【緊急特集 イランショック】世界を襲う未曽有の危機 消費促す日本の的外れ政策 ※期間限定無料公開
「あのホルムズ海峡が、イランによる実効支配の形で現実に封鎖されてしまうとは……」。今回のイラン危機を受け、エネルギー政策・ビジネスに携わる政官学民の関係者の多くが、異口同音に驚きの感想を漏らした。
正確に言えば、インド船籍のタンカーなどホルムズ海峡を通過している船もあり、完全に封鎖されているわけではない。しかし、イラン軍部隊によるミサイルや無人ドローンなどを使った攻撃で、被害を受けるタンカーが続出。イラン側が海峡の支配権を握っているため民間船舶は安全に航行できず、多数のエネルギー輸送船がペルシャ湾内に留め置かれる事態に陥った。またペルシャ湾の周辺国では、エネルギー関連施設をターゲットにした攻撃も激化した。
去る2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始し戦争状態に突入して以来、原油、天然ガスのみならず、代替燃料となる石炭も含めエネルギー資源の国際市場価格は軒並み急騰した。国際エネルギー機関(IEA)は3月12日、加盟32カ国が保有する緊急石油備蓄12億バレル超のうち、過去最大規模となる約4億バレルの石油備蓄の協調放出を決定し実行に移した。

提供:ロイター=共同
しかし、その後もホルムズの実質封鎖とエネルギー施設攻撃の応酬が続き、エネルギー価格は高止まり。戦争前に比べて原油が1・5倍、天然ガスが1・8倍、石炭が1・2倍近くの上昇だ。ガソリンなど燃料油のほか、ナフサなど石油化学製品でも大幅値上げや供給不足への懸念が強まり、世界各国で経済への影響が深刻化しつつある。
「史上最大のエネルギー危機」。IEAのビロル事務局長は、今回の事態をこう表現した。また米ダラス連邦準備銀行は20日公表したリポートで、〈原油供給の途絶規模は1970年代の石油ショック時を上回る可能性がある〉と分析。まさに、第三次オイルショックである。
IEAが消費抑制提言 日本は真逆のメッセージ
こうした中、IEAは20日、「石油備蓄の放出など供給面の対応に加えて、使う量そのものを減らす取り組みが重要だ」として、「家庭や企業が石油の消費を削減する対策」を提言する報告書を取りまとめた。主な内容は次の通りだ。
〈短期的な対策=①可能な限りの在宅勤務、②高速道路の制限速度を時速10㎞引き下げ、③公共交通機関の利用促進、④大都市でのマイカー規制による渋滞緩和、⑤エコドライブなど効率的な運転手法の導入、⑥代替手段がある場合は航空機移動を回避、⑦電気による調理などでLPガスの依存度を引き下げ、⑩石油化学など関連業界で原料の柔軟な活用や操業を効率化〉
〈長期的・構造的な対策=EVなどの普及と充電インフラの整備の加速、②道路車両の燃費基準の引き上げ、③代替となる最新の調理方法(電化など)の展開加速、④産業界におけるエネルギー管理システム導入の促進、⑤石油暖房システムや産業用ボイラーのヒートポンプへの置き換え、⑥プラスチック廃棄物の回収・再利用・リサイクルの促進、⑦バイオ燃料や合成燃料などの供給拡大〉

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キーワードは「省エネと電化の推進」「石油代替燃料・原料への転換」であり、特に目新しい施策はない。「エネルギー有事の省エネ・代エネ対策こそ、本来はわが国の出番」。こう話すのは、大手電力会社の元幹部だ。1970年代のオイルショック時、日本は政府主導で「サンシャイン計画」や「ムーンライト計画」を策定し、新エネ・省エネを巡る技術開発に官民挙げて注力した結果、ことエネルギー利用では世界屈指の技術大国に躍り出た経験がある。また「脱石油」「脱中東」を合言葉に、原子力発電やLNG導入、調達先の多様化などを進め、エネルギーセキュリティの抜本的強化に取り組んだ、はずだった。しかし昨年の時点で、日本の原油調達のホルムズ依存度は93%であり、LNGの6・3%と比べると、その差は歴然だ。
「今回のイラン危機で日本政府が燃料油補助を復活させ、石油消費の下支えに回ったのは、的外れとしかいいようがない。石油備蓄を放出してもまだ200日分以上あるから大丈夫、ホルムズ封鎖もそこまで長続きしないと考えているのかもしれないが、最悪の事態を想定すべき有事対策としては失敗だ。IEAとは真逆のメッセージを国民に発信している」(前出の元幹部)
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