【特集2】脱炭素化へ克服すべき課題 第一人者から「六つの提言」

2021年8月2日

<電化・新燃料化の推進>

エネルギー需要の変革に必須 二つの方向性が世界の趨勢に

荻本和彦/東京大学生産技術研究所特任教授

需要側では、電化と、新燃料の利用がキーワードになる

カーボンニュートラルは、再生可能エネルギー導入など供給側の視点で議論されることが多い。これはエネルギーを供給する既存のインフラの活用を含め、供給事業者のビジネスの視点が強く働いているためと考えられる。

また、カーボンニュートラルがエネルギー需給にとどまらない社会経済全体の変革であっても、社会やライフスタイルの変化を予想し、エネルギー需要の定量的な想定に反映することが難しいことが、需要側の議論が深まらない理由の一つと考えられる。

しかし、エネルギー需給における需要の変革では、電化の促進と新燃料の利用という二つの方向性が世界の趨勢として明らかになっている。

電化は、家庭・業務・産業のさまざまな用途で少しずつ進んできた。これに対し、最近はヒートポンプ、誘導加熱、バッテリーなどの技術進歩により、民生分野の給湯・暖房・厨房のコンロ、産業分野の乾燥・ろう付・溶解・焼入れ・焼鈍・焼きばめ・焼結などさまざまな温度帯での電気加熱の応用、運輸分野での電気自動車の利用拡大などが始まっている。

電化による高効率な低温熱供給、温度制御に優れる対象物の直接加熱による電気加熱、運輸の電化は、高い省エネルギー効果により環境性向上に貢献する。

また、電化による需要は、CO2のゼロ排出の一次エネルギー供給である再エネや原子力などの電力を直接利用し、さらには変動性と不確実性のもとでの電力需給の調整について今後大きな役割が期待される。電化は、カーボンニュートラルをより安定的・経済的に実現するための必須分野である。

新燃料化は、運輸分野のうち飛行機や長距離トラックあるいは産業の一部など電化が難しい分野への適用に加え、再エネの複数日の出力不足や季節変動などに対する需給、さらには現在の石油備蓄のようにエネルギーの供給不足に備える役割などを担うと考えられる。

新燃料としては、水素、アンモニアなど複数の物質が検討されており、最終的には、長期間の大量の貯蔵に適し、定常的な新たな需要の特性と地理的分布から、その選択が行われると考えられる。


電化で需給バランス改善も 新燃料は段階的に導入を


現在、太陽光発電や風力発電の大量導入による出力制御は、今後のさらなる導入により、九州エリアから全国に拡大する。需給バランスの改善と出力制御の低減による電力システムの経済性と安定運用の維持のため、電化促進はnon-regretかつ喫緊の取り組みである。カーボンニュートラルに向け、民生、運輸、産業の各部門とも、需要側の取り組みの最大のハードルである「ロックイン」への対応を計画的に進める必要がある。

これに対し新燃料化は、新たな物質の製造に係る設備費と転換の損失による費用増が発生する。そのため、補助金や制度のゆがみを除いて社会的に意義が大きく好循環が可能な分野からの段階的導入が求められる。

カーボンニュートラルに向け、日本においても需要分野での取り組みが着実に進むことを期待したい。

おぎもと・かずひこ 1979年東京大学工学部卒、電源開発入社。技術研究開発、設備保全業務高度化、技術戦略などに従事。2008年から現職。専門はエネルギーシステムインテグレーション。

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