脱炭素社会へ正念場の年  「不都合な真実」直視し協調を


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説副委員長

COP26で脱炭素化は国際的な合意を得たが、その直後に各国は化石燃料の取り合いを始めた。

浮き彫りになっているのは、カーボンニュートラルという「理念」と「現実」との間の壮大なギャップだ。

 「われわれがこの問題を何かしら解決したなどと勘違いしようものなら、致命的な過ちになりかねない」――。

英国グラスゴーで昨秋開かれた国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)。参加した197カ国・地域が「産業革命前からの気温上昇を1・5℃に抑える」「石炭火力発電を段階的に削減する」と合意できたにもかかわらず、議長国・英国のジョンソン首相の記者会見は厳しい発言が目立った。

COPの崇高な理念をよそに、足元では脱炭素化の取り組みの後退を示す「不都合な真実」が露呈していたからだ。

再エネ加速で電力不足 化石燃料依存に逆戻り

象徴的なのが昨年半ばに始まった欧州発の天然ガス価格の歴史的な高騰劇だ。英国を含む各国は近年、風力や太陽光発電を軸に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーシフトを加速させてきた。ところが、皮肉にも気候変動問題を背景とした天候不順で再エネ発電の稼働率が低下。新型コロナウイルス禍からの経済活動再開が重なり、深刻な電力不足に陥った。各国は火力発電で補おうと天然ガスの調達に一斉に走った。

だが、エネルギー企業に対する環境規制の強化や、化石燃料関連への資金提供を敬遠するESG(環境・社会・企業統治)投資拡大による新規開発の停滞も災いし、天然ガス需給は極度にひっ迫。価格が一時、原油換算で1バレル当たり200ドルを超える異常事態となった。天然ガスの代替需要で原油や石炭の価格も跳ね上がった。

欧州と協調して脱炭素化を推進してきた米国のバイデン大統領も「直ちにグリーン経済へ転換するのは困難」と認め、最近は石油やシェールガス採掘規制の緩和に動いている。日本や中国を巻き込んだ異例の原油の国家備蓄放出まで余儀なくされた。「脱炭素に逆行する」との批判もものかは、電気代やガソリンの価格高騰などが国民や企業を苦しめる事態に「背に腹は代えられない」ということだろう。

欧米と同様に風力発電の稼働率低下で昨秋に大規模停電が発生した中国は、温暖化対策上「禁じ手」としていた石炭火力向け国産炭の増産にまで踏み込んだ。

今では世界的な化石燃料高騰がさまざまな原材料価格を押し上げる「グリーンフレーション」が懸念されている。脱炭素の取り組みを示す「グリーン」と、継続的な物価上昇を表す「インフレーション」を組み合わせた造語で、性急過ぎる脱炭素化の流れに実体経済が追い付かないジレンマを示す。

年明けには、電力用の一般炭で世界最大の供給国であるインドネシアが1カ月間、石炭の輸出禁止措置を発動し、業界に衝撃を与えた。国内の電力供給の安定確保を優先するためというが、化石燃料不足が価格高騰にとどまらず、供給停止に発展するリスクが意識された。エネルギーの大部分を輸入に頼る日本が厳しい状況に直面していることは言うまでもない。

COP26が高らかにうたった合意と裏腹に、相次いで表面化した「不都合な真実」が示す教訓は何か。それは2050年のカーボンニュートラルという「理念」と、世界各国が経済活動や社会生活を維持するために当面、化石燃料を使い続けなければならないという「現実」との壮大なギャップだろう。

 欧州委員会が1月1日に、原子力発電と天然ガスを「温暖化対策に役立つエネルギー源」として認め、環境に配慮した持続可能な投資先(タクソノミー)に分類する方針を示したのも、再エネ一辺倒の直線的な脱炭素化の取り組みでは危ういと判断したからだ。実需があるにもかかわらず、理念だけで化石燃料を無理に排除しようとすれば、投機マネーに目を付けられて相場が混乱するのは必定だ。ESGブームの圧力で欧米エネルギー企業が化石燃料の開発・投資から撤退を続けることで中東やロシアなど資源国の影響力が強まり、地政学的なリスクも高めている。

手段だけに目を奪われずに 実効性のある工程表が必要

経済産業官僚時代に京都議定書に関する国際交渉を手掛けた有馬純・東京大学公共政策大学院特任教授は、交渉の実態について「『地球環境を守るために力を合わせましょう』という美しいものではなく、各国は完全に国益で動いている」と解説。「温室効果ガスの削減は、地球レベルでの『外部不経済の内部化』であり、そのコストを各国の間でどう負担するかというゲーム」と喝破する。その上でCOP26の成果を認めつつ「地球全体の温度目標を定めるトップダウンの性格と、各国が実情に応じて目標を設定するボトムアップの性格が微妙なバランスを取っていたパリ協定の性格を大きく変えることになる」と指摘し、先進国と途上国の対立激化を懸念する。

有馬氏が言うように本質が各国の産業競争力や雇用をかけたゲームだとしても、欧米による自国への利益誘導が目立つままなら、世界的な脱炭素化の取り組みは行き詰まりかねない。

電力不足を各国は天然ガス火力で補おうとしている

問題は、COPが石炭火力削減やガソリン車の排除、カーボンプライシングなど脱炭素化の手段にばかり熱心で、世界全体が化石燃料依存からどう脱して、再エネに転換するかという実効性ある工程表づくりを怠ってきたことだろう。脱炭素社会というゴールに到達するには、再エネの安定電源化に不可欠な大容量の蓄電池開発や、水素の活用、メタネーションなど相当の技術革新が必須だが、いずれも発展途上だ。それまでの数十年間は、省エネや火力発電の低炭素化などあの手この手で化石燃料依存を秩序立てて減らしつつ、経済や生活に必要な石油や天然ガス供給は確保しなければならない。

日本は欧米が主導する脱炭素化の国際ルールづくりに乗り遅れまいと焦燥感を高めるが、アジア各国や中東産油国などと連携し世界共通の脱炭素化の工程表づくりにも乗り出してほしい。回り道のように見えても、そうしてCOPの協調を支えることがルールづくりで主導権を取り戻し、国益に資する道につながるはずだ。

