【記者通信/11月5日】日本のLNG調達価格がアジア最安に 長期契約主体が奏功


日本の大手エネルギー会社が産ガス国と結んでいる長期契約がLNG調達価格の低廉化に大きく寄与している実態が、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の月次レポートから浮かび上がった。

それによると、今年9月の日本平均LNG輸入価格は100万BTU当たり10.75ドルと、北東アジア地域で最も安くなった。調達先(地域)の内訳を安い順に見てみると、中東産10.45ドル、ASEAN産10.81ドル、米国産11.19ドル、ロシア産11.38ドル。これら輸入量の大部分を、原油価格リンクの長期契約が占めているのだ。

LNGのスポット価格は9月から10月にかけ、世界的な乱高下に直面した。米国のスポットガス価格(HH)は、9月下旬に5.8ドルに達し、10月下旬に6.3ドル台まで上昇した後、月末にかけて5ドル前後で推移。昨年同時期の2倍近い水準だ。欧州のガススポット価格(TTF)は、10月上旬に一時38ドル(瞬間値で54ドル)まで上昇し、月末は30ドル前後で推移している。

日本平均価格は10.75ドル JKMは35ドル前後

こうした中、北東アジアのスポットLNG価格(JKM)の値動きを見ると、9月末に30ドル台で推移していたのが、TTFが高騰した10月上旬に一時56ドルまで急騰。その後は一転35ドル台に急落し、月末にかけては35ドルを下回る水準で推移している。レポートは、「冬季に向けて北東アジア地域や欧州地域など世界的に天然ガス・LNG需要が高まっていることに加えて、欧州の再生可能エネルギー由来の電力不足やロシアガスパイプライン懸念なども重なり、欧州ガス価格が押し上げられたことがJKM高騰の要因」と分析している。

スポット比率が比較的高い中国の9月平均輸入価格は11.61ドル。ちなみに台湾は11.38ドルで、韓国は11.00ドルだ。日本の10.75ドルの安さが際立っていることが分かる。しかも欧州各国がLNG調達を長期契約からスポット中心に移行したことで、現在の価格高騰にあえいでいる状況と比べれば、雲泥の差だ。

「長期契約が主流の日本では、価格、量ともに安定しているため、スポット市場の動向に一喜一憂しないで済むことは大きなメリットだ。昨年は大手電力会社がLNGの在庫を絞っていたところに、突然の大寒波が到来したことで需給がひっ迫したが、今年はその反省に加えて、経産省による在庫監視もあることから、よほどのことがない限り、国内でLNGの需給がひっ迫するような事態にはならないだろう」(大手都市ガス関係者)

そんな日本でも、過去を振り返れば、スポットが割安な時期に長期契約の弊害が指摘され、一部の学識者を中心に「スポット比率を増やして、調達の柔軟性を高めるべきだ」との議論が巻き起こったこともある。いずれスポット市場が沈静化し長期契約分と価格が逆転すれば、そうした論調が再燃しないとも限らない。電源構成同様、LNG調達においても「ベストミックス」が大切なのだ。

【記者通信/11月5日】COP26で醸成される「脱石炭」機運 移行期の議論抜け落ちに懸念


1年越しの開催となった温暖化防止国際会議・COP26。序盤から、議長国の英国が求めていた「石炭火力の廃止」について、46カ国・地域が合意するといった動きがあった。ただ、日本、米国、中国などはこれに加わらず、一線を画している。世界的な化石燃料価格高騰に伴う欧州や中国でのエネルギー危機に直面しながらも、COPでは引き続き「気候危機」回避に向けた崇高な目標を掲げるだけの議論に終始してしまうのか。

COP26は英国グラスゴーで10月31日に開幕し、11月12日まで開催される予定。今回は、会議全体の機運を醸成する狙いで開幕直後の1~2日に首脳級会合を開き、就任後初の外遊となった岸田文雄首相も出席した。ただ、最大排出国である中国の習近平国家主席は参加しなかった。

岸田首相はスピーチで、アジア地域のクリーンエネルギー転換を支援する方針を強調。再生可能エネルギーは最大限導入しながらも、「アジアにおける再エネ導入は、太陽光が主体となることが多く、周波数の安定管理のため、既存の火力発電をゼロエミッション化し、活用することも必要だ」と主張。日ASEANビジネスウィークで設立を発表した「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、アンモニアや水素などを活用したゼロエミッション火力に転換するための先導的な事業を展開することや、アジアの脱炭素化支援のために、新たに5年間で最大100億ドルの追加支援を行うと表明した。

石炭廃止に新たに23カ国がコミット 日米中豪印は加わらず 

英国は、首脳級会合以降、「エネルギーデー」や「運輸デー」など分野ごとの日程を設定し、それぞれで高いビジョンにコミットする「有志国連合」を作り、さらに機運を高めていきたい考え。また、こうした動きを最終的にCOP全体の決定に反映させ、気候変動対策の前進を図る意向だ。

そして4日の「エネルギーデー」に発表されたのが、46カ国・地域の「石炭火力廃止宣言」だった。先進国は30年代、途上国は40年代までに、石炭火力の建設や新規投資を停止するという内容。これに、既に石炭火力全廃を宣言している英国やフランスなどに加え、ポーランドやベトナム、チリ、スペイン、韓国など23カ国が新たにコミットした。COP26のシャルマ議長は「この会議は石炭を過去の遺物とするものだ。石炭火力の終わりは目前に迫っている」などと強調した。

ただ、欧州で脱石炭が進んでいるのは、気候変動対策ではなく、あくまで経済性に起因した現象。採炭条件の悪化で発電用燃料を国内炭から輸入炭に切り替えたものの、内陸部にある発電所への輸送費がかさんだり、発電所が老朽化したり、といった事情を抱えた結果の判断だった。

一方、日本や米国、中国、オーストラリア、インドなどは、この宣言に加わらなかった。中国、インド、豪州の不参加は当然としても、バイデン政権下で気候変動問題のリーダーシップを取り戻そうとし、国内では天然ガスの競争力に押されて石炭産業が衰退している米国が参加しなかったことは、注目すべきだろう。

欧州や中国が直面する 現実的な移行の難しさ

日本としても、岸田首相が主張した通り、アジア全体のエネルギー転換には調整力としての火力の活用が不可欠で、石炭火力というオプションの放棄も決断できない。国内においても、昨冬のLNG不足に伴う電力需給ひっ迫危機を経験した以上、やはりエネルギーのベストミックスなしに万全な安定供給体制の確立は難しい現実が改めて突き付けられた。

欧州や中国などもエネルギー危機を経験し、現実的なトランジションの難しさに直面している。ガス価格の歴史的な高騰を記録した欧州では、COP直前に開かれたEU首脳会議で、急進的な脱炭素政策に対して「ユートピア的幻想がわれわれを死に至らしめる」(ハンガリーのオルバン首相)などの批判が噴出していた。

日本は今回のCOPで、イノベーションやトランジションの重要性を引き続き発信する方針だが、「気候危機」を声高に主張する国々に、こうした現実論がどこまで受け入れられるのだろうか。

【記者通信/11月2日】原子力立て直しなるか!? 「クリーンエネ戦略」議論開始へ


「2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向け、温暖化対策を成長につなげる『クリーンエネルギー戦略』を策定し、強力に推進します」

岸田文雄首相が10月8日の国会所信表明で言及した「クリーンエネルギー戦略」の策定に向けた議論が、いよいよ動き出す。関係者によれば、「第六次エネルギー基本計画」を踏まえ、現実的なCN社会の実現に向けた政策の展開、とりわけ再生可能エネルギーの大量導入などによって上昇するエネルギーコストへの対応策が検討の柱になるとみられる。

