のGX戦略は“石炭火力の延命策”との批判もあるが、「現実的なエネルギー移行」として推し進めていく。

自動車

米英などが電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車について、市場シェアや販売台数などの数値目標の明記を求めていた。しかし共同声明では、35年までにCO2排出量50%削減(2000年比)の可能性に留意という表現でとどめた。同分野では水素、合成、バイオなど脱炭素燃料についての言及もあり、合成燃料で走るエンジン車に限り35年以降も新車販売を認める欧州連合(EU)の方針と歩調を合わせた格好だ。ハイブリッド車(HV)とEVの“二正面作戦”を展開する日本にとって追い風となりそうだ。

再生可能エネルギー

30年までに洋上風力の容量を15GW、太陽光発電の容量を1TW以上増加させる数値目標を盛り込み、再エネ導入拡大とコスト引き下げに貢献することを明記。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、波力発電など革新的技術の開発を推進するほか、系統増強や蓄電池運用の近代化、需要側のマネジメントなどシステムの柔軟性を着実に向上させていくとした。

急進的な脱炭素化に歯止め 国情に応じた取り組みに理解

共同声明ではさまざまな項目で定量目標を設けず、多様な選択肢を追求する姿勢が目立った。開会挨拶で西村経産相が「これまでに経験したことのない不安定なエネルギー市場、サプライチェーンの脆弱化といった課題に直面している」と語ったように、厳しい現実を前にして脱炭素化への急進的な動きに歯止めがかけられたといえる。また脱炭素という「ゴール」は共通だが、「アプローチ」は各国の国情に応じて多様であると強調された点も意義がある。本会合が9月のG20首脳会議、年末の温暖化防止国際会議・COP28にどのような影響を与えるか注目だ。

【目安箱/4月18日】Jパワー大間原発の今 国策を揺るがす規制委審査の遅れ


建設中の電源開発(Jパワー)大間原発(青森県大間町)を3月末に見学した。この原子力発電所は核物質プルトニウムを消費し、最近は不足しがちな電力供給を改善する重要な役割を持つ。にもかかわらず、原子力規制委員会の審査が長引き工事が遅れている。稼働は2030年度になりそうだ。建設の進まない巨大プラントを前に、原子力政策、規制政策がこれでいいのかと疑問を抱いた。

工事中の大間原発の原子炉部分。覆いがかけられている

青森県下北半島の最北端に本州最北端の大間崎がある。そこから4kmほど南に、大間原発がある。訪問した日は快晴だったが、凄まじい風が吹いていた。津軽海峡に面したこの地域は、年間120日以上も風速毎秒15m以上の強風が観測されるという。原発の主要部分には、風を避けるための覆いがかけられていた。工事の大変さを思った。(写真)

大間原発の原子炉は1基で発電能力は国内最大級の138万3000キロワット(k W)だ。現在の日本では原子力発電所の稼働が遅れ、電力が不足しがちだ。大間原発の完成と、そこからの電力の大量供給は、状況を変えるだろう。

そしてこの原発はウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使って発電できる。プルトニウムは核爆弾の材料になりかねないために、国際的にその保管や利用を監視されている。日本は余剰プルトニウムを持たず、それを平和利用する国際公約をしている。この物質を消費する大間原発は、その国策に貢献する発電所だ。

◆停滞する工事、審査が長引く

ところが工事は進んでいなかった。工事現場は広大だった。ただし建設作業員らの姿は、主要部の原子炉の周辺ではまばらで、周辺の道路や地盤整備、関連建造物の建設が行われていた。

建設は2008年に建設認可を経産省から受けて始まった。ところが2011年3月11日の東日本大震災で状況が変わった。原子力規制体制が見直しになり、大間原発の建設の許認可もやり直しになってしまう。今度は経産省から、独立した行政機関である原子力規制委員会、規制庁が担当することになった。Jパワーは2014年に同委員会に適合性審査を申請した。ところが、この地域の津波や地震に関する審査が続き、その基準地震動が今も定まらない。そのため発電所主要部の原子炉の工事が行えない。

多くの原発で、一度震災前に建設をめぐる許可は出ている。それを新しい制度で急にやり直させるのは問題だし、規制委員会のその指示に法律上の根拠はない。そして申請から8年経過しても結論が出ないのは、原子力規制委員会・規制庁の審査に問題がある。行政手続法では、どのような行政組織も2年以内に審査を終えることが行政側に義務付けられている。

