【コラム/4月26日】福島事故の真相探索 第3話
この高温部分の落下時刻が、圧力容器の底に穴が開いた12日午前2時半だ。午後3時半の1号機爆発まで、半日以上の時間がある。燃料棒であれ、三元素共晶体であれ、飛び散った発熱体は、まだ温度の低かったペデスタルの床や格納容器の雰囲気で冷却されて、数時間後には格納容器の飽和温度に近いくらいまで下げたと考える。従って、先行落下した炉心の高温部分は、輻射(放)熱によって冷却し、ペデスタルの壁の破損には関与していないと判断できる。
となると、圧力容器内に残った温度の低い炉心燃料棒の挙動について調べねばならない。先行落下した高温部分の燃料棒を、平均温度より少し高い1500℃以上とし、量的には炉心燃料の3分の1と仮定して話を進める。
その結果、残留炉心燃料は炉心の約3分の2となり、その温度は1200℃から1500℃くらいの範囲となる。残留炉心の温度はそれほど高くないので、燃料棒の形体はまだしっかりと保たれている。また、この時刻の崩壊熱は0.6%に下がっているので、新たに高温部分を作るほどの発熱ではない。残留炉心の燃料棒は、輻射熱で熱された暖かい圧力容器の中で、極端に緩やかな温度上昇をしていたのであろう。この状態は、炉心注水の始まる午前5時ごろまでは、安定して持続したと考えられる。
残留炉心の任務は、ジルカロイ・水反応を再発させることである。非常に断定的に書いたのは、反応の再発がなければ、午後3時半の1号機爆発が起き得ないからだ。これは事実に反するから、残留炉心にジルカロイ・水反応が起きたことは間違いない事実だ。
反応の再発にどれほどの燃料棒が関与したか、この検討に入らねばならない。
先行落下した高温部分の燃料棒はペデスタルの床上で冷えたから、除外される。次に、4~5年前に実施された、圧力容器内に残る燃料の測定のためのミューオン*2検査が、1号機の炉心外周部分に燃料が残っている可能性を示唆していた。この燃料棒を全体の1割と考えて除外すれば、ジルカロイ・水反応に関与した残留燃料棒は炉心全体の5割強から6割弱となる。
炉心全体のジルカロイ量の総計は32トンであったから、16トンから19トンのジルカロイが、反応の再発に使われたということになる。
*1 材料を高温で一定荷重(応力)の状態に保ち続けると、時間とともに塑性変形が進行し最終的に破壊する現象。
*2高い透過力を持つ素粒子ミューオンを用いる事でX線では見る事が原子炉などの厚い対象物の内部を非破壊でイメージングする技術。