【コラム/11月1日】真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞に寄せて 今後の地球温暖化研究への懸念と提言

2021年11月1日

そこにはもうサイエンスは存在しない。経済を無視してでも脱炭素の方が重要だ、という過激なプロパガンダが支配する。これは環境主義が資本主義に取って代わる将来を意味し、相応のコストを覚悟しなければならない。

温暖化の将来予測は検証できないので、今後、モデル予測ほどには温暖化しない、または温暖化が止まってしまうという可能性は十分にあり得る。その場合、可能性は低いのであろうが、サイエンティストは取り返しのつかない嘘をついたことになる。気候研究がサイエンスである限りは、いろいろな意見があってしかるべきで、多様性が重要だという点は真鍋先生も強調しておられた。後続の研究でその主張が間違っていれば、無視されて取り残されれば良いだけ、という自然淘汰が働くが、将来予測は検証できないので、決着することはない。そのため、気候危機論者が懐疑論者を弾圧しにかかることは、巨額の資金が関係する極めてポリティカルな問題だと考えている。

「科学は嘘をつかない。でも科学者は嘘をつく」となる。

米国のトランプ前大統領は、共和党に支援されて「地球温暖化はでっち上げ」と言っていた。温暖化問題は共和党と民主党の分断そのものである。赤祖父先生は米議会公聴会で自然変動の重要性を指摘し、温暖化が必ずしも人為的CO2の増加によるものではないと説明していた。

それが僅差でバイデン大統領が就任してからは、一転して気候危機に対処するために脱炭素が最重要課題、との方向転換が示された。米国と同調してきた日本は、菅義偉首相の誕生と共にCO2のゼロエミッションが最優先課題になった。

サイエンスの方向性がポリティクスで反転すること自体、すでに温暖化研究はサイエンスでなくなっている証拠と言える。「今すぐ行動しないと手遅れになる」と聴衆を危機感であおってきたら要注意だ。脅しの根拠として用いられるサイエンスには、嘘が含まれていると考えて間違いない。

日本では、政府方針によりマスコミ報道が民主党寄り一色になった。真鍋先生が言うところの、他との同調を重視するお国柄であろうか。共和党寄りの報道は聞かない。先日のニュースでは、カトリック教会のフランシス教皇が気候危機から人類を守るようにとの回勅を発表していた。ポリティクスの次は宗教にまで勢力を広げて、人々の心を洗脳する段階に入ったのかと危惧している。

そこへ来てこのノーベル物理学賞受賞のニュースである。受賞は心より祝福しているが、同時にこの大きな流れを支配している背後の組織の巨大さに圧倒されてしまう。われわれは誰と戦っているのかを冷静に考えてみる必要がある。温暖化の議論を再度ポリティクスからサイエンスに戻し、見解の多様性を尊重し、各自が自分の頭で「考える」必要がある。

たなか・ひろし 1980年筑波大自然学類卒。88年米ミズリー大コロンビア校卒、Ph.D取得。専門は大気大循環研究。94年から22年間、日本気象学会常任理事を務める。2005年から現職。

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