自社の利益を最優先に戦略策定を 一方的に不利益を被る可能性も


【羅針盤(最終回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

「石炭火力の段階的縮小」で合意したCOP26。そこでの議論は、まさに国益のぶつかり合いだった。

自らの利益を最優先にしたGX戦略の策定へ、国や企業はしたたかに取り組んでいくことが求められる。

 2021年11月に開催されたCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には、世界でさまざまな事後検証がなされ、多くの議論を巻き起こしている。個別の項目についての是非はともかく、今後の脱炭素対策の方向性を考える上でいくつかの示唆があったことは事実だ。これらをどのように個々のGX戦略に落とし込むのかを検討することが、今後一層重要になる。

COP26を踏まえて 削減をどう実現するのか

合意文書では、1・5℃目標追求の決意表明や、開発途上国への資金支援の拡充、石炭火力の段階的削減、国際的な排出量取引のルールなどが打ち出された。

特に排出量取引については、30年の削減目標に算入可能となることが決まった。排出量取引の方式はいくつかあるが、ここでは二国間取引(JCM)について考えてみたい。京都議定書時代には京都メカニズム(柔軟性措置)の一つとしてクリーン開発メカニズム(CDM)があった。先進国が開発途上国で取り組みを実施するこの種のプロジェクトの目的にはいくつかの動機があった。当時の日本でも質の高いインフラ輸出がセットとなって、国内排出量とのオフセットを目的に削減排出量を獲得することが目指された。

各国で異なる温室効果ガスの限界削減費用には大きな格差が存在することから、こうした取り組みの経済合理性は極めて高い。少し古いが、16年の長期地球温暖化プラットフォーム国内投資拡大タスクフォースの資料によれば、日本の限界削減費用はスイスの炭素1t当たり380ドルに次いで378ドルという高水準にある。 これは図に示した通り、仮に日本国内で二酸化炭素1tを削減するコストを他国に投入すれば、限界削減費用が1ドル程度の国々では378tの削減が可能となることを意味する。国内で乾いた雑巾をさらに絞る努力をするよりも、限界削減費用の低い国々で排出削減投資を実施し、そこで得られた排出量を二国間取引で日本に移転させる方が効率的なのだ。

CDMの時代においては、新興国や開発途上国では日本の高度な省エネ技術は高価なものとして敬遠されてきた。これらの国々では温室効果ガス排出量の多寡よりも、安価な技術によって経済成長を実現させるエネルギー供給体制の構築が優先されたからだ。しかし世界全体でパリ協定に基づく脱炭素化を目指す潮流が大きく変わらないのであれば、かつては敬遠された省エネ技術を売り込むチャンスが今こそ巡ってきたともいえる。

COP26閉幕の数日後、ドイツのメルケル首相が中国の李克強首相との電話会談で、中国の新設石炭火力の高効率化を促したことが通信社によって伝えられている。この中で、ドイツ企業の技術に言及し、排出削減に資するこうした技術の輸出を、ドイツは禁止するものではないと発言したという。資金援助はできないものの、技術支援をしたたかに売り込むドイツの戦略を、ただ手をこまねいて眺めている場合ではない。これが世界で是とされるならば、日本もIGCCやIGFCなどのクリーンコール技術を売り込むべきだろう。世界全体での段階的な排出削減に、確実に貢献するものは何かをよく考えるべき時である。

限界削除費用と二国間取引
出典:各種資料を参考に筆者作成

今後の展開を注視 戦略の柔軟性確保を

豪州のモリソン首相は、COP26後に自国の国益優先を鮮明に打ち出した。その中で、今後も石炭産業にコミットすることを堂々と宣言している。

COP26直前のG20では、石炭火力への公的金融支援の21年内停止で合意したことが数少ない成果とされたが、9月に中国が表明したことの繰り返しで新鮮味はなかった。これを上回る合意がCOP26で可能とは考えられていなかったが、フェーズアウトからフェーズダウンへトーンダウンしたとはいえ、石炭火力を巡る議論の火種を残した格好だ。この状況では、ドイツのようにしたたかな外交戦略を描けないと、一方的な経済的不利益を被る可能性が高まる。奇しくもCOP26開催期間中に米国南部バージニア州知事選挙で共和党が勝利した。仮に22年11月の中間選挙で民主党が敗れるようなことがあると、米国は脱炭素への対応に大きな変更を余儀なくされる可能性も出てくる。欧州では、脱炭素化のために原子力発電の活用について新設も含めた計画の具体化や検討が広がっている。これは欧州にとどまらず世界的な潮流となる可能性がある。国内で原子力利用を禁止しているオーストラリアが可能性を模索している動向などが顕著な例だ。

ドイツでは環境NGOが脱炭素化のために原子力発電の運転停止延期を求めてデモが展開されている。これは環境活動家すら一枚岩ではないことを示している。カーボンニュートラルに向かうパスについての議論が多様化していることは、ある意味で健全な社会現象ともいえる。

さらに、燃料需給のひっ迫を契機としたエネルギー市場の価格高騰は、現時点の脱炭素対応への警鐘ともいえる。エネルギー以外の他のコモディティ価格の高騰も相まって、マクロ経済上の問題に及ぶ可能性が高く、脱炭素を実現する前に経済的に破綻しては身もふたもない。こうした国際情勢に目配せした上で、さまざまなリスク分析が重要になる。

国内ではトランジション・ファイナンスに向けた技術ロードマップが鉄鋼、化学分野で示され、電力、ガス分野などでのそれが今後の争点となっている。また、自民党総裁選の際、岸田文雄首相が示したクリーンエネルギー戦略の検討もいよいよスタートし、これらの政策の方針にも沿わなければならない。

自社の利益を最優先にGX戦略を正しく策定することには、かなりタフな知的格闘が求められる。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【特集2】発想「大転換」の再エネ推進策 既存設備と連携し最適制御


