【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話
炉心注水で反応が復活
炉心への注水は、事故状況に変化をもたらす。
第3話で述べたように、炉心スプレー管に送られたほとんどの水は、炉心への注水とはならなかったが、スプレー管が全て塞がれた訳ではい。注水がはじまると、塞がれた穴の隙間から、幾本かの細流が炉心に向かって吹き出したに相違ない。この水によって、冷やされた燃料棒もあったであろうが、温度の高い燃料棒に吹きつけられた水はジルカロイ・水反応を復活させて、わずかではあろうが燃料棒温度を高めたことであろう。このような反応復活の燃料棒が、炉心の中で幾組か存在したことに間違いはない。
随分と断定的に書いたが、この注水によって残留炉心にジルカロイ・水反応が復活したと考える以外に、1号機を爆発に導いた水素ガス発生の説明が付かない。
いったんジルカロイ・水反応が復活すれば、崩壊熱によって1000℃くらいには温度上昇していた燃料棒は、細々ではあろうが反応を持続し、徐々に活発化していったであろう。本格的な注水が始まったのが午前9時15分、爆発が起きたのが午後3時半であるから、6時間を掛けて反応はゆっくりと活発化して行った。残留炉心の温度は、注水の始まった午前9時ごろは1000℃くらいであったろうが、午後3時ごろには1800℃前後に達していた。
破壊エネルギーの量
ここで、ジルカロイ燃焼による破壊エネルギーの量の計算をしておこう。
1号機に内在したジルカロイの総量は32トン、その内反応に寄与した量は16トンであった。ジルカロイ・水反応の反応熱量は、ジルコニウム1モル(約91g)当たり586kJであるから、16トンのジルカロイ(第3話参照)が発生した総発熱量は、約1X10⁸kJとなる。この総発熱量から、反応を起すために必要としたエネルギー――例えば燃料棒温度を融点にまで昇温させるに必要な熱量――を差し引くと、事故で使える破壊エネルギーの総量がでる。
1号機のUO2燃料の総量は80トンである。事故に使われた残留炉心の燃料を総量の5割とすれば(第3話参照)、40トンである。残留炉心の初期温度を1000℃と仮定すれば、UO2の融点(2880℃)に達するまでに必要な熱量は、比熱500J/kg℃として、約4x10⁷kJとなる。この熱を差し引いた約6X10⁷KJの熱量が、事故で使われた破壊エネルギーの総量である.
このエネルギーが、ペデスタル内のコンクリートを破壊し、粒状化した砂利を開口部から外に吹き出し、落下した炉内構造物を溶融させるなどの破壊に使われたことになる。狭い格納容器内部で、大きなエネルギーが消費されたことが分かるであろう。