【コラム/9月26日】地熱発電を考える~開発障碍克服の半世紀から未来に

2025年9月26日

4、地熱開発の障碍とは~地下資源リスクと社会的合意の難しさ

地熱開発が、豊富な国内資源であるにもかかわらず、半世紀の努力の成果が、50万kwにとどまっている理由は何か。それはひとえに地下資源特有のリスクと社会的合意形成の難しさにある。地熱開発の手順は、有望地域抽出、初期調査(地表・掘削調査)、探査事業(噴気試験)、事業化判断、環境アセスメント、開発事業(生産性・還元性掘削、発電設備設置)、操業・発電となる。規模の大きい地熱発電の場合、開発期間7~12年の想定だが、多くは15年を超える。民間企業の一般的な投資(設備投資1~2年・回収4~6年)と乖離がある。

地熱資源は、地下資源であり、地下の状況把握が容易でない。調査から開発・操業の各段階で科学と経験を必要とする。それでも地下構造・資源量把握に完璧性はないので、生産井の掘削成功率、減衰率、還元井の目詰まり等の不確実性が残る。また開発地点が、山奥であり、調査・開発道路の建設や発電した電気の系統接続が容易でない。それを見越した事業採算性が基礎になる。

開発に伴う社会問題がある。資源の賦存地域は、日本の場合国立・国定公園内に存する。自然環境保護の視点からの反対や、温泉資源の枯渇等を危惧する温泉事業者の不安がある。それに温泉審議会の運営問題が絡む。開発に必要な合意形成で時間と労力を要する。地下資源ながら鉱業権の賦与がないため、各種規制との調整に苦労しがちである。

大規模地熱開発に取り組む新規企業は少ない。事業の性格からベンチャー的様相が少ない。既知の地熱開発進出企業は、一気の事業拡大に慎重である。好立地が公園内ということで、その理解を求める努力が並大抵でない。そして開発に成功しても、電気の価格の性質から、投機的利益を享受するわけでない。また抑も事業採算の問題が立ちはだかる。


5、経済性は地点で様々ながら、政府支援もあり

地熱発電のコストはどの程度だろうか。公表資料では、地熱発電の発電原価は、設備利用率83%、稼働年数40年で、2040年16.1~16.8円/kwh(政策経費あり、なし10.9円/kwh)(25年2月エネ庁試算「2040年度におけるエネルギー需給見通し関連資料」)。勿論1カ所でうまくいった場合という条件付きであろう。この試算程度であれば、投資の長期性を度外視すれば、多くの企業参入がありそうなものである。

過去の実績から物価上昇考慮で、目の子計算すれば、現行は、5万kwの地熱発電所で建設費100万円/kw(やや高め設定)、設備利用率70~80%で 25~28円/kwh程度を想定出来る。故にFIT地熱発電26円/kwhは合理的に見える。ただ初期の開発インフラ費用(含む系統関係)、運開後の設備利用率等が気に懸かる。さらに将来の物価動向も気に掛る。

事業成立のため、国は、支援を行っている。資源調査協力(助成金交付、補助率地表調査2/3、掘削調査1/2)、調査井段階(探査事業出資50%、)、生産井・還元井掘削(債務保証)、売電段階(FIT・FIPで対応)(2024年段階)。加えて2025年度よりJOGMEC調査で掘削・噴気試験まで実施予定である。

環境省は、2050年CN(炭素中立)目標の下、温泉資源の保護に関するガイドライン(地熱発電関係)改訂21年9月施行)で都道府県に対し地熱開発の掘削の許可・不許可に対する判断基準等を提示し、公園内の合理的開発と地元の理解促進に努力中である。また林野庁の保安林解除の手続き簡素化等も進みつつある。
民間企業の地熱発電開発に対し、政府は経済性確保を補完する一応の支援体制を組んでいるように見受ける。


6、事業者サイドの要望

このような開発状況と国の政策・支援体制に対し、日本地熱協会(25年要望)は、9つの要望・確認を出している。重点は、資源調査拡大と調査・開発段階に必要な道路等インフラ整備、開発対象の地熱資源の鉱業権扱い、FIT・FIP制度の買取価格への配慮等である。従来の支援策の強化を述べている。いずれもGX資金の優先投入先に相応しい。

国立・国定公園内の地熱資源は、国民の財産であり、それを有効活用できれば、国民福祉にも貢献する。とりわけCNにとって有効である。また開発・運営を担う事業主体である民間企業にもビジネスチャンスを賦与できる。それは経済の発展に貢献すると考えれば、要望実現は、政府の責務である。

1 2 3