既存のインフラを生かし、太陽光や風力を主力化する新発想が生まれている。 「分散型コージェネ」を使った再エネ共存策のアイデアもある。

東光電気工事のクロス発電 新発想「光×風」の真骨頂

「クロス発電」という耳慣れない言葉がある。クロス発電とは、太陽光発電と風力発電を効率よく制御して、一つの連系枠を有効に利用するシステムのことだ。こんなユニークな仕組みの再生可能エネルギー発電が動き出している。2020年9月から福島県飯舘村で「いいたてまでいな再エネ発電所」が国内初のクロス発電所として、運転を開始している。

いいたてまでいな再エネ発電所。「までい」は「物を大切に」「心を込めて」の福島の方言

始まりは太陽光発電所としての稼働だった。11年の東日本大震災後、全村避難となった飯舘村の遊休地を利用して太陽光発電所を建設する案が浮上。復興のシンボルとなるべく、東光電気工事と飯舘村が共同出資して「いいたてまでいな再エネ発電」を設立した。

牧草地だった約14 haの平地に太陽光パネル約4万5000枚を設置。パネル容量が1万1800kW、連系出力1万kWの太陽光発電所として、15年3月に運転を開始した。

東光電気工事は建設に取り組む中で、培った風力発電の知見からこの地が風力発電の適地であると予想。太陽光の運転開始後に風況観測を開始した。

太陽光発電は夜間や曇天では発電量がほぼゼロになる。契約容量は1万kWでも全体の設備利用率は14%程度だ。一方、夜間や天候が悪い日にも風は吹く。晴天時には風が弱く、風の強い日には天気が悪いという気象の特徴からも、太陽光と風力は補完し合える。設備未利用の約86%分を風力発電で補えば、発電量は増やせる。

こうして1990年代から風力発電の建設にかかわってきた同社のノウハウを生かし、敷地内に3200kWのGE社製風車2基の建設が実現した。

独自開発の制御システム 安定した再エネ電源を目指す

同社は、変動する二つの再エネが契約容量を超えないようコントロールする制御システムを開発した。実際の発電の変動に合わせて24時間365日、双方の設備を自動制御している。タイムラグも計算するリアルタイム制御だ。太陽光と風力のどちらを優先させるかも設定できる。

この再エネ発電所はクロス発電で、年間の太陽光発電量は約1200万kW時、風力発電量は約1100万kW時の実績となり、発電量は倍になった。太陽光発電を効率良く補う風力設備の導入で、出力制御が必要だったのは全体の1%程度と、ロスもほとんどなかった。

クロス発電の発電量推移

クロス発電は、契約容量はそのままで、二つの再エネを稼働できることがメリットとして挙げられる。同発電所は、契約容量が1万kWのところに風力を6400kW増設した上で、両方の出力をコントロールして1万kW以下で発電している。

初の取り組みを巡って、東北電力とは協議を重ねた。太陽光と風力の買い取り価格は異なるため、契約メーターの手前に個別にメーターを取り付け、それぞれの発電の割合で契約をしている。発電量は全量を東北電力に売電。収益の一部を村の復興に役立てる。

再エネ事業部の原隆之営業部長は「今ある容量の枠を無駄にせず、有効に活用するにはどうしたらいいか、というのがクロス発電の発想」と話す。国が目指す30年の再エネ電源構成比率24%を目標に、送電網を強化する取り組みの一方で、クロス発電を導入すれば設備更新を抑えつつ再エネ電源を増やしていくことができるのだ。

発電量推移のグラフを見ると、クロス発電を導入しても設備利用率は30%程度。契約容量にはまだ余裕がある。原部長によると、クロス発電で再エネをさらに増やす場合、安定的な水力やバイオマスなどをベース電源として組み合わせ、変動部分を太陽光と風力で補うことも可能だという。

「培ったノウハウでお手伝いし、連系枠を有効に活用してもらいたい。再エネを拡大させながら社会的コストの削減に貢献できると考えています」

現在は1サイトでの活用だが、連系協議が認められれば離れたサイトを一つの連系枠で接続するなど、活用の幅も広がる。復興のシンボル、いいたてまでいな再エネ発電所は、連系容量を有効に活用して効率良く再エネを供給する新しいモデルになりそうだ。

「再エネ×コージェネ」 二つの分散型の親和性

需要地で熱と電気を発生させるガスコージェネレーションシステム―。この分散型に、もう一つの分散型である再エネ電源を加えて共生を図ろうとするユニークな発想がある。

コージェネは優れた省エネ性と、ガス導管のレジリエンス性の高さを持つ。停電時も継続的・安定的に発電できる分散型エネルギーシステムとして、工場などの産業用、商業施設や病院などの業務用、家庭用などさまざまな分野で活用されてきた。11年の東日本大震災以降、災害対応への意識が高まったことなどから、さらに導入が進んでいる。そんなコージェネが、昨今の再エネ普及の社会情勢と相まって、新たな役割で注目されている。

変動型の再エネが拡大する中、「いつでもすぐに出力調整が可能」というコージェネの特長を生かし、その再エネの変動性を補う調整力・供給力としても期待が高まっているのだ。コージェネは再エネとの親和性が高く、「調整力」のほかにもいろいろと果たせる役割がある。簡潔にまとめると、①送電容量の確保、②自然条件や社会制約への対応、③系統の安定性維持、④コストの受容性―といった面での貢献が考えられる。

送電線を使わない電力 社会的コストの削減

この四つの視点を説明しよう。①の送電容量の確保は、再エネ由来の電力を送電するには大規模な設備投資を伴うことから、大きな課題になっている。その背景は、再エネポテンシャルが高い地域と需要地が離れていることにある。そこで、コージェネの出番だ。再エネ由来の電気から、「メタネーション」につなげていく。圧縮性が高く長期間にわたって、品質が劣化しない「合成メタン」を作ることで、ガス体エネルギーとして貯蔵するというアイデアだ。ガス導管に流してコージェネで利用することも可能だ。送電せずに需要地で発電できるため送電容量の確保につながる。

