【記者通信/4月17日】CE戦略会合で原発推進論が続出 消費者委員も再稼働に理解


「可能な限りの依存度低減」から「最大限の活用」へ――。わが国の原子力政策が大きな転換点を迎えている。それを象徴するのが、4月15日に開かれた経済産業省のクリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)だ。

資源エネルギー庁事務局は配布資料の中で、「ウクライナ危機・電力の需給ひっ迫を踏まえた、政策の方向性の再確認」と題する論点メモを提示。その締めくくりにおいて、岸田文雄首相が4月8日の会見で「再エネ、原子力などエネルギー安保および脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」と言及した部分を引用しながら、「エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取り組みを加速」と提起した。これに対し、複数の委員やオブザーバーから、原発の早期再稼働など原子力政策の推進を求める意見が相次いで表明されたのだ。これまでタブーとみられていた原発の新増設・リプレースの必要性を指摘する声も聞かれ、潮目の変化を浮かび上がらせた。

4月15日のCE戦略会合で所感を述べる保坂伸・資源エネルギー庁長官

注目は何と言っても、消費者を代表する河野康子委員(日本消費者協会理事)の発言である。「原子力を選択肢として射程に入れるとしたとき、国民が抱いている大きな危惧に対して、正面から向き合うところから始めないとうまくいかない。ベネフィットや課題を整理し、テクノロジーアセスメントの考え方でしっかりと進めていただきたい」。安全性確保と国民理解が大前提という慎重な姿勢ながらも、条件付きの原発再稼働へ理解を示した格好だ。消費者団体といえば、これまでもことあるごとに脱原発・再エネ推進を訴えてきたが、わが国で深刻化する電力の需給ひっ迫・価格高騰リスク回避のためには、国内の原発再稼働もやむなしと判断したようだ。

これを受け、長谷川雅巳委員(経団連環境エネルギー本部長)は「河野委員が言われたように、(原子力の利活用には)国民の理解が極めて重要。政府は前面に立って国民の理解醸成を図りながら再稼働、新増設、リプレースを進めていただきたい」と要望した。

「国が前面に立って、原発の早期再稼働の推進を」

このほか、原発再稼働に関する主な意見は次の通り。

「原発をできるだけ早く再稼働させていく。エネルギーの海外依存を続けていいのか。再エネもあるが、安定的な電源が必ず必要になる。企業の生産性が落ちていくと、国のためにもならない」(伊藤麻美委員=日本電鍍工業代表取締役)

「安全性を確保した上での原子力の再稼働。その必要性と安全性について、国が前面に立って国民にしっかりと説明していく必要がある」(大下英和オブザーバー=日本商工会議所産業政策第二部部長)

「原子力の再稼働を急ぎながら、長期的には新増設・リプレースの議論をしっかりと行っていく。そもそも日本が(資源調達で)ハンディキャップを追っている中で、電力価格を上昇させていくと(国内の)産業全体に影響してくる」(秋元圭吾委員=地球環境産業技術研究機構主席研究員)

「原子力は避けて通れない議論。社会的情勢も含めて、やらざるを得ない。人が途絶えると、二度と復活できない。今やらないのであれば、二度とやらないという決断になるのではないか」(白坂成功委員=慶応大学大学院教授)

CE戦略会合を巡っては、昨秋の発足当初から、原子力推進に向けた政策の再構築を主要な論点として指摘する声が聞こえていたが、夏の参院選を控えた政治的事情などからこれまで表立って議論されることはなかった。そうした中、ウクライナ危機に伴うロシアへの経済制裁や去る3月22日の電力危機などを背景に、原子力推進へと世論が変わり始めた。これが、エネ庁事務局や委員・オブザーバーの姿勢に大きな影響を与えているようだ。その声、国の原子力規制委員会にも届くか。

【記者通信/4月12日】野田元首相「俺一人でやる」 原発再稼働表明の舞台裏


元民主党の経済産業大臣政務官で、現在は無所属会派「有志の会」の北神圭朗衆議院議員(京都4区)が4月12日、エネルギーフォーラムが主催するオンライン番組「そこが知りたい!石川和男の白熱エネルギートーク」にゲスト出演した。2012年6月8日、当時の野田佳彦首相が会見で、夏場の電力不足対応として関西電力大飯原子力発電3、4号機の再稼働を表明。世間を驚かせた「政治決断」の舞台裏を明かした。

2012年当時の野田政権事情を語る北神議員

11年3月の東日本大震災以降で初となる原発再稼働の決定を下した野田氏。番組司会の石川和男・社会保障経済研究所長が「野田首相が再稼働を決めた12年6月当時は、原子力規制委員会もなく、経産省が推進も規制もやっていた状況下で、当時の枝野幸男経産大臣ではなく野田首相が決断したのは、なぜか」と質問した。

これに対し、北神氏は「あの状況下では経産相も結局決められなかった。枝野氏のほか、当時は野田氏や細野豪志環境相(当時)、古川元久国家戦略担当相(当時)、仙谷由人元官房長官ら幹部で体制を作っていた」とした上で、「実際は(6月8日に)幹部揃っての共同記者会見が予定されていたのだが、会見間際になって、野田総理以外全員がドタキャンした。私は(経産大臣政務官として)あの場にいたので(知っていた)」「野田総理は『誰も来ないな』と淡々としていた。普通なら会見延期しようか、今日は止めようかとなるはずが、野田氏は『時間がきたから、俺一人でやるよ』と単独で会見をした」と、舞台裏を明かした。

信念を貫いた野田氏 問われる岸田首相の政治判断

この会見で、野田氏は「国民生活を守るため、再稼働すべきだというのが私の判断だ」「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と述べ、広く国民に対し原発再稼働の理解を求めたのだ。これについて、北神氏は「政治家は選挙があるから(原発問題を避けたい)気持ちはわかるが、エネルギーは国家の安全保障。自分の信念を貫かないといけなかった」と指摘。その後の野田氏に関しては「自宅が反原発活動家に占領され、家族も自宅に数年間戻れなかったはず。当時の反原発の圧力にも淡々としていたのは凄いこと」だと英断をたたえた。

2012年当時は、11年3月の東京電力福島第一原発事故から1年を経たばかりで、脱原発を求める世論の声は現在とは比較にならないほど大きかった。国民的な批判を覚悟の上での政治決断表明は、国益を最重視したからこそ成しえたのだろう。

あれから10年。今、わが国の電力需給はまさに綱渡りの状態にある。脱炭素政策を背景にした不安定な再エネの大量導入、大型火力発電の相次ぐ休廃止に加え、ウクライナ危機に伴う「脱ロシア」の影響で化石資源の安定調達に黄信号が灯る。本来であれば、今こそ停止中原発の再稼働が求められる時だ。「有事」認識の欠落する原子力規制委員会に物申せるのは、岸田首相をおいてほかにない。「国民生活を守るため、再稼働すべきだ」。この一言を、国民に向かって発することができるか。

自民党の電力安定供給議員連盟、日本維新の会、国民民主党など与野党から今後の電力需給ひっ迫・価格高騰対策として原発緊急再稼働を求める声が高まる中、北神議員はオンライン番組で、有志の会としてもこの問題を議論していく考えに言及した。岸田首相の政治決断が問われている。

【目安箱/4月12日】急務の原発再稼動 なぜ岸田首相は動かないのか?


