【電力中央研究所 松浦理事長】社会に受容される 持続的なエネシステムの実現へ 戦略的に研究推進

2022年4月1日

CO2回収型ポリジェネレーションシステムの概要

志賀 政府は30年の電源構成で水素・アンモニア比率を1%程度、50年には10%程度を目指しています。あまり猶予はありません。

松浦 水素は平成初期、国際連携で再生可能エネルギーを水素に転換し需要地に運ぶ構想を掲げた「WE−NET(水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術)」で盛り上がり当所も研究開発に携わりましたが残念ながら結実しませんでした。05年の愛知万博の頃に登場したFCV(燃料電池車)で再び注目されたものの、インフラ整備の問題などで導入は伸び悩んでいます。水素社会を目指すうえでは、今後は発電でどう使っていくのかが重要になります。もともと、火力発電ではタービン発電機の冷却に水素を使ったり、排煙脱硝装置にアンモニアを使ったりと、取り扱いの実績があります。これからは火力の燃料として本格的に使いこなすことが、大きな課題となります。

戦略的な研究の推進へ 組織改編を昨夏実施

志賀 電中研は昨年7月に大規模な組織改編を行いました。具体的な狙い、そこにかける意気込みはどのようなものでしょうか。

松浦 50年にわが国が目指すべき姿の実現のためには、研究の方向性のシフトや必要となる研究の加速、単なる分野横断を超えた総合力の結集による研究の推進が必要であり、それに対応するための組織体制の構築が必要と考え、組織改編を行いました。これにより、研究系の部署をこれまでの8研究所2センターから、3研究本部1研究所1センターの体制に移行しました。
 組織改編の狙いの一つとして、戦略的な研究の推進がありますが、基盤技術をさまざまな分野に活用し、知見を融合して新たな技術を生み出していくことを期待しています。火力など、分野によっては先行きが見通しにくい中、培ってきた技術や専門性を他分野に展開、活用していくことが必要であり、このため柔軟性のある研究体制としています。

志賀 組織改編を行って実際にどのような効果が生じていますか。

松浦 現場の柔軟な発想をスピーディーに実現させていくため、研究本部長に役員がつき、これまで以上に裁量を現場に持たせましたが、これにより経営層と職員、双方向の意思疎通の活性化にもつながっています。22年度の各部署の計画を見ると、組織改編の意図が浸透していることが分かりますし、CN対応などで連携の動きが始まっています。

志賀 今後、重点的に取り組む研究トピックスにはどのようなものがありますか。

松浦 50年にわが国が目指すべき姿の実現に必要な七つの目標からバックキャストする形で、30年に達成すべきテーマを設定し、当所の研究の方向性をシフトさせていくこととしていますが、特に重点的に取り組むべき課題について戦略的に研究を進めていきます。
 例えば、再エネのさらなる導入に資する系統安定化技術に関する研究です。M−Gセット(同期発電機と同期電動機、蓄電池などを組み合わせた慣性力・同期化力確保のためのシステム)の実証設備を当所狛江地区の電力系統シミュレーターに導入し、研究を進めていきます。上位系統にM−Gセットを設置し、その下に再エネ設備がぶら下がる形になれば、系統は同期発電機からの影響のみを受け、再エネ設備の影響を直接受けずに済みます。九州エリアなどでは軽負荷期に再エネを出力制御するような状況ですが、それを絞らずに有効活用していくためには系統の運用技術をさらに高めていく必要があり、M−Gセットはそれに寄与できるものです。
 ただ、ほかの技術と比較してまだコスト面で課題があるとも言われており、その点も含め導入に向けた課題解決のための研究に取り組んでいきます。

大容量洋上風力発電所に蓄電池とM-Gセットを設置したイメージ

志賀 再エネの普及に向けて、これから電力会社に期待される役割はグリッド管理に集約されます。この分野の研究は一層重要になりそうですね。

松浦 先に言及したゼロエミッション火力関連の話題になりますが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業として研究を進めているものもあります。「CO2回収型ポリジェネレーションシステム」という、回収したCO2の一部を石炭、炭素系廃棄物、バイオマスなどと一緒に再度発電に使う、あるいは電気に余剰があればシュウ酸などの貴重な有価物に化学合成するというものです。
 その他、洋上風力発電事業の支援技術、水素の製造・利用技術、蓄電池の研究も重要です。蓄電池については、評価技術やリユースに向けた課題に関する研究を進めていきます。
志賀 次世代原子炉についてはどうでしょう。SMR(小型モジュール炉)などが最近特に注目されていますが。

松浦 当所では現在、既設炉の再稼働への対応、PRA(確率論的リスク評価)技術の開発、長期運転・設備利用率向上に向けた研究を中心に取り組んでいます。新型炉については、諸外国の技術動向をウオッチしており、設計評価などの研究にも着手する予定です。

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