【特集2】米国発の次世代エネルギーに挑む 全てがそろうキャメロン事業
【三菱商事】
東日本大震災以降、シェールガス導入という、日本のLNG調達に大きな役割を果たした米国キャメロンプロジェクト。そんなプロジェクトを、今後の日本のカーボンニュートラル(CN)時代を支える「次世代型エネルギー資源」の供給源へ進化させようと、三菱商事が、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスと連携しながら奔走している。挑む新資源は「e―メタン」だ。2030年に世界に先駆けて日本への導入を目指している。
なぜキャメロンか―。三菱商事次世代エネルギー部門水素事業開発室の嶋田大士統括マネージャーは次のように説明する。「ルイジアナ州・キャメロンの西に位置するテキサス州は再エネの発電量が全米一で、さらなる再エネ導入とともにクリーンな水素の製造が期待できる。加えて原油増進回収(EOR)向けにCO2導管が整備され、かつ両州はアメリカの工業地帯であり大気放散されているCO2を原料として活用できるポテンシャルもある。また、e―メタンをLNGとして出荷する既存設備も利用可能」。つまり、e―メタン開発に必要なピースが全てそろっている。一連の設備は比較的新しく、50年のCNを目指す上で、e―メタンのサプライチェーンを構築するには最適地なのだ。
かつ拡張性もある。都市ガス3社の供給量の1%相当の年間1億
8000万N㎥の生産を目指すが、さらに増やすことも可能だという。
一方、水素やCO2は、現状では多くのプレイヤーが自由に売買可能なマーケットが存在する商材ではないことから、多様なポートフォリオを考えて水素やCO2を調達し、e―メタンを生産する計画だ。「e―メタンが世界中に広がるためのモデルとなるよう、ポートフォリオを構築したい」(同)
キャメロンが1号案件へ まずは値差支援が必要
実際の運搬は、物理的に天然ガスとe―メタンを分別して運ぶわけではない。天然ガス・LNGの既存インフラに混入されるe―メタンの数量や環境価値を示す「証書」を発行し、LNGとともに受け渡す想定だ。ただ、証書作りには国内外の多様な関係者の協力が不可欠だ。まず現地で生産したe―メタンに米国で証書を発行し、さらに日本で利用する際にその証書を元にCO2排出量がゼロと認定される必要がある。こうした国際的な仕組みは未整備で、日本、および調達先の国々がウィンウィンとなるような環境整備に向け、今議論を深めているところだ。
当然ながら、一連のプロジェクトには多大な費用が掛かる。「e―メタンと現在の都市ガスの値差をカバーし製造者と最終ユーザーの双方を支援する仕組みが必要。いずれにせよ、国とわれわれ民間企業が連携して課題をクリアする必要がある。そうした取り組みを踏まえ、このキャメロンからのe―メタンを第1号案件として世界に先駆けて日本に導入し、合成燃料全体の普及に寄与したい」(同)
日本が世界で初めてアラスカからLNGを調達して本格的な商業利用が始まったのは1969年のこと。その際、黒子として支えたのは三菱商事だ。50年以上を経て、再び新しい資源の調達に同社は大きな役割を果たす。
