【特集2】欧州のヒートポンプ事情を考察 英国視察から見えた普及策
オボエナジー社は、英国の小売り市場シェア4位で家庭向け営業に特化。子会社カルーザ社も技術プラットフォームを開発し、HP専用の料金単価一律プラン「ヒートポンププラス」を提供している。カルーザのシステムを通じた機器の最適制御により需要削減とデマンドレスポンス(DR)を組み合わせて調達コストを削減。これにより、ヒートポンププラスの低料金を実現している。HPの販売・設置はオクトパスエナジー社の自社生産とは異なり、メーカーフリーのフランチャイズモデルを採用。将来的にはHPに加え、太陽光発電(PV)・蓄電池もカルーザのシステムに連携させることで、アプリで自動的にコスト・CO2の削減を実現できるシステムを目指している。
英国では他の小売り会社も含め、化石依存の低下や低所得者支援など国策・支援策を政府に代わり実施している傾向が強い。
給湯市場での拡大に余地 電力市場と一体で普及を
日本は24年度に25兆円の鉱物性燃料(24年度分貿易統計:財務省)を輸入しており、化石資源が乏しいながらも国富の流出を抑制する点では英国と同様である。とりわけ家庭用の最終エネルギー消費に占める給湯の割合は、2000年代初頭は約3分の1であったが、23年には約4分の1にまで減少した。この一因は25年3月に累計出荷1000万台を達成した家庭用HP給湯機(エコキュート)の普及によるところが大きい。普及に向けて政府が行う補助金やトップランナー制度の導入など、支援策が貢献していることは疑う余地がない。
一方で、エコキュートの出荷状況は英国に比べ圧倒的に多く、年間70万台前後で推移している。しかし、給湯設備の市場が400万台前後であることを鑑みるとフローで半分にも満たないため、一層の拡大に期待が持てる。英国は緯度が日本より高いことから、再エネは風力が主力であるが、日本はPVが中心だ。エコキュートには貯湯槽がついており、昼間のPV電力を存分に活用できる。
これまでHPは省エネ施策として扱われてきたが、英国は安定した電力システムの構築に向けて電力市場と一体で普及に取り組むことを示した。日本はエコキュートだけでも累積1000万台を出荷しており、年間90万kWの需給調整可能な需要が創出されている。これを電力システム改革の見直しや第7次エネルギー基本計画での40年の再エネ電源の普及に織り込むことが今後の電力・ガス事業の政策に期待される。

やたべ・たかし 東京電力グループでヒートポンプやグリーン水素など電力利用技術の開発・普及に従事。やまなしハイドロジェンカンパニー取締役を兼務。
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