「可能な限りの依存度低減」から「最大限の活用」へ――。わが国の原子力政策が大きな転換点を迎えている。それを象徴するのが、4月15日に開かれた経済産業省のクリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)だ。
資源エネルギー庁事務局は配布資料の中で、「ウクライナ危機・電力の需給ひっ迫を踏まえた、政策の方向性の再確認」と題する論点メモを提示。その締めくくりにおいて、岸田文雄首相が4月8日の会見で「再エネ、原子力などエネルギー安保および脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」と言及した部分を引用しながら、「エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取り組みを加速」と提起した。これに対し、複数の委員やオブザーバーから、原発の早期再稼働など原子力政策の推進を求める意見が相次いで表明されたのだ。これまでタブーとみられていた原発の新増設・リプレースの必要性を指摘する声も聞かれ、潮目の変化を浮かび上がらせた。
注目は何と言っても、消費者を代表する河野康子委員(日本消費者協会理事)の発言である。「原子力を選択肢として射程に入れるとしたとき、国民が抱いている大きな危惧に対して、正面から向き合うところから始めないとうまくいかない。ベネフィットや課題を整理し、テクノロジーアセスメントの考え方でしっかりと進めていただきたい」。安全性確保と国民理解が大前提という慎重な姿勢ながらも、条件付きの原発再稼働へ理解を示した格好だ。消費者団体といえば、これまでもことあるごとに脱原発・再エネ推進を訴えてきたが、わが国で深刻化する電力の需給ひっ迫・価格高騰リスク回避のためには、国内の原発再稼働もやむなしと判断したようだ。
これを受け、長谷川雅巳委員(経団連環境エネルギー本部長)は「河野委員が言われたように、(原子力の利活用には)国民の理解が極めて重要。政府は前面に立って国民の理解醸成を図りながら再稼働、新増設、リプレースを進めていただきたい」と要望した。
「国が前面に立って、原発の早期再稼働の推進を」
このほか、原発再稼働に関する主な意見は次の通り。
「原発をできるだけ早く再稼働させていく。エネルギーの海外依存を続けていいのか。再エネもあるが、安定的な電源が必ず必要になる。企業の生産性が落ちていくと、国のためにもならない」(伊藤麻美委員=日本電鍍工業代表取締役)
「安全性を確保した上での原子力の再稼働。その必要性と安全性について、国が前面に立って国民にしっかりと説明していく必要がある」(大下英和オブザーバー=日本商工会議所産業政策第二部部長)
「原子力の再稼働を急ぎながら、長期的には新増設・リプレースの議論をしっかりと行っていく。そもそも日本が(資源調達で)ハンディキャップを追っている中で、電力価格を上昇させていくと(国内の)産業全体に影響してくる」(秋元圭吾委員=地球環境産業技術研究機構主席研究員)
「原子力は避けて通れない議論。社会的情勢も含めて、やらざるを得ない。人が途絶えると、二度と復活できない。今やらないのであれば、二度とやらないという決断になるのではないか」(白坂成功委員=慶応大学大学院教授)
CE戦略会合を巡っては、昨秋の発足当初から、原子力推進に向けた政策の再構築を主要な論点として指摘する声が聞こえていたが、夏の参院選を控えた政治的事情などからこれまで表立って議論されることはなかった。そうした中、ウクライナ危機に伴うロシアへの経済制裁や去る3月22日の電力危機などを背景に、原子力推進へと世論が変わり始めた。これが、エネ庁事務局や委員・オブザーバーの姿勢に大きな影響を与えているようだ。その声、国の原子力規制委員会にも届くか。