先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が5月21日に閉幕した。ウクライナ戦争と核兵器廃棄の誓いが焦点となり、エネルギー問題はそれほど関心を集めなかった。そして気候変動やエネルギー問題の宣言では、EUの主張に日本が抵抗し、過激さのない穏当な内容になった。筆者の個人的な見解だが、これは悪いことではないと思う。

◆主役はゼレンスキー・ウクライナ大統領
サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領が訪問したこと、核保有3カ国を含むG7首脳が原爆慰霊碑に献花したこと。この映像が印象に残るサミットだった。そして中国、ロシアと自由陣営の分断を印象付けた。
昨年2月にウクライナ戦争が火ぶたを切り、そして新型コロナウイルスの世界的流行が一服する中で、初めて対面で大規模に行われるサミットになった。この会議でウクライナ戦争と政治に関心が傾くのは当然だ。ただウクライナ戦争ではエネルギー輸出国のロシアが当事国であるために、その資源を今後使わないことも重要な論点になった。
また日本は議長国で独自色を出そうとした。「各国・地域ごとに条件が一様でないと認識した上で、実効的な対策をうつことが重要だ」。20日の気候変動問題の討議で、岸田文雄首相はこう強調した。石炭や、水素利用で、それを熱心に進める日本と、欧州、米加の間に差があるために、それを指摘した発言だ。
そして首脳宣言ではアンモニア、水素の利用など日本の主張が盛り込まれた。化石燃料、特に石炭火力の全廃の期日を指定するなどの過激な主張は盛り込まれなかった。ただし世界の環境派の人からは物足りない内容になった。
◆気候変動・エネルギー関係で、G7広島サミットで決まったこと
首脳宣言では、以下のことが取り上げられた。全66の項目のうち、気候・エネルギーへの言及は18項から27項までを占める。
▼石炭などの化石燃料については、長期的に減らすことが確認された。電力部門で2035年までに大宗を脱化石にすると言うことにとどめた。昨年のサミットからほとんど進展がなかった。(宣言25項)
▼日本が他国に比べて活用が進んでいる水素に加え、アンモニアも利用が書き込まれた。(同)
▼「35年まで、または35年以降に」というあやふやな期日目標だが、小型車の新車販売の大半、35年までに乗用車の100%を排出ゼロ車両にすることで、運輸部門の二酸化炭素排出量を半減することが盛り込まれた。(19項)
▼気候変動のため気温上昇を産業革命以来の1.5度上昇に抑制する。そのために50年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする。こうしたCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)で掲げられている目標の達成が誓われた。(18項)
▼エネルギーでの脱ロシアのための取り組みが強調された。(25項)
▼洋上風力、太陽光を引き続き拡大する。(同)
▼一方で、天然ガスの開発は支援する。(26項)
▼原子力の平和利用は拡大し、協力国のサプライチェーンを再強化する。(同)
▼G7では今、COPで揉め始めた、先進国による途上国への資金援助の話は出なかった。
このような内容だった。
◆京都議定書の苦い経験が生きる
このサミットの結果について、朝日新聞社説はサミットへの批判的論評はあったが、気候変動をめぐる論評はなかった。この問題への関心のなさを反映している。「日本は押しとどめられた」「先進国の責任放棄」(共同通信)などの批判が出た。ただ私はこの「変な言質を取られなかった」という点で、日本にとって良かったと思う
ウクライナ戦争以降のエネルギーを巡る混乱は一服し、価格の乱高下も今年5月には1バレル=70ドル台で推移している。しかし、戦争の結末は見通せない。つまりロシアとエネルギーの関わりが将来どうなるかわからない。表面的に西側各国はロシアとの関係を絶っている。しかしロシアからインドなど第三国を通じた輸出が増え、原油貿易が見えなくなっている。つまり表面的に安定しているものの、エネルギー情勢は不透明さを増しているのだ。
気候変動問題で、欧州を中心に過激な脱炭素の取り組みが10年代に進んだ。化石燃料と石炭火力批判、そして再エネの開発だ。しかし、その脱炭素は、ドイツなどのように、ロシアからの天然ガス、原油に支えられたものだった。その状況が大きく転換した。欧州各国で、この1年、気候変動を過度に問題視することに疑問の声が強まっている。
日本は特に今回や石炭火力や化石燃料の廃絶に関して否定的な姿勢を取り続け、議長国だが無理にその問題で合意を取りまとめなかった。これは仕方がないと思う。
「京都議定書の失敗」。官から民まで、日本のエネルギー関係者には、こうした認識がある。気候変動をめぐる1997年の京都議定書を、日本は議長国として取りまとめた。削減数値目標などの義務を負った。そしてアメリカが抜けるなど、その体制が崩壊する状況の変化をしたのに、最後まで残らざるを得なくなった。日本だけが削減義務を履行し、排出権購入などの負担を負ってしまった。
今回のサミットでは、日本政府は同じ失敗を繰り返さなかった。不透明感が強まっている今において変な約束を結んだら、国際エネルギー情勢が日本に不幸になる状況に陥っても、逃げられなくなってしまう。
◆民間には脱炭素の動きは追い風に
エネルギー問題は政府の合意だけでは解決しない。民間企業による財やサービスの提供が必要だ。サミットで非現実的な合意文書を作っても、電力、ガス、石油や、設備メーカーといった日本の産業界がついていけなければ意味がない。もしくはそれらの企業に迷惑になる約束を、日本政府が外国にしても困る。今回の首脳宣言は、脱炭素に強い日本の産業を応援する文言が散りばめられた。
特に、エネルギーのサプライチェーンの強化がG7の共同の課題となった。日本の経済界はこの分野で「ものづくり」の強さがまだあり、財やサービスが提供できる。将来の需要が期待でき、ビジネスの後押しになるだろう。
日本は今、エネルギーでは国際情勢では「様子見」、国内では「建て直し」の時だ。東日本大震災の余波としてまだ続くエネルギーシステムの混乱を修正する時だ。
今回のサミットは、大きなプラスにはならないまでも、日本にとってある程度は成功したと筆者は思う。サミットに関係して打ち出される政策に乗って、ビジネスを進め、気候変動の抑制と地球環境の改善にも貢献できる可能性がある。「地球を守れ」と、理想を掲げる人たちには、お叱りを受けそうな感想だが。