【SNS世論】原子力好き?のイーロン・マスクに学ぶ広報術

2026年9月4日

筆者はエネルギー業界に関係しつつ、適切な原子力・エネルギー広報のあり方を考える仕事をしている。そこでSNSを活用し、自分のビジネスや社会的な存在感を広げる米国の事業家イーロン・マスク氏の動きを観察し、勝手に学んでいる。その手法を、日本での原子力・エネルギー広報に取り入れられないかと思うためだ。

イーロン・マスク氏(Wikipediaより)

私の観察によるマスク氏の広報・SNS活用術は次のようなものだ。彼は「面白い、便利な未来づくり」という大きな目標、物語を掲げる。そして、日常のSNSの発信で、以下の特徴がある。

①彼は科学、社会の基本原則を発信の中に織り込み、それと自分の語る「大きな物語」を結びつける。おかしなことは言わない。発信が理想・空想にも金儲けにも傾きすぎない。そして彼は大義を語るために、堂々と誇りを持っているように見える。

②彼の行うビジネスと日常の発信を、露骨ではないがしっかりつなげる。語りかける対象を「テスラ(彼の創業したEVメーカー)のユーザー」「政策の被害者」から、「人類の未来」まで、その場によって変える。

③彼の発信する話題は多様だ。時にはミーム(ネタ画像)を使ってカジュアルに本質を突く。堅苦しくない。

「大きな物語」に発信をつなげる

マスク氏はSNSで、過激ではあるものの、科学や社会の基本原則からはずれたことは言わない。彼は名門のペンシルバニア大学で物理学、経済学の学士号をとり、スタンフォード大学の経営大学院は起業のために中退しているインテリだ。

原子力問題では、原子力の活用を主張し、2011年7月には福島を訪問し、25万ドルの寄付をして、メディアの前で福島産の農産物を食べた。自分の財団による、福島での太陽光ビジネスの開始も、しっかりPRしていた。その際に、放射能のリスクは過大評価されているとの考えを述べていた。

また彼は社会に向けた2023年の自分の経営するEV企業テスラの投資家説明会のイベントで、「自然を破壊する必要はないし、質素になって電気を使うのをやめて寒さに耐える必要もない」「完全に持続可能で、豊かさのある地球への明確な道がある」と述べた。電気自動車や蓄電池の投資の意義を呼びかけている。それらはテスラの主要製品だが、「買ってくれ」「投資してくれ」とは露骨に言わない。

つまり、マスク氏は社会変革の「大きな物語」を語り、その参加を誘導する。しかし、その動きを支援する人は自然と彼の事業に協力する形になる。

またマスクはSNSのXを買収し、オーナーになった。リベラル色が強く、発言を規制していた同社の書き込みを自由にした。その結果、このサービスはかなり活性化をした。同時にこのSNSを自らの広報の拠点にしている。ただし、自分のビジネスについては、SNSをそれほど頻繁に使わない。しっかりした発言をビデオ、そして会見を行って伝えている。場所によって発信方法、そして語りかける対象を使い分けている。

マスク氏の発信は、失言も多いし、反発も大きい。しかし彼は謝らず、萎縮せず、前向きの情報を上書きしている。そして堂々と開き直っている。

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