【電源開発 菅野社長】脱炭素と安定供給両立 より難しい局面こそ 果敢にチャレンジへ

2023年9月2日

主力担う洋上風力 土木技術は強み

志賀 海外での火力発電事業の感触はどうでしょうか。

菅野 昨年、当社と伊藤忠商事、現地のアダロパワー社とのパートナーシップによるインドネシアのバタン発電所(石炭、超々臨界圧)が運転を開始しましたが、今後アジアでも従来型の石炭火力プロジェクトを新規で行うことは難しいと感じています。他方、ガス火力は引き続きチャンスがあり、既設のタイのウタイガス火力発電所や、昨年運転開始した米国のジャクソン火力発電所なども、長く運転をしていくことになると思います。

 ただ、今後はアジアでも再エネ電源が開発の主力となっていくでしょう。当社でも、フィリピンの二つの水力発電所プロジェクトに参画しました。豪州では、風力や揚水、最大200万kWの計画の太陽光とバッテリーを組み合わせたプロジェクトにも取り組むことにしました。さらには米国などでも再エネ電源の一層の開発を検討していきます。

 特に再エネは国ごとに支援制度がまちまちで、政策を踏まえつつ当社の強みをどう生かせるか、という視点で考えています。

志賀 国内では今後再エネの主力を担うのは洋上風力で、6月末に政府による一般海域の入札第二弾が締め切られました。また、港湾区域では貴社は25年度の運開を予定する北九州響灘洋上ウインドファームに参画していますが、今後の洋上風力への取り組みは。

菅野 今後の取り組みを考える上で、本年3月に着工した響灘洋上案件の着実な遂行を通して経験・知見を深めることが非常に重要になります。一般海域については公募ルール上、個別地点の参加・不参加や取り組み内容などについては申し上げられませんが、国内外で得た経験・知見を生かし前向きに取り組みます。

 洋上風力における当社の強みを挙げるとすれば、経験豊富かつ優秀な土木技術者の多さです。洋上では着床式でも浮体式でも、土木系のエンジニアリング能力が求められます。その点、当社の歴史は水力のダム建設から始まっており、土木技術をバックグラウンドに持つ社員の割合が他電力会社より高い点は有利かと考えています。

英国トライトン・ノール洋上風力発電所

系統増強の実施計画 取り組むべき使命

志賀 そして再エネ主力電源化に向けて求められるのが広域系統増強です。政府は今春、その整備計画「マスタープラン」を取りまとめました。

菅野 当社グループの電源開発送変電ネットワーク(Jパワー送変電)はこれまでも地域間連系線の開発・運用を長年担っており、直流送電などの技術が蓄積されています。マスタープランは、Jパワー送変電の知見を生かすチャンスであり、取り組むべきミッションでもあると考えています。

 ただ、相当大規模なプロジェクトになるので、初期段階での地元の調整、それから設備投資の資金調達をどうするのか。一般的に送電事業は30年程度で初期投資を回収するスキームですが、他方で小売りと発電は完全に自由化されており、そうした企業グループとして新たなネットワーク投資に対応できるのか。こうした難題についてはある程度国の関与が必要で、それを踏まえ民間としてどこまでリスクを取れるのか、判断することになります。

志賀 例えば、複数の事業者で一つの企業体をつくるイメージなどが浮かんできます。

菅野 仮にそうだとしても、やはり初期投資の問題があります。例えばケーブルの発注だけでも数千億円規模になるのかと思いますが、複数社で等分のリスクを負うような形では民間企業の意思決定は簡単にはできません。課題が多々あるからこそ、再エネ主力化政策の一環として、必要に応じた国のイニシアティブが欠かせないのです。

関門連系線(提供:電源開発送変電ネットワーク)

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