本誌が独自に入手した論点の資料を見ると、第六次エネ基の「再エネ最優先・最大限の導入」とは一線を画す検討課題が列挙されている。中でも注目は、供給サイドの取り組みとして、「ユーザーサイドのニーズに対応するためのエネルギーを安定的かつ安価に供給するための具体的な対応策を示す必要」を課題提起している点だ。

既存原発の徹底活用策を検討

その上で、処方箋として、①安定供給の確保、②次世代エネルギーの現実的な導入策、③移行期における化石燃料確保――を挙げた。興味深いのは①で、具体的な対策として「電力自由化と脱炭素化が進む中で、安定的な電力を確保するために必要な措置」「原子力は既存設備の徹底活用の方策(長期運転問題、再稼働の徹底推進)」「再エネはPPAの導入拡大を推進。一方で、安い再エネの量拡大の限界を示し、今後の量的拡大に向けての方策(蓄電池の国産化など)」を例示している。

「グリーンエネルギーではなく、クリーンエネルギーとしているのが隠れたポイントだ。政府はこの戦略の中で、東日本大震災から10年近く停滞してきた原子力政策を抜本的に立て直すことを狙っている。年内に論点を洗い出した上で、議論を深掘りし、来年夏までに報告書を取りまとめる方向だ。おそらく政府は、今次エネ基見直しで出来なかったことを、このクリーン戦略でやるつもりだろう」(エネルギー政策事情通)

衆院選が終わり、自公連立による安定的な政権運営が約束された中で、脱炭素化と安定供給確保の要請に応える原子力政策を再構築することができるのか。第二次岸田政権の手腕が試される。

【目安箱/11月2日】「おいしい北海道のコメ」だけではない、温暖化のプラス面


◆麻生氏の失言、正しい面もある

自民党の麻生太郎副総裁が、また失言をした。麻生氏は10月25日の衆議院議員選挙の北海道小樽市での応援演説で、「北海道のコメは温暖化でおいしくなった」と発言。さっそく野党が批判し、岸田文雄首相・自民党総裁が、それを謝罪する騒ぎになった。

ところが調べてみると、この発言は、すべてを説明するわけではないが、間違ってはいない。北海道産米の評判は以前より向上し、人気が出ている。1980年代後半から北海度の販売奨励品種「きらら397」の栽培が増え、近年は「ななつぼし」「ゆめぴりか」等の、味の面で評価の高い新品種のコメが流通している。味の改善は品種改良の影響が大きい。

ただし、こうした新品種は、北海道の気温の上昇に適合したものだ。そして温暖化によってコメの味が向上することが見込まれると解説する専門家もいる。(北海道立総合研究機構「地球温暖化は北海道の農作物にどう影響するか」)

麻生氏は、温暖化・気候変動のマイナス面も言うべきだし、北海道の農家の努力にも言及してほしかった。さらに選挙中に批判を受ける行為をするのは、愚かな行為だろう。しかし実際には、気候変動は、麻生氏の指摘通り人間社会にプラス面を含めたさまざまな影響を与えている。この失言騒動をきっかけにして、農業や生活、生態系をめぐる気候変動・温暖化の影響を確認してみよう。

その1・温暖化は植物の活動を促進させる

温暖化は植物の生育を促進する。気温の上昇、植物の光合成をもたらす二酸化炭素の増加によるものだ。欧米の気候変動をめぐる議論では、「Global Greening」(世界の緑化)という言葉がある。

2017年の米カリフォルニア大の研究では、産業革命前より今の方が、世界の植物の合計で、光合成により31%も二酸化炭素を吸収して有機物に変換した量が増えているという推計が出ている。これは植林による森林の増加に加えて、前述の理由によるものだ。

ただし、この研究チームのエリオット・キャンベル同大教授は、温暖化懐疑論者・批判論者に自分の研究が使われていることを懸念している。光合成の量が増えたからと言って、温暖化が生態系の維持や食物増産に役立つわけではないと強調している。(ニューヨークタイムス2018年7月30日記事「Global Greening’ Sounds Good. In the Long Run, It’s Terrible」「素晴らしく聞こえる世界の緑化」「長い目で見ると怖い話」)

その2・農業生産では悪影響だけではない地域もある

世界の農業生産は気候変動によって総じて悪影響を受ける。特に熱帯地域は、過剰な気温上昇、水資源の減少によって悪影響が多い地域が目立つ。一方で、温帯地域では気温上昇で、農作物は増産し、影響は限定的とみられる地域もある。

以下はOECDの2016年発表のリポートの図だ。赤い部分が2050年までに温暖化で農業生産の減る地域、青い部分が増える地域だ。日本は農業生産が0~15%増える地域である。

この日本が穀物・食物を輸入する、北米、南米、アジアの多くで食料生産に悪影響を与えるところは多い。それによる悪影響は警戒しなければならない。しかし温暖化の影響は、マイナスばかりではなく、さまざまな形で進むことを示す地図であろう。

その3・寒さによる健康への悪影響は減る

健康では温暖化がプラスになる場合もある。英医学誌ランセットは、気候変動と健康をめぐる国際共同研究を2021年に公開した。(記事)

この研究では、世界で2000~2019年の地球の平均気温と超過死亡の関連を調査した。このうち寒さによる超過の死者は459万人、暑さによる死者は49万人で、調査地点での平均気温は10年ごとに0.26度上昇した。「地球温暖化が、気温に関係する死者をわずかに、減少させる可能性がある」としている。

4・地域によって温暖化の被害は違う

P C C(気候変動に関する政府間パネル)は、毎回の報告で気候変動の被害は温帯、亜寒帯にある国よりも、熱帯付近の国に集中し、温帯の影響は限られると、第3次評価報告書(2001年)の政策決定者向け報告で指摘していた。第4次(2007年)、第5次報告(2014年)では消えている。これは国際世論に配慮して、政治的な論争を避けるために外した可能性がある。

報道ベースだが、確かに温暖化をめぐる日本の影響は、他国に比べて小さいように感じる。筆者の気候をめぐる印象だが、体感温度は上がり、周囲の生態系は10年前、20年前などと比べ、夏が暑くなったり、冬の訪れが遅れたりするなど、微妙に変化しているように見えるが、それで人生が大きく変わったほどでもない。これは多くの日本に住む人に共通する感想だろう。

◆「ガラパゴス」日本ゆえのメリットを活かす

こうした情報を整理すると、植物の育成や人間の健康などの面で、気候変動は総じて悪影響が多いものの、「地球が滅びる」かのような過激な未来は起こらなさそうだ。気温上昇は生活にプラスになることもあり、気候変動はさまざまな影響を与えながら進行している。

しかし恐怖をあおる情報ばかりが、気候変動問題は拡散している。特に、西欧、北欧のメディア、政治家・政治活動家、有識者の発信する情報が過激になっている印象だ。例えば、スウェーデンの環境活動家の少女グレタ・トゥーンベリさんの過激なパフォーマンスと、地球が滅びるかのような主張が、これら地域の一部の人々にもてはやされている。

日本は、良くも悪くも、欧米の政治・社会議論のトピックから遅れている、もしくは隔離され流行しないという「ガラパゴス」の面がある。気候変動をめぐる欧州の奇妙な熱狂は日本にはない。有識者とメディアの勉強不足と世論の関心の低さから伝わっていない。グレタさんの姿も、違和感を述べる意見が目立つ。これは今の状況では逆にメリットではないだろうか。

