通信事業に伴う電気を「生再エネ」に 電力多消費企業として脱炭素化へ役割

2023年9月6日

【ソフトバンク】

事業活動に伴う電力の安定調達と脱炭素化の両立は、とりわけ通信事業を継続する上で避けられない課題だ。ソフトバンクは、再生可能エネルギーとAIを組み合わせ、その難題に挑もうとしている。

SBパワー代表取締役社長兼CEOでもある中野明彦氏

電力の需給ひっ迫や価格高騰リスクが顕在化する中、国内企業にとって事業活動に伴う電力をいかに安定的に調達し、かつ脱炭素化に貢献できるかが事業を継続する上での重要なテーマになろうとしている。いち早くその難題に挑もうとしているのが、通信事業大手のソフトバンクだ。

同社は今年5月、自社の通信事業で必要となる電力を、非化石証書を使用せず、実際の再生可能エネルギー発電で調達していく方針を打ち出した。

同社の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量は年間約70万t(CO2換算)。このうち半分以上を携帯電話基地局で使用する電気が占めるものの、20年以降、電力小売り事業者であるSBパワーが供給する再エネ電気メニューへの切り替えを進めるなどで、既に基地局に使用する電力の7割以上を再エネで賄うようになっているという。

ただこれは、非化石証書の購入などによって「実質」再エネ化した電気である。同社が目指すのは、通信事業で使用する電力量に相当する年間約20億kW時を追加性のある「生再エネ」で賄うことだ。 その調達スキームは、再エネ発電事業者とSBパワーが20年間の長期調達契約を結ぶというもので、オフテーカー(引き取り手)として再エネ開発プロジェクトを推進していく狙いがある。

さまざまなリスク回避も 自ら電気を調達する重要性

ソフトバンクのエナジー事業推進本部本部長であり、今年4月に発足したグリーントランスフォーメーション(GX)推進本部本部長を兼務する中野明彦執行役員は、「電力多消費の通信事業者として、自ら使う電力を自ら確保していく必要がある」と、同社の電力調達戦略の根底にある強い問題意識を明かす。

今後、生成AIや自動運転などが普及し社会のデジタル化が進展すれば、データ処理に必要な計算能力の増大に伴い、通信事業における電力消費量も飛躍的に増大する可能性がある。20年という長期にわたって固定価格で再エネを調達することは、脱炭素化を実現するだけではなく、需要が伸びる局面においても、電力の需給ひっ迫や価格高騰といったさまざまなリスクにさらされることなく、事業を安定的に継続することにもつながるというわけだ。

ただ、太陽光や風力といった自然変動型の再エネは、出力が不安定でどうしても需要に対して過不足が生じてしまう。

そこで同社は、単に再エネを調達するのではなく、得意分野であるAIやビッグデータ分析能力を活用することで、基地局やデータセンターに備えているBCP(事業継続計画)用蓄電池活用を含めた、最適な再エネの電源ポートフォリオを構築できるよう実証を進めている。

「蓄電池を活用するに当たっては、劣化を抑えながら耐用年数しっかりと使っていくことが経済性の面で非常に重要。再エネは気象条件で発電量が変動する中、蓄電池による充放電や、電力小売り事業を手掛けるからこそ可能な需要側のデマンドレスポンス(DR)をどう組み合わせれば、事業が経済的に成り立つのか。実際に取り組まなければ分からないことが多くハードルは相当高いが、ベストプラクティスを追求していきたい」(中野氏)考えだ。

家庭の省エネ行動定着化へ アプリ普及1千万世帯も

こうした事業で使用する電力の再エネ化の取り組みに加え、需要側では家庭分野の脱炭素化の取り組みにも力を入れている。それを実現するためにソフトバンクが注力するのが、20年7月に提供を開始したSBパワーによる家庭向け節電サービス「エコ電気アプリ」を通じた、一般の需要家の環境・節電意識の醸成だ。

翌日の電力需要予測や市場価格などを踏まえて同社がDRを発動し、「節電チャレンジ」として同アプリを通じて利用者に節電への協力を依頼。それに応じて利用者がエアコンの温度設定の調整などの節電に取り組む。

アプリでCO2排出削減量を確認できる

重要なのは、節電要請が繰り返し発動された際にいかに確実に協力を得られるか。当初から、節電チャレンジに成功すると報酬としてPayPayのポイントを付与しているほか、昨年度、環境省の「食とくらしの『グリーンライフ・ポイント』推進事業」に採択されたのを機に、節電によるCO2排出削減量の見える化や、CO2排出削減量をランキング化し上位の利用者に追加でポイントを付与するなど、節電への意欲を維持するための工夫を凝らしてきた。

特筆すべきは、同社単独ではなく、九州電力、東京電力エナジーパートナー(東電EP)、東邦ガス、東北電力、北陸電力、さらに今年7月からは中国電力と、電力小売り事業者の垣根を越えて広く家庭向け節電サービスを普及させていこうとしている点。既にSBパワー単体で120万世帯が同アプリに加入しており、全社を合わせると23年度中にも500万世帯に拡大、いずれ1000万世帯も視野に入る。

脱炭素社会を実現するには、今後、家庭分野でのCO2削減は大きな課題となる。「エコ電気アプリ」はそもそも、家庭で節電やCO2削減に長く取り組んでもらうためのサービスとして開発したもので、1000万世帯で省エネ、省CO2のための行動を定着、習慣化してもらうことができれば、その実現に大きな一歩となることは間違いないだろう。

中野氏は、「通信事業は電力多消費産業であるとの認識の下、グループ全体で発電側と需要側双方で脱炭素化に正面から取り組んでいきたい」と、強い決意を示す。