【西部ガスホールディングス 加藤社長】人的資本と結合力が軸 現場実装で成長循環へ「伝わる経営」を深める

2026年9月3日

多様な視点で議論 現場の挑戦を後押し

井関 社長就任から2年が経過しましたが、経営観や意思決定の在り方に変化はありましたか。

加藤 目指す経営の姿は大きく変わっていません。社員とその家族が安心して豊かに暮らせる会社であり続けること、そして次の成長に向けた未来への入り口を示すことが私の役割だと考えています。一方で、この2年間で強く実感したのは、経営判断をトップ一人の思い込みや経験だけで決めてはならないということです。現場で培われた知見や専門性を持つ社員の意見を幅広く集め、議論を十分に重ねた上で方向性を決めることが重要です。現在、経営会議や取締役会とは別に、テーマごとに知見を持つ役員が集まり率直な議論を行う「プライム会」を設け、多角的な視点から意思決定を行っています。議論を重ねるうちに結論が変わることも多々ありますし、経営には唯一の正解が存在するわけではありません。失敗のリスクを含めて多角的な視点で議論し意思決定し、最後の責任はトップである私が引き取る。その姿勢が、現場の挑戦を後押しすることにつながると考えています。

井関 株主とのコミュニケーションにおいても大きな変化があったと聞いています。

加藤 経営の在り方として、「伝える経営」から、「伝わる経営」への転換を掲げています。その一環として、今年の株主総会では対話の充実を重視し、総会後に初めて「株主懇談会」を開催しました。一般的に企業は株主からの質問を恐れがちですが、私はむしろ率直なご意見やご質問を歓迎しています。当日は、人的資本経営への関心が特に高く、人への投資が組織能力の向上や収益拡大につながり、その成果をさらに人や成長投資へ還元する好循環の重要性について熱意を込めてお話し、ご理解をいただくことができました。

グループの総力を結集 顧客の脱炭素経営に伴走

井関 石炭や石油から天然ガスへの燃料転換のニーズが高まっています。

加藤 燃料転換については、足元でも多くの引き合いをいただいています。ただ燃料転換は、単に天然ガスに切り替えるだけの取り組みではありません。お客さまにとっては、数十年に一度の重要な経営判断であり、脱炭素への対応や将来のエネルギー戦略を含めた経営課題に寄り添いながら、最適な選択をご提案することが重要です。そのためには、グループ会社の総合力が欠かせません。設備設計、施工、法令対応、LNGローリー輸送、運用サポートまで一体となって提供するためにも、西部ガス本体だけでなく、エンジニアリングを担う西部ガステクノソリューションをはじめ、グループの結合力を高め、トータルソリューションによる付加価値を強化していきたいと考えています。

井関 西部ガステクノソリューションの本社ビルを改修し、ZEB認証を取得しました。

加藤 既築ビル改修において、都市ガス空調を活用した全国でも先駆的なZEB化事例です。自社の省エネとしてではなく、ZEBを核としたソリューション事業拡大への出発点であり、カーボンニュートラル(CN)実現に向けた重要な一歩です。

井関 北九州市響地区は、九州電力と共同開発したひびき発電所(出力62万kW、LNG)や北九州響灘洋上ウインドファーム(同22万kW)などが集積し、一大エネルギー拠点となりつつあります。

加藤 同地区は、当社グループにとって総合エネルギー事業の総本山です。ひびき発電所は最新鋭の最高効率ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電を採用し、環境負荷を抑えながら安定した電力供給を実現しています。九州全体のエネルギー課題に対応するためには、自社単独ではなく、地域全体としてエネルギー・環境課題に取り組む視点も必要です。ひびき発電所はその象徴的な取り組みであり、地域のエネルギーを最優先に考える九州電力と連携して実現できた意義は大きいと考えています。

再生可能エネルギーについては、陸上・洋上風力、太陽光、地熱、バイオマスなど多様な電源を保有・運用しており、取扱規模は10万kWを超えました。さらに再エネ併設型蓄電池に加え、系統用蓄電池の導入準備も進めています。発電するだけでなく、「つくる」「ためる」「調整する」「使う」といった統合的なエネルギーマネジメントが、これからの脱炭素社会における競争力の源泉となります。

響地区は、依然として大きな可能性を持つエリアだと認識しています。火力発電所に隣接し、再エネ電源を活用できることから、データセンター立地候補地としても魅力があるため、積極的な誘致支援に取り組むとともに、必要に応じて不動産事業としてだけではなく、エネルギー供給事業を含めた形で参画することを検討しています。

ひびきLNG基地3号タンクを活用した新ビジネスを模索している

井関 都市ガスの脱炭素化への取り組み状況は。

加藤 都市ガス業界全体で導入を目指すe―メタン(合成メタン)については、自ら大規模な研究開発を担うというよりも、社会実装・地域実装の段階で強みを発揮したいと考えています。実際にお客さまへ届ける過程で、安全性や経済性、利便性を検証しながら普及に貢献していく構えです。当社のCN戦略は、まずは天然ガスによる低炭素化を進め、その後、e―メタンの経済性が確立した段階で本格導入を図るというものです。一方で、社会実装に向けた最大の課題はコストです。LNGや水素、e―メタンを受け入れ・貯蔵するインフラ整備には政府支援は欠かせません。国の政策においても、貯蔵インフラ強化への関心が高まりつつあり、追い風になることを期待しています。

1 2 3