Jパワーは建設当初は2014年に予定した運転開始を2030年度に延期した。建設費用は東日本大震災前に見込みで4690億円、震災後の追加安全対策で1300億円の予定で、合計5990億円という巨額だ。この投資は財務的に優良企業である同社にとっても大きな負担である。早急に完成、稼働させなければならない。民間企業の収益機会が、行政によって制限されているのは問題だ。

◆地元は稼働による経済効果を熱望

さらに津軽海峡を隔てた北海道函館市が、2014年4月に大間原発の建設中止を求めて国とJパワーを提訴している。同市は避難計画の策定が必要な半径30キロ圏内に一部が入る。大間原発の恩恵が少ないのに、リスクを引き受けることに、函館市の人が不快感を抱くことは理解できる。しかし同市はふるさと納税で訴訟支援への献金を促すなど、中立であるべき行政の立場なのに、全国の反原発派を集めて紛争を大きくしようとしている。この行動は問題だ。

一方で、地元の青森県、大間町は大間原発の早期の完成と稼働を求めている。大間町への原子力発電所の誘致は1984年の町議会の決議から始まった。そして稼働した場合には固定資産税、電源立地交付金などさまざまな収入を、県や町は得られる。

現在の建設工事で、Jパワーグループは地元で約100人を雇用し、地元企業への発注もある。完成の場合には、同社社員や関連会社で約500人が常駐する見込みだ。大間町の人口は4865人(2023年2月末)で過疎に悩む。この原発の竣工と稼働は、地域経済に大きな貢献をするだろう。

案内をしたJパワー幹部は「この原発は日本のエネルギー、原子力の未来に、重要な意味を持ち、責任を感じている。地元の皆様との約束もあり一日も早く稼働させたい。安全性を高めた原子力発電所を作りたい」と、抱負を話した。

◆大間原発の意義を考え、早期の竣工を期待

福島事故から時間が経過し、原子力についても冷静に議論ができるようになっている。その活用を求める声も増えている。政府もこれまでの曖昧な態度から活用へと原子力政策を昨年から転換した。ところが政府の原子力規制政策が矛盾している。規制当局が、原子力を使わせないようにしているように見える。

原子力規制委員会、規制庁の行動については、過剰な設備を求める規制、審査の遅れがこれまで批判されてきた。筆者は安全性を確認せずに原子力発電所の稼働を進めろと主張するつもりはない。しかし審査があまりにも遅い。特に遅れの目立つ大間原発で、基準地震動の審査では多様な解釈ができる過去の地層の動きの議論を延々としている。

そのような原子力規制が、青森県、大間町の住民、そしてJパワー、全国の電力利用者というあまりにも多くの人や団体に悪影響を与えてしまっている。

核燃料サイクルを動かし、電力供給を増やし、地域振興に役立つ大間原発の重要な意味を、関係する人は認識してほしい。重要なプラントである大間原発の建設を一行政機関が妨げている今の日本の原子力規制のあり方についても、考えるべきであろう。

大間原発の早急な完成と稼働により多くの人が利益を享受することを、エネルギーに関わる者として期待したい。

【記者通信/4月11日】自民党PTが資源自律経済を提言 西村環境相「新たな経済成長に」


自民党経済産業部会(会長・岩田和親衆議院議員)と、同部会内の資源自律経済プロジェクトチーム(PT:座長・関芳弘衆議院議員)は4月11日、西村明宏環境相に対し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)へのさらなる取り組みを求める「世界最先端の資源自律経済の実現に向けた成長戦略への提言」を申し入れた。出席した岩田和親経産部会長は「昨年末からこのPTを立ち上げ、精力的に取りまとめた。循環型経済を成長戦略として位置付けたい」と話している。

西村環境相(右から2人目)に提言を手渡す関座長(左から2人目)

提言では、資源自律経済の確立に向け、①経済安全保障への貢献、②気候変動対策への貢献、③情報流通プラットフォームの早期構築、④製品・サービスの循環配慮設計の徹底、⑤製品の長期利用を促進する「REコマース」産業の育成⑥企業による情報開示とファイナンス、⑦国際連携の抜本的強化――の7点を示し、政府に循環型経済を国の成長戦略として位置付けるよう求めた。PTの関芳弘座長は「リユース・リデュース・リサイクルの3Rをクリアした商品が市場に回る環境になっている」と現状を説明。中国などを念頭に置く資源調達リスクを踏まえた経済安全保障の観点からも、速やかな循環型経済への移行が必要だと強調した。

西村環境相は「経済成長と環境がウィンウィンの関係を築くことが必要。循環型経済を新たな経済成長に結び付けないといけない」と述べ、提言に理解を示した。また、この日から第5次循環型社会形成推進基本計画の策定に環境省として取り組んでいることを明かし、今回の提言をベースに策定の調整を進めていく考えを示した。

【目安箱/4月4日】世界的な中国企業排除 エネルギー業界の対応は万全か?