原子力をめぐる雰囲気が変化している。感情的な原子力の反発は少なくなり、SNSなどでは原子力の活用を主張する声が強まり、政治家も原子力発電所の再稼動を語るようになった。昨年からのエネルギー価格の上昇に加えて、ウクライナ戦争による国際市場の混乱、福島沖地震をきっかけにした東日本における大規模な停電危機が「自分事」として人々の考えを変えたようだ。しかし、その声に応えるべき岸田首相の動きは鈍い。

◆政府に見られない「反省」

「107%」。これは3月22日に記録した電力の使用率だ。供給率に対する需要の割合が100%を超えた。他社融通、揚水発電、そして自家発電からの供給が増え、ぎりぎりで供給が間に合った状況だ。16日の福島沖地震で、太平洋沿岸の火力発電所が軒並み被災。22日の寒波と悪天候でエネルギー不足が顕在化した。

政府は初めて、「電力需給ひっ迫警報」を発令。萩生田光一経済産業相は22日午後、緊急の会見を開き、広く国民に節電をお願いする事態になった。S N Sでは「この結果はエネルギー政策の失敗を示している。それを棚上げにして国民に負担をお願いは筋違いだ」という趣旨の批判が相次いだ。しかし、経産相と同省から、その種の発言は出てこない。政府が失政を認めることはない。

このエネルギー危機は、事業者の失敗だけではない。政策の失敗が影響したのは明らかだ。ところが、それを推進した政治やメディア、経産省・資源エネルギー庁は、その理由を明確に述べない。失敗の背景になった自らの行動を否定してしまうためだろう。エネルギー危機をもたらしている背景を、改めて確認してみよう。

◆エネルギー・電力危機の背景

第1の背景は、最近の脱炭素の流れの中で、火力発電が抑制されたことだ。2020年9月に菅政権が行い、岸田政権でも踏襲している50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラル宣言が影響している。JERAは19年までに、16年ごろまで稼動していた自社の石油火力(発電能力約200万kw程度)を閉鎖。老朽化していたこともあり、LNGへの移行を試み、常陸那珂共同火力のプラントなどを増設した。ただ、ここまでひっ迫するのであれば、もう少し遅らせてもよかったかもしれない。政策が、大手電力会社の火力発電所増設の動きを抑制させた面はあろう。

第2の背景は、再エネの過剰な優遇だ。12年からの再エネ振興策によって、東電管内には1000万kW相当の発電能力がある太陽光発電システムが設置されている。ところが、電力危機が顕著になった3月22日に東日本は悪天候でほとんど発電がなく、天候に左右される再エネの問題が改めて浮き彫りになった。もちろん、再エネの普及はある程度必要だが、その弱点を考えず普及させることは疑問だ。いったい何のために巨額の支援をしているのか、理解できない。

第3の背景が、原発再稼働の遅れだ。2011年の福島第1原発事故後、日本の原発で営業運転を再開したのは33基中10基にとどまる(3月22日時点)。しかも、特別重要施設と呼ばれるテロ対策施設の工事の遅れを理由に、関西電力管内では一度新規制基準に合格した原発3基が、再稼動できない状況にある。

3月16日の福島沖の地震の前に、自民党の電力安定推進議員連盟、日本維新の会、国民民主党が、特重施設の設置を一時凍結して再稼動を認めるように経産省に申し入れをした。しかし、政府は規制委員会に申し入れず、同委員会もそうした取り組みをしない。原子力規制委員会は、独立行政委員会として、その運営では行政の統制を受けない。しかし経済や電力安定供給に問題があるのに、安全だけを追求する姿は異様だ。その施設がなかったからといって、原発は安全に動かせるはずだ。

これらの3つの背景は、相互につながっている。背景の1と2によって、電力供給が大幅に減りかねないのに、対策である原子力の活用が行われていないという構図である。

◆先例、野田首相の介入による再稼動

エネ庁は22日夜、同日から23日未明にかけての停電は「回避される見通し」と発表した。しかし来冬も厳冬期に、関東は100万kwの電力が不足すると見込まれる。昨冬も電力危機が発生した。日本の電力需給は脆弱になり、それが恒常化している。さらに、ウクライナ戦争を背景に国際的なエネルギー供給の混乱、価格の上昇が長期化する影響もある。原発再稼動は現状の問題を最も早くできる解決策だろう。

 自民党政権は、原子力に懐疑的な公明党と連立を組み、また選挙を常に意識している。11年3月の東京電力福島第一原発事故の影響から、これに反発する人、政治的に問題にする人がいる。そのために原発再稼働について、「触らぬ神に祟りなし」として、動かないのだろう。あまりにも無責任ではないだろうか。

国民民主党の玉木雄一郎代表は20日夜、ツイッターで「当面、国民の皆さんには節電をお願いせざるを得ませんが、本来なら国が責任を持って安全基準を満たした原発は動かすべきなのに、批判を恐れ誰も電力の安定供給に責任を持とうとしない現状こそ危険です」と、私見を述べた。こうしたまともな意見が、野党からも出るようになっている。

原発にはさまざまな意見があることは認めるが、電力が足りず、経済・社会活動に支障を来している現実の危機に、多くの国民が不安を感じている。旧民主党の野田佳彦首相(当時)は、関西地域の電力不足が明確になった12年春に、自ら再稼動を規制委員会に求め、それを実現させた。再稼動問題はこじれ「首相案件」という大事になっているが、首相が動けば状況を変えることはできるのだ。

なぜ岸田文雄首相が、現実の危機を直視し、エネルギーの安定供給のために、原子力再稼動に動き出さないのか。とても不思議だ。

【記者通信/4月9日】岸田首相「ロシア産石炭輸入を禁止」 大手電力は「代替策など検討中」


ウクライナ各地で発覚したロシア軍による民間人虐殺疑惑を受け、日本政府がロシアへの経済制裁を強化する姿勢を鮮明に打ち出した。岸田文雄首相は4月8日夜の記者会見で、「ロシア軍による残虐行為を最も強い言葉で非難する」とした上で、「ロシアからの石炭の輸入を禁止する」と明言。早急に代替策を確保しながら、段階的に輸入を削減することでエネルギー分野でのロシア依存を低減させる方針を打ち出した。代替策については、「夏や冬の電力需給逼迫(ひっぱく)を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障、および脱炭素の効果の高い電源を最大限の活用する」として、特重施設工事などで停止中の原発について早期再稼働を進める方向性を示唆した格好だ。

