「積み上げ」から「バックキャスト」に転換した第7次はエネ基のターニングポイントになったと言える。
複数シナリオに基づく需給見通し、そしてプランBの「リスクシナリオ」にさまざまな受け止めが出ている。
「安全保障などの言葉は並ぶが、定量的なことは何も書かれていない」「『リスクシナリオ』がエネ基を意味のないものにした」―。昨年末に示された第7次エネルギー基本計画案を巡ってはまさに議論百出で、各所の関心の高さがうかがえる。エネルギー業界からは歓迎の声が目立つ中、冒頭のように否定的な声もちらほら。それは3年ぶりの改定というだけでなく、アプローチが刷新されたことによる部分が大きい。
エネルギー政策でCO2問題が重視されるようになって以降、政府は対策の積み上げでエネルギー需給見通しを示してきた。しかし今回は、CO2削減割合を「1・5℃目標」の経路に沿った2040年度13年度比70%程度減とピン止めし、バックキャストで導いた。グリーンに振れ、荒業で需要を低く抑えてまで無理な単一シナリオを描いた第6次の反省が、スタートラインとなっている。

第6次の反省が起点 強調されたキーワードは
今回強調されたのが、「第6次以降の状況変化」「産業競争力の向上」「コスト上昇の最大限抑制」「投資回収の予見性」といったキーワードだ。
ロシア・ウクライナ戦争の勃発や中東情勢の緊迫化などを受け、今回、安全性が大前提である点は不変ながら、3Eでは「安定供給を第一」と修正。その上で「経済合理的な対策から優先的に講じる」などコストに関する記述が随所で登場する。
需要側の変化も大きい。データセンターや半導体製造、エネルギー多消費産業などで電力需要の増加が見込まれる中、「脱炭素電源の確保が産業競争力に直結する」と強調する。再生可能エネルギーか原子力かの二項対立を脱し、脱炭素電源への投資回収の予見性を高め、新規投資の促進やファイナンス環境の整備の必要性を打ち出した。
また、エネ基や地球温暖化対策計画と併せて、産業構造や産業立地などの方向性を示す「GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン」案を策定。23年7月閣議決定のGX推進戦略を改訂し、分野別投資戦略も上書きした格好だ。
隠れがちなポイントとして、実は今回の需給見通しから省エネ量の記載がなくなった。カーボンニュートラル(CN)に向けては電化や非化石転換が一層重要になるためで、こうした視点で既に省エネ法は改正済みだ。
もろもろの視点を満たしつつ、1・5℃の経路に沿った絵姿を積み上げで描くことはもはや不可能だった。ただ、欧米ではNDC(温暖化ガス削減の国別目標)とエネ政策は必ずしも合致せず。日本の手法こそ例外的で、アプローチの転換はむしろ国際標準に近づいたともいえる。
そのアウトプットとして、複数シナリオを基にした需給見通しの概要は図の通りだ。将来の技術動向などさまざまな不確実性を念頭に、各項目の数字に幅を持たせた。40年度の温暖化ガス削減割合は13年度比73%とし、省エネや非化石転換を進めることで最終エネルギー消費量は1~2割減る一方、発電電力量は1~2割増加へ。電源構成では、再エネは4~5割、原子力は2割程度を目指す。一方、火力は3~4割程度とし、内訳は示さず。水素・アンモニアの数字も姿を消した。
特筆すべきは、需給見通しとは別途、脱炭素技術のコスト低減が十分進まず既存技術を中心とするケース、いわゆる「リスクシナリオ」を示した点だ。最終エネ消費量や発電電力量は需給見通しと大きな差はないが、電源構成では再エネ4割弱、原子力2割、火力4割強となる。LNGの長期契約を含め安定供給の確保を万全にすることが重要だとし、LNG需要見通しを7400万t程度と記した。この場合、CO2削減は61%程度にとどまり、1・5℃の経路には乗らない。
排出削減コストはどうか。需給見通しではCO21t当たり300~470ドル程度で、欧米より高くなるシナリオもある。他方、リスクシナリオでは1・5℃相当の中位置的な炭素価格として257ドル、欧米などと一律の想定とした。
資源エネルギー庁の小高篤志・戦略企画室長は「今回は手法が前例踏襲でなく、エネルギーミックスの数字をどう導くか。また、シナリオ分析の内容を世の中にどう分かりやすく伝えるかという点に腐心した」と振り返る。需給見通しの策定に当たり6機関にシナリオ分析を依頼。①コスト最適化の考え方に基づいていること、②最大限の経済成長を目指すこと、③海外との相対的なエネルギー価格差を踏まえた評価が可能なこと―という要素を備えた地球環境産業技術研究機構(RITE)の分析を軸に、数字を大くくり化して最終的な方向性とした。
