東京都の小池百合子知事が意欲を示す新築住宅への太陽光パネル設置義務付けを巡り、義務化に反対するキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏らが12月6日、記者会見を行った。杉山氏は国民負担の増加や人権侵害、強制労働が疑われる中国製パネルの使用に懸念を示し、義務化の撤回を求めた。一方で条例義務化を求める東京大学大学院の前真之准教授らも同じ日に会見を行い、電気代価格引き下げに太陽光発電が寄与するとして、導入推進を呼びかけた。

杉山氏「人権、経済、防災で問題」
反対派の会見には、杉山氏のほか、常葉大学名誉教授の山本隆三氏、東京大学公共政策大学院特任教授の有馬純氏、全国再エネ問題連絡会共同代表の山口雅之氏、東京都議の上田令子氏らが出席。杉山氏は会見で「義務化には人権、経済、防災の3点で問題がある。9月に反対請願を提出したが、都から誠意ある回答は得られなかった」と苦言を呈した。また山口氏は、再エネ賦課金や託送料金など国民全般の電気料金が設置義務化の原資になっていると指摘。山本氏も「東京都の政策によって東京都以外の住民の負担が増える、こういう政策をやっていいのか」と述べ、一部の都民が価格の恩恵を受ける構造と負担格差の拡大に警鐘を鳴らした。
さらに、会見では新疆ウイグル自治区での強制労働が疑われる中国製パネルの輸入も問題視。有馬氏は「太陽光パネル義務付けとなった際、最も利益を得るのは中国。温暖化防止やウクライナ侵攻問題を自国の都合の良いように活用している」とパネル導入による地政学的リスクを訴えた。そのほか、大規模水害でパネル水没した際の感電事故の危険性や、世界平均気温1.5度目標に対するパネル設置効果への疑問などが提起された。
前准教授「義務化は電気代の負担軽減に」
これに対し、同日午後に条例義務化を求める前氏や一般社団法人「太陽光発電協会」らが会見。前氏は「燃料高騰による電気代上昇の中、電気代を安くできる確立された技術は、①断熱・気密、②高効率設備、③太陽光発電の三つだけ」だと述べ、義務化は電気代の都民負担軽減につながると主張した。
負担格差の拡大については「固定価格買い取り制度(FIT)の価格下落に加え、賦課金も近くピークアウトが予想される」と分析。太陽光導入で昼間の電力コストが軽減し、国民全体に恩恵をもたらすと話した。また「誘導策だけでは停滞が顕著だ。事業者への設置義務によって市場の競争原理が働き、太陽光をリーズナブルに導入できる」と義務化のメリットを説明した。その上で「条例案には設置が難しい、日照条件が悪い建物は除外できるなど、さまざまな配慮がある」としながら、「いま取り組むべきは『ほぼゼロリスク』をことさらに吹聴し不安をあおり、普及を阻害することではない」と義務化反対の風潮にくぎを刺した。
小池知事は急激にトーンダウン
賛成派と反対派との議論が活発化する中で、旗振り役だったはずの小池百合子都知事は急激にトーンを落としている。9月の都議会の所信表明では「新築住宅への義務化の動きは、国際社会の潮流だ」と話していた小池都知事だが、12月の記者会見では太陽光発電普及について「最新技術の開発促進などをはじめとする情報発信、人権尊重などSDGsに配慮した事業活動に関する取り組みなどについても協力して進めていく」と批判に配慮した発言にとどまっている。
設置義務化の反対署名活動を行ってきた上田都議は「小池知事はこんなに(反対派から)やり玉に挙げられるとは思っていなかったはず」だと話す。さらに「今回の件は政府や国に先駆けたい小池百合子都知事のパフォーマンスの一環ではないか」との見方も示している。上田令子都議らは会見終了後、反対運動に署名した5778筆を都の担当者に手渡した。