【特集2 省エネ最前線】東京ガスが行動変容と機器制御によるDRを展開 

2026年6月3日

東京ガスは家庭部門の省エネ・節電を促す取り組みとしてデマンドレスポンス(DR)に注力している。きっかけは2021年夏、電力卸市場の価格高騰、供給力不足による需給ひっ迫などが相次いだことに始まる。この影響による電気料金の上昇を緩和するため、実証的にDRの取り組みを開始した。

手軽に参加できる節電 行動自体を評価する仕組み

現在、主に取り組んでいるのが行動変容DRの「IGNITUREスマートアクション」と、機器制御DRの「蓄電池ネットワークサービス」だ。IGNITUREスマートアクションは専用機器を持たず、需要家自らの行動で手軽に参加できるのが特徴だ。東京ガスと電力契約を結んでいる需要家宛てに、需給がひっ迫する時間帯を事前にメールで通知。エントリーして当日の該当時間帯に節電した量に応じて同社の「パッチョポイント」を付与する。登録者は42万件(今年2月時点)を超えており、主にシニア世代、子育て世代など、在宅時間が長い世帯が中心だ。

行動変容DRの流れ


節電量はスマートメーターが計測する30分値の電気使用量を基にベースラインとの変化量によって算出される。当初は節電量に比例したポイント付与のみだったが、現在は複数のインセンティブを設けている。BTMカスタマー事業推進グループ事業企画室の木口莉沙係長は「日頃から節電に励む顧客は、ベースラインとなる消費量が低く、努力しても数値として表れにくいという課題があった。そこで節電量に応じたポイントに加え、エントリー者限定のポイント、対象時間帯の外出に対するポイント、キャンペーン期間中の累計節電量に応じたボーナスポイントなど、行動すること自体を評価する仕組みにした」という。こうして需要家の参加意欲を高めたことが参加者の増加につながった。


また、イオングループと連携し、節電時間に顧客に買い物や涼み場所への外出を提案する「お出かけキャンペーン」を実施。参加者は自宅の消費電力量を減らせるのに加え、「節電は意外と楽しくできるものという認識を持ってもらうきっかけになった」と木口氏は語る。


この他、ネイチャーのスマートリモコン「Nature Remo」シリーズと連携し、節電タイム中にエアコンの温度設定を自動調整するオプションを導入した。ユーザーは特段の操作なしに節電に参加でき、ポイントも獲得できる。


こうした下げDRの施策によって、生み出された調整力は東京ガス内の電力需給バランス改善に役立てられている。今後、精度が向上していけば、社会全体としてさらに活用できるものになると同社ではみている。

蓄電池をネットワーク化 充放電制御で市場活用へ

機器制御DRの蓄電池ネットワークサービスは、家庭用蓄電池をIoTでネットワーク化し、群として束ねて電力需給の調整に活用する取り組みだ。蓄電池を所有する世帯は行動したり、操作したりすることなく、同社が需要予測から判断して、下げDRを中心に、上げDRと下げDRを組み合わせて時間シフトを実施する。また、太陽光発電の自家消費運転でも最適な運用、逆潮流などでさらなるピークカットやシフトを行っている。

蓄電池ネットワークサービスの仕組み


同事業企画チームの木村駿介課長は「ネットワーク化して蓄電池にこうした制御を行うことで、新たな価値を生み出すことにつながる」と話す。これまで家庭用蓄電池を導入する目的は太陽光発電の自家消費だった。ただ、この活用法では電気代の削減効果にとどまっていた。これをネットワーク化して電力システムに組み込み、充放電時間を制御しながら電力市場で活用すると、自家消費以上の価値を生み出せる。


事業者側から見ると、家庭用蓄電池からの逆潮流はVPP(仮想発電所)の調整力を飛躍的に高める可能性を秘めており、低圧VPPの社会実装に欠かせないという。技術的にはすでに制御可能な段階にあり、同社では昨冬から容量市場の発動指令電源として実効性テストに活用するなど、部分的に運用を開始している。今後は、現在1000件超の需要家数を数万件規模へ拡大し、容量市場や需給調整市場への参加を通じた収益化と顧客への経済メリット還元の両立、系統の安定化への寄与を目指す。


同事業企画室の清水猛室長は「DRの最終目標は顧客や事業者、社会のそれぞれにメリットを享受できる三方よしとなるエコシステムの構築」と話す。昨今のエネルギー価格の変動など社会課題の解決に貢献する手段として、さらに重要性が増していくことになるだろう。

左から清水氏、木口氏、木村氏