②でも同様、合成メタンの出番だ。日本は再エネの開発余地が少ないことから、海外の再エネ適地の安価な電力でグリーン水素を作る。CO2と合成し、合成メタンを製造。これを輸送することでコージェネの燃料としても使おうというグローバルな視点での発想だ。一方、国内事情に目を向けると、都市部では狭小ビルが多く、屋上に設置する太陽光発電には限りがある。場所を取らないコージェネを併設すれば、都市部でも地産地消の電源が実現できる。

③は、ようやく国内でも議論の俎上にあがってきた「慣性力」という極めて重要な技術的視点だ。突発的な事故の際にブラックアウトを避けるためには系統全体で慣性力の確保が必要。太陽光や風力発電は、周波数などに急激な変化があるとその電子機器を守るため発電を停止する。他方、コージェネはタービンなどの回転で発電しており、急激な変化に対して、同じ周期で回転を維持する慣性力が働く。火力、原子力、水力などのタービンを回転させる電源と同様に系統安定に貢献できるのだ。

系統安定化には慣性力のある電源が不可欠だ。(出展:20年11月17日資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」

④は、エネルギー・資源学会にて発表された三菱総合研究所の分析を例に紹介する。この分析によると、50年にCO2排出量80%減を実現するために必要な社会コストについて、電化中心のシナリオでは、系統増強費、発電所を調整電源として維持する運営費などに費用がかかる。他方、メタネーションを活用したシナリオでは、合成メタンにより既存インフラを利用してこれらの費用を抑制することができる。電力システムの合理化にもつながることが示唆されている。

全国のコージェネの設置容量は約1300万kW。再エネ拡大を、系統増強や調整力としての火力発電の維持、蓄電池など、電力系統だけで部分最適とするのではなく、コージェネやガス導管といった既存インフラを最大限活用することで、社会コストを低減し、レジリエンスの向上や地域内経済循環のメリットが見込める。

こうしたコージェネとの親和性について日本ガス協会は「再エネ導入を加速させる中で、コージェネの利点が生かせるような制度設計をしてほしい」と話している。

  *  *  *

クロス発電にしても、コージェネ利用にしても、大切なことは「既存のインフラを無駄なく使う」という視点だ。こうした取り組みは、結果的に、国民負担の低減につながっていくことになる。

【記者通信/8月31日】敦賀原発の審査中断 マスコミ報道に疑問符


原子力規制委員会は8月18日、日本原子力発電の資料書き換え問題で敦賀原発の審査を再び中断した。これを一部のマスコミが取り上げ、朝日新聞は社説(8月29日)で「技術者の教育をはじめ、管理や組織の規律が問われる問題」「存続の是非も含めて会社の今後を改めて検討すべきだ」と、原電が意図的に書き換えを行った可能性に言及し、その体質を厳しく批判している。

しかし、実際はより詳細なデータが得られたので、過去のデータを削除したにすぎず、これらの報道は、書き換え問題について事実に基づいているとは言い難い。原電は規制委側に不備を指摘された業務プロセスの再構築を急ぎ、審査会合の再開を目指している。

 「この状態が改善されるまで審査会合を開ける状況ではない」――。原子力規制委員会の石渡明委員は8月18日の会合で、こう発言した。原電は敦賀原発の敷地内にある断層が地震で動かないことを証明するために掘削調査を行ったのだが、その報告書の一部を書き換えたことに端を発した発言だ。

原子炉建屋真下のD-1断層とK断層

18日の会合で事務局の原子力規制庁は、原電の業務プロセスが適切ではなかったために報告書の書き換えが起きたと指摘。それを受けて規制委は、業務プロセスが信頼性を確保できると確認するまで敦賀原発2号機の審査を行わないと決めた。

敦賀原発の敷地内断層を巡る議論は、規制委が地質などの専門家を集めて開いた有識者会合にさかのぼる。現地調査などを経て、有識者会合は2013年に敦賀敷地内にある「K断層」と呼ばれる断層を「活断層の可能性が否定できない」と指摘。これが地震で動くと、敦賀原発2号機の原子炉建屋真下にあるDー1断層も連動する可能性があるとの見解をまとめた。

原電は2号機原子炉建屋の真下にあるDー1断層とK断層は連動せず、K断層も地震で動かないことを証明するために掘削調査を実施。K断層と原子炉建屋の間に10本の穴を掘って地層の試料を採取した。K断層は「逆断層」と呼ばれる動き方だが、試料を分析すると、K断層と異なる性状を示していた。逆断層の動き方ではなかったのだ。

地層の性状が異なれば地震が起きたときに連動するとは考えられない。そのため原電は、K断層と2号機原子炉建屋の真下にあるD-1断層は関連性がないと結論付けた。

これで規制委側の疑問を払拭できたはずだった。だが、規制委側は審査資料の一つである掘削調査の結果を示した「柱状図」に着目した。20年2月7日の審査会合で、以前に提出された記載内容の一部が書き換えられていたと指摘した。

顕微鏡観察でより詳細なデータを取得

原電が最初に柱状図の資料を規制委側へ提出した際は、掘削時に採取した試料を肉眼で観察し、採取地点ごとの評価結果を記載していた。その後、原電は試料の薄片を顕微鏡でつぶさに観察。性状を分析したところ、より詳細なデータが取れたため、肉眼観察したデータの一部を上書きする形で新たな評価結果を記載した。

掘削調査したところが逆断層でないため、かなり古い年代に形成されたものだろうと判断。「12万年前以降に地震で動いたもの」という活断層の定義から外れる有力な手掛かりを得たことになる。

しかし規制委側は、データの一部を上書きした点を問題視した。同日の審査会合で「記載内容を変更したと知らされていない」と指摘。その主張は「新たな分析結果が分かっても、元データと併記すべき」というものだ。規制委側は原電に、調査会社が作成した元の資料を提出するよう要求。同時に、新聞各紙などマスコミは一斉に原電の「書き換え問題」を報じ始めた。

