【記者通信/3月20日】原発防災法制の不備を突いた 水戸地裁判決の波紋

2021年3月20日

茨城県など9都県の住民224人が日本原子力発電東海第二原発の運転差し止めを求めた訴訟で、避難計画やそれを実行する体制の不備などを理由に運転は認めないとした水戸地裁の判決が波紋を広げている。脱原発派はもとより、原発理解派の関係者からも「国としての明確な基準がなく、自治体任せになっている避難計画の問題を指摘してきたことは重く受け止める必要がある」「科学的知見には踏み込まず、防災法制の不備を理由にあげてきた意味では妥当な司法判断」などと評価する声が聞こえているからだ。

水戸地裁は3月18日、東海第二原発について「実現可能な避難計画や防災体制が整えられているというにはほど遠い」として運転を認めない判決を言い渡した。前田英子裁判長は判決理由の中で、原発から半径30㎞圏内の県内14市町村のうち、広域避難計画を策定済みの自治体は5つにとどまっているうえ、その避難計画にも課題があるなどとして「原告らの人格権が侵害される具体的危険がある」と指摘。一方で、基準地震動の設定や津波の想定、建物の耐震性については「原子力規制委員会が審査に適合するとした判断に見過ごせない誤りや欠落があるとまでは認められない」として、原告側の主張を退けた。

これに対し、日本原電は19日に東京高裁へ控訴。「これまで東海第二発電所の安全性等について、丁寧にご説明をしてまいりましたが、原判決は当社の主張を裁判所にご理解いただけず誠に遺憾であり、到底承服できるものではないことから、本日、東京高等裁判所へ控訴しました。当社としては、控訴審において、原判決を取り消していただけるよう、引き続き東海第二発電所の安全性等の主張・立証に全力を尽くしてまいります」とのコメントを発表した。

水戸地裁の判決は、日本の原発政策に重大な警鐘を鳴らしている

安全性」ではなく「避難計画」が判決の論点

ただ、一般的に見て、原電側の旗色は良くない。旧民主党議員(水戸1区選出)を務めていた元経産官僚の福島伸享氏はSNSで「今回の東海第二原発の再稼働をめぐる水戸地裁の判決は、私のような脱原発論者ではない者にとっても、極めて重要な判決」とした上で、次のような解説を行っている。

「今回の判決に対して日本原電は早速控訴したようだが、二審でも苦戦は必至である。なぜなら、原発のサイトの安全性なら日本原電自身が対応可能で、しかも国が基準を示して審査も行うものであるのに対して、避難計画の策定には直接日本原電が関われるものでなく、しかも何が妥当なものなのか誰も客観的、科学的な判断を示していないからだ。原発自体の安全性を争って二審で逆転した、伊方原発のようにはいくまい。そもそも、94万人の住民を合理的な根拠をもって安全と判断できるような避難計画を作ることは、極めて困難なことだろう」

「今回の判決は、ある意味日本原電が立法府や行政府の不作為の被害者でもあることを明らかにしたものであるように思われる。原発再稼働論者は、惰性で現状の維持を続けているのみで、東日本大震災の経験を踏まえた新たな原子力安全対策にきちんと取り組んでいない。私が拙著『エネルギー政策は国家なり』(エネルギーフォーラム刊)で論じたように、安倍政権の7年8か月は原子力政策の再構築を棚上げしたことにより実質上『脱原発』を進めていたのだ」

「このまま何もしないでいれば、脱原発派が訴訟を起こすまでもなく、日本の原子力産業は時間の経過とともに死に絶えていくことであろう。日本はこれまで積み重ねてきた知的資産や技術的資産を無にすることにもなる。『意図せざる原発ゼロ』こそが、日本にとっての最悪の結果なのだ。今回の判決は、こうしたことに対する重大な警鐘と受け止めるべきだ」

また、梶山弘志経産相は3月19日の閣議後会見で「(水戸地裁の判決は)安全性については確認された上で、避難計画が論点だった。(避難計画は)まだ策定中なので、しっかりと政府が後押しする形でつくっていく。そうした中で住民の理解を得ていくことが重要だ」と強調した。水戸地裁が投げたボールを、国はどう受け止め返投するのか。東海第二原発の命運がかかっている。