これに先立ち、萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で、主要7カ国(G7)の首脳宣言にロシア産石炭の輸入禁止などが盛り込まれたことに触れ、「日本も段階的に減らしていく。最終的には輸入しないことを目指す」と述べた。経産省によると、ロシア産石炭は世界輸出量の2割に当たる約2.1億tを占めており、日本は石炭輸入量のおよそ13%(一般炭)をロシア産に依存している。このため、即時の石炭輸入禁止などには「各国事情が違う」と慎重な姿勢だ。ロシア産石炭を輸入ゼロにする目標時期などはまだ決まっていないが、萩生田氏は「できるだけ産業に迷惑をかけない方向で制裁に協力していきたい」と理解を求めた。

石炭から石油、LNGへ波及の懸念 国内経済に甚大な影響

こうした情勢の中、大手電力各社は対応に追われている。Jパワー(電源開発)は「ロシアとの取引をどう見直していくか、代替国からの輸入含めて検討している」(広報部)とした上で、「わが社の直近のロシア産石炭比率は一桁%台と高くない。石炭は備蓄ができることもあり、しばらくは(価格、運転に)影響なく対応できるだろう」と冷静な対応を図る構え。またJERAは「わが社のロシア産石炭の割合は1割強」「シンガポールの子会社を通じ、現時点で調達に関しての影響がないことを確認している」などと強調。他国からの調達で対応できるとしているが、「禁輸で石炭の需給ひっ迫状況が続くと、価格高騰にも影響する」と今後の情勢を見極める構えを示している。

「これまでロシア産エネルギー資源の調達問題について、政府はエネルギー安全保障の観点から輸入量削減に慎重な姿勢を示してきた。しかし、ウクライナ・ブチャなどで起きた民間人の大量虐殺で完全に潮目が変わった。今後の国際動向次第では、石炭だけでなく、石油、そしてLNGへと禁輸の動きが段階的に波及する可能性もある」(政府関係者)。そうなれば、エネルギーにおける需給ひっ迫のみならず、価格上昇のリスクも高まることになり、国内経済・国民生活への甚大な影響が懸念される。影響回避の切り札となる「原発早期再稼働」を求める声は一段と強まりそうだ。

【記者通信/4月7日】特重規制見直しで国会質疑 地元自治体は規制委批判


第六次エネルギー基本計画などを踏まえ、エネルギー関連法案をまとめた「束ね法案」が5日、衆議院本会議で審議入りした。本会議ではエネルギー政策に関して幅広く議論され、萩生田光一経産相が趣旨を説明。各党からの質疑応答が行われた。注目は日本維新の会、小野泰輔議員による「原子力発電所の特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限」に関する質疑だ。

小野議員は「特重の設置期限は設計・工事計画認可取得から5年以内」とする規定により、再稼働できない施設の現状を指摘。原子力規制委員会の安全審査の遅れが、特重施設工事の進ちょくに影響を与えているとの見方を示した上で、更田豊志・規制委員長に対し「(特重の設置期限について)硬直的な規定を見直すべき」だと訴えた。

これに対し、更田氏は「特重施設がないことが直ちに危険に結びつくとは考えていない」としながらも、テロ対策などの信頼性向上のために特重施設改善は重要として「約束した改善が果たせないような事態は避けるべきだ」と規定見直しには否定的な考えを示した。

規制委審査は「後出しじゃんけん」 山中・新体制への注文

この更田発言の数時間後、自民党本部では原子力規制に関する有識者ヒアリングが行われた。中部電力浜岡原発のある静岡・御前崎市の柳澤重夫市長と関西電力高浜原発を抱える福井・高浜町の野瀬豊町長が、自民党議員や関係者を前に、地元の現状を説明した。

4月5日に自民党本部で開かれた原子力規制の有識者ヒアリング

野瀬町長は「根本は国のエネルギー政策への不信感だ。国は『(原発推進は)ウケが悪いから』と政策課題の議論に消極的だ」「(工事業者などの)地元企業にとってみれば『国策に協力する』というのもモチベーションなのに」などと、積極的に関与しない国の姿勢に疑問を呈した。柳澤市長が「規制委とずっとやり取りしているが、どうしたら良いのか教えてくれない。規制委が望む通りやっても(審査が)進まない」と規制委の対応に苦慮していることを明かすと、野瀬町長も「審査員個人の心情で内容がころころ変わるし、今までの審査をひっくり返されることも多い」と続けた。今後については「CN達成スケジュールとの整合性が取れていない。政府には規制委と連携を取ってもらいたい、独立性を棄損するものではないはず」(野瀬町長)だとした。

出席した宮澤博行議員は「規制委の審査は『後出しじゃんけん』だ。審査の効率化を進めるべき。事業者は何をしなければいけないのか、やろうとしている方向が違うなら規制委は教えるべき」だと規制委の問題点を指摘した。しかし衆院本会議での更田発言を聞く限り、今後も規制委の姿勢に変化は見られそうもない。9月には、更田氏から山中伸介氏に委員長が交代する。特重施設の設置期限問題や原発運転期間の延長問題が提起されるかどうかが今後の焦点だ。

【緊急インタビュー】資源小国・日本が直面する国難 「台湾有事」も視野に自給率向上を


インタビュー:高市早苗/自民党政務調査会長

聞き手:井関晶/本誌

エネルギー資源大国のロシアがウクライナに侵略したことで、世界のエネルギー情勢が緊迫化の様相だ。資源小国のわが国は、この局面にどう立ち向かうのか。自民党の高市早苗・政務調査会長を直撃した。

