【記者通信/3月5日】エネ価格が歴史的全面高 「電力ガスにも補助金を」の声


エネルギー資源価格の高騰に歯止めがかからない。3月5日現在、WTIの原油先物価格は1t当たり115.68ドルと、この1週間で20ドル以上も上昇した格好だ。石炭先物価格も豪州産が前週比で75%高のt418.75ドルと過去最高値を更新。天然ガス先物価格も同様で、オランダのTTFが4日夜の取引で1MW時当たり212ユーロの史上最高値を記録した。これにつられる形で、北東アジアのLNGスポット価格指標のJKMも100万BTU当たり43.6ドルの高値を付けている。またLPガスの輸入価格指標であるサウジアラムコ社のCP(契約価格)も、3月積みでプロパン895ドル(前月比15.48%高)、ブタン920ドル(同18.71%高)と約8年ぶりの高値水準だ。

ちなみに、実質的にJKM連動となっている日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格(全国平均システムプライス)を見ると、3月に入り寒さが緩んできたにもかかわらず、6日の夕~夜を中心に依然として㎾時当たり30円台後半~40円台前半で推進している。

「もはや『エネルギー緊急事態宣言』を発出しても不思議ではないレベルだと思う」。大手エネルギー会社の関係者は危機感をあらわにする。「石油製品だけではない。日本の場合、長期契約ベースの資源調達が主体とはいえ、電気料金、都市ガス料金、そしてLPガス料金まで、あらゆるエネルギー価格が全面高の局面に突入している。石油元売り会社に対する補助金を5円から25円に引き上げたところで、焼け石に水なのではないか。国民生活への影響が甚大な電気・ガス料金についても、事業者への補助金支給などの上昇抑制対策を早急に打ち出すべきだろう」

ウクライナショックがいつまで続くのか。危機の長期化が懸念される中、日本政府としてもエネルギー価格・調達の安定化に向けた抜本的な対策に取り組むことが求められる。あの東日本大震災から間もなく11年。全国の原子力発電が正常に再稼働できていれば、少なくとも電気料金については相応の上昇抑制効果が図られているはずなのだが、現状では望むべくもないのが残念だ。

【目安箱/3月4日】ロシア軍が稼働中商業原発を制圧 食い違う両者の主張


ウクライナ南東部にある国内最大規模のサポリージャ原発が4日夜、同国に侵攻したロシア軍の攻撃を受け火災が発生した。ウクライナ当局はそれを公表し、直ちに攻撃をやめるよう訴えた。これに対し、ロシア国防省はウクライナ側の破壊工作員による挑発行為があったと主張している。両者によると、同原発はロシア軍が制圧したもよう。稼動中の商業原子炉への攻撃は歴史上初だ。

ウクライナのクレバ外相は4日、Twitterで南東部のエネルホダル市にある国内最大規模のザポリージャ原子力発電所について「ロシア軍があらゆる方向から攻撃している。すでに火災が起きている。もし爆発したらチェルノブイリの10倍の影響が及ぶ。ロシア側は直ちに攻撃をやめるべきだ」と訴えた。

4日にはエネルホダル市民が人間の鎖を作り、同原発近くのロシア軍が撤退したとA F P(フランス通信)が報じていた。日本時間4日12時時点で、まだウクライナのエネルゴアトム社と同国政府の管理下にあるとしている。

一方、ロシア国防省の報道官によると、同原発付近でウクライナ側の破壊工作グループがロシアの警備隊を攻撃したのが発端だという。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、同グループは訓練施設を放棄し火をつけ逃走したというのだ。ウクライナ側の主張とは真っ向から食い違っているが、いずれにしても同原発はロシア側が掌握したもようだ。

600万kW原発への攻撃は不測の事態に発展するのか

『【目安箱/2月24日】原発だらけの国で初の戦争?もう一つの「ウクライナ危機」』で指摘したようにウクライナは電力の6割を原子力に依存。サポリージャ原発では、1980年台後半に作られた原子炉6基が運用。いずれも出力100万kw程度で、計600万kwある。

ただし原子炉の破壊はロシア軍も被害を受ける可能性があり、原子炉はなかなか壊せない。このロシア軍の行動は、威嚇による人心の動揺、また制圧によるエネルギー供給の停止を狙ったものと思われる。

国際原子力機関(IAEA)は同日日本時間正午、ウクライナ当局からこれまでのところザポリージャ原発で放射線量に変化はないと報告を受けているとウェブ上で明らかにしている。ロシア側も「原発は正常に稼働を続けている」との見解だ。IAEAのグロッシ事務局長は、「もし原子炉が攻撃されれば深刻な危険が及ぶ」とコメントを発表した。

ただし原子炉の破壊など、不測の事態の発生の可能性があるため、ロシア軍の行動に懸念が広がっている。過去にイスラエルが、イラク(1981年)、シリア(2007年)に核兵器開発に関連する原子炉を爆撃で破壊したが、稼動中の民間発電用原子炉への攻撃はおそらく史上初になる。

【記者通信/3月4日】原発「再稼働」「防衛」が喫緊の課題に


「電力の供給力の確保にあたっては、原子力の再稼働は重要だと思っている」――。3月3日の参院予算委員会で、萩生田光一経産相は電力需給ひっ迫の懸念にこう答え、原発再稼働に前向きな姿勢を見せた。萩生田氏は「産業界に対して、事業者間の連携による安全審査への的確な対応を働きかけるとともに、国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組む」と説明。閣僚が原子力の再稼働に言及したことで、原子力関係者から期待の声が上がっている。

原子力政策に関しては、福島伸享議員が2月16日の衆議院予算委員会で「原子力政策の再構築に取り組むべきではないか」と質問。それを受けた萩生田氏が「これから先どうするのか。私も感じるところはある」と踏み込み、話題になっていた。3日の萩生田氏の答弁は、原子力政策の再構築というよりも、資源価格の高騰や電気ガス料金の上昇などによるエネルギー危機を意識したものとみられている。

福島氏は4日、本誌の取材に応じ、萩生田氏の答弁について「2012年以降の安倍政権下での原子力政策の不作為に対し、これまでずっと『原子力の再構築を行うべきだ』と言い続けてきた。その点ではまだ物足りないが、やっと腰を上げ始めた印象だ」と感想を述べた。

