主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境大臣会合が4月15、16両日、札幌市で開かれた。脱炭素とエネルギー安全保障を両立させる「現実的なエネルギー移行」が焦点となる中、西村康稔経済産業相は会合後の共同会見で、①多様な道筋の下で共同のゴールを目指す、②グローバルサウス(途上国)との連携、③地政学リスクに対応――の三点について合意できたと語った。共同声明では、さまざまな分野で「現実路線」への軌道修正が図られた。項目別に解説する。

石炭火力の廃止期限は明示せず 処理水放出への理解は?
石炭火力
最も注目を集めたのが石炭火力の廃止期限を巡る問題だったが、昨年同様に明示を避け、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズアウトを再確認する形に収まっている。原発再稼働が進まない日本にとって、石炭火力の早期放棄は電気料金のさらなる上昇や供給安定性の低下につながる可能性が高い。一部の国からは、日本が作成した共同声明の初期草案段階から廃止期限の不明示について懸念の声があったとされるが、振り切った格好だ。2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することへの関与も再確認した。
原子力
昨年の共同声明から記述量が倍増した。革新炉開発や強靭なサプライチェーンの構築、技術や人材の維持・強化が明記され、力強い内容となっている。しかし会合の数日前、「脱原発」を完了したドイツの影響もあり、共同声明の主語が「われわれ(We)」ではなく、「原子力エネルギーの使用を選択する国々(Those countries that opt to use nuclear energy)」となっている点は要注目だ。同会合に合わせて国際原子力フォーラムも開かれ、G7閣僚からは西村経産相のほかに米国、英国、フランス、カナダの担当閣僚が参加。ウランをはじめとする「原子燃料分野のロシア依存低減」などが合意され、G7共同声明にも盛り込まれた。
福島第一原発
「福島第一原発の事後対応」についての項目が加えられた。今夏以降に予定する処理水放出を巡っては、国際原子力機関(IAEA)による独立したレビューが支持された。レビューは夏前に包括報告書が提出される予定で、放出前にG7の支持を得られた意義は大きい。廃炉作業については、科学的根拠に基づいて日本の透明性のある取り組みを歓迎するとした。日独伊の閣僚が参加した会合後の共同記者会見では、こんな一幕があった。西村経産相が「“処理水の海洋放出を含む”廃炉の着実な進展、科学的根拠に基づくわが国の透明性のある取り組みが歓迎される」と説明した後、ドイツのレムケ環境相が「処理水の放出は歓迎できない」と反発したのだ。日本の取り組みが歓迎されたのは、あくまで「廃炉作業」であり、処理水放出についてはIAEAレビューを支持したという趣旨だったようだ。西村経産相は会見後、記者団に対して「言い間違い」を認めたが、ヒヤッとする場面だった。
「現実路線」でガス投資の必要性明記 合成燃料にも言及
天然ガス・LNG
エネルギー価格の高騰とインフレが特にグローバルサウスへの悪影響を及ぼしていることに触れ、将来のガス不足を防止する観点から、気候目標に反しない形での投資の必要性が明記された。石炭火力の休廃止が進む中で、化石燃料の中でCO2排出量が最も少ないLNGは「トランジション・エネルギー」としても重要だ。日本が支持を求めたとみられ、現実解の一つといえる。
水素・アンモニア
電力部門の脱炭素化に資する点が明記された。日本は昨年、アジア各国の脱炭素化を推進する理念を共有し、協力する「アジア・ゼロエミッション共同体構想(AZEC)」を提唱。水素サプライチェーンの共同開発や水素・アンモニア混焼などによる低炭素化に貢献する。共同声明ではこれらを念頭に、電力部門で水素とその派生物(アンモニアなど)の使用を検討する国についても触れた。水素・アンモニア混焼など日本のGX戦略は“石炭火力の延命策”との批判もあるが、「現実的なエネルギー移行」として推し進めていく。
自動車
米英などが電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車について、市場シェアや販売台数などの数値目標の明記を求めていた。しかし共同声明では、35年までにCO2排出量50%削減(2000年比)の可能性に留意という表現でとどめた。同分野では水素、合成、バイオなど脱炭素燃料についての言及もあり、合成燃料で走るエンジン車に限り35年以降も新車販売を認める欧州連合(EU)の方針と歩調を合わせた格好だ。ハイブリッド車(HV)とEVの“二正面作戦”を展開する日本にとって追い風となりそうだ。
再生可能エネルギー
30年までに洋上風力の容量を15GW、太陽光発電の容量を1TW以上増加させる数値目標を盛り込み、再エネ導入拡大とコスト引き下げに貢献することを明記。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、波力発電など革新的技術の開発を推進するほか、系統増強や蓄電池運用の近代化、需要側のマネジメントなどシステムの柔軟性を着実に向上させていくとした。
急進的な脱炭素化に歯止め 国情に応じた取り組みに理解
共同声明ではさまざまな項目で定量目標を設けず、多様な選択肢を追求する姿勢が目立った。開会挨拶で西村経産相が「これまでに経験したことのない不安定なエネルギー市場、サプライチェーンの脆弱化といった課題に直面している」と語ったように、厳しい現実を前にして脱炭素化への急進的な動きに歯止めがかけられたといえる。また脱炭素という「ゴール」は共通だが、「アプローチ」は各国の国情に応じて多様であると強調された点も意義がある。本会合が9月のG20首脳会議、年末の温暖化防止国際会議・COP28にどのような影響を与えるか注目だ。