20年6月4日の審査会合でも、原電は資料の上書きについて説明したが、規制委側の納得は得られなかった。原電側は上書き問題の原因を検討するため、審査に関わっていない社員も加えて総点検作業に着手した。20年10月30日の審査会合には元資料を提出し、点検作業の結果と今後の対応方針も説明。

規制委側は納得して審査の再開を決めたが、柱状図のデータを上書きしたことは原電の業務プロセスに問題があると考えた。そのため、原子力規制庁の検査部門が実施する規制検査で業務プロセスの状況を確認することにした。21年8月18日の会合で規制委は、規制検査で確認する項目を追加。それらの確認が取れてから審査を再開すると決めたのだ。

2号機真下の断層が活動性でないことが明らかになりつつある

  原電に不利な書き換えも

「データを書き換えた」と聞くと、自らの主張に有利となるような記載内容に変更したと思われがちだ。しかし、今回の件で原電が上書きしたのは25箇所のうち、7箇所はどちらかといえば原電に不利となるような変更だった。仮に恣意的な判断が働いたのなら25箇所すべてを自社の主張を裏付けるように書き換えるだろう。原電は、「自分たちに都合のいいような意図的な書き換えはなかった」と繰り返し述べている。

薄片観察で得られたデータの分析結果によると、2号機原子炉建屋の真下にある断層とK断層の関連性がないことが分かる。有識者会合で受けた疑惑も晴れることになる。規制委側に審査を速やかに進める意思があるのなら、記載内容の書き換えにこだわって審査を中断し続けるのは理にかなわない。

8月18日の規制委の審査中断の方針を受けて、原電は、「業務プロセスの構築を確認していただくための準備を早急に進め、早期に審査会合を実施していただけるよう全力で取り組んでいく」とのコメントを発表している。1日も早い審査再開が望まれる。

パンデミックから1年、CO2排出量は今


【ワールドワイド/コラム】

「二酸化窒素(NO2)の排出量が大幅に減少し大気汚染が改善した」「観光客が減りベネチアの運河がきれいになった」「デリーからヒマラヤ山脈が見えるようになった」―など、新型コロナウイルスの感染拡大により世界各地で経済活動が収縮したため、地球環境が大きく改善した2020年初頭。だが、コロナ禍由来の環境改善は、かりそめのものになる可能性がある。

国際エネルギー機関(IEA)は3月2日、20年のCO2排出量をまとめたレポートを公表した。レポートによると、20年4月に世界のCO2排出量が大幅に下落し、同年の排出量は19年から約20億t減少する史上最大の下落幅を記録。しかし、20年12月には前年同月比6000万t増を記録するなど、各国の経済活動が徐々に回復し始めエネルギー需要が増加したことで、21年のCO2排出量は19年の水準に戻る可能性があるという。

電力部門からのCO2排出量は、前年比4億5000万t減少しているが、IEAのビロル事務局長は「世界各国でクリーンエネルギーへの移行を加速しなければ、CO2排出量は過去の水準に戻る」と指摘。パリ協定で定められた2℃未満目標を達成するには、毎年約5億tの排出量削減が必要など、目標達成までの壁はまだまだ高い。

とはいえ、ビロル事務局長は「中国が野心的なカーボンニュートラル目標を設定し、米国の新政権はパリ協定に復帰して気候変動対策を政策の中心に掲げた。11月には国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)もあるなど、より強力な気候変動対策に向け世界中で勢いを増す」と展望を述べている。新型コロナ対策と気候変動対策の折り合いをどうつけるのか、各国首脳は難しい判断を迫られている。

【特集2】石炭火力の概念を覆す技術 世界へ東北復興をアピール


高効率石炭火力「IGCC」が営業運転への最終段階だ。福島県内に2カ所新設する発電所から東京に電気を送り、その技術力の高さと東北復興をアピールする。

石炭をガス化して効率的な発電を行う最新鋭のIGCC(石炭ガス化複合発電、54万kW)。東日本大震災や原子力事故からの産業の復興を目的とした福島イノベーション・コースト構想の一つとして、福島県いわき市の勿来IGCCパワーと同広野町の広野IGCCパワーの2カ所で稼働に向けた試運転が進んでいる。

IGCCは、微粉炭を1800℃の高温で熱することで石炭ガスを生成し、そのガスを燃焼してガスタービンで発電する。さらに、その際にできた600℃の排熱を排熱回収ボイラーに送り蒸気を発生させ、蒸気タービンで発電する。二つのタービンを組み合わせたコンバインドサイクル発電によって48%という高い発電効率が実現する︒2基の発電所は石炭をガス化する際のガス化剤として空気を使用する空気吹きIGCCを採用。開発はパイロットプラント、実証プラント、商用機に至るまで、一貫して福島県内で進められてきた。

脱炭素で必要性高まる 再エネ導入促進に寄与

一方、昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言以降、脱炭素に関する取り組みが注目されている。そうした中にあって、勿来IGCCパワーの遠藤聰之副所長はこう強調する。

「今後、再生可能エネルギーの導入を進めていくためにも、バルクでコンスタントに発電できる石炭火力は必要です。国内のエネルギー事情から見て、安定的かつ安価に燃料を調達できる石炭火力の存在は不可欠であり、従来型の石炭火力発電と比較してCO2を削減し、石炭を賢く使い続けることが可能なIGCCは温暖化対策に配慮した発電技術です」

二つの発電所が特徴的なのは、規模や設備、レイアウトなどを同一にすることで設計を共通化している点だ。これにより、「大幅なコスト削減を図っただけでなく、計画で先行する勿来の知見やデータを広野の建設に生かすなど、さまざまな面で効率化を実現しています」(遠藤副所長) 20年7月に定格出力での試運転を実現した勿来のIGCC発電所は現在、営業運転に向けて最終段階を迎えている。3月中旬時点で、東京五輪・パラリンピックは今夏の開催が有力。もし実現すれば、IGCCで作られた福島産の電気が首都圏各地の競技場へも送られる、日本の技術力をアピールする絶好の機会となりそうだ。