たかいち・さなえ 1961年生まれ。神戸大学経営学部卒。経産副大臣や総務相などを歴任。2021年秋の衆院選(奈良2区)で9選し、現在は自民党政務調査会長。

―ウクライナ危機を踏まえ、日本のエネルギー政策の課題について、どうお考えですか。
高市 ウクライナ危機で改めて痛感したことは、国連安保理で拒否権を持つ国が「外交」を支配し、核兵器を持つ国が「軍事」を支配し、資源を持つ国が「経済」を支配するという、世界の現実です。
そのいずれも持たないわが国が、どのように生き残りを図るか。これが今、コロナ禍、ウクライナ危機、エネルギー価格高騰という、三つの国難に直面する日本に突き付けられた、重大かつ深刻な課題になっています。
 まずは世界の現実を直視した上で、従来の「平時」を前提とする発想から脱却し、常に最悪の事態を想定しつつ、リスクを最小化するための備えを講じていく。とりわけエネルギーを巡る課題は、国内でも現在進行形で進んでおり、喫緊の対応が求められます。
 今回のロシアによるウクライナ侵略への各国の対応と、欧州のエネルギー情勢を踏まえれば、エネルギーの安定供給の確保に向け、あらゆる選択肢を活用可能な状態にしておくべきことは、論を俟ちません。四方を海に囲まれ、自然エネルギーを活用する条件が諸外国と異なるわが国においては、なおさらのことと考えます。
 今後、あらゆる化石燃料の調達について、資源外交などを通じ、権益の確保や調達先の多角化を一層推進することが必要です。中でも、台湾南部のバシー海峡を通過する割合は、原油で9割、LNGで6割に達しており、仮に台湾有事が発生した場合、ロシアからの輸入の比にならない量の燃料供給が途絶することになります。従って、再生可能エネルギーの導入や、原子力発電の再稼働などによるエネルギー自給率の向上に取り組むことが重要です。


安全性最優先で原発再稼働 SMR開発に大きな期待

―エネルギー政策では脱炭素化に加え、安全保障の重要性が一段と高まっています。
高市 再エネはエネルギー自給率の向上に寄与するので、系統整備などを推進し最大限の導入を目指していきますが、発電が自然条件に左右されることから、蓄電池や他の電源との組み合わせが不可欠です。その点、原子力は数年にわたって国内保有燃料だけで発電が維持でき、かつ脱炭素のベースロード電源であることを踏まえれば、重要な電源として活用していくべきだと考えています。こうした観点から、地元の理解を得ながら、安全性を最優先に原発再稼働を進めていくことが必要です。
 今後、わが党においては火力発電も含め、あらゆる選択肢を追求してエネルギー安定供給の確保を実現すべく、私が本部長を務める経済安全保障対策本部や、総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)などを中心に政策議論を深めていきます。

実用化への期待が高まるSMR(米ニュースケール社)

―現在「クリーンエネルギー戦略」の議論が官邸主導で進んでいます。その柱の一つに原子力の技術開発が位置付けられています。
高市 原子力技術開発では、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立について検討を進めているところです。
 SMRを巡っては、「小さな炉心を生かし、自然循環を利用したシンプルな安全システムを採用しており、ヒューマンエラーや危機故障を回避できること」「モジュール生産による品質管理の容易化と工期短縮によって、初期投資コストが小さいこと」など、大きなメリットが期待されています。
 IHI、日揮グローバル、日立GE、三菱重工業などの日本企業が開発に携わっており、国産技術としての期待も高い。世界の革新炉開発の潮流に乗り遅れることなく、国際プロジェクトに日本企業が効果的に参入できるようにしていくべきだと考えています。

再エネは法令順守が大前提 不適切事案を未然に防ぐ

―一方で再エネは、山間部などにおける乱開発が全国的な問題となっています。
高市 再エネ事業についても、他のエネルギー事業と同様、法令を順守して適正に事業を行うことが、地域での信頼を獲得し、長期安定的に事業を実施するための大前提になると考えます。電気事業法では、設備の安全性を担保する基準と自治体が定めた条例を含む関係法令を順守することが、事業者に求められています。違反があった案件については、指導や命令を行い、改善が見られない場合は罰金や認定を取り消すといった、厳格な対処を行わなければならない。既存のルールで対応できない不適切な事例があれば、ルールや審査を厳格化し、次なる不適切事案を未然に防いでいくことも必要です。
 私の地元・奈良県においても、太陽光発電設備の設置計画に対する反対運動が、複数地域で起きています。太陽光発電のためにみだりに森林伐採が進めば、自然環境や景観への影響、土砂流出による濁水の発生、CO2吸収源としての機能を含めた森林の多面的機能への影響が懸念されます。環境に適正に配慮し、地域における合意形成を丁寧に進めることで、適切な再エネの導入を進めていくことが不可欠です。
 2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す中で、今後はこうした課題に真摯に向き合い、導入に適した場所の確保、自治体との連携を強化した事業規律の確保、コスト低減に向けた研究開発に取り組んでいく必要があると考えています。


【記者通信/4月1日】サハリン2撤退を首相が否定 経産省は燃料調達の緊急対策提示


ロシアのウクライナへの軍事侵攻開始から1カ月以上が経過し、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化し続けている。民間でも、英シェルが2月下旬、三井物産と三菱商事も出資するLNG開発プロジェクト・サハリン2からの撤退を表明するなど、「ロシア離れ」が加速。そうした中、岸田文雄首相は3月31日の本会議で、サハリン2について「わが国として撤退はしない方針だ」と明言した。さらに萩生田光一経済産業相は4月1日の閣議後会見で、サハリン2に加え、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と伊藤忠商事、丸紅などが30%の権益を持つ石油開発事業のサハリン1についても「エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクトだと考えており、撤退しない方針だ」と言及し、JOGMECと三井物産が参画するLNGプロジェクト・アークティック2についても撤退しない方針を表明。エネルギー事業では現時点で欧米の「脱ロシア」とは一線を画すという日本の姿勢を打ち出した。他方で岸田首相は3月31日、「主要7カ国(G7)の方針に沿ってロシアへのエネルギー依存を低減すべくさらなる取り組みを進める」とも述べ、長期的にはロシアからの調達の在り方を見直す可能性も示した。

3月31日の対策本部で挨拶する萩生田経産相(央)

首相の指示を受け、経産省は同日「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」の初回会合を開催。ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。石油、石炭、LNGのほか、半導体製造プロセス用ガス、パラジウム、合金鉄が対象となる。産消対話の強化や、代替調達の実現、上流権益獲得の強化、需要への働きかけといった対策を挙げた。

萩生田経産相は会合で、「ロシア・ウクライナから調達先を切り替えた場合、別の特定第三国・地域に依存が生じるケースも明らかになった」「足元の情勢だけに目を奪われることなく、国家の存立、国民生活の安定という観点から、今後も経産省を挙げて取り組んでいきたい」と強調した。

燃料確保対策を強化 ロシア産は輸入継続へ

エネルギー関係でのロシア依存度は、石油が3.6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。特に、世界的に需要が高まり、国内の備蓄能力に限界があるLNGについては「石油よりも厳しい状況」(保坂伸・資源エネルギー庁長官)にあり、仮にロシア産の輸入が止まれば、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組みや、LNG調達への国の関与強化などを検討する。2021年1月の需給ひっ迫を機に今冬講じた燃料確保の対策をさらに一段進めるような内容だ。

石油対策では、短期的には既に取り組んでいる産油国への働きかけや、国際エネルギー機関(IEA)などを通じた主要消費国との連携を強化。中長期的には、JOGMECによる上流権益拡充への支援などで、30年に石油・天然ガスの自主開発比率50%以上という従来方針に沿って取り組む。

そして石炭については、非効率石炭火力のフェードアウトなど、火力の脱炭素化を加速すると改めて強調。石炭の一層の使用低減を図る一方で、安定供給に向けた産炭国への働きかけにも力を入れるという。3月22日の関東、東北での需給ひっ迫危機が記憶に新しい中、石炭火力の過度な退出防止との両立をどう図るか、引き続き難しいかじ取りを迫られそうだ。

【記者通信/3月22日】電力使用率が一時107%に 停止中火力の復旧はいつ?