筆者は気候変動で、いわゆる陰謀論、懐疑論を唱えるつもりはない。人為的な温室効果ガスの排出増大の影響で、世界の気温は上昇すると思う。しかし、そこから発生するデメリット、メリットを考え、その対策のお金や手間のコストを同時に考え、それぞれを比較して、社会と個人の利益を最大限にするべきと思う。

麻生氏は深く考えて、失言をしたのではないだろう。しかし、その議論をきっかけに、気候変動・温暖化問題、いやそれ以外の社会問題でも、「世界は滅びる」式の過激な議論を信じるのではなく、本当のところはどうなのかと確認する習慣が広がればいいと考えている。今は過激な議論に引っ張られる可能性が出ているためだ。

物理学者のマリー・キューリー(1867—1934)の言葉を思い出す。

「人生において怖れることは何もない。ただ理解すべきことがあるだけだ」。

恐怖や感情の影響で、物事の真実をゆがんで受け止めることは危険ということを、キューリーは言いたかったのかもしれない。それは気候変動問題でもあてはまる。

【特集1】エネルギー政策通がそろった岸田政権 原子力の長期低迷を打破できるか


10月4日に発足した岸田政権では、甘利明幹事長を筆頭に党内きってのエネルギー政策通が顔をそろえた。
「経産内閣復活」の呼び声も高い中、震災以来の長期低迷が続く原子力政策を立て直すことができるのか。

「今こそわが国も、新しい資本主義を発動し、実現していこうではありませんか」

岸田文雄首相は10月8日に開かれた国会の所信表明演説で、9月の総裁選から訴え続けてきた「新資本主義」を目指す経済政策を声高らかにぶち上げた。この「キシダノミクス」の中核をなすのが「成長と分配の好循環」だ。

実はこの目玉政策、経済産業省の産業構造審議会でいち早く議論されていたものだ。経産省事務局が6月4日会合で提示した二つの資料がある。一つは『経済産業政策の新機軸』。コロナ禍の欧米や中国で大規模な財政支出を伴う新産業政策が台頭している状況を紹介しながら、日本での「産業政策の新機軸」を提唱。8月23日公表のアップデート版には「コロナを経た新たな資本主義の追求の動き」という文言が盛り込まれた。また『今後に向けた大きな方向性(案)』では、①経済×環境の好循環、②経済×安保の同時実現、③経済×分配=包摂的成長、④デジタル前提の経済・社会運営―を明記。これは、経産省の来年度予算要求の土台になっている。

「菅政権時代、河野太郎(前規制改革相)、小泉進次郎(環境相)の両氏に煮え湯を飲まされてきた経産省の幹部は、先の総裁選で一致団結して岸田氏を応援した。その甲斐あってか、岸田政権下では経産官僚が再び台頭する格好になった。新たな資本主義、成長と分配といったキシダノミクスのキーワードはその象徴といえる」(大手エネルギー会社幹部)

新政権で注目の官邸人事 幹部議員は原子力政策通

注目は官邸サイドの人事だ。安倍政権時代の首相秘書官だった今井尚哉氏が前政権に引き続き内閣官房参与で留任したほか、首相秘書官には今井氏と同期で元経産事務次官の嶋田隆氏と、菅前首相の信頼が厚い前商務情報政策局長の荒井勝喜氏の二人が就いた。

その上で岸田政権の陣容に目を向けると、経産官僚と太いパイプを持つ有力議員が顔をそろえる。筆頭格は経産相や経済再生相を歴任した甘利明幹事長だ。また高市早苗政調会長、山際大志郎経済財政相は経産副大臣を経験。この3氏はエネルギー、とりわけ原子力政策に造詣が深いことで知られる。

「(2030年度温暖化ガス削減目標は)安全が確認された原発30基の再稼働が前提。今は9基しか動いていないのでこれをどうするかだ」「全電源が途絶えても自分で冷却できる仕組みのSMR(小型モジュール原子炉)に入れ替えていく必要がある」――。

10月17日、NHK「日曜討論」に出演した甘利氏は、脱炭素化の観点から原子力政策の重要性を訴えた。エネルギー基本計画のベースとなっている「エネルギー政策基本法」制定に携わるなど、党を代表するエネ政策通だけに、業界からの期待も高い。

高市氏のスタンスも同様だ。先の総裁選では、討論会や記者会見でエネルギー政策が話題に上るたび、「SMRの地下立地」や「国産技術による核融合炉開発」の必要性を強調。原子力推進の旗幟を鮮明にしている。

麻生派で甘利氏に近い山際氏も原子力推進派だ。党の総合エネルギー戦略調査会事務局長として、今般のエネ基見直しに尽力。当初は「原発の新増設・リプレース」を計画に盛り込むべく奔走したものの、公明党や河野―小泉ラインの反発により断念。代わりに「必要な規模の持続的活用」を入れ込んだ立役者である。

次はクリーンエネ戦略 原子力低迷の打破なるか

所管省庁の萩生田光一経産相は、どうか。通商政策の手腕は未知数な半面、文部科学相を務めた経験から、使用済み核燃料問題や高速炉など原子力技術開発に知見を持つ。就任後初の会見では原発再稼働に加え、核燃料サイクル・再処理路線の必要性に言及した。

COP26(温暖化防止国際会議)開催を控えた10月22日、第六次エネ基が閣議決定された。書きぶりを巡って紆余曲折があったものの、おおむね原案通りの内容だ。これにより次なる政策課題は、岸田首相が所信表明で言及した「クリーンエネルギー戦略」に移る。関係者によれば、原子力政策の長期低迷を打破し脱炭素電源として前進させることが大きな狙いの一つ。その意味で、日曜討論での甘利発言は実に示唆的といえる。

しかし依然として原子力の前途は多難だ。立法府では多くの政党が相変わらずの脱原発路線。衆院選公約を見ても、最大野党の立憲民主党が「50年自然エネ100%」を打ち出したほか、共産党や社民党、れいわ新選組が「即時」か「速やかな」原発ゼロを掲げた。与党の公明党でさえ「原発ゼロ社会を目指す」構えだ。一方で国民民主党が「既存原発の活用」、日本維新の会が「次世代炉の研究」を挙げている点は要注目だ。

果たして有権者の審判を経た岸田政権は、原子力政策の立て直しに向け、どんな一手を打ってくるのか。司令塔の甘利氏が過去の金銭授受問題を巡る逆風にさらされる中で、今後の政策動向にエネルギー業界の視線が集まる。

【目安箱/10月14日】選挙で忘れられた、原子力立地地域の苦悩を知ろう


2021年に衆議院選挙が行われる。原子力は論点の一つだが、それをめぐる議論で忘れられがちな問題がある。原子力施設の立地地域の問題だ。この地域の人々は国と事業者による原子力政策に協力してきたのに、原子力発電所の長期停止で経済的な利益が失われ、原子力の先行きが不透明になっているために地域の未来が見通せない状況にある。

筆者は首都圏に住むエネルギーの関係者で、立地地域の声を伝える事がふさわしい立場なのかの思いはあるが、誰もその声を伝えないのでこのコラムで紹介してみたい。

◆届かない原子力立地地域70万人の声

「原子力立地地域に住む人は全人口の0.6%、70万人。その声は社会になかなか届かない」。ある立地する町の町議会議長が語っていた。全国原子力発電所所在市町村協議会の24市町村と準会員6市町村(近接地域も含む)の自治体の人口だ。

日本全体から見ると少ないかもしれないが、70万人というのは大変な数の人だと思う。社会的に人気のない原子力施設と、それらの人々が共存して暮らし、日本の電力を支えてきた。これは、その他の地域に住む99%の日本国民が重く受け止めるべき事実だ。