ロシアのウクライナ侵攻を契機に、石油・ガス・石炭価格の高騰、新設天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の停止、原子力発電所への攻撃など、エネルギー安全保障に対する危機感が世界的に広まっている。萩生田氏は3日の予算委で石油やLNGの備蓄は十分にあるとしながらも「日々刻々と情勢は変わっている。引き続き関係国や国際機関と連携しながら、国際的なエネルギー市場の安定を図りつつ、電力の安定供給に万全を期す」と答弁し、エネルギー問題の解決に意欲を示した。

ところが、岸田文雄首相は3日夜の会見で「これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をすることが大切だ」と、エネルギー資源の確保というより省エネの推進に主眼を置いたメッセージを発出。SNSなどで、「岸田首相の発言からは危機感が全然伝わってこない」「岸田政権、大丈夫か?」といった批判が相次いだ。

ロシア軍の原発攻撃に見る日本の危機管理対策

わが国のエネルギー危機回避のため原発再稼働に対する国民的期待がようやく高まり始めた矢先、これに水を差すような事態が勃発した。ロシア軍は4日、ウクライナ南部にある欧州最大級のザポリージャ原発を砲撃したのだ。原発への軍事攻撃は世界で初めてのこと。かねてから懸念されていた原発攻撃、もっといえば核攻撃の現実化を受け、世界に衝撃が走った。

今のところは原発の管理棟や訓練施設への砲撃にとどまっており、原子炉の被害はなく、周辺の放射線量も正常な状態とされている。が、ウクライナ当局によれば、ロシア軍は同原発を制圧したもよう。ロシア側にとっては、原発という最大の武器を人質に取った形で、今後の交渉を有利に進める狙いがあるのは間違いない。

沿岸部に数多くの原発を抱えるわが国も決して他人事ではない。とりわけ、日本海沿岸の原発は、北朝鮮に近い立地条件などから攻撃にさらされるリスクは常に存在しており、小説や映画の題材になったことも。これまで国の原発防衛に幾度も提言を行ってきた福島氏は、「日本の原発防衛体制は、全くなっていない」と警鐘を鳴らす。「今回ウクライナで起きたように、敵国軍隊が原発制圧に乗り出してきたときの防衛策はないに等しい。実際に軍事進攻が起きたら脆いという現実から、これまで目を背けてきた」「そもそも日本の原子力安全体系では、特定重大事故等対処施設などで設備の安全を見ることはあっても、有事の危機管理対応について、国がどう関与して、どこまでが国の責任で、民間でできないことをどうやって自衛隊や警察が補うのかを含めた体系ができていない。20年前から必要性が指摘されていたにもかかわらず、やってこなかった」などと、日本の原発安全保障の不備を指摘する。

原発防衛には自衛隊と企業と自治体の連携が不可欠だが、足並みをそろえる以前の状態で、突然の攻撃にさらされた際の危機管理対策はないに等しい。2日午前には北海道・根室半島沖の上空にロシア機と見られるヘリコプターが領空を侵犯した。隣国の北朝鮮も日本海でミサイル実験を繰り返している。たとえ原発の現状のまま再稼働が進まなかったとしても、そこに存在する現実に変わりはない。今回のウクライナ危機をきっかけに、わが国の原発防衛策の在り方を政府主導で議論しなければならない時期に来ている。

【記者通信/3月3日】「原子力は自動車と並ぶ成長産業」CE戦略会合が明示


脱炭素化を日本の成長戦略につなげるための「第4回クリーンエネルギー戦略検討合同会合(CE戦略会合)」が3月1日、経済産業省で行われた。注目はグリーントランスフォーメーション(GX)時代に成長が期待できる分野として、自動車産業と共に原子力産業を明記したことだ。議論が進まず停滞していた原子力産業にスポットが当たったことで、日本のエネルギー戦略の大きな転換点となり得ると、関係者からの期待が高まっている。

CE戦略会合では、原子力の現状と2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた影響について報告を行った。全世界では50年までに400GW(1GW=100万㎾)以上の原子力発電所を建設する見通しで、次世代原子力産業となる「革新炉」(高速炉、小型モジュール炉=SMR、高温ガス炉、核融合炉)のシェアは全体の4分の1を占めるとしている。

原子力再構築へバックキャスティング方式を採用か

「CE戦略会合が、自動車と並ぶ成長産業として原子力を位置づけ、高速炉など4つの革新炉に関するビジョンを打ち出した意義は大きい。あえて想像するに、足元で問題になっている再稼働や運転延長などの側面から原子力を議論していくと、反対派から総攻撃を受け、どうしても議論がスタックしてしまう。そんな現状を打開するために、今回はあえてCN時代における原子力の長期ビジョンを明示した上で、バックキャスティング方式で原子力政策の再構築を議論しながら、足元の課題を浮き彫りにしていく。政府は、そんな戦略に方向転換したのではないか」(エネルギーアナリスト)

いずれにしても、ウクライナショックを背景に、原油、天然ガス、そして石炭までもが価格高騰の脅威にさらされている。片や、再生可能エネルギー賦課金の上昇問題も横たわっており、このままではわが国のエネルギー価格は上昇する一方だ。電気料金の上昇抑制や電力安定供給不安の解消を図るべく、全国の原発再稼働を求める国民の声は日増しに高まっている。政府は、第六次エネルギー基本計画に盛り込んだ「2030年度の原子力比率20~22%」を本当に実現することができるのか。CE戦略の議論の行方が大いに注目される。

【記者通信/3月3日】三菱連合が洋上風力で地域共生策 地元不安の払拭なるか!?