建設中の広野IGCCパワー

【舟山康江 国民民主党 参議院議員】農業の叡智でエネルギー創出


ふなやま・やすえ 1966年埼玉県越谷市生まれ。90年北海道大学農学部卒、農林水産省入省。経済局国際部、関東農政局勤務などを経て2000年退官。小国ガスエネルギー入社。07年参議院選で初当選。当選2回。

中央官庁の官僚として農政に携わったのち、結婚を期に地方LPガス会社の経営に参画。

国会では農業とエネルギー政策の最適解を探し、地方創生に情熱を燃やす。

生まれ育ちは埼玉県だが、母の実家が北海道で農業を営んでいたこともあって農業に興味があった。また、高校時代にはアフリカの飢餓救済に向け、世界中のミュージシャンがキャンペーンを行った「Band Aid」の活動などをきっかけに、世界の食料問題にも関心を持つようになる。

進路は、「命の源は食料、そして農業。厳しい環境下でも生育可能な農作物を作ることに貢献したい」との思いで北海道大学農学部に進学。卒業後は、農林水産省に入省し、本省で経済局国際部や大臣官房に勤務したほか、経済企画庁や関東農政局、近畿農政局などに勤務。「官庁での仕事は忙しくもやりがいがありました」と振り返るように、時には国際交渉の場に立ち会うなど農政全般に携わった。

しかし、仕事を続ける中で、「農業政策に携われるとはいえ、自分が描く理想の農業と政府が進める方向の違いに悩んだり、自分をはじめ官僚の限界を感じたこともありました」と振り返る。

農水省には10年間務めたが、結婚を機に退官。夫の地元である山形県小国町への移住を決意する。夫の家業はLP販売会社の小国ガスエネルギー。これまでのキャリアとは全く無縁のLPガス業界に足を踏み入れた。小国町では商工会の会合や地域のイベントにも多数参加し、また自身もLPガスの各種資格を取得しながら事務・接客業務にも携わった。

こうした活動を行う中、「これまで、大規模偏重型の農業政策が続いたことで、地方の社会を支える小規模農家が圧迫される現実を見た。これは経済でも同じことが言えて、中小企業は苦境に立たされている。地方を創っているのは中小企業で、地元で頑張る方々の暮らしを支えたい」との思いが芽生えた。すると、地元政界関係者から「選挙に出ないか」との誘いがあり、2004年の参院選で民主党より山形選挙区から出馬するも落選。07年に同じ選挙区で再挑戦し、初当選を飾る。

09年には農水大臣政務官を経験したほか、12年に民主党を離党して「みどりの風」の共同代表なども務めた。現在は国民民主党に所属し、党の政務調査会長および農林水産調査会長を務めている。

LPガスは地域を支える大事な資源 地方にはエネルギーが眠っている

注力する政策課題は農業政策だ。「農業は地方の経済や雇用の受け皿であるだけでなく、治水や減災にもつながる」と、一次産業の発展がほかの産業の発展にも資すると主張する。

「LPガスは地域に根差した大事なエネルギー」と強調し、「電気や都市ガスと比べても災害からの復旧が早いし、分散型のエネルギーとして活用することもできる」と、LPガスのメリットを説明する。

会社経営に携わり、深く感じ入ったのが、「LPガス会社は地域を支える大事な企業である」という点だ。「私たちの仕事は燃料を売ることだけではなく、地域を見守るという役割も持っていると思う。軒先を回り、需要家と触れ合うのは一見非効率にも見えるが、地域をつなぐ意味でも大事なこと」

過去にも夫がLPガスの配達を行っているとき、郵便受けに大量の封筒などがたまっている家があった。もしやと思い宅内に上げさせてもらうと、体調を崩した需要家がいた、という経験もあったという。

「カーボンニュートラル化」が叫ばれる中、エネルギー業界にも脱炭素化の波が押し寄せ、LPガス業界でも難題に立ち向かおうとさまざまな取り組みがなされている。「設備の高効率化でCO2排出量を抑制することはもちろん、国としても研究開発投資を積極的に行い、既存の技術に新たな革新的な技術を加え、官民挙げて課題解決を図るべきだ。古河電工が家畜のふん尿からLPガスを精製する技術を開発したことは、循環型社会の一つのモデルになり得るのではないか」と語った。

また、政府は現在、再エネの拡大に向けて、内閣府にタスクフォースを設置し、営農をしながら農地の上に太陽光パネルを設置する、いわゆる「ソーラーシェアリング」の拡大に向けた課題について議論を進めている。

こうした動きについて、「農業用水路を使った小水力や、もみ殻を使ったバイオマス燃料など、農業とエネルギーは親和性が非常に高い存在。地方にはまだまだエネルギー源が眠っている」と評価する。だが一方で「農地は生産基盤であり、その根幹を壊さないことが重要。一定の要件を設けるなど、再エネと農業生産とのバランスをしっかりと取りながら行われるべきだ」と、慎重な議論を求めた。

座右の銘は「足を知る」。「無いものねだりからあるもの探しへ。知恵を絞り、調和を求めることが持続可能性にもつながる」との発想で課題解決に臨む。魅力ある地方や、さまざまな産業が交差する農業の実現に向けて、これからも日々情熱を燃やし続ける。

菅首相が施政方針演説で言及 「炭素価格付けを検討」の波紋


昨年のカーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言に続き、菅義偉首相がカーボンプライシング(CP)にも言及した。1月18日に衆参両院本会議で行った施政方針演説において、実質ゼロに向けた新たな方針として、2035年までに新車販売で電動車100%を目指すことなどと併せ、「成長につながるカーボンプライシングに取り組む」と述べたのだ。

施政方針演説で、菅首相が新たな方針としてCPに言及した (提供:朝日新聞社)


首相は昨年末、梶山弘志経済産業相と小泉進次郎環境相にそれぞれCPの検討を指示。その直後から、小泉氏は「来年(21年)のうちに一定の取りまとめを得ることを目指したい」と意欲を示していた。環境省は専門チームを立ち上げ、2月にCPに関する小委員会を再開させる予定だ。