政府は3月22日、電力需給状況が極めて厳しいとして、東京電力管内と東北電力管内に初となる「電力需給ひっ迫警報」を発令した。寒気の影響で暖房などの電力需要が増しており、経済産業省は各家庭や企業に節電を呼びかけている。東電管内の供給力に対する需要の割合を示す「使用率」は、午後2時台の実績で107%となり、データ上で需要が供給を上回る状況に。東京電力パワーグリッドは、午後8時以降に揚水式水力発電の運転が停止し、約500万kW(200万~300万軒規模)の停電が発生する恐れがあり、「さらに毎時200万kW程度の節電が必要」として、需要家への節電強化を要請。その後、他エリアからの電力融通や需要家の節電協力などが奏功し、電力使用率は午後8時現在、安定的とされる89%まで低下。経産省は午後9時ごろ、東京、東北の両電力管内で停電の恐れなしと発表した。東日本大震災以来となる50Hz地域の電力ひっ迫の原因は、原子力発電所が1基も再稼働していないことに加え、今月16日に福島県沖で起きた地震に伴う大型火力発電所の相次ぐ停止によるものだ。

JERA、東北電力などで火力が停止 綱渡りの状況続く

JERAによると、地震の影響で現在も停止しているのは広野火力発電所6号機(60万kw)。5号機は18日に復旧したものの、6号機では主変圧器の配管が損傷。復旧までに1カ月程度かかる見通しを示している。JERAは「安全面を最優先に、22日から一部発電所で出力を増やして運転している。また、千葉・品川・富津の各火力発電所で予定されていた定検時期を調整しながら運転を継続し、電力不足に対応できる体制を取る」と対策を講じている。

東北電力については、新仙台火力発電所3-1号機(52.3万kw)と原町火力発電所1号機(100万kw)が現在も停止中という。東北電力は節電を呼びかけながら「復旧作業に全力で取り掛かっているものの、現状で運転再開の見込みは立っていない。秋田発電所や東新潟発電所など、日本海側の火力発電所では増出力運転を行っている」(広報部)状況だ。

深刻なのは相馬共同火力発電の新地発電所だ。東電管内に送電している大型火力だが、今回の震源域に近いこともあり、地震によって稼働中の1号機(100万kw)が自動停止した。その後の調査で、石炭を陸揚げする楊炭機4機のうち2基の損傷が判明。残る2基も「稼働できる状況かは不明(新地発電所)」という。地震の数日前に電気設備の修繕工事中だった2号機(100万kw)と合わせて、運転停止の状態が現在も続いている。新地発電所では「昨年2月の地震で停止した際、1号機は同年9月、2号機は12月に再稼働した。前回のノウハウを生かし復旧作業を行うが、今回も同じ程度の期間が掛かるのではないか」(広報担当者)との見通しを示している。

23日は天気が回復するものの、関東や東北では気温が低いこともあり、暖房の需要含めて電力ひっ迫の綱渡りが一両日中は続くと見られている。

東日本大震災で電力供給「強靭化」のはずが逆に「脆弱化」へ

今回、地震が原因となって深刻な電力ひっ迫を引き起こしたことで、首都圏の需要家の中には11年前の東日本大震災後の大規模計画停電を思い起こした人も多いのではないだろうか。当時、こうした事態が二度と起きないよう、電力供給の「強靭化」を目的に、経産省が主導する形で電力システム改革の議論が始まった。しかし結果としてみれば、再エネ大量導入、脱原発、小売り全面自由化、発送電分離といった一連の改革は逆に供給の「脆弱化」を引き起こした格好だ。22日のひっ迫状況を見る限り、震災の教訓が生かされているとは言い難い。今後、経産省には、これまでの脱炭素偏重主義から脱却し、エネルギー安定供給の確保というライフラインの原点に立ち返った政策議論を期待したい。

【記者通信/3月18日】池辺・電事連会長が原子力の重要性を強調「安全保障上不可欠」


池辺和弘・電気事業連合会会長は3月18日、ロシアのウクライナ侵攻後、初となる定例会見を行い、ウクライナ危機について経済的な安全保障に直結する問題との認識を示した上で、エネルギー安全保障の観点から原子力発電の重要性を訴えた。

池辺会長は、ロシアに対する各国の経済制裁状況が時々刻々と変化しているとして、「資源調達の面では欧州のみならず、世界各国で供給不安が増しており、市場価格上昇の圧力はさらに高まっていく懸念がある」と指摘。「地球温暖化防止の観点ももちろん重要だが、経済性とともに、エネルギー安全保障についても、国家的な安全保障そのものとして、同時に達成することが重要だと、改めて強く認識した」と述べた。

その上で、原子力発電の重要性に言及し、「再エネはもちろんのこと、確立された脱炭素技術である原子力発電を最大限活用していくことが、エネルギー安全保障の観点からも不可欠であり、原子力をベースロード電源として位置づけられていることを踏まえ、しっかりと地に足を付けた議論をしていくことが必要」との見解を示した。

池辺会長はまた、ウクライナにある原子力施設を攻撃したロシアを批判。「周辺地域に深刻な影響を及ぼす恐れがあり、一般市民を危険にさらす行為。決して許されることではなく、原子力に携わる事業者として、強く非難するとともに、原子力施設の安全がしっかりと確保されるよう対応を求めたい」と強調した。日本政府に対しては「国際社会と連携して、事態の収拾に当たっていただきたい」と要望した。

一方で、米エクソンモービルや英蘭シェルがロシア・サハリンの石油・ガス開発プロジェクトからの撤退に踏み切ったことに関連し、日本の事業者としての対応を問われた池辺会長は、「日本は島国で資源が乏しい。アメリカ、イギリス、カナダとは状況が大きく違っている。ロシアに対して外交上政治的な動きをすることは重要だが、同じように日本の電力安定供給は重要だ」と述べ、国会議員の一部から聞こえているサハリン撤退論をけん制した。

