【特集2】次なる普及策へ業界の挑戦 利用者のDR参加をどう促すか

2025年10月3日

こうしたDRを、今後はもう少し高度に、ユーザーにとってストレスフリーでお得となる運用に仕立てていく必要がある。そうした中、日本冷凍空調工業会が中心となって、大手電力小売り会社やメーカーと共に、あらかじめDR機能を備えたエコキュートの規格作りを進めている。DR事業者から指定された時間帯にヒートポンプを稼働させる指令を機器側が受け取るための技術要件の確立や通信制御、それに伴う情報セキュリティの確保など取り組むべき内容は多い。完成した暁には、自動的なDR運用やスマホを使ったお手軽な運用が家庭で進むことが期待されている。

日冷工によると2027年3月までに規格を整備し、29年にはパナソニック、三菱電機、ダイキン工業、コロナをはじめとした全てのメーカー各社がDRreadyのエコキュートを商品化する予定だ。

火力代替の一端担う 業界努力は報われるか

これまで調整力機能を担っていた火力発電の先行きが不透明な中、火力代替の一端を担おうとする業界の取り組みには意義がある。しかし、DR対応の開発は果たして報われるのか―。業界関係者の脳裏にはそんな疑心がよぎっている。

DRを本格的にビジネスとして進める前提としてユーザーのDR認知と積極的な参加が欠かせない。しかし「一般家庭のユーザーにはほぼ知られていない。そもそも一般家庭では必要な時に必要な量のお湯が使えさえすればよく、熱利用には無頓着。そんな状況で積極的にDRに参加するユーザーが増えるとは考えにくい。参加する意義を理解してもらうことは現状では不可能に近いだろう」(業界関係者)というのが実情だ。

仮に認知が深まったとして、今度はDRを活用する調整力市場を厚みのある市場として機能させておく必要がある。DRを手掛けるアグリゲーターがその市場で安定的に利益を生み出し、エコキュートユーザーと共に恩恵を享受するスキームが欠かせないからだ。ただ、アグリゲーターがユーザーを1万件や2万件寄せ集めた程度の規模ではそのスキームは機能しないだろうし、エコキュート以外のリソースや多様なプレーヤーの参画も不可欠だが、その見通しは不透明だ。

PV設置を前提としない、本格的なDRに対応する料金メニューも欠かせない。しかし、「どれだけの人数のユーザーが利用するか見通せない中、原価を精査しリスクを考え、約款としてのメニューを作るのは大変なこと」(エネルギー業界関係者)と課題は残る。

一方で、「まずは認知が深まりつつある産業界でDRを進め、次のステップで家庭用へ進める方がスムーズだ」(エネルギーコンサルタント)といった意見も。いずれにせよ、DRの準備を進めたはいいが、利用者ゼロのシナリオだけは避けたいところだ。

家庭のエネルギー消費量の2割以上を占める給湯分野。この対策が家庭用の低・脱炭素化の鍵だ。DRの意義を含め、再エネの利用の拡大に資するお湯の使い方はどうあるべきか、エコキュート1000万台突破を契機に真剣に探る時が来ている。

1 2