同省はこれまで、CPの議論は産業界とも丁寧に話し合い、細く長く議論を続ける方針を取ってきた。だが、小泉氏が成果をアピールできる次の玉としてCPに目を付け、早期の決着を求めていることで、省内では今後の進め方について意見が割れ始めている模様だ。

一方、経団連の中西宏明会長が「拒否するという方向で出発すべきではない」と語るなど、経済界も一部では「CPには断固反対」という、かつての姿勢を軟化させるような雰囲気も漂う。だが、あるエネルギー業界関係者は「官邸は本質的な勘違いをしているのではないか。コロナ対応だけでなくこの問題でも迷走すれば、サービス業から製造業まで産業総崩れになる。こんな状況下で成長につながるCPの制度設計が本当に可能なのか」と訴える。

国民負担の増加は不可避 環境省と経産省の着地点は

一部報道では、現在の地球温暖化対策税率のCO2t当たり289円の4倍、同1000円超という水準が一つの目安になるのではないかと指摘されている。だが、電気料金だけをみても固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金に加え、再エネ主力化に向けた送配電網の増強コストが、今後国民にのしかかってくる。

「例えば、部門ごとにトータルの電気料金はいくらまで許容できるのかをまず整理し、そこからCPの水準を導き出すアプローチでなければ、議論は平行線のままだろう」(前出の関係者)

一方の経産省は、17年にまとめた長期地球温暖化対策プラットフォーム報告書が議論の出発点となりそうだ。当時掲げていたのは実質ゼロではなく50年80%減目標だが、すでにパリ協定は発効済みの段階だ。

この報告書によると、日本はエネルギー諸税だけでもCO2t当たり約4000円と、炭素価格全体では国際的に高額な水準であり、追加的なCP導入は不要と結論付けた。また昨年の実質ゼロ宣言後も、ある経産省幹部は「CPには反対で、さらなる負担を経済界に求めるようなことはしない」と口にしている。  

日本経済の悪化に歯止めがかからない中で、増税につながりかねない政策に国民の理解が得られるとは考え難い。環境省と経産省が今後どのように落としどころを探っていくのか、注目される。

【特集2】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用


電源開発 竹原火力発電所

低炭素化に向け石炭火力の運用に新しい視点が必要となってきている。再エネ大量導入を見据えて負荷調整機能を高めながらバイオマス混焼も進める。

2020年6月、広島県竹原市の竹原火力発電所で約6年の歳月をかけ建設していた新1号機が営業運転を開始した。

新1号機は、出力25万kWの旧1号機と出力35万kWの2号機の合計60万kWと同容量の出力を持つ。

竹原火力新1号機と3号機の全景(提供:Jパワー)

蒸気条件として超々臨界圧(USC)を採用し、発電所の熱サイクルを最適化して向上させ、主蒸気温度600℃を実現(再熱蒸気温度は630℃、主蒸気圧力は27MPa)。微粉炭燃焼の火力発電設備として世界最高水準となる発電端効率48%を達成している。

さらに最新鋭の排煙脱硝・排煙脱硫・集じん装置の導入で、新1号機は旧1号機・2号機に比べ硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx)・ばいじんを大幅に削減。高効率の達成と最新鋭の環境対策設備の導入は、地域社会への環境負荷低減をもたらしている。加えてCO2排出量を大幅に削減。発電電力量当たりの排出量を約2割削減している。

また、さらなる低炭素化を実現するために木質バイオマス燃料を積極的に活用することにも注目したい。一般的には数%程度の混焼率であるが、竹原火力では10%の混焼率を達成すべく高い目標を掲げている。

今後も導入拡大が進む再生可能エネルギー電源の出力変動にも柔軟に対応する、高い運用性能を実現する。

CO2削減に挑戦する火力 エネルギーの安定供給のために

新1号機の建設は14年に始まった。旧1号機(1967年運転開始)、旧2号機(74年)は設備を廃止するまで可能な限り稼働させつつ、3号機(83年)の運転にも支障をきたさないよう建設を進めてきた。廃止設備を運転させながら建設を進める「ビルド&スクラップ方式」を採用し、通常の建設工事に比べ1.5倍の工期をかけながら、難易度の高い建設をマネジメントしてきた。その間、定期的に工事状況についての説明会を実施し、刊行物を発行するなど地域の理解を得ながら工事を進めた。

民家との距離も近い立地であるため、旧1号機の運転開始から半世紀たった現在も変わらず環境対策に取り組み、地域住民とのきめ細かい情報共有に努めている。

竹原火力発電所は半世紀を超えてなお地域とともに歩み、高効率石炭火力の世界最高技術でCO2削減に取り組み、国内の安定供給を支えていく。

情報発信の弱点 PDF依存から脱却を


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOKIA代表

パソコンでお馴染みの「PDFファイル」に、日本の政府や企業は依存し過ぎだと思う。

日経6月6日朝刊「IT競争力 コロナが試す」と「日本はデータ貧困国 コロナ情報収集・開示の手際悪く 迅速な対策の足かせに」が、警鐘を鳴らしている。

記事は「危機対応で各国政府のIT(情報技術)競争力が試されるなか、日本の出遅れは際立つ。接触確認アプリの開発は遅れ、給付金のネット申請では障害が頻発する」と憂える。さらに「対策に必要なデータが見劣りする。政策、経済活動、医療が場当たり的となり、民間の創意工夫も引き出せない」と手厳しい。

具体的には、「(感染者数などのデータを)コンピューターで加工しやすい形式にまとめている自治体がある一方、PDFファイルを載せるだけの自治体もある。これでは迅速な比較・分析はできない」と問題点を挙げる。

PDFは、印刷用のデータ形式だ。書籍や報告書の作成には便利だが、書かれた内容をネット経由で読み取ったり、加工・分析したりするのには向かない。

残念な例の一つは、感染最多の東京都の対応だ。感染データはPDF形式で都のサイトに公表されるため、市区町村ごとの感染者の増減などを追いにくい。

評論サイト「マスメディア報道のメソドロジー」は手動で市区町村データを分析した。その結果、感染は一貫して新宿、渋谷、港の3区に集中していたが、全域の自粛で甚大な経済損失が出た。こうした対策評価も手間がかかる。