欧米で中国系企業への重要産業からの排除の動きが広がっている。各国のエネルギー産業ではそれが特に進む。これまで重電や原子力プラントの輸出などが問題になってきた。最近では、太陽光、監視カメラ、EV、TikTokなど、エネルギー周辺に関係する個別の製品やサービスも警戒されるようになっている。欧米に比べて、この問題の反応に鈍かった日本政府と産業界も、ようやく動き始めた。エネルギー業界の準備は大丈夫か。

TikTok批判のきっかけは設備情報の映り込み

「TikTokから情報が中国に漏れている可能性がある」「米国でビジネスをするなら米国企業に売却するべきだ」――。3月23日に行われた、米連邦議会下院の情報通信委員会公聴会で、動画配信アプリTikTokを運営する中国企業バイトダンスの周受資CEOに議員たちが発言した。周氏は情報漏洩も米国企業への売却も否定。「企業活動の侵害である」「情報セキュリティが当社より適切に行われていない米国企業も多い」などと反論した。

対立した状況だが、意外な方向に転がる可能性がある。同委員会は、TikTokの米国内での活動を禁止する法案を超党派の賛成多数で2月に可決している。すでに米国は公的機関での使用を禁止しているが、法律での全面禁止など、さらなる規制がこの公聴会をきっかけに同社の活動に加わってしまうかもしれない。

TikTokは全世界で10億人、米国で1億人以上のユーザーがいる動画投稿アプリだ。若者を中心に人気がある。利用者の情報漏洩の可能性が指摘され、共和党保守派の批判だけではなく、民主党のバイデン政権も規制を進めている。2018年ごろに問題になったきっかけは、米軍の若い兵士たちが、映像を投稿し、それに軍の設備や部隊が映り込んで、当時のトランプ大統領や共和党保守派が懸念したことだ。

これはインフラ産業が警戒すべきことだ。社員や訪問者の何気ない投稿が、重要情報を拡散してしまうかもしれない。

中国企業の警戒へ 米国の雰囲気変わる

2023年の今、米英のメディアを見たり読んだりすると、中国の政府、企業に対する警戒感が5年前とは全く違っている。かつても政治家や有識者からの中国企業の懸念をメディアは報じていた。それでも「中国との貿易は利益になる」「中国と対立はするべきではない」と、中立性を保つ意見が記事で併記される例が多かった。

ところが今は中国政府と、同国企業の活動への警戒が一色だ。米国の東部や英国のリベラルメディア、両国のテレビが、英語を通じて国際世論を引っ張る。しかし、そこからは中国との友好の情報は消えている。政治家も中国への批判を繰り返している。

最近は、基幹産業だけではなく、個別の製品、企業で、中国企業の動きを警戒する記事が増えている。特に、エネルギー関連では、監視カメラ、太陽光発電、EVなどが目にとまった。

中国は6億台以上の監視カメラが国内にちらばる異様な社会だ。監視カメラの世界シェア1位は中国企業のハイクビジョン、2位は同ダーファ・テクノロジーだ。2社は中国政府に協力し、その監視システムを作り上げてきた。両社は海外での販売活動を行なっている

太陽光発電システムの原料のシリコンの世界の生産1位は、中国新疆ウイグル自治区の軍事組織「新疆生産建設兵団」だ。ウイグル人の強制労働などをしている疑いがある。米国は同組織が人権侵害に加担しているとして、中国製太陽光パネルの輸入を昨年夏から止めている。EVの世界4位の生産量を持つのは中国のBYDだ。同社は価格ダンピング批判や環境基準に抵触する生産を米政府に調査されている。

こうした企業は、日本のエネルギー産業に関係する。そして欧米から締め出されつつあることが影響してか、昨年ごろから日本での販売促進活動を活発に行なっている。

日本で変化の兆し 平和ボケも根強い

人権や安全保障に敏感に反応する欧米の政府や企業と違い、日本の官民の動きは鈍かった。ようやく変化の兆しがある。

日本では経済安全保障推進法が2022年に施行され、内閣府に担当大臣も置かれるようになった。その法で定められた「基幹インフラ事前審査制度」が23年以降に施行される予定だ。この法律と制度では、電力やガスなど重要な産業について、経済安保上の脅威となる外国製品の導入、外国企業の介入を防ぐように政府が指導できる。特定の国、企業を念頭に置いたものではないと繰り返されるが、実際には中国企業への対抗措置となろう。