原子力施設の今ある場所では、主に1970年代から始まる長い地域内での議論の末に原子力施設を受け入れた。そうした場所を報じるメディアで登場する人は、なぜか原子力の反対派ばかりだが、それは少数派だ。多くの場所では、地域の人々は合意の上に原子力を受け入れ、共存している。当然、官民による教育や、施設が身近にあることで肌感覚もあり、住民は原子力の知識があり、落ち着いてそれに向き合っている。こうした地域では2011年の東京電力の原発事故以降に、日本各地でみられた原子力への事実に反する風評の流布も、パニックもなかった。

こうした場所の多くは、原子力発電所と経済的に密接に結びついている。原発は、巨大な電気を作る工場で、そこで何千人もの人が関連企業を含めて働く。地元には雇用の恩恵があるし、発電所に関係した経済活動が行われる。東電の事故以降、そういう経済活動を「利権」とレッテルを張り、糾弾する政治活動家がいた。しかし筆者は不快に思った。部外者がそのような営みを批判できる資格はないはずだ。

原子力を巡って、おかしなお金の動きはあったかもしれない。2018年に発覚した福井県高浜町の元助役が関西電力幹部に金をばらまいていた事例はその一例だ。しかし地元住民はそうしたおかしな動きとは縁がない。原子力施設が地元にある意味を真剣に考え、地域のために、自分の利益のためにと思って、その誘致を受け入れた。原子力を巡る賛否を言うのは自由だが、その発言をする場合には立地地域の人々のことを真剣に考えるべきだ。

残念ながら、原子力全廃を唱える人からは、原子力立地地域の経済活動への配慮で、適切な政策を聞いたことはない。

◆地元の声を聞かない反原発運動

立地地域の人々も、他所からの無責任な発言に冷ややかだ。かつて筆者は、茨城県の原子力施設の近くの旅館経営者が、今から40年ほど前のその地元での反原発運動を次のように語っていた。「原子力反対を叫ぶ人が、勝手に東京から来て、勝手に騒ぎ、勝手に帰っていった。私たちの意見を聞き、話をすることもなかった」。こんな調子の自分勝手な反原発運動は、立地地域の人の心をとらえることはなかった。

今回の自民党総裁選では、河野太郎氏が脱原発と、核燃料サイクルを止めることを強く訴えていた。「核燃料サイクルが止まるということは、使用済核燃料が原子力発電所内にとどまること。私たちとしてはリスクがそのままになるということ。軽々しく言ってほしくない」と福井県の立地町の地方議会議長が、9月に行われたシンポジウムで話していた。そして河野さんの脱原発の主張を、「不安に思っている。私たちの未来はどうなるのか」と述べていた。当然の心配だ。

原発の立地は商業用原発で13道県になる。この前の自民党総裁選では、そこから出ている国会議員票と地元県連票はほぼ河野太郎氏に投票しなかった。原子力立地地域への対応策を出さなかった以上、河野氏のこの選挙での敗北は当然だったかもしれない。

◆原子力立地地域のことを忘れたままでいいのか?

2021年秋に衆議院選挙が行われる。自民党は菅政権における河野・小泉の過激な環境政策を、岸田新政権では採用しない。岸田政権も多くの議論も、エネルギー・環境ではなく「分配」「新型コロナ」を選挙の論点にしようとしているらしい。

そして立憲民主党の原子力への議論は、過激なものではなくなった。同党は五月雨式に政策を打ち出したが、エネルギーの発表は第7番目。明らかに熱意がない。そして表題を「自然エネルギー立国の実現」とし、「原子力発電所のない社会」を目指すとしているが、即座の原発停止は訴えなかった。支援団体で企業労働組合の入る連合に配慮したのだろう。

2011年の東電の原発事故以来、年々関心の低下した原子力問題が、ようやく選挙で表に出てこない状況が生じた。世論や感情に振り回されたエネルギー、特に電力問題が落ち着いて議論ができる状況が生まれた。それは好ましいことだ。(筆者の記事【目安箱/8月18日】選挙に振り回されるエネルギー政策は問題だらけ

しかし原子力をめぐる状況は、東電の事故以来、混乱し壊れたまま、放置されている。そして世間の大半と国政政党から原子力は忘れられようとしている。それで取り残されるのは原子力立地地域の人たちだ。原子力を国策として進めた政府、原子力の賛否について熱く語った、そして今関心を失った日本の多くの人は、原子力施設の立地地域のことを、それをどう考えるのだろう。無責任すぎる。

もちろん各地域にある問題を国のみが解決できるわけではない。地方自治体、そして住民、地元企業の共同作業が必要だ。しかし原子力は、「国策民営」として、建設、運用の過程で国が大きな影響をしてきた事業だ。その国の政策変更で原発が止まり、原子力の未来が不透明になった。原子力災害に直面した福島県は復興という別の問題に取り組まなければならないが、その他の原子力立地地域を国が放置することはおかしい。

原子力発電所の運転停止や廃炉をめぐる支援の形、そして原子力の未来像は国しか示せない。もちろん原子力をめぐり、すぐに万人が納得できる答えが出るとは思えないが、原子力立地地域のことを多くの人が考えない状況は変わってほしい。

【記者通信/10月6日】資源暴騰の影響回避へ 「原発緊急再稼働」の政治判断を問う


世界的なエネルギー危機に発展していくのか。米ニューヨーク市場でエネルギー資源の先物価格が暴騰している。10月6日夕現在の取引価格をみると、原油が1バレル当たり78.9ドル、天然ガスが100万BTU当たり6.27ドル、石炭が1t当たり269.5ドルとなっている。特筆すべきは石炭だ。昨年の同時期は50ドル台で推移していたことを踏まえると、1年間で何と5倍近くも値上がっている状況だ。もちろん過去最高水準である。

脱炭素化を目指す世界的潮流から、本来なら石炭の需要が落ち込み価格も下落傾向にあっていいはずなのだが、現実は真逆。この背景には、コロナ禍の収束に伴う経済回復が想定を超えるスピードで進み、欧米、中国、インドなどでエネルギー需要が急拡大していることがある。

そうした状況下にもかかわらず、脱炭素化による資源開発投資の停滞などから供給不足が発生。また太陽光や風力など再生可能エネルギーへの依存度が高まる中で、「無風無光」という天候不順などから再エネ発電がうまく機能せず、火力発電への回帰現象が見られることも、価格暴騰に拍車を掛けていると見られる。需要期の冬場に向けては、さらなる需給ひっ迫・価格上昇も予想されることから、「天候次第では、わが国が今年の冬を上回る電力危機に見舞われる可能性も否定できない」(中堅新電力幹部)。

こうしたエネルギー緊急事態ともいえる情勢の中で、エネルギー関係者の一部から聞こえ始めているのが、「原子力発電所の緊急再稼働」という奥手の政治判断の発動だ。「原子力規制委員会の適合性審査にすでに合格しながらも、地元同意など手続き上の問題からまだ稼働していない原発。足元の有事に対応するため、政治判断による特例措置として緊急的に動かすべきではないか」。某エネルギー会社の幹部はこう指摘する。

有力候補は女川2号か 問われる岸田政権の英断

現在、審査に合格し未稼働の原発は、東北電力女川2号機、東京電力柏崎刈羽6号機・7号機、日本原子力発電東海第二、関西電力高浜1号機・2号機、中国電力島根2号機がある。このうち、まだ原発が1基も動いていない50Hz地域にあって、訴訟やテロ対策などの大きな問題を抱えていない女川2号が、まずは緊急再稼働の対象として考えられそうだ。