既にPDF利用を抑制する国は多い。その理由を、例えば英国政府のサイトは「パソコン画面のサイズでは読みにくい」「どこに何が書いてあるか分からない」「データを活用しにくい」などと列挙する。日本は真逆だ。コロナ対策を含めて、PDFが政府サイトに溢れる。企業も変わらない。

PDF依存は、2011年の東日本大震災でも問題視された。例えば東京電力管内で計画停電が実施され、ネットでの情報提供が試みられたが、混乱した。記載方法がバラバラのPDFで公表されたうえ、変更が相次いだためだ。

東電の情報提供にボランティアで協力したグーグルの「クライシス・レスポンス」サイトには、「情報化というのは、紙で行っていた作業を単純にコンピュータに置き換えるだけでは不十分だ」との訴えが今も残る。以来10年近く、ほとんど進歩がない。

情報発信の弱点にはメディアもつけ込む。東京新聞18年8月20日「福島第一のトリチウム水 基準超す放射性物質検出」はその一例だ。政府がこの問題で公聴会を開く直前に出た。

トリチウム水の海洋放出は世界の原子力施設で珍しくない。東京電力福島第一原子力発電所でも有力な処分法だが、記事は「(トリチウム以外の)放射性物質が除去しきれないまま残留」と批判的に報じた。公聴会では、放出に反対する意見が相次いだ。

実は、この4年前の14年に公表済みの事実だった。原子力規制委員会が同年、被曝低減のため貯蔵タンクの水から出る放射線量を下げるよう指示し、東電は浄化装置をフル回転させた。時間をかければ排水基準まで除去できるが、スピードを優先し、残留物が少し残る「貯蔵水準」に留めた。排出時には当然、基準まで浄化する。経緯はPDF書類として、東電サイトに掲載されていた。

まずPDF依存を脱したい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【原子力】六ヶ所工場「合格」 将来に役立つ知見


【業界スクランブル/原子力】

資源小国日本は原発から出る使用済み核燃料を再処理し、再利用可能な資源を取り出して有効活用するとともに、有害なごみを高レベル廃棄物として処分する原子燃料サイクルを原子力政策の柱としている。その中核施設である六ケ所再処理工場が5月中旬に原子力規制委員会の安全審査に事実上合格した。原子燃料サイクル政策にとっては大きな一歩だ。

六ケ所工場の規制委への申請は2014年初頭だった。その規制委は地震や津波などを想定し、さまざまな角度から安全性を評価した。6年余りも費やしたのは、審査実績の多い軽水炉と違い、規制委にとって前例・経験のない、手探りの審査であった証拠ではなかろうか。そこで得た知見は将来役に立つに違いない。次のサイクル施設がわが国に必要であり、その具体化に今回の知見が必ずや役立つと考えるからだ。

例えば、六ケ所工場で取り出した有用資源を再利用することによってウラン資源は2割程度節約され、資源の有効利用・廃棄物の低減に役立つ。だが、原子燃料サイクルのエースは高速炉である。高速炉ではウラン資源の利用効率は飛躍的に高まり、核兵器の原料にもなり得るという懸念のつきまとうプルトニウムの有効利用・燃焼は思いのままであり、さらに核廃棄物の無害化もこなしてしまうという点でメリットは枚挙に暇がない。

ところが、わが国はこの高速炉について、原型炉「もんじゅ」が本質的技術の面ではなく、むしろ社会対応性の問題でつまずき、結局廃炉が決定した。政府は経済産業省を中心にフランスとの連携による高速炉開発を模索したが、結局、フランスの高速炉計画、アストリッドがついえた今、わが国は高速炉開発の駒を持っていない。ロシアがBNというタイプの高速炉開発で商業炉レベルまで達し世界のトップを走っている現在、技術立国の看板を掲げるわが国がいつまでも指をくわえていていいわけはない。いつまでも六ヶ所再処理合格に浮かれていないで、わが国は政府を中心としてさらなる高み、高速炉開発を目指すべきだ。(Q)

【住宅】自家消費の蓄電池 支援の正当性は


経産省は6月5日に公開した「エネルギー白書2020」の中で、住宅用太陽光発電の固定価格買い取り制度(FIT)の終了が、2023年に累計165万件、670万kWに達することに言及しつつ、今後は余剰売電を前提としたFITから、FIT対象外となった自立電源と蓄電池や電気自動車(EV)を組み合わせて自家消費率の向上を図っていくことが、新しいZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のあり方として検討されるべきとしている。

増えていく卒FIT太陽光に対応し、今年は蓄電池を売りたいメーカーや事業者が群雄割拠している。しかもテスラの「Powerwall」という格安の黒船が予約販売を開始しており、激しい競争が予想されている。

一方、住宅用太陽光発電に蓄電池を追加する際の支援政策としては、「災害時に活用可能な家庭用蓄電システム導入促進事業費補助金」という補助制度がある。18年に発生した北海道胆振東部地震による北海道全停電を受け整備された。公募は昨年の11月末でいったん終了。現在は6月末が締め切りの追加公募を残すのみで、以降追加の予定はないという。

もともと同制度は時限的なもので、しかもその目的は災害対策であるので、必ずしもエネルギー白書に示されているような平時の自家消費を目的としたものではない。終了によって勢いづくかと思われた家庭用蓄電池市場にブレーキが掛かるかもしれない。

制度の終了に伴い、追加の支援を求める声があるが、そもそも太陽光発電の自家消費を目的とした家庭用蓄電池の価値が、その蓄電池の価格に見合うものなのか、公的な支援に値するものなのか、という疑問もある。

多くの場合、節電効果で蓄電池のコストを回収することは困難であり、さらに蓄電池がなくても電力事業者による電力の買い取りや仮想預かりのサービスがあるので、必ずしも蓄電池を購入する必要はない。万が一のための非常用電源としても、蓄電池を購入可能な個人のみを支援することは、公平性の観点からも問題がある。(T)