【記者通信/3月18日】原子力規制行政が変わる!? 山中・規制委員長人事を読む


9月に任期が切れる原子力規制委員会の更田豊志委員長の後任に、同規制委員の山中伸介氏(元大阪大副学長)が就任する人事案が3月1日政府案として国会に示された。この人事の背景には、原子力の再稼動や活用を求める一部自民党議員の動きが影響している。厳しい規制導入に積極的だった更田氏が退任することで、原子力政策の姿に変化があるかもしれない。

当初の安井氏案に自民党中堅議員が反発

昨年末から委員長人事をめぐって関係者の間に、元原子力規制庁長官の安井正也氏の委員長への就任の噂が流れていた。環境省、そして規制庁側は、規制行政の継続のためにこの案を流し、更田路線の継続を求めたようだ。

更田委員長、そして田中俊一前委員長は、規制の厳格化を推進し、原子力の安全性を高めた。その政策のプラス面は評価されるべきだ。しかし民主党政権で選ばれた田中氏は、高速増殖炉「もんじゅ」潰しという強権的な行動を行い、原子力事業者、立地地域などとの対話も乏しかった。規制当局の「孤立化」を進め、更田氏もその路線を大筋で継承した。そんな二人の姿勢は、エネルギー政策を混乱させ、原子炉の再稼動を遅らせ、電力会社の経営を悪化させた。安井氏は両氏を事務方トップとして支えきた経緯があり、関係者は誰もが警戒した。

しかし、この人事案が流れたと同時に、自民党の「電力安定供給推進議員連盟」に属する当選3−4回の議員らが反発。原子力の活用が持論の高市早苗政調会長ら自民党首脳部を動かし、この人事案を潰したようだ。岸田文雄首相はこの問題について、あまり関心がなかったようで、官邸は人事に積極的に介入しなかった。これまでエネルギー政策に影響を与えていた重鎮衆院議員の甘利明氏、細田博之氏から、次の世代の政治家に力が移りつつあることも影響している。

エネルギー危機に配慮した規制政策に転換か

原子力規制行政は、規制委員会のトップ交代で変わる可能性がある。同委員会は独立行政委員会で、政府から自立して活動ができる。しかし与党・自民党と無関係ではいられない。また前述の安定供給議連は規制行政の円滑な推進のために、規制庁の予算獲得や体制整備にも協力している。

公開された規制委員会議事録を見ると、山中氏は規制委員として、更田氏と同じように、規制強化に熱心だ。しかし、この人事での圧力が奏功したことで、「自民党の大勢である原子力の活用という考えをある程度受け入れざるを得ないだろう。エネルギー不足の懸念の中で、政治も世論も原子力の活用を求めている」(学会関係者)という。

エネルギー資源大国のロシアが、2月末からウクライナに侵攻し、経済制裁を受けている。この影響で世界的にエネルギー価格が高止まりし、先行きが見えない。国民民主党や日本維新の会が停止中の原子炉の再稼動を主張し、エネルギー不足への懸念が国内に広がるなど、明らかに原子力をめぐる状況も、世論も変化している。

この人事をきっかけに、経済的合理性、エネルギー安全保障にも配慮しながら原子力の安全性を高める、常識的な規制政策に転換することが期待される。

【記者通信/3月17日】「特重工事中でも再稼働を!」自民議連と維新が経産相に要望


3月15日、停止中の原子力発電所の早期再稼働を目指す政治的な動きが相次いだ。自民党内の電力安定供給推進議員連盟(会長・細田博之衆院議長)と、日本維新の会がそれぞれ原発再稼働などを求める文書を萩生田光一経済産業相に手渡したのだ。これに対し、萩生田氏は安全性の確保を大前提に原発を動かしていく従来の政府方針を強調。ウクライナ戦争で顕在化するエネルギー非常事態に対応するため、政治主導で再稼働を前倒しするような踏み込んだ発言はなく、関係者からは落胆の声も聞こえている。

電力安定供給議連の塩谷議員(左から二人目)から決議書を受け取った萩生田経産相(中央)

政府コメントに終始の萩生田氏 印象的だった高木氏のぶら下がり

電力安定供給議連については、塩谷立・元選挙対策委員長と高木毅・国会対策委員長が萩生田氏と面談し、「ロシアによるウクライナ侵略等を踏まえた原子力発電所の緊急的稼働について」と題する決議書を手渡した。決議書は、火力発電への依存度の高さによる電気料金高騰、原発再稼働プロセスの長期化を指摘。「安全の確保を優先しつつ緊急的に稼働させ、国民生活を守るための措置を講じる必要がある」として、停止中の一部原発の速やかな再稼働と、特定重大事故等対処施設(特重施設)の工事完了など新規制基準に関して、制約の一部解除を求めている。

高木氏は、「特重施設の工事をしながら(原発を)動かしていくべきだと考えている」として、早期再稼働を要望。一方、萩生田氏は「自然エネルギーの活用が諸外国と異なるわが国において、エネルギーの安定供給にあらゆる選択肢を持つ可能性は承知している」と提案に理解を示しつつも、「安全性の確保を大前提とし、再稼働をしっかり進めることが重要」とコメントするにとどまった。安全審査の規制緩和に関しても「原子力規制委員会の管轄のため、経産省からのコメントは差し控える」と距離を置いた。

面談後、ぶら下がり取材に応じた高木氏は「萩生田大臣の言われたことが政府のスタンス。それ以上の話はなかった。残念なことだ」とコメント。帰り際には、「さみしいよな、同じ研究会にいるのに」と失望感をにじませたのが印象的だった。高木氏と萩生田氏は自民党最大派閥の清和会(安倍派)で同じ派閥に属する。それだけに、同席した関係者からは「『経産省じゃなくて規制委に言ってくれ』と一蹴するなんて、あんまりのような気がする」との声も聞かれた。

維新は美浜3号、高浜1・2号の前倒し運転を明記

日本維新の会については、藤田文武幹事長、足立康史・国会議員団政務調査会長、遠藤敬・国会対策委員長が萩生田氏のもとを訪れ、「ウクライナ危機等から国民を守るための緊急経済対策提言」を手渡した。緊急経済対策の一つに「特重施設整備を残すのみの美浜3号機、高浜1、2号機などの原発再稼働」を記載し、運転前倒しを求めているのが特徴だ。また原油価格高騰対策として、「軽減税率の段階的引き下げ」のほか、「石油元売り会社への補助金上限引き上げ」なども盛り込み、現在の補助金上限25円から50円超までの引き上げを提案した。一方で揮発油減税などトリガー条項の凍結解除に関しては「行政コストをかけてまで、制度を構想する必要性は何か」と解除に慎重な姿勢を見せている。