「今から取り急ぎ準備に入れば、最需要期の来年1~2月には間に合うのではないか」(前出幹部)。もちろん女川以外でも、動かせる原発は順次稼働させていくことが求められる。2012年4月、当時の野田佳彦政権は夏場の需給ひっ迫に対応するため、定期検査で停止中だった関電大飯3号機・4号機を政治判断で再稼働させた実績がある。当時と比べ再エネ依存度が飛躍的に高まっている現在、電力需給面の不安定さは9年前どころではないだろう。それは、英国や中国など世界各地で起きている異常事態を見れば明らかだ。

「ベースロード電源に厚みを持たせることが、不安定な再エネ電源リスクを回避するための有力な手段になる。石炭火力が燃料調達面で問題を抱えているのであれば、もはや頼りになるのは原子力しかない」(前出の新電力関係者)

岸田新政権は、国益を守るための政治判断に踏み切れるのか。「国民の声を聞く内閣」の手腕が問われる。

【記者通信/10月6日】小泉路線踏襲の山口環境相 「再エネ最優先」重ねて強調


小泉進次郎・前環境相が主張していた「再生可能エネルギーの最優先、最大限導入の原則」を継承する――。山口壮環境相は10月5日に行われた初の閣議後会見で、環境エネルギー政策について、こう繰り返し強調した。主な発言内容をざっと紹介する。

「行政にとって一番大事なことは継続だ。特に小泉前環境大臣は頑張ってやってこられたわけだから、その路線は踏襲する。2050年カーボンニュートラルとか、あるいは2030年度46%削減とか、(政府・与党において)きっちりした話が積み重なっているので、それを大事にしていきたい」

「原子力についても、党あるいは政府で相当きちっとした議論がなされている。(原発を)できるだけ低減させていくという一番のゴールはあるが、他方で、日本全体の声をよく聞いていきたい。小泉さんがやってきたことは原則引き継ぎながら、(産業界などの)いろんな声をよく聞いていきたい」

「(原発派)明日すぐになくせるわけではないし、廃炉にするにしても何十年もかかる。それに必要な体制も整備しておかなくてはならない。また小型炉など新しい原子力の形も出てきているようだから、科学的にどんな安全性が確保されているのかも含めて、いろいろ考えていく必要がある。(いずれにしても)原子力については長期的にできるだけ低減させていく中で、再エネの最大限導入を踏まえながら(政策を)考えていくのが正しいと思う」

「原発については、安全を最優先して、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する、ここに尽きる」

「再エネ最優先、最大限の導入を促して、結果として、石炭火力の依存度をできるだけ引き下げていくと、そんなふうに捉えている。だからこそ再エネ最優先、最大限導入を一生懸命やれば、そういう話になっていくのでは。結局、再エネ最優先、最大限の導入を徹底的にやっていくことに尽きる」

環境省優勢だったパワーバランスは逆転か

1時間弱に及んだ会見で、山口氏が訴えたのは「再エネの最優先・最大限の導入」「小泉氏が敷いた路線の継承」だ。萩生田光一・経済産業相が初会見で、エネルギー政策について「S+3E」の原則の重要性や核燃料サイクルの推進を強調したのとは、一線を画す内容といえよう。菅義偉・前政権下で鮮明化した環境省と経産省の対立構造は、岸田政権下ではややトーンダウンしながらも継続する公算が大きい。

とはいえ、環境省優勢だった両省間のパワーバランスは逆転する可能性が濃厚だ。「小泉氏は父・純一郎元首相の血を受け継ぎ、情報発信力の面で優れた手腕を発揮していたのに対し、山口氏は率直に言って地味。また小泉氏が頼りにしていた急進的再エネ推進派の河野太郎氏も、規制改革相から外れて閣外に去った。しかも岸田政権では、経産省とつながりの深い甘利明幹事長や高市早苗政調会長らが要職に就いている。今度は、経産省のプレゼンスが確実に高まるだろう」(永田町関係者)

いずれにしても、国家・国民の利益追求の観点から言えば、原子力、再エネにこだわらず、安価でクリーンなエネルギーが安定的に供給されることが何よりも重要。そのためには、両省がエネルギー政策での連携を強化することで、縦割り行政の弊害を可能な限りなくしていくことが不可欠だ。やはり「エネルギー省」の創設を考えるべき時が来たのかもしれない。

【記者通信/10月5日】萩生田経産相が原子力で持論展開 エネ基は月内閣議決定へ


萩生田光一経済産業相は10月5日、就任後初の閣議後会見を行い、経済産業政策における緊急重要課題として①コロナ禍で傷んだ日本経済の再興、②「S+3E」を大前提としたエネルギー政策の推進、③福島第1原発から出る処理水の海洋放出をはじめとした福島の復興――の3点を挙げるとともに、月内に第六次エネルギー基本計画の閣議決定を目指す考えを明らかにした。

萩生田氏は会見の冒頭、着任にあたって岸田文雄首相から「処理水の海洋放出に向けた万全の風評防止対策など、福島第1原発の廃炉、汚染水、処理水対策や、福島再生に全力を挙げて取り組むこと、(中略)エネルギーの安定供給に万全を期すとともに、2050年カーボンニュートラルを実現し、世界の脱炭素を主導するため、再エネの最大限の導入促進、省エネの推進、安全性が確認された原発の再稼働、新たなクリーンエネルギーへの投資支援に取り組むこと」などについて指示があったことを明かした。

その上で、まず福島復興について、「経産省の最重要課題。福島第1原発の廃炉は復興の大前提であり、中長期ロードマップに基づいて、東電任せにしないで、国が前面に立って安全かつ着実に進めていきたい」「処理水の処分では本年4月、厳格な安全性確保と風評対策の徹底を前提に海洋放出するとの基本方針を決定した。8月には、風評を生じさせないための当面の対策を取りまとめたところで、政府を挙げて理解醸成に取り組んでいく」「帰還困難区域に関しては、特定復興再生拠点区域の整備を行うとともに、拠点区域外についても、政府方針に基づき、帰還意向のある住民の方々全員が帰還できるように着実に進めていく」などと述べた。

またエネルギー政策については、「S+3Eを追求することが最重要課題だと考えている。その大前提のもと、2050年カーボンニュートラルや、2030年度の新たな削減目標の実現に向けて、日本の総力を挙げて取り組むことが必要だ。徹底した省エネ、再エネの最大限の導入、安全最優先での原発再稼働などを進めていく」と強調した。

使用済み核燃料の再処理路線を堅持

萩生田氏は、文部科学相や文部科学政務官を務めた経験から、使用済み核燃料の再処理や高レベル廃棄物の最終処分などの核燃料サイクル政策、高速炉などの原子力技術開発に関して、豊富な知見を持つ。会見では、わが国の原子力政策について次のような持論を展開した。

「立地地域の方々や国民の理解を得ながら、安全性を最優先として原子力発電所の再稼働を進める」「高レベル放射性廃棄物の減容化、有害度の低減、資源の有効利用の観点から、使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウムなどを有効利用することが政府の基本方針」「政府としては、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を堅持する方針。昨年12月には電気事業連合会がさらなるプルサーマルの推進を目指す方針を明らかにした。こうした方針に基づいて、プルサーマルを一層推進することで、プルトニウムの利用拡大が進むと考えている」「高速炉については、核燃料サイクルのメリットをより大きくすると認識しているので、わが国での研究開発、人材育成の取り組みが途絶えないよう、『常陽』の運転再開などに政府として取り組み、さらに米国やフランスなどの国際協力の下、高速炉の運転開始に向けた研究開発を着実に進めていくことが重要だと考えている」――。