秋田、千葉両県3海域で洋上風力発電事業を落札した三菱商事、シーテックなど4社連合はこのほど、同事業を通じて広範で強靭な国内・地域サプライチェーンを構築し、雇用機会の創出や地域経済の活性化を目指す方針を発表した。当初予想を大きく超える安値での落札により、地元を中心に事業実施に伴う利益の還元や地域経済などへの影響を不安視する向きが広まる中、4社連合は「地域共生」を軸に事業を推進していく姿勢を鮮明に打ち出した格好だ。

具体的の取り組みを見ると、サプライチェーンの構築については、事業で使用する部品・資材調達、それを運ぶ輸送や発電所管理まで国内企業で行い、国産化を進めていくとともに、発電所建設に伴う雇用を地元で創出していく。また地域共生策については、洋上風力発電事業の関係者が地元の交通・飲食・宿泊などのサービスを利用するなどで地域コミュニティとの共生を図る構えだ。漁業面では新たな漁礁・藻礁を作ると説明。情報通信技術(ICT)を活用して漁業データを可視化し、業務の効率化を進めていくとしている。

4社連合が今回の共生策を打ち出した背景には、地元への拠出金が減額されるのではないかという不安を払拭したい狙いがある。同グループが落札した3海域でのFIT(固定価格買い取り制)価格はいずれも、入札上限価格である29円を大幅に下回っている。「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」1kW時13.26円、「秋田県由利本荘市沖」1kW時11.9円、「千葉県銚子市沖」1kW時16.49円と破格の安さだ。拠出金の目安は、事業を行う20年間の売電収入として見込まれる額の0.5%で、事業者は地元に還元することが求められている。拠出金は自治体が基金として積み立て、漁協振興策などに充当する計画だ。

秋田県漁協協同組合関係者は共生策の内容を評価する一方で、「あまりにも売電価格が低いと、漁業への補償も削減されるのではないか」と不安視する。三菱商事側は2026年の着工に向け、自治体へのメリットをしっかりと示していく必要がありそうだ。

【記者通信/3月1日】日本のエネ市場を襲う「露SWIFT 排除」の衝撃


岸田文雄首相は2月27日のぶらさがり会見で、ロシアに対する制裁の一環として国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの特定銀行を排除することについて、「ロシアを国際金融システムや世界経済から隔離させるための措置を講ずる」と表明した。欧米と共同歩調を取る形で、対ロシア経済制裁に乗り出す。

各国によるロシア排除政策は、エネルギー分野に大きなインパクトを与えた。28日には英石油大手シェル(旧英蘭シェル)がロシア極東サハリンの天然ガス事業「サハリン2」からの撤退を発表した。シェルはサハリン2プロジェクトの合弁会社「サハリン・エナジー社」に約27.5%出資していたが、同じく約50%出資していたロシアのガスプロム社との合弁を解消。ロシアのウクライナ侵攻で事業継続は困難と判断したとみられている。

日ロ経済協力のシンボル的な存在でもあったサハリン2プロジェクト。年間960万tのLNG生産能力を持ち、その約6割が日本向けに供給されている。

サハリン産LNG調達できず!? 懸念される負の連鎖

今後の焦点はサハリン2に日本から出資している三井物産(12.5%)、三菱商事(10%)の対応だ。三井物産、三菱商事の両社は「シェルの発表内容を含め、詳細を分析した上で日本政府およびパートナーとの検討を進める」とコメント。シェル撤退がサハリン2事業にどのような影響を及ぼすか、両社で連携を取って事態を注視する考えを示した。ロシアのSWIFT排除による影響やシェル撤退後のサハリン2の運営、持ち株比率の変更に関して、両者とも具体的な言及は避けたが、サハリン2の停止はエネルギー安全保障問題に関わるため「(1日夕)現在も話し合いが行われている」(三菱商事)状況だ。万が一、停止となれば、サハリン産比率の高いエネルギー事業者ほど大きな影響を被ることになる。

「SWIFT問題によって、最悪の場合、日本はサハリン産LNGを調達できなくなる可能性がある。さらに、欧州のガス不足によってLNGスポット指標である『TTF』が高騰し、それにつられてアジアのLNGスポット指標の『JKM』が高騰すれば、現在の運用の仕組みだとJEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格も高騰することになる。まさに負の連鎖だ。例年であれば、これから春の不需要期に入るので価格は下がっていくはずだが、ウクライナ情勢の行方次第では、高騰局面が続く可能性も否定できない。欧州のエネルギー危機が回りまわって日本にも波及するリスクが高まっている」(エネルギーアナリスト)

サハリン1でも米EMが撤退の可能性

中国・日本市場に主に原油を供給する「サハリン1プロジェクト」を巡っても今後、大きな動きがありそうだ。こちらには、ロシア石油大手ロスネフチや米エクソンモービルなどのほか、日本からはサハリン石油ガス開発(SODCO)が参画している。27日、英BP社がロスネフチ社の株を売却し、ロシアの資源開発ビジネスからの撤退を発表した。さらに、米エクソンモービル社に関しても、サハリン1から撤退する可能性がささやかれている。サハリン1関係者は、本誌の取材に対し、「EM側は『守秘義務があるから何も言えない』と話しているが、問題がなければ『問題ない』と言えるはずだ」(サハリン1関係者)と指摘する。

世界の「ロシア離れ」はさまざまな分野に波及している。サッカー界では日本代表DF板倉滉選手が所属するドイツのクラブチーム・シャルケが、ガスプロム社との提携終了を発表した。米自動車大手ゼネラルモーターズは、自動車の対ロ輸出を全面停止する声明を出すなど、対ロシア事業の見直す動きが世界的に急加速している。エネルギービジネスでロシアと密接なかかわりを持つ日本企業はどのような対応を取るのか、大きな判断を迫られている。

【記者通信/2月28日】脱炭素先行地域に提案応募79件 山口環境相「よく集まった」


山口壮・環境相は2月22日、閣議後会見を開き、「脱炭素先行地域」の募集について、締め切った21日時点で提案数79件、計102の自治体から応募があったことを明らかにした。

脱炭素先行地域は2050年カーボンニュートラル社会の実現に向け、家庭や業務の電力消費に伴うCO₂排出量の実質ゼロに取り組むモデル地域。政府は脱炭素社会を実現するための過程を示した「地域脱炭素ロードマップ」で、少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」で25年度までに地域特性に応じた取り組みの道筋をつけながら、30年度までに実行する計画を打ち出している。

記者からの質問に対し、山口環境相は「脱炭素というハードルが高い中、多くの応募をいただき感謝している。今後は年2回募集をする予定なので、自治体の方々にはしっかり内容を煮詰めていただき、応募していただければありがたい」と呼びかけた。