萩生田経産相は、維新の会との面談でも「安全性の確保を大前提に、規制委員会や新規制基準に適応したもののみ、地元の理解を得た上で再稼働を進める」と説明した。今後エネルギー価格高騰が進めば国民生活への影響は必至だが、価格高騰抑制の鍵を握る原発の早期再稼働には慎重な姿勢のままだ。

2012年、当時の野田佳彦首相が夏場の電力需給ひっ迫を回避するため、関西電力の大飯原発を政治判断で再稼働させた。「旧民主党政権でもできたことが、現在の自民党政権においてできないわけがない。現在、石炭、ガス、石油の火力燃料が全て高騰している状況を考えれば、原発再稼働の必要性は明らかだ。岸田首相の英断に期待したい」(大手エネルギー会社幹部)。その声、現政権に届くか。

【記者通信/3月10日】静岡「盛り土」改正案に新たな問題 産廃処理物も利用可能!?


3月9日付の記者通信で報じた「静岡県盛土等の規制に関する条例改正案」の骨抜き問題を巡り、新たな疑惑が浮上した。「全国再エネ問題連絡会」の共同代表、山口雅之氏が改正案の附則にある経過措置条項の「適用除外」問題に続き、さらなる不備を指摘する。

「改正案第2条2項の土砂等規定に『土砂等、土砂及び土砂に混入し、又は付着した物、改良土並びに再生土をいう』の文言がある。再生土の定義を見ると、産業廃棄物(事業活動に伴って生じた廃棄物のうち燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類など)の脱水、乾燥などの処理によって生じた物で土砂と同様の形状のものとしている。しかしこれは『産廃で盛り土しても構わない』と拡大解釈される恐れがある」(山口氏)

改正案の土砂等規定には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第2条第1項に規定する廃棄物および土壌汚染対策法第16条1項に規定する汚染土壌を除く」という文言があり、本来なら有害な廃棄物を再生土には使用できない制度になっている。しかし、例えば悪質な事業者が違法な産廃を再生土として偽り、盛り土にしてしまうことも過去の事例などから考えられるというわけだ。しかも9日の記事で指摘したように、「附則(経過措置)4項」によって、既に林地開発許可を受けた業者にはこの条例が適用されないという重大な問題もよこたわる。

自治体の中には「再生土」での埋め立て禁止も

再生土が引き起こした住民トラブルの一例に、千葉県佐倉市神門地区で起きた埋め立て工事がある。神門地区では2016年7月ごろから、再生土埋め立て地の近隣住民から「土壌から異臭がして窓が開けられない、気分が悪くなる」などの被害が出ていた。再生土の撤去を要求したが事業者は取り合わず、住民たちは17年9月に県議会へ請願書を提出した。これを受けた県が現地土壌を調査したところ、フッ素溶出量と鉛の含有量が基準の2倍を超えていたことが判明。再生土の撤去を求める行政指導を行った。佐倉市ではこのトラブルを契機として、「再生土による埋め立て工事を原則禁止」としている。

複数の自治体が再生土の埋め立て規制に動いている中、静岡県の土砂等規定に再生土が含まれていることは、川勝平太知事が標ぼうする「全国一厳しい」基準を目指す条例改正とは言い難い。そもそも産廃処理物である再生土を盛り土材の一つに明記していること自体が問題なのだ。

山口氏によれば、再エネ連絡会は静岡県の盛り土規制条例改正案の問題点について、国会議員を通じて内閣法制局への確認を求めるなど、ロビー活動を展開している。

【記者通信/3月9日】「全国一厳しい」はずの静岡県盛り土条例改正案にまさかの抜け穴!?


「今回の盛り土に関する規制条例は全国一厳しいものにしたい。それがご供養になる」――。昨年7月に静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害を受けて、川勝平太静岡県知事が条例改正に意欲を示した10月26日の会見。このほど、「静岡県盛土等の規制に関する条例」の改正案が県議会に提出された。3月中の成立、7月の施行を目指している。しかし中身は「全国一厳しい」条例とは程遠い、骨抜きの改正案だと指摘する意見が出ている。

改正案では盛り土の土地面積1000㎡以上、または土量が1000㎥以上の場合は知事の許可制とし、許可申請の予定者には周辺住民への事前説明を義務付けた。土砂災害の危険に対し、業者が行政指導や命令に従わない場合は、土地所有者に対策を命令することができる。罰則も強化し、罰金だけでなく懲役刑も規定した。一見すると「全国一厳しい」条例のように思えるが、メガソーラーや大規模風力発電設置に伴う環境破壊に反対する住民ネットワーク「全国再エネ問題連絡会」の共同代表、山口雅之氏は「重大な欠陥がある」と指摘する。

「適用除外」条項の不可解 問われる川勝知事の本気度

「条例改正案の『附則(経過措置)4項』に問題がある。分かりやすく解釈すると、既に林地開発許可を受けている案件には条例を適用しない旨の規定になっているのだ。他の法令や判例を踏まえると、工事に着手している案件を除外するのであれば理解できるが、この経過措置ではそれ以前の許可取得の段階で適用除外としており、明らかにおかしい。そもそも、事業者の利益を優先するような経過措置条項など不要。(改正案に)なぜわざわざ入れたのか」(山口氏)

政府が3月1日に閣議決定した盛り土規制法案に関して、国土交通省は「指定日までに工事に着手していなければ、改正法の適用対象になる」との見解を示している。国や自治体の方針に矛盾する静岡県の改正案は、全国一どころか「改悪だ」と批判する関係者は少なくない。川勝知事は、熱海・伊豆山の盛り土崩落で死亡した住民への供養と言いながら、そのための条例改正の裏でこのような抜け穴をつくろうとしているのだろうか。

山口氏は取材に対し、「経過措置の問題点に関して、県の担当課長や局長に指摘した上で、なぜそのような規定を設けたのか、理由や法的根拠、他法令との整合性を含めて1カ月以内に回答するよう求めている」と話し、徹底追及する姿勢を示した。

熱海市の土石流災害の原因となった盛り土に関しては、土地の前所有者と現所有者が責任の所在を巡り真っ向から対立している。川勝知事は、現所有者側の代理人を中心とした再エネ推進派の集まり、通称「四谷グループ」と親交があるだけに、関係者の中には「知事側が現所有者側や再エネ開発業者などに配慮し、改正案に手心を加えたのでは?」と勘繰る向きも。静岡県の盛り土規制条例改正案が真の意味で「全国一厳しい」ものとなれるかどうか、川勝知事の本気度が問われている。