先の総裁選では、立候補した河野太郎・前規制改革相が、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の中止などを理由に核燃料サイクル政策の見直しを提起したことで、電力業界に衝撃が走ったが、萩生田氏は「核燃料サイクルの推進」が政府の方針であり、自身としても「再処理路線」を堅持していく姿勢を改めて強調した格好だ。

萩生田氏は、第六次エネルギー基本計画の見通しにも言及。「政府内での協議を終え、与党の皆さんにもご理解を、ご了解をいただいた上で、ちょうど昨日までパブリックコメントを実施した。今後、意見の取り扱いを検討した上で、10月末から始まるCOP26(温暖化防止国際会議グラスゴー会合)に間に合うよう、閣議決定を目指していきたい。2030年度まで10年を切っている。早期に計画に実行できるように努力をしていきたい」との考えを示した。

【目安箱/10月1日】岸田新政権のエネルギー政策に「過激さ」消える期待


9月30日に自民党総裁選挙が行われ、岸田文雄氏が自民党の総裁に選ばれた。10月の国会で首相に選出される。近く行われる衆議院の選挙では、今の野党の低迷する状況では政権交代ともならず、岸田氏が首相を続けるだろう。

脱原発や核燃料サイクル否定など過激な政策を掲げた河野太郎氏が選ばれなかったことに、エネルギー・電力関係者には、ほっとする人も多そうだ。

エネルギー政策は安倍政権では経産省色の濃さ、菅政権での脱炭素の特徴があった。岸田政権では、どうなるのか。

勝手な推測で「床屋政談」だが、岸田政権のエネルギー政策を予想してみたい。結論を述べると、エネルギーをめぐる諸問題は「首相案件」とならず、菅政権の過激さは消えると筆者は推測をしている。

◆既存エネルギー企業に冷たい経産省と安倍政権

安倍政権では、安倍首相は政権内で経産官僚を側近とした。そのためか、経産省色が濃い政策をしてきた印象がある。特にエネルギー関係ではそうだ。「エネルギー自由化の推進」「原子力については原子力規制委員会に責任を負わせ、政権と経産省は傷を負わない形にする。しかし脱原発もしないあいまいな態度」「再エネは増加を煽る」「水素は応援」「重電プラントの輸出は促進する。特に原子力と石炭等の火力プラント」「福島事故問題は東電に責任と賠償を背負わせるが逃げ腰。東電国営化の諸問題は放置」「エネルギー、特に電力分野での新規参入企業への優遇」というものだ。

気候変動問題では、第一次政権で安倍首相は積極的だったが、第二次政権ではトーンダウンした。サミットや国際会議で、日本主導で何かをしようという意欲を見せなかった。これは京都議定書の義務達成に苦しんだ経産省の政策だ。

エネルギー外交では、LNG・石油供給は安倍外交の中でも重視された。政権中の2012年ごろからシェール革命が起きてエネルギー価格が下落する幸運も重なって、大きな問題は起きなかった。安倍首相は、外交政策では見事だった。

しかし、これらの政策は、既存エネルギー企業に負担を負わせ、原子力の衰退をもたらすものだった。自由化の混乱、電力を中心にしたエネルギー供給能力の低下、原子力の長期停止と電力会社の収益悪化は放置された。東電の経営問題も、巨額賠償を背負わせたままにしている。

菅政権は、安倍政権の路線を多くの点で継承した。しかし気候変動、脱炭素の問題では状況が変わった。菅首相は「2050年カーボンニュートラル宣言」を政権発足直後に行ない、脱炭素政策を推進した。いずれも菅首相主導だったという。過激な(しかしずれている)小泉進次郎環境大臣のいろいろな提案を容認し、また河野太郎大臣の再エネ問題への介入もそのままにした。菅首相はこれら2人を明らかに引き立てていた。

そして多くの省庁がグリーン成長戦略をめぐる政策を打ち出した。厳しい財政状況の中で、21年度予算では2兆円のグリーン投資枠まで決まった。

ただし新型コロナウイルス対策に追われ、世論も気候変動と脱炭素にそれほど関心を向けなかったのは、菅首相に気の毒な点であった。

◆総裁選で岸田氏は気候変動・エネルギー問題に関心見せず

そして岸田首相の誕生だ。

自民党総裁選では、河野氏が脱原発を明確に語ったため、エネルギー問題が注目を集めてしまった。自民党の「最新型原子力リプレース議連」が作った一覧表だが、4候補の原子力政策は明らかに差があった。

高市氏が原子力の積極的活用、岸田氏、野田氏がこれまでの自民党の政策通り消極的利用の立場のようだ。河野氏は、持論である過激な反原発、反核燃料サイクルの姿勢を鮮明にしていない。(図表参照)

自民党総裁選ではエネルギーと気候変動問題で、岸田新首相は、自民党の穏健な政策の範囲で主張を行なった。河野氏、高市氏と比較して、これら2つに大きな関心を示さなかったように思える。

岸田氏は、宏池会という派閥の長だ。岸田氏の個性も温厚。そしてこの宏池会は、伝統的に政策通議員が集まるとの評価がされているグループで、政策も経済重視で対外政策では穏健だ。

岸田氏の最近の公職は外務大臣(2012~17年)、そして自民党政調会長(17~19年)だ。彼は、普通の政治家並みの脱炭素、気候変動問題の対応はあったが、自ら主導した印象はない。岸田氏は、被爆地広島選出で軍縮や他国間の協調活動、アジア外交に積極的だった。しかし気候変動をめぐる外交交渉には、個人で乗り出さなかった。官邸と協調しながら、エネルギー外交を進めていた。この時期、外務省が組織として、存在感を増すために、役所として気候変動問題で積極的になっていた。

さらに岸田氏は総裁選の出馬会見では、新型コロナウイルスの感染防止策や景気浮揚策、新自由主義批判と分配、地方創生、デジタル活用の強調をした。しかし気候変動やエネルギー問題、エネルギーの自由化の功罪について自ら言及しなかった。菅政権の「グリーンイノベーション」という目玉政策への言及は、この会見、そしてその後の総裁選の論戦でも、出てこなかった。原子力問題も、積極的な活用策も、脱原発も打ち出さなかった。この点で、気候変動と原子力に関心を示した河野氏と違った。

◆過激さは消えるが、まだ不透明さも

もちろん、岸田政権でのエネルギー政策は政治状況の変化や、人事で変わっていくだろう。ただし、総裁選での発言やこれまでの行動をみると、岸田新首相は、脱炭素の路線にストップをかけることはしないものの、積極的な旗振りもないと思われる。また岸田氏を支持した重鎮議員は、甘利明氏、額賀福志郎氏などエネルギー問題に精通した議員が多い。若手議員の一部にある再エネの過剰賛美をする人は少なさそうだ。自民党全体も菅政権での脱炭素、その手段である再エネの強調という動きにならなさそうだ。

岸田氏の個性から、選挙では争った河野氏や小泉氏、菅前首相を攻撃、孤立させることはなさそうだ。それでも当面は彼らの影響力は一時的に消え、その結果、菅政権での過激さをはらんだ気候変動、脱炭素政策は当面なくなるだろう。ただし欧州を中心にこの問題は主要な政治トピックで、日本の産業にも、政策にも、影響を与え続けることになろう。

岸田政権の政策がこうした状況になるならば、エネルギーの関係者は、菅政権でのように政治動向に一喜一憂することは減るだろう。その先の細かな状況はまだ不明だ。安倍政権のような経産省色の強い政策になるか、それとも政治主導で雰囲気が変わるかは現時点(10月1日)には見通せない。