【記者通信/2月28日】再エネ規制へ与党が意欲 「方針転換の歴史的瞬間」


「日本が方針転換を決めた歴史的瞬間に立ち会うことができた」――。

メガソーラーや大規模風力発電設置に伴う環境破壊に反対するネットワーク「全国再エネ問題連絡会」は24日、自民党の古屋圭司政調会長代行と面談し、その後、都内で記者会見を行った。上記の発言は、共同代表の山口雅之氏が面談の感想を問われたときのものだ。全国から集まった嘆願書を受け取った古屋政調会長代行は「責任与党として取り組む。国土を守るために行動する」と悪質事業者の規制に前向きな姿勢を見せたという。山口氏は「われわれが指摘するより前に、古屋議員はいろいろご存じだった。これから抜本的な法改正の成立が進むことを期待したい」と喜びをあらわにした。

同連絡会は全国40団体約3万人が参加し、全国各地で起きる悪質事業者のずさんな開発や土砂災害リスクへの対策支援を行っている。事業者の中には、住民側の十分な理解を得ないままコスト最優先での手抜き工事を行ったり、固定価格買い取り制度(FIT)の認定IDを転売したり、産業廃棄物事業の隠れ蓑として太陽光事業に乗り出したりするケースが少なくない。現場では違法性を認識していながら、行政指導が入ると「施工を担当した孫請け企業の問題」と責任を逃れようとするケースも相次いでおり、地元の住民を悩ませている。

悪質事業者の問題は、昨年9月に開かれた第15回内閣府再エネ総点検タスクフォースの会合でも取り上げられたが、当時の規制改革担当大臣だった河野太郎氏は「再エネの導入が進む中で一部の病理的な事象」と規制強化に消極的だった。このため、今回の古屋政調会長代行の動きは「予想していた以上で、大変ありがたいこと。いろんな議員に(問題認識を)共有していただいた」(山口氏)と好意的に受け止められている。

再エネ利権に絡む反社会的勢力とは?

一方で再エネ事業を巡っては、反社会的勢力のフロント企業が絡み、暴力団関係者の資金獲得活動(シノギ)として使われる、という深刻な問題が散見されている。

山口氏の調査によると、不動産開発業者の「ブルーキャピタルマネジメント」が山梨県甲斐市菖蒲沢のメガソーラー事業に参加。2020年から工事を手掛けてきたが、調整池や太陽光パネル設置でずさん工事や欠陥が相次いで発覚した。その他全国各地で住民側とのトラブルを引き起こしているブルー社について、「反社会的勢力のフロント企業の可能性がある」というのだ。問題点を指摘した山口氏自身も、脅迫まがいの電話や不審な車に追い回されるなどの被害を受けており、再エネ問題連絡会の森山まりこ共同代表は「一般の人は反社会的勢力からの脅迫行為に泣き寝入りしている現状がある」と肩を落とす。

今回の古屋政調会長代行との面談でも、この問題について話し合われた。山口氏は「古屋議員は元国家公安委員長で警察にも太いパイプがある。反社撲滅に向け資金源封殺に取り組むと話してくれた」と再エネ事業からの反社勢力排除に期待感を示した。今後は、建設業界を取りまとめる国交省や反社勢力の排除を担う警察庁が経産省と連携し、行政一丸となって問題解決に動いてほしいとしている。「われわれの電気料金に上乗せされる形で自動的に徴収されている再エネ賦課金が、いずれの形にせよ反社勢力の一部に流れているとしたら、許されざることだ。クリーンエネルギー政策に名を借りた国民への背任行為にほかならない」(環境NGO関係者)

再エネの最大限・最優先の導入政策の下、これまで乱開発規制に及び腰だった政府・与党だが、山口氏ら住民団体の粘り強い陳情にようやく重い腰を上げた格好だ。22日には多くの問題が指摘されてきた埼玉県小川町のメガソーラー事業に関して、萩生田光一経産相が事業者に対し抜本的事業見直しを求める異例の勧告を行うなど、これまでの「再エネ事業の請け逃げ」を許さない政府の姿勢が目立ち始めている。今後の展望について、山口氏は「関連法に『遵守事項』の規定を盛り込んでもらうことが今後の目標。違反した業者はFIT認定IDを取り消す仕組みが必要だ」と話す。再エネ利権に群がる悪質事業者の一掃に、政府がどこまで本気で取り組むか、要注目だ。

【記者通信/2月25日】再エネTFが都市部での導入策を議論 乱開発問題が影響か


内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」は2月19日、第19回会合を開き、道路や公園など都市部における再エネ設備の導入策について議論を行った。これまで、太陽光などの再エネ設備は地方の山間部や休耕田などを中心に導入が進んできた。しかし、悪質事業者による乱開発の影響などが深刻化しつつあり、地元住民らによる反対運動が多発している。今後は、新技術の投入や規制見直しなどを通じ、都市部での導入拡大を探る動きが活発化しそうだ。

この日の会合で、再エネTFの構成員である大林ミカ・自然エネルギー財団事務局長、川本明・慶應義塾大学経済学部特任教授、高橋洋・都留文科大学地域社会学科教授、八田達夫・東京財団政策研究所名誉研究員の4人は、道路・都市公園での再エネ導入促進を図るため、2030年、50年の脱炭素化を視野に入れた導入目標の設定やロードマップの策定を提起。その上で具体的施策として、①道路沿いに設置する「路面太陽光発電」、②太陽光パネルと導光ガラス版を組み合わせた「舗装型太陽光」、③駐車場の屋根に太陽光を設置する「ソーラーガレージ」――など、都市型再エネ設備の導入促進に向けた技術基準の整備や規制緩和などを求めた。

道路・都市公園で推進へ 国交省が導入目標や技術指針を検討

これに対し、国土交通省は道路における再エネ導入目標については現在検討中としながら、トンネル坑口付近や無線中継局で太陽光発電施設を試験的に導入していると説明。今後は導入済み箇所や試験設置した施設の課題を検証しながら、技術指針を検討・策定するとした。都市公園については、地方公共団体の先行事例を参考に、国営公園を含めた導入目標を年内に策定する方針を明示。その上で、ソーラーガレージでは駐車場の付属物として公園施設に含まれることなどを広く周知していく考えを示した。舗装型太陽光に関しては、現状でも安全性が確認できれば都市公園に設置できると回答。技術開発の進捗を踏まえながら推進していく考えを示した。

