【コラム/9月26日】地熱発電を考える~開発障碍克服の半世紀から未来に
7、開発主体の意欲次第だが
残る問題は、開発主体の意欲である。ビジネスチャンスと考えるか否か。現在地熱開発に関心を持っている企業は、日本地熱協会会員企業とすると87社に及ぶ。鉄鋼・非鉄金属・石油開発・電力・商社・建設等の業種である。地下資源に馴染みの深い資源開発企業や電源開発企業が多い。電源開発、九州電力、出光興産、三菱マテリアル、INPEX等が代表的企業である。そのような企業でも耳目を惹くような連続的な開発を展開するに至ってない。過去を見ても企業の意欲は区々である。
1980年代までは、非鉄金属を中心にメイン事業の一環で、副業的位置づけだった。石油価格高騰対策で、代替エネルギービジネス参入、エネルギー費節減、雇用機会確保で、事業実施に踏み込む企業も多かった。企業収支に苦戦しながら投資をした。とりわけ非鉄金属企業は、地理的親和性と人的資源も抱えていた。ただ経営者に、地熱を本業とする考えは希薄だった。
(雇用第一から利益偏重・投資金融重視の経営も問題)
1990年代は、地球環境問題の出現はあったが、エネルギー価格停滞で地熱資源の活用に力入らずの時代だった。そして企業行動の姿も変わった。企業経営に株主重視が持ち込まれ、投資金融の目が光り、リスクに対し身構える姿勢が強くなった。
2010年代政権交代があり且つ東日本大震災で、再エネ絶対活用、FIT制度創設となった。地熱開発も勢いを得た。様々な業種の企業が、過去の調査の成果を活用して小規模開発を進めた。ただ参入企業は、多地域展開でなく地産地消の精神にとどまった。大規模開発は、既知の調査プロジェクトの展開だった。そしてNEDO調査の遺産を使い切った。
その後開発有望地点は、過去の促進調査以上に拡大しない状況となった。有望な公園内の調査も進まない状況が継続し、経産省・JOGMECの探査・掘削期待となっている。
その状況の下で大規模開発は可能か。参入企業の財務状況も重要である。企業サイドから見れば、調査段階で十億円以上の調査費を負担することも大変である。有望となっても開発・創業リスクを抱える。
地熱開発の目標達成は出来るか。困難と言えども、これまでの知見がある。重要なことは、過去の地熱発電の実績である。全体で見れば、60~80%の設備利用率を実現し、発電コストも10円台と推測される。多くのプロジェクトを手がければ、相対的にリスクの程度は低下する。この点をうまく活かす開発体制は組めないだろうか。
8、公的関与に工夫も必要~エネルギー供給の公益性
CNは、喫緊の課題である。第7次基本計画は「様々なプレイヤーの地熱発電への参画を促し、従来の手法にとらわれずに、小型で機動的な掘削機や発電所のモジュール化等による迅速な地熱の開発も促進する」と述べる。市場競争で自由な参入で地熱開発が進む状況なら、記述の通りであろう。他方エネルギー供給の世界では、公的関与で公的事業体が自ら率先して開発を行い、その成果を民間に移譲する発想もある。国策事業体的な姿である。
今後は、JOGMECが探査・掘削を更に進めるばかりでなく、地熱発電開発の中核企業を明確にして、複数地点の同時開発を促進するような体制作りも国が考える必要もあろう。また参加企業が投資金融に振り回されることなく、実施可能な金融市場であることも重要である。
【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。