ただし、岸田氏はただの真面目なだけの紳士ではなさそうだ。今回、菅総理が辞任することになった背景のひとつは、岸田氏の総裁選出馬表明と、影響力のあった二階俊博幹事長への批判という勝負に出て、追い込まれたためとされる。そうした思い切った活動もできる人だ。

変革と救国の熱い思いのために、岸田氏は首相を目指して立ち上がったのだろう。その姿勢に期待を込めて新政権を見守りたい。そしてエネルギーでは、新首相が日本の未来を良くする、誰もが幸せになる政策を打ち出すことを期待したい。

【記者通信/10月1日】原子力政策の潮目変わるか!岸田新政権の顔ぶれ予想


自民党の岸田文雄総裁による新政権の布陣が固まってきた。

10月1日夕現在の情報では、副総理=麻生太郎・副総理兼財務相、幹事長=甘利明・党税調会長、総務会長=福田達夫・衆院議員、政調会長=高市早苗・前総務相、選対委員長=遠藤利明・元五輪担当相、国対委員長=高木毅・衆院議員運営委員長、幹事長代行=梶山弘志・経産相、官房長官=松野博一・元文部科学相、財務相=鈴木俊一・前総務会長、外務相=茂木敏充外相(再任)、経済産業相=山際大志郎・衆院議員(初入閣)といった陣容だ。そのほかの人事では、幹事長代理=田中和徳・前復興相、官房副長官=木原誠二・衆院議員、政務担当秘書官=嶋田隆・元経済産業事務次官などが固まっている。

エネルギー政策の側面から見ると、山際氏の経産相就任は、原発再稼働を含めた原子力政策を前進させる上で大きな意味を持つ。経産副大臣の経験を持つ山際氏は党の総合エネルギー戦略調査会事務局長として、今般の第六次エネルギー基本計画の策定に尽力。「わが国のエネルギー政策が『3E+S』を目指す中で、原子力発電は極めて重要なベースロード電源」との持論から、「原発の新増設・リプレース」を同計画に盛り込むべく奔走した。

第六次エネ基案における山際氏の功績

しかし、原発ゼロを党是とする公明党のほか、核燃料サイクル反対を唱える河野太郎・規制改革相、再エネ最大限・最優先導入を掲げる小泉進次郎環境相らの反発から断念。その代替策として、山際氏らが各方面との調整を重ねた結果、第六次エネ基の素案に「必要な規模を持続的な活用していく」との文言を入れ込むことに成功したのだ。「中長期にわたって一定規模の原発の持続的な活用を推進していくという意味で、この一文の価値は大きい」。山際氏は以前、本誌の取材でこう強調した。なお、これに怒った河野氏が、資源エネルギー庁幹部とのオンライン会合の席上、「原発を今後も使い続けますみたいな記載は落としたのか」と迫ったのは、一部週刊誌が報じた通りだ。

そんな山際氏のほか、原子力推進派の高市氏が政調会長に、総合エネルギー戦略調査会事務局長代行を務める木原氏が官房副長官に、また原子力政策に精通する嶋田氏が政務秘書官に、それぞれ就く。その一方で、再エネ最大限・最優先の導入を前面に掲げて原発推進の歯止め役を担ってきた河野氏(党広報本部長)と、小泉進次郎環境相は閣外に去る見通しだ。

「原子力政策は安倍、菅両政権下での長期停滞からようやく脱却する可能性がある。もし党の環境部会長を務め、参院環境委員長も経験している森雅子氏が環境相に就くことにでもなれば盤石。潮目は大きく変わるだろう」(大手電力会社幹部)

岸田新政権による骨太のエネルギー政策展開に、業界関係者の期待が掛かる。

【記者通信/9月27日】小泉環境相が山拓議員の公開質問に「どこが問題なのか分からない」


小泉進次郎環境相は9月24日の閣議後会見で、自民党の山本拓衆院議員から突き付けられた公開質問状に関連して、「(17日の閣議後会見での)私の発言をもう一度見返したが、どこが問題なのかが分からない」と述べ、自民党総裁選に立候補している高市早苗・前総務相の言動を批判したことに問題はないとの見解を示した。

その上で、山本氏が回答を求めている、2050年に向けた再生可能エネルギーの具体的計画など計4項目の質問について、「再エネ最優先の原則でやっていくのは、環境大臣ではなく、政府のポジション」「党内でさまざまな議論や質問、意見があった上で、党内の正式なプロセスを経た、これが事実だ。山本氏から出ている意見も含めて、与党のプロセスの中で議論されたと理解している」などと指摘。「政府・与党」を盾にすることで、自身の考えに基づく具体的な回答を避けた格好だ。電力関係者からは「さすが、小泉大臣。責任回避の弁に長けている」と皮肉交じりの声が聞こえている。

「JA電力」が誕生?既存の「JAでんき」との関係は?

また小泉氏は、この日の会見で、農業協同組合(JA)グループの電力事業展開に言及。22日に、全国農業協同組合中央会の本部(東京・大手町)を訪れ、中家徹会長と面談した話題に触れた上で、「農協が将来的に地域新電力を担う。『JA電力』が生まれるというイメージだ。JAグループというのは、お葬式も、スーパーも、ガソリンスタンドも、あらゆるビジネスをやっている。その中で、実はエネルギーというところは空いている。私は今後、地域の農協の収益の柱になり得る新規ビジネスになるのではないかと見ている」と述べた。

ただJAグループでは、石油・LPガス事業を手掛ける全農エネルギー(和田雅之社長)グループが、2016年に「JAでんき」のブランド名で電力小売り事業に参入。太陽光発電システムの販売も含め、全国規模で総合エネルギー事業を展開している。小泉氏の言う「JA電力」とは、一体何なのか。「全農エネルギーとは別に、再生可能エネルギーをベースとした地域新電力会社を新たに立ち上げるつもりなのか。もしそうだとしたら、全農エネルギーとの関係はどうなるのだろうか」。全農エネと付き合いのあるLPガス関係者は首をかしげるばかりだ。

【記者通信/9月22日】山拓議員が小泉環境相に猛反発 総裁選「代理戦争」の様相 ※修正版


元妻(高市早苗前総務相)に売られた喧嘩(けんか)を、元夫が買った――。自民党の山本拓衆院議員(自民党総合エネルギー戦略調査会会長代理)が9月21日、22日と立て続けに、小泉進次郎環境相に対し公開質問状を突き付けた。小泉氏が記者会見の席上、エネルギー基本計画見直しを巡る高市氏の発言を公然と批判したことに、猛反発した格好だ。

4年前に離婚した後も円満な関係を続けているという、山本氏と高市氏

そもそもの発端は、2030年度の電源構成目標で再生可能エネルギー比率を36~38%とする政府の第六次エネルギー基本計画案について、高市氏がBS番組で「日本の産業が成り立たない」と指摘したこと。これに対し、小泉氏は17日の閣議後会見で、「(高市氏が)仮に再エネ最優先の原則をひっくり返すのであれば、(エネルギーミックスの数字を含めて、具体的に)どう考えているのかを政策論争の中で明らかにしていただきたい」「それでもひっくり返すのであれば、間違いなく、そうならないように全力で戦っていかなければならない」などと、高市氏に宣戦布告したのだ。

山本氏は21日の公開質問状の中で、そんな小泉氏を「公式の場において、国民に対し、2050年を見据えたエネルギー安定供給政策という争点をぶち壊すために、3年おきのエネルギー基本計画の改訂を持ち出すなど、権力の笠を着て自民党総裁選挙に介入し、高市候補を貶める発言をしたことは、一議員としても見過ごすことはできない」と批判。その上で、次の2点の質問を提起した。