【記者通信/3月7日】人為起源を強調したIPCC報告で考える「軍事」のタブー


気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2月28日、オンライン会議を通じて最新の研究結果に基づく議論を行い、気候変動がもたらす自然や社会への影響に関する報告書を8年ぶりにまとめた。

報告書は、気候変動の要因として「人為起源」を改めて強調。地球や太陽の活動が原因とする説も根強い中、「人類が引き起こした気候変動は、自然と人間に対して広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を引き起こしている」と結論付けた点が注目される。さらに地球の平均気温が1.5℃を超えて上昇した場合、多くの自然・社会的システムにおいて「適応の限界」に達し、「一部は不可逆的なものになる」と警鐘を鳴らした。

山口壮環境相は3月1日の閣議後会見で、「今回の報告書では、気候変動への適応策の推進、気温上昇を1.5℃に抑えるためのより一層の緩和策の重要性が改めて示された。こうした最新の科学的知見を国内の気候変動対策に反映させながら、適応と緩和、両方の取り組みを国内外で一体的に推進していくことが必要だ」との見解を示した。

また世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之・気候エネルギー海洋水産室長は、本誌の取材に対し、「地球温暖化は避けられない」とした上で、「これからはどう温暖化に適応していくかが問われる。また、途上国の気候変動による被害についても考えていかなければならない」と指摘した。

国家安全保障の大義に霞む「軍事起源」

IPCCが人為的温暖化問題の深刻さを改めて打ち出す一方で、世界的にはロシアとウクライナの戦争が激しさを増している。国家安全保障という大義の前では霞んでしまいがちだが、戦闘機やミサイルといった軍事兵器によって、どれほどのCO2や汚染物質が大気中にまき散らされていることか。そもそも、施設などの破壊や市民の殺害行為は、現代社会が目指すSDGs(持続可能な開発目標)に、完全に逆行するものだ。

世界中の大量軍事兵器がもたらす地球環境への悪影響については、国連の地球温暖化防止国際会議(COP)などで重要テーマに上がってもいいはずだが、国際政治の下では「不都合な真実」なのか。真剣に議論される気配すらない。いずれにしても、今こそ環境NGOは気候変動対策の観点から「反戦」を訴えるべきだろう。人類への脅威で見れば、石炭火力の比ではない。まして、CO2排出の観点から飛行機に乗ることを問題視する「飛び恥」など、世界主要国が戦闘機やミサイルを飛ばしまくる現実の前では、どうでもいいことのように思えてならない。

【論考/3月7日】戦時モードに入った国際エネ市場 「脱ロシア」問題を考える


ロシア軍侵攻以降、エネルギー市場のモードが一変した。3月7日のWTI原油先物価格は一時139ドル/Bblまで急騰し、過去最高値の147ドルに迫ってきた。また,欧州天然ガス価格は200ユーロ/MWh (66ドル/MMBtu)、LNGのJKMは60ドル/MMBtu、豪州ニューキャッスルの石炭は440ドル/Mt (3日現在)。ドイツの電力先物も足元は50円/kW時、日本の年度(2022年4月~23年3月)ベースで40円/kW時ほどの値段が付いている。エネルギー企業の関係者は、価格の上下に驚きながら、燃料や電力の確保に奔走されているのではないだろうか。

こうした有事には過去の経験や常識が通用しない。今、何が起こりつつあるのか、今後、世の中がどうなっていくのかについては、日々、必死に足元の対応をされると同時に、冷静に事実を俯瞰することも大切だ。

繰り返しになるが、世界は戦時モードに入ったことを明確に認識する必要がある。具体的には、世界は「ロシアの切り離しに入った」ということではないか。

もちろん、「天然ガスの3分の1をロシアに依存する欧州、石油の10%を依存する世界はロシアの供給を切れない」。現に「SWIFT(国際金融取引システム)からの切り離しも天然ガスなどエネルギー関係は除外じゃないか」という声もあるだろう。

それでも、ウクライナ市民への蛮行に対し武器、供与やSWIFTからの排除というレベルの経済制裁を行うのは、もはやロシアに対して宣戦布告したのも同然だ。こうなるとエネルギーの輸出停止という報復にも備える必要がある。戦場から近い欧州の危機感は半端ないものだ。

ドイツ「戦後終了」に転換へ 日本政府の認識・対応は?

今回はその欧州、特にロシア依存の高かったドイツの動きについて整理した。ドイツのショルツ首相はロシアの侵攻からわずか23日後の2月27日、下院で次のような安全保障に関する方針を表明している。

①今年1000億ユーロ(13兆円)の防衛予算を確保するとともに、今後、防衛費をGDPの2%以上とする(ちなみに21年の防衛費は470億ユーロ=約6兆円、GDPの1.53%とのこと)、②EU各国との新型戦闘機,戦車の開発,イスラエルから最新武装ドローンの購入、③ガス貯蔵能力を2BCM以上向上、④世界市場からのガスの購入、⑤石炭とガスの国家備蓄の構築、⑥Brunsbuettel とWilhelmshavenにLNG受入基地を建設――。

これに続き3月2日には、ハーベック経済・気候保護大臣がロシア依存度の低減に向け、次のように言及した。

①ロシア以外のLNGソース購入に15億ユーロ(1950億円)分の発注を行った、②最悪の事態に備え、石炭火力を延命・待機させ状況に応じ運転を行う(電力大手RWEはこれを受け、脱石炭計画による発電所の休止の延期、休止中の発電所の復帰など要請に応じ対応としている)――。

ハーベック氏はまた、年末で廃止予定の3基400万kWの原子力発電所の延命についても「なかなか難しいようだが所管の経済・気候保護省で検討中」と語った。

注目すべきは、次の3点である。

①ドイツが戦後初めて、国として「安全保障」を前面に出したこと。しかも今回の侵攻後,わずか3日にして国の根幹たる政策を変えている。日本同様、平和主義・軽武装で、安保は米国頼みだったドイツの「戦後の終了」とでもいうべき転換だ。

②その「安全保障」の柱にエネルギー政策が位置付けられていること。

③ショルツ氏(SPD:ロシアと平和友好・相互依存)、ハーベック氏(緑の党:脱石炭・脱原子力)が、少なくとも短期的には政治的立場を棄てて,なりふり構わず「脱ロシア」で安全保障を確保しにきていること。ハーベック氏の発言など、立憲民主党の泉健太さんを通り越して日本共産党の志位和夫さん、社会民主党の福島瑞穂さんが「原子力の再稼働を」と言っているようなものだ。

日本の政府およびエネルギーのバイヤーは,このレベル感を共有しているだろうか。少なくとも欧州各国は、死に物狂いで非ロシアのエネルギーを獲りにきている。ここを理解するのが第一歩かと思う。