【コラム/9月24日】“夏は一休み”とは言えない制度設計の進展

2025年9月24日

バブルやブームで終わらせてはいけない再エネ政策

この夏で衝撃を与えたニュースの1つが、再エネ海域利用法の促進区域で行われた洋上風力発電公募の第1ラウンド3区域(秋田県2区域、千葉県1区域)における事業者の撤退であろう。

洋上風力発電は、「再エネ主力電源化の切り札」「再エネの優等生」とこれまで言われてきたが、一転して、事業が完遂できるかといった不安要素に陥ってしまった。今回の事態を受け、国では、撤退した事業者からのヒアリングを行い、その要因検証を始めている。それと並行して、事業者選定済みの第2、第3ラウンド、さらにはそれ以降のラウンドの事業への影響を鑑みて、事業完遂に向けた環境整備を年内までに整理すると約束し、議論を続けている。

事業完遂のための環境整備で、新たに講じる政策の適用や計画変更が、過去ラウンドに影響を与えないよう配慮することなどを前提に行うといった基本的な考え方を整理し、今後、事業者や事業者団体から要望のあった多くの要望事項が適用できるかについて検討していくことになるが、まずは海域の占有期間延長時の扱いの見直しの方向性が提示されたほか、長期脱炭素電源オークションへの参加容認、オフテイカーの再エネ賦課金減免を重要項目として挙げ、少しずつ検討の歩を進めている。

一方で、こうした要望を全て受けていては、他の事業者や需要家との公平性の観点、さらには法改正が必要な事項もあることから、本来であれば、要望事項について、適用の実現難易度を整理した上で、優先順位を付けて議論を進めることが望まれる。あまりに過度な支援をすれば、国策電源と変わらなくなってしまうため、事業者の創意工夫も促す意味からも、しっかりとした議論が行われることを期待したい。

再エネについては、他にも価値の評価の見直しについて議論が始まっている。よく言われる「長期安定的な電源」として育てていくには、持続可能となるような収益構造、長く使い続けるための適切なO&M、発電量の向上、リパワリングを通じたバリューアップと、それを金融機関や保険会社、その他事業者が支える構図を確立しなければならない。

まず着手したのが、非化石価値のあり方である。現在の非化石証書の市場での約定価格が下限価格に張り付きやすい状況から、オフサイトコーポレートPPAにおける再エネ価値(非FIT非化石証書)の目線が市場取引額相当となってしまっている。この状況から、業界団体からは、市場の下限価格引き上げと上限価格撤廃、カーボンプライシングとの整合などの意見が出されている。国としては、高度化法の在り方(26年度からはじまる第3フェーズ、30年年度以降の目標設定など)に考慮しつつ、業界団体からの意見を踏まえた検討を行うとしている。

FIT制度を契機にバブルのように拡大した再エネについては、今がまさに過渡期にある状況で、もがき苦しむ時期にある。上記のほか、釧路湿原でのメガソーラー開発を機に再燃した地域との共生もそうだが、長期安定的に運用するための課題は多い。ここでも単に感情的にならず、どうすれば電力システム全体の中で再エネを生かしていけるかを、具体的に議論し、全体最適な制度設計・運用につなげることが求められる。


秋以降の制度設計に着目

この7~9月における審議会の開催数は比較的少なかったものの、取り上げている議題はいずれも重要で、かつリミットが決まっている施策もある。来年度から始まる制度については、年末までにおおよその方向性を整理し、年明けに政省令の改正や告示などをしなければ間に合わないため、この10月以降の審議会では、さらにドライブがかかると予想される。

エネルギーに関わる事業者、エネルギーを利用する立場の需要家にとって、より一層複雑怪奇と化す政策や制度をすべて把握することは難しいが、自社の事業に関わる論点については、いくつの事業者でタイムリーに提供している情報サービスや媒体で提供されている記事やコラムなども活用して、極力、情報を正確に把握することに努めることをお勧めしたい。


【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

1 2 3