「太陽光発電など再エネ施設の乱開発が全国的な問題となる中で、今後は山間部ではなく、都市部での普及を目指していこうという動きが高まってきている。こうした潮目の変化は大いに歓迎したい。再エネTFもぜひその方向で、これからの再エネ関連規制のあり方を議論してほしい」(環境NGO関係者)

【目安箱/2月24日】原発だらけの国で初の戦争?もう一つの「ウクライナ危機」


ロシアとウクライナの軍事的緊張が高まっている。ウクライナは原子力発電にこれまで依存してきたが、それが国として軍事攻撃の脆弱性を高めてしまった面がある。

◆原子力依存度、6割弱

ウクライナをエネルギーから見ると、石炭以外にエネルギー資源はほぼなく、非常に脆弱だ。ウクライナの原子力依存度はここ数年高まり、発電に占める原子力の割合は、6割前後と非常に高い。同国にはエネルギー資源はなく、東部に石炭の産出地域がわずかにあるが、2014年以来のロシアとの紛争で、それが使えなくなってしまった。天然ガスもロシアが供給していたが、不払いなどを理由に頻繁に止められ、なかなか自由に使えない。再エネも、冬は曇天が続き、風も面する黒海は陸に囲まれ、海からの風が弱く、太陽光、風力は使いづらいとされる。

同国は旧ソ連邦構成国の1984年にチェルノブイリ原発事故を起こした。91年の独立直後に脱原発を決めたものの、結局ができなかったのは、このエネルギー供給の脆弱性が理由だ。そのために原子力が活用されたが、原子炉の大半は1980年代の建設で、チェルノブイリと同じ型の炉を改良したものだ。

ウクライナの首都キエフから北方へ、わずか120㎞ほどのところにあるチェルノブイリ原発

一方、ロシアは国策として、原子力の開発を進め、重要な輸出の商材とした。また核兵器を放棄したウクライナと違って、旧ソ連の核戦力、軍民一体の研究組織を引き継いだ。

◆国境沿いに多い原発の防衛策は?

プーチン大統領は2月22日、ロシア系武装勢力が実効支配するウクライナ東部2地域の独立を承認し、軍の平和維持軍としての進駐を命じた。そのドネツク人民共和国国境から西へわずか200キロのドニエプル川岸にサポロージェ原発がある。ここにはウクライナの持つ発電用原子炉15基のうち6基がある。

またベラルーシ国境には2ヶ所の原発にそれぞれ3基ずつ、黒海沿岸1ヶ所の原発に3基の原子炉がある。ベラルーシにはロシア軍が駐留しており、黒海もロシア艦隊が押さえている。攻撃しやすそうな状況だ。

これほど稼動中の原子炉がある国で、戦争が起こることは、これまでの歴史に類例がない。果たして、原発防衛は大丈夫なのか。

◆チェルノブイリ近郊は無人地帯

チェルノブイリ原発の事故炉そのものは、2018年にそれを覆う巨大な鉄製のシェルターで囲われている。原発では、事故後も別の原子炉は近年まで稼動し、変電所として使われている。近くの立ち入りは許可さえあれば可能で、近づくと即座に健康被害が起きる状況ではない。

ただし同原発の近郊2000平方キロはまだ無人地帯となっている。そして事故炉は、首都キエフからわずか120キロほどしか離れていない。もちもと、この地域は沼沢地で、過疎地域であった。またロシア、ベラルーシ、ウクライナ3国の国境が交わるところだった。無人地帯ということは、そこを軍隊が通りやすいという面がある。ロシア軍はベラルーシ国境に展開している。ただしキエフまでの道は放置され未整備と推定されで、道路事情は悪いだろう。

原子炉の破壊、チェルノブイリの後始末の現場の破壊という暴挙をロシア軍はしないと信じたい。しかし原発などの重要拠点を制圧するだけで、ウクライナの経済と社会を簡単に麻痺させることはできる。それをロシア軍は考えているかもしれない。

大規模な戦争が起こらないことを祈るが、今後は原発の安全保障が隠れた鍵になるかもしれない。そしてウクライナの現在抱えるリスクから得られる教訓は、一つのエネルギー源に発電を依存させることは危険であるということだ。

「一つのカゴに卵を集めるな」という昔からのリスク格言が当てはまる。その教訓は、現時点で天然ガス火力に半分強の発電を依存した日本にも参考になる。

【記者通信/2月22日】福島議員が原子力政策を追及 萩生田経産相「感じるところある」


2月16日の衆議院予算委員会第7分科会で行われた、福島伸享衆院議員(茨城1区、無所属、有志の会)の質疑が原子力界隈で話題になっている。

福島氏は冒頭、自身の地元茨城県にある日本原子力発電東海第二原発が避難計画を巡る水戸地裁判決の影響で再稼働できない問題に触れ、「避難計画の策定が不十分ということで(再稼働が)できない。避難計画を作ることは事業者の努力ではどうにもならない」と指摘。「地元、水戸市を含めて困っている。27万の人口、病気や動けない方をどう移動させるのか、裁判に耐えるだけのものを作れと言われてもできない。国は何をやっているのか」と政府の姿勢を問いただした。

これに対し、資源エネルギー庁電力・ガス事業部長の松山泰浩氏は「地元の理解という意味では避難経路は大変重要。国としても自治体任せにすることなく、避難先や避難手段の確保など地域が抱えるさまざまな課題に対し、避難計画の策定を支援している」と主張。今後は自治体と協議し内閣府を中心に具体的計画に落とし込むとしたが、福島氏は「事業者は避難計画(の策定)に携われない。今みたいな状況では、東海第二原発は裁判に耐えうる避難計画は作れない」と繰り返し指摘した。

東海第二原発を巡っては、水戸地裁が昨年3月、避難計画の不備を理由に運転差し止めを命じたことで、茨城県内14市町村、約94万人の避難計画策定が急務となっている。人口の多さ故に、避難先の確保や移動手段の確保、避難所一人当たりの面積、ライフラインの確保といった計画の具体化には課題が山積みだ。茨城県東海村の原子力問題調査特別委員会は2月1日、計画の速やかな策定を求める請願を採択したが、反対派は採択が再稼働につながると反発しており、地元の混乱は収まる気配がない。