①旧一般出来事業者10社の19年度の火力発電量は約4814億kWh/年。これは130万kWの原子力発電所53基分に相当するが、現在の火力の発電量を50年に再エネで賄うための具体的計画を、環境大臣として示してほしい。

②経済成長とデジタル化の進展を図る際に、IT関連消費電力は50年には16年の41TWh/年の約4000倍の17万6200TWh/年になるとの予測が、文部科学省の科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターによって発表されている。省エネの進展があったとしても、IT関連消費電力は莫大に膨れ上がることが予想される。50年にそれらを再エネで賄うための具体的計画を、環境大臣として示してほしい。

あえて回答困難な公開質問 どうする小泉氏

さらに山本氏はまだ怒りが収まらないのか、翌22日には「第2弾」と銘打って、次の2点に関する公開質問を叩き付けた。

①仮に太陽光発電だけで 19 年現在の化石燃料による発電分(7782 億 kWh)全てを置き換えた場合は、全国に東京ドーム約 13 万個分の面積の太陽光発電設備(620GW)が必要となる。なお、再生可能エネルギー保全技術協会の筒井信雄理事長によると、それらの設置には約 93 兆円(15 万円/kW×620GW)が必要になるとのこと(土地代等は含まない)。当方の試算に対し、小泉環境大臣の見解を示してほしい。

②科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターが発表した 50 年の IT 関連消費電力予測 17万6200 TWh/年を、仮に太陽光発電だけで賄おうとすると、東京ドーム約 2940 万個分の設備面積が必要となる。この点については、もちろん太陽光発電のみならず他の再生可能エネルギーで賄う考えかと思うが、小泉環境大臣の見解を示してほしい。

「これらの質問に的確に答えられたら、あんなエネ基にはならないよな、と思えるほどの難問。小泉氏が自身の答えなど持ち合わせていないことを想定した上で、あえて投げ掛けた形だろう。果たして、ええ格好しいの小泉氏がどう反応するのか。24日の閣議後会見が注目される」(大手電力会社関係者)

総裁選「高市氏VS.河野太郎規制改革相」の代理戦争の様相を呈する「山本氏VS.小泉氏」の論争。エネルギー関係者にとっては、こちらの戦いからも目が離せない。

【記者通信/9月22日】英国で卸電力価格が暴騰 移行期の課題浮き彫りに


9月に入り、英国の卸電力市場価格が暴騰している。8月までは1000kW時当たり100ポンド(約1万5000円)程度で推移していたが、9月15日には一時500ポンド(約7万5000円)を付けるなど跳ね上がった。現在も200~300ポンドと高い水準で推移している。

この背景には、火力発電燃料である天然ガスの需給ひっ迫と世界的な価格高騰がある。欧州では、年初の厳冬によって激減したガスの地下貯蔵量が回復しきっておらず、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働の遅れも影響し供給が需要に追い付いていないのが実情だ。

英国のみならず欧州各国では、CO2対策として石炭・石油からガスへと火力燃料転換を急速に進めてきた。このため、ガスが高騰しても燃料をスイッチすることは容易ではない。さらに、年初に1t当たり30ユーロほどだったCO2排出権価格(EU-ETS)が9月に60ユーロを突破したことも、石炭への転換に歯止めをかけていると考えられる。

冬の需給に不安材料 炭素税も「時期尚早」か

そうした状況の中、欧州全体での数週間に渡る風力発電の稼働低下と、火災による英仏間の送電施設の一部機能停止が追い打ちをかけた。1986年に運開したこの送電施設は、主にフランスの原子力発電による電気を英国に供給する役割を担う。ナショナルグリッドは、この事故によって来年3月末まで半分の容量1GWのみで運用するとしており、冬の需給への不安材料となっている。

有識者の一人は英国のエネルギー危機に陥った要因について、「脱炭素エネルギーシステムへのシフトには、石炭と石油を代替するために十分な天然ガスの供給が必要となる。再エネ大量導入を行う前に、石炭・石油火力発電を削減してはならないし、炭素税の導入も時期尚早だったと言わざるを得ない」と指摘する。

かたや同じ島国である日本。採算性の悪い火力の閉鎖が響き、昨冬に続き今冬も厳しい需給が見通されており、決して他人事ではない。英国のエネルギー危機が浮き彫りにしたトランジションへの課題に対し、日本としてどう向き合うのか。同じ轍を踏むことだけは避けるべきだ。

【記者通信/9月19日】電力・経産省を抵抗勢力と見立てる小泉環境相「背水の陣」


小泉進次郎環境相がついに、父・純一郎氏の十八番である劇場型手法を大々的に真似てきた。再生可能エネルギーの最大限導入に向けたエネルギー改革について、電力業界や経済産業省を抵抗勢力と見立てながら、「既得権益との闘い」だとぶち上げているのだ。

総裁選告示の当日ということもあって、気持ちが高ぶっていたのか、9月17日の閣議後会見はかなりヒートアップした。第六次エネルギー基本計画について、記者から「BS番組で高市(早苗)さんが、『あれでは日本の産業は成り立たない』と発言していたが…」と問われると、小泉氏は「仮に再エネ最優先の原則をひっくり返すのであれば、(エネルギーミックスの数字を含めて、具体的に)どう考えているのかを政策論争の中で明らかにしていただきたい」「それでもひっくり返るのであれば、間違いなく、そうならないように全力で戦っていかなければならない」などと、総裁選候補の高市氏に宣戦布告。「国際的な潮流を考えたら、どんな政権が生まれても、(再エネ最優先という)この方向性を否定できるはずがない」と強調した。

続いて、記者が「14日の会見では、エネルギー政策を巻き戻そうとする勢力に関して、抵抗勢力と位置付けた。こうした既得権益に切り組んでいく姿は、純一郎さんの手法と重なる部分があるが」と質問。これに対し、小泉氏は次のような持論をぶちまけた。

コケにされている梶山氏は岸田氏の推薦に

「改革というのは、イコール既得権益との闘い。逆に言えば、既得権益と闘わないのは、改革とは言わない。それが、父にとっては郵政民営化だったのかもしれない。それだけ全てをかけなければ突破できないような課題だった。当時は自民党すら反対していて、野党も反対という状況だった」「エネルギー政策は、趣が少し変わっていて、特に自民党内の反対が強い。そしてその裏側にいる産業界の一部、そしてそれを変えたくない霞が関の一部。エネルギー基本計画を巡る内部の議論が、何で外に漏れるのか。私はおかしいと思う。さまざまな暗躍がある。何だってやってくる。中でも闘って、外でも闘って、河野(太郎)さんは相当我慢している。この総裁選で、改革に対する揺るぎない意志を内外に示してもらいたい」――。

換言すれば、電力業界と経産省は既得権益を守る抵抗勢力だと暗に批判しているわけだ。大手エネルギー会社の幹部が、あきれ顔で反論する。

「エネルギー政策について国民のために真っ当なことを主張する人たちを抵抗勢力扱いするとは。よくもまあ、ここまで自分自身の理屈・立場を正当化できるものだと思う。もはや電力業界、経産省とは完全に決別する気なのだろう。しかも、一部週刊誌に音声データをリークしたのは抵抗勢力ではないかと、会見の場で公然と言い放った。事実でなければ、どう責任を取るつもりなのか。下手したら、ひいきの引き倒しで、河野氏の足を思い切り引っ張ることにもなりかねない」

総裁選を巡っては、19日段階で「岸田氏優勢」(大手一般紙記者)と見る向きが多い。ここまでコケにされている梶山弘志・経産相は、岸田氏の推薦人に名を連ねている。仮に岸田政権が誕生したら、小泉氏は干される可能性も。現在の闘いは、背水の陣の様相を呈している。