同制度は現在、細則づくりが進んでいる。ただしエネルギー産業はこれまで、他産業と比べて、保安や事業の維持、情報管理の面では関心を持ち、対策をしてきた業界だ。21年に同制度が審議中のときにある大手電力幹部は、「すでに重要設備で外国製品は、原則として使っていない。制度が作られても、それを深掘りするだけだ」と、話していた。

建前はそうだが、実態は大丈夫だろうか。新しい技術や製品は次々と誕生し、使われる。例えば、今ではエネルギープラントの設備管理と監視にドローンが使われている。この分野では中国製品もあるし、日本製でも中国製部品を使っているものもある。外国製品を簡単に排除できない面がある。

また社会の雰囲気も「平和ボケ」が続く。例えば、デジタル庁は、昨秋、マイナンバーの広報のためにTikTokに広報動画を流した。メディアも積極的にPR映像を流している。知人に在京テレビの制作部署に勤める社員がいる。その人と2月に話したら、海外のTikTok規制の動きをほとんど知らず、「機密情報を扱っていないから大丈夫ですよ」と無警戒だった。これが日本の平均像だろう。エネルギー業界も、こうした社会の大勢に引っ張られ、隙ができてしまうかもしれない。

是々非々で中国企業に向き合う

米国は、その覇権を脅かそうとする国を、政府、産業界が一体になって叩く傾向がある。かつてのソ連、日本がそうだったし、今は中国なのだろう。そうした思惑に単純に同調する必要はない。

個人的には、中国企業の製品やサービスを排除することは是々非々であるべきだ、と考える。安く良い製品を使うのは消費者の権利だ。さらに中国企業の排除は、中国人との関係悪化、敵意の醸成という悪い方向につながりかねない。

しかし、日本の政府から企業までのあらゆる場面で、警戒感がなかったことは確かだ。そして世界的な中国企業排除の流れの中で、一個人、一企業が別行動するのは、大変な労力がいる。そして中国企業の場合は、政府による人権侵害への加担、情報漏洩などをしている可能性がある。

欧米発の異様な中国敵視の動きに同調し過ぎることはない。しかし中国企業とどっぷり関係を持つ必要もない。日本のエネルギー業界の各社はすでにやっていることであろうが、日本政府のつくる経済安全保障の仕組みを注視しながら、これまでに増して、自らの利益になる形で外国企業との関係を慎重に作る必要がありそうだ。

【記者通信/4月3日】Jパワー新社長に菅野氏 CN達成へ「複数企業と連携」


Jパワー(電源開発)は3月31日の取締役会で、菅野等副社長が社長に昇格する人事を内定した。6月の株主総会後の取締役会で正式に決定する。渡部肇史社長は代表権を持つ会長、村山均会長は特別顧問にそれぞれ就任する。Jパワーのトップ交代は2016年以来7年ぶり。渡部社長はこの日の会見で、菅野副社長の次期社長内定について「公平性を大事にし、実行力がある。思慮深さとのバランスも優れており、スピードを求められる時代に合った資質だ」と評価した。

3月31日の会見で握手する渡部社長(左)と菅野副社長

菅野副社長は、Jパワーが21年2月に策定したカーボンニュートラル(CN)と水素社会実現に向けた取り組み「J-POWER“BLUE MISSION2050”」の策定を主導。昨年4月の副社長昇格後は、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部長を担当した。会見では、「何よりも電力の安定供給を果たしながら、CNへの道筋をきちんと歩んでいきたい」と、火力発電事業の脱炭素化に積極的に取り組む考えを表明。また、同社が掲げる50年CO2排出量実質ゼロという目標達成に向けて、「Jパワー単独ではなく、複数の企業と協力して脱炭素戦略を連携していきたい」と述べた。

一方で、これまで印象に残ったこととして、青森県大間原子力発電所での勤務を挙げ「大間の地域の方々と非常に親しく交流させていただいた。しかしまだ発電所が出来上がっていない。この点に忸怩(じくじ)たる思いがある」として、大間の稼働実現に力を傾注する意向を示した。

【プロフィール】

渡部肇史(わたなべ・としふみ) 1977年東大法卒。同年電源開発入社。2002年企画部長、06年取締役、09年常務、13年副社長などを経て、16年6月代表取締役社長就任。23年6月より代表取締役会長、全社コンプライアンス総括。

菅野等(かんの・ひとし) 1984年筑波大比較文化卒。同年電源開発入社。2011年設備企画部長、17年常務、22年4月取締役副社長などを経て、23年4月代表取締役副社長、ESG総括、コーポレート総括、エネルギー営業本部長、原子力事業本部副部長。23年6月より代表取締役社長、ESG総括。