体系化された政策不在の原子力 問われる政府の本気度

福島氏の質疑は、国の「第六次エネルギー基本計画」における原子力政策の在り方にも及んだ。2030年度の温室効果ガス46%削減に向け、電源構成の原子力比率を20~22%にする計画について、具体的な実効性が不明だとして、原子力政策の再構築に及び腰な政府の姿勢を次のように追及した。

「資源エネルギー庁原子力政策課に、今の政府の原子力政策の体系を示す資料を出してほしいとお願いしたら、出てきたのは、第六次エネ基の原子力関連の項目をまとめたものだけ。つまり体系化された政策がないわけだ」「今の日本の安全規制はただ厳しいだけ、設備を求めるだけ。(東京電力福島原発事故の)反省を踏まえてというけれど、何を反省しているのか、いまだによく分からない。原子力産業を民間が担うのだとすれば、9電力体制が電力自由化によって流動化していく中で、だれがこれから担っていくのか。(原子力に関係する)危機をだれが救うのか。30年後、40年後の新しい技術開発は国がやるのか民間がやるのか、その役割分担はどうするのか」「この国全体としての意志や戦略が見えない。国民から見れば『政府は本気でなく、だったら原発なんてない方がいい』と思うのは当然だ。いつまでたっても再稼働が進まない中で、現場では家族を犠牲にしてまで一生懸命動いている職員がいる。であれば、国は本気になって原子力政策の再構築に取り組むべきではないか」――。

これを受け萩生田光一経済産業相は、既存の原子力施設は、地元の理解を得て安全性が確保されたものから速やかに再稼働を進める、という政府の基本方針を示しながら、「これから先どうするか。私も感じるところはある」と踏み込んだ。その上で「国民の暮らしに電気は絶対必要。それを守っていくためにコストと責任をどう見合っていくかが、われわれ政治家に課せられた使命。いろんな可能性を否定せずにしっかり議論したい」と、原子力政策の推進に前向きな姿勢を示した。

発電段階でCO2を排出せず、供給安定性に優れ、燃料費も安価な原子力は、脱炭素社会を目指す上で不可欠な電源であることは論を待たない。現在深刻化しつつある電力不足の回避、電気料金の上昇抑制なども視野に、岸田内閣は国益に適う原子力戦略を描くことができるかどうか。福島氏は質疑の最後に「血の通った原子力の総合政策を強く求める」と訴えた。政府の本気度が問われている。

【記者通信/2月18日】1カ月半ぶりの岸田首相会見に見る記者の質問力


岸田文雄首相は2月17日夜、官邸で約1カ月半ぶりとなる記者会見を行った。新型コロナ対策関連の話題を中心にした冒頭発言の最後に、緊迫するウクライナ情勢に言及。この中で、①ウクライナの危険情報をレベル4に引き上げ、在留邦人の退避と保護に全力を挙げる、②ウクライナのゼレンスキー大統領、EUのフォン・デア・ライエン欧州委員長、英国のジョンソン首相との電話会談で、ウクライナの主権と領土一体性への支持を表明し、力による現状変更は認められない旨を伝えた、③またウクライナへの1億ドル規模の支援を表明し、各首脳との間で緊張緩和に向けた外交努力を粘り強く続けていくことで一致した、④ライエン氏からは、日本のLNGの一部を欧州に融通したことに謝意が示され、日欧エネルギー安全保障で連携することで一致した――ことなどを明らかにした。

続く質疑応答でも、大半は新型コロナにおける水際対策やワクチン接種、まん延防止措置に関わる質問ばかり。ウクライナ情勢に関しては、テレビ東京とNHKの記者がアジアへの影響やプーチン大統領との電話会談に向けた見解などを質問するにとどまった。

注目されるのは、フジテレビの記者が、原油高や物価高による国民生活への影響と対策について質問したこと。これに対し、岸田首相は「わが国の経済、そして国民生活に大きな影響が出る重大な課題」とした上で、石油元売り会社への補助金支給や主要産油国への増産働き掛け、自治体支援のための特別交付税措置などを継続する考えを示した。対策の効果については「官房長官の下で改めて検証を行った上で、何が必要なのか、これから先に向けて議論を進める」と追加措置に含みを持たせた。

石油補助金を巡っては17日午後、自民党の高市早苗政調会長が会見で「このまま価格高騰を放置していては、もう賃上げどころじゃない。トリガー条項並の 25円というところも視野に入れながら、激変緩和事業を少し拡充する方法もあるのではない」と発言していたこともあり、政府の今後の対応に関心が集まる。

第二次世界大戦以来の安全保障危機が迫っているのに・・・・・・

この日の会見を通じて印象に残ったのは、久しぶりの公式会見の場にもかかわらず、新型コロナ関連以外の話題がほとんど出なかったことだ。官邸秘書官が原稿を書いている冒頭発言はともかく、記者側から多様な質問が出てこないのは不思議でならない。

何よりも、ウクライナ情勢を巡っては、第二次世界大戦以来の国際安全保障上の脅威とされるほどの危機が差し迫っている。ロシアが侵攻した場合に予想される日本経済・国民生活への影響、ロシアとの経済協力の在り方、自衛隊派遣の問題など聞くべきことは数多くある。それ以外でも、カーボンニュートラルや経済安全保障、スタグフレーション危機など、国家・国民の利益に関わるテーマが山積みだ。

わが国が直面するさまざまな課題において、新型コロナ対策の優先度が高いことに異論はない。が、国民の関心事はもっと多様なはず。首相会見が1カ月半近く開かれなかったことを批判していた新聞社もあったが、会見があればあったで、各メディアが同じような質問ばかり繰り返しているのは、いかがなものか。公式会見の場では、首相の答弁力と同時に、記者の質問力も問われることになる。

【目安箱/2月18日】エネルギー価格上昇、「自分の問題」になる怖さ


◆戦争経験者の思い出話

「家が空襲で燃えるまで、知人が死んだと知らされるまで、戦争は自分の問題ではなかった。海の向こうの他人事だった」。筆者の小さい頃、太平洋戦争を、いわゆる「銃後」という戦地以外で経験した人は揃って、こんなことを話していた。そして誰もが言っていた。「自分事と思ったら、もっと真剣に戦争に反対していた」

