【コラム/4月19日】福島事故の真相探索 第2話

2024年4月19日

石川迪夫

第2話 覆される炉心溶融の「定説」

壁面損傷の理由を探る

写真Bは、ペデスタルの中央にカメラを置き、事故がつくったペデスタル壁の損傷、空洞を撮影した写真である。真ん中に写っている林立した白くて短い棒は、空洞に残る鉄筋の残骸である。壁のコンクリートは、全面にわたって高さ1mくらいの空洞が穿たれたように掘られ、中の砂利は流出して空洞となり、鉄筋だけが残っている。これまで見たことがないコンクリートの壊れ方で、周囲に存在していた砂利は一体どこへ行ったのか、まだ分っていない。なお、写真Bの左下にある大きく四角い物体は不明である。

写真B ペデスタル内部空洞
提供:IRID 画像処理:東京電力ホールディングス

損傷した壁の高さは2mともいう。だが、林立した鉄筋の長さから見て2mもあるとは見えない。しかし、撮影関係者の全員が、ペデスタル壁の破損は壁全面にわたってほぼ一様であるとの話なので、破損の高さは1~2mくらいと、あいまいなまま話を進める。

映像の説明はこれで終わりだが、壁の破壊理由について少し考察を述べておこう。

破壊された壁の高さが全面にわたってほぼ一様であるとの話から推して、破壊の原因は爆発とか叩き壊したといった物理的な力による動的な破壊ではなく、酸やアルカリの浸蝕のように液体が関与した静かな破壊に見える。

だが、格納容器の中には酸やアルカリといった薬品類は一切ない。また、1号機の事故では原子炉の冷却水は全て蒸発して、12日午前5時まで格納容器の中に水は一滴も入ってない。原子炉冷却水が行った仕事と言えば、原子炉で蒸発した蒸気が格納容器のウエットウエルに入って水を蒸発させ、その蒸気で格納容器圧力を6気圧程に上昇させたことだけである。原子炉の冷却水が、ペデスタルの壁の損傷に関与したとは考えられない。

第3話以降に詳しく述べるが、この損傷の原因は、12日午前5時46分から始まった炉心注水がペデスタル床面に溜まったところに炉心から高温の燃料棒が落下して、被覆管と水との発熱反応によって壁面が損傷したものだ。このことを覚えておいてもらって次の説明に進む。

制御棒ハウジングの落下状況

写真C-1C-2は、制御棒駆動機構ハウジングの落下写真である。

1号機の制御棒駆動機構は約100本というが、ペデスタル内に落下が確認されているハウジングは、壁周辺の十数体に過ぎない。炉心中央部に存在していた制御棒並びに関連の部材の残骸はまだ確認されていないが、高温の炉心燃料や溶融した炉内構造物の下落に伴って、その熱で溶融されていったのではないかと思われる。だがその証明は、後日を待たねばならない。

壁周辺に立った状態で撮影された十数体のハウジングは、一本一本が別個に落下したと思われる写真である。これとは別に、3本のハウジングが集団で落下したのではないかと疑われる一組の写真が撮影されている。この写真は床上に転がっているのか、途中の位置に引っかかっているのかが不明だが、このように落下状況が全く違っていると考えられる写真が、二枚残されている。

写真C―1は、制御棒ハウジングが一本ずつ別個に落下したと見られる写真である。ハウジング背後にある黒色部分はペデスタルの壁面と註釈記載があるので、落下したハウジングは床上に転がっているのではなく、壁にもたれて立っている状態である。

一本々々の別個の落下ではなく、数本が一緒になって落下し、落下の衝撃でバラバラに倒れたとも考えられるが、ここでは一本ずつの落下と見て話を進める。

なお、制御棒駆動機構の長さは4m程である。ペデスタルの内径は5mであるから、制御棒に取ってペデスタルは広い部屋ではなく、寸が詰まって転がり難い空間である.これがハウジングが立っている原因であるのかも知れない。

写真C-1 制御棒ハウジングの落下
提供:IRID

写真C-2は、3本のハウジングが一体となって集団で落下したと見られる写真である。ハウジングの全長が写っていないので、正確な判断とは言えないが、ハウジングの底を形成する盲フランジ3枚が全て同じ方向を向き、かつ同列に並んでいることに加えて、3本のハウジングの間隔が平行してほぼ同じであるように見えることから、3本のハウジンングは体形を崩さず一体となって落下したと思われるのである。

写真C-2 3本一組で落下したとみられる制御棒ハウジング
提供:IRID

写真が示した「動画」の誤り

写真C-1写真C-2の、制御棒ハウジングの落下状態が違っていることは、一目瞭然であろう。もし、写真C-2の落下状態が事実とすれば、液化した溶融炉心が圧力容器を流れ落ちて容器の底を溶かすという、これまで言い伝えられてきた炉心溶融についての定説が崩れる。圧力容器の底が溶融すれば、溶けた場所から制御棒は一本ずつ脱落していくはずだから、3本が形体を崩さず一体となって落下するという説明はできなくなる。

仮に底板が完全に溶融していない状態で3本一組となって落下したと仮定しても、圧力容器の底からペデスタルの床上までは高さは8ⅿも離れているから、高温で柔らかくなった底板が落下の衝撃に耐えることは考えられないから、3体一組の形状が保たれた状態で残るということは考え難いのである。

3本一組の制御棒の落下写真は、上述のように、従来の炉心溶融についての定説を覆す可能性を持っている。この問題は第3話でさらに詳しく述べるが、溶融炉心が流れて落下するというこれまでの動画は、輻射熱の大きさから考えても誤りであると、僕には思える。

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いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島事故の真相探索~はじめに~

・福島事故の真相探索 第1話