【コラム】「今時の成長志向論~官民投資期待の空ろな論理」

2026年6月19日

飯倉 穣/エコノミスト

1、声高の成長力強化

責任ある積極財政で危機管理投資と成長投資を進め強い経済をつくる審議が継続中である。経済財政諮問会議の26年度方針に向けて、民間委員から、通常の歳出とは別に「新たな投資枠」の設定、官民投資ロードマップの実行に必要な規模と期間の確保で、企業の中長期の投資判断を後押しする。且つ複数年度にわたる予算措置の活用の提案があった(「強い経済を実現する成長力の強化に向けて」経済財政諮問会議2026年5月22日)。そして総理は官民投資に必要な歳出について弾力運用を強調する。

報道もあった。「成長投資へ基金ルール変更 首相が検討表明「最大3年」適用せず 予算制約なくし柔軟運用。経済財政諮問会議 半導体やAI等に複数年度の経費確保」(日経同5月23日)、「戦略17分野人材育成へ 政府、訓練プログラムの開発支援」「基金「3年ルール」成長投資は例外に 政府導入2年半で緩和」(朝日同)

他に規制・制度改革、人材育成、研究開発、政府調達、標準化、税制・金融措置などの総合的組み合わせも重要と記している。

このようなアプローチ・手法で強い経済を呼び込む成長は可能だろうか。過去30年間の日本経済の停滞状況に打ち出された成長期待政策(財政出動、金融緩和、構造改革)と類似の発想に見える。改めて強い経済を目指す成長政策と経済運営の姿を考える。


2、現政権のアプローチ

高市政権で、各省は強い経済を目指す取組を推進中である。日本成長戦略では「我国に圧倒的に足りない国内投資を徹底的にてこ入れする」として、世界共通の課題解決に資する製品等を開発し、国内外に提供することで、日本の成長につなげるという。AI・半導体、量子、航空宇宙、海洋、造船、資源エネルギー・安全保障・GX等17分野で62製品・技術等を例示し、27の先行検討事例を選定した。併せて官民投資ロードマップを策定している(日本成長戦略会議3月10日)。

その官民投資を支える財源については、財政規律の変更を求めている。プライマリーバランス((税収+税外収入)―(経常的支出+投資的支出)=25年度予算0.4兆円)からコア・プライマリーバランス((税収+税外収入)―経常的支出(除く投資的支出)=同約6.4兆円)に変更。GDP比政府債務残高(25年度230%)の指標もGDP比純政府債務残高(同130%)に変えるという。国債発行増を容易にし、債務残高増も容認する考えを打ち出した(会田卓司「日本経済 成長の道筋が見えた」26年4月15日)。考え方を変えたとしても、政府の財政収支、政府債務残高の状況は変わらず、悪化するのみで、マクロ経済にプラスの効果をもたらすとは考えにくい。

つまり現政権は、積極財政と緩和的金融政策、官民連携の投資・需要拡大で、需給ギャップゼロでなく需要超過の“高圧経済”を目指している。需給ギャップが上振れても、投資がいずれ供給能力を拡大し、インフレ圧力を生ぜず、インフレと為替の安定が国力の源泉になると強弁する。且つ中長期的なスパンで投資戦略を示すことで企業の予見性と成長期待を高めると主張する。果たして財政金融政策による環境づくりと政府作成「戦略17分野」の官民投資で成長牽引は可能だろうか。このような経済運営で一時的な経済膨張はあろうが、抑々企業経営の視点から見ると投資回収の吟味が欠落していないか。


3、成長をもたらすものは~独立投資

経済成長とは、ある程度の期間(長期)の経済全体の量的拡大と捉えることが出来る。この30年間各政権は、成長志向で様々な経済政策を試行錯誤してきた。90年代内需拡大論、ベンチャー期待、構造改革(規制緩和等)、00年代規制改革(特区)、IT期待、外需取り込み、インフラ・プラント輸出、10年代アベノミクス(3本の矢、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資喚起成長戦略)等を経験してきた。2000年以降成長期待の重点分野では、DX・AI、GX、インバウンド等が成長牽引材料として今日も生き延びている。一部に成功もあろうが、結果として財政負担を拡大し、企業の創意工夫を引き出せず、期待通りの成長を実現していない。暗中模索的な徒労が続いている。

効を奏しない理由は、明瞭である。現実軽視である。政府に確たる知恵なく経済運営の方向性を見失っている。繰言になるが、成長の基本は、独立投資である。それは現在の利潤に感応した投資でない。企業の創意工夫による新製品、新生産方法、新資源の利用、新市場の開拓等で、投資利潤を生み出す。財政出動の官民投資は、その概念に該当しない。  

政府関与があるということは、抑も投資回収が覚束ない類いの投資である。民間企業が、自己の勘定で利潤を追求していない姿は、起業家精神欠如、お付き合いという対応である。投資の収支不透明かつ企業のリスク負担回避を予想させる。資源・エネルギー分野を見れば、一目瞭然である。次世代太陽電池・水素・グリーン鉄・次世代地熱・洋上風力・次世代革新炉・グリーンケミカルは、実用化手前の研究開発段階のプロジェクトと呼ぶに相応しい。他も推して知るべしではないか。技術開発チャレンジという意味で、過去の三セクリゾート開発より、将来の可能性を持つが、これでは経済運営的に必要な現実の成長を期待出来ない。財政・金融による一時的な経済膨張はあろうが、行き着く先は、政府のかけ声倒れになろう。 

1 2