筆者は50歳代で、20世紀の日本の最大の出来事である長期の戦争の時代、1931年の満州事変から1945年の太平洋戦争の敗戦まで、戦争を大人として経験した人が、祖父母にいた世代だ。今の若い世代より、この戦争を詳しく聞いていた。

この戦争は、当たり前かもしれないが、多くの人にとって「他人事」であった。ラジオや新聞の伝える情報は、遠い存在だった。自分や身近の人が苦しみや恐怖を経験することによって、初めて「自分事」になったわけだ。

エネルギーでも、同じように「他人事」から「自分事」に変化する可能性がある。

◆肌感覚に加え統計でもインフレへ

日本の消費者物価指数は、統計上は落ち着いている。2021年12月の消費者物価統計では、生鮮食品を除くコア指数の上昇率が前年同月比0.4%増にとどまった。ただし、これには特殊な要因がある。数値を細かく見ると、コア指数に対する寄与度はエネルギーがプラス1.2ポイント、通信はマイナス1.6ポイントだ。通信では、菅義偉前首相の肝煎りによる価格引き下げ政策で、2021年3月から大手3社が一部の料金を引き下げ、それが影響している。

今年4月以降、この携帯料金引き下げによる影響が解消される。エネルギー価格の上昇が統計でも現れるはずだ。

日本では2月時点で、インフレの兆しが出ている。肌感覚で食品の値段が上昇し、エネルギー価格の上昇も目立つ。ガソリン価格の看板はレギュラーでリッター170円前後(東京地区)と昨年1月末に比べ4割の上昇となった。

また電力料金も上昇している。2011年の震災直後、「コーヒー一杯分の値段で再エネ振興」と当時の海江田万里経産大臣は言って、再エネへの付加金制度の導入を訴えた。導入当時は月100円前後だった。ところが今の再エネ付加金はどの家庭も月1000-1500円になり、それがさらに増え、電力料金に上乗せされる見込みだ。エネルギー価格は自由化されても、一般向け料金では調整価格帯が作られていたが、この価格上昇でその上限に迫り、まもなくその調整域が見直されそうだ。

SNSを見ると、欧米在住の日本人が、ガス、電力料金が昨年の倍近くになり、月数万円単位と悲鳴を書き込んでいる。英国、イタリア、ドイツ、米国東部など、多くはエネルギー自由化をした地域だ。それが日本でもやがて起こるだろう。フランスや北欧など原発を活用している国からは聞こえていない。

◆「真剣に」問題に向き合う人が増える期待

エネルギー価格の上昇は、かつ複合的な要因によるものだ。世界的なインフレ傾向、ウクライナでの緊張、石油とガスの生産国ロシアの不透明な先行き、そして温暖化で化石燃料開発への投資が停滞していることなどが重なった。いずれもすぐには解決できそうにない原因で、エネルギー価格の上昇は、長期化するだろう。

東京電力の福島第一原発事故の後で、エネルギーは突如、重要な社会的問題になった。けれども見ていると、一部の人には主張に「気楽さ」があったように思う。劇的にエネルギー価格は上昇せず、日本のエネルギー業界、特に電力の頑張りで、原発が動かなくても電力供給が続いた。そのためか「他人事」として問題を考え、国会から巷間まで、好き勝手なことが言われた。「原発ゼロ」というスローガンは、その典型的なものだ。

エネルギー価格の上昇が生活を苦しめる現実によって、多くの人は「自分事」として「もっと真剣に」エネルギーを考えるのかもしれない。かつての戦争経験者たちと同じように。それは、この悪い予感のする未来の見通しの中で、数少ない希望を抱ける動きだ。

【記者通信/2月10日】油価高騰で関係閣僚会合 ガソリン値上げ抑制なるか


政府は2月10日、原油価格の高騰を受けて対応を協議する関係閣僚会合を開いた。会合には松野官房長官をはじめ、萩生田経済産業相や金子農林水産相らが出席。ガソリン価格の抑制に向け追加対策を検討する。松野官房長官は会合で「情勢が日々変化し、予見することが難しい中で、企業や暮らしへの影響を最小化する観点から機動的な対応が可能となるよう、さらなる対応策の検討を進めてほしい」と指示した。

ウクライナ情勢の緊迫化で、原油先物価格(WTI)は一時90ドルを突破。ガソリン価格は7日時点で1ℓ当たり171.2円と前週比0.3円のプラスで、5週連続の値上がりとなった。今年1月から政府は、石油元売りなど29社に対し、レギュラーガソリン小売価格が170円以上となった場合、1ℓ当たり5円の補助金を支給している。一方で、揮発油減税などトリガー条項の凍結解除には「10日の関係閣僚会合で具体的な話は出ていない。各省のやっている施策をもう一度検証すべきで、個別的な具体策を話し合う場ではない」(資源エネルギー庁)と否定的だ。松野官房長官も閣議後の会見で「(トリガー条項)発動の場合、国や地方の財政への影響がある。凍結解除は適当ではない」との考えを示した。

今後の注目は、補助金による価格抑制効果がどれだけ実際の小売価格に反映されるかだ。萩生田経産相は、ガソリン卸売価格の据え置きの中、燃料油を値上げしている小売業者への現地調査を14日から始めることを明らかにした。ガソリン価格の推移に関して約2万9000件のサービスステーション(SS)へ2回電話調査を行い、約8割から回答があったという。今後は未回答のSSや、価格が値上がりしたSSに対し、補助金による価格抑制策への理解を求めていくとしている。

今後のガソリン価格の安定化に向けては、次回の関係閣僚会合が「必要に応じ招集」となるなど、見通しは不透明だ。政府としても主要産油国への増産働き掛けや、自治体支援に向けて特別交付税の措置などを指示するが、価格抑制に打つ手は限られている。松野官房長官は「これまでの対策が一定の効果を上げているものの、原油価格が13年ぶりの高値水準となる中で、引き続き苦しい状況が続いている」と指摘。関係閣僚会合でも使われた「機動的な対応」でガソリン価格をどこまで抑制できるか、難しいかじ取りを迫られている。

【目安箱/2月3日】元首相5人がEUに書簡 甲状腺がん記述に批判広がる


菅直人、小泉純一郎の両元首相が1月27日、東京の外国人記者クラブで記者会見を行い、E Uの委員長にE Uタクソノミー問題で原子力を「クリーン電力」としないように求める書簡を5人の元首相が連名で送ったと発表した。この書簡は特に話題にならず、外国メディアも調べる限り報道で伝えなかったが、その書簡の中で「子供が甲状腺がんに苦しんでいる」と記した。その点で批判が広がっている。

◆避難措置を決定した菅直人氏が、その措置を批判

この書簡は、菅、小泉、鳩山由紀夫、細川護煕、村山富市の5氏が署名。書簡は「原自連」(原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟)が公開している。この団体は、反原発運動で知られる河合弘之弁護士が幹事長という肩書きで関わり、元首相5氏らのエネルギー活動の窓口になっている。反原発と再エネの政治ロビー活動を行うエネルギー関係者が言うところの「四谷グループ」の一つだ。

EUタクソノミーは欧州委員会主導で投資などの経済活動の指針を定めようという動きだ。その中で地球温暖化対策のために、二酸化炭素を出さない原子力発電をクリーン電源の一つとする提案が1月末に出て、E U加盟国で議論が行われている。ドイツなどが反対しているが、これは取り入れられる見込みだ。

 E Uの動きに世界的に原子力推進、活用派は勢いづき、反原発を唱える人たちは批判している。元首相らも、政治団体と協力して抵抗しようとしたのだろうが、自らへの批判の方が大きくなってしまった。元首相らは自らのホームページやS N Sで積極的に告知していないので、首相らよりも政治グループが主導したものだろう。

書簡には次のように書かれている。「私たちはこの10年間、福島での未曾有の悲劇と汚染を目の当たりにしてきました。何十万人という人々が故郷を追われ、広大な農地と牧場が汚染されました。貯蔵不可能な量の汚染水は今も増え続け、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ、莫大な国富が消え去りました。」

文章はわずかだが、その認識は問題だ。福島原発事故と甲状腺がんの発症には、因果関係が証明されていないし、その可能性は低い。福島での負担は、科学的な根拠のない過剰な措置が行われた面がある。書簡に署名した菅直人氏は、原発事故時点での首相で、こうした避難措置の決定に関わった。

◆福島に原発事故による甲状腺がんの被害はない

そしてこの書簡での甲状腺をめぐる認識はおかしい。福島で原発事故による甲状腺がんは増えていない。それどころか、そうした説を流すことは福島に対する風評被害を広げかねない。

原発事故時に放出する放射性ヨウ素は、のどの甲状腺に沈着しやすく、がんを発症する恐れがある。ただし甲状腺がんには生涯にわたって健康に影響しない潜在がんも多い。福島では事故後に、甲状腺がんの診断を行いそのがんが多く見つかった。これは過剰診断で、発見数が増えたものと推定されている。

放射線医科学の専門家などからなる国連放射線影響科学委員会が、今年3月に公表した福島原発事故を受けた住民の健康影響に関する2020年版の調査報告書では、福島県内で発症した甲状腺がんについて被曝が原因ではないとの見解を示している。

福島県の県民健康調査の検討委員会も2020年6月、事故当時18歳以下だった県内全ての子供を対象に実施した甲状腺検査の結果について「現時点において、甲状腺がんと放射線被ばくの関連は認められない」と報告している。

これを受けて日本政府も動き、山口壮環境大臣は2月1日、5人の元首相に対し、福島県内の子どもへの放射線の健康影響について誤った情報を広めているとして、抗議する書簡を送ったと発表した。書簡は一般公開されていない。報道によれば山口氏は書簡で、福島県が実施している検査で見つかった甲状腺がんの症例について「専門家会議により、現時点では放射線の影響とは考えにくいという評価がなされている」と指摘。その上で、元首相らの声明の表現は「差別や偏見につながる恐れがあり、適切でない」とした。

さらに岸田文雄首相は2日の衆議院予算委員会で、この首相経験者の書簡についていわれのない差別や偏見を助長することが懸念されるものであり、適切ではない」と述べた。日本維新の会の足立康史氏への答弁。

宮城の村井嘉浩県知事は1月31日の会見で「科学的根拠に基づき情報を発信していくべきだ。首相経験者の影響力は大きい。なぜそのようなことをされるのか」と批判した。

言うまでもなく、これは日本政府や国際機関の考えが正しい。

◆批判一色、世論が冷静になりつつある証拠か

そして政治家としての責任も大きい。

細野豪志元環境大臣は産経新聞の取材に、「さらっと(書簡に)書くような軽い問題ではない。10年の経緯を知らずに科学的事実に反する行為はあまりに配慮がない」と指摘した上で、「菅氏は首相として(福島原発の被災者の)避難範囲を決めた当事者だ。当時の不適切な判断で甲状腺がんになるならば、本人の責任も大きい。自らの政治責任をどう考えているのか」と語っている。その通りだろう。

原子力問題では、以前から、事実やデータをより、恐怖など感情に基づく議論が行われがちだった。東電の福島原発事故以降5年ほどは、パニックと呼べるような感情的な議論が行われ、さらに事実や科学的知見が省みられなかった。それが福島の復興、放射能防護、エネルギー政策全般に影を落とした。科学的に許容されるべき限度より過剰な対策や原発ゼロなどの対応が行われた。そうした日本政府の意思決定の問題点を放置したまま現在に至っている。

元首相らがこのような文章に署名し、世界に誤った情報を拡散しようとしているのは、明らかにおかしい。そして彼らが、首相という重要な職務を、必要最小限の科学的知識もなく遂行していたことを示すものだ。暗澹たる思いにとらわれる。特に菅直人氏は今でも現職の衆議院議員だが、最近、維新の政治家らを「ヒトラー」などと発言した。発言と行動が過激になっているが、政策づくりなどの政治的な実績は最近ほとんどない。目立ちたいのだろうか。しかし、国民には迷惑だ。

救いは、ネット上を見ると、彼ら5人を擁護する声がほとんどなく、「おかしい」との批判一色である点だ。原発事故、原子力とエネルギーを見ると、世論の大勢はおちつき、合理的